弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各訴えのうち,刈谷税務署長が平成17年2月25日付けでした原告
P1の平成14年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由が
ない旨の通知処分の取消しを求める訴えを却下する。
2別紙1取消処分目録記載の各処分及び各処分部分をいずれも取り消す。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
以下,文中に記載するもののほか,別紙2略称一覧表記載のとおり,略称を用いる。
第1請求
1A事件
(1)名古屋中村税務署長が平成17年2月15日付けでした原告P2の平成13
年分の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減額さ
れた後のもの)のうち総所得金額9689万8235円,還付金の額に相当する税額
467万3945円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,同日付
け変更決定により減額された後のもの)を取り消す。
(2)名古屋中村税務署長が平成17年2月15日付けでした原告P2の平成14
年分の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減額さ
れた後のもの)のうち総所得金額9341万2228円,還付金の額に相当する税額
203万6972円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,同日付
け変更決定により減額された後のもの)を取り消す。
(3)名古屋中村税務署長が平成17年2月15日付けでした原告P2の平成15
年分の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減額さ
れた後のもの)のうち総所得金額8222万3321円,還付金の額に相当する税額
315万4181円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,同日付
け変更決定により減額された後のもの)を取り消す。
(4)名古屋中村税務署長が平成18年6月26日付けでした原告P2の平成16
年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り
消す。
2B事件
(1)次の主位的請求及び予備的請求
(主位的請求)
刈谷税務署長が平成17年2月25日付けでした原告P1の平成14年分の所得税
に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
(予備的請求)
刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした原告P1の平成14年分の所得税
の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減額された後のも
の)のうち総所得金額5245万7039円,還付金の額に相当する税額872万9
535円を超える部分を取り消す。
(2)刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした原告P1の平成15年分の
所得税の更正処分のうち総所得金額4828万9937円,還付金の額に相当する税
額891万9583円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(3)刈谷税務署長が平成18年6月26日付けでした原告P1の平成16年分の
所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
3C事件
(1)千種税務署長が平成17年2月25日付けでした亡P3の平成13年分の所
得税の更正処分のうち総所得金額467万3676円,還付金の額に相当する税額8
20万7300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(2)千種税務署長が平成17年2月25日付けでした亡P3の平成14年分の所
得税の更正処分のうち総所得金額816万7312円,納付すべき税額80万020
0円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(3)千種税務署長が平成17年2月25日付けでした亡P3の平成15年分の所
得税の更正処分のうち総所得金額338万9999円,還付金の額に相当する税額4
3万0700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
4D事件
刈谷税務署長が平成19年6月11日付けでした原告P1の平成17年分の所得税
に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
5E事件
名古屋中村税務署長が平成19年6月12日付けでした原告P2の平成17年分の
所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
6F事件
(1)千種税務署長が,平成19年2月22日付けでした亡P3の平成16年分の
所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(ただし,平
成21年6月23日付け更正処分により減額された後のもの)を取り消す。
(2)千種税務署長が,平成19年6月19日付けでした亡P3の平成17年分の
所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(ただし,平
成21年6月23日付け更正処分により減額された後のもの)を取り消す。
(なお,原告P4は,上記(1)及び(2)の各括弧書による付記がないものをそれぞれ
主位的請求とするが,当該各請求は上記(1)及び(2)の各請求といずれも同一のものと
解されるので,掲記しない。)
第2事案の概要
1本件は,原告ら投資家が,外国信託銀行を受託者とする信託契約を介して出資
したLPS(米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法に準拠して
組成されるリミテッド・パートナーシップ)が行った米国所在の中古集合住宅の貸付
けに係る所得が,所得税法26条1項所定の不動産所得に該当するとして,その減価
償却等による損金と他の所得との損益通算をして所得税の申告又は更正の請求をした
ところ,各処分行政庁から,当該所得は不動産所得に該当せず,損益通算を行うこと
はできないとして,それぞれ,所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分又
は更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたことから,原告
らが,前記第1の請求のとおり,本件各処分の取消しを求めている事案である。
2関係法令等の定め
別紙3「関係法令等の定め」記載のとおり
3前提事実(証拠等の摘示がないものは当事者間に争いがない。以下,書証番号
は,特記しない限り枝番を含む。)
(1)本件における取引の概要等
本件における取引の概略図は,別紙図表1(本件LPS(C)について)及び別紙
図表2(本件LPS(P)について)記載のとおりであり,その具体的内容は,次の
とおりである。
ア関連会社等の概要
(ア)P5証券(P5)
P5証券は,ドイツ連邦共和国所在のP6銀行を親会社として,日本におけるP6
銀行グループの証券業務の中核を担うものとして,昭和61年に設立された。
本件において,P5証券は,原告ら投資家を含む日本人投資家との間でファイナン
シャル・アドバイザリー契約(本件各アドバイザリー契約)を締結し,投資家に対し
て投資事業プログラム「DOIT」(DualOwnershipInvestmentTactics。本件ス
キーム)の紹介及び提供等をし,その対価としての報酬を受領していた。
なお,P5証券は,平成15年,本件スキームにおける役務提供を含む資産コンサ
ルティング部門の営業をP7に営業譲渡した。
(イ)P8銀行(P8)
P8銀行は,ルクセンブルク大公国の法律に基づき設立された同国所在の法人であ
る。
P8銀行は,本件各信託契約において,受託銀行とされており,また,本件各LP
Sのリミテッド・パートナーとして,本件各GPとの間で本件各LPS契約を締結し
た。
(ウ)P9
P9は,英国領ケイマン諸島の法令に基づいて設立された同諸島所在の法人であり,
いわゆる不動産ヘッジファンドである。
P9は,本件LPS(C)のリミテッド・パートナーとしてP8銀行とともに,本件
GP(C)との間で本件LPS契約(C)を締結した。
(エ)本件GP(C)(P10)
本件GP(C)は,米国デラウェア州所在の有限責任会社である。
本件GP(C)は,本件LPS(C)のジェネラル・パートナーとして,リミテッド・
パートナーであるP8銀行及びP9との間で本件LPS契約(C)を締結した。
(オ)本件LPS(C)(P11)
本件LPS(C)は,州LPS法に基づき,本件GP(C)をジェネラル・パートナー,
P8銀行及びP9をリミテッド・パートナーとして組成された米国のリミテッド・パ
ートナーシップであり,本件建物(C)の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却
その他の処分の目的のために設立されたものである。
本件LPS(C)は,P12との間の本件売買契約(C)並びに本件売買契約,リー
ス及び共同エスクロー指示に関する契約(C)における本件建物(C)の買主であり,ま
た,本件土地賃貸借契約(C)における借主である。
(カ)P12
P12は,米国カリフォルニア州所在のリミテッド・パートナーシップである。
P12は,本件LPS(C)との間の本件売買契約(C)並びに本件売買契約,リース
及び共同エスクロー指示に関する契約(C)における本件建物(C)の売主であり,また,
本件土地賃貸借契約(C)における貸主である。
(キ)P13
P13は,米国カリフォルニア州所在のリミテッド・パートナーシップである。
P13は,本件LPS(C)に対し,本件建物(C)の購入資金として241万490
0ドルを融資している。
(ク)P14
P14は,米国デラウェア州所在の法人である(乙A全22)。
P14は,本件LPS(C)に対し,本件建物(C)の購入資金として3285万ドル
を融資している。
(ケ)P15
P15は,米国カリフォルニア州所在の法人である。
P15は,本件LPS(C)との間の本件管理契約(C)による本件不動産(C)の賃貸
に係る管理・運営業務を行う管理者である。
(コ)本件GP(P)(P16)
本件GP(P)は,米国デラウェア州所在の有限責任会社である。
本件GP(P)は,本件LPS(P)のジェネラル・パートナーとして,リミテッド・
パートナーであるP8銀行との間で本件LPS契約(P)を締結した。
(サ)本件LPS(P)(P17)
本件LPS(P)は,州LPS法に基づき,本件GP(P)をジェネラル・パートナー,
P8銀行をリミテッド・パートナーとして組成された米国のリミテッド・パートナー
シップであり,本件建物(P)の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その他の
処分の目的ために設立されたものである。
本件LPS(P)は,P18との間の本件売買契約(P)並びに本件売買契約,リース
及び共同エスクロー指示に関する契約(P)における本件建物(P)の買主であり,また,
本件土地賃貸借契約(P)における借主である。
(シ)P18
P18は,米国デラウェア州所在のリミテッド・パートナーシップである。
P18は,本件売買契約(P)並びに本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示
に関する契約(P)における本件建物(P)の売主であり,また,本件土地賃貸借契約
(P)における貸主である。
(ス)P19
P19は,米国デラウェア州所在の法人である。
P19は,本件LPS(P)に対し,本件建物(P)の購入資金として537万米国ド
ル(以下,単に「ドル」という。)を融資している。
(セ)P20
P20は,米国コロンビア特別区所在の法人である。
P20は,本件LPS(P)との間の本件管理契約(P)による本件不動産(P)の賃貸
に係る管理・運営業務を行う管理者である。
(ソ)P7(株式会社P7)
P7は,平成15年7月17日に成立され,P5証券より,同年末に,その資産コ
ンサルティング部門を営業譲渡された。
P7は,P5証券から原告ら投資家のファイナンシャル・アドバイザーとしての業
務の譲渡を受け,原告ら投資家との間で,新たにファイナンシル・アドバイザリー契
約を締結し,それに基づいて,原告ら投資家のファイナンシャル・アドバイザーに就
任した。
なお,P7は,P9の日本における子会社である。
(タ)P21銀行(P21)
P21銀行は,米国の法律に基づいて設立された米国西海岸の信託銀行である。
P21銀行は,P8銀行から本件各LPSのパートナーシップ持分を譲り受けた,
本件各新信託契約における受託者である。
イ原告ら投資家(原告P2,亡P3及び原告P1)による不動産投資事業への参
加申込み等
(ア)原告ら投資家は,P5証券との間で,P5証券をファイナンシャル・アドバ
イザーとするファイナンシャル・アドバイザリー契約(本件アドバイザリー契約(C)
[別紙図表1契約①],本件アドバイザリー契約(P)[別紙図表2契約①])を締
結するとともに,原告P2ら(原告P2及び亡P3)は本件建物(C),原告P1は本
件建物(P)をそれぞれ対象として,投資金額を1口20万ドルとする海外不動産投
資事業に関する「DOITプログラム参加申込書」に投資口数の記載及び署名をして,本
件各不動産投資事業に参加を申し込んだ。
また,原告ら投資家は,本件各不動産投資事業に投資するため,P8銀行との間で,
自己を委託者兼受益者,P8銀行を受託者とする基本信託契約である「MASTER
FIDUCIARYCONTRACT」(本件信託契約(C)[別紙図表1契約②],本件信託契約
(P)[別紙図表2契約②])を締結し,本件各信託契約に基づいて,P8銀行に開
設された口座(以下「エスクロー口座」という。)に現金資産を拠出した。
(イ)本件各信託契約の内容は,要旨,別紙4「契約②の内容の要旨」記載のとお
りである(乙A全3,36,弁論の全趣旨)。
ウリミテッド・パートナーシップ組成に係る契約等
(ア)P8銀行は,P9と共に,本件GP(C)との間で,2000年(平成12
年)12月19日付けで,本件GP(C)をジェネラル・パートナー,P8銀行及びP
9をリミテッド・パートナーとするパートナーシップ契約である「PARTNERSHIP
AGREEMENTOFP11」(本件LPS契約(C)[別紙図表1契約③])を締結し,米
国のリミテッド・パートナーシップであるP11(本件LPS(C))を組成した。
同様に,P8銀行は,本件GP(P)との間で,2002年(平成14年)3月28
日付けで,本件GP(P)をジェネラル・パートナー,P8銀行をリミテッド・パート
ナーとするパートナーシップ契約である「PARTNERSHIPAGREEMENTOFP17」(本
件LPS契約(P)[別紙図表2契約③])を締結し,米国のリミテッド・パートナ
ーシップであるP17(本件LPS(P))を組成した。
そして,P8銀行は,本件LPS契約(C)に基づき,原告P2らが拠出した現金資
産を本件LPS(C)に拠出して,本件LPS(C)のパートナーシップの持分を得,同
様に,本件LPS契約(P)に基づき,原告P1が拠出した現金資産を本件LPS(P)
に拠出して,本件LPS(P)のパートナーシップの持分を得た。
なお,パートナーシップとは,米国各州の立法で認められている2名以上の者によ
り組成される事業活動や投資活動を営むための組織形態であり,パートナーシップ債
務に対して無限責任を負い当該事業活動を代理する権利を有する2名以上のジェネラ
ル・パートナー(GP)のみによって構成されるジェネラル・パートナーシップ(G
PS)と,パートナーシップ債務に対して無限責任を負い当該事業活動を代理する権
利を有する1名以上のジェネラル・パートナー(GP)とパートナーシップ債務に対
して,原則として出資額を限度とする有限責任を負い,当該事業活動に対する限定的
な経営参加権を有する1名以上のリミテッド・パートナー(LP)によって構成され
るリミテッド・パートナーシップ(LPS)の2種類がある。
(イ)本件各LPS契約の内容は,要旨,別紙5「契約③の内容の要旨」記載のと
おりである(乙A全4,37,弁論の全趣旨)。
エ本件不動産(C)に係る契約等
本件LPS(C)は,P12との間において,2000年(平成12年)12月22
日付けで,本件不動産(C)に係る契約当事者の権利と責務に関する「BUY-SELL
AGREEMENT」(本件売買契約(C)[別紙図表1契約④]),本件土地(C)の本件LP
S(C)への賃貸借に関する「GROUNDLEASE」(本件土地賃貸借契約(C)[別紙図表
1契約⑤])を締結するとともに,同月19日付けで,本件建物(C)の本件LPS
(C)への売却等本件不動産賃貸事業(C)に関する「PURCHASEANDSALEAGREEMENT,
AGREEMENTTOLEASEANDJOINTESCROWINSTRUCTIONS」(本件売買契約,リース及び
共同エスクロー指示に関する契約(C)[別紙図表1契約⑥])を締結し,本件建物
(C)を購入するとともに,本件土地(C)を賃借した上,本件建物(C)を第三者に対し
て賃貸する事業(本件不動産賃貸事業(C))を行った。
なお,本件不動産賃貸事業(C)に関して,本件LPS(C)は,P13及びP14か
ら,本件建物(C)購入等に係る資金を借り入れ,これらの資金及び前記P8銀行から
の拠出金を本件不動産賃貸事業(C)の資金とした。
また,本件LPS(C)は,本件不動産(C)の賃貸に係る管理・運営業務について,
P15との間で,同月22日付けで,本件LPS(C)を委託者,P15を受託者とす
る管理委託契約である「MANAGEMENTCONTRACT」(本件管理契約(C)[別紙図表1契
約⑦])を締結した。
オ本件不動産(P)に係る契約等
本件LPS(P)は,P18との間において,2002年(平成14年)3月28日
付けで,本件不動産(P)に係る契約当事者の権利と責務に関する「BUY-SELL
AGREEMENT」(本件売買契約(P)[別紙図表2契約④]),本件土地(P)の本件LP
S(P)への賃貸借に関する「GROUNDLEASE」(本件土地賃貸借契約(P)[別紙図表
2契約⑤])を締結するととともに,同年12月19日付けで,本件建物(P)の本件
LPS(P)への売却等本件不動産賃貸事業(P)に関する「PURCHASEANDSALE
AGREEMENT,AGREEMENTTOLEASEANDJOINTESCROWINSTRUCTIONS」(本件売買契約,
リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)[別紙図表2契約⑥])を締結し,
本件建物(P)を購入するとともに,本件土地(P)を賃借した上,本件建物(P)を第三
者に対して賃貸する事業(本件不動産賃貸事業(P))を行った。
なお,本件不動産賃貸事業(P)に関して,本件LPS(P)は,P19から,本件建
物(P)購入等に係る資金を借り入れ,この資金及び前記P8銀行からの拠出金を本件
不動産賃貸事業(P)の資金とした。
また,本件LPS(P)は,本件不動産(P)の賃貸に係る管理・運営業務について,
P20との間で,同年3月28日付けで,本件LPS(P)を委託者,P20を受託者
とする管理委託契約である「MANAGEMENTAGREEMENT」(本件管理契約(P)[別紙図
表2契約⑦])を締結した。
カファイナンシャル・アドバイザリー業務の譲渡に係る契約等
(ア)P5証券のアドバイザリー業務がP7に譲渡されることに伴い,原告ら投資
家は,P5証券の依頼に従い,P8銀行に対し,原告P2らにつき「Re,Master
FiduciaryContract-P11」と題する書面,原告P1につき「Re,Master
FiduciaryContract-P17」と題する書面により,本件各信託契約を解約する旨
を通知し,他方,P5証券は,原告ら投資家に対し,「DOITプログラム・ファイナン
シャル・アドバイザー業務の譲渡について」と題する書面によって,原告ら投資家の
ファイナンシャル・アドバイザーとしての業務をP7に譲渡する旨を通知した。
(イ)上記(ア)に伴い,原告ら投資家は,P7との間で,新たにファイナンシャ
ル・アドバイザリー契約(本件新アドバイザリー契約(C)[別紙図表1契約⑧],
本件新アドバイザリー契約(P)[別紙図表2契約⑧])を締結し,また,P21銀
行との間で,それぞれ,新たに本件各新信託契約(本件新信託契約(C)[別紙図表
1契約⑨],本件新信託契約(P)[別紙図表2契約⑨])を締結した。
(ウ)本件各新信託契約の内容は,要旨,別紙6「契約⑨の内容の要旨」記載のと
おりである(乙A全12,45,弁論の全趣旨)。
(エ)P8銀行及びP21銀行は,原告ら投資家の指示に基づき,平成15年1
1月28日付けで,本件各LPSのパートナーシップ持分の譲渡に関する契約(別
紙図表1及び2の契約⑩)を締結し,原告ら投資家に係る本件各LPSのパートナ
ーシップ持分をP8銀行からP21銀行に譲渡した。
(オ)本件各LPSのパートナーシップ持分の譲渡に関する契約の内容は,要旨,
別紙7「契約⑩の内容の要旨」記載のとおりである(乙A全13,弁論の全趣旨)。
キ本件スキームの概要(乙A全16)
本件各信託契約は,P5証券が企画した本件スキームに基づいて,一体的に実行さ
れることが企図された複合契約の一部である。
P5証券は,本件各LPSを利用して本件各建物を賃貸することやその投資効果な
ど本件スキームの内容を説明した「"DOIT"DualOwnershipInvestmentTactics海
外不動産投資事業プログラムのご案内(基本コンセプト)」(以下「本件説明書(基
本コンセプト)」という。),「海外不動産投資事業プログラムのご案内(ハイライ
ト)」(以下「本件説明書(ハイライト)」という。)及び「CityHeights
Apartments‐予想投資損益の概略‐」(以下,「本件予想投資損益説明書」といい,
本件説明書(基本コンセプト)及び本件説明書(ハイライト)と併せて「本件各説明
書」という。)といった各パンフレットを作成し,一般個人投資家を対象に本件各不
動産投資事業への参加を勧誘し,これに応じて原告ら投資家を含む一般の個人投資家
が参加した。
(ア)本件予想投資損益説明書の記載(なお,以下では,本件不動産(C)に関す
るものとして記載するが,本件不動産(P)に関しても,その仕組み自体は基本的に
同じである。)
a本件スキームに係る出資金額
1口当たり2000万円
b本件不動産賃貸事業(C)に係る受取キャッシュ
本件土地(C)に係る地代他支払後の出資金2000万円(1口)当たりの受取キャ
ッシュは,投資期間は6ないし7年とし(2006年10月販売活動開始),7年経
過後の本件建物(C)の売却価格が購入価格から上昇しないことを前提とした場合,
2001年10月において7000円
2002年10月において9000円
2003年10月において1万2000円
2004年10月において41万3000円
2005年10月において73万9000円
2006年10月において105万0000円
2007年10月において137万3000円
であると見込まれており,その合計360万3000円が,7年間に投資者が受領す
る受取キャッシュの総額であると想定されている(乙A全16の4枚目)。
c本件不動産賃貸事業(C)に係る不動産所得
前記bと同様の条件を前提とした場合,本件不動産賃貸事業(C)に係る出資金20
00万円(1口)当たりの不動産所得(前記bの受取キャッシュから減価償却費を差
し引いた金額)は,
2001年10月において▲2102万2000円(損金)
2002年10月において▲2102万1000円(損金)
2003年10月において▲2101万8000円(損金)
2004年10月において▲2061万6000円(損金)
2005年10月において▲393万4000円(損金)
2006年10月において105万0000円(益金)
2007年10月において137万3000円(益金)
と見込まれており,その合計▲8518万8000円(損金)が,7年間における投
資家の不動産所得になると想定されている(乙A全16の4枚目)。
d7年後の本件建物(C)売却時の受取キャッシュ
本件建物(C)の売却価格が購入価格から上昇しないことを前提とした場合,本件
建物(C)売却予定時である2007年10月における出資金2000万円(1口)当た
りの本件建物(C)売却に係る受取キャッシュは541万8000円であると想定され
ている(乙A全16の4枚目)。
e投資効果
出資金額に対する「税務効果(節税額)」(下記(a))及び「税引き後受取金額」
(下記(b)))の7年間通算の合計額(手数料等支払後)が約3258万2000円で
あり,「投資効果(7年間総合)」は約163%であると想定されている(乙A全1
6の4枚目)。
(a)「税務効果(節税額)」
「税務効果(節税額)」とは,本件予想投資損益説明書4枚目の表「⑤納税想定
額」欄の合計額2350万5000円のことであり,7年間における「還付金」の合
計額から「支払」の合計額を差し引いた金額である。
この税務効果は,7年間その他の損益通算をする所得があり,かつ,還付金以上の
税額を支払うべき所得があることを前提としている。
なお,「還付金」とは,本件不動産投資事業(C)に係る損失を不動産所得の損失と
して他の所得と損益通算をした結果,我が国において原告P2らを含む投資家が負担
すべき所得税額及び住民税額の合計額と,当該損失がなかったとした場合に投資家が
負担すべき合計額との差額のことであり,「支払」とは,本件不動産投資事業(C)に
係る不動産所得の金額と本件建物(C)売却による譲渡所得の金額に対して投資家が負
担すべき所得税額及び住民税額の合計額のことである。
各年ごとの出資金2000万円(1口)当たりの納税想定額は以下のとおり想定さ
れている。
2001年10月において777万9000円(還付金)
2002年10月において1051万0000円(還付金)
2003年10月において1050万9000円(還付金)
2004年10月において1030万8000円(還付金)
2005年10月において413万5000円(還付金)
2006年10月において51万1000円(還付金)
38万9000円(支払)
2007年10月において1985万7000円(支払)
(b)税引き後受取金額
「税引き後受取金額」とは,7年間の投資期間における,本件不動産賃貸事業(C)
からの受取キャッシュ(前記b)及び7年後の本件建物(C)売却に伴う受取キャッシ
ュ(前記d)の合計額である。
本件スキームにおいては,1口2000万円の出資に対し,我が国において投資家
が本来負担すべき所得税額及び住民税額が合計2350万5000円軽減されるとと
もに,7年間における本件不動産賃貸事業(C)による現金収入360万3000円及
び7年後の本件建物(C)売却による現金収入541万8000円が得られることによ
り,合計約3258万2000円(ただし,上記金額の合計額は,3252万600
0円である。)の利益及び税負担の軽減という税効果があるものと想定されている。
f本件建物(C)の売却予想額
本件建物(C)の売却予想額としては,当初購入価格及びその150%の額がそれ
ぞれ想定されている。
(イ)本件説明書(基本コンセプト)の記載内容
本件スキームは,出資1口(2000万円)当たり,各年の不動産所得につき約2
100万円の損失を4年間生じさせることにより,各年につき税額を約1050万円
減少させ,4年間で合計4200万円の税額を減少させるものと想定されている。
ただし,このような税務効果が生じるのは,個人の適用限界税率50%(所得税3
7%,住民税13%)で,損益通算をすることができる所得がおよそ3600万円以
上ある場合とされている。
(ウ)本件説明書(ハイライト)の記載内容
本件スキームにおける税務効果コンセプトとして,「節税額単年度約1050万円,
4年間累積約4200万円」との記載がある。
(2)本件各LPSの米国租税法上の取扱い
アチェック・ザ・ボックス規則(Check-the-boxregulation)
米国では,1997年に財務省規則(米国のTreasuryregulations.)において,
チェック・ザ・ボックス規則と称される規定が定められ,ある一定の事業体は,連邦
課税上,コーポレーション(corporation)としての課税を受けるか,又はパートナ
ーシップ(partnership)としての課税を受けるかを選択できるものとされている。
すなわち,財務省規則は,信託(トラスト)に区分されるもの又は内国歳入法
(InternalRevenueCode)において別段特別の取扱いがされるもの以外の事業体を
「ビジネス・エンティティ(businessentity)」とした上(財務省規則301.7701-
2(a)),このうち,①適格事業体(eligibleentity。具体的には,連邦又は州等の
制定法によりインコーポレイティド[incorporated],コーポレーション
[corporation],ボディ・コーポレイト[bodycorporate]又は政治団体[body
politic]と規定されている事業体や保険会社など一定のコーポレーション[財務省
規則301.7701-2(b)(1)及び(3)~(8)において「corporation」として規定されている
事業体]に区分されるもの以外のビジネス・エンティティをいう。)であり,かつ,
②2人以上の構成員を有するものは,連邦課税上,コーポレーションとしての課税又
はパートナーシップとしての課税のいずれかを選択することができるとしている(財
務省規則301.7701-3(a))。
なお,2人以上の構成員を有する米国の適格事業体において上記の選択がない場合
には,デフォルト・ルール(権利不行使による原則形態へのみなし原則)として,パ
ートナーシップとしての課税を選択したものとみなされる(財務省規則301.7701-
3(b)(1)(i))。
適格事業体がパートナーシップとしての課税を選択した場合又は上記デフォルト・
ルールによりパートナーシップとしての課税を選択したものとみなされる場合には,
当該事業体は納税義務者とならず(内国歳入法701条),当該事業体の構成員が納
税義務者となる(以上につき,甲A全92ないし94)。
イ本件各LPSに対する課税
本件各LPSは,州LPS法に基づくLPSであり,信託(トラスト)に区分され
るもの又は米国法の定めに従って特別の取扱いがされるもの以外のビジネス・エンテ
ィティである。また,本件各LPSは,①財務省規則301.7701-2(b)(1)及び(3)~(8)
において「corporation」として規定されている事業体にも該当せず,②2人以上の
構成員を有するため,連邦課税上,コーポレーションとしての課税又はパートナーシ
ップとしての課税のいずれかを選択することができる適格事業体である。そして,本
件各LPSにおいては特に明示的な選択が行われていないことから,デフォルト・ル
ールにより,本件各LPSは,連邦課税上,パートナーシップとしての課税を選択し
たものとみなされている。
本件各LPSにおいては,フォーム1065(連邦パートナーシップ情報申告書。
甲A全95)及びその別表であるスケジュールK1(本件各LPSのパートナーであ
る本件各受託銀行を通じて不動産賃貸事業を営む各原告ごとのパートナー持分に関す
るもの。甲A全78)が作成されている。
以上のとおり,本件各LPSは,連邦課税上,パートナーシップとしての課税を選
択したものとみなされていることから,米国租税法上の納税義務者となっておらず,
各構成員である原告ら投資家が納税義務者となった(以上につき,甲A全81,95,
弁論の全趣旨)。
(3)課税の経緯
ア原告P2(A事件及びE事件)について
(ア)原告P2の平成13年分ないし平成15年分の所得税に係る課税の経緯は,
別表1-1記載のとおりである。
(イ)原告P2の平成16年分の所得税に係る課税の経緯は,別表1-2記載のと
おりである。
(ウ)原告P2の平成17年分の所得税に係る課税の経緯は,別表4記載のとおり
である。
イ原告P1(B事件及びD事件)について
(ア)原告P1の平成14年分ないし平成16年分の所得税に係る課税の経緯は,
別表7記載のとおりである。
なお,原告P1は,別表7記載のとおり,刈谷税務署長が平成17年2月25日付
けでした原告P1の平成14年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理
