弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     第一審判決および原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月および貨物を密輸出した罪につき罰金十万円、同密輸
入した罪につき罰金五万円に処する。
     本裁判確定の日から、三年間右懲役刑の執行を猶予する。
     被告人が右罰金を完納することができないときは、金千円を一日に換算
した期間労役場に留置する。
     大蔵事務官差押にかかるC丸(その換価代金)、亜砒酸五〇瓩入二箱、
クロロホルム一斗壜入五本はこれを被告人から没収し、被告人から二十二万九千十
一円を追徴する。
     密出国の点について被告人を免訴する。
         理    由
 弁護人木戸実の上告趣意第一点について。
 所論は、関税法八三条三項に「……犯人ヨリ追徴ス」とあり、すべての犯人から
それぞれ追徴すべき法意であるに拘らず本件においては、被告人Aのみから追徴し、
共に起訴された他の共犯者から追徴しなかつた第一審判決を是認した原判決は、右
関税法の条項の解釈を誤り、憲法一四条一項に違反するものである、また、関税法
の右条項が、共に起訴された共犯者ある場合にも所有者たる被告人のみから追徴し、
他の被告人から追徴しないことを認めた規定であるとすれば、同条項が憲法一四条
一項に違反するものであるというのである。
 しかし、没収に代わる追徴に関する事項をいかに定めるかは、追徴なる制度の本
旨に適合する限り、立法によつて定めうる事柄であつて、たとえ数人の被告人に対
しそれぞれ追徴を命ぜられた場合においても、国が追徴しうるのは没収せらるべき
物の価額以上におよぶことを得ず、追徴を命ぜられた被告人の中の一人または数人
がすでに追徴金の全部または一部を納付したときは、その納付済の部分については
更に重ねて他の被告人から納付せしめることを得ないものであること(昭和三年二
月三日大審院判決、大判集七巻六七頁、昭和三〇年(あ)第三一七九号、同三一年
八月三〇日第一小法廷決定、集一〇巻八号一二八三頁参照。)等から考えれば、関
税法八三条三項に「 …犯人ヨリ追徴ス」とあるのは、共に起訴された共犯者の一
人又は数人が、その物の所有者であることが明らかである場合には、必ずしも、右
共犯者全員のそれぞれに対し、各独立して全額の追徴を命じなければならねものと
解すべきではなく、その物の所有者たる被告人のみに対して追徴を命ずることも、
前記追徴の本旨に徴し違法ではないと解するを相当とし、また右関税法の条項を右
のごとく解することは、追徴なる制度を認めた法令の趣旨に照らし、合理的である
と解せられるから、これがため共に起訴された共犯者の一部が追徴を命ぜられ、そ
の他の共犯者が追徴を命ぜられないことがあるとしても、これをもつて、右条項が
憲法一四条の法の下の平等を侵すものであるとは認められない。そして、本件にお
いては、被告人Aが法律上追徴を受くべき者であり、現に追徴を命ぜられているの
であつて、共に起訴された他の共犯者が追徴を受けないことは、右Aの追徴に対し
ては、何ら影響のない事項であり、また同人がこれがため特に不利益を受けたこと
も認められないばかりでなく、第一審判決挙示の証拠によれば、本件貨物は被告人
Aが自己の金で買受けた物又はこれと交換した物であることが明らかであり、同人
の所有に属するものであると認められから、かくの如き場合においては、その所有
者である被告人Aのみに追徴を命じ、共に起訴された他の共犯者に追徴を命じなか
つた第一審判決は正当であつて、これを是認した原判決には所論の違法、違憲は認
められない。
 同第二点について。
 所論は違憲をいうが、原審で主張判断のない事項であるばかりでなく、所論のよ
うに、被告人Aが太沾から帰航の途中昭和二五年九月中旬頃下船したとしても、本
件記録に徴すれば、本件船舶は被告人が社長であるB水産株式会社の所有にかかり、
同被告人は静岡県静浦で下船するにあたり船は伊東へ廻船するようにと船員に指示
しており、しかも本件密輸出入は主として被告人が計画、実施したものであるから、
右下船によつて本件船舶が被告人の占有を離脱したものとは認められず、また、所
