弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中村築守の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)
について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) D精粉株式会社は,E工業株式会社に対し,第1審判決別表6記載のとお
り商品を売り渡し,同社は,上告人に対し,同別表3記載のとおりこれを転売した
(以下,この転売契約に基づく売買代金債権のことを「本件転売代金債権」という。)。
 (2) E工業は,平成14年3月1日,東京地方裁判所において破産宣告を受け
,F弁護士が破産管財人に選任された。
 (3) 上記破産管財人は,平成15年1月28日,破産裁判所の許可を得て,被
上告人に対し,本件転売代金債権を譲渡し,同年2月4日,上告人に対し,内容証
明郵便により,上記債権譲渡の通知をした。
 (4) D精粉は,東京地方裁判所に対し,動産売買の先取特権に基づく物上代位
権の行使として,本件転売代金債権について差押命令の申立てをしたところ,同裁
判所は,平成15年4月30日,本件転売代金債権の差押命令を発し,同命令は同
年5月1日に上告人に送達された。
 2 本件は,上記事実関係の下において,被上告人が,上告人に対し,本件転売
代金債権について支払を求める事案である。
 3 民法304条1項ただし書は,先取特権者が物上代位権を行使するには払渡
し又は引渡しの前に差押えをすることを要する旨を規定しているところ,この規定
は,抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については,物上
代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むものというべきで
ある。そうすると,【要旨】動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡
され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえ
て物上代位権を行使することはできないものと解するのが相当である。
 4 前記事実関係によれば,D精粉は,被上告人が本件転売代金債権を譲り受け
て第三者に対する対抗要件を備えた後に,動産売買の先取特権に基づく物上代位権
の行使として,本件転売代金債権を差し押さえたというのであるから,上告人は,
被上告人に対し,本件転売代金債権について支払義務を負うものというべきである。
以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。所論引用の判例(最
高裁平成9年(オ)第419号同10年1月30日第二小法廷判決・民集52巻1
号1頁,最高裁平成8年(オ)第673号同10年2月10日第三小法廷判決・裁
判集民事187号47頁)は,事案を異にし,本件に適切ではない。論旨は,採用
することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖)

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