由がない旨の通知処分(原告P114年分通知処分)については,平成17年4月1
8日付けで異議申立てをし,同年8月19日付けで審査請求をした上で,平成19年
6月14日,B事件に係る訴えを提起したが,平成17年2月28日付けでされた原
告P114年分更正処分に対しては,異議申立て及び審査請求をせずに,平成21年
10月26日付けの訴えの変更申立書により,原告P114年分通知処分の取消請求
を主位的請求とし,予備的請求として原告P114年分更正処分の取消請求を追加し
た(以下,当該予備的追加的変更に係る訴えを「本件予備的追加的変更に係る訴え」
という。)。
(イ)原告P1の平成17年分の所得税に係る課税の経緯は,別表10記載のとお
りである。
ウ原告P4(C事件及びF事件)について
(ア)亡P3の平成13年分ないし平成15年分の所得税に係る課税の経緯は,別
表13記載のとおりである。
(イ)亡P3の平成16年分及び平成17年分の所得税に係る課税の経緯は,別表
16記載のとおりである。
(ウ)亡P3は,平成▲年▲月▲日死亡し,同人の妻である原告P4は,本件LP
S(C)等を通じて亡P3が行った米国不動産賃貸事業に関する一切の権利及び義務
を相続し,同事業に係る所得税について,申告,更正の請求,課税処分に対する不服
申立て,取消訴訟の提起,その他同事業に関して原告P4が有する一切の地位を承継
した(甲ハ7ないし9)。
4税額等に関する当事者の主張
被告が本件訴訟において主張する原告ら投資家の総所得金額,納付すべき税額及び
過少申告加算税の額等は,別紙8「本件各処分の根拠及び計算」記載のとおりであり,
本件の争点に関する部分を除き,計算の基礎となる金額及び計算方法に争いはない
(被告は,本件の争点に関して被告の主張が認められず,本件各LPSに係る本件各
不動産賃貸事業から生じた損益[本件各建物の貸付けに係る損益]を原告ら投資家の
各年分の所得税に関する損益通算の対象とすることとなった場合,本件各建物に係る
収入金額及び必要経費として計上することのできる数額が原告らの主張額[確定申告,
修正申告又は更正の請求の額]であることを争っていない。)。
5争点
本件の争点は,以下のとおりである。
(1)本案前の争点(B事件)
本件予備的追加的変更に係る訴えの適法性
(2)本案の争点(全事件)
本件各処分の適法性(所得税法69条1項に基づく損益通算の可否)
本件における本案の争点は,本件各処分の適法性であるところ,原告らは,本件
各信託契約を介して本件各LPSを組成し,本件各建物を取得してその貸付けを行
ったことにより,本件各建物の貸付けに係る損益は原告ら投資家の不動産所得に該
当すると主張して,本件各不動産賃貸事業から生じた損失をもって原告ら投資家の
他の所得と損益通算をして確定申告若しくは修正申告をし,又は更正の請求をして
おり,本件各処分の適法性については,原告らが主張する上記各損失の損益通算が
許されるかどうか,すなわち,本件各不動産賃貸事業から生じる損益が原告ら投資
家の不動産所得に該当するか否かが主たる争点となり,より具体的には,上記損益
が本件各LPSに帰属することなく(パススルー),不動産所得の性質を有したま
ま本件各信託契約を介して原告ら投資家に帰属するのか否かという点が問題とされ,
当該争点に関して,さらに,以下の4点が争われている。
ア本件各LPSの租税法上の法人該当性
イ本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性
ウ本件各不動産賃貸事業から生じた損益の不動産所得該当性
エ通則法65条4項の「正当な理由」の有無
6争点に関する当事者の主張の要旨
争点に関する当事者の主張の要旨は,別紙9「当事者の主張の要旨」記載のとおり
であり,その骨子は,次のとおりである。
(1)本案前の争点(本件予備的追加的変更に係る訴えの適法性・B事件)
(被告の主張の骨子)
本件予備的追加的変更に係る訴えにより取消しの対象とされている原告P114年
分更正処分は,原告P114年通知処分とは別個独立の処分であるから,不服申立て
を行った上,出訴期間内に取消訴訟を提起する必要があるところ,原告P1が当該不
服申立手続を経ていないこと及び出訴期間を徒過したことについては,正当な理由が
ない。
したがって,本件予備的追加的変更に係る訴えは不適法である。
(原告P1の主張の骨子)
原告P114年分更正処分は,同一年度の同一国税に係る原告P114年分通知処
分について異議決定及び審査請求を経て提起したその取消訴訟の係属中にされたもの
であり,その不服内容も同一であるから,原告P114年分更正処分の取消しを求め
るに当たり,司法審査に先立ち不服申立手続を経由させる合理的理由がなく,不服申
立手続を経ないことに正当な理由がある。また,当該事情を考慮すれば,原告P11
4年分更正処分の取消しを求める訴えは,出訴期間内に提起された原告P114年分
通知処分の取消しを求める訴えの時から既に提起されていたものと同視するのが相当
であり,出訴期間の経過についても,正当な理由がある。
したがって,原告P114年分更正処分の取消しの訴えは,適法である。
(2)本案の争点(本件各処分の適法性=損益通算の可否・全事件)
ア本件各LPSの租税法上の法人該当性について
(被告の主張の骨子)
(ア)我が国の租税法上,損益の帰属主体となり得る「法人」(所得税法2条1項
6号,7号,24条1項等参照)は,我が国の私法上の「法人」と同義であり,自然
人以外の者で権利義務の帰属主体となるものをいうと解される。
そこで,外国の法令によって設立された事業体が我が国の租税法上の「法人」に該
当するか否かは,具体的には,当該事業体の設立準拠法の内容のみならず,実際の活
動実態,財産や権利義務の帰属状況等を考慮した上,個別具体的に,我が国の私法に
おいて法人に認められる権利能力と同等の能力を有するか否か,すなわち,当該事業
体が,①その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有するか否か,②その名
において契約を締結し,その名において権利を取得し義務を負うなど独立した権利義
務の帰属主体となり得るか否か,③その権利義務のためにその名において訴訟当事者
となり得るか否かに基づいて判断すべきである。
(イ)本件各LPSの準拠法,本件各LPS契約の内容,実際の活動内容,財産や
権利義務の帰属状態等を見ると,特に次の事実を指摘することができる。
すなわち,本件各LPSは,権利の主体となり当事者能力を有する独立した法主体
を意味する「separatelegalentity」である(州LPS法201条(b))。しかも,
本件各LPSは,構成員である各パートナーの個人財産とは区別された独自の財産を
所有し,自ら独立して負債等を負担するなど,その事業,目的に必要なあらゆる行為
をすることができる能力を有する事業体であり(州LPS法106条(b),303条
(a),本件各LPS契約1.3条,1.5条,2.7条),現に本件各建物について,
本件各LPS名義で本件各売買契約等を締結してその所有権を取得し,本件各LPS
名義で米国の登録所に登録しているほか,本件各LPSの名義において自ら法的手続
を行う権限・能力も有する(州LPS法105条(a),本件各LPS契約1.3条)。
他方,本件各LPSの各パートナーは,本件各LPSの個別(特定)の財産に対して
何らの持分を有しない(州LPS法701条,本件各LPS契約10.15条)。さ
らに,本件各LPS契約4.5条は,州LPS法201条(b)及び701条の適用を
排除・変更するものではなく,州LPS法503条並びに本件各LPS契約4.7条
及び4.8条によっても,本件各LPSに生じたグロスの損益(収益の総額と損失の
総額)がその構成員である本件各受託銀行を介して原告ら投資家に直接帰属すること
はない。
以上の事実等に照らすと,本件各LPSは,①その構成員とは明確に区別された独
自の財産を有し,②その名において契約を締結し,権利義務の帰属主体となり,③そ
の権利義務のためにその名において訴訟当事者となり得るものといえる。
なお,LLC判決は,米国ニューヨーク州法に基づいて設立されたLLCが我が国
の私法(租税法)上の法人に該当すると判断しているところ,本件各LPSの準拠法
である州LPS法には,自身の名義で訴訟手続を行うことができる旨の規定や同法に
準拠して設立された事業体は独立した法的主体(separatelegalentity)になる旨
の規定を始め,LLCの準拠法であるニューヨーク州LLC法と同趣旨又は類似の規
定があり,そのことも,本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当することを裏
付けている。
(ウ)したがって,本件各LPSは,我が国の租税法上の「法人」である。
(原告らの主張の骨子)
(ア)被告主張の解釈(被告の主張の骨子(ア))は,①法人とされたことから生じ
た効果を述べるにすぎず,内国の事業体の場合における形式的一義的な判断とは異な
る実質判断を行う点で我が国の私法上の法人概念と相いれず,論理が破たんしており,
しかも私法上の損益の帰属主体であるか否かを一切考慮していないから,その理論的
な根拠を欠き,合理性を有しないこと,②被告が主張する基準は我が国の租税法上の
組合とされる事業体にも当てはまるもので,法人と組合とを区別する基準になってい
ないこと,③我が国においてもデラウェア州のLPSが我が国の租税法上の法人と同
等の事業体ではないとの理解が一般的であること及び本件各LPSについての米国で
の税務上の取扱いや米国のコーポレーション(corporation)との違い(損益の帰属,
組成手続等)からすれば,本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当するとの解
釈は社会通念等に反すること,④実質的には,本件各不動産賃貸事業には適用できな
かった本件措置法特例を遡及適用したものにほかならないことから,失当である。
(イ)仮に被告主張の上記解釈によって本件各LPSの法人該当性を判断したとし
ても,次の諸点に照らすと,被告主張の判断基準を充足するとはいえない。
すなわち,本件各LPSが「separatelegalentity」であること(州LPS法2
01条(b))は,我が国の民法上の組合と同じ取扱いを受けられるという程度の意味
を有するにすぎず,法人格が与えられたことを意味するものではない。また,本件各
LPSのパートナーは,パートナーシップの財産についてそのパートナーシップ割合
に等しい不可分の持分を有し(本件各LPS契約4.5条),本件各LPSの財産は
パートナー間の内部関係において特定の共有持分のない共有状態にあるから,州LP
S法701条をもって,本件各LPSが構成員の財産とは区別された独自の財産を有
するといえず,州LPS法503条並びに本件各LPS契約4.7条及び4.8条に
よれば,ある会計年度において本件各LPSに生じた損益は,パートナーシップ出資
割合に従ってその各パートナーに配分されるため,本件各LPSには当該損益が帰属
せず,我が国の民法上の組合と同様に,グロスの当該損益(収益の総額と損失の総
額)が各パートナーに(LPSにおける配当決議による配当を待たずに)直接帰属す
ることとなるから,本件各LPSが独立した権利義務の帰属主体となり得るともいえ
ない。そして,本件各LPSが訴訟当事者となる資格を有するのは,特に法律で定め
られて初めてその資格を付与されたからであり(連邦民事訴訟法17条(b)(2),同
(3)(A)),コーポレーション(corporation)と同様の意味において認められたもの
ではない。なお,ニューヨーク州LLC法上のLLCは,州LPS法上のLPSと比
べ,よりコーポレーションに近い事業体であるから,LLC判決をもって本件各LP
Sの我が国の租税法上の法人該当性を肯定することもできない。
したがって,被告主張の上記解釈によっても本件各LPSが我が国の租税法上の法
人に該当するとはいえない。
(ウ)外国の事業体が我が国の租税法上の外国法人として取り扱われるためには,
外国法人(法人税法2条4号,所得税法2条1項7号)に該当する必要があるところ,
これに該当するというためには,民法36条1項に従い,同項の外国法人であって,
商事会社に該当するものとして,認許されるものでなければならないと解すべきであ
り,その判断方法としては,①当該外国の事業体の根拠法において,その事業体がコ
ーポレーション(corporation)又はこれに準ずる「bodycorporate」,「juristic
person」その他のこれらと同等の概念(コーポレーション等)に該当すると規定され
ているか否かという内国法人の法人法定主義と同様の専ら形式的な基準により同項の
外国法人該当性を判断した上,②商行為をすることを業とする目的をもって設立され
た社団(商事会社)に当たるか否かを判断すべきである。
これを本件について見ると,①本件各LPSの根拠法である州LPS法には,これ
に基づき組成されるLPSをコーポレーション等のように権利能力及び行為能力を有
するものとして設立されたものとする旨の規定はなく(州LPS法201条(b)がこ
れに該当しないことは前記(イ)①のとおりである。),②本件各LPSは後記イ(原
告らの主張の骨子)のとおり社団でもないから,我が国の租税法上の「外国法人」に
区分けされることはない。
イ本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性について
(被告の主張の骨子)
(ア)所得税法所定の「人格のない社団」(同法2条1項8号)とは,原則として,
①団体としての組織を備え,②多数決の原則が行われ,③構成員の変更にもかかわら
ず団体そのものが存続し,④その組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理
その他団体としての主要な点が確定しているものをいうと解されるが,必ずしも上記
4要件の全てを独立して厳格に満たす必要はなく,むしろ社団性認定のための指標と
して,各要件相互の関係で柔軟に解釈され得るものというべきである。
(イ)本件各LPSは,これを組織する構成員が特定され,その管理及び運営に関
する独占的権限(本件各LPSの業務執行を代表して行う権限)が本件各GPに,そ
の解任権限がパートナーシップ持分の80%を超える持分を有する者の賛成又は同意
を条件として各リミテッド・パートナーに付与されていること等から,団体としての
組織を備え(要件①),多数決の原則が行われている(要件②)。また,本件各LP
S契約上,ジェネラル・パートナーの解任,新規パートナーの承認,リミテッド・パ
ートナーの脱退,パートナーシップ持分の譲渡が認められていること等から,構成員
の交代にもかかわらず団体が存続する(要件③)。そして,本件各LPSが構成員の
財産とは区別された独自の財産を有し,本件各LPS契約にはその管理の方法等や契
約内容の多数決による変更に関する定めがあること等から,団体としての主要な点も
確定している(要件④)。
(ウ)したがって,本件各LPSは,仮に我が国の租税法上の「法人」に該当しな
いとしても,人格のない社団(権利能力のない社団)に該当し,我が国の租税法にお
ける独立した損益の帰属主体となる。
(原告らの主張の骨子)
(ア)人格のない社団に該当するためには,被告主張に係る要件①ないし④の全て
を独立して満たす必要がある。
(イ)本件各LPSは,ジェネラル・パートナー1名とリミテッド・パートナー1
名又は2名間の契約関係が存在するにすぎず,意思決定のための内部組織を備えてお
らず(要件①),本件各LPSの管理運営・業務執行が原則的にジェネラル・パート
ナーのみにより行われることとされ(本件各LPS契約2.1条),多数決は行われ
ていない(要件②)。また,本件各LPSは,構成員が1人になるとそのまま存続で
きないことから(州LPS法101条(9),本件各LPS契約801条(3)及び(4)),
構成員の変更にもかかわらず団体が存続するとはいえない(要件③)。そして,本件
各LPSは,現在の代表から次の代表を決めるルールが設けられておらず,総会の運
営や財産の管理に関する規定もないから,正に当事者間の契約にすぎないのであって,
団体としての主要な点が確定しているとはいえない(要件④)。
(ウ)したがって,本件各LPSは,人格のない社団(権利能力のない社団)にも
該当しない。
ウ本件各不動産賃貸事業から生じた損益の不動産所得該当性について
(被告の主張の骨子)
(ア)ある所得が不動産所得に該当するためには,一般的には,納税者が,賃貸借
契約の「貸主」となり得る何らかの権利・権原(所有権,占有権等)を有しているこ
とを前提とした上で,不動産を「借主」に貸し付け,これを収益させることによって
得た対価としての性質を有するものであることを要すると解すべきである。
(イ)原告ら投資家は,本件各LPSが各リミテッド・パートナー(本件各受託銀
行)の財産と区別された独立の財産として本件各建物を所有する以上,本件各建物の
「貸主」となり得る占有権等の権利・権原を有しておらず,本件各建物を第三者に賃
貸すること等も本件各LPSが行っているから,その各リミテッド・パートナー(本
件各受託銀行)において本件各建物を第三者に貸し付け,これを収益させて対価を得
ているとはいえない。
(ウ)したがって,原告ら投資家が本件各受託銀行を介して受ける本件各不動産賃
貸事業から得た損益は,不動産所得に該当しない。
(原告らの主張の骨子)
(ア)本件各LPSが本件各不動産賃貸事業から得た所得(損益)は,不動産の貸
付けによる所得(不動産所得)に該当し,当該所得(損益)が本件各LPSに直接帰
属せず,(本件各受託銀行を介して)原告ら投資家に直接帰属する以上,原告ら投資
家に直接帰属した本件各不動産賃貸事業に係る損益が不動産所得に該当することは明
らかである。
(イ)不動産所得の意義(要件)に関する被告の主張は,明文なき要件を付加して
不動産所得の範囲を不当に狭く解釈するもので失当であるが,仮にこれによったとし
ても,①本件各LPSのリミテッド・パートナーである本件各受託銀行が本件各不動
産に固有の権利を有すること(本件各LPS契約4.5条参照),②本件各受託銀行
が本件各LPSの管理又は運営等の権限を有しないことは不動産所得の特質(規模や
業務への関与度合いに関係なくその損失と他の所得との損益通算が可能とされている
こと)からその該当性判断に影響を与えないこと等に照らして,被告主張の事情から
不動産所得の該当性を否定することはできない。
エ通則法65条4項の「正当な理由」の有無について
(被告の主張の骨子)
原告ら主張の事情は,結局法令の解釈を誤っていたというに尽きるから,これをも
って,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算
税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷にな
る場合に当たるということはできず,通則法65条4項の「正当な理由」があるとは
認められない。
(原告らの主張の骨子)
平成12年7月政府税調中期答申及び平成12年4月小委員会討議用資料等によれ
ば,米国のLPSに法人格はないという租税法立法当局等の理解が示されており,他
方,平成18年1月に至るまで外国のパートナーシップが法人に該当し得るとの公式
の解釈は示されておらず,国税不服審判所長も,同年に本件各LPSや州LPS法を
準拠法として組成されたLPSの法人該当性を否定する裁決をしていた。
以上の事情等に照らすと,原告ら投資家が本件各不動産賃貸事業から生じた損失を
原告ら投資家に直接帰属すると解し,かつ,これが不動産所得に当たるとして損益通
算を行ったことには,真に原告ら投資家の責めに帰することのできない客観的な事情
があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお原告ら投資家に過少申告加算税を賦
課することが不当又は酷になるというべきであるから,通則法65条4項の「正当な
理由」があると認められる。
第3当裁判所の判断
1本案前の争点(本件予備的追加的変更に係る訴えの適法性・B事件)について
(1)前記前提事実(3)イ(ア)記載のとおり,原告P1は,平成14年分の所得税に
ついて,平成16年3月15日付けで更正の請求をし,これに対し,刈谷税務署長は,
平成17年2月25日付けで,更正をすべき理由がない旨の通知処分(原告P114
年分通知処分)を行い,さらに,同月28日付けで申告納税額を増額する更正処分
(原告P114年分更正処分)を行った。
このように,同一年分の所得税について,更正の請求に対する更正をすべき理由が
ない旨の通知処分と申告納税額を増額する更正処分が併存する場合,いずれの処分を
取消訴訟の対象とすべきかが問題となるが,通知処分は申告納税額が正当であるとす
るものであるのに対し,増額更正処分は納付すべき税額全体に関わり,申告納税額を
正当でないものとして否定し増額の更正を加えることにより税額の総額を確定するも
のであるから,増額更正処分の内容は通知処分の内容を包摂する関係にあるといえる。
それゆえ,通知処分は増額更正処分に吸収され,後者のみが訴訟の対象となると解す
べきである。
したがって,原告P1の平成14年分の所得税についても,予備的追加的訴えの変
更により主位的請求とされた原告P114年分通知処分ではなく,予備的請求とされ
た原告P114年分更正処分が訴訟の対象とされるべきことになる。
(2)通則法115条1項は,国税に関する法律に基づく処分の取消訴訟について,
不服申立て前置の原則を採用しているところ,前記前提事実(3)イ(ア)記載のとおり,
原告P1は,原告P114年分更正処分について,異議申立て及び審査請求を行わず
に,その取消訴訟を提起しているため,かかる不服申立ての手続を経ないことにつき,
同項3号の正当な理由があるか否かが問題となる。
そこで検討するに,前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,①原告P1は,平成
15年3月17日,平成14年分の所得税について確定申告を行ったが,本件LPS
(P)を通じて行った本件不動産賃貸事業(P)から生ずる損失が原告P1の不動産
所得に当たり損益通算を行うことができるものであったとして,平成16年3月15
日,刈谷税務署長に対し,更正の請求をしたこと,②これに対し,刈谷税務署長は,
平成17年2月25日付けで,上記損失は原告P1の不動産所得には当たらないとし
て,更正をすべき理由がない旨の通知処分(原告P114年分通知処分)をしたこと,
③さらに,刈谷税務署長は,同月28日付けで,原告に対し,原告が上記確定申告に
おいて損益通算を行っていた船舶リース事業で発生した損失(船舶リース事業損失)
は損益通算の対象にならないとして,増額更正処分である原告P114年分更正処分
をしたこと,④原告P1は,原告P114年分通知処分については,所定の不服申立
て期間内に異議申立て及び審査請求をし,平成19年1月22日付けで国税不服審判
所長から審査請求を棄却する旨の裁決を受けたが,原告P114年分更正処分につい
ては,船舶リース事業損失が損益通算の対象にならないとの刈谷税務署長の判断を争
わず,異議申立て及び審査請求をしなかったこと,⑤原告P1は,同年6月14日,
原告P114年分通知処分等の取消しを求めるB事件に係る訴えを提起したこと,⑥
刈谷税務署長は,船舶リース事業損失は損益通算の対象になるとして,従来の判断を
改め,平成20年5月14日付けで,原告P1に対し,減額更正処分をしたこと,⑦
原告P1は,当裁判所から,平成14年分の所得税について取消訴訟の対象とすべき
ものは,原告P114年分通知処分ではなく,原告P114年分更正処分となるので
はないかとの釈明を受け,平成21年10月26日付け訴えの変更申立書により,原
告P114年分通知処分の取消訴訟を主位的請求とし,予備的請求として,原告P1
14年分更正処分の取消訴訟(本件予備的追加的変更に係る訴え)を追加したことが
認められる。
原告P114年分通知処分と原告P114年分更正処分は,処分としては別個のも
のであるが,前記(1)で判示したとおり,増額更正処分の内容は更正をすべき理由が
ない旨の通知処分の内容を包摂する関係にあり,上記認定の本件予備的追加的変更に
係る訴えが追加されるに至る経緯に鑑みると,原告P1は,当初から一貫して,本件
不動産賃貸事業(P)から生ずる損失は原告P1の不動産所得に当たらないとの刈谷
税務署長の判断を不服として,その救済を求めてきたことが認められるのであるから,
原告P114年分更正処分につき不服申立ての前置がされていないという形式的な理
由で,その訴えを不適法なものとすることは,原告P1に酷に過ぎるものといわざる
を得ない。他方,本件予備的追加的変更に係る訴えを適法なものと扱うことによって,
司法審査に先立ち課税庁に処分の適否につき見直しの機会を与え,紛争の自主的な解
決を図り,大量的かつ回帰的にされる課税処分について訴訟の氾濫を防ぐなどといっ
た課税処分につき不服申立て前置の原則が採用された趣旨を損なうおそれはないもの
と認められる。
以上のような事情の下では,原告P114年分更正処分につき不服申立てを経るこ
となく本件予備的追加的変更に係る訴えを提起することについて,通則法115条1
項3号の正当な理由があると認めるのが相当である。
(3)また,上記(2)で認定した事実関係の下においては,原告P114年分更正処
分の取消しを求める訴えは,原告P114年分通知処分の取消しを求める訴えが提起
された時から既に提起されていたものと同視するのが相当であり,出訴期間の遵守に
欠けるところがないものと解すべきである。
(4)以上によれば,原告P114年分更正処分の取消しを求める本件予備的追加
的変更に係る訴えは,適法である。これと異なる被告の主張は採用することができな
い。
他方,原告P114年分通知処分の取消しを求める訴え(主位的請求)については,
訴えの利益を認めることができず,不適法であるといわざるを得ない。
2本案の争点(本件各処分の適法性=所得税法69条1項に基づく損益通算の可
否・全事件)について
(1)判断の枠組み
ア我が国の租税法の規定等を通観すると,次の点を指摘することができる。
すなわち,我が国の租税法上,内国法人に対しては,原則として,各事業年度の所
得につき各事業年度の所得に対する法人税を,清算所得につき清算所得に対する法人
税を課し(法人税法5条),外国法人に対しては,原則として,各事業年度の所得の
うち所定の外国法人の区分に応じ所定の国内源泉所得に係る所得につき各事業年度の
所得に対する法人税を課するとされており(同法9条),法人には,その事業(取
引)の損益が帰属することを前提として,その所得に対する法人税が課されている。
これに対し,法人の構成員である個人については,配当所得(法人から受ける利益の
配当,剰余金の分配[出資に係るものに限る。]など所得税法24条1項所定の「配
当等」に係る所得)として所得税が課され(同法7条1項1号ないし3号),当該個
人が居住者の場合,その年中の配当等の収入金額を配当所得の収入金額とし(同法2
4条2項),これを基礎として計算した総所得金額等(同法21条1項2号,22条
2項1号)に基づき所得税の額が計算される(同法21条1項4号)など,上記所得
の帰属主体である法人から受ける利益の配当や剰余金の分配で出資に係るものによる
所得に所得税が課されている。そして,この点は,その事業体が人格のない社団等に
該当する場合においても,法人とみなされて法人税法の規定が適用されることから,
同様である(同法2条8号,3条,所得税法2条1項8号,4条)。また,法人及び
人格のない社団等のいずれにも該当しない事業体には,当該事業体の行う事業活動か
ら生じた損益について,当該事業体自体に法人税を課す旨の規定を設けていないから,
これに対する法人税として課税はされず(法人税法4条1項参照),その構成員に対
する所得税又は法人税としての課税がされることとなる(以下,当該課税を「構成員
課税」という。)。例えば,法人及び人格のない社団等に該当しない事業体の典型例
である民法667条の規定による組合(以下「任意組合」という。)の事業に係る利
益等の帰属時期やその額の計算については,所得税法及び法人税法上の明文規定はな
いものの,組合に対して,法人税は課されず,当該組合の事業の損益が構成員に帰属
することを前提として,その構成員に所得税又は法人税が課されている。
このように,ある事業体の事業から生じた収益がその構成員に分配された場合にお
いて,その構成員に対し課税がされるか否かは,第1次的には当該事業体が法人に該
当するか否かにより判断され,これに該当しない場合に人格のない社団等に該当する
か否かが問題となり,いずれも否定される場合に初めて構成員課税がされることにな
る。そして,法人と人格のない社団等とは,いずれも法人税の納税義務者でありなが
ら法人格の有無が決定的に異なり,また,人格のない社団等と任意組合のような法人
及び人格のない社団等のいずれにも該当しない事業体とは,いずれも実質的にはその
構成員の財産とは別個独立の財産を有すると解されるものでありながら,事業の損益
の帰属主体となり得る実体の有無が異なるため,法人税の納税義務者になるか否かの
結論を異にするものと解される。
上記の点に加えて,所得税及び法人税を,事業の収益の実質的な帰属主体に課すと
する実質所得者課税の原則(所得税法12条,法人税法11条)に鑑みても,ある事
業体が法人税の納税義務者になるか否か(逆にいえば構成員課税を行うか否か)の実
質は,当該事業体がその事業の損益の帰属主体となり得る実体を有するか否かにある
ということができる。
これらの点を総合すれば,我が国の租税法は,法人が,法律により,法人格を付与
されて構成員とは別個の(いわば自然人と同様の)権利義務の主体とされ,損益の帰
属すべき主体(逆にいえば,その構成員に直接その損益が帰属することが予定されな
い主体)として設立が認められたものであり,また,人格のない社団等も,法人格は
有しないものの,法人と同様に,損益の帰属すべき主体としての組織を備え存続する
団体であることから,いずれも,当該法人や人格のない社団等を法人税の納税義務者
とし,それぞれの各構成員には当該所得に対する構成員課税を行わないこととしたも
のと解される。
イそうすると,本件において,原告らが主張する本件各不動産賃貸事業から生じ
た損失の損益通算の可否,より具体的には,本件各不動産賃貸事業から生じる損益が
原告ら投資家の不動産所得に該当するか否かを判断するに当たっても,その事業主体
とされる本件各LPSが,我が国の租税法上の法人又は人格のない社団等に該当する
場合には,当該損益は,本件各LPSに帰属することになるのであって,不動産所得
の性質を有したまま直接原告ら投資家に帰属することはないというべきであるから,
当該損益の不動産所得該当性を検討するに先立ち,本件各LPSの我が国租税法上の
法人該当性や,人格のない社団等への該当性を検討すべきこととなる。
(2)本件各LPSの租税法上の法人該当性について
ア判断基準
(ア)別紙3関係法令等の定め記載のとおり,民法33条(現民法33条1項)は,
法人は民法その他の法律の規定によらなければ成立しない旨を定め,法人の成立(法
人格の付与)は,法律の定めによってのみ認められることを明らかにしている(法人
法定主義。なお,現民法33条2項は,公益を目的とする法人,営利事業を営むこと
を目的とする法人その他の法人の設立,組織,運営及び管理については,民法その他
の法律の定めるところによる旨を規定し,その趣旨を更に明確にしている。)。これ
を受けて,個々の団体の成立の根拠となる準拠法は,例えば,会社法3条が「会社は,
法人とする。」と規定し,消費生活協同組合法4条が「消費生活協同組合(中略)は,
法人とする。」と規定する等,当該団体に法人格を付与する場合には,これを法人と
する旨の明文の規定を設けている。
この点,我が国の租税法は,法人の意義に関して,内国法人を国内に本店又は主
たる事務所を有する法人,外国法人を内国法人以外の法人と定義するにとどまり,
法人自体の意義を定義した規定はない。
しかしながら,租税法律主義(憲法84条)の下では,課税要件の定めは明確で
なければならないこと,租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合に
は,租税法律主義や法的安定性の確保の観点から,本来的に私法上の概念と同じ意
義に解するのが相当であることをも併せ考慮すれば,我が国の租税法上の法人も,
その準拠法によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されたものをいうと
解すべきである。
すなわち,我が国の国内法に準拠して組成された事業体を租税法上の法人である
というためには,その準拠法である民法その他の法律によって法人とする旨を規定
されたものであることを要し(民法33条),他方,民法その他の法律によって法
人とする旨を規定されていない任意組合,人格のない社団等その他の事業体は,例
