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平成21年3月5日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ワ)第19469号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成20年12月24日
判決
愛知県豊川市<以下略>
原告テクノス株式会社
同訴訟代理人弁護士山崎順一
同中山達樹
同補佐人弁理士松永宣行
東京都中央区<以下略>
被告三伸機材株式会社
同訴訟代理人弁護士中島和雄
同三縄隆
同補佐人弁理士高橋詔男
同山崎哲男
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造
し,貸与し,貸与のために展示し,又は貸与の申出をしてはならない。
2被告は,被告製品を回収し,廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,700万円及びこれに対する平成20年7月19日
(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「鉄骨柱の建入れ直し装置」とする特許権(特許番号
第3499754号)の2分の1の持分を有する原告が,被告による被告製品
の製造,貸与は,上記特許権を侵害する行為であると主張して,特許法100
条1項及び2項に基づき,被告製品の製造,貸与,貸与のための展示,貸与の
申出の差止め,並びに被告製品の回収,廃棄を求め,民法709条,特許法1
02条2項に基づき,被告製品の貸与により被告が得た利益相当額の損害(5
20万円)及び弁護士費用相当額(180万円)の賠償を求める事案である。
なお,附帯請求は,不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成2
0年7月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払請求である。
1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者(弁論の全趣旨)
ア原告は,建設工事の調査,測量,企画,設計,施工,監理,技術指導及
び請負等を業とする株式会社である。
イ被告は,建設機械器具及び建設工事仮設材料の販売並びに賃貸等を業と
する株式会社である。
(2)原告の特許権持分(甲1)
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請
求項1の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本件特
許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」
という。)の持分2分の1を有する。
特許番号第3499754号
発明の名称鉄骨柱の建入れ直し装置
出願日平成10年8月28日
登録日平成15年12月5日
特許請求の範囲請求項1
「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数の
アンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介して前記基礎
コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し
装置であって,上部および下部を有するフレームと,該フレームの上部を
貫通し前記フレームの下部に向けて伸びるボルトと,前記フレームの上部
およびその下部間に配置されかつ前記ボルトに螺合され,前記ボルトの軸
線方向にのみ移動可能であるナットとを含み,前記ナットの上方に前記ベ
ースプレートの縁部を配置可能である,鉄骨柱の建入れ直し装置。」
(3)本件発明の構成要件の分説
本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下分説した各構
成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)。
A基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数の
アンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介して前記基礎
コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し
装置であって,
B上部および下部を有するフレームと,
C該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向けて伸びるボルトと,
D前記フレームの上部およびその下部間に配置されかつ前記ボルトに螺合
され,前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能であるナットとを含み,
E前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部を配置可能である,
F鉄骨柱の建入れ直し装置。
(4)被告の行為
被告は,平成17年から,鉄骨柱の建入れ直しに使用するための被告製品
を業として製造し,貸与している。
2争点
(1)被告製品の構成及び本件発明の構成要件充足性(争点1)
(2)本件特許は無効にされるべきものか。(争点2)
(3)損害額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告製品の構成及び本件発明の構成要件充足性)について
〔原告の主張〕
(1)被告製品の構成
被告製品は,別紙被告製品説明書記載の構成からなる鉄骨柱脚の建起し装
置であり,その構成は以下のとおり分説することができる。
a基礎コンクリート(128)に固定されたテツダンゴ(130)上に載
置され,かつ,複数のアンカーボルト(124)およびこれらに螺合され
た複数のナット(126)を介して前記基礎コンクリートに仮止めされた
ベースプレートを有する鉄骨柱脚(120)のための建起し装置(10
0)であって,
b頂部(108)および底部(110)を有する枠体(102)と,
c該枠体の頂部を貫通し前記枠体の底部に向けて伸びるボルト(104)
と,
d前記枠体の上部およびその底部間に配置されかつ前記ボルトに螺合され,
前記ボルトの軸線方向にのみ運動可能なナット(106)を含み
e前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部(132)を配置可能で
ある
f鉄骨柱脚建用建起し装置(100)。
(2)被告製品と本件発明との対比
被告製品は,以下のとおり,本件発明の構成要件AないしFを充足し,本
件発明の技術的範囲に属する。
ア被告製品の構成aのナット(126),鉄骨柱脚(120),建起し装
置(100)は,本件発明の構成要件Aのナット,鉄骨柱,建入れ直し装
置と,それぞれ一致する。
したがって,被告製品の構成aは,構成要件Aを充足する。
イ被告製品の構成bは構成要件Bを,被告製品の構成cは構成要件Cを,
被告製品の構成dは構成要件Dを,被告製品の構成eは構成要件Eを,被
告製品の構成fは構成要件Fを,それぞれ充足する。
〔被告の主張〕
(1)被告製品の構成について
被告製品の構成aないしd及びfは認める。
eについては,「前記ナットの上方に」とする点は否認する。別紙被告製
品説明書の別紙図面及び被告製品写真から明らかなように,被告製品におい
てベースプレートの縁部を配置可能な部位は,「ナットの上方」ではなく,
「ナットの側部下方に形成された突出部の上方」である。
(2)被告製品と本件発明との対比
原告の主張を争わない。
2争点2(本件特許は無効にされるべきものか)について
〔被告の主張〕
本件発明は,以下のとおり,出願前公知刊行物の記載に基づいて当業者が容
易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項に違反して特許さ
れたものであるから,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきもので
ある。
よって,特許法104条の3第1項により,原告は,被告に対し,本件特許
権の行使をすることはできない。
(1)無効理由1