論のように昭和二五年一一月二〇日静岡県伊東港において裁判官の差押令状に基づ
き大蔵事務官によつて差押処分を受け、その後検察官は刑訴二二二条、一二二条に
基づき換価処分を命じ、同年一二月二五日に横浜税関がこれを公売処分に附して他
人に競落させたとしても、没収の関係においては、これによつて本件船舶に対する
被告人Aの占有が失われたものと解することはできない。従つて本件船舶の没収に
は所論の違法は認められず、所論違憲の主張は、その前提を欠くものである。(な
お、刑訴一二二条による押収物の換価代金は、没収に関しては被換価物件と同一視
すべきものであつて、没収の対象となるものであることについては、昭和二五年(
あ)第四七七号、同年一〇月二六日当裁判所第一小法廷決定、集四巻一〇号二一七
一頁、昭和二九年(あ)第三四五〇号、同三二年二月八日当裁判所第二小法廷判決、
集一一巻二号五四一頁参照)。
 次に職権をもつて調査するに、第一審判決の確定した犯罪事実中被告人の密出国
の点(昭和二五年一一月一六日附起訴状記載の公訴事実)は、原判決後である昭和
二六年一二月一日以降刑の廃止があつたものであることは、当裁判所の判例とする
ところであり(昭和二七年(あ)第一五七〇号、同二九年一二月一日大法廷判決、
集八巻一二号一九一一頁参照)、この点につき被告人は免訴さるべきものであつて、
原判決はこの点において破棄しなければ著しく正義に反する。
 よつて刑訴四一一条五号により原判決および第一審判決を破棄し、同四一三条但
書により更に判決をすることとする。
 第一審判決の確定した事実中、密出国の所為(昭和二五年一一月一六日附起訴状
記載の公訴事実)は、犯罪後の法令により刑の廃止があつたので、刑訴四一四条、
四〇四条、三三七条二号により、被告人を免訴すべく、密輸出の所為(昭和二五年
一一月二八目附起訴状記載の第一の公訴事実)及び密輸入の所為(前同日附起訴状
記載の第二の公訴事実)は、それぞれ旧関税法(昭和二九年法律六一号による改正
前のもの)七六条一項に該当するから、いずれも懲役刑および罰金刑を併科すべく、
以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、刑法四七条本文、一〇条に従い犯情重
い密輸出の罪の懲役刑に併合罪の加重をした刑期範囲内で懲役四月に、罰金刑につ
いては、右関税法八二条ノ四により、密輸出の罪について罰金一〇万円に、密輸入
の罪について罰金五万円に処し、刑法二五条により、本裁判確定の日より三年間右
懲役刑の執行を猶予し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条によ
り金千円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収にかかるC丸は本件
犯罪行為の用に供した船舶であつて被告人が社長であるB水産株式会社の所有にか
かり、且つ、被告人の占有にかかるものであり、本件密輸出入にかかる貨物は、い
ずれも被告人の所有に属するから、主文掲記のものは右関税法八三条一項によりこ
れを没収し、その余の物件は既に処分され没収することができないので、同条三項
により無水錯酸八百瓩、氷錯酸四百瓩、亜砒酸九百瓩、落花生油六百立の原価合計
二十二万九千十一円はこれを追徴すべきものとし主文のとおり判決する。
 この裁判は、密出国の点について、裁判官田中耕太郎および同斎藤悠輔の反対意
見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官田中耕太郎および同斎藤悠輔の反対意見は、本件密出国の罪については、
犯罪後の法令により刑の廃止があつたものではないこと、昭和二七年(あ)第一五
七〇号、同二九年一二月一日言渡大法廷判決(集八巻一二号一九一一頁)記載の右
両裁判官の反対意見のとおりである。
 裁判官霜山精一、同井上登、同栗山茂、同岩松三郎、同谷村唯一郎、同本村善太
郎は退官につき本件評議に関与しない。
 検察官安平政吉、同竹原精太郎、同宮崎三郎出席。
  昭和三三年三月五日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎

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