えそれらが民法その他の法律によって法人とする旨を規定されたものと類似した属
性を有するとしても,我が国の私法上の法人と認められる余地はない。
これに対し,民法36条1項の「外国法人」とは,外国の法令に準拠して法人と
して成立した団体,すなわち外国の法令に準拠して法人格を付与された団体をいう
と解されるから,外国の法令に準拠して組成された事業体が我が国の租税法上の法
人に該当するか否かも,基本的には,当該外国の法令の規定内容から,その準拠法
である当該外国の法令によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されてい
ると認められるか否かにより判断されるべきである。
もっとも,諸外国の法制・法体系は様々であり,我が国の「法人」概念に相当する
概念が諸外国において形成されるに至った沿革や背景事情等も多様であると考えられ
ることから,当該外国の法令の規定内容をその文言に従って形式的に見るだけでは,
当該外国の法令において当該事業体を法人とする(当該事業体に法人格を付与する)
旨が規定されているのかどうか直ちに判別できない場合もあり,結局,そのような場
合も含めて,外国の法令に準拠して組成された事業体が我が国の租税法上の法人に該
当するか否かについては,より実質的な観点から,当該事業体を当該外国法の法令が
規定する内容を踏まえて我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体(その構成員に
直接その損益が帰属することが予定されない主体)として設立が認められたものとい
えるかどうかを検証する必要があり,この点が肯定されて初めて,我が国の租税法上
の法人に該当すると解すべきである。
(イ)被告は,外国の法令によって組成された事業体が我が国の租税法上の「法
人」に該当するか否かは,具体的には,当該事業体の設立準拠法の内容のみならず,
実際の活動実態,財産や権利義務の帰属状況等を考慮した上,個別具体的に,我が
国の私法において法人に認められる権利能力と同等の能力を有するか否か,すなわ
ち,当該事業体が,①その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有するか
否か,②その名において契約を締結し,その名において権利を取得し義務を負うな
ど独立した権利義務の帰属主体となり得るか否か,③その権利義務のためにその名
において訴訟当事者となり得るか否かに基づいて判断すべきである旨主張する。
しかしながら,被告が法人該当性の判断基準として主張する上記①ないし③の点
は,いずれも法人格が付与されることによって認められる法人の属性にすぎず,こ
れらを満たせば法人に該当するというその立論に法的な根拠はないといわざるを得
ない。殊に,独立した権利義務の主体となることが認められるのが正に法人なので
あるから,法人該当性の判断基準として上記②の基準を掲げるのは,それ自体基準
として不合理であるといわなければならない。また,被告の主張によれば,外国の
事業体についてのみ,その準拠法上の法人格の有無という画一的な基準によること
なく,個別具体的な実質判断を行うこととなり,内国法人の場合の判断基準と相違
する結果となるから,法的安定性の観点からも許容できない。
したがって,被告が主張する上記判断基準は採用することができない。
(ウ)以上によれば,本件各LPSが我が国の租税法上の法人に該当するか否かに
ついては,前記(ア)のとおり,基本的には,当該外国の法令の規定内容から,その準
拠法である当該外国の法令によって法人とする旨を規定されていると認められるか否
かという観点からこれを検討し,さらに,より実質的な観点から,当該外国の法令が
規定する内容を踏まえて,当該事業体が我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体
として設立が認められたものといえるかどうかを検証するのが相当であると解される。
イ本件各LPSの準拠法(州LPS法)の概要
前記前提事実及び証拠(甲A全84,乙A全25)及び弁論の全趣旨によれば,本
件各LPSは,州LPS法その他のデラウェア州の法律に準拠する本件各LPS契約
に基づいて組成されたものであると認められるところ,州LPS法の概要は以下のと
おりであると認められる(なお,邦訳に争いがあるものは,本文に被告主張の邦訳を
記載し,原告ら主張の邦訳を注記した。)。
(ア)定義
aジェネラル・パートナーとは,パートナーシップ契約に基づきLPSのジェネ
ラル・パートナーとして認められ,かつ,LPS証明書又は(必要とされる場合に
は)LPSの成立のよりどころになる類似の法律文書で指名された者を意味する(1
01条(5))。
bリミテッド・パートナーとは,301条に基づき,LPSのリミテッド・パー
トナーと認められた者を意味する(101条(8))。
cLPSとは,デラウェア州法の下で2人以上の者によって組織され,かつ,1
名以上のジェネラル・パートナーと1名以上のリミテッド・パートナーで構成された
リミテッド・パートナーシップを意味し,更にデラウェア州法の下では,リミテッ
ド・ライアビリティ・リミテッド・パートナーシップを含むものとする(101条
(9))。
dパートナーとは,リミテッド・パートナー又はジェネラル・パートナーを意味
する(101条(11))。
eパートナーシップ契約とは,LPSの業務及び営業に関するパートナー全員の
書面又は口頭による合意を意味する(101条(12))。
fパートナーシップ持分(PartnershipInterest)とは,LPSの損益に対して
各パートナーが保有する持分及びLPSの資産(partnershipassets)の分配を受け
る権利をいう(101条(13))。
g者(Person)とは,自然人,(無限責任又は有限責任を問わない。)パートナ
ーシップ,LLC,信託,財団,社団(corporation),企業,受託者,受取人又は
その他の個人若しくはエンティティ(entity)であって本人又はその代理人の資格を
有するものを意味する(101条(14))。
(イ)訴状・召喚状の送達
LPSに対する訴状・召喚状は,LPSの経営代理人,総代理人若しくはジェネラ
ル・パートナー等に対して直接写しを手渡すことにより,又は,これらの者のデラウ
ェア州内の住居等に送付することにより,送達されたものとみなされる(105条
(a))。
(ウ)認可事業の性格及び権限
aLPSは,デラウェア州法第8編コーポレーション法の126条に規定されて
いる保険担保権を発行する事業,保険リスクを引き受ける事業及び銀行業を除き,営
利目的か否かを問わず,いかなる合法的な事業,目的又は活動をも実施することがで
きる(106条(a))。
bLPSは,本章(デラウェア州法第6編第17章,すなわち州LPS法。以下
同じ。)若しくはその他の法律又は当該LPSのパートナーシップ契約により付与さ
れた全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限(当該LPSの事業,
目的,活動の実行,促進及び達成のために必要又は好都合な権限や特権を含む。)を
保有し,それを行使することができる(106条(b))。
(エ)LPS証明書
aLPSを設立するためには,1名以上の者(persons)(ジェネラル・パート
ナーの合計数を下回らない数とする。)がLPS証明書を履行(作成・登録の意味と
解される。)しなければならない。LPS証明書には次の事項を記載し,州務長官登
録局に登録するものとする(201条(a))。
(a)LPSの名称
(b)登録された事務所の所在地及び本編の104条によって記載が義務付けられ
ている訴状・召喚状の送達のための登録代理人の名称及び住所
(c)各ジェネラル・パートナーの名称,事務所若しくは居住地の住所又は郵送用
の住所
(d)パートナー全員がLPS証明書に記載するものと決定したその他の事項
bLPSは,最初のLPS証明書が州務長官登録局に登録された時点又はLPS
証明書に記載された(当該登録後の)日付にて設立される(formed(注)「組成され
る」)ものとし,いずれの場合においても,本項の要件を完全に満たすものでなけれ
ばならない。本章に基づき組織されたLPSは,独立した法的主体(separatelegal
entity)となり,その独立した法的主体(separatelegalentity)としての地位は,
当該LPSのLPS証明書が解除されるまで継続する(201条(b))。
cLPS証明書が州務長官登録局に登録されているという事実は,当該パートナ
ーシップがLPSであることを通告するものであるとともに,本編の201条(a)(1)
ないし(3)(上記a(a)ないし(c))及び202条(f)においてLPS証明書への記載が
義務付けられている全ての事実並びに本編の218条(b)においてLPS証明書への
記載が認められている事実が記載されているということを通告するものである(20
8条)。
(オ)リミテッド・パートナーの資格付与
LPSの設立(theformation)に関連し,主体(person)は,次の事象のうちい
ずれか遅い方が発生した時に,LPSのリミテッド・パートナーとしての資格を付与
される(301条)。
aLPSの設立(theformation)
bパートナーシップ契約に規定された日時。パートナーシップ契約に規定されて
いない場合には,LPSの記録に当該者(person)への資格付与が記載された時
(カ)リミテッド・パートナーの第三者に対する責任
リミテッド・パートナーは,自己がジェネラル・パートナーでもある場合又はリミ
テッド・パートナーとしての権利や権限の行使に加えて当該事業の経営管理に関与し
ている場合を除き,LPSの債務を弁済する責任を負わない。ただし,リミテッド・
パートナーが事業の経営管理に関与する場合でも,リミテッド・パートナーの行為に
基づきリミテッド・パートナーがジェネラル・パートナーであるものと合理的に信じ
てLPSと取引をした者に対してのみ,責任を負う(303条(a))。
(キ)ジェネラル・パートナーの一般的な権限と責任
a本章又はパートナーシップ契約で規定されている場合を除き,LPSのジェネ
ラル・パートナーが有する権利や権限には,1999年7月11日時点で有効なデラ
ウェア州統一パートナーシップ法(1999年改正前の州GPS法)に規定されるパ
ートナーシップのパートナーに対する制限が適用される(403条(a))。
b本章で規定されている場合を除き,LPSのジェネラル・パートナーは,19
99年7月11日時点で有効なデラウェア州統一パートナーシップ法(1999年改
正前の州GPS法)に準拠するパートナーシップにおけるパートナーとしての責任を
当該パートナーシップ以外又は他のパートナー以外の者ら(persons)に対して有す
る(403条(b)前段)。
(ク)損益の分配
LPSの損益は,パートナーシップ契約の規定に従い,パートナー並びにパート
ナーのクラス及びグループの間で割当てが行われる(shallbeallocated)。パー
トナーシップ契約にその定めがない場合,損益は,各パートナーによって拠出され
た出資(LPSによって受領され,かつ返還されていないものに限る。)に関して
(当該LPSの記録上の)合意された価額に基づき割当てが行われる(shallbeal
located)(503条)。
(ケ)ジェネラル・パートナーの脱退
ジェネラル・パートナーは,パートナーシップ契約で特定されている事象の発生時
に,パートナーシップ契約に基づきLPSから脱退することができる。パートナーシ
ップ契約は,ジェネラル・パートナーがLPSのジェネラル・パートナーとしての地
位から脱退する権利を有しないと規定することもできる。しかしながら,パートナー
シップ契約においてLPSのジェネラル・パートナーがその地位から脱退する権利を
有しないと規定されている場合でも,ジェネラル・パートナーは,他のパートナーに
書面による通知を行うことにより,いつでもLPSから脱退することができる。ジェ
ネラル・パートナーの脱退がパートナーシップ契約の違反となる場合,準拠法の下で
適用される救済策に加え,LPSは,脱退するジェネラル・パートナーからパートナ
ーシップ契約の違反に係る損害賠償を受けることができ,当該損害賠償金によって脱
退するジェネラル・パートナーへの配当額を相殺することができる(602条)。
(コ)リミテッド・パートナーの脱退
リミテッド・パートナーは,パートナーシップ契約に特定された事象の発生時にの
みパートナーシップ契約に基づきLPSから脱退することができる。準拠法の下で別
段の定めがある場合においても,パートナーシップ契約に別段の定めがある場合を除
き,リミテッド・パートナーは,LPSの解散や清算前にLPSから脱退してはなら
ない。準拠法の下で別段の定めがある場合においても,パートナーシップ契約は,パ
ートナーがLPSに対する自己の持分をLPSの解散や清算前に譲渡することを禁止
することができる(603条)。
(サ)脱退時の配当
脱退するパートナーは,本節に規定されている場合を除き,パートナーシップ契約
に基づき受領資格のある配当を脱退時に受領することができ,当該パートナーは,パ
ートナーシップ契約に別段の定めがある場合を除き,脱退後の合理的な期間内におい
て,当該パートナーのLPSに対するパートナーシップ持分の脱退日における公正価
額を,LPSからの配当の分配を受ける権利に基づき,LPSから受領することがで
きる(604条)。
(シ)パートナーシップ持分の性質
パートナーシップ持分は,動産(personalproperty)である。パートナーは,特
定のLPS財産(specificlimitedpartnershipproperty)に対していかなる持分
も所有しない(701条)。
(ス)パートナーシップ持分の譲渡
当該パートナーシップ契約に別段の定めがある場合を除き,①パートナーシップ持
分は,その全部又は一部を譲渡することができ,②パートナーシップ持分の譲渡は,
LPSの解散や譲受人がパートナーとなったりパートナーの権利・権限を行使したり
する資格を得るということを示すものではなく,③パートナーシップ持分の譲渡によ
り,譲受人はその損益に対する持分を有し,配当を受領し,収益,利益,損失,控除,
債権等に関して,譲受人による保有が認められているものについて保有が認められて
いる程度の割当てを受けることができる(702条(a))。
(セ)譲受人がリミテッド・パートナーとなる権利
パートナーシップ持分の譲受人(ジェネラル・パートナーの譲受人を含む。)は,
以下のいずれかの条件を満たした場合,リミテッド・パートナーになることができ
る(704条(a))。
aパートナーシップ契約にその旨規定されている場合
b全てのパートナーが同意した場合
cリミテッド・パートナーとなった譲受人は,譲渡された範囲における権利・権
限を有し,パートナーシップ契約及び本章に規定されるリミテッド・パートナーの責
任・制限が適用される(704条(b))。
(ソ)裁判所の決定によらない解散
LPSは,以下のいずれかの事由等が発生した時点で解散し,その事業は清算され
るものとする(801条)。
aパートナーシップ契約に規定された日時。当該日時がパートナーシップ契約で
規定されていない場合,LPSは永続的な存在(aperpetualexistence(注)「期限
の定めのないもの」)となる(801条(1))。
bパートナーシップ契約に別段の定めがある場合を除き,(ⅰ)LPSのジェネラ
ル・パートナー全員及び(ⅱ)LPSのリミテッド・パートナー又はリミテッド・パー
トナーの複数のクラス若しくはグループが存在する場合にはそのクラス別若しくはグ
ループ別の賛成投票若しくは書面による同意がある場合(801条(2))
cジェネラル・パートナーが脱退した場合(ただし,脱退の時点で別のジェネラ
ル・パートナーが少なくとも1名存在し,残存するジェネラル・パートナーによって
事業が続行されることがパートナーシップ契約で認められ,当該パートナーがその続
行を行う場合等を除く。)(801条(3))
dリミテッド・パートナーが存在しなくなった場合(ただし,最後のリミテッ
ド・パートナーが脱退する原因となった事象の発生時より90日以内又はパートナー
シップ契約で定められた期間内に,最後のリミテッド・パートナーの代理人及び全て
のジェネラル・パートナーが,書面又は投票により,LPSの事業を継続することに
同意し,最後のリミテッド・パートナーが脱退する原因となった事象の発生日をもっ
て当該リミテッド・パートナーの代理人,被任命者又は被指名者を当該LPSのリミ
テッド・パートナーとして迎え入れることに同意した場合等の条件を満たした場合を
除く。)(801条(4))
(タ)裁判所の決定による解散
パートナーシップによる申立て又はパートナーのための申立てに基づき,衡平裁判
所は,パートナーシップ契約を遵守した形での事業継続が合理的に不可能であると判
断した場合,当該LPSを解散する旨の判決をすることができる(802条)。
(チ)パートナーシップ契約の構築と適用
契約における自由原則及びパートナーシップ契約の執行可能性に最大限の効果を与
えるのが本章の狙いである(1101条(c))。
(ツ)州GPS法等の準用
本章に規定されていないいかなる事例も,1999年7月11日時点で有効な(in
effect)デラウェア州統一パートナーシップ法(1999年改正前の州GPS法),
コモン・ロー及び衡平法(商事法を含む。)に準ずるものとする(1105条)。
ウ州LPS法に基づく法人該当性
(ア)上記イで認定した州LPS法の規定内容によれば,州LPS法上,州LPS
法に準拠して組成されたLPSが法人である旨を明示的に定めた規定はないが,①州
LPS法に基づき組織されたLPSは,独立した法的主体(separatelegalentit
y)となる旨規定されており(201条(b)),加えて,②LPSは,州LPS法若し
くはその他の法律又は当該LPSのパートナーシップ契約により付与された全ての権
限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限(当該LPSの事業,目的,活動の
実行,促進及び達成のために必要又は好都合な権限や特権を含む。)を保有し,それ
を行使することができ(106条(b)),③パートナーは,特定のLPS財産(speci
ficlimitedpartnershipproperty)に対していかなる持分も所有しない(701
条)旨も規定されている。
そこで,以下では,そのような州LPS法201条(b)の規定等をもって,州LP
S法がこれに準拠して組成されたLPSを法人とする旨を定めたものと解することが
できるのか否か,とりわけ,州LPS法201条(b)の規定が独立した法的主体とす
る「separatelegalentity」が,法人を意味する概念であると解されるのか否かと
いう点を中心として,検討する。
(イ)一般に,租税条約は,各締結国の租税法規やその前提となる私法上の法制度
の異なることを考慮した上で,各締結国の公用語によりそれぞれ正文が作成されるも
のであるから,租税条約の正文で同一概念を指すものとして用いられた各締結国の公
用語による概念は,特段の事情がない限り,同義であると解するのが相当である。日
米租税条約は,かかる租税条約として,日本国政府と米国政府との間で,所得に対す
る租税に関し,二重課税を回避し,脱税を防止することを目的として締結された条約
であって,日本国については所得税及び法人税に適用されるものであり(2条1項),
我が国の所得税法及び法人税法を中心とする租税法の一環をなす法規範であるから,
日米租税条約で用いられた法概念は,その意義が我が国の所得税法や法人税法と異な
ることが留保されているなどの特段の事情がない限り,所得税法及び法人税法上の概
念と同義であると解される。
しかして,日米租税条約3条1項(e)及び(f)並びに日米租税条約の議定書2項は,
法人等の意義について,別紙10記載のとおり規定している(顕著な事実。なお,下
線部が該当部分である。)。
上記の日米租税条約等の規定内容を見る限り,我が国の租税法上の「法人」という
概念(なお,この概念につき私法上の「法人」と同じ意義に解すべきことは,前記ア
で説示したとおりである。)に該当する米国の概念は「company」,我が国の租税法
上の「法人格を有する」という概念に該当する米国の概念は「corporate」であると
いうべきであり,他方,米国の「entity」という概念は,我が国における租税法上の
「団体」という概念に相当し,米国の「partnership」という概念は,「組合」を意
味し,我が国における租税法上の「法人」に含まれないというべきである。そして,
上記規定について,その意義が我が国の所得税法や法人税法と異なることが留保され
ているとは認められない。
したがって,米国において,我が国の租税法上の「法人」に相当する概念は,「co
mpany」や「corporation」であると解することができる。
(ウ)また,前記前提事実(2)のとおり,米国の財務省規則においても,連邦税の
課税上,ビジネス・エンティティ(businessentity)について,コーポレーション
(corporation)とパートナーシップ(partnership)に区分した取扱い(前者につい
ては事業体課税,後者については構成員課税)を定めており,コーポレーションとさ
れるものとして,連邦又は州の制定法に基づき組織されたビジネス・エンティティで,
その法律がその事業体をインコーポレイティド(incorporated)として,又はコーポ
レーション,ボディ・コーポレート(bodycorporate)として記述し,言及するもの
が定められており(財務省規則301.7701-2(a),(b)),それ以外のビジネス・エン
ティティで2人以上の構成員を有するものは,コーポレーションとしての課税を選択
しない限り,パートナーシップとして構成員課税がされるもの(当該事業体は納税義
務者とならない。)とされている。
さらに,証拠(甲A全65)によれば,米国の連邦民事訴訟法においても,団体が
訴え又は訴えられる能力について,①コーポレーション(corporation)と②パート
ナーシップ(partnership)その他の法人格なき団体(otherunincorporatedassoci
ation)とで分けて規律されていることが認められる。
このように,米国の他の法令においても,法人をコーポレーション(corporatio
n),インコーポレイティド(incorporated)やボディ・コーポレート(bodycorpor
ate)とし,法人格のない団体の典型としてパートナーシップ(partnership)が掲げ
られているのであり,かかる点からも,我が国の租税法上の法人と同義である米国の
概念等を上記(イ)のように解する相当性を肯定することができるというべきである。
(エ)他方,州LPS法201条(b)の「separatelegalentity」という概念につ
いては,次の諸点に照らすと,少なくとも我が国の租税法(私法)上の法人という概
念とは同一の概念であると認めることはできないというべきである。
a「separatelegalentity」又は「entity」の用語等の州LPS法等における
使用状況について
(a)米国では,州LPS法の改正前の規定やその他の法令の各規定において,「s
eparatelegalentity」又は「entity」の用語等が次のとおり使用されている。
ⅰ州LPS法
1987年に開始した統一州法委員会全国会議(NCCUSL)での1914年統
一GPS法の修正の検討状況等を踏まえ,1990年,州LPS法の改正が行われた
が,同年改正後の州LPS法201条(b)は,「本章に基づき組成されたLPSは,
「separatelegalentity」となり,その「separatelegalentity」としての地位は
LPS証明書のLPSによる解除まで継続する」旨を規定している(甲A全90,乙
A全25)。
ⅱ1994年改訂統一GPS法
1994年改訂統一GPS法201条(a)は「Apartnershipisanentitydistin
ctfromitspartners.(パートナーシップは,そのパートナーとは別個の事業体(e
ntity)である。)」旨を規定している(甲A全90,乙A全83)。
ⅲ州GPS法
1999年改正後の州GPS法(1999年7月12日施行)201条(a)は,「A
partnershipisaseparatelegalentitywhichisanentitydistinctfromits
partnersunlessotherwiseprovidedinastatementofpartnershipexistence
andinapartnershipagreement.(パートナーシップは,パートナーシップ存続証
明書又はパートナーシップ契約で別途規定されない限り,パートナーとは別個の独立
した「separatelegalentity」である。)」旨を規定している(乙A全77)。
ⅳ2001年改訂統一LPS法
2001年改訂統一LPS法104条(a)は,「Alimitedpartnershipisanent
itydistinctfromitspartners.(LPSは,そのパートナーとは別個の事業体(e
ntity)である。)」旨を規定している(乙A全88)。
ⅴ統一法人格なき非営利団体法(theUniformUnincorporatedNonprofitAssoc
iationAct)
統一法人格なき非営利団体法では,①非営利団体(anonprofitassociation)
は,その構成員から別個の「legalentity」であると定められ,また,②法人格の
ない協同組合(acooperativethatisnotincorporated)は,不動産及び動産の取
得,保有,担保提供,及び移転の目的において,その構成員とは別個の「legalenti
ty」であり,不動産又は動産の財産権又は持分を自らの名義により取得,保有,担保
提供,又は移転することができるとされている(甲A全67,68)。
ⅵデラウェア州法(DelawareCode)3801条(g)(2)
デラウェア州法(DelawareCode)3801条(g)(2)は,「制定法上の信託(Statu
torytrust)とは,本節の3810条に従い信託証書の届出がなされた法人格なき団
体を意味する。かかる法人格なき団体は組織前又は組織後において制定法上の信託で
あり,かつ『separatelegalentity』でなければならない。」旨を規定している
(甲A全70)。
(b)以上のような州LPS法等の各規定に関し,本件全証拠によっても,「separ
atelegalentity」又は「entity」とされたものが「company」,「corporation」,
「bodycorporate」と同様に取り扱われる旨の規定等の存在を認めることはできない。
b州LPS法の制定経緯等について
(a)証拠(甲A全38,41,54,57,60,61,90,乙A全87)及
び弁論の全趣旨によれば,①パートナーシップ,特にその原型であるGPSは,複数
の者が,営利の目的で金銭,労力等を出資して事業を行うことを目的として,当事者
間の合意のみによって成立し,当事者相互間の契約に関するコモン・ロー上の権利に
のみ依拠するものであり,本質的に契約関係である点において,当事者間の合意のみ
によっては成立しないコーポレーション(corporation)とは異なること,②かかる
GPSは,英米法のコモン・ローの下では,パートナーから別個独立の事業体(enti
ty)ではなく(別個の法律上の存在を有さず),複数の人(者)からなるグループ内
の契約そのものであって,単なるパートナーの集合体にすぎないとされ(集合体理論
(aggregatetheory)),伝統的に,エイジェンシー(agency(代理))の延長とし
て,どの組合員も他の組合員の代理人であるという形で把握されており,構成員から
独立した法人格を有しないものとされてきたこと,③これに対し,LPSは,元来,
英米法(コモン・ロー)には存在せず,大陸法に倣って,1907年に英国で,19
16年に米国で立法によって導入された制定法の産物とされているものの,LPSに
関する統一法である1916年統一LPS法は,当初から,GPSに関する1914
年統一GPS法と連結され,1914年統一GPS法の適用を前提とするものとして
提案されたものであり,そこでは,LPSについて,1916年統一GPS法及びリ
ミテッド・パートナーシップ契約で修正される点を除き,1914年統一GPS法に
基づくパートナーシップであり,そこに新たな地位(リミテッド・パートナー)が導
入されただけのものであると規定されていること,④そのため,LPSは,GPSと
の連続性・同質性を有するものであり,無限責任を負うジェネラル・パートナーに加
えて有限責任のリミテッド・パートナーを導入する点に主眼があるとの意見も提出さ
れていること(アレン教授意見書参照)などが認められ,かかる州LPS法の制定経
緯等を踏まえると,LPSの本質は契約関係であることが分かる。
また,州LPS法の規定内容を見ても,①GPSに関するデラウェア州法である州
GPS法(1999年改正前のもの)と同一法典内の別章として定められ,当該州G
PS法の多数の条文が準用されていること(例えば,ジェネラル・パートナーのパー
トナーシップ債務に関する連帯責任等の権限及び責任に関する準用規定である州LP
S法403条(a),(b),一般的な準用規定である州LPS法1105条等),②州L
PS法1101条(c)において,州LPS法の方針が契約自由の原則とパートナーシ
ップ契約の執行可能性を最大限に尊重することであることが明示的に規定されている
こと(なお,同条に関しては,同法の立法者は,LPSの本質はパートナー間の契
約・合意であるから,パートナーシップ契約をその条項に従い執行することが州LP
S法の根本的な方針であるべきものと結論付けていたとの解説もある[甲A全41参
照]。),③LPSに係る事項及び事業の運営に関するパートナー間の合意がリミテ
ッド・パートナーシップ契約(Partnarshipagreement)とされ(州LPS法101
条(12)),ジェネラル・パートナーの脱退が原則的な解散事由とされていること(州
LPS法801条(3))など,LPSが本質的に契約関係であることを前提とした条
項が規定されている。
そして,州LPS法201条(b)の規定等に関しては,①GPS及びLPSに関す
る統一法及び各州法には,パートナー間の契約関係であるというパートナーシップの
本質を前提としつつ,法的安定性を求めて組成されたパートナーシップの存在に理論
的な裏付けを付与し,ビジネスの世界においてパートナーシップが事業体(entities)
のように取り扱われる程度を反映し,分析を簡潔にするため,事業体モデル(entity
model)に基づく規定が置かれるようになったが,集合体アプローチ(aggregateap
proach)も,例えばパートナーの個人責任等の一定の目的との関係ではなお存続して
いる(甲A全42,乙A全83),②パートナーシップは,財産の譲渡を容易にし,
責任財産の順位を決め,個々のパートナーが関与する直接的影響に対して事業運営を
保護する等の一定の目的との関係ではlegalentityとして,また,ある目的におい
ては人の集合体(anaggregateofpersons)としてみなされる混合型の組織(ahyb
ridorganization)である(甲A全62),③州LPS法201条(b)の「separate
legalentity」との文言は,LPSがジェネラル・パートナーとは区別されたもので
あることを意味するが,この中の「separate」という語には,何ら法的な重要性はな
く,1976年改訂統一LPS法及び2001年改訂統一LPS法のような「パート
ナーとは異なる事業体(entitydistinctfromitspartners)」との文言や,「リ
ーガル・エンティティ(legalentity)」又は「エンティティ(entity)」との文言
が使用されていたとしても,全く同じで意味あったと考えられる(アレン教授意見
書),といった米国の法学者の見解等も存する。
以上によれば,州LPS法に基づいて組成されたLPSは,本質的にその性質上パ
ートナー間の契約関係であるといえ,コーポレーション(corporation)と同一の機
能を有するとか同義であるとは解することができないというべきである(アレン教授
意見書,ラムザイヤー意見書参照)。
c州LPS法701条について
(a)証拠(乙A全76,77)によれば,州LPS法1105条により州LPS
法に準用され得る1999年改正前の州GPS法1525条(a)は,パートナーは,
パートナーシップの所有者として有する特定のパートナーシップ財産につき,他のパ
ートナーとの共同所有者である旨規定しているのに対し,同改正後の州GPS法20
3条は,パートナーシップが取得した資産はパートナーシップの資産であり,パート
ナーの個人資産ではない旨を規定しており,州LPS法においては,上記1525条