ア特開昭60−112597号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)
の記載
乙1公報の「特許請求の範囲」第2項には,「モータレジューサアセン
ブリ(2)がフランジ(3)上でフレーム(1)に一体に取付けられ,モ
ータグループシャフトが対応する歯車(6)を有する歯車(4,5)と係
合し,ホイール,ピン運動が垂直ねじ(7)を回転させ,これによりチャ
リオット(8)が方形断面を有する縦方向シート(9)内で移動し,係合
部分(10)を上方にまたは下方に持って来ることを特徴とする特許請求
の範囲第1項記載の地面からの車両ホイスト。」と記載されている。
また,FIG.1及びFIG.2の図面には,上記構成からなる車両ホ
イストの構造が具体的に描かれている。
イ本件発明と乙1公報記載の発明との一致点
(ア)乙1公報の図面によれば,フレーム(1)は,その上部が歯車(4),
(5),(6)を囲む箱体の底板に,その下部がベース(11)にそれ
ぞれ連結して一体形成されている。
したがって,乙1公報には,構成要件Bの「上部及び下部を有するフ
レーム」が開示されている。
(イ)乙1公報の垂直ねじ(7)は,本件発明の「ボルト」に対応する。乙1
公報の図面によれば,垂直ねじ(7)は,フレーム(1)の上部をなす
箱体の底板を貫通して下部に向けて伸びている。
したがって,乙1公報には,構成要件Cの「該フレームの上部を貫通
し前記フレームの下部に向けて伸びるボルト」が開示されている。
(ウ)乙1公報には,「垂直ねじ(7)を回転させ,これによりチャリオッ
ト(8)が,方形断面を有する縦方向シート(9)内で移動し」と記載
されており,乙1公報の図面によれば,チャリオット(8)は,フレー
ム(1)の上下部間に位置して,垂直ねじ(7)がこれを貫いており,
フレーム(1)によりチャリオット(8)の垂直ねじ(7)の軸まわり
の回転は阻止されている。
また,垂直ねじ(7)を回転させてチャリオット(8)を縦方向に移
動可能とするからには,チャリオット(8)内部の垂直ねじ(7)の貫
通部位に,これと螺合する雌ねじが形成されていることは自明である。
そうすると,チャリオット(8)は,全体として,本件発明の「ナッ
ト」に相当する。なお,チャリオット(8)には係合部分(10)が一
体形成されているが,本件明細書によれば,「ナット40」も「突出部
50,52を有する」(段落【0027】)から,この点でも同一構造
といえる。
したがって,乙1公報には,構成要件Dの「前記フレームの上部およ
びその下部間に配置されかつ前記ボルトに螺合され,前記ボルトの軸線
方向にのみ移動可能なナット」が開示されている。
(エ)以上によれば,本件発明と乙1公報記載の発明とは,「上部および下
部フレームと,該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向けて
伸びるボルトと,前記フレームの上部およびその下部間に配置されかつ
前記ボルトに螺合され,前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能なナット
とを含み」との点(構成要件B,C及びD)において一致する。
すなわち,本件発明のジャッキ機構と,垂直ねじの回転機構を除く部
分の乙1公報記載のジャッキ機構とは,客観的構成において一致してい
る。
ウ本件発明と乙1公報記載の発明との相違点
本件発明が,「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,
かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介
して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱
の建入れ直し装置」(構成要件A)であって,「前記ナットの上方に前記
ベースプレートの縁部を配置可能である」(構成要件E)のに対し,乙1
公報記載の発明は,「地面からの車両ホイスト」であって,「チャリオッ
ト(8)と一体形成される係合部分(10)の上部に配置を予定している
のは車両」である点において,両者は相違する。
エ相違点についての検討
(ア)構成要件Aのうち,「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に
載置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数
のナットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレート
を有する鉄骨柱の建入れ直し」までの部分は,特開平7−11773号
公報(甲11。以下「甲11公報」という。)に記載されている。
原告も,「鉄骨建方工事における従来工法とワイヤレス工法(本件特
許発明装置使用)との比較」と題する書面(甲19)の「従来工法」の
説明中において,上記条件下における鉄骨柱の建入れ直しが本件特許出
願前から公然実施されていたことを認めている。
(イ)特開平9−189132号公報(甲12。以下「甲12公報」とい
う。)の「特許請求の範囲」請求項3,5及び7には,「上記基礎コン
クリートと鉄骨柱の間に歪直し用ジャッキを取り付けて,該鉄骨柱を鉛
直に姿勢制御」と記載されている。そして,上記請求項の「鉄骨柱」は,
いずれも,鉄骨柱と一体化したベースプレートを有しているから,「基
礎コンクリートと鉄骨柱の間に歪直し用ジャッキを取り付けて,該鉄骨
柱を鉛直に姿勢制御」には,基礎コンクリートと鉄骨柱のベースプレー
ト部分との間に歪直し用ジャッキを取り付けて,ベースプレートの縁部
を持上げて該鉄骨柱の建入れ直しを行う態様も当然に含まれる。
(ウ)そうすると,当業者において,乙1公報に記載された車両持上げ下ろ
し用のホイスト(起重機)と同一のジャッキ機構を,甲12公報の示唆
するところにより,ベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直しに適用
して,乙1公報のチャリオット(8)の係合部分(10)に相当するナ
ットの突出部の上方にベースプレートを配置可能にする本件発明の鉄骨
柱の建入れ直し装置に想到することは容易というべきである。
(2)無効理由2
ア特開平9−300246号公報(乙2。以下「乙2公報」という。)の
記載
(ア)乙2公報には,従来の技術として,次の記載がある。
a「一般に,各種製造設備では,物体の昇降に昇降装置が広く使用さ
れている。図4は,この種の昇降装置を示すもので,この昇降装置で
は,装置本体11の基台13の中央に送り螺子軸15が回転自在に立
設されている。送り螺子軸15には,送りナット17が螺合され,送
りナット17に昇降部材19が連結されている。」(2頁1欄27行
ないし33行段落【0002】)
b「そして,基台13の送り螺子軸15の両側には,一対の案内部材
21が立設され,この案内部材21が昇降部材19に挿通されている。
装置本体11の上部には,天井部23が形成され,この天井部23に
送り螺子軸15の上端が回転自在に支持され,また,案内部材21の
上端が固定されている。」(2頁1欄34行ないし39行段落【0
003】)
c「天井部23の上面には,回転伝達機構25およびモータ27が配
置され,回転伝達機構25とモータ27とが継手29を介して連結さ
れている。」(2頁1欄40行ないし42行段落【0004】
(イ)乙2公報の5頁【図4】は,従来の昇降装置を示す正面図であり,
【図5】は図4の送りナットと送り螺子軸の螺合状態を示す断面図であ
る。
イ本件発明と乙2公報記載の従来技術との一致点
(ア)乙2公報には,天井部23及び基台13を有する従来の昇降装置が開
示されている。装置本体11とは,【図4】では「外側の縦線」を指し
ており,これは装置本体の背面板の稜線を示しているものと解される。
そうすると,装置本体11は,その上部において天井部23に,その下
部において基台13に連結している。
したがって,乙2公報には,本件発明の構成要件Bの「上部及び下部
を有するフレーム」が開示されていることになる。
(イ)乙2公報の送り螺子軸15は,本件発明の「ボルト」に対応する部材で
ある。天井部23との配置関係につき,乙2公報は,「この天井部23
に送り螺子軸15の上端が回転自在に支持され」(段落【0003】)
とする一方で,「天井部23の上面には,回転伝達機構25およびモー
タ27が配置され」(段落【0004】)としているから,送り螺子軸
15の上端は,天井部23の表面に配置される回転伝達機構25の内部,
