弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 論旨第一点について。
 商法二〇六条一項(昭和二五年法律一六七号による改正前の、本件株主総会決議
当時の同条項をいう。)によれば、記名株式の移転は、取得者の氏名及び住所を株
主名簿に記載しなければ会社には対抗できないが、会社からは右移転のあつたこと
を主張することは妨げない法意と解するを相当とする。従つて、本件においては、
訴外Dが訴外Eの被上告会社の株式一〇株を譲り受けたことについて、株主名簿に
記載してないことは所論のとおりであるが、それは右譲渡をもつて被上告会社に対
抗し得ないというに止まり、会社側においては、株主名簿の書換が何らかの都合で
おくれていても、右株式の譲渡を認めて譲受人Dを株主として取り扱うことを妨げ
るものではない。そして仮に所論のとおり、会杜がDを株主名簿の記載により五〇
〇株の株主と認めてこれに株主総会招集の通知を発したものであるとしても、原審
は、証拠により、Dが昭和一八年一二月一日Eから被上告会社の株式一〇株を譲り
受け、その頃被上告会社に名義書換を請求したことを認定しているのであるから、
被上告会社が、Dを、その所有株数を何程と認めたかは別として、株主と認めてこ
れに株主総会招集の通知を発したこと及びこれに基き同人が株主総会に出頭したこ
と自体は、結局において違法ということはできない。それ故所論は採用できない。
 同第二点について。
 原審は証拠により昭和一八年一二月一日EよりDへ被上告会社の株式一〇株が譲
渡されたことを認定した上、本件株主総会当時Dは少くとも一〇株の株主であつた
ものと認めるのを相当とすると判示しているのである。それ故原判決には所論のよ
うな違法は認められない。
 同第三点、第四点について。
 原審は、本件において、株主総会の決議事項について特別の利害関係を有する株
主の株式を表決から除外する措置をとらなかつたこと、株主でない者に株主総会招
集の通知を発したこと等の違法があつたとしても、若しそのような違法がなかつた
ならば決議の結果が違つたかもしれないと推測されるような事情は、乙一号証によ
つて認めうる本件株主総会の経過、その他の証拠から見て、存在しないと認定し、
そのような場合においては、裁判所は株主総会の決議の取消請求を許容すべきでな
く、そのことは、商法二五一条が昭和二五年法律一六七号商法の一部を改正する法
律によつて削除されたと否とに拘らない旨を判示した。思うに、商法二五一条は、
昭和二五年法律一六七号商法の一部を改正する法律によつて削除されたが、それは、
従来の同条の規定が、裁判所に一切の事情の斟酌を許し、従つてその裁量権を余り
広汎に認めすぎる如く解されるおそれがあつたため削除されたものであつて、商法
二四七条によつて提起された株主総会の決議取消の訴訟において裁判所が合理的な
判断の下に右取消請求を認容するか否かを決しうることまでも否定しようとする趣
旨と解すべきではなく、たとえ株主総会招集の手続又はその決議の方法が違法であ
つても、株主総会における議事の経過その他から判断して、その違法が決議の結果
に異動を及ぼすと推測されるような事情の存在は認められないと原審の認定した本
件のような場合(原審の右認定は当審においても是認できる。)において本件請求
を棄却した原判示は正当であつて、所論は理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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