(a)と同様の規定やLPSが所有権の帰属主体となり得る旨の明文規定が存在せず,
前記イ(シ)の701条の規定のとおり,特定のLPS財産に対するパートナーの持分
のみが否定されていることが認められる。
そうすると,州LPS法701条は,任意組合(民法668条)における「組合財
産」と同様に(民法676条は,任意組合の目的達成のために利用され,又は組合債
権者のための責任財産となるべき組合財産について,一部の組合員による組合財産に
対する持分の処分により組合員以外の者の持分が生じたり,これが分割されたりすれ
ば,組合財産としての意義が失われ,組合事業の遂行に支障をきたすため,組合財産
についてその持分の処分や分割請求を禁止・制限している。),LPSの事業遂行の
用に供される特定のLPS財産について,パートナーが合有的な共同所有者となるこ
とを承認しつつ,パートナーが特定のLPS財産に対する持分の処分や分割請求等を
行うことを禁止する趣旨の規定と解する余地がある。
(b)また,我が国の私法上の法人に関しては,法人の所有する特定の財産につい
て,その構成員間の合意により特定の構成員が持分を有するとの法律効果を生じさせ
ることは,その構成員の間で利益になるとしても,およそ法律上予定されていないが,
被告が自己の主張根拠として提出したモリス回答書を見ると,州LPS法201条
(b)及び701条の規定にかかわらず,LPSのパートナーらの間で有益であるとみ
なされる状況があるときは,デラウェア州の裁判所において,第三者には関係なく全
パートナー間のみの関係において修正することができるとの判断がされる可能性に言
及しており,当該意見が,被告が主張するように,極めて限定的な条件を設定した上
で述べられたものであるとしても,第三者に影響を及ぼさない範囲で,パートナー間
の合意に基づき特定のパートナーがLPSの財産につき特定の持分を所有することが
許容される余地は残されているといえる。
そうすると,仮に,州LPS法に準拠して組成されたLPSが,州LPS法201
条(b)及び701条の規定により権利の帰属主体になり得るものであるとしても,上
記のような例外が許容される余地がある以上,これをもって我が国の私法(租税法)
上の「法人」と同義であるということはできない。
(c)このように,州LPS法が「separatelegalentity」と規定するLPSにつ
いては,その特有財産について,パートナーが共同所有者となり得るとする余地(1
105条,1999年改正前の州GPS法1525条)や,LPSのパートナー間の
合意により州LPS法201条(b)及び701条の規定の適用を排除してこれと異な
る法律効果を生じさせることを許容する余地が残されているのであるから,我が国の
租税法(私法)上の法人とは,異なる法律効果を許容するものというべきである。
d小括
以上のとおり,①日米租税条約では,「entity」が我が国の租税法上の「団体」と
同一概念とされている上,「separatelegalentity」又は「legalentity」という
概念は,州LPS法以外の米国内の法律において,法人格のない協同組合(acooper
ativethatisnotincorporated)や制定法上の信託(Statutorytrust)といった
ものにまで用いられていること,②州GPS法で規定されている「separatelegale
ntity」や,1994年改訂統一GPS法や2001年改訂統一LPS法で規定され
ていた「anentitydistinctfromitspartners」は,そもそも集合体理論を基礎と
していたパートナーシップに事業体理論が一部取り入れられたこと(混合型の組織
(ahybridorganization)であること)を反映するものにすぎず,州LPS法に準
拠して組成されたLPSは,州GPS法に準拠して組成されたGPSと同様,その本
質はパートナー間の契約関係であり,コーポレーションとは別個の機能を有するもの
と解されること,③州LPS法における「separatelegalentity」は,我が国の租
税法(私法)上の法人とは異なる法律効果を許容されていることなどの諸点を併せ考
慮すれば,州LPS法201条(b)の「separatelegalentity」は,LPSがその構
成員とは別個の「団体」であることを示す概念であるが,その団体は,法人ではない
にもかかわらず,事業体理論に基づき,対外関係等の一定の範囲内で構成員とは別個
に権利を取得したり義務を負担したりするような法的取扱いが認められるという概念
であり,我が国では存在しない法概念であるといわざるを得ない。
(オ)我が国の英米法に関する文献においても,米国の州法に基づくLPSが「法
人」ではない旨の記述がされているものが多数存在する(甲A全38・202頁,甲
A全4・64頁,甲A全9,甲A全14)上,税務当局の実務家又はその経験者の税
務関係の著作にも,米国の州法に基づくLPSが「法人」ではない旨の記述がされて
いるものがある(甲A全27・141頁,甲A全75資料3)。
(カ)本件措置法特例は,平成12年4月小委員会討議用資料に「日米における事
業体に係る課税上の取扱い」としてGPSやLPSが法人格のないものの代表例とし
て分類・明記されるとともに,パートナーシップが非法人の事業組織体(unincorpor
atedorganization)であると明記され,これを踏まえて議論された平成12年7月
政府税調中期答申において,主として,GPSやLPSについて,「わが国の税制で
は,外国の事業体がその外国において私法上『法人』とされているかどうかにより,
法人課税の対象とするかどうかを判断していますが,外国の多様な事業体の中には,
その本国において私法上『法人』とはされないものの,自己の名前で取引をしている
など,その実態を見れば法人税の課税対象とすることがふさわしいものもあると考え
られます。」とした上で,これらが我が国の租税法上「法人」に当たらないことから
生起する課税上の諸問題を解消するためのルール作りを行うことが提言され,平成1
7年になって,任意組合の事業から生ずる損失を利用した租税回避行為を防止するた
めに制定されたものであるが,その規定内容を見ると,任意組合を利用して航空機リ
ース事業を行うような租税回避行為に対応するためであれば必要がないはずの,外国
における民法667条1項に規定する組合契約又は投資事業有限責任組合契約に関す
る法律3条1項に規定する投資事業有限責任組合契約に類する契約や,外国における
有限責任事業組合契約(有限責任事業組合契約に関する法律3条1項に規定する有限
責任事業組合契約をいう。)に類する契約までその適用対象としており,財務省主税
局の本件措置法特例の立案担当者が執筆した解説(甲A全16)においても,上記契
約の代表例として,米国におけるGPSやLPSが掲げられており(ただし,パート
ナーシップ契約の中にも,その事業体の個々の実態等により外国法人と認定されるケ
ースもあるとの記述もされている。),これらの点に鑑みると,本件措置法特例は,
GPS及びLPSが我が国の租税法上の法人に該当しないと解されることをも想定し
て,制定されるに至ったものと認められる。
なお,平成16年法律第34号による改正前の中小企業等投資事業有限責任組合契
約に関する法律(平成10年法律第90号。平成16年法律第34号による一部改正
により題名が「投資事業有限責任組合契約に関する法律」に改正された。)は,米国
の有限責任組合制度を参考にしたものとされるが,同法に基づいて成立する組合は,
「法人」とされていない(甲A全10参照)。また,平成17年には,共同で営利を
目的とする事業を営むための組合契約であって,組合員の責任の限度を出資の価額と
するものに関する制度を確立することにより,個人又は法人が共同して行う事業の健
全な発展を図り,もって,我が国の経済活力の向上に資することを目的とする有限責
任事業組合契約に関する法律(平成17年法律第40号)が制定されているところ,
同法は,英米法におけるリミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ(LLP)
をモデルにしているとの指摘がされているが,同法3条1項の有限責任事業組合契約
によって成立した組合(有限責任事業組合)も,「法人」とはされていない(甲A全
12参照)。
(キ)以上の諸点を総合すると,州LPS法がこれに準拠して組成されたLPSを
法人とする旨を定めたものと解することはできない。
エ実質的観点からの検証
(ア)上記ウのとおり,州LPS法がこれに準拠して組成されたLPSを法人とす
る旨を定めたものと解することができない以上,州LPS法に準拠して組成された本
件各LPSも,我が国の租税法上の法人であるとは認め難いというべきであるが,念
のため,本件各LPSが,実質的に見て,我が国の租税法上の法人と同様に損益の帰
属すべき主体として設立が認められたものといえるか否かについて検証する。
(イ)前記前提事実,前記イの州LPS法の概要並びに後掲各証拠及び弁論の全趣
旨によれば,①州LPS法に準拠して組成されるLPSは,1名以上のジェネラル・
パートナー及び1名以上のリミテッド・パートナーにより構成され(101条(9)),
州LPS法若しくはその他の法律又は当該LPSのパートナーシップ契約により付与
された全ての権限及び特権並びにこれらに付随するあらゆる権限を保有し,これを行
使できるとされているところ,そのうち,ジェネラル・パートナーの権限や責任等に
ついては,1999年改正前の州GPS法に準拠したパートナーシップのパートナー
と同様,事業の運営・遂行に関与する平等の権利があり,パートナーシップの債務に
ついての連帯責任を負うとされる一方で(403条(a),(b)),リミテッド・パート
ナーは,原則として,LPSの事業の経営管理に関与せず,LPSの債務を弁済する
責任も負わないとされている(303条(a))こと,②州LPS法の主眼は,契約に
おける自由の原則及びパートナーシップ契約の執行可能性に最大限の効果を与えるこ
ととされ(1101条(c)),1999年改正前の州GPS法が広く準用されている
(1105条)こと,③LPSの損益に対して各パートナーが保有する持分をパート
ナーシップ持分(PartnershipInterest)として認め(101条(13)),LPSの損
益は,パートナーシップ契約の規定に従い,パートナー並びにパートナーのクラス及
びグループの間で割当てが行われる(shallbeallocated)とされている(503
条)ことが認められる。
そして,州LPS法に準拠して組成されるLPSのパートナーは,LPSの損益を
パートナーに帰属させる方法について完全な契約上の自由を有するとされ,LPSの
損益はそのパートナーシップ契約の定めに従い帰属する(なお,パートナーシップ契
約が何も言及しない場合を除き,州LPS法は損益の帰属方法を特定しない。)と解
されているところ(甲A全41参照),本件各LPS契約は,いずれも,会計年度の
利益及び損失は所定の割合で各パートナーに割り当てられるものとし,「本契約で別
途定められていない限り,本パートナーシップの所得,収益,損失及び控除の全ての
項目のパートナーシップ持分割合は,利益及び損失の分配持分と同じとする。」と定
めている(4.12条(a))。
(ウ)また,前記前提事実(2)のとおり,チェック・ザ・ボックス規則により,連
邦課税上,一定のビジネス・エンティティとされるパートナーシップがコーポレーシ
ョンとしての課税を選択した場合には,パートナーシップの事業から生じた損益がパ
ートナーシップ自体に帰属することを選択したものと見ることも可能である一方,こ
のような選択がない場合には,デフォルト・ルールとして,パートナーシップとして
の課税(すなわち,パートナーシップの事業から生じた損益がパートナーに帰属する
ことを前提とする課税)を選択したものとみなされており,本件各LPSも,連邦課
税上,パートナーシップとしての課税(パートナーシップの事業から生じた損益がパ
ートナーに帰属することを前提とする課税)を選択したものとみなされている。
なお,この点,ラムザイヤー意見書によれば,LPSの損益は,州LPS法503
条に基づき,パートナーシップ契約書に定められた方法によりパートナー間で配分さ
れるが,パートナーシップ内の損益配分(profitandlossallocation)は,パート
ナーシップ契約書に従って自動的に行われるものであって,資金の移転を伴うもので
はないとされ,さらに,米国の租税法上,現在のチェック・ザ・ボックス制度が導入
される以前から,パートナーシップの事業活動により発生した損益が各パートナーの
損益になるという私法上の原則に従って,パートナーシップ(又はLPS)が納税主
体とされていなかったとの指摘もされているところである。
(エ)以上の点に加えて,本件各LPSの損益が本件各LPS自体に帰属すること
を明確に認めるに足りる法令の定めや証拠はないことに鑑みれば,本件各LPSの損
益は,州LPS法に基づく本件各LPS契約上,総額(グロス)ベースでパートナー
に直接帰属することが予定されているものと解するのが相当であり,本件各LPSが,
デラウェア州法上,当然に損益の帰属主体となるとまで認めることはできない。
(オ)他方,上記説示の点に加えて,前記前提事実により認められる本件各LPS
契約の目的や契約内容,前記ウ(エ)cで説示した州LPS法701条の解釈等をも併
せ考慮すれば,州LPS法に準拠して組成されたLPSは,実質的に見ても,パート
ナー間の契約関係を本質として,その事業の損益をパートナーに直接帰属させること
を目的とするものであると解することができる。
(カ)以上によれば,州LPS法の規定するLPSの成り立ち,組織,運営及び管
理等の内容に着目して実質的に見ても,本件各LPSは,我が国の法人と同様に損益
の帰属すべき主体(その構成員に直接その損益が帰属することが予定されない主体)
として設立が認められたものということはできない。
オニューヨーク州LLC法に関する被告の主張について
(ア)被告は,本件各LPSの準拠法である州LPS法には,LLC判決が我が国
の私法(租税法)上の法人に該当すると判断したLLCの準拠法であるニューヨーク
州LLC法と同趣旨又は類似の規定があることから,本件各LPSが我が国の租税法
上の法人に該当するといえる旨を主張する。
(イ)しかしながら,証拠(乙A全54,55)及び弁論の全趣旨によれば,そも
そも,LLC判決は,前記(2)アで述べた判断基準とは異なる見解に基づき,ニュー
ヨーク州LLC法に準拠して設立されたLLCが我が国の私法(租税法)上の法人に
該当すると判断したものであって,その判断の対象となる準拠法も異なるものである
ことが認められ,かかるLLC判決の判断内容に依拠して,本件各LPSの法人該当
性を判断することは相当ではない。
(ウ)また,証拠(乙A全91)によれば,ニューヨーク州LLC法においては,
①LLCが「separatelegalentity」である旨規定する(203条)一方,LLC
は,文脈上他の意味に解釈すべき場合を除いて,ニューヨーク州LLC法及びこの州
の法律に基づいて設立され存続する,パートナーシップ又は信託以外の,当該事業の
契約上の義務又はその他の債務に対して有限責任を持っている1名又は複数名からな
る非会社組織(unincorporatedorganazation)であると規定されており(101条
(m)),「LimitedLiabilityCompany」又はその省略形の「L.L.C.」若しくは
「LLC」という文言を含む名称を使用することを許されていること(204条(a),
(e)),②設立発起人(設立するLLCの構成員である必要はない。)による基本定
款の作成・提出を成立要件としていること(203条,207条,209条),③構
成員は,当該LLCの個別財産には一切権利を持たず(601条),当該LLCのい
かなる負債又は債務に対しても責任がないとされていること(609条(a)),④L
LCの現金又はその他の資産の分配金は,構成員の間でまた構成員の階級(もしあれ
ば)間でオペレーティング契約に従って配分するものとした上(504条),LLC
は,当該分配の時点で,構成員持分を理由とする構成員に対する負債及び債権者の償
還請求が当該LLCの特定財産に制限されている負債を除き,当該分配実施後の当該
LLCの全負債が当該LLCの資産の公正市場価額を超える範囲では,構成員に分配
を行ってはならないとされていること(508条(a)),⑤構成員又はマネージャー
によるLLCの運営や構成員会等の組織(401条~420条)に関し,基本定款に
特別の定めがない限り,当該LLCを運営する権限はその構成員に与えられ(401
条(a)),当該LLCの業務の運営等に関する投票に際しては,オペレーティング契
約に定めがある場合を除き,構成員の持分に比例して投票するものとされていること
(402条(a)),及び,オペレーティング契約に特段の定めがある場合を除いて,
LLCは年1回構成員会を開くものとされ(403条),また,基本定款に運営権を
1名又は複数名のマネージャーに与えると規定されている場合には,構成員が年に1
度当該LLCの1名又は複数名のマネージャーを任命又は選任するための投票をする
ものとし(413条(a)),そのマネージャーがLLCの代理人となり(412条(b)
(2)),基本定款に運営権を1名又は複数名のマネージャーに与えると規定していな
い場合には,各構成員がLLCの事業上LLCの代理人になる旨規定していること
(412条(a))が認められる。
これらの規定に鑑みると,ニューヨーク州LLC法のLLCは,そもそもパートナ
ーシップ以外の非会社組織とされた上,「LimitedLiabilityCompany」という「Com
pany」と類似の名称の使用が許容されるものである上,州LPS法に準拠して組成さ
れたLPSと比べて,その成り立ち,構成員の責任,組織運営等についても異なるも
のであるというべきであるから,両者の類似性を根拠とする被告の上記主張は,その
前提自体が誤っており,これを採用することはできない。
カまとめ
以上の次第で,本件各LPSは,我が国の租税法上の法人には該当しないというべ
きである。
(3)本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性について
ア租税法上の人格のない社団等については,民事実体法における権利能力のない
社団と同義であると解されるから,ある団体(事業体)が租税法上の人格のない社団
に該当するというためには,①団体としての組織を備え(要件①),②多数決の原則
が行われ(要件②),③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し(要件
③),④その組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての
主要な点が確定しているもの(要件④)でなければならないと解される(昭和39年
最判参照)。
イこれを本件各LPSについて見るに,前記認定の州LPS法及び本件各LPS
契約の内容等によれば,本件各LPSは,①本件各GPをジェネラル・パートナー,
本件各LPをリミテッド・パートナーとして,本件各LPS契約に基づき組成された
LPSであること(本件各LPS契約前文及び1.1条),②本件各LPSの管理及
び運営に関する独占的権限は,本件各GPに付与され,本件各GPには,本件各LP
Sとしての業務執行及び組織運営に係る意思決定を行い,本件各LPSを代表して本
件各売買契約を含む取引等を行う権限が与えられていること(本件各LPS契約2.
1条),③本件各LPS契約上,リミテッド・パートナーが本件各LPSの管理又は
運営に参加し,その他の本件各LPSの意思決定につき関与することは予定されてお
らず(本件各LPS契約2.1条),例外的にリミテッド・パートナーが本件各LP
Sの管理運営に参加できる場合等の定めは本件各LPS契約ではされていないこと,
④本件各LPS契約中の本件各GPの解任(2.6条)及び本件各LPS契約の変更
(10.2条)に関する規定も,ジェネラル・パートナーの解任及び契約の変更とい
う極めて限定的かつ特別な場合に一定の割合のパートナー又はリミテッド・パートナ
ーによる意思決定を認めているにすぎないことが認められる。
これらの点に鑑みると,本件各LPSは,その管理及び運営に関する独占的権限を
有する本件各GPと,その解任権限を一定の条件の下に与えられた各リミテッド・パ
ートナーで構成され,構成員の財産とは区別された独自の財産を有し,本件各LPS
契約にはその管理の方法等や契約内容の多数決による変更に関する定めがあり,本件
各LPS契約が定める限定された要件の下でパートナーの交代にもかかわらず存続す
る(州LPS法704条,本件各LPS契約6.1条,6.2条,7.2条。本件L
PS契約(P)7.4条,本件LPS契約(C)7.5条)ものではあるものの,団
体として,構成員による意思決定のための内部組織を備えているとはいえないから,
上記要件①の団体としての組織を備えていないといわなければならない。また,団体
としての組織を備えていない以上,本件各LPS契約の定めをもって,その組織によ
って代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定してい
るということもできず,上記要件④も欠いているというべきである。
ウしたがって,本件各LPSを租税法上の人格のない社団等であると認めること
はできない。
(4)本件各不動産賃貸業から生じた損益の不動産所得該当性について
ア前記(1)で述べたとおり,我が国の租税法においては,ある事業体が,法人に
該当せず,かつ,人格のない社団等にも該当しない場合には,当該事業体の行う事業
活動から生じた損益について,構成員課税が行われる(その構成員に対する所得税又
は法人税としての課税がされる)ところ,上記(2)及び(3)で述べたとおり,本件各L
PSは,法人及び人格のない社団等のいずれにも該当しないのであるから,原告らが
本件各LPSを通じて行った事業活動から生じた損益については,構成員課税が行わ
れることとなる。
イそして,所得税法26条は,不動産所得とは,不動産,不動産の上に存する権
利,船舶又は航空機(不動産等)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その他他人の
不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得に該当する
ものを除く。)をいう旨規定しているところ,前記認定の州LPS法及び本件各LP
S契約の内容によれば,本件各LPSが行った本件各不動産賃貸事業により本件各受
託銀行を介して原告らに直接帰属することとなった損益は,本件各建物を第三者に賃
貸することによって生じたものであり,本件全証拠によっても,上記損益に係る所得
が事業所得(所得税法施行令63条所定の事業から生ずる所得であり,不動産の貸付
業は当該事業から除かれている。)又は譲渡所得に該当するとは認められないもので
あるから,原告らの当該損益に係る所得は,いずれも不動産所得に該当するものと認
められる。
上記認定に反する被告の主張を採用することはできない。
ウしたがって,本件各不動産賃貸事業から生じた損益は,原告らの不動産所得に
該当するというべきである。
3本件各処分の適法性について
以上のとおり,本件各不動産賃貸事業から生じた損益(本件各建物の貸付けに係る
損益)は,原告らの不動産所得に該当するものであるから,本件各建物の減価償却費
等を必要経費として不動産所得の金額を計算し,その不動産所得の金額の計算上生じ
た損失の金額があるときは,所得税法69条1項所定の損益通算をした上,総所得金
額及び納付すべき税額を算定すべきことになるところ,当該損益通算を認めない本件
各処分は違法である。
4結論
よって,本件各訴えのうち,原告P114年分通知処分の取消しを求める訴えは不
適法であるから,これを却下し,原告P2及び原告P4の各請求並びに原告P1のそ
の余の請求はいずれも理由があるから,これらを認容することとし,訴訟費用の負担
につき,民訴法61条,64条ただし書を適用して,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
裁判長裁判官増田稔
裁判官松本明敏
裁判官山田亜湖は,差し支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官増田稔
別紙1
取消処分目録
1A事件
(1)名古屋中村税務署長が平成17年2月15日付けでした原告P2の平成1
3年分の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減
額された後のもの)のうち総所得金額9689万8235円,還付金の額に相当す
る税額467万3945円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,
同日付け変更決定により減額された後のもの)
(2)名古屋中村税務署長が平成17年2月15日付けでした原告P2の平成1
4年分の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減
額された後のもの)のうち総所得金額9341万2228円,還付金の額に相当す
る税額203万6972円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,
同日付け変更決定により減額された後のもの)
(3)名古屋中村税務署長が平成17年2月15日付けでした原告P2の平成1
5年分の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減
額された後のもの)のうち総所得金額8222万3321円,還付金の額に相当す
る税額315万4181円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,
同日付け変更決定により減額された後のもの)
(4)名古屋中村税務署長が平成18年6月26日付けでした原告P2の平成1
6年分の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
2B事件
(1)刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした原告P1の平成14年分
の所得税の更正処分(ただし,平成20年5月14日付け更正処分により減額され
た後のもの)のうち総所得金額5245万7039円,還付金の額に相当する税額
872万9535円を超える部分
(2)刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした原告P1の平成15年分
の所得税の更正処分のうち総所得金額4828万9937円,還付金の額に相当す
る税額891万9583円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分
(3)刈谷税務署長が平成18年6月26日付けでした原告P1の平成16年分
の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
3C事件
(1)千種税務署長が平成17年2月25日付けでした亡P3の平成13年分の
所得税の更正処分のうち総所得金額467万3676円,還付金の額に相当する税
額820万7300円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分
(2)千種税務署長が平成17年2月25日付けでした亡P3の平成14年分の
所得税の更正処分のうち総所得金額816万7312円,納付すべき税額80万0
200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分
(3)千種税務署長が平成17年2月25日付けでした亡P3の平成15年分の
所得税の更正処分のうち総所得金額338万9999円,還付金の額に相当する税
額43万0700円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分
4D事件
刈谷税務署長が平成19年6月11日付けでした原告P1の平成17年分の所得
税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
5E事件
名古屋中村税務署長が平成19年6月12日付けでした原告P2の平成17年分
の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
6F事件
(1)千種税務署長が,平成19年2月22日付けでした亡P3の平成16年分
の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(ただし,
平成21年6月23日付け更正処分により減額された後のもの)
(2)千種税務署長が,平成19年6月19日付けでした亡P3の平成17年分
の所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(ただし,
平成21年6月23日付け更正処分により減額された後のもの)
別紙2
略称一覧表
(関係法令等)
通則法国税通則法
措置法租税特別措置法(平成19年法律第6号による改正
前のもの)
措置法施行令租税特別措置法施行令(平成19年政令第92号に
よる改正前のもの)
負担軽減措置法経済社会の変化等に対応して早急に講ずべき所得税
及び法人税の負担軽減措置に関する法律(平成11年
法律第8号)
日米租税条約所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税
の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との
間の条約(平成16年3月30日条約第2号)
本件措置法特例措置法41条の4の2の規定による特定組合員の不
動産所得に係る損益通算等の特例
(当事者等)
原告P2ら原告P2及び亡P3
原告ら投資家原告P2,亡P3及び原告P1
各処分行政庁名古屋中村税務署長,刈谷税務署長及び千種税務署

(関係会社等)
P5証券P5
P8銀行P8(現P8)
P9P9
本件GP(C)P10
本件LPS(C)P11
P12P12
P13P13
P15P15
P14P14
本件GP(P)P16
本件LPS(P)P17
P18P18
P19P19
P20P20
P7株式会社P7
P21銀行P21
本件各受託銀行P8銀行及びP21銀行
本件各LPS本件LPS(C)及び本件LPS(P)
本件各GP本件GP(C)及び本件GP(P)
本件各LPP9及び本件各受託銀行
英国グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
米国アメリカ合衆国
(契約関係等)
パートナーシップPartnership(PS)(米国各州の立法で認められ
ている2名以上の者により組成される事業活動を営む
ための組織形態)
ジェネラル・パートナーGeneralPartner(GP)(パートナーシップにお
いて,無限責任を負い当該事業活動を代理する権利を
有する者)
リミテッド・パートナーLimitedPartner(LP)(パートナーシップにお
いて,出資額を限度とする有限責任を負い当該事業活
動に対する経営参加権を有しない者)
GPSGeneralPartnership(ジェネラル・パートナーシ
ップ。2名以上のジェネラル・パートナーのみによっ
て構成されるパートナーシップ)
LPSLimitedPartnership(リミテッド・パートナーシ
ップ。1名以上のジェネラル・パートナーと1名以上
のリミテッド・パートナーによって構成されるパート
ナーシップ)
LLCLimitedLiabilityCompany(リミテッド・ライア
ビリティ・カンパニー)
LPS証明書州LPS法201条(a)及び(b)所定の「リミテッ
ド・パートナーシップ証明書」
本件スキームP5証券が企画したDOIT(DualOwnershipInvest
mentTactics)プログラム
本件アドバイザリー契約(C)
原告P2らがP5証券との間で締結したファイナン
シャル・アドバイザリー契約
本件アドバイザリー契約(P)
原告P1がP5証券との間で締結したファイナンシ
ャル・アドバイザリー契約
本件各アドバイザリー契約本件アドバイザリー契約(C)及び本件アドバイザ
リー契約(P)
本件信託契約(C)原告P2らとP8銀行との間で締結された「MASTER
FIDUCIARYCONTRACT」と題する信託契約
本件信託契約(P)原告P1とP8銀行との間で締結された「MASTERF
IDUCIARYCONTRACT」と題する信託契約
本件各信託契約本件信託契約(C)及び本件信託契約(P)
本件建物(C)物件名「P22」の建物。通称P23
本件建物(P)物件名「P24」の建物。通称P25
本件各建物本件建物(C)及び本件建物(P)
本件土地(C)本件建物(C)の敷地