すなわち,少なくとも,天井部23の表面を多少とも突き抜ける位置に
達していなければならないことになる。
また,「基台13の中央に送り螺子軸15が回転自在に立設されてい
る」(段落【0002】)との記載から,送り螺子軸15が,天井部2
3からみて,下部に向けて伸びていることは自明である。
したがって,乙2公報には,構成要件Cの「該フレームの上部を貫通
し前記フレームの下部に向けて伸びるボルト」が開示されている。
(ウ)乙2公報の「送り螺子軸15には,送りナット17が螺合され,送り
ナット17に昇降部材19が連結されている」(段落【0002】)と
の記載から,ナット17は,これに連結される昇降部材19ともども,
送り螺子軸15が立設される天井部23と基台13の間に配置されるこ
とは明らかである。
また,「基台13の送り螺子軸15の両側には,一対の案内部材21
が立設され,この案内部材21が昇降部材19に挿通されている」(段
落【0003】)というのであるから,昇降部材19の軸方向の回転は
阻止され,上下方向の案内部材21にガイドされつつ,送り螺子軸15
の軸線方向にのみ移動可能となる。そうすると,昇降部材19と一体に
連結している送りナット17も同様に,送り螺子軸15の軸線方向にの
み移動可能となる。
送りナット17が,上記のように昇降部材19を連結しているのに対
し,本件発明の「ナット」には,「昇降部材の連結」は記載されていな
いが,本件明細書によれば,ナット40も突出部52を有し,その突出
部52が鉄骨柱のベースプレートの縁部を受け入れて持ち上げる(段落
【0027】,【0031】参照)のであるから,乙2公報の送りナッ
ト17と昇降部材19の連結体が,本件発明の「ナット」に相当する。
したがって,乙2公報には,構成要件Dの「前記フレームの上部およ
びその下部間に配置されかつ前記ボルトに螺合され,前記ボルトの軸線
方向にのみ移動可能なナット」が開示されている。
(エ)以上によれば,本件発明と乙2公報記載の従来技術とは,「上部およ
び下部フレームと,該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向
けて伸びるボルトと,前記フレームの上部およびその下部間に配置され
かつ前記ボルトに螺合され,前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能なナ
ットとを含み」との点(構成要件B,C及びD)において一致する。
すなわち,本件発明のジャッキ機構と,乙2公報に従来技術として説
明されている昇降装置の送り螺子軸15の回転機構を除く部分のジャッ
キ機構とは,客観的構成において一致している。
ウ本件発明と乙2公報記載の従来技術との相違点
本件発明が,「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,
かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介
して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱
の建て入れ直し装置」(構成要件A)であって,「前記ナットの上方に前
記ベースプレートの縁部を配置可能である」(構成要件E)のに対し,乙
2公報記載の従来技術は,物体の昇降装置であって,前記送りナット17
に連結された昇降部材19の上部に配置を予定しているのは広く物体一般
である点において,両者は相違する。
エ相違点についての検討
(ア)構成要件Aのうち,「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に
載置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数
のナットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレート
を有する鉄骨柱の建入れ直し」までの部分は,甲11公報に記載されて
いる。
原告も,「鉄骨建方工事における従来工法とワイヤレス工法(本件特
許発明装置使用)との比較」と題する書面(甲19)の「従来工法」の
説明中において,上記条件下における鉄骨柱の建入れ直しが本件特許出
願前から公然実施されていたことを認めている。
(イ)甲12公報の「特許請求の範囲」請求項3,5及び7には,「上記基
礎コンクリートと鉄骨柱の間に歪直し用ジャッキを取り付けて,該鉄骨
柱を鉛直に姿勢制御」と記載されている。そして,上記請求項の「鉄骨
柱」は,いずれも,鉄骨柱と一体化したベースプレートを有しているか
ら,「基礎コンクリートと鉄骨柱の間に歪直し用ジャッキを取り付けて,
該鉄骨柱を鉛直に姿勢制御」には,基礎コンクリートと鉄骨柱のベース
プレート部分との間に歪直し用ジャッキを取り付けて,ベースプレート
の縁部を持上げて該鉄骨柱の建入れ直しを行う態様も当然に含まれる。
(ウ)そうすると,当業者において,乙2公報に従来技術として記載された
昇降装置と同一のジャッキ機構を,甲12公報の示唆するところにより,
ベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直しに適用して,乙2公報記載
の上記ジャッキ機構のナット17に連結された昇降部材19に相当する
ナットの突出部の上方にベースプレートを配置可能にする本件発明の鉄
骨柱の建入れ直し装置に想到することは容易というべきである。
(3)原告の主張に対する反論
ア原告は,本件発明は固有の駆動装置を有さず手動操作によるのに対し,
乙1公報記載の車両ホイストや乙2公報記載の従来技術はモータによる自
動操作による点が相違する旨主張する。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲の記載においては,上記のよ
うな限定はされていない。また,本件明細書中の記載も,「ボルト38を
回転させて」(【0031】)とか,「ボルト38の回転操作による」
(【0032】)などと記載されているのみで,手動操作によるとの記載
は見当たらない。
すなわち,本件発明に係る装置に自動操作機構を設けるか否かは,任意
の付加的事項にすぎないから,乙1公報記載の車両ホイストや乙2公報記
載の従来技術に自動操作機構が設けられている点を本件発明との相違点と
するのは誤りである。
また,乙1公報には,「持上手段の手動使用に起因する苛酷な不快さは
よく知られている」(1頁右欄17行ないし18行)と記載されているこ
とから,乙1公報には,Fig.1,Fig.2からモータ関連部分を除
去した構成も開示されているといえる。乙2公報の段落【0002】,
【0003】には,モータ取付け以前の従来装置の構成が説明されており,
「この天井部23に送り螺子軸15の上端が回転自在に支持され」と記載
する螺子軸15の上端を手動により操作することもできる。これらの観点
からも,乙1公報記載の車両ホイストや乙2公報記載の従来技術に自動操
作機構が設けられている点を本件発明との相違点とするのは誤りである。
イ原告は,本件発明はベースプレートの縁を持ち上げるためだけの装置で
あり降ろす操作は発生しないのに対し,乙1公報記載の車両ホイストは,
車両ないし車体を支重しつつ昇降する装置である点が相違する旨主張する。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲の記載においては,「前記ボ
ルトの軸線方向にのみ移動可能であるナットとを含み」と記載されている
ように,ナットは上下方向に移動可能であって,上方向のみの移動に限定
されていない。
(4)原告の本件発明に画期的意義があるとの主張について
ア従来の鉄骨組立てにおいて,転倒防止及び歪直しのためにワイヤが使用
されていたことは認める。しかしながら,例えば甲12公報に開示されて
いるように(段落【0003】,【0022】参照),ワイヤを使用しな
い鉄骨柱の固定方法は,本件特許の出願前から公知であった。
したがって,本件発明により初めてワイヤレス工法が可能となったかの
ような原告の主張は誤りであり,本件発明に画期的意義は認められない。
イ原告は,甲12公報記載の発明と本件発明との優劣を縷々主張する。し
かしながら,仮に,原告が主張するとおりであったとしても,それは主と
して,ベースプレートの縁部を持ち上げるという本件発明のジャッキの配
置態様に由来するものである。このようなジャッキの配置態様を可能とし