本件土地(P)本件建物(P)の敷地
本件各土地本件土地(C)及び本件土地(P)
本件不動産(C)本件建物(C)及び本件土地(C)
本件不動産(P)本件建物(P)及び本件土地(P)
本件各不動産本件不動産(C)及び本件不動産(P)
本件LPS契約(C)P8銀行,本件GP(C)及びP9との間で平成1
2年12月19日に締結された「PARTNERSHIPAGREEM
ENTOFP11」と題するLPS契約
本件LPS契約(P)P8銀行と本件GP(P)との間で平成14年3月
28日に締結された「PARTNERSHIPAGREEMENTOFP
17」と題するLPS契約
本件各LPS契約本件LPS契約(C)及び本件LPS契約(P)
本件売買契約(C)本件LPS(C)とP12との間の平成12年12
月22日付け「BUY-SELLAGREEMENT」と題する契約
本件売買契約(P)本件LPS(P)とP18との間の平成14年3月
28日付け「BUY-SELLAGREEMENT」と題する契約
本件各売買契約本件売買契約(C)及び本件売買契約(P)
本件土地賃貸借契約(C)本件LPS(C)とP12との間の平成12年12
月22日付け「GROUNDLEASE」と題する契約
本件土地賃貸借契約(P)本件LPS(P)とP18との間の平成14年3月
28日付け「GROUNDLEASE」と題する契約
本件各土地賃貸借契約本件土地賃貸借契約(C)及び本件土地賃貸借契約
(P)
本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(C)
本件LPS(C)とP12との間の平成12年12
月19日付け「PURCHASEANDSALEAGREEMENT,AGREEM
ENTTOLEASEANDJOINTESCROWINSTRUCTIONS」と題
する契約
本件売買契約,リース及び共同エスクロー指示に関する契約(P)
本件LPS(P)とP18との間の平成14年3月
28日付け「PURCHASEANDSALEAGREEMENT,AGREEMEN
TTOLEASEANDJOINTESCROWINSTRUCTIONS」と題す
る契約
本件不動産賃貸事業(C)本件建物(C)の賃貸事業
本件不動産賃貸事業(P)本件建物(P)の賃貸事業
本件各不動産賃貸事業本件不動産賃貸事業(C)及び本件不動産賃貸事業
(P)
本件管理契約(C)本件LPS(C)とP15との間で平成12年12
月22日に締結された本件不動産(C)の管理委託契

本件管理契約(P)本件LPS(P)とP20との間で平成14年3月
28日に締結された本件不動産(P)の管理委託契約
本件不動産投資事業(C)本件建物(C)を対象とした海外不動産投資事業
本件各不動産投資事業本件各建物を対象とした海外不動産投資事業
本件新アドバイザリー契約(C)
原告P2らとP7との間で締結されたファイナンシ
ャル・アドバイザリー契約
本件新アドバイザリー契約(P)
原告P1とP7との間で締結されたファイナンシャ
ル・アドバイザリー契約
本件新信託契約(C)原告P2らとP21銀行との間で締結された信託契

本件新信託契約(P)原告P1とP21銀行との間で締結された信託契約
本件各新信託契約本件新信託契約(C)及び本件新信託契約(P)
本件各LPSのパートナーシップ持分の譲渡に関する契約
P8銀行とP21銀行との間での平成15年11月
28日付けの「ASSIGNMENTOFLIMITEDPARTNERSHIP
INTEREST(P11)」と題する契約及び「ASSIGNMENT
OFLIMITEDPARTNERSHIPINTEREST(P17)」と題
する契約
(各処分)
本件各処分原告らが本件訴えで取消しを求めている本文「第1
請求」記載の各所得税の更正処分,過少申告加算税賦
課決定処分及び更正の請求に対する更正をすべき理由
がない旨の通知処分の総称
原告P2各更正処分名古屋中村税務署長が平成17年2月15日付けで
した原告P2の平成13年分ないし平成15年分の所
得税の各更正処分
原告P2各賦課決定処分名古屋中村税務署長が平成17年2月15日付けで
した原告P2の平成13年分ないし平成15年分の過
少申告加算税の各賦課決定処分
原告P216年分通知処分名古屋中村税務署長が平成18年6月26日付けで
した原告P2の平成16年分の所得税に係る更正の請
求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
原告P2各再更正処分名古屋中村税務署長が平成20年5月14日付けで
した原告P2の平成13年分ないし平成15年分の所
得税の金額を減額する更正処分
原告P2各変更決定処分名古屋中村税務署長が平成20年5月14日付けで
した原告P2の平成13年分ないし平成15年分の過
少申告加算税の各変更決定処分
原告P217年分通知処分名古屋中村税務署長が平成19年6月12日付けで
した原告P2の平成17年分の所得税に係る更正の請
求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
原告P114年分更正処分刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした原
告P1の平成14年分の所得税の更正処分
原告P115年分更正処分刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした原
告P1の平成15年分の所得税の更正処分
原告P115年分賦課決定処分
刈谷税務署長が平成17年2月28日付けでした原
告P1の平成15年分の過少申告加算税の賦課決定処

原告P114年分通知処分刈谷税務署長が平成17年2月25日付けでした原
告P1の平成14年分の所得税に係る更正の請求に対
する更正をすべき理由がない旨の通知処分
原告P116年分通知処分刈谷税務署長が平成18年6月26日付けでした
原告P1の平成16年分の所得税に係る更正の請求に
対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
原告P1再更正処分刈谷税務署長が平成20年5月14日付けでした原
告P1の平成14年分の所得税の金額を減額する更正
処分
原告P117年分通知処分刈谷税務署長が平成19年6月11日付けでした
原告P1の平成17年分の所得税に係る更正の請求に
対する更正をすべき理由がない旨の通知処分
原告P4各更正処分千種税務署長が平成17年2月25日付けでした亡
P3の平成13年分ないし平成15年分の所得税の各
更正処分
原告P4各賦課決定処分千種税務署長が平成17年2月25日付けでした亡
P3の平成13年分ないし平成15年分の過少申告加
算税の各賦課決定処分
原告P4各通知処分千種税務署長が平成19年2月22日付けでした亡
P3の平成16年分の所得税に係る更正の請求に対す
る更正をすべき理由がない旨の通知処分及び平成19
年6月19日付けでした亡P3の平成17年分の所得
税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない
旨の通知処分
(パートナーシップに係る統一法及び米国デラウェア州の制定法関係)
統一州法委員会全国会議米国のNationalConferenceofCommissionerso
fUniformStateLaws(NCCUSL)
1914年統一GPS法1914年に統一州法委員会全国会議が提案した統
一パートナーシップ法(UniformPartnershipAct)
1916年統一LPS法統一州法委員会全国会議が,リミテッド・パートナ
ーシップ(LPS)に関して,1916年に提案した
統一リミテッド・パートナーシップ法(UniformLimi
tedPartnershipAct)
1976年改訂統一LPS法
統一州法委員会全国会議が,1976年に1916
年統一LPS法を改訂した改訂統一リミテッド・パー
トナーシップ法(TheRevisedUniformLimitedPart
nershipAct)
2001年改訂統一LPS法
統一州法委員会全国会議が,2001年に1985
年改訂統一LPS法を改訂した後の改訂統一リミテッ
ド・パートナーシップ法
1999年改正前の州GPS法
デラウェア州が,GPSに関して,1947年に1
914年統一GPS法を基礎として一定の修正を施し
て制定したデウェア州統パートナーシップ法(Delawa
reUniformPartnershipLaw。「Chapter15.Partne
rship,Title6oftheDelawareCode」を指す。)
州GPS法デラウェア州が,1999年,1994年改訂統一
GPS法を基礎として一定の修正を施し,1999年
改正前の州GPS法を改正して制定したデラウェア州
改正統一パートナーシップ法(DelawareRevisedUni
formPartnershipAct。「Chapter15.DelawareRev
isedUniformPartnershipAct,Title6oftheDel
awareCode」を指す。1999年7月12日施行)
州LPS法デラウェア州が,LPSに関して,1983年,1
976年改訂統一LPS法を基礎として一定の修正を
施して制定したデラウェア州改正統一リミテッド・パ
ートナーシップ法(DelawareRevisedUniformLimit
edPartnershipAct。「Chapter17LimitedPartner
ships,Title6oftheDelawareCode」を指す。)
※なお,州LPS法の各条項の表記においては,例えば「§17-201
(b)」との条項を「201条(b)」というように表記し,第17章(Chapter17)の
条文であることを示す「§17-」を省略する。
(証拠関係等)
昭和39年最判最高裁昭和35年(オ)第1029号同39年10月
15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁
LLC判決さいたま地方裁判所平成19年5月16日判決(乙A
全54)及びその控訴審である東京高等裁判所平成19
年10月10日判決(乙A全55)
モリス回答書米国弁護士事務所(Morris,Nichols,Arsht&Tunne
llLLP)からの調査報告書(乙A全80)
アレン教授意見書ニューヨーク大学のWilliamT.Allen(ウィリアム・
ティー・アレン)教授作成の意見書(甲A全90)
ラムザイヤー意見書ハーバード・ロースクールのJ.MarkRamseYer(ジェ
イ・マーク・ラムザイヤー教授作成の意見書(甲A全1
23)
平成12年7月政府税調中期答申
平成12年7月14日付け「わが国税制の現状と課題
-21世紀に向けた国民の参加と選択-」(甲A全2
5)
平成12年4月小委員会討議用資料
平成12年4月28日開催の第6回政府税制調査会法
人課税小委員会において,大蔵省(現財務省)主税局提
出の「法人税制関係資料-法人税の現状と課題-」(甲
A全26)
別紙3
関係法令等の定め
1民法(平成18年法律第50号による改正前のもの)
(1)法人の成立(33条)
法人は,民法その他の法律の規定によらなければ,成立しない。
(2)外国法人(36条)
ア外国法人は,国,国の行政区画及び商事会社を除き,その成立を認許しない。
ただし,法律又は条約の規定により認許された外国法人は,この限りでない(1
項)。
イ上記アにより認許された外国法人は,日本において成立する同種の法人と同
一の私権を有する。ただし,外国人が享有することのできない権利及び法律又は条
約中に特別の規定がある権利については,この限りでない(2項)。
(3)法人の能力(43条)
法人は,法令の規定に従い,定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内におい
て権利を有し,義務を負う。
2法人税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)
(1)定義(2条)
法人税法において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところに
よる。
ア国内法人税法の施行地をいう(1号)。
イ国外法人税法の施行地外の地域をいう(2号)。
ウ内国法人国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう(3号)。
エ外国法人内国法人以外の法人をいう(4号)。
オ人格のない社団等法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあ
るものをいう(8号)。
(2)人格のない社団等に対する法人税法の適用(3条)
人格のない社団等は,法人とみなして,法人税法(別表第二[省略]を除く。)
の規定を適用する。
(3)内国法人の納税義務(4条1項本文)
内国法人は,法人税法により,法人税を納める義務がある。
(4)外国法人の納税義務(4条2項)
外国法人は,法人税法138条(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得を有す
るとき(外国法人である公益法人等又は人格のない社団等にあっては,当該国内源
泉所得で収益事業から生ずるものを有するときに限る。)は,法人税法により,法
人税を納める義務がある。
(5)実質所得者課税の原則(11条)
資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人
であって,その収益を享受せず,その者以外の法人がその収益を享受する場合
には,その収益は,これを享受する法人に帰属するものとして,法人税法の規
定を適用する。
3所得税法(平成19年法律第6号による改正前のもの)
(1)定義(2条1項)
所得税法において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところに
よる。
ア国内所得税法の施行地をいう(1号)。
イ国外所得税法の施行地外の地域をいう(2号)。
ウ内国法人国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう(6号)。
エ外国法人内国法人以外の法人をいう(7号)。
オ人格のない社団等法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあ
るものをいう(8号)。
(2)人格のない社団等に対する所得税法の適用(4条)
人格のない社団等は,法人とみなして,所得税法(別表第一[省略]を除く。)
の規定を適用する。
(3)実質所得者課税の原則(12条)
資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であ
って,その収益を享受せず,その者以外の者がその収益を享受する場合には,その
収益は,これを享受する者に帰属するものとして,所得税法を適用する。
(4)信託財産に係る収入及び支出の帰属(13条1項本文)
信託財産に帰せられる収益及び費用については,受益者が特定している場合には
その受益者がその信託財産を有するものとみなして,所得税法の規定を適用する。
(5)不動産所得(26条)
ア不動産所得とは,不動産,不動産の上に存する権利,船舶又は航空機(以下
この項において「不動産等」という。)の貸付け(地上権又は永小作権の設定その
他他人に不動産等を使用させることを含む。)による所得(事業所得又は譲渡所得
に該当するものを除く。)をいう(1項)。
イ不動産所得の金額は,その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費
を控除した金額とする(2項)。
(6)損益通算(69条1項)
総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において,不動産所
得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損
失の金額があるときは,政令で定める順序により,これを他の各種所得の金額から
控除する。
4措置法41条の4の2(平成17年法律第21号による新設規定)
(1)特定組合員(組合契約を締結している組合員(これに類する者で政令で定
めるものを含む。以下同じ。)のうち,組合事業に係る重要な財産の処分若しくは
譲受け又は組合事業に係る多額の借財に関する業務の執行の決定に関与し,かつ,
当該業務のうち契約を締結するための交渉その他の重要な部分を自ら執行する組合
員以外のものをいう。)に該当する個人が,平成18年以後の各年において,組合
事業から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計
算上当該組合事業による不動産所得の損失の金額として政令で定める金額があると
きは,当該損失の金額に相当する金額は,所得税法26条2項及び69条1項の規
定その他の所得税に関する法令の規定の適用については,生じなかったものとみな
す(1項)。
(2)この条において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるとこ
ろによる(2項)。
ア組合契約民法667条1項に規定する組合契約及び投資事業有限責任組合
契約に関する法律3条1項に規定する投資事業有限責任組合契約並びに外国におけ
るこれらに類する契約(政令で定めるものを含む。)をいう(1号)。
イ組合事業各組合契約に基づいて営まれる事業をいう(2号)。
5措置法施行令26条の6の2
(1)措置法41条の4の2第1項に規定する組合員に類する者で政令で定める
ものは,同条2項1号に規定する組合契約のうち同号に規定する外国におけるこれ
らに類する契約を締結している者とする(1項)。
(2)措置法41条の4の2第2項1号に規定する政令で定める契約は,外国に
おける有限責任事業組合契約(有限責任事業組合契約に関する法律3条1項に規定
する有限責任事業組合契約をいう。)に類する契約とする(5項)。
別紙4
契約②の内容の要旨
a原信託財産の拠出
投資家(原告ら投資家の意。b以下でも同じ。)は,P8銀行がその資格で預金
受入れ銀行に開設した口座(エスクロー口座)に,本件各建物に対する投資となる
ドルで一定金額(以下「現金資産」という。)を拠出することを約定した,もしく
は約定する予定である。
投資家は,P8銀行との間でこの信託契約(本件各信託契約。b以下でも同じ)
を締結し,それに基づきP8銀行が,リミテッド・パートナーとして,投資家の固
有の危険と単独の利益において,本件各LPS契約を締結して本件各LPSに現金
資産を拠出するため,現金資産をP8銀行に譲渡するよう指図することを約定した,
もしくは約定する予定である。
投資家は,随時,P8銀行に,現金資産を信託財産(以下「原信託財産」とい
う。)として譲渡し,原信託財産をここに定めるとおり当てることを欲し,P8銀
行は,かかる譲渡を受け,原信託財産を当てて,ここに定めるその義務を果たす用
意がある。
b受託銀行の任命(1条)
投資家は,これにより,本契約に定める投資家のために受託する者として行動す
る「受託銀行」を任命し,「受託銀行」は,この任命を受諾する。
原信託財産の譲渡は,この信託契約の条件に従う。
c原信託財産の譲渡(2条)
投資家は,随時,P8銀行が承認する別紙Ⅱ(省略)に定める様式の通知書(以
下「譲渡・指図通知書」という。)により,P8銀行に対して現金資産の譲渡を承
諾するように要求することができる。かかる譲渡は,全て投資家,投資家の代理人
としてのP5証券とP8銀行の間で合意した日(以下「クロージング日」とい
う。)に行うものとする。
d原信託財産の保有(3条)
クロージング日以降,P8銀行は,原信託財産をP8銀行の名義で,しかし投資
家自身のために,また投資家自身の危険負担と利益において保有する。
e本件各LPSに対する出資(4.1条)
投資家は,譲渡・指図通知書により,P8銀行に対し,本件各LPSのパートナ
ーシップ持分の発行と引換えに,リミテッド・パートナーとして,当該譲渡・指図
通知書に定める現金資産を本件各LPSに拠出するよう指図する。
fパートナーシップ持分等の保有(4.4条)
本件各LPSによりP8銀行に対し発行された上記eのパートナーシップ持分,
及びそれから発生する全ての所得は,P8銀行がその名義で,専らその受託銀行と
しての資格において,ただし投資家のために,及び専ら投資家の危険負担と利益に
おいて,信託財産として保有する。
g本件各LPSの運営(5.1条)
本件各LPSは,本件各GPが運営を行い,P8銀行は,本件各LPSに関する
いかなる運営業務の遂行,また引受けの義務を負わない。
本件各GPは,とりわけ本件各建物の管理(本件各建物の入居者とP15又はP
20の関係を含む。),適用法令の遵守,並びに本件各建物の売却(買い手の選別,
売却価格の交渉を含む。)に責任を負う。
h議決権(5.2条)
パートナーシップ持分の議決権行使を求められた場合,P8銀行は,パートナー
シップ持分の議決権の行使方法につき,投資家からの指図を求めるものとする。P
8銀行は,かかる指図が法令等に違反する場合,同銀行に支払を負わせる場合又は
同銀行が費用,経費,もしくは損失を被るおそれがある場合には,かかる指図に従
うことを拒否することができる。本条項は,指図がかかる違反を含むか否かを確認
する義務を課すものと解釈してはならない。P8銀行の合理的な意見により,同銀
行の利益を保護する必要がある場合には,さらに,同銀行は,投資家の指図を拒否
する権利,及び,あらゆる場合に,パートナーシップ持分に与えられた議決権を行
使し,又は行使しない権利を有する。
パートナーシップ持分に付随する議決権行使のために,投資家又はその指図人に
対し委任状を発行することを,投資家がP8銀行に対して要請してはならないこと
が明示的に合意された。
i分配(5.4条)
パートナーシップ持分に関してP8銀行が受領した,あらゆる配当,及びその他
の分配の純額は,P8銀行がその資金を受領の後,2営業日後の価額で,専ら投資
家がP8銀行に有する銀行口座に振り込まれる。本件各LPSの追加パートナーシ
ップ持分の分配の場合は,P8銀行が,かかるパートナーシップ持分を,この取決
めに従い信託財産として保有する。
j監視の義務の不存在(5.7条)
投資家は,P8銀行が,本件各GPの作為もしくは不作為を監視し,又は本件各
建物の状況(法律及び規制状況を含む)を監視する義務を負わないことを,了解し,
合意した。
k契約の期間(15条)
契約は,7年間の確定期間を有する。ただし,各当事者は,書面による3か月前
の事前通知により,確定期間中に本契約を終了することができる。いずれかの当事
者により書面による1か月前の事前通知により終了されない限り,本契約はその後
無期限に存続する。ただし,P8銀行は,確定期間終了後は,投資家に対し,1か
月前の書面による事前通知により,随時辞任することができる。
l準拠法(17.1条)
契約は,ルクセンブルク法,特に金融機関の信託契約に関する,1983年7月
19日付けの大公勅令に準拠し,それに従って解釈するものとする。
別紙5
契約③の内容の要旨
本件LPS契約(C)及び本件LPS契約(P)の内容はほぼ同様であるので,
以下では,本件各LPS契約をまとめて記載し,相違する部分のみ,別途記載する
こととした。また,訳語に関し,当事者間に争いがあるものは,本文に被告主張の
邦訳を記載し,原告ら主張の邦訳を注記した。
a前文
本件各LPS契約は,本件各GPをジェネラル・パートナーとし,本契約又は
本契約の副本に署名する各個人をリミテッド・パートナーとして,本件各建物に
投資する目的で,州LPS法に基づきLPSを設立するために締結された。以下
に定める事項及び相互の合意を約因とし,パートナーは,以下に定める条件で,
州LPS法その他適用の法律に従って運営されるパートナーシップを設立するこ
とに同意し,これを設立する。
b本件各LPSの設立(Formation(注)「組成」)(1.1条)
本件各LPSは,LPS証明書(本件各GPに代わり,本件各GPが正式に任
命した代理人P26が作成。当該任命は本契約により確認されている。)をデラ
ウェア州事務局に提出することにより,州LPS法に従い,デラウェア州のLP
Sとして設立された(formed(注)「組成された」)。
c本件各LPSの目的(1.3条)
本件各LPSは,本件各不動産の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却そ
の他の処分の目的のみのために設立され(organized(注)「組成され」),当該
目的を実施するために必要又は便宜的な範囲で次の権限を有する。
(a)本件各不動産の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その他の処分
(b)銀行口座の開設及び維持並びに支払のための小切手その他為替の振出し
(c)必要又は望ましいと考えられる条件で,随時,金額又は支払方法及び支払
時期の制限なく金員を借り入れ,又は約束手形その他の流通性のある証券若しくは
流通性のない負債証書の発行,受領,裏書及び作成をすること,本件各LPSの財
産の全部又は一部を担保に供し,差し入れ,委譲し,又は譲渡することによって上
記借入れ等及びその利息の支払を所有時か取得後かにかかわらず保証すること並び
に本件各LPSに関する当該証券及び負債証書を売却し,担保に供し,その他処分
すること
(d)第三者に対する請求について訴訟を提起し,提起され,解決し又は和解し,
本件各LPSに対する請求について解決し又は和解し,それらに関連して必要又は
望ましいと考えられる書類の作成,意思表示,許可及び権利放棄を行うこと
(e)独立した弁護士,会計士,その他上記の目的に関連して必要又は望ましい
と考えられる者の雇用
(f)その他上記事項を達成するために必要,適切又は便宜的な活動及び取引を
行い,契約その他の約定を締結し,作成し,実施すること
d本件各LPSの存続期間(1.4条)
(a)本件LPS契約(C)
本件LPS(C)は,①2035年12月31日又は②本件LPS(C)の現金
以外の資産の全ての売却その他の処分により得られた収益の最終支払を本件LPS
(C)が現金で受領した日のいずれか早い方の時まで継続する。
(b)本件LPS契約(P)
本件LPS(P)は,①2037年12月31日又は②本件LPS(P)の現金
以外の資産の全ての売却その他の処分により得られた収益の最終支払を本件LPS
(P)が現金で受領した日のいずれか早い方の時まで継続する。
eパートナーの性質及び責任(1.5条)
契約,不法行為その他により生じたかを問わず,本件各LPSの負債,債務及
び義務は本件各LPSの単独の負債,債務及び義務であり,リミテッド・パート
ナーは,リミテッド・パートナーであるという理由のみで本件各LPSの負債,
債務又は義務について個人的に責任を負わない。
f一般的な管理(2.1条)
本件各LPSの管理及び運営は,本件各GPに独占的に権利を付与される。本
件各GPは,これにより,本件各LPSに代わり又は本件各LPSの名で,1.
3条に定める本件各LPSの目的の全てを実施する権限を有する。
リミテッド・パートナーは,本件各LPS契約に定める場合を除き,本件各LP
Sの管理又は運営に参加してはならず,いかなる事項に関しても,本件各LPSに
代わって又は本件各LPSの名で行為する権限又は権利を有しない。
g解任(2.6条)
本件各GPは,その時点でリミテッド・パートナー全員が有するパートナーシッ
プ持分の80%を超える持分を有するリミテッド・パートナーの賛成又は同意によ
り,正当な理由によって解任される。
h不動産投資及び資産等の登録(2.7条)
本件各LPSが行う全ての不動産投資その他所有する資産は,本件各LPSの名
又は本件各GPが随時決定できる名義人の名で登録される。
i本件各GPに対する管理報酬(3.3条)
本件各LPSは,本件各GPに対し,本件各LPSの管理・運営について(本件
LPS(C)は月4025ドル,本件LPS(P)は月1310ドル)の管理報酬
を支払う。管理報酬は,本件各土地賃貸借契約に従い,本件各土地賃貸借契約に定
める優先順位で支払う。本件各LPSが当該管理報酬を支払う十分なキャッシュフ
ローがない場合,未払の報酬は,当該未払報酬を支払う十分な資金があると本件各
GPが判断する時まで繰り越される。ただし,本件各LPSは,本件各LPSが解
散した時点で未払となっている繰延管理報酬については,本件各LPSが当該繰延
管理報酬全てを支払うための十分なキャッシュフローがない範囲で,責任を負わず,
支払う義務を負わない。3.3条に従って支払う管理報酬は,内国歳入法707条
に従った本件各LPSの費用として扱われ,州LPS法607条の限度が適用され
る分配とすることを意図するものではない。
j出資(4.2条~4.5条)
(a)本件各GPは,本件各LPSの資本に当初の出資をする必要はない。リミ
テッド・パートナーはそれぞれ,本件各LPSの資本に対し,別紙A(各パートナ
ーごとに名称,資本出資,パートナーシップ出資割合を順次記載したもの。省略)
のそれぞれの名の隣に記載された金額を「資本出資」として出資する(4.2条)。
(b)4.2条の定めを除き,リミテッド・パートナーは,本件各LPSへの追
加出資をする必要はない(4.3条)。
(c)パートナーが本件各LPSの資本に対して出資した全ての出資金の合計及
び本件各LPSの分配されない純利益は,本件各LPSの目的を実施するために本
件各LPSが利用できる(4.4条)。
(d)パートナーは,別紙A(省略)のそれぞれの名の隣に記載されたパートナ
ーシップ出資割合を有する。各パートナーは,本件各LPSの資産に,そのパート
ナーシップ出資割合に相当する不可分の持分(undividedinterest)を有する(4.
5条)。
k分配(4.6条)
(a)税金分配
本件各LPSは,本件各GPの単独で絶対的な裁量により,各会計年度の3月3
0日までに各パートナーに対して次と同額の分配を行うことができる。(i)本件各
LPSの前会計年度に,4.7条その他の条項に基づいて当該パートナーに対して
割り当てられた所得,利益その他の項目の正味金額に(ⅱ)40%を掛けた金額。
(b)裁量分配
①本件LPS(C)は,本件GP(C)の単独で絶対的な裁量により,パー
トナーに対し,随時,現金の分配を行うことができる。4.6条(b)に従う現金分
配は,パートナーのそれぞれのパートナーシップ出資割合に応じて行われる。本
契約に定めるものを除き,パートナーは,資本出資又は収益の分配を要求したり,
受領する権利を有しない。
②本件LPS(P)は,本件GP(P)の単独で絶対的な裁量によりパートナ
ーに対して随時,現金の分配を行うことができる。本件LPS契約(P)に定める
ものを除き,4.6条(b)による現金の出資は,次の優先順位に従って分配される
ものとする。
第1に,本件LPS(P)に非強制の追加出資を行ったパートナー間で,該当す
るパートナー全員の未収の累積優先利益の総額に対して各パートナーが負担する未
収の累積優先利益と同じ割合で,パートナーそれぞれが4.6条(b)(i)により当該
分配を行う直前での未収の累積優先利益に等しい金額を受け取るまで,第2に,本
件LPS(P)に非強制の追加出資を行ったパートナー間で,該当するパートナー
全員の追加出資勘定の総額に対してパートナーそれぞれが負担する追加出資勘定の
金額と同じ割合で,各パートナーが4.6条(b)(ⅱ)によりパートナーそれぞれの
追加出資勘定における残高をゼロまで減少させるのに必要な金額を受け取るまで,
第3に,パートナー間で,それぞれのパートナーシップ出資割合に比例して分配す
る。
l利益及び損失の割当て等(4.7条,4.8条,4.12条)
(a)本件LPS契約(C)
①会計年度の利益及び損失は,パートナーのそれぞれのパートナーシップ出資
割合に応じてパートナーに割り当てられる(4.7条,4.8条)。
②本契約で別途定められていない限り,本パートナーシップの所得,収益,損
失及び控除の全ての項目のパートナーの分配持分は,利益及び損失の分配持分と同
じとする(4.12条(a))。
ジェネラル・パートナーは,内国歳入法706条及び規則で認められた方法を使
用して,期間に適切に割り当てられる利益,損失その他項目を割り当てる(4.1
2条(b))。
(b)本件LPS契約(P)
①会計年度の利益及び損失は,パートナー間で以下のように割り当てられるも
のとする(4.7条,4.8条。なお,利益の割合の規定を前提として損失の割当
の規定では異なる点を括弧内に記載している。)。
第1に,各パートナーに対して,各パートナーの以前の損失割合と同じ割合で順
序は逆にして(各パートナーの以前の利益割合に比例し順序は逆にして),当期及
び以前の全期間に対して4.7条(a)(4.8条(a))により割り当てられた累積利
益(累積損失)が,以前の全期間に対して4.8条(b)及び4.8条(c)(4.7条
(b)及び4.7条(c))により各パートナーに割り当てられた累積損失(累積利益)
に等しくなるまで,第2に,利益の割合については,各パートナーに対して,4.
7条(b)により該当するパートナーに以前に割り当てられた累積利益の総額に対し
て当該パートナーの未収の累積優先利益を超過した分に等しい(それにより少ない
場合はそれに応じて按分比例した)金額を,また,損失の割当については,各パー
トナーに対して,当該パートナーの資本勘定のプラス残高があればその超過分に等
しい金額(マイナスの場合はそれに比例して按分する。4.8条(b))。その後,
パートナーに対して,それぞれのパートナーシップ出資割合に比例して按分する。
②本契約で別途定められていない限り,本パートナーシップの所得,収益,損
失及び控除の全ての項目のパートナーの分配持分は,利益及び損失の分配持分と同
じとする(4.12条(a))。
ジェネラル・パートナーは,内国歳入法706条及び規則で認められた方法を使
用して,期間に適切に割り当てられる利益,損失その他項目を割り当てる(4.1
2条(b))。
m本件各GPによるその他の決定事項(4.9条)
本件各LPS契約を解釈する上で必要な範囲で,本件各GPは,全ての目的のた
めに,合理的な慣例を適用する完全かつ絶対的な裁量を有する。本件各GPによる
当該決定は,最終的なもので,パートナーを拘束する。
n新規パートナー(5.2条)
GPは,7条に適合する代替リミテッド・パートナー以外の追加のリミテッド・
パートナーを承認する権限を有しない。
o本件各LPSからの脱退(6.1条,6.2条)
(a)リミテッド・パートナーは,本件各LPSから脱退する権利を有する。た
だし,本件各GPの単独かつ絶対的な裁量による同意がある場合に限られる。本件
各GPがリミテッド・パートナーの脱退に同意した場合,当該リミテッド・パート
ナーは,脱退時に,パートナーシップ持分を脱退した日時点での公正価格で受け取
る権利を有する。
(b)本件各GPは,本件各LPSから脱退する権利を有しない。
pパートナーシップ持分の譲渡(7.1条,7.2条)
(a)本件各GPは,本件各LPSの持分の全部又は一部を売却したり譲渡して
はならず,いかなる方法によっても処分したり授けてはならず,又は授与を許して
はならず,担保権を設定してはならない。
(b)リミテッド・パートナー(受益者ではないもの)は,本件各GPのそれぞ
れ単独で絶対的な裁量に基づく書面による同意がない限り,当該リミテッド・パー
トナーのパートナーシップ持分の全部又は一部を売却したり譲渡してはならず,い
かなる方法によっても処分したり授けてはならず,又は授与を許してはならず,担
保権を設定してはならない。
qリミテッド・パートナーの代替(7.5条。ただし,本件LPS契約(P)
においては7.4条)
パートナーシップ持分のいかなる譲受人も,①譲受人が譲渡関連文書に本件各L
PS契約の条件に拘束される意図を表明し,かつ,②本件各GPがその代替に同意
しない限り,代替リミテッド・パートナーとなる権利を有しない。
r入会金等(7.6条)
ジェネラル・パートナーが7.2条又は7.5条(ただし,本件LPS契約
(P)においては7.4条)のいずれかに従ってリミテッド・パートナーのパート
ナーシップ持分の譲渡若しくは移転又は代替に同意した場合,
(a)当該リミテッド・パートナーのパートナーシップ持分の譲渡人等は,当該
譲渡又は代替を有効にするために生じた弁護士費用その他の費用について本件各L
PSに払い戻し,当該パートナーシップ持分の購入価格の3%に相当する仲介手数
料をジェネラル・パートナーに支払い,
(b)当該リミテッド・パートナーのパートナーシップ持分の譲渡人又は譲受人
は,P6銀行株式会社又はその関連会社に手数料として当該パートナーシップ持分
の買取価格の10%に相当する額を支払う。
s本件各LPSの終了(8.1条)
本件各LPSは,次のいずれかの事由が最初に発生した場合に終了する。
(a)本件各GPの解散
(b)本件各GPによる本件各LPSを解散すべきとの決定
(c)1.4条に定める本件各LPSの期間の終了
(d)適用法令に基づいて本件各LPSの終了となる事由の発生
t清算(8.2条)
本件各LPSが終了したときは,本件各GPが(8.1条(a)に従って本件各L
PSが終了した場合には,リミテッド・パートナーのパートナーシップ出資割合の
過半数により選任された清算受託者が),①本件各GP(又は清算受託者)が必要
又は望ましいと考える本件各LPSの現金以外の資産を現金化し(本件LPS契約
(C)においては,さらに,②4.1条に従ってパートナーの資産勘定を確定した
上),③次の方法及び順序で本件各LPSの資産から次の措置及び分配を行う。
(a)本件各GP(又は清算受託者)が,パートナーではない本件各LPSの債
権者の全ての請求に係る債務を支払い,消滅させ,本件各LPSの偶発債務又は予
測不能な負債若しくは債務の補填に必要又は対応可能と考える準備金を設定する。
ただし,偶発債務がなくなり,現金その他資産がある場合は特別準備金は8.2条
(c)に定めるとおり分配される。
(b)パートナーである本件各LPSの債権者全ての請求に係る債務を按分して
支払い,消滅させる。
(c)4.6条(b)に従い,資産の残りをパートナーに支払い,分配する。
u分配の方法(8.3条)
8.2条(a)及び(b)に従って行われる分配は,現金のみで行われる。8.2条
(c)に従って行われる分配は,本件各GP(又は本清算受託者)が決定するとおり,
現金若しくはその他資産又はその両方で行うことができる。
v決定事項の拘束力(9.8条)
本件各GPが会計事項に関連して行う決定は,最終的なものであり,リミテッ
ド・パートナー及びそのそれぞれの法定代理人を拘束する。
w修正(10.2条)
本件各LPS契約は,ジェネラル・パートナー及びリミテッド・パートナーの持
分の過半数によって署名した書面でされない限り,修正することはできない。
x準拠法(10.7条)
本契約は,デラウェア州の法律(thelawsofthestatesofDelaware)に準拠
し,それに従って解釈される。
y分割に対する権利の放棄(10.15条)
各パートナーは,当該パートナーが本件各LPSの資産に関連する分割の訴訟を維
持するために有する権利を本件各LPS期間中に取消不能の条件で放棄するととも
に,パートナーシップ会計のための訴状を提出するなど他のパートナーや本件各L
PSに対してそれに反するいかなる方法の手続もしないことに同意する。
別紙6
契約⑨の内容の要旨
a本件新信託契約の目的
この契約により,委託者(原告ら投資家の意。b以下でも同じ。)は,P21銀
行に,別紙A(省略)に列挙した財産(P8銀行が保有していた本件各LPSパー
トナーシップ持分)を移転する。P21銀行は,本証書(本件新信託契約)に記載
された条件に基づく信託で受領したすべての財産を保有するものとする。
b初期資産(2.1条)
信託の初期資産は,別紙A(省略)に記された本件各LPSに対するパートナー
シップ持分を含むものとする。
c分配(2.3条)
(a)P21銀行が自らの裁量のみで得策と考える場合又は(b)委託者により書面で
指示された場合は,P21銀行は,委託者に対し,信託が受領又は保有する純分配
可能額の全部又は一部を分配するものとする。「純分配可能額」は(a)パートナー
シップ利益に関してP21銀行が受領した金額又は(b)2.7条(後記e)に準拠
してP21銀行が受領した売上金の金額のいずれかの金額を意味する。
d議決権(2.6条)
パートナーシップ持分に関して議決を求められた場合,P21銀行は,委託者に
対しパートナーシップ持分に関していかに議決すべきか指示を求めるものとし,以
下の条文に従い,その指示に従うものとする。P21銀行は,指示が法令等への違
反を含む場合,同銀行が支払を行う義務を負う場合,同銀行が個人的にコスト等を
引き受けることになる場合には,委託者の議決指示に従うことを拒絶することがで
きる。
前文にかかわらず,P21銀行は,議決指示が前文で述べられた論点又は問題を
発生させるか否か確定する積極的義務を負わないものとする。さらに,P21銀行
は,相応の意見において同銀行の権利を保護するために必要である場合には,委託
者の指示を拒絶する権利及びいかなる状況においてもパートナーシップ持分に付随
した議決権を行使し又は行使を控える権利を有する。委託者は,パートナーシップ
持分に付与された議決権の行使にあたり,P21銀行に対して,自己宛の又は自己
が指示する内容の委任状を発行するよう求めてはならない。
eパートナーシップ持分の保有および売却(2.7条)
P21銀行は,信託が終了する時まで,又は委託者がP21銀行に対して本項の
残りの規定に従って当該資産を売却するよう指示する時まで,信託の資産を分散投
資する義務を負うことなくパートナーシップ持分を保持するものとする。パートナ
ーシップ契約及び適用可能な法律並びに以下の条項に従い,委託者は,いかなる時
でもP21銀行に対しパートナーシップ持分のすべてを指示した購入者に指示した
価格及び指示した条件で売却することを指示することができる。パートナーシップ
持分のいずれかの売却と関連して,P21銀行は,(i)受託者がパートナーシップ
持分の法的所有者であること,(ii)パートナーシップの契約の規定に従いP21銀
行はパートナーシップ持分を売却する権原を与えられていること以外に,何らかの
説明または保証を購入者に与えるなどの義務を負わないものとする。
f信託の終了(3.1条)
1.1条(委託者の解約権についての規定)に従う取消し又はすべての信託財産
の売却および分配の結果としての早期終了ではない場合,信託は,(a)本証書の実
施日付から10年後,(b)委託者の死亡のうちいずれか早期の時点で終了するもの
とする。
上記(a)の場合,P21銀行は,すべての信託を委託者に分配するものとする。
上記(b)の場合,P21銀行は,すべての信託を承継委託者に交付するものとする。
g準拠法(8.1条)
本証書の有効性,解釈及びそれによって創設される信託の管理並びに分配に関
しては,争訟に関する法律を除き,米国カリフォルニア州法を準拠法とする。
別紙7
契約⑩の内容の要旨
a事実の説明
P8銀行は,本件各LPSのリミテッド・パートナーであり,本譲渡される持分
を持っている。
P8銀行は,ルクセンブルクの法律に準拠した信託契約により,受益者(原告ら
投資家の意。b以下でも同じ。)のために受託者として,本譲渡される持分を保有
している。
受益者の指示に従い,P8銀行は,本譲渡される持分を譲受人に譲渡し,パート
ナーシップから脱退するため,本譲渡証書を作成する。
受益者の指示に従い,譲受人は,本譲渡される持分を受け入れ,譲渡人の代わり
に代替リミテッド・パートナーとしてパートナーシップへの参加の承認を受けるた
め,本譲渡証書を作成する。
b譲渡(2条)
P8銀行は,本譲渡証書により譲渡される持分における同銀行の権利,権原,持
分のすべてをP21銀行に売却,割当,委譲,譲渡する。P21銀行は,本譲渡証
書による譲渡を受け入れ,パートナーシップにおいてP8銀行に代わって受益者の
ために,信託の受託者として譲受人に認められる範囲で,代替リミテッド・パート
ナーとなることに同意する。譲渡される持分の受益所有権は,本譲渡証書の如何に
かかわらず,引き続き受益者に与えられる旨,承認されている。
c代替リミテッド・パートナーとしての任命(4条)
本譲渡証書の日付において,P21銀行は,本譲渡証書により譲渡される持分に
関し,パートナーシップに対してP8銀行と同じ権利と出資率を持つ代替リミテッ
ド・パートナーとして認められる。
d脱退(5条)
本譲渡証書の日付において,本譲渡証書3条によりパートナーシップに対してP
21銀行が任命された後直ちに,P8銀行は,パートナーシップから脱退し,パー
トナーシップにおけるリミテッド・パートナーではなくなる。
e脱退と代替の効果(6条)
前記の2条(上記b)に規定されているように,本譲渡証書による譲渡は,譲渡
される持分の受益所有権には影響せず,受益者は譲渡される持分の受益権所有者の
ままである。
f権利放棄と同意(9条)
ジェネラル・パートナーである本件各GPは,本譲渡証書において,(ⅰ)P8銀
行からP21銀行への本譲渡される持分の譲渡,(ⅱ)P8銀行のパートナーシップ
からの脱退,(ⅲ)代替リミテッド・パートナーとしてのP21銀行のパートナーシ
ップへの参加,に同意する。
本件各GPは,本譲渡証書に署名している。
別紙8
本件各処分の根拠及び計算
第1原告P2関係
1平成14年分ないし平成16年分
(1)被告主張額の根拠
ア総所得金額
原告P2に係る各係争年分の総所得金額は,下記(ア)ないし(エ)の金額の合計金
額であり,別表2①欄記載のとおり,平成13年分が1億1817万5784円,
平成14年分が1億1560万9156円,平成15年分が1億0411万123
0円,平成16年分が1億1260万2655円である。
(ア)不動産所得の金額
原告P2に係る各係争年分の不動産所得の金額は,別表2②欄記載のとおり,平
成13年分が1315万2422円,平成14年分が1515万3169円,平成
15年分が1306万5923円,平成16年分が1236万4770円である。
なお,上記各金額の内訳は,別表3-1ないし3-4の「③被告主張額」欄記載
のとおりであり,原告P2が平成13年分ないし平成15年分の所得税の修正申告
書及び平成16年分所得税の更正の請求書に記載した不動産所得の金額(別表3-
1ないし3-3の「②修正申告」欄及び別表3-4の「②更正請求」欄の順号17
又は18「不動産所得金額」の金額)から,本件不動産賃貸事業(C)に係る収入
金額(別表3-1ないし3-3の「②修正申告」欄及び別表3-4の「②更正請
求」欄の順号2「米国不動産賃貸」の金額)及び青色申告特別控除額(別表3-1
ないし3-4の「③被告主張額」欄の順号16又は17「青色申告特別控除」の金
額)を減算し,本件不動産賃貸事業(C)に係る必要経費の金額(別表3-1ない
し3-3の「②修正申告」欄及び別表3-4の「②更正請求」欄の順号14又は1
5の「必要経費合計」のうち,上段の金額)を加算した金額である。
(イ)配当所得の金額
原告P2に係る各係争年分の配当所得の金額は,別表2③欄記載のとおり,平成
13年分が912万0362円,平成14年分が686万1687円,平成15年
分が670万4385円,平成16年分が670万4385円である。
なお,上記各金額は,原告P2が平成13年分ないし平成15年分の所得税の修
正申告書及び平成16年分所得税の更正の請求書に記載した配当所得の金額(別表
1-1の「修正申告」欄及び別表1-2の「更正の請求」欄の配当所得の金額)と
同額である。
(ウ)給与所得の金額
原告P2に係る各係争年分の給与所得の金額は,別表2④欄記載のとおり,平成
13年分が9590万3000円,平成14年分が9352万8000円,平成1
5年分が8431万3000円,平成16年分が9352万8000円である。
なお,上記各金額は,原告P2が平成13年分ないし平成15年分の所得税の修
正申告書及び平成16年分所得税の更正の請求書に記載した給与所得の金額(別表
1-1の「修正申告」欄及び別表1-2の「更正の請求」欄の給与所得の金額)と
同額である。
(エ)雑所得の金額
原告P2に係る各係争年分の雑所得の金額は,別表2⑤欄記載のとおり,平成1
4年分が6万6300円,平成15年分が2万7922円及び平成16年分が55
00円である。
なお,上記各金額は,原告P2が平成14年分及び平成15年分の所得税の修正
申告書及び平成16年分所得税の更正の請求書に記載した雑所得の金額(別表1-
1の「修正申告」欄及び別表1-2の「更正の請求」欄の雑所得の金額)と同額で
ある。
イ所得控除額
原告P2に係る各係争年分の所得控除額は,別表2⑥欄記載のとおり,平成13
年分が262万2076円,平成14年分が264万8718円,平成15年分が
359万8690円,平成16年分が374万3636円である。
なお,上記各所得控除額の内訳は,別表2⑦ないし⑫欄記載のとおりであり,原
告P2が平成13年分ないし平成15年分の所得税の修正申告書及び平成16年分
所得税の更正の請求書に記載した所得控除額と同額である。
ウ課税総所得金額
原告P2に係る各係争年分の課税総所得金額は,上記アの総所得金額から同イの
所得控除額を控除した金額に,通則法118条1項の規定を適用して1000円未
満の端数を切り捨てた金額であり,別表2⑬欄記載のとおり,平成13年分が1億
1555万3000円,平成14年分が1億1296万円,平成15年分が1億0
051万2000円,平成16年分が1億0885万9000円である。
エ算出税額
原告P2に係る各係争年分の算出税額は,上記ウの課税総所得金額に所得税法8
9条1項(負担軽減措置法4条による。)の規定を適用して算出したものであり,
別表2⑭欄記載のとおり,平成13年分が4026万4610円,平成14年分が
3930万5200円,平成15年分が3469万9440円及び平成16年分が
3778万7830円である。
オ配当控除額
原告P2に係る各係争年分の配当控除額は,上記ア(イ)の各係争年分の配当所得
の金額に,所得税法92条1項の規定を適用して算出したものであり,別表2⑮欄
記載のとおり,平成13年分が45万6019円,平成14年分が34万3085
円,平成15年分が33万5220円,平成16年分が33万5219円である。
なお,上記各配当控除額は,原告P2が平成13年分ないし平成15年分の所得
税の修正申告書及び平成16年分所得税の更正の請求書に記載した配当控除額と同
額である。
カ定率減税額
原告P2に係る各係争年分の所得税については,負担軽減措置法6条の規定に基
づき,別表2⑰欄記載のとおり,それぞれ25万円が定率減税額として控除される。
キ源泉徴収税額
原告P2に係る各係争年分の源泉徴収税額は,別表2⑱欄記載のとおり,平成1
3年分が3382万0846円,平成14年分が3253万6197円,平成15
年分が2916万9841円,平成16年分が3257万7999円である。
なお,上記各金額は,原告P2が平成13年分ないし平成15年分の所得税の修
正申告書及び平成16年分所得税の更正の請求書に記載した源泉徴収税額と同額で
ある。
ク納付すべき税額
原告P2に係る各係争年分の納付すべき税額は,上記エの算出税額から同オの配
当控除額及び同カの定率減税額並びに同キの源泉徴収税額を控除した金額に通則法
119条1項の規定を適用して,100円未満の端数を切り捨てた金額であり,別
表2⑲欄記載のとおり,平成13年分が573万7700円,平成14年分が61
7万5900円,平成15年分が494万4300円,平成16年分が462万4
600円である。
(2)原告P2各更正処分及び原告P216年分通知処分の適法性
被告が本訴において主張する原告P2の各係争年分に係る所得税の納付すべき税
額は,前記(1)クで述べた金額であるところ,平成13年分ないし平成15年分は,
原告P2各更正処分(いずれも原告P2各再更正処分により減額された後のもの)
による納付すべき税額といずれも同額であるから,当該各更正処分は適法であり,
また,原告P2の平成16年分の確定申告による納付すべき税額は,被告主張額の
範囲内であるから,原告P216年分通知処分は適法である。
(3)原告P2各賦課決定処分の根拠
原告P2の平成13年分ないし平成15年分の過少申告加算税の額は,原告P2
各更正処分により納付すべき税額(別表1-1の各年に係る「更正及び賦課決定
(H17.2.15)」欄の「納付すべき税額」と「修正申告」欄の「納付すべき
税額」の差額[ただし,通則法119条1項の規定により100円未満の端数を切
り捨てた後のもの。平成13年分が928万2800円,平成14年分が906万
3000円,平成15年分が845万9200円])に,通則法118条3項の規
定により1万円未満の端数を切り捨て,通則法65条1項の規定により100分の
10の割合を乗じて算出した金額(平成13年分が92万8000円,平成14年
分が90万6000円,平成15年分が84万5000円)から,原告P2再更正
処分により減少した税額(別表1-1の各年に係る「更正及び賦課決定(H20.
5.14)」欄の「納付すべき税額」と「更正及び賦課決定(H17.2.1
5)」欄の「納付すべき税額」との差額[平成13年分が141万0400円,平
成14年分が85万0200円,平成15年分が36万0800円])に,通則法
118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨て,通則法65条1項の規定
により100分の10の割合を乗じて算出した金額(平成13年分が14万100
0円,平成14年分が8万5000円,平成15年分が3万6000円])を減算
した金額であり,平成13年分が78万7000円,平成14年分が82万100
0円,平成15年分が80万9000円となる。
(4)原告P2賦課決定処分の適法性
被告が主張する原告P2各更正処分(いずれも原告P2各再更正処分により減額
された後のもの)に伴って賦課されるべき過少申告加算税の額は,前記(3)のとお
りであり,これらの金額は,原告P2各変更決定処分により減額された過少申告加
算税の額といずれも同額である。また,当該過少申告について,通則法65条4項
にいう正当な理由があるとは認められない。
したがって,原告P2各賦課決定処分(いずれも原告P2各変更決定処分により
減額された後のもの)はいずれも適法である。
2平成17年分
(1)被告主張額の根拠
ア総所得金額(別表5①)1億2351万5420円
上記金額は,下記(ア)ないし(ウ)の金額の合計金額である。
(ア)不動産所得の金額(別表5②)1310万6355円
当該金額の内訳は,別表6の「③被告主張額」欄記載のとおりであり,原告P2
が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した不動産所得の金額(別表6の「②
更正請求」欄の順号18「不動産所得金額」の金額)から,本件不動産賃貸事業
(C)に係る収入金額(別表6の「②更正請求」欄の順号2「米国不動産賃貸」の金
額)を減算し,本件不動産賃貸事業(C)に係る必要経費の金額(別表6の「②更正
請求」欄の順号14「必要経費合計」のうち,上段の金額)を加算した金額である。
(イ)配当所得の金額(別表5③)2609万6065円
上記金額は,原告P2が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した配当所得
の金額(別表4の「更正の請求」欄の配当所得の金額)である。
(ウ)給与所得の金額(別表5④)8431万3000円
上記金額は,原告P2が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した給与所得
の金額(別表4の「更正の請求」欄の給与所得の金額)である。
イ所得控除額(別表5⑤)373万5357円
上記金額の内訳は,別表5⑥ないし⑪欄記載のとおりであり,原告P2が平成1
7年分所得税の更正の請求書に記載した所得控除額である。
ウ課税総所得金額(別表5⑫)1億1978万0000円
上記金額は,上記アの総所得金額から上記イの所得控除額を控除した金額に,通
則法118条1項の規定を適用して1000円未満の端数を切り捨てた金額である。
エ算出税額(別表5⑬)4182万8600円
上記金額は,上記ウの課税総所得金額に,所得税法89条1項(負担軽減措置法
4条による。)の規定を適用して算出したものである。
オ配当控除額(別表5⑭)130万4803円
上記金額は,上記ア(イ)の配当所得の金額に,所得税法92条1項の規定を適用
して算出したもので,原告P2が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した配
当控除額である。
カ定率減税額(別表5⑮)25万0000円
平成17年分の所得税については,負担軽減措置法6条の規定に基づき,25万
円が定率減税額として控除される。
キ源泉徴収税額(別表5⑯)3305万7666円
上記金額は,原告P2が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した源泉徴収
税額の金額である。
ク納付すべき税額(別表5⑰)721万6100円
上記金額は,上記エの算出税額から同オの配当控除額及び同カの定率減税額並び
に同キの源泉徴収税額を控除した金額に通則法119条1項の規定を適用して,1
00円未満の端数を切り捨てた金額である。
(2)原告P217年分通知処分の適法性
被告が本訴において主張する原告P2の平成17年分に係る所得税の納付すべき
税額は,前記(1)クで述べた金額であるところ,平成17年分の原告P2の修正申
告による納付すべき税額は,676万9900円であり,被告主張額の範囲内であ
るから,原告P217年分通知処分は適法である。
第2原告P1関係
1平成14年分ないし平成16年分
(1)被告主張額の根拠
ア総所得金額(別表8①)
原告P1に係る各係争年分の総所得金額は,下記(ア)ないし(オ)の金額の合計額
であり,平成14年分が7188万7595円,平成15年分が7176万488
3円,平成16年分が6606万1867円である。
(ア)不動産所得の金額
原告P1に係る各係争年分の不動産所得の金額は,別表8②欄記載のとおり,平
成14年分が227万4985円,平成15年分が377万1063円,平成16
年分が260万2107円である。
なお,上記金額の内訳は,別表9-1ないし9-3の「③被告主張額」欄記載の
とおりであり,平成14年分及び平成15年分については,原告P1が平成14年
分所得税の更正の請求書及び平成15年分の所得税の修正申告書に記載した不動産
所得の金額(別表9-1の「②更正請求」欄及び別表9-2の「②修正申告」欄の
順号18「不動産所得金額」の金額)から,本件不動産賃貸事業(P)に係る収入金
額(別表9-1の「②更正請求」欄及び別表9-2の「②修正申告」欄の順号2
「米国不動産賃貸」の金額),青色申告特別控除額(別表9-1及び別表9-2の
「③被告主張額」欄の順号16「青色申告特別控除」の金額)及び土地負債利子額
(別表9-1の「②更正請求」欄及び別表9-2の「②修正申告」欄の順号17
「加算する土地負債利子」の金額)を減算し,本件不動産賃貸事業(P)に係る必
要経費の金額(別表9-1の「②更正請求」欄及び別表9-2の「②修正申告」欄
の順号14「必要経費合計」のうち,上段の金額)を加算した金額であり,平成1
6年分については,原告P1が平成16年分所得税の更正の請求書に記載した不動
産所得の金額(別表9-3の「②更正請求」欄の順号17「不動産所得金額」の金
額)から,本件不動産賃貸事業(P)に係る収入金額(別表9-3表の「②更正請
求」欄の順号2「米国不動産賃貸」の金額),別件の船舶賃貸事業に係る必要経費
の金額(別表9-3表の「③被告主張額」欄の順号14「必要経費合計」のうち,
中段の金額)及び青色申告特別控除額(別表9-3の「③被告主張額」欄の順号1
6「青色申告特別控除」の金額)を減算し,これに,同船舶賃貸事業に係る収入金
額(別表9-3の「③被告主張額」欄の順号3「船舶事業」の金額)及び本件不動
産賃貸事業(P)に係る必要経費の金額(別表9-3の「②更正請求」欄の順号14
「必要経費合計」のうち,上段の金額)を加算した金額である。
(イ)配当所得の金額
原告P1に係る各係争年分の配当所得の金額は,別表8③欄記載のとおり平成1
4年分が92万3460円,平成15年分が102万8160円,平成16年分が
102万8160円である。
なお,原告P1が平成14年分及び平成16年分所得税の更正の請求書並びに平
成15年分の所得税の修正申告書に記載した配当所得の金額(別表7の平成14年
分及び平成16年分の「更正の請求」欄,平成15年分の「修正申告」欄の配当所
得の金額)と同額である。
(ウ)給与所得の金額
原告P1に係る各係争年分の給与所得の金額は,別表8④欄記載のとおり,平成
14年分が6868万0750円,平成15年分が6443万1875円,平成1
6年分が6240万7900円である。
なお,原告P1が平成14年分及び平成16年分所得税の更正の請求書並びに平
成15年分の所得税の修正申告書に記載した給与所得の金額(別表7の平成14年
分及び平成16年分は「更正の請求」欄,平成15年分は「修正申告」欄の給与所
得の金額)と同額である。
(エ)雑所得の金額
原告P1に係る各係争年分の雑所得の金額は,別表8⑤欄記載のとおり,平成1
4年分が8400円,平成15年分が351万8325円,平成16年分が2万3
700円である。
なお,原告P1が平成14年分及び平成16年分所得税の更正の請求書並びに平
成15年分の所得税の修正申告書に記載した雑所得の金額(別表7の平成14年分
及び平成16年分は「更正の請求」欄,平成15年分は「修正申告」欄の雑所得の
金額)と同額である。
(オ)分離短期譲渡所得の金額
原告P1の平成15年分の分離短期譲渡所得の金額は,別表8⑥欄記載のとおり,
マイナス98万4540円である。
なお,原告P1が平成15年分の所得税の修正申告書に記載した分離短期譲渡所
得の金額(別表7の平成15年分の「修正申告」欄の分離短期譲渡所得の金額)と
同額である。
イ退職所得金額
原告P1の平成14年分の退職所得金額は,別表8⑦欄記載のとおり,4855
万円である。
なお,原告P1が平成14年分所得税の更正の請求書に記載した退職所得金額
(別表7の平成14年分の「更正の請求」欄の退職所得金額)と同額である。
ウ所得控除額
原告P1に係る各係争年分の所得控除額は,別表8⑧欄記載のとおり,平成14
年分が207万5538円,平成15年分が192万7076円,平成16年分が
203万0234円である。
なお,上記各所得控除額の内訳は,別表8⑨ないし⑭のとおりであり,原告P1
が平成14年分及び平成16年分所得税の更正の請求書に記載した所得控除額の金
額並びに平成15年分の所得税の修正申告書に記載した所得控除額に医療費控除1
万8252円を加算した金額である。
エ課税総所得金額
原告P1に係る本件各係争年分の課税総所得金額は,上記アの総所得金額から上
記ウの所得控除額を控除した金額に,通則法118条1項の規定を適用して100
0円未満の端数を切り捨てた金額であり,別表8⑮欄記載のとおり,平成14年分
が6981万2000円,平成15年分が6983万7000円,平成16年分が
6403万1000円である。
オ課税退職所得金額
原告P1の平成14年分の課税退職所得金額は,別表8⑯欄記載のとおり,48
55万円であり,原告P1が平成14年分所得税の更正の請求書に記載した課税退
職所得金額と同額である。
カ算出税額
原告P1に係る各係争年分の算出税額は,上記エの課税総所得金額及び同オの課
税退職所得金額に,それぞれ所得税法89条1項(負担軽減措置法4条による。)
の規定を適用して算出した金額の合計額であり,別表8⑲欄記載のとおり,平成1
4年分が3881万3940円,平成15年分が2334万9690円,平成16
年分が2120万1470円である。
キ配当控除額
原告P1に係る各係争年分の配当控除額は,上記ア(イ)の各係争年分の配当所得
の金額に,所得税法92条1項の規定を適用して算出したものであり,別表8⑳欄
記載のとおり,平成14年分が4万6173円,平成15年分が5万1408円,
平成16年分が5万1408円である。
上記各配当控除額は,原告P1が平成14年分及び平成16年分所得税の更正の
請求書並びに平成15年分の所得税の修正申告書に記載した配当控除額と同額であ
る。
ク定率減税額
原告P1に係る本件各係争年分の所得税については,負担軽減措置法6条の規定
に基づき,別表8欄記載のとおり,それぞれ25万円が定率減税額として控除さ
れる。
ケ源泉徴収税額
原告P1に係る本件各係争年分の源泉徴収税額は,別表8欄記載のとおり,平
成14年分が4005万7832円,平成15年分が2328万9145円,平成
16年分が2187万8332円である。
なお,上記金額は,原告P1が平成14年分及び平成16年分所得税の更正の請
求書並びに平成15年分の所得税の修正申告書に記載した源泉徴収税額と同額であ
る。
コ納付すべき税額
原告P1に係る本件各係争年分の納付すべき税額は,上記カの算出税額から,同
キの配当控除額及び同クの定率減税額並びに同ケの源泉徴収税額を控除した金額で
あり,別表8欄記載のとおり,平成14年分がマイナス154万0065円,平
成15年分がマイナス24万0863円,平成16年分がマイナス97万8270
円である。
(2)原告P114年分更正処分,原告P115年分更正処分及び原告P116
年分通知処分の適法性
被告が主張する原告P1の各係争年分に係る納付すべき税額は,前記(1)コで述
べた金額であるところ,平成14年分は,原告P114年分更正処分(原告P1再
更正処分により減額された後のもの)による納付すべき税額と同額であるから,当
該更正処分は適法であり,また,原告P115年分更正処分及び原告P1の平成1
6年分の確定申告による納付すべき税額は,いずれも被告主張額の範囲内であるか
ら,原告P115年分更正処分及び原告P116年分通知処分はいずれも適法であ
る。
(3)原告P1平成15年分賦課決定処分の根拠
原告P1の平成15年分の過少申告加算税の額は,原告P115年分更正処分に
より新たに納付すべき税額(別表7の「平成15年分」の「更正等処分」欄の「納
付すべき税額」マイナス26万8613円と,「修正申告」欄の「納付すべき税
額」マイナス891万9583円の差額である865万0970円[ただし,通則
法119条1項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後のもの。])に,
通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨て,通則法65条1項
の規定により100分の10の割合を乗じて算出した金額であり,86万5000
円となる。
(4)原告P115年分賦課決定処分の適法性
被告が主張する原告P115年分更正処分に伴って賦課されるべき過少申告加算