たのは,テツダンゴ上に鉄骨柱のベースプレートを載置するという公知の
建入れ方法によるものにすぎない。
したがって,ジャッキ構造自体に新規性が認められない本件発明に,画
期的意義は認められない。
〔原告の主張〕
(1)被告の主張は否認ないし争う。
(2)無効理由1について
ア被告の主張(1)ア(乙1公報の記載)及びイ(本件発明と乙1公報記
載の発明との一致点)は認める。
同ウ(本件発明と乙1公報記載の発明との相違点)は争う。
同エのうち(ア)は認め,(イ)及び(ウ)は争う。
イ本件発明と乙1公報記載の発明との相違点(被告の主張(1)ウ)につ
いて
(ア)本件発明が「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,
かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを
介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄
骨柱の建入れ直し装置」(構成要件A)であるのに対し,乙1公報記載
の発明は,「地面からの車両ホイスト」であって,乙1公報には上記建
入れ直し装置について何ら開示されていない。
(イ)本件発明が「前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部を配置可
能である」(構成要件E)のに対し,乙1公報記載の発明は,「地面か
らの車両ホイスト」であって,乙1公報には上記の点について何ら開示
されていない。
(ウ)本件発明は,固有の駆動装置を有さず,手動操作によりボルトを回転
させてナットを上昇させ,それによってベースプレートの縁部を上げる
ことにより鉄骨柱脚の傾きを調整するものであるのに対し,乙1公報記
載の発明は,「手動介入を必要とすることなく,(中略)自動操作によ
る地面からの車両用ホイスト」(1頁右欄10行ないし14行)である
点で相違する。
本件発明において,鉄骨柱脚の傾きの調整という微量調整を要する位
置調整のためには,装置が手動であることは当然の要素である。本件発
明と乙1公報記載の発明とは,技術課題の方向性が正反対である。
(エ)本件発明は,モータを有さず,モータと垂直軸との係合機構も有して
いないのに対し,乙1公報記載の発明においては,モータグループがフ
レームに一体に取り付けられ,モータグループシャフトが歯車と係合し,
垂直ねじを回転させる点で相違する。この点の相違は,本件発明と乙1
公報記載の発明との技術課題の相違から必然の相違である。
(オ)本件発明は,鉄骨柱のベースプレートの縁を持ち上げるためだけの装
置であり,降ろす操作は一切発生しないから,昇降装置ではないのに対
し,乙1公報記載の発明は,ホイストであり,「最初に車輪をその交換
のために持上げ,次いで再び地面に降ろすことを実質的に可能にする」
(1頁右欄11行ないし13行),すなわち,車輪ないし車体を支重し
つつ昇降する装置である点で相違する。
ウ相違点の検討(被告の主張(1)エ)について
(ア)乙1公報記載の発明の特徴をなす部分は,ホイストにモータを一体に
取り付け,これにより,手動によらない地面からの車両の容易な持上げ
と持下げとを可能とした構成である。
したがって,モータをフレームに一体に取り付けたという構成を取り
除いてしまうと,乙1公報記載の発明は成り立たないのであるから,そ
のような発想は生じ得ず,乙1公報記載の発明の技術思想からすれば,
モータによる自動操作と手動操作とを取り替えることはあり得ない。
(イ)甲11公報は,「基礎コンクリート上に固定されたテツダンゴ上に載
置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数の
ナットを介して前記基礎コンクリート上に仮止めされたベースプレート
を有する鉄骨柱の建入れ直し方法」を開示するにすぎず,上記建入れ直
し装置については何ら開示していない。
(ウ)甲12公報には「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置
され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナ
ットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有
する鉄骨柱の建入れ直し装置」についても,「前記ナットの上方に前記
ベースプレートの縁部を配置可能である」点についても記載がない。
したがって,乙1公報に記載された車両持上げ下ろし用のホイストか
ら,甲12公報の示唆に基づいて,本件発明に容易に想到し得たとする
被告の主張は理由がない。
(エ)被告は,甲12公報の記載に関し,「基礎コンクリートと鉄骨柱の間
に歪直し用ジャッキを取り付けて,該鉄骨柱を鉛直に姿勢制御」といえ
ば,基礎コンクリートと鉄骨柱のベースプレート部分との間に歪直し用
ジャッキを取り付けて,ベースプレートの縁部を持ち上げて該鉄骨柱の
建入れ直しを行う態様も当然に含まれる旨主張する。
しかしながら,甲12公報は,基礎コンクリート1と鉄骨柱5の上下
端間部位との間に流体圧ジャッキ8を配置する図2,4,6の例に限ら
れているから,被告が主張するように,「基礎コンクリートと鉄骨柱の
ベースプレート部分との間に歪直し用ジャッキを取り付けて,ベースプ
レートの縁部を持ち上げて該鉄骨柱の建入れ直しを行う態様も当然に含
まれる」と解するのは誤りである。
(オ)以上のとおり,自動車のモータによる自動ホイスト装置である乙1公
報記載の発明から,その本質的部分を否定する建築工事用手動装置であ
る本件発明を想到するのには阻害要因があり,乙1公報記載の発明から,
甲12公報に記載された発明の示唆に基づいて,本件発明に容易に想到
し得たとする被告の主張は理由がない。
(3)無効理由2について
ア被告の主張(2)ア(乙2公報の記載)は認める。
同イ(本件発明と乙2公報記載の従来技術との一致点)及び同ウ(本件
発明と乙2公報記載の従来技術との相違点)は争う。
同エのうち(ア)は認め,(イ)及び(ウ)は争う。
イ本件発明と乙2公報記載の従来技術との一致点(被告の主張(2)イ)
について
(ア)本件発明と乙2公報記載の従来技術とが,「上部および下部フレーム
と,該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向けて伸びるボル
トと,前記フレームの上部およびその下部間に配置されかつ前記ボルト
に螺合され,前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能なナットとを含み」
との点(構成要件B,C及びD)において,抽象的な文言上の対比とし
ては一致することは認める。
(イ)しかしながら,乙2公報記載の従来技術と本件発明とは,装置として
の規模において著しく異なる。これは,単なる実施例上の相違に解消で
きる範囲のものではない。文言上は,「フレーム」,「ボルト」,「ナ
ット」と表現できるとしても,構造物の重さ,大きさ,必要な材質,作
業性などの点で相違し,特許法上の評価において重視されるべき産業的,
技術的観点からは,両者は同一視し得ない。
(ウ)したがって,本件発明と乙2公報記載の従来技術との対比において,
かかる規模,材質等における相違を捨象して,文言のみから,両者が構
成要件B,C及びDの点において一致すると認定するのは誤りである。
本件発明と乙2公報記載の従来技術とは,上記の点においても,実質的
には相違しているというべきである。
ウ本件発明と乙2公報記載の従来技術との相違点(被告の主張(2)ウ)
について
(ア)本件発明が「鉄骨柱の建入れ直し装置」であって(構成要件A),
「ベースプレートの縁部を配置可能である」(構成要件E)のに対し,
乙2公報記載の従来技術は「物体の昇降装置」であって,「昇降部材1
9に配置を予定しているのは,製造設備において機械装置により昇降を
要する重量物体」である点において相違する。
すなわち,本件発明と乙2公報記載の従来技術とは,使用対象物にお
いて相違し,技術分野を異にする。
(イ)本件発明が「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,
かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを
介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄
骨柱の建入れ直し装置」(構成要件A)であるのに対し,乙2公報には
上記建入れ直し装置について何ら開示されていない。
(ウ)本件発明が「前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部を配置可
能である」(構成要件E)のに対し,乙2公報には上記の点について何
ら開示されていない。
(エ)本件発明は,明細書の記載及び図面から自明のとおり,建築工事現場
において自在に運搬することができる軽量小型の手動装置である。これ
に対し,乙2公報記載の従来技術は,昇降装置であり,具体的には,
「一般に,各種製造設備では,物体の昇降に昇降装置が広く使用されて
いる。」(2頁左欄27行ないし28行段落【0002】),「送り
ナット17と送り螺子軸15には,かじりを防止するために異種材料が
使用されている。そして,特に,螺子山15a,17aの磨耗を考慮し
て,メンテナンスを容易にするため,送りナット17には送り螺子軸1
5より柔らかい材質が選択され,磨耗時には送りナット17を交換する
ようにしている。」(同頁右欄1行ないし6行段落【0005】),
「従来の昇降装置では,送りナット17の螺子山17aが,送り螺子軸
15の螺子山15aとの接触回転で磨耗により痩せてゆくため,特に重
量物を昇降させる場合にはこの傾向が著しくなり,ある程度送りナット
17の螺子山17aが痩せると強度的に弱くなり螺子山17aが破断を
起こし,昇降材19が落下し被昇降物を破壊する虞があるという問題が
あった。」(同頁右欄8行ないし15行段落【0006】)との記載
があるように,製造設備において広く使用され,螺子山が物体の重量に
よる磨耗により痩せて破断を起こし,被昇降物が破壊する虞がある昇降
装置,すなわち,製造設備に定置され,モータにより駆動される重量物
の昇降のための重厚な装置である。
(オ)本件発明は,モータ,継手,回転伝達機構からなる駆動機構を有しな
いのに対し,乙2公報記載の従来技術においては,モータ27,継手2
9,回転伝達機構25からなる駆動機構を有する(段落【0002】な
いし【0005】,【図4】)点で相違する。
(カ)本件発明は,鉄骨柱のベースプレートの縁を持ち上げるためだけの装
置であり,降ろす操作は一切発生しないから,昇降装置ではないのに対
し,乙2公報記載の従来技術は,昇降装置である点で相違する。
エ相違点の検討(被告の主張(2)エ)について
(ア)乙2公報記載の従来技術は,モータ27,継手29,回転伝達機構2
5を欠いてはその効用を奏しない。乙2公報記載の従来技術において,
これらは必須の構成要素であり,少なくとも,乙2公報記載の従来技術
から,モータ27,継手29及び回転伝達機構25から成る駆動機構を
除去しようとの発想は生じ得ない。まして,駆動機構を除去して,極度
に小型化して,製造設備とは異なる,建築工事における鉄骨柱建入れ直
し装置にしようとの発想は生じ得ない。
(イ)甲11公報は,「基礎コンクリート上に固定されたテツダンゴ上に載
置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数の
ナットを介して前記基礎コンクリート上に仮止めされたベースプレート
を有する鉄骨柱の建入れ直し方法」を開示するにすぎず,上記建入れ直
し装置については何ら開示していない。
(ウ)甲12公報には「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置
され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナ
ットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有
する鉄骨柱の建入れ直し装置」についても,「前記ナットの上方に前記
ベースプレートの縁部を配置可能である」点についても記載がない。
したがって,乙2公報記載の従来技術から,甲12公報の示唆に基づ
いて,本件発明に容易に想到し得たとする被告の主張は理由がない。
(エ)被告は,甲12公報の記載に関し,「基礎コンクリートと鉄骨柱の間
に歪直し用ジャッキを取り付けて,該鉄骨柱を鉛直に姿勢制御」といえ
ば,基礎コンクリートと鉄骨柱のベースプレート部分との間に歪直し用
ジャッキを取り付けて,ベースプレートの縁部を持ち上げて該鉄骨柱の
建入れ直しを行う態様も当然に含まれる旨主張する。
しかしながら,甲12公報は,基礎コンクリート1と鉄骨柱5の上下
端間部位との間に流体圧ジャッキ8を配置する図2,4,6の例に限ら
れているから,被告が主張するように,「基礎コンクリートと鉄骨柱の
ベースプレート部分との間に歪直し用ジャッキを取り付けて,ベースプ
レートの縁部を持ち上げて該鉄骨柱の建入れ直しを行う態様も当然に含
まれる」と解するのは誤りである。
(オ)以上のとおり,乙2公報記載の従来技術から,その本質的部分を否定
する建築工事用手動装置である本件発明を想到するのには阻害要因があ
り,乙2公報記載の従来技術から,甲12公報に記載された発明の示唆
に基づいて,本件発明に容易に想到し得たとする被告の主張は理由がな
い。
(4)本件発明の画期的意義について
ア本件発明は,基礎コンクリートに固定されたテツダンゴの上に載置され
た鉄骨柱のベースプレートをアンカーボルトに仮止めした状態で,本件発
明に係る装置を該装置のナットがベースプレートの各縁部の底面に当接す
るように各1基配置し,柱の垂直度を計測しつつ,本件発明に係る装置の
ボルトの回転によるナットの上下動によって柱を垂直にし,その状態でア
ンカーボルトを固定することができ,本件発明に係る装置を使用する場合,
鉄骨柱自体の重量は,テツダンゴによって柱の中心線底部で支持されてい
るので,柱の重量に比してはるかにわずかな力でテツダンゴを支点に柱を
回転させることにより,速やかな柱の垂直調整が可能である。
したがって,本件発明に係る装置によれば,まず鉄骨柱建入れにおいて,
ワイヤによる転倒防止作業は不要となり,かつ,迅速,容易に柱の垂直が
確保されるので,鉄骨柱相互に梁を仮止めし,複数のワイヤを引っ張り緩
めることにより垂直調整をするという複雑困難な作業も不要となる。
さらに,従来工法においては,すべての鉄骨柱にすべての梁を仮止めし
た後でなければ,建入れ直しができないのに対し,本件発明に係る装置に
よれば,建入れ直しの後に,鉄骨柱間に梁を配置すればよいので,鉄骨柱
ごとに本ボルトのみを使用して建入れと建入れ直しとを行うことができ,
また,建入れ直し後直ちに,本ボルトを使用して梁の鉄骨柱への本締め固
定を行うことができる。
以上のとおり,本件発明は,従来の鉄骨組立において不可欠であったワ
イヤを使用した転倒防止及び歪直し(すなわち,ワイヤを使用した建入れ
及び建入れ直し)の作業を不要にし,大幅な工期短縮,工費節約を実現す
るとともに,工事における安全性の向上をもたらしたものであり,しかも,
これを,フレーム,ボルト,ナットというわずか3部品から成る極めて単
純な構造の装置(したがって,安価,堅牢かつ操作容易であり,小型,軽
量で運搬や移動が容易である。)により成し遂げたという画期的意義を有
する。
イ確かに,甲12公報には,従来工法において歪直しワイヤを必要とする
ことが解決課題とされ(【0003】),甲12公報記載の発明によれば,
「鉄骨柱の建方時に建て入れ調整が完了し,歪直し工事が不要となり,そ
の結果,ワイヤー類の資材削減,工期の短縮が可能となる。」(【002
2】)との記載がある。
しかしながら,甲12公報記載の工法は,次のとおり,実用性に著しく
欠け,実際上も,原告が知る限り,建築現場において使用されたことはな
い。
すなわち,本件発明において,柱の姿勢は,ボルトを回旋し,ナットで
ベースプレートの縁部を僅かずつ持ち上げていくという直接的な位置決め
操作によって精密,かつ,確実に決定することができる。
これに対し,甲12公報における歪直し用ジャッキ8(図2,4,6)
は,それが油圧作動,空気圧作動のいずれであっても,柱の姿勢決定は,
ジャッキの昇降力の加減によって上げ下げを調節するという間接的操作に
なり,最適点においてピンポイントで柱を止めることが困難であるため,
そもそも鉄骨柱の姿勢制御のような精密性を要する微調整作業には向いて
いない。特に,対抗する2対のジャッキ,計4基を協調的に用いて鉄骨柱
を互いに上げ下げしながらその姿勢を微調整することが極めて困難である
ことは明白である。
図2の例では,ベースプレート5aの上げ下げに際し,ジャッキ4基の