税の額は,前記(3)のとおりであり,原告P115年分賦課決定処分における過少
申告加算税の額と同額である。また,当該過少申告について,通則法65条4項に
いう正当な理由があるとは認められない。
したがって,原告P115年分賦課決定処分は適法である。
2平成17年分
(1)被告主張額の根拠
ア総所得金額(別表11①)6674万7280円
上記金額は,下記(ア)ないし(エ)の金額の合計金額である。
(ア)不動産所得の金額(別表11②)481万4295円
当該金額の内訳は,別表12の「③被告主張額」欄記載のとおりであり,原告P
1が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した不動産所得の金額(別表12の
「②更正請求」欄の順号18「不動産所得金額」の金額)から,本件不動産賃貸事
業(P)に係る収入金額(別表12の「②更正請求」欄の順号2「米国不動産賃貸」
の金額)及び別件の船舶賃貸事業に係る必要経費の金額(別表12の「③被告主張
額」欄の順号14「必要経費合計」のうち,中段の金額)を減算し,同船舶賃貸事
業に係る収入金額(別表12の「③被告主張額」欄の順号3「船舶事業」の金額)
及び本件不動産賃貸事業(P)に係る必要経費の金額(別表12の「②更正請求」欄
の順号14「必要経費合計」のうち,上段の金額)を加算した金額である。
(イ)配当所得の金額(別表11③)102万5760円
上記金額は,原告P1が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した配当所得
の金額(別表10の「更正の請求」欄の配当所得の金額)である。
(ウ)給与所得の金額(別表11④)6090万2625円
上記金額は,原告P1が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した給与所得
の金額(別表10の「更正の請求」欄の給与所得の金額)である。
(エ)雑所得の金額(別表11⑤)4600円
上記金額は,原告P1が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した金額(別
表10の「更正の請求」欄の雑所得の金額)である。
イ所得控除額(別表11⑥)202万1876円
上記金額の内訳は,別表11⑦ないし⑪欄記載のとおりであり,原告P1が平成
17年分所得税の更正の請求書に記載した所得控除額である。
ウ課税総所得金額(別表11⑫)6472万5000円
上記金額は,上記アの総所得金額から同イの所得控除額を控除した金額に,通則
法118条1項の規定を適用して1000円未満の端数を切り捨てた金額である。
エ算出税額(別表11⑬)2145万8250円
上記金額は,上記ウの課税総所得金額に,所得税法89条1項(負担軽減措置法
4条による。)の規定を適用して算出したものである。
オ配当控除額(別表11⑭)5万1288円
上記金額は,上記ア(イ)の配当所得の金額に,所得税法92条1項の規定を適用
して算出したもので,原告P1が平成17年分所得税の更正の請求書に記載した配
当控除額である。
カ定率減税額(別表11⑮)25万0000円
平成17年分の所得税については,負担軽減措置法6条の規定に基づき,25万
円が定率減税額として控除される。
キ源泉徴収税額(別表11⑯)2124万3587円
上記金額は,原告P1が平成17年分所得税の更正の請求書に記載にした源泉徴
収税額の金額である。
ク納付すべき税額(別表11⑰)マイナス8万6625円
上記金額は,上記エの算出税額から同オの配当控除額及び同カの定率減税額並び
に同キの源泉徴収税額を控除した金額である。
(2)原告P117年分通知処分の適法性
被告が主張する原告P1の平成17年分に係る所得税の納付すべき税額は,前記
(1)クで述べた金額であるところ,平成17年分の原告P1の確定申告による納付
すべき税額は,マイナス83万3285円であり,被告主張額の範囲内であるから,
原告P117年分通知処分は適法である。
第3原告P4関係
1平成13年分ないし平成15年分
(1)被告の主張の根拠
ア総所得金額
亡P3に係る各係争年分の総所得金額は,下記(ア)ないし(オ)の金額の合計金額
であり,別表14①欄記載のとおり,平成13年分が4796万0525円,平成
14年分が5292万9533円,平成15年分が4736万4838円である。
(ア)不動産所得の金額
亡P3に係る各係争年分の不動産所得の金額は,別表14②欄記載のとおり,平
成13年分が4741万0525円,平成14年分が5219万1233円,平成
15年分が4571万4036円であり,その内訳は,別表15-1ないし別表1
5-3(以下,併せて「別表15」という。)「不動産所得金額計算表」の「②被
告主張額」欄記載のとおりである。
なお,亡P3が確定申告書に計上した不動産所得の収入金額及び必要経費の内訳
は,別表15の「①確定申告」欄のとおりである。
(イ)配当所得の金額
亡P3の平成15年分の配当所得の金額は,別表14③欄記載のとおり,37万
5600円である。
(ウ)給与所得の金額
亡P3に係る各係争年分の給与所得の金額は,別表14④欄記載のとおり,平成
13年分ないし平成15年分のいずれも55万円である。
(エ)雑所得の金額
亡P3の平成14年分の雑所得の金額は,亡P3が平成14年分の所得税の確定
申告書に記載した雑所得28万8512円から,米国所在の不動産に関して計上し
た10万0212円を減算した金額であり,別表14⑤欄記載のとおり,18万8
300円である。
亡P3の平成15年分の雑所得の金額は,亡P3が平成15年分の所得税の確定
申告書に記載した雑所得12万4100円から,米国所在の不動産に関して計上し
た同額を減算した金額であり,別表14⑤記載のとおり,0円である。
(オ)一時所得の金額
亡P3の平成15年分の一時所得の金額は,別表14⑥欄記載のとおり,72万
5202円である。
イ所得控除額
亡P3に係る各係争年分の所得控除額は,別表14⑦欄記載のとおり,平成13
年分が160万9984円,平成14年分が132万8078円,平成15年分が
117万5739円であり,上記各所得控除額の内訳は,別表14⑧ないし⑮欄記
載のとおりである。
ウ課税総所得金額
亡P3に係る各係争年分の課税総所得金額は,上記アの総所得金額から同イの所
得控除額を控除した金額に,通則法118条1項の規定を適用して1000円未満
の端数を切り捨てた金額であり,別表14⑯欄記載のとおり,平成13年分が46
35万円,平成14年分が5160万1000円,平成15年分が4618万90
00円である。
エ算出税額
亡P3に係る各係争年分の算出税額は,上記ウの課税総所得金額に所得税法89
条1項(負担軽減措置法4条による。)の規定を適用して算出したものであり,別
表14⑰欄記載のとおり,平成13年分が1465万9500円,平成14年分が
1660万2370円,平成15年分が1459万9930円である。
オ配当控除額
亡P3の平成15年分の配当控除額は,上記ア(イ)の配当所得の金額に,所得税
法92条1項の規定を適用して算出したものであり,別表14⑳欄記載のとおり,
30円である。
カ定率減税額
亡P3に係る各係争年分の所得税については,負担軽減措置法6条の規定に基づ
き,別表14欄記載のとおり,それぞれ25万円が定率減税額として控除され
る。
キ源泉徴収税額
亡P3に係る各係争年分の源泉徴収税額は,別表2欄記載のとおり,平成13
年分が2500円,平成14年分が3万円,平成15年分が10万5120円であ
る。
ク納付すべき税額
亡P3に係る各係争年分の納付すべき税額は,上記エの算出税額から同オの配当
控除額(平成15年分)及び同カの定率減税額(平成13年分ないし平成15年
分)並びに同キの源泉徴収税額を控除した金額に通則法119条1項の規定を適用
して,100円未満の端数を切り捨てた金額であり,別表14欄記載のとおり,
平成13年分が1440万7000円,平成14年分が1632万2300円,平
成15年分が1424万4700円である。
(2)原告P4各更正処分の適法性
被告が主張する亡P3の各係争年分に係る所得税の納付すべき税額は,前記(1)
クで述べた金額であるところ,原告P4各更正処分による納付すべき税額といずれ
も同額であるから,原告P4各更正処分は,いずれも適法である。
(3)原告P4各賦課決定処分の根拠
亡P3の平成13年分ないし平成15年分の過少申告加算税の額は,原告P4各
更正処分により新たに納付すべき税額(別表13の各年に係る「更正及び賦課決
定」欄の「納付すべき税額」と「確定申告」欄の「納付すべき税額」の差額であ
り,平成13年分が1416万4500円,平成14年分が1552万2100
円,平成15年分が1417万2800円となる。)に,通則法118条3項の規
定により1万円未満の端数を切り捨て,通則法65条1項の規定により100分の
10の割合を乗じて算出した金額及び同2項の規定により期限内申告税額に相当す
る金額と50万円とのいずれか多い金額を超える部分の税額(平成13年分が13
66万4500円,平成14年分が1469万1900円,平成15年分が136
7万2800円。ただし,通則法118条3項の規定により1万円未満の端数を切
り捨てた後のもの。)に100分の5の割合を乗じて算出した金額の合計であり,
平成13年分が209万9000円,平成14年分が228万6500円,平成1
5年分が210万0500円となる。
(4)原告P4各賦課決定処分の適法性
被告が主張する原告P4各更正処分に伴って賦課されるべき過少申告加算税の額
は,前記(3)のとおりであり,これらの金額は,原告P4各賦課決定処分における
過少申告加算税の額といずれも同額である。また,当該過少申告について,通則法
65条4項にいう正当な理由があるとは認められない。
したがって,原告P4各賦課決定処分はいずれも適法である。
2平成16年分及び平成17年分
(1)被告主張額の根拠
ア総所得金額
亡P3に係る各係争年分の総所得金額は,下記(ア)ないし(エ)の金額の合計金額
であり,別表17①欄記載のとおり,平成16年分が4356万8533円,平成
17年分が1858万4976円である。
(ア)不動産所得の金額
亡P3に係る各係争年分の不動産所得の金額は,別表17②欄記載のとおり,平
成16年分が4225万9233円,平成17年分が1728万4176円であ
り,その内訳は,別表18-1「不動産所得金額計算表」の「③被告主張額」欄及
び別表18-2「不動産所得金額計算表」の「④被告主張額」欄記載のとおりであ
る。
(イ)配当所得の金額
亡P3に係る各係争年分の配当所得の金額は,別表17③欄記載のとおり,平成
16年分が75万0600円,平成17年分が75万0800円である。
(ウ)給与所得の金額
亡P3に係る各係争年分の給与所得の金額は,別表17④欄記載のとおり,平成
16年分が55万円,平成17年分が55万円である。
(エ)雑所得の金額
亡P3に係る各係争年分の雑所得の金額は,別表17⑤欄記載のとおり,平成1
6年分が8700円である。
イ分離長期譲渡所得金額
亡P3の平成17年分の分離長期譲渡所得金額は,別表17⑥欄記載のとおり,
9021万2397円である。
ウ所得控除額
亡P3に係る各係争年分の所得控除額は,別表17⑦欄記載のとおり,平成16
年分が111万8291円,平成17年分が108万0639円であり,別表17
⑧ないし⑬欄の金額の合計金額である。
エ課税総所得金額
亡P3に係る各係争年分の課税総所得金額は,上記アの総所得金額から同ウの所
得控除額を控除した金額に,通則法118条1項を適用して1000円未満の端数
を切り捨てた金額であり,別表17⑭欄記載のとおり,平成16年分が4245万
円,平成17年分が1750万4000円である。
オ課税分離長期譲渡所得金額
亡P3の平成17年分の課税分離長期譲渡所得金額は,上記イの分離長期譲渡所
得金額に,通則法118条1項を適用して1000円未満の端数を切り捨てた金額
であり,別表17⑮欄記載のとおり,9021万2000円である。
カ算出税額
亡P3に係る各係争年分の算出税額は,上記エの課税総所得金額に所得税法89
条1項(負担軽減措置法4条による。)を適用して算出した金額(別表17⑯欄記
載のとおり)と,上記オの課税分離長期譲渡所得金額に租税特別措置法31条1項
を適用して算出した金額(別表17⑰欄記載のとおり)の合計であり,別表17⑱
記載のとおり,平成16年分が1321万6500円,平成17年分が1755万
3000円である。
キ配当控除額
亡P3に係る各係争年分の配当控除額は,上記ア(イ)の本件各係争年分の配当所
得の金額に,所得税法92条1項を適用して算出したものであり,別表17⑲欄記
載のとおり,平成16年分が30円,平成17年分が40円である。
ク定率減税額
亡P3に係る各係争年分の所得税については,負担軽減措置法6条に基づき,別
表17⑳欄記載のとおり,それぞれ25万円が定率減税額として控除される。
ケ源泉徴収税額
亡P3に係る各係争年分の源泉徴収税額は,別表17欄記載のとおり,平成1
6年分が18万0120円,平成17年分が18万0160円である。
コ納付すべき税額
亡P3に係る各係争年分の納付すべき税額は,上記カの算出税額から同キの配当
控除額及び同クの定率減税額並びに同ケの源泉徴収税額を控除した金額に,通則法
119条1項を適用して100円未満の端数を切り捨てた金額であり,別表17
欄記載のとおり,平成16年分が1278万6300円,平成17年分が1712
万2800円である。
(2)原告P4各通知処分の適法性
被告が主張する亡P3の各係争年分に係る所得税の納付すべき税額は,上記(1)
コで述べた金額であるところ,原告P4各通知処分(ただし,平成21年6月23
日付け更正処分により減額された後のもの)による納付すべき税額といずれも同額
であるから,当該各通知処分はいずれも適法である。
別紙9
当事者の主張の要旨
1本案前の争点(本件予備的追加的変更に係る訴えの適法性・B事件)
(被告の主張)
(1)不服申立て前置について
ア更正処分は,課税庁が課税要件事実を全体的に見直し,申告に係る部分も含め
て全体としての税額を総額的に確定する処分であり,通知処分は,新たに税額を確定
する効果はないが,納税者の更正の請求に対し減額更正を拒否し,申告税額等につい
て減額を認めないことを確認する効果を有する処分である。通知処分と増額更正は,
飽くまで別個独立の処分であり,処分の理由も異なるのであるから,実体法上当然に
一方が他方に吸収されるものではない。そして,通知処分及び増額更正の双方につい
て適法に取消訴訟が提起された場合に初めて,審判の矛盾・抵触を避けるため,通知
処分は増額更正に包摂され,訴訟上吸収されると解されるのであって,その前の段階
において,両処分は併存するのであるから,処分の確定を妨げるためには,それぞれ
について,不服申立てを行った上,出訴期間内に取消訴訟を提起する必要があるとい
うべきである。
イまた,国税に関する処分について不服申立て前置を要求している(通則法11
5条1項本文)のは,国税に関する処分については,課税標準の認定が複雑かつ専門
的であるため,司法審査を行う前に,専門的な知識と経験を有する行政庁に再検討の
機会を与え,その自主的解決を期待することと同時に,大量かつ反復的に行われる国
税に関する処分について,訴訟が大量に提起されることを回避するとともに,税務行
政の統一的,安定的運用を図ることを可能とすることも目的とするものである。
本件においては,原告P114年分通知処分は,本件不動産賃貸事業(P)に係る
不動産所得の損失(以下「本件LPS(P)損失」という。)について損益通算をす
べき更正請求について,更正すべき理由がない旨を通知したものであり,他方,原告
P114年分更正処分は,原告P1の行った船舶リース事業で発生した損失(以下
「船舶リース事業損失」という。)を不動産所得との合算を認めず,原告P1の不動
産所得の金額を増額する更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたものであ
り,原告P114年分通知処分に係る争点とは異なる理由で更正処分等が行われてい
るのである。かかる別個の理由に基づく更正がされている原告P114年分更正処分
について,改めて行政庁の再検討を促すべきことが,上記の不服申立前置制度の趣旨
に照らして要請されていたというべきである。
ウよって,本件予備的追加的変更に係る訴えは,不適法である。
(2)出訴期間の経過について
通知処分と増額更正は別個独立の処分であり,双方につき適法に取消訴訟が提起さ
れるまでは,両処分が併存し,それぞれ個別に不服申立ての対象となるのであるから,
出訴期間についても個別に進行すると解すべきである。そのように解しても,各処分
ごとに不服申立手続に関する教示がされていることからすると,納税者の不利益にな
るとはいえない。
更正処分は,課税庁が課税要件事実を全体的に見直し,申告に係る部分も含めて全
体としての税額を総額的に確定する処分であり,通知処分は,新たに税額を確定する
効果はないが,納税者の更正の請求に対し,申告納税額等について減額を認めないこ
とを確認する効果を有する別個独立の処分であることから,両者は異なる。そして,
上記のとおり,原告P114年分通知処分と原告P114年分更正処分とはそれぞれ
処分の理由が異なるから,訴え変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提
起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段
の事情があると見ることはできない。
(原告P1の主張)
(1)不服申立て前置について
ア通則法115条1項本文が不服申立ての前置を要求した趣旨は,①専門的な知
識と経験を有する審査庁に国税に関する処分の当否について再検討させる機会を与え
ること,及び②所定の期間内に不服申立てがされない限り,当該処分の効果を前提と
して,その後の徴収事務等を行うことを可能とし,税務行政の安定を図ることにある。
他方,同項ただし書が明文をもって例外事由を規定したのは,形式的に不服申立てが
前置されていない場合であっても,同項本文の趣旨に照らして,具体的・実質的な観
点から検討して,当該訴えがその趣旨に反していない場合には,例外的に納税者を救
済するためである。それゆえ,同項ただし書の「正当な理由」があるか否かの判断に
当たっては,形式的に不服申立てが前置されていないという事実は一旦捨象した上で,
飽くまでも当該事案に即して具体的・実質的に見て,当該訴えを適法と解することが
同項本文の趣旨に反するのか否かという観点から検討を行うことが必要である。
イ本件では,原告P114年分通知処分は,平成17年2月25日金曜日に,原
告P114年分更正処分は,開庁日としては翌日に当たる同月28日月曜日にされて
おり,これら各処分は,実質的に,1つの判断に基づいた1つの処分であると評価で
きる。そうすると,具体的・実質的には,原告P114年分通知処分を争うことは原
告P114年分更正処分をも争うことに等しく,原告P114年分通知処分とは別個
独立に原告P114年分更正処分を争わせることにより,行政庁に再検討の機会を付
与すべきことについての合理性はないというべきである。
したがって,本件においては,本件予備的追加的変更に係る訴えについて「正当な
理由」がないと判断することは著しく不合理である。
ウまた,通知処分を取り消す旨の判決が確定すれば,税務署長は,後の増額更正
の有無にかかわらず,判決に従って総額的に正しい税額の確定行為としての減額更正
を行うことになるところ,本件では,原告P1が先行処分である原告P114年分通
知処分を争っている以上,後行処分である原告P114年分更正処分が確定すること
はなく,また,上記イのとおり,これら各処分は実質的に1つの処分であると評価で
きる以上,その先行処分が争われている場合は後行処分についても実質的には争われ
ていることと同視でき,税務行政の安定化の要請は既に失われているといえる。
したがって,税務行政の安定化の要請から,本件予備的追加的変更に係る訴えにつ
いて「正当な理由」がないと判断することは著しく不合理である。
エそして原告P114年分通知処分と原告P114年分更正処分とは,次に述べ
るとおり,(ア)各処分が処分の理由を共通にし,(イ)不服申立てにおいて攻撃する点
も専ら共通の処分理由に対するものであり,(ウ)かつ,それに対する行政庁等の判断
が1つの処分に対する不服申立手続において既に示されていて変更の余地がないから,
原告P114年分更正処分を争う本件予備的追加的変更に係る訴えには「正当な理
由」があるというべきである。
(ア)処分の理由が共通であること
原告P114年分通知処分は,原告P1が本件LPS(P)を通じてした米国不動
産事業から生じた損失(本件LPS(P)損失)について,刈谷税務署長が所得税法
上の損益通算を認めず,原告がした更正の請求に理由がない旨を判断したものである。
他方,原告P114年分更正処分は,同じく本件LPS(P)損失及び原告がこれと
は無関係に行っていた船舶リース事業損失について,刈谷税務署長が所得税法上の損
益通算を認めず,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたものであり,本件
LPS(P)損失について所得税法上の損益通算を認めないとの理由は,これら各処
分に共通している。
(イ)不服申立てにおいて攻撃する点が共通の処分理由に対するものであること
原告P1は,原告P114年分通知処分につき,本件各LPS(P)損失について
所得税法上の損益通算を認められなかったことを争い,また,原告P114年分更正
処分についても,同じ本件LPS(P)損失について所得税法上の損益通算を認めら
れなかったことは争っているが,船舶リース事業損失について所得税法上の損益通算
を認められなかったことについては一貫して争っていない。
(ウ)行政庁等の判断が1つの処分に対する不服申立手続において既に示されてい
て変更の余地がないこと
原告P114年分通知処分と原告P114年分更正処分とは,上記のとおり実質的
に1つの処分であると評価できるところ,国税不服審判所も,原告P114年分通知
処分に係る審査請求事件において,原告P114年分更正処分を併せ審理の上,原告
の審査請求を棄却しており(国税不服審判所平成19年1月22日裁決),かかる結
果に鑑みれば,結局,本件各LPS(P)損失について所得税法上の損益通算を認め
ないことにつき,刈谷税務署長や国税不服審判所長の判断が変更される余地は全くな
かったのである。
(2)出訴期間の経過について
ア「正当な理由」の存否は,出訴期間経過の原因など諸々の事情を総合して,遅
れた出訴を許容するのが社会通念上相当と評価できるかどうかという基準によるべき
である。
イ本件では,原告P1は,平成16年3月15日,刈谷税務署長に対して本件L
PS(P)損失が計上漏れであったとして更正の請求を行ったところ,平成17年2
月25日,本件LPS(P)損失の損益通算は認められないという理由で原告P11
4年分通知処分を受け,これを争う必要があると認識した。
他方,刈谷税務署長は,原告P1に対し,開庁日としては翌日にあたる同月28日,
本件船舶リース事業損失の損益通算も認めないとして原告P114年分更正処分を行
った。原告P114年分更正処分は,法的には,本件LPS(P)損失及び船舶リー
ス事業損失のいずれも損益通算を認めないこととして行われた処分であるが,原告P
1からすれば,原告P114年分通知処分において本件各LPS(P)損失の損益通
算を認めないという刈谷税務署長の判断が示された後,これとは別に原告P114年
分更正処分がなされたことから,当該更正処分は,船舶リース事業損失を認めない趣
旨でされたものと考えるのは無理からぬところであり,原告P1は,船舶リース事業
損失の損益通算が認められないことを争うつもりはなかったことから,原告P114
年分更正処分を争う必要があるとは認識しなかった。
原告P1が,このような認識を有するに至ったことを単なる法の不知にすぎないと
して片付けることは,原告のような,必ずしも法的に十分な知識を有しない納税者に
とって極めて酷な結果となるのであって,社会通念上相当と評価することはできない。
ウなお,原告P114年分通知処分時に,処分に不服がある場合には当該処分を
争うべきことが教示されているが,その後に原告P114年分更正処分が出された時
点では,当該更正処分に不服がある場合には,これを争うべきことが教示されるだけ
であり,通知処分がなされた後に更正処分がなされた場合に,どちらの処分を争えば
よいかについては教示されない。教示制度は行政不服審査制度の目的を果たすための
法治国の本質的不可欠の制度であり,国民が権利利益の簡易迅速な救済を受ける機会
を拡張するという意味で極めて重要な制度であるところ,原告P114年分更正処分
に係る教示では,いかなる処分を争うべきか分かり易く示されておらず,教示制度の
根本的な目的は果たされていない。
エ以上の事情を総合すれば,予備的追加的変更に係る原告P114年分更正処分
の取消しを求める訴えは,出訴期間の関係では,当初の訴え(原告P114年分通知
処分の取消しを求める訴え)の時から既に提起されていたものと同視するのが相当で
あり,かつ当初の訴えについての出訴期間は遵守されているから,原告は,出訴期間
経過後であっても,原告P114年分更正処分の取消しを求める訴えを提起できるこ
とについて正当な理由がある。
2本案の争点(本件各処分の適法性=損益通算の可否・全事件)
(1)本件各LPSの租税法上の法人該当性
(被告の主張)
ア判断基準
(ア)我が国において,租税法上も私法上も法人の意義を定義付ける規定が存しな
いことを前提として,我が国の私法の一般法である民法の解釈に基づき,法人とは
「自然人以外のもので権利義務の主体となることのできるもの」をいうと定義付け,
その意義を明らかにした上で,この法人の意義に基づき,外国の法令によって設立さ
れた事業体が,①その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有するか否か,
②その名において契約を締結し,その名において権利を取得し義務を負うなど独立し
た権利義務の帰属主体となり得るか否か,③その権利義務のためにその名において訴
訟当事者となり得るか否かという3つの判断基準を全て満たす場合には,我が国私法
上の法人に該当すると解すべきである。
(イ)そもそも,どのような団体に法人格を付与するか,また,法人格を付与する
ことによって法人にどのような権利能力を認めるかは,それぞれの国家の立法政策の
問題に帰するものである。したがって,ある外国の法人制度が,我が国と同じもので
ないことも十分想定されるところである。
原告らは,法人に権利能力が認められるのは法人格を与えられた効果であるから,
事業体に認められる権利能力の内容を法人該当性の判断基準とすることは誤りである
かのように主張するが,法人制度が立法政策の問題に帰するのと同様に,どのような
方法で法人格すなわち権利能力を与えるかということも立法政策の問題である。この
点,我が国においては,民法33条が法人法定主義を採っているところ,そもそも法
人制度の目的は,ある集団に団体としての権利能力を認めることであるから,我が国
の法人法定主義も当該目的を達成するための手段・方法の1つと位置付けられるもの
であり,我が国と法制度や法人制度の異なる外国においては,我が国の法人法定主義
とは異なる手段・方法で権利能力を認めることもあり得る。
また,外国と我が国の法人制度や法令用語の概念が異なることを前提とすれば,外
国の法人制度に基づいて与えられた法人格すなわち権利能力の内容と,我が国の法人
に与えられている法人格すなわち権利能力の内容とが異なる可能性のあることを否定
することはできない。そうすると,このような前提の下で外国の事業体が我が国の私
法上の法人に該当するか否かを判断するに当たっては,当該外国の事業体が(我が国
の法人制度とは異なる可能性のある)外国の法人制度に基づいて与えられる法人格な
いし権利能力の内容が,我が国の法人制度において法人に与えられる法人格すなわち
権利能力と同等の内容か否かを確認する必要があるというべきである。
以上のことからすると,外国の事業体が我が国の私法上の法人に該当するか否かを
判断するに当たっては,当該外国の事業体に与えられる権利能力の内容が我が国の私
法上の法人に与えられる権利能力の内容と同等と認められるか否かという基準により
判断することが必要である。
そして,外国の事業体が我が国の法人に認められる権利能力と同等の権利能力を有
していると認められるか否かを判断するに当たっては,当該事業体の設立準拠法が重
視されるべきであることはいうまでもないが,当該外国の法制度やその国が選択して
いる法人制度が我が国とは異なる可能性がある以上,当該事業体の設立準拠法の内容
のみに着目して判断すれば足りるとまではいえない。
したがって,外国の事業体の法人該当性については,当該事業体の設立準拠法に加
えて,設立契約の内容,実際の活動実態,財産や権利義務の帰属状況等を考慮して,
個別具体的に判断する必要があるというべきである。
(ウ)原告らは,法人格の有無は専ら形式的な基準により判断されるべきであると
した上で,その基準として,当該外国の事業体の根拠法において,その事業体が
「corporation」,「bodycorporate」,「juristicperson」又はこれらと同等の概
念に該当するものと規定されているか否かによるべきであると主張する。そして,米
国法上の「corporation」と我が国の「法人」について,「同等のものと理解するの
が合理的」としているところ,その根拠は,「米国法上の「corporation」は,日本
法を設立準拠法とする「法人」と同じ法的性質を全て等しく有している。」ことにあ
る。しかし,この見解は,次のとおり失当である。
まず,原告らが我が国の法人と同等のものと理解されるという「corporation」に
加えて,「bodycorporate」と「juristicperson」の2つを特に列挙する根拠が不
明である上,「これらと同等の概念」とはいかなるものか,その範囲が不明確である。
原告らが,米国における法人制度(corporation制度)において法人格を付与する規
定の仕方には,使用される用語も含めて様々な方法があり得ることを前提としている
のであれば,どのような用語が「これらと同等の概念」に該当するのかを検討する必
要が生じ,その際は対象となる事業体の性質を規定する用語の実質的な内容・概念を
確認した上で判断するほかないと思われるから,もはや「専ら形式的な基準」により
判断できるものではないことになる。
また,米国の法人税においては「corporation」の範囲が不明確であり,過去にお
いては,課税上,法人との区別を行うためにキントナー規則と呼ばれる6つの基準に
基づき個々の事業体ごとに判断するという取扱いが行われていたが,その認定が極め
て煩雑かつ複雑であったため,現在は企業の申告における選択にゆだねるチェック・
ザ・ボックス制度が採用されるようになった。これによれば,米国内においてさえ,
租税法上,「corporation」の概念に該当するか否かを「専ら形式的な基準」により
判断することは困難であるといえる。
結局,原告らは,外国の事業体の法人該当性を当該外国の事業体の根拠法において
その事業体に法人格が与えられているか否かで判断するとしながら,その事業体の設
立地における準拠法等(本件においては州LPS法)における「corporation」等の
意義や法的性質については具体的に明らかにしないまま,内容が一致しない可能性の
あることを考慮せず,一般的な英米法における「corporation」の概念やドイツ法に
おける「juristicperson」の概念について検討した結果のみを根拠として,「専ら
形式的な基準」による判断が可能であるとする結論を導き出そうとしているのであり,
その過程における論証が欠けているといわざるを得ない。
原告らは,我が国の外国法人の意義ないし判断基準として,旧民法33条及び36
条1項の規定等を根拠として,①法律の規定により成立すること,②権利義務の主体
となること,③社団であること,④商事会社であることを挙げる。
これによれば,社団であるか否かは昭和39年最判によって示された人格のない社
団等に該当するか否かの判断基準となる4要件を満たすか否かにより決することにな
るが,組合としての実質を有し,上記4要件を満たすか否かについて見解が分かれ得
る合名会社にも法人格が与えられているように,根拠法により法人格が与えられてい
る事業体が,常に社団に該当するとはいえず,必ずしも社団の要件に該当しない事業
体でも,法律により法人格を与えられれば法人としての権利能力を有する。したがっ
て,社団であることを我が国の法人該当性の要件の1つであるとする原告らの主張は
失当である。
さらに,原告らは,「外国法の規定により成立する」という要件は,旧民法33条
の定めと,同法36条1項が定める「外国法人」の解釈に由来するものであるとし,
その内容については,我が国における法人の典型例である株式会社と比較することに
より,当事者間の契約により組成されるものではなく,創設的に設立されるものでな
ければならず,このような要件を満たすためには,社団的な合同行為によって設立さ
れる必要があるとした上で,本件各LPSは合同行為によって設立されるものではな
いから上記要件を満たさないと主張する。
しかし,旧民法33条は法人法定主義を宣明したものあるが,文理上,この規定か
ら直ちに,原告らが主張するように,我が国の法人は「社団的な合同行為によって設
立される必要がある」という要件を読み取ることはできない。旧民法36条も,具体
的な成立要件として,創設的効力を有する社団的な合同行為による設立が必要である
ことまで定めているとは解されない。よって,原告らの主張には論理の飛躍がある。
(エ)さらに,以下のとおり,原告らの被告の主張に対する反論も失当である。
a原告らは,法人該当性の判断方法に関する被告の主張について,我が国私法上