ほかにさらに調整ボルト4本の全てを協調的に操作しなければならない。
図3の例では,調整ボルト9のみによって姿勢制御を行うため,ボルト
先端の基礎コンクリートとの接触面積が小さいにもかかわらず,該調整ボ
ルトに掛かる荷重が大きくなるため,調整ボルトが基礎コンクリートに食
い込んで基礎コンクリート面が割れたり,ベースプレートの傾きが変化す
ると調整ボルトの接地端とコンクリート面で必然的にこすれが生じて調整
ボルトに大きな歪みがかかり螺動させることが不可能になったり,破損し
たりするおそれがあることが明らかであり,工事の信頼性,安全性に著し
く欠ける。
図6の例では,ベースプレート5aを下げる際に,クサビ12を引き抜
くことが困難であり,該クサビによっては鉄骨柱の姿勢の微調整は困難で
ある。また,いずれの例でも,歪直し用ジャッキ8を鉄骨柱5に取り付け
るために鉄骨柱に本来不要なブラケット(図2,4,6上で鉄骨柱5から
横方向に伸びる部材)を予め溶接したり,ベースプレートに本来不要な調
整ボルト用の穴を開け,ナットを溶接したりする必要があるため,余分の
手間とコストの発生が避けられない。
以上のとおり,甲12公報で提案された工法はいずれも拙劣なものとい
わざるを得ず,実用性がなく,実際にも用いられていないことからすれば,
課題解決のための役には立たず,看板倒れであったことに帰する。このこ
とからすれば,甲12公報の記載は,むしろ,従来のワイヤ工法の問題解
決の困難性と,それを一挙に解決したものである本件発明の画期的意義,
即ち,進歩性をより鮮明にするものであるということができる。
3争点3(損害額)について
〔原告の主張〕
(1)被告は,少なくとも,平成17年7月ころから,被告製品を製造し,これ
を建築会社等に貸与して収入を得ている。
建築業界においては,工事用装置を貸借によって調達する方法が広範に行
われており,平成17年7月ころから本訴提起に至るまでの約3年間に,被
告製品の貸与により,被告が得た貸与料金は合計580万円を下らない。
そして,このうち被告が得た利益(貸与料金から変動費を控除した金額)
は,合計520万円を下らない。
(2)被告による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は18
0万円である。
(3)したがって,被告が本件特許権の侵害について賠償すべき損害額は合計7
00万円を下らない。
原告は,被告に対し,本件特許権の2分の1の共有持分に基づき,本件特
許権の侵害について被告が賠償すべき損害額の2分の1を超えない限度にお
いて,700万円の損害賠償請求権を有する。
〔被告の主張〕
原告の主張は否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
本件では,事案に鑑み,争点2(本件特許は無効にされるべきものか)から
判断する。
1本件発明は,特許請求の範囲請求項1に記載のとおり,「基礎コンクリート
に固定されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこ
れらに螺合された複数のナットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされた
ベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し装置であって,上部および下部を
有するフレームと,該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向けて伸
びるボルトと,前記フレームの上部およびその下部間に配置されかつ前記ボル
トに螺合され,前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能であるナットとを含み,
前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部を配置可能である,鉄骨柱の建
入れ直し装置。」である。
2乙1公報に記載された発明
(1)乙1公報には,次の記載がある。
ア「本発明は,手動介入を必要とすることなく,困窮した車両ドライバが
最初に車輪をその交換のために持上げ,次いで再び地面に降ろすことを実
質的に可能にするところの自動操作による地面からの車両用ホイストに関
するものである。」(1頁右欄10行ないし14行)
イ「モータレジューサアセンブリ(2)がフランジ(3)上でフレーム
(1)に一体に取付けられ,モータグループシャフトが対応する歯車
(6)を有する歯車(4,5)と係合し,ホイール,ピン運動が垂直ねじ
(7)を回転させ,これによりチャリオット(8)が方形断面を有する縦
方向シート(9)内で移動し,係合部分(10)を上方にまたは下方に持
って来ることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の地面からの車両ホ
イスト。」(1頁左欄10行ないし18行特許請求の範囲請求項2)
ウ「地面からの車両ホイストであって,上記ホイストをフレーム上でモー
タグループと一体に取付け,そのシャフトが手段の通常の運動装置の作動
装置において係合状態になることを特徴とする地面からの車両ホイス
ト。」(1頁左欄5行ないし9行特許請求の範囲請求項1)
エ実施例として,Fig.1(本発明に係るホイストの縦方向断面図),
Fig.2(同斜視図)が図示されており,この説明として次のとおり記
載されている。
「図示のように,モータレジューサアセンブリ2がフランジ3上でフレー
ム1に一体に取付けられている。モータグループシャフトは対応する歯車
6を有する歯車4,5と係合する。ホイール,ピン運動が垂直ねじ7を回
転させ,これによりチャリオット8が方形断面を有する縦方向シート9内
で移動し,係合部分10を上方にまたは下方に持って来る。使用のために,
ドライバはホイストをそのベース11が地面上にあるようにして置き,部
分10を車両の対応係合シートに導入するように調整する。電気制御装置
によってドライバは次いで車輪を持上げてそれに介入する。前記車輪に対
する介入が終わったとき,ドライバは逆回転方向を電気的に制御して車輪
を再び地面上に持って来る。」(2頁左欄5行ないし20行)
そして,Fig.1及びFig.2に図示された実施例においては,フ
レーム1の上方が,歯車4,5,6を収容する箱体と一体に連結されてお
り,垂直ねじ7が前記箱体の底板を貫通して,前記フレーム1の下部に向
けて伸びている。
(2)以上の記載によれば,乙1公報には,「車両の交換のために,車両を地面
から持ち上げ,交換作業後車両を地面に降ろす車両ホイスト(ジャッキ装置
・対象物を支持しつつ,その位置を上方又は下方に移動させる装置)であっ
て,地面に設置されるベース11と,当該ベース11の上方に設けられたフ
レーム1と,底板が前記フレーム1の上方に一体に連結された箱体と,前記
箱体の底板を貫通し前記フレーム1の下部に向けて伸びる垂直ねじ7と,前
記箱体の底板と前記ベース11との間に配置されかつ前記垂直ねじ7に螺合
され,前記垂直ねじ7の軸線方向にのみ移動可能であるチャリオット8と,
当該チャリオット8に設けられた係合部分10とを含み,前記係合部分10
の上方に車両を配置可能である,車両ホイスト(ジャッキ装置)」の発明
(以下「乙1発明」という。)が開示されているものと認められる。
3本件発明と乙1発明との対比
(1)本件発明と乙1発明とを対比すると,後者の「ベース11と,当該ベース
11の上方に設けられたフレーム1と,前記フレーム1の上方に一体に連結
された箱体の底板」は,前者の「上部及び下部を有するフレーム」に,後者
の「垂直ねじ7」は,前者の「ボルト」に,後者の「チャリオット8と,当
該チャリオット8に設けられた係合部分10」は,前者の「ナット」に,そ
れぞれ相当するといえる。
(2)そうすると,本件発明と乙1発明とは,上部および下部を有するフレーム
と(構成要件B),該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向けて
伸びるボルトと(構成要件C),前記フレームの上部およびその下部間に配
置されかつ前記ボルトに螺合され,前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能で
あるナットとを含む(構成要件D)点において一致すると認められる。
(3)また,本件発明と乙1発明とは,次の点において相違すると認められる。
ア相違点1
本件発明は,「基礎コンクリートに固定されたテツダンゴ上に載置され,
かつ,複数のアンカーボルトおよびこれらに螺合された複数のナットを介
して前記基礎コンクリートに仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱
の建入れ直し装置」(構成要件A及びF)であるのに対し,乙1発明は
「地面からの車両ホイスト」である点。
イ相違点2
本件発明は,「前記ナットの上方に前記ベースプレートの縁部を配置可
能である」(構成要件E)のに対し,乙1発明がナットに相当する「係合
部分10」の上部に配置を予定しているのは車両である点。
ウ原告の主張する相違点について
原告は,本件発明と乙1発明とは,①本件発明が固有の駆動装置を有さ
ず,手動操作によりボルトを回転させてナットを上昇させ,それによって
ベースプレートの縁部を上げることにより鉄骨柱脚の傾きを調整するもの
であるのに対し,乙1発明は手動介入を必要としない自動操作によるもの
である点,②本件発明がモータを有さず,モータと垂直軸との係合機構も
有していないのに対し,乙1発明においては,モータグループがフレーム
に一体に取り付けられ,モータグループシャフトが歯車と係合し,垂直ね
じを回転させる点,③本件発明が鉄骨柱のベースプレートの縁を持ち上げ
るためだけの装置であり,降ろす操作は一切発生しないから,昇降装置で
はないのに対し,乙1発明は車輪ないし車体を支重しつつ昇降する装置で
ある点,においても相違する旨主張する。
しかしながら,原告が本件発明について述べる上記の各点については,
いずれも,本件発明の特許請求の範囲において限定されていないから,こ
れらを本件発明と乙1発明との相違点として挙げ,あるいは,乙1発明か
ら本件発明を想到するについての阻害要因になるとする原告の主張は失当
である(なお,鉄骨柱の建入れ直し作業において,モータを用いたジャッ
キ装置を使用することができないわけではなく,この点が阻害要因となる
ことはない。)。
4本件発明の容易想到性
そこで,上記の各相違点について,当業者において,本件発明の構成に容易
に想到することができたかについて検討する。
(1)相違点1について
ア本件発明は,「鉄骨柱の建入れ直し装置」の発明であって,本件発明と
乙1発明とは,①上部および下部を有するフレームと(構成要件B),②
該フレームの上部を貫通し前記フレームの下部に向けて伸びるボルトと
(構成要件C),③前記フレームの上部およびその下部間に配置されかつ
前記ボルトに螺合され,前記ボルトの軸線方向にのみ移動可能であるナッ
トとを構成として含み(構成要件D),対象物(本件発明においては鉄骨
柱であり,乙1発明においては車両である。)を支持しつつ,その位置を
上方又は下方に移動させる装置,すなわちジャッキ装置であるという点に
おいて一致する。
そうすると,相違点1は,本件発明がジャッキ装置を「基礎コンクリー
トに固定されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数のアンカーボルトお
よびこれらに螺合された複数のナットを介して前記基礎コンクリートに仮
止めされたベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し装置」として用い
るのに対し,乙1発明はジャッキ装置を「地面からの車両ホイスト(ジャ
ッキ装置)」として用いるという相違,すなわち,同じ構成を有するジャ
ッキ装置をどのような用途で用いるのかという相違にすぎないことになる。
そして,本件発明は「鉄骨柱の建入れ直し装置」の発明(物の発明)で
あるから,構成要件A及びFは,ジャッキ装置が,鉄骨柱の建入れ直し作
業に耐えうる強度を有し,これに適した大きさ及び形状であることを規定
するに止まるものと解される。
イ甲12公報の記載
(ア)甲12公報には,次の記載がある。
a「基礎コンクリート上に鉄骨柱を建て込んで,該基礎コンクリート
に植設したアンカーボルトを上記鉄骨柱のベースプレートに挿設する
と共に該ベースプレートに調整ボルトを取り付け,上記基礎コンクリ
ートと鉄骨柱の間に歪直し用ジャッキを取り付けて,該鉄骨柱を鉛直
に姿勢制御した状態で,上記アンカーボルトに螺合した締付ナット及
び上記調整ボルトにより上記鉄骨柱を固定することを特徴とする鉄骨
柱の柱脚部固定工法。」(2頁1欄11行ないし19行【請求項
3】)
b「基礎コンクリート上に鉄骨柱を建て込んで,該基礎コンクリート
に植設したアンカーボルトを上記鉄骨柱に付設した固定プレートに取
り付け,上記基礎コンクリートと鉄骨柱の間に歪直し用ジャッキを取
り付けて,該鉄骨柱を鉛直に姿勢制御した状態で,上記アンカーボル
トに螺合した締付ナットにより上記固定プレートを締め付けて鉄骨柱
を固定することを特徴とする鉄骨柱の柱脚部固定工法。」(2頁1欄
28行ないし35行【請求項5】)
c「基礎コンクリート上に鉄骨柱を建て込んで,該基礎コンクリート
に植設したアンカーボルトを上記鉄骨柱のベースプレートに挿設し,
上記基礎コンクリートと鉄骨柱の間に歪直し用ジャッキを取り付けて,
該鉄骨柱を鉛直に姿勢制御した状態で,上記アンカーボルトに螺合し
た締付ナット及び上記ベースプレートと基礎コンクリートとの間に介
挿させたクサビにより上記鉄骨柱を固定することを特徴とする鉄骨柱
の柱脚部固定工法。」(2頁1欄42行ないし50行【請求項
7】)
d「従来の工法は,鉄骨柱の建て入れ精度が悪いために梁建方が困難
であるだけでなく,歪み直し用のワーヤーを必要とする等の問題点が
あった。」(2頁2欄23行ないし26行段落【0003】)
e「図2は第2の実施例を示すもので,基礎コンクリート1に植設し
たアンカーボルト2を鉄骨柱5のベースプレート5aに挿入すると共
に,該ベースプレート5aに溶接等により付設したナット9aに調整
ボルト9を螺合しておく。また,上記基礎コンクリート1と上記鉄骨
柱5との間に,歪直し用ジャッキ8を取り付ける。この場合,上記ア
ンカーボルト2に螺合させた締付ナット2aおよび上記調整ボルト9
は緩めておく。」(3頁4欄11行ないし18行段落【001
0】)
「この状態で,歪直し用ジャッキ8を作動させて鉄骨柱5を鉛直に
姿勢制御する。」(3頁4欄19行ないし20行段落【001
1】)
f「図4は第4の実施例を示すもので,基礎コンクリート1に植設し
たアンカーボルト2を鉄骨柱5のベースプレート5aに挿入すると共
に,該鉄骨柱5に付設した固定プレート5bに取り付ける。上記基礎
コンクリート1と上記鉄骨柱5との間には歪直し用ジャッキ8を取り
付ける。この場合,上記アンカーボルト2に螺合させた上下の締付ナ
ット2b,2cは緩めておく。」(3頁4欄40行ないし46行段
落【0014】)
「続いて,歪直し用ジャッキ8を作動させて鉄骨柱5を鉛直に姿勢
制御する。」(3頁4欄47行ないし48行段落【0015】)
g「図6は第6の実施例を示すもので,基礎コンクリート1に植設さ
れたアンカーボルト2を鉄骨柱5のベースプレート5aに挿入させる
と共に,該ベースプレート5aと上記基礎コンクリート1との間にク
サビ11を挿設せしめておく。また,上記基礎コンクリート1と上記
鉄骨柱5との間に,歪直し用ジャッキ8を取り付ける。この場合,上
記アンカーボルト2に螺合させた締付ナット2aは緩めておく。」
(4頁5欄14行ないし21行段落【0018】)
「この状態で,歪直し用ジャッキ8を作動させて鉄骨柱5を鉛直に
姿勢制御する。」(4頁5欄22行ないし23行段落【001
9】)
(イ)上記記載によれば,甲12公報には,鉄骨柱の建入れ直しにおいて,
鉄骨柱を鉛直に姿勢制御すること,鉄骨柱を鉛直に姿勢制御するに当た
って,歪直し用のワイヤを不要とすること,という技術課題が開示され
ており,この課題の解決手段として,鉄骨柱の建入れ直しにおいて,鉄
骨柱の歪みを直すためにジャッキ装置を用いる発明が開示されていると
いえる。
ウそうすると,乙1発明の車両ホイスト(ジャッキ装置)を,甲12公報
が開示するところにしたがって,鉄骨柱の建入れ直し作業において,鉄骨
柱の歪みを直すため(鉛直姿勢制御のため)に用いることは,当業者が容
易に想到し得たことであるというべきである。
そして,乙1発明の車両ホイスト(ジャッキ装置)を,鉄骨柱の建入れ
直し作業に用いるに際し,当該ジャッキ装置を,鉄骨柱の建入れ直し作業
に耐えうる強度,これに適した大きさ及び形状とすることは,設計上の選
択事項として,当業者が適宜になし得たことであると解される。
なお,構成要件Aにおいて規定されている,「基礎コンクリートに固定
されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数のアンカーボルトおよびこれ
らに螺合された複数のナットを介して前記基礎コンクリートに仮止めされ
たベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し」作業と,甲12公報に記
載された建入れ直し作業とは,鉄骨柱をテツダンゴ上に載置するのかどう
かという点において相違するものの,当該作業の相違によって,用いるジ
ャッキ装置の強度,大きさ,形状に有意な差異が生じるとは考えられない
から,当該作業の相違は,進歩性の判断には影響しない(「基礎コンクリ
ートに固定されたテツダンゴ上に載置され,かつ,複数のアンカーボルト
およびこれらに螺合された複数のナットを介して前記基礎コンクリートに
仮止めされたベースプレートを有する鉄骨柱の建入れ直し」作業が,本件
発明の出願以前から行われていた作業方法であることは,本件明細書の段
落【0002】及び【0003】,甲11公報の段落【0002】ないし
【0004】及び【0013】,甲19から明らかである。)。
(2)相違点2について
ア本件発明は「鉄骨柱の建入れ直し装置」の発明(物の発明)であるから,
構成要件Eは,本件発明のナットの上方が,鉄骨柱のベースプレートを支
持するのに耐える強度,これに適した大きさ及び形状であることを規定す
るに止まるものと解される。
イ乙1発明の車両ホイスト(ジャッキ装置)を,甲12公報が開示すると
ころにしたがって,鉄骨柱の建入れ直し作業において,鉄骨柱の歪みを直
すため(鉛直姿勢制御のため)に用いることは,当業者において容易に想
到し得たことであることは,前記(1)で述べたとおりである。
そして,乙1発明の車両ホイスト(ジャッキ装置)を,鉄骨柱の建入れ
直し作業に用いるに際し,ナットに相当する「係合部分10」の強度,大
きさ及び形状を,鉄骨柱のベースプレートの縁部を配置し,これを支持す
るに耐えうる強度,大きさ及び形状とすることは,設計上の選択事項とし
て,当業者が適宜になし得たことであると解される。
(3)以上によれば,本件発明は,乙1発明及び甲12公報記載の技術に基づい
て,当業者が容易に発明をすることができたものというべきである(特許法
29条2項)。
したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであ
ると認められるから,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することはで
きない(特許法104条の3)。
5原告の本件発明の画期的意義との主張について
原告は,本件発明が,極めて単純な構造の装置によって,従来の鉄骨組立に
おいて不可欠であったワイヤを使用した転倒防止及び歪直しの作業を不要にす
るという画期的意義を有する旨主張するものの,原告の主張する効果は,本件
発明の構成から通常生じ得る効果にすぎず,本件発明の進歩性を基礎付けるに
足りるものであるとはいえない。
6結論
よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由が
ないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
阿部正幸裁判長裁判官
平田直人裁判官
柵木澄子裁判官
(別紙)
被告製品目録
三伸機材株式会社製柱脚用建起し装置(商品名「BASEJACK鉄人ベー
スジャッキ」)
以上
(別紙)
被告製品説明書
1商品名
「BASEJACK鉄人ベースジャッキ」
2別紙図面の説明
(1)図面及び写真の説明
図1は被告製品の平面図。
図2は被告製品の縦断面図。
図3は被告製品の正面図。
図4は被告製品の斜視図。
図5は被告製品による建起し前の柱脚の状態を示す平面図。
図6は被告製品による建起し前の柱脚の状態を示す側面図で,鉄骨柱につい
ては縦断面で示す。
図7は被告製品が柱脚の建起しのために配置された状態を示す平面図。
図8は被告製品が柱脚の建起しのために配置された状態を示す側面図で,鉄
骨柱及び被告製品については縦断面で示す。
図9は被告製品による建起し後の柱脚の状態を示す側面図。
写真は被告製品及びその使用状態を示す。
(2)各図における参照番号は,被告製品の次の部材を示す。
100・・・被告製品
102・・・枠体
104・・・ボルト
104a・・・(ボルトの)頭部
104b・・・(ボルトの)軸部
104c・・・(ボルトの)ねじ部
106・・・ナット
108・・・(枠体の)頂部
110・・・(枠体の)底部
112・・・(枠体の)側部
114・・・(枠体の)背部
116・・・(頂部の)張出部
118・・・(ナットの)爪部
120・・・柱脚
122・・・ベースプレート
124・・・アンカーボルト
126・・・ナット
128・・・基礎コンクリート
130・・・テツダンゴ
132・・・(ベースプレートの)縁部
3構造
図1ないし図4を参照して被告製品100の構造を説明する。
被告製品100は,枠体102,ボルト104及びナット106からなる。
枠体102は,頂部108,底部110,一対の側部112及び背部114か
らなり,各部は鋼鉄製の板材から成り,一体に溶接されている。
ボルト104は,枠体102の頂部108に回転可能に支持されており,枠体
102内に配置されたナット106と螺合している。ボルト104とナット10
6とはボルト・ナットの関係にある。
ボルト104は,頭部104a,軸部104b及びねじ部104cを有し,そ
の軸部104bは枠体102の頂部108を経て下方へ伸び,その先端部は常時
底部110に接触している(図2)。
ナット106は,矩形の横断面形状を有し,その側面は枠体102の両側部1
12及び背部114に接触しており,上下動は可能であるが,回転は阻止されて
いる。
スパナなど(図示せず)により頭部104aに回転力を及ぼすことによりボル
ト104を一方向(時計方向)へ回転させると,ナット106は両側部112お
よび背部114に沿って枠体102内を上方へ移動する。逆に,ボルト104を
逆方向(反時計方向)へ回転させると,ナット106は枠体102内を自重の作
用下で下方へ移動する。
頂部108は側部112からの張出部分116を有し,ナット106も側部板
112からの張出部分である爪部118を有する。
4使用方法
(1)被告製品100の使用方法について,図5ないし図9を参照して説明する。
鉄骨柱の基部に当たる柱脚120は,矩形のベースプレート122を備え,
該ベースプレートはその各隅部において該ベースプレートを貫くアンカーボル
ト124と該アンカーボルトに螺合するナット126とにより,図6に示すよ
うに,基礎コンクリート128に仮止めされている。基礎コンクリート128
には突起物であるテツダンゴ130が設けられており,ベースプレート122
はこのテツダンゴ上に配置されている。
図6に示す仮止めの状態では,通常,柱脚120は垂直でなく,いずれかの
方向へわずかに傾いている。図6に示す状態では,柱脚120はわずかに右方
へ傾いている。
被告製品100は柱脚120のわずかな傾きを正して垂直にするために,す
なわち「傾き調整」のために使用され,少なくとも1つの被告製品がベースプ
レート122の各辺に配置される。図8に示す配置状態において,全ての直し
被告製品100は,そのナット106の爪部118がベースプレート122の
縁部132を受けるように配置される。
(2)図8を参照して,被告製品100の作用効果について説明する。
柱脚120の傾き調整時,各アンカーボルト124に螺合するナット126
を緩め,その間に,被告製品100のボルト104を一方向に回転させること
により,ナット106の上昇によりベースプレート122の縁部132を持ち
上げさせる。
これによって柱脚120の傾きを調整する。
傾き調整を完了した後,各アンカーボルト124上でナット126を締め,
各被告製品100において,その張出部118を縁部132から引き離すよう
に,ボルト104を反対方向に回転させ,これによりナット106を下降させ
る。
その後,全ての被告製品100を基礎コンクリート128上から撤去する
(図9)。このとき,柱脚120は基礎コンクリート128上に垂直に立って
いる。
以上
(別紙)
(別紙)
被告製品写真
(別紙特許公報省略)

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