は,ある事業体に法人格が付与されるか否かは,法律により「法人」と規定されるか
否かのみによって決せられるという法人法定主義が採られているのであって,我が国
私法上の概念としての「法人」の該当性判断基準ないし要件というものを解釈のみに
よって導き得るという,およそ我が国の法人法定主義の下では背理としかいえない独
自の誤った見解に固執していると批判する。
しかしながら,法人法定主義を採る民法33条1項は,我が国において法人を「成
立」させる方法としていかなる立場を採るかに関し,団体の構成員の合意のみによっ
て当該団体を法人として成立させることを許すというような立場(自由設立主義)で
はなく,民法その他の我が国の国内法に基づく手続を経た場合に限って法人として成
立するとの立場を採ることを宣言するにとどまり,外国において当該外国の法令に基
づいて成立した事業体が我が国の私法上ないし租税法上の法人として取り扱われるか
否かの問題を規律する規定ではない。
そして,被告は,外国において当該外国の法令に基づいて成立した事業体が上記
(ア)①ないし③の基準を全て満たす場合には我が国私法上ないし租税法上の法人とし
て取り扱われると主張するものであるが,ここで「法人として取り扱われる」という
場合の「法人」とは,我が国の国内法(私法)一般にいう「法人」,すなわち「自然
人以外のもので,権利義務の主体となることができるもの」のことであり,民法その
他の我が国の国内法に基づく手続を経た「法人」,すなわち民法33条1項の「法
人」のことではない。
原告らの上記主張は,本件で争点となっている我が国の国内法(私法)一般にいう
「法人」の意義と民法33条1項にいう「法人」の意義とをいたずらに混同させるも
ので,失当というほかない。
bまた,原告らは,被告が主張する「法人」の判断基準は,租税法の明文規定が
外国の「人格のない社団等」を観念してこれを外国法人とみなしていることと整合し
ないと主張する。
しかしながら,被告が主張する判断基準は,まず,当該事業体がその設立準拠法等
により我が国の私法上の法人と同等の権利能力を与えられているか否かによって法人
該当性を判断するものであり,外国の人格のない社団の該当性については,我が国の
私法上の法人と同等の権利能力が付与されていないことを前提として,昭和39年最
判に示された4つの要件に該当するか否かを判断するものである。すなわち,法人に
該当するか否かの判断は,人格のない社団に該当するか否かの判断とは判断基準が異
なる。
そして,昭和39年最判に示された人格のない社団の該当性の判断基準は,①団体
としての組織を備え,②多数決の原則が行われ,③構成員の変更にもかかわらず団体
そのものが存続し,④その組織により,代表の方法,総会の運営,財産の管理その他
団体としての主要な点が確定していることであるが,この4つの要件を満たす事業体
でも,当該外国の法制度の下で,権利義務が構成員に総有的に帰属して,事業体自体
は権利義務の帰属主体とはならないとか,その名において訴訟当事者となり得るとい
う立法政策が採られないということはあり得るから,法人に該当しない事業体が人格
のない社団に該当することはあり得る。
このように,外国の事業体においても,法人及び人格のない社団の該当性について
は,判断基準も異なるのであるから,内国の事業体と同様に,明確に区分けされる。
c原告らは,日米租税条約及び日米友好通商航海条約が定める内国民待遇の規定
との比較に基づき,被告の法人該当性の判断方法を論難する。
すなわち,原告らは,日米租税条約において,①「法人」とは,法人格を有する団
体又は租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体をいう旨規定され(3
条1項(f)),上記「法人格を有する団体」に当たる英語として「bodycorporate」
という用語が用いられていること,及び②「法人以外の団体」に「partnership」が
含まれると規定されている(日米租税条約議定書2項)ことなどをもって,「body
corporate」とされてはじめて「法人格を有する団体」,すなわち,我が国において
法人格を法律上与えられた法人におけるのと同様の意味において「権利義務の主体と
なる」事業体であることが明らかにされるものというべきであると主張する。
しかしながら,日米租税条約3条1項(f)は,「法人」とは,法人格を有する団体
又は租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体をいうと規定し,ここで
は「法人格を有する団体」のみならず,「租税に関し法人格を有する団体として取り
扱われる団体」をも含めて「法人」と定義されている。したがって,本件各LPSの
ように,我が国の租税法上の「法人」に当たる事業体については,日米租税条約にお
いて「法人」として扱われることになる。
また,日米租税条約の英語の正本において,上記日米租税条約の日本語の正本の
「法人格を有する団体」に当たる英語が「bodycorporate」とされ,LPSがLPS
法で「separatelegalentity」とされているからといって,そのことから直ちに我
が国の租税法上の「法人」に該当しないということはできない。我が国の租税法上の
「法人」に該当するか否かは,「separatelegalentity」として有する権能の内容
をも踏まえて判断すべきである。
d原告らは,さらに,原告らは,デラウェア州において法人格を有しない事業体
が「separatelegalentity」とされていることを理由に,当該事業体が我が国にお
いて法人格を法律上与えられた法人におけるのと同様の意味において「権利義務の主
体となる」と判断するならば,内国民待遇を定める日米友好通商航海条約11条1項
に反することになると主張する。
そもそも日米友好通商航海条約11条1項の規定は,いずれか一方の締約国の国民
又は会社で他方の締約国の領域内で貿易その他営利的活動等の活動を行う場合に適用
される規定であるところ,本件各LPSは日本で営利的活動を行っているわけではな
く,同条項の適用の前提を欠く。また,本件各LPSに内国民待遇を与えることと,
本件において,我が国の租税法の解釈適用上,本件各LPSがいかなる事業体かを解
釈して原告ら投資家の所得の性質を検討することとは,全く次元を異にするというべ
きであり,原告らの上記主張は失当というほかない。
e原告らは,平成17年度税制改正により設けられた本件措置法特例は,平成1
8年1月1日までは,リミテッド・パートナーが,LPSを通じた不動産投資により
不動産所得を得て損益通算することが可能であったことを前提として立法されたもの
であったと解するのが自然かつ合理的であり,この特例により損益通算の否認規定が
設けられる前の課税年度において,解釈により所得分類を変更して損益通算を否認す
るのは,明文のない否認というべきである旨主張する。
しかしながら,本件措置法特例の対象となる「組合契約」とは,措置法41条の4
の2第2項1号において,「民法第667条第1項に規定する組合契約及び投資事業
有限責任組合契約に関する法律第3条第1項に規定する投資事業有限責任組合契約並
びに外国におけるこれらに類する契約(政令で定めるものを含む。)をいう」と規定
されており,同号所定の「外国におけるこれらに類する契約」には,「外国における
有限責任事業組合契約(有限責任事業組合契約に関する法律第3条第1項に規定する
有限責任事業組合契約をいう。)に類する契約」が含まれる(措置法施行令26条の
6の2第5項)。
ところで,外国における任意組合契約及び投資事業有限責任組合契約に類する契約
に基づく事業体が,我が国の租税法上の「法人」と認められる場合には,当該事業体
の活動により生じた所得は,当該事業体に帰属することとなり,当該所得が各組合員
に直接帰属しないことから,当該事業体の成立の根拠となる契約は,本件措置法特例
の対象となる「組合契約」に該当しないことになる。このように,本件措置法特例は,
我が国の租税法上の「法人」と認定されたパートナーシップ契約に基づく事業体を対
象にしていないのであるから,その構成員であるパートナーに適用されないことは明
らかである。
本件において,本件各受託銀行は,我が国の租税法上の「法人」である本件各LP
Sのパートナーであるから,本件各受託銀行については,本件措置法特例が適用され
ることはなく,本件措置法特例の施行の前後を問わず,本件各受託銀行(を介した原
告ら投資家)に対する課税上の取扱いは何ら変わらない。
したがって,本件措置法特例により損益通算の否認規定が設けられる前の課税年度
において,解釈により所得分類を変更して損益通算を否認するのは,明文のない否認
というべきであるとの原告らの主張は,本件措置法特例を原告らが自己に都合よく曲
解したものであり,失当である。
なお,原告らは,本件スキームは,減価償却及び損益通算の各制度をいずれも本来
の目的に従って利用しているのであるから,投資家が得る租税負担の軽減という税効
果は,法律を適用した結果にすぎない旨主張する。
しかしながら,「平成17年度の税制改正に関する答申」は,「組合員からの出資
と借入金を原資として購入した高額な減価償却資産(航空機,船舶等)を他の者に貸
し付ける事業を営み,減価償却費や借入金利子を計上することによって創出した組合
損失を組合員に帰属させ,組合員の他の所得を圧縮して税負担の軽減を実現させてい
るケース」について,「このような租税回避行為を防止するため,適切な対応措置を
講じる必要がある」と指摘しており,このような指摘等を踏まえ,平成17年度税制
改正において設けられたのが,本件措置法特例である。
上述のとおり,本件各LPSが我が国の租税法上の「法人」である以上,本件各L
PS契約はこの特例の適用対象となる「組合契約」には当たらないのであるが,本件
スキームに係る本件各説明書に記載されている内容によれば,これが上記「平成17
年度の税制改正に関する答申」で指摘された「租税回避行為」に該当することは明ら
かであるから,本件スキームは減価償却及び損益通算の各制度を本来の目的に従って
利用しているといえるようなものではない。原告らの上記主張からすると,原告らも
本件各不動産投資事業が上記特例で規制対象とした租税回避行為に該当することを認
めるものといえる。
イ法人該当性
(ア)本件各LPSは権利義務の帰属主体となりうる事業体であること
a①本件各LPSは,構成員である各パートナーとは別個の独立した法的主体
(separatelegalentity)として,本件各不動産賃貸事業の遂行のために必要な契
約の締結や権利行使等あらゆる行為を行うことができる。②本件各LPSは自ら独立
して負債,債務及び責任を負担するが,この本件各LPSの個別の債務等について,
本件各受託銀行のようなリミテッド・パートナーが債務の弁済等の個人的な義務及び
責任を負うことはない。③本件各GPは,本件各LPSを代理して,本件各LPSの
名義において本件各不動産賃貸事業の遂行に必要なあらゆる行為を行うことができ,
本件各LPSは,買主として本件各売買契約を締結して本件各建物の所有権を取得し,
本件各土地賃貸借契約を締結して本件各土地を賃借し,本件各不動産賃貸事業のため
に多額の資金を借り入れ,本件各管理契約を締結して本件各不動産の管理を委託する
など,自ら契約当事者として契約を締結し,権利を取得するとともに義務を負ってい
る。
以上のことからすれば,本件各LPSは,独立した権利義務の帰属主体として存在
し,活動を行っているといえる。
実際,本件においても,本件各LPSは,買主として本件各売買契約を締結して本
件各建物の所有権を取得し,本件各土地賃貸借契約を締結して本件各土地を賃借し,
本件各不動産の管理契約を自ら契約当事者として締結して管理を委託し,自らが契約
当事者(貸主)として賃貸借契約を締結しているのであるから,本件各不動産賃貸事
業の対象となる本件各建物を「借主」に使用収益させ,それによって対価を得ている
のは,本件各LPSである。
一方,本件各LPは,本件各LPSの管理又は運営に参加してはならず,いかなる
事項に関しても,本件各LPSの名前で行為する権限又は権利を有さないこととされ,
本件各LPSの管理及び運営については,本件各GPに独占的に権限又は権利が付与
されている。
したがって,賃貸事業の対象となる本件各建物を借主に貸し付ける債務を履行して
いるのは,本件各LPSであり,本件各LPが本件各建物を貸し付けているのではな
い。
bそして,①本件各LPSは構成員である各パートナーとは別個の独立した法的
主体(separatelegalentity)であること,②本件各LPSは,その事業,目的の
ために必要ないかなる権利をも保有しそれを行使することができ,本件各不動産を購
入するなど自らの名義で資産を取得・保有することができること,③各パートナーは
本件各LPSの資産に対していかなる持分も有さないこと(本件各LPS契約では,
各パートナーは,本件各LPSの資産に,そのパートナーシップ出資割合に相当する
分配されない持分を有すると規定されているものの,ここでいう持分とは,パートナ
ーシップの資産全体(Partnership'sproperty)に対する持分を意味し,パートナー
シップの有する個別の資産(州LPS法701条が規定するspecificlimited
partnershipproperty)に対する持分を意味するものではなく,また,各パートナー
は,本件各LPSの資産に関する分割の訴訟を行うために有する権利を放棄する旨規
定されていることから,各パートナーは,本件各LPSの資産に対して何らの持分も
実質的には有していないものといえる。),④本件各LPSが所有する資産は本件各
LPSの名義で登録することができ,本件各建物の譲渡は,いずれも本件各LPSの
名義で米国の登録所に登録されていることからすれば,本件各LPSは,独立した法
的主体として,構成員である各パートナーの個人財産とは明確に区別された独自の財
産を有しているといえる。
cさらに,本件各LPSの設立準拠法,設立契約の内容,実際の活動内容,財産
や権利義務の帰属状況等からすると,本件各LPSは,本件各LPSの名義において,
訴訟を提起し,訴訟を提起されるなどの自ら法的手続を行う権限・能力を有している。
dしたがって,本件各LPSは,構成員の個人財産とは区別された独自の財産を
有し,独立した権利義務の帰属主体として活動し,かつ,自己の名で訴訟当事者とな
ることもできる事業体であるから,我が国の租税法上,法主体性を有するものと認め
られる。
(イ)州LPS法に「separatelegalentity」と規定されていることが,本件各
LPSの法人該当性を判断する際のメルクマールになり得ること
a本件各LPSの設立準拠法である州LPS法の201条(b)において,州LP
S法に基づくLPSが独立した法的主体(separatelegalentity)であると規定さ
れているが,このことが,被告の主張する法人か否かの基準となる①その構成員の個
人財産とは区別された独自の財産を有するか否か,②その名において契約を締結しそ
の名において権利を取得し義務を負うなど独立した権利義務の帰属主体となり得るか
否か,③その権利義務のためにその名において訴訟当事者となり得るか否かを検討す
る際の要素の1つとして当然に考慮されることは明らかである。ただし,被告は,本
件各LPSが,州LPS法において「separatelegalentity」と規定されているこ
とのみをもって,本件各LPSの我が国租税法上の法人該当性を主張するものではな
く,上記①ないし③のいずれをも満たすことを主張するものである。
bそして,州LPS法には,LPSがパートナーとは別個の存在であることを表
す,次のような規定がある。
(a)201条(b)は,「LPSは,LPS証明書が最初に州務長官登録局に登録さ
れた時点,あるいはLPS証明書に記載された(当該登録後の)日付にて設立される
ものとし,いずれの場合においても,本項の要件を完全に満たすものでなければなら
ない。本章に基づき組織されたLPSは,独立した法的主体となり,その独立した法
的主体としての地位はLPS証明書のLPSによる解除まで継続する。」と規定する。
(b)303条(a)は,「リミテッド・パートナーは,自己がジェネラル・パートナ
ーである場合あるいはリミテッド・パートナーとしての権利や権限の履行に加えて当
該事業の経営管理に関与している場合を除き,LPSの債務を弁済する責任を負うも
のではない。」と規定する。
(c)801条は,LPSの解散について,「以下のいずれかが発生した時点で,
LPSは解散しその事業は清算されるものとする。(1)パートナーシップ契約に規定
された日時。当該日時がパートナーシップ契約にて規定されていない場合,LPSは
永続的な存在となる。」と規定する。
c以上のとおり,州LPS法においては,州LPS法に基づくLPSが「独立し
た法的主体」(separatelegalentity)であると明確に規定されているのであるか
ら,これらが我が国租税法上の法人該当性の判断基準を検討する際の要素の1つとし
て当然に考慮され,本件各LPSの我が国租税法上の法人該当性を判断する際のメル
クマールになり得るというべきである。
(ウ)LLC判決の判断根拠とされたニューヨーク州の法律の規定と同様の規定が
州LPS法に存在すること
米国ニューヨーク州リミテッド・ライアビリティ・カンパニー法(以下「ニューヨ
ーク州LLC法」という。)に準拠して設立されたリミテッド・ライアビリティ・カ
ンパニーについて,「我が国の私法上(租税法上)の法人に該当すると解するのが相
当であ」ると判断したLLC判決においては,その判断の根拠に挙げられたニューヨ
ーク州LLC法の関係規定(202条(a),202条(b)ないし(e),203条(d)及び
第601条)と趣旨を同じくする規定がデラウェア州LPS法にも存在する。
したがって,デラウェア州LPS法に準拠して設立された本件各LPSは,LLC
判決の判断方法に照らしても,我が国の租税法上の法人に該当するというべきである。
(原告らの主張)
ア判断基準
(ア)外国の事業体が「法人」に該当するか否かの判断基準としては,内国法人の
法人法定主義同様の専ら形式的な基準による判断として,当該外国の事業体の根拠法
において,その事業体が外国における「法人」に該当するか否か,言い換えれば,そ
の事業体に法人格が与えられているか否かで判断すれば必要十分である。そして,
「当該外国の事業体の根拠法においてその事業体に法人格が与えられている」とは,
当該外国の事業体の根拠法において,その事業体が「corporation」や「body
corporate」や「juristicperson」又はこれらと同等の概念(以下「corporation
等」という。)に該当すると規定されていることを意味すると解すべきである。すな
わち,外国の事業体がその根拠法においてcorporation等に該当すると規定されてい
ることは,外国の事業体がその根拠法において法人格を与えられていることとなる。
加えて,外国法の規定により成立する権利義務の主体となる社団とは,まさに,その
根拠法において法人格を与えられている(=corporation等に該当すると規定されて
いる)外国の事業体をいうと解すべきである。
(イ)内国の事業体の場合の所得税法及び法人税法上の区分けは,①「内国法人」
に該当する事業体は「内国法人」としての規律を受け,②「内国法人」には該当しな
いが権利能力なき社団の4要件を満たす事業体は内国の「人格のない社団等」として
内国法人とみなされ,③権利能力なき社団の4要件を満たさない事業体はその構成員
の集合体(組合等)として個々の構成員(最終的には個人又は法人)が納税義務者と
なる。そして,内国の事業体の場合,我が国の私法が法人法定主義を採用しているこ
とから,上記の①と②の区分けは,その内国の事業体の根拠法において法人格が与え
られているかどうかという専ら形式的な基準により,②と③の区分けは,権利能力な
き社団の4要件を満たすかどうかという実質的な基準により,それぞれ判断されるこ
ととなる。
そして,外国の事業体も内国の事業体と同様に,①外国法人,②外国の「人格のな
い社団等」及び③の外国の組合(構成員の集合体)のとおりに区分けされ,その①か
ら③内部の区分けのあり方も,外国の事業体の場合と内国の事業体の場合とで原則と
して,同様であるべきである(ただし,外国の事業体の根拠法において法人格が与え
られている事業体が,我が国租税法上の「外国法人」として認許されるためには,旧
民法36条1項に従い「商事会社」でなければならない。)。
そもそも租税法における「法人」の概念(これは内国法人にも外国法人にも共通す
る)は私法の借用概念であること自体については原被告間で争いがないところ,借用
概念論によるのであれば,借用する「法人」概念は単一であり,外国の「法人」の範
囲を,内国の「法人」の範囲と実質的にパラレルに考えるべきことは当然であるから,
外国の事業体についてだけ,本来②や③でカバーされるようなものまでも①の「外国
法人」に広く含めて区分けしてしまうような考え方は,内国の事業体の場合の区分け
と著しく乖離するものであるから,誤りであるというべきである。
それゆえ,外国の事業体の場合の法人格の有無の判断方法は,専ら形式的な基準に
よる判断となるべきであり,その形式的な基準による判断から漏れた外国の事業体の
うち権利能力なき社団の4要件という実質的な基準の充足という実質的判断をクリア
できた事業体のみを外国の「人格のない社団等」に該当するものとして外国法人とみ
なして扱うことを租税法の規定が前提としていると解すべきであり,当該外国の事業
体の根拠法において,その事業体に法人格が与えられている場合に外国における「法
人」に該当するものと解せば必要十分であるというべきである。
なお,外国の事業体の根拠法において法人格が与えられている外国の事業体が,我
が国租税法上の「外国法人」として認許されるためには,旧民法36条1項に従い,
「商事会社」でなければならないが,外国の事業体が,構成員により構成され営利を
目的とする事業体であり,かつ「外国法人」(旧民法36条1項)に該当する以上は,
その事業体は,商行為を為すことを業とする目的をもって設立した社団であるという
要件も満たすことになるため,「商事会社」にも該当することになる。
したがって,「外国法人」に該当する外国の事業体は,旧民法36条1項に基づき,
我が国の私法及び租税法上も「外国法人」として認許されることになるのである。
(ウ)被告は,ある事業体(外国の事業体)が「法人」に該当するための要件とし
て,①独自の財産を有するか否か,②独立した権利義務の帰属主体となり得るか否か,
③訴訟当事者となり得るか否かの3要件を述べ,その判断に当たっては,「当該事業
体の設立準拠法や設立契約の内容,実際の活動実態,財産や権利義務の帰属状況等を
考慮して,個別具体的に判断するのが相当である」と主張する。
しかし,被告が挙げる「法人」該当性の判断基準がいかなる法的根拠に基づき認め
られるのかは全く明らかにされておらず,被告からは,何ら説得的な根拠が示されな
かった。
この点,被告は,法人とは「自然人以外のもので,権利義務の主体となることので
きるもの」という学説をその根拠としていると思われる。確かに,法人が自然人以外
のもので,権利義務の主体となることのできるものであることはそのとおりであると
しても,この見解は,事業体が「法人」とされたことにより生じる「効果」の全体
(特定の一面ではなく全体)を短く表現するものとしてなされていることは明らかで
ある。
また,「権利義務の主体」を作るために法人を設立するということは,同時に「損
益の帰属すべき主体」を作ることをも意味することになる。しかし,被告の「法人」
該当性の3要件に関する主張においては,「損益の帰属すべき主体」に関する私法上
の分析あるいは言及は一切見られない。私法上損益の帰属すべき主体となっているか
否かは,内部規律を柔軟に組成することが可能な合名会社,合資会社及び合同会社で
あっても決して有することのない私法上の法的性質であり,法人と組合の決定的な差
異である。
仮に,被告が,私法上「損益の帰属すべき主体」とされているかを考慮することな
く,「法人」該当性の判断がなされるべきであるとの見解を示しているのだとすると,
それは,「権利義務の主体」という言葉を不当に,かつ自説に都合良く狭く解釈する
ものであり,本件において本件各LPSを法人と決めつけるために都合のよい要件だ
けをつまみ食いしたという批判を免れるものではない。
さらに,被告の主張する基準は,外国の事業体についてだけ,その準拠法上の法人
格の有無という形式的な基準(つまり内国の事業体と同様の基準)で判断せず,3つ
の要件を立てた上で諸般の事情を考慮して個別具体的な実質判断を行うものであり,
内国の事業体についての判断と著しく相違している。このような解釈は,外国の事業
体についてだけ,本来の外国の人格のない社団等や外国の組合に該当すべき外国の事
業体までも不可避的に「外国法人」に区分けしてしまう誤りを内包するもので,内国
法人の取扱いと異なることになり,我が国租税法の仕組みに反し失当である。
とりわけ,被告の主張する「法人」該当性の3要件を権利能力なき社団の4要件と
対比して見ると,権利能力なき社団の4要件を満たす事業体は,①その構成員の個人
財産とは区別された独自の財産(つまり「総有」とされる財産)を有し,②その名に
おいて契約を締結しその名において権利を有し義務を負うなど独立した権利義務の帰
属主体となり得,③その権利義務のためにその名において訴訟当事者となり得るから
(民事訴訟法第29条),被告の主張する「法人」該当性の基準によれば,すべから
く(所得税法及び法人税法に定義されている「人格のない社団等」と区別されるとこ
ろの)「法人」に該当してしまうことになる。
結局,被告の主張する判断基準は,同様に,我が国租税法上組合とされる事業体に
も当てはまり,法人と組合とを区別する基準としても機能しない。
イ法人該当性
(ア)英米法において法人の要件の1つとして挙げられる「法人印影
(corporationseal)」とは,コーポレーションがその団体の法的な正式文書を作成
し認証するために用いる印影」であり,まさにcorporationが,自らがcorporationで
あることの正当性を示すために正式文書に用いる印影をいうのであるから,英米法に
おけるcorporationを法人と解することは,通常の理解に合致しているというべきで
ある。
また,日米租税条約において,我が国における「権利義務の主体となる」事業体で
ある「法人格を有する団体」について,「Corporation」と同義である「body
Corporate」という用語が用いられているのに対して,「法人以外の団体」について
は,「anestate,trust,andpartnership」を含むものとされ,パートナーシップ
は「法人以外の団体」とされている。
さらに,デラウェア州の「DelawareGeneralCorporationLaw」においては,
「corporation」の設立のためには「acertificateofincorporation」(定款)と
いう基本文書を登録しなければならず(同法101条(a)),「franchisetax」と
いう法人形式で事業を行う特権に対して賦課される税金を支払う義務を負う等,
「corporation」が「法人」と同様の事業体であることを示している。
他方,「separatelegalentity」という文言は,GPSもLPSも,当事者であ
るジェネラル・パートナーの死亡又は脱退後も同一性を持った事業体(entity)とし
て存続し得るという効果,すなわち「survivability(GP死亡・脱退後存続性)」
を明確化するにすぎず,州LPS法201条(b)における「separatelegal
entity」とは,ジェネラル・パートナーとは区別されたという意味であるが,この中
の「separate」という語には,何ら法的な重要性はないのである。
このように,「separatelegalentity」という文言は,州LPS法上の法人格の
有無のメルクマールになり得るものではない。
(イ)そもそも,「法人」とは,生まれながらにして権利義務の主体として存在す
る自然人と異なり法律の規定により創設的にその存在が認められるものであるから,
その準拠法国の法律の規定により,創設的に設立されるものである。
この点,州LPS法上のLPSはLPS契約の締結によって組成され,LPS証明
書の提出は,単にこれを通知する意味しかないのに対し,corporationは,まさに法
律によって創られたものにすぎないものであって設立証明書を提出する行為は設立行
為そのものである。実際,本件各LPSは,本件各LPS契約の前文で,「前文と以
後に規定される相互の約定を約因として,パートナーら[ジェネラル・パートナーと
リミテッド・パートナー]は,LPS法及びその他の適用ある法律に従い以後に規定
される条項に基づいてパートナーシップを組成することに合意し,ここにパートナー
シップを組成する。」と定めており,パートナーシップ契約によりLPSが組成され
ていることを明言している。
したがって,デラウェア州のLPSは,法律により創設的に設立される事業体では
なく,「法人」及びデラウェア州のcorporationと著しく異なっている。
(ウ)仮に,被告の判断基準に従ったとしても,次の点に照らせば,本件各LPS
は,租税法上の法人に該当しない。
a本件各LPSは,独自の財産を有していない。
すなわち,州LPS法701条は,パートナーはLPSの特定の財産について持分
を有しないと定めているが,本件各LPS契約4.5条により,当該条項はパートナ
ー間の内部関係において「各パートナーは,本件各LPSの財産について不可分の持
分を有する。」と修正されているから,本件各LPSが構成員の財産とは区分された
独自の財産を有することにはならない。
bある事業体の事業活動により生じた損益が当該事業体自体に帰属するのか,又
は当該事業体の構成員に直接帰属するのかという点は,当該事業体が我が国の「法
人」に該当するか否かの判断において重要なメルクマールとなるといえ,権利義務の
帰属主体となる事業体であるためには,損益が実質的に当該事業体に帰属することが
必要であるが,州LPS法503条の規定上,LPSには損益が帰属せず各パートナ
ーに直接損益が帰属するものとされている。
また,本件各LPSは,各会計年度における情報申告書である連邦パートナーシッ
プ情報申告書(Form1065)を作成し,その別表として,各パートナーである本件
各受託銀行を通じて不動産賃貸事業を営む原告ら投資家ごとのパートナー持分に関す
る情報申告書(スケジュールK1)を作成している。これは,原告らに各会計年度の
パートナーシップの損益が直接帰属していることを示すものである。
さらに,本件各LPS契約4.12条(a)は,パートナーシップの収益,利益,損
失及び控除の「全ての項目」の配分割合について定めるものであり,各項目が総額
(グロス)ベースで各パートナーである本件各受託銀行を通じて不動産賃貸事業を営
む原告らに対して配分されるべきことを明確に示している。
以上のとおり,本件各LPSは,損益の帰属主体であるとは認められないから,権
利義務の帰属主体となる事業体であるとはいえない。
cさらに,本件各LPSは,訴訟当事者となることはできるが,その意味は,
corporationの場合と異なっている。すなわち,当事者能力は,corporationの場合は,
当然に認められるが,partnershipの場合には,特に法律により認めてもらうことが
必要である。したがって,partnershipの場合には,corporationと異なり,その効果
を有すると特に認める法律がない限り,当事者能力の点においても法人とされること
により生じる効果と同じ効果を当然に求められるものではない。
(エ)被告は,ニューヨーク州LLC法上のLLCが「法人」と扱われたことを根
拠に,州LPS法状のLPSも「法人」と扱うべきと主張しているようであるが,ニ
ューヨーク州LLC法上のLLCは,①有限責任が貫かれていること,②定款の作成
が必要であること,③多数決原理が導入されていること,④組織の継続性が強く指向
されていること,⑤所有と経緯とを分離することが可能な組織体となっていることな
ど,州LPS法上のLPSと比べて,よりcorporationに近い事業体といえるのであ
り,このような両者の顕著な差異を考慮すると,州LPS法上のLPSをニューヨー
ク州LLC法上のLLCと実質的に同様な事業体と扱い「法人」に該当するとは解す
ることはできない。
(2)本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性
(被告の主張)
仮に本件各LPSが我が国の租税法上の法人に当たらないとしても,本件各LPS
は,次のとおり,昭和39年最判の示す人格のない社団に該当するための4つの要件,
すなわち「①団体としての組織を備え,②多数決の原則が行われ,③構成員の変更に
もかかわらず団体そのものが存続し,④その組織により,代表の方法,総会の運営,
財産の管理その他団体としての主要な点が確定している」ことを満たしているので,
我が国租税法上の人格なき社団に当たる。なお,この4要件は,これまでの裁判例に
照らせば,全てが独立して厳格に満たされていなければ人格のない社団とは認められ
ないというものではなく,むしろ,社団性認定のための指標であり,各要件相互の関
係で柔軟に解釈され得るものというべきである。
ア団体としての組織を備えていること
本件各LPSは,本件各GPをジェネラル・パートナー,本件各LPをリミテッ
ド・パートナーとして,LPS法に基づき設立されたLPSであるから(本件各L
PS契約前文及び1.1条),これを組織する構成員は特定されている。また,本
件各LPS契約において,本件各LPSの管理及び運営に関する独占的権限は本件
各GPに付与され(2.1条),本件各LPには,一定の条件の下に本件各GPを
解任する権限が認められている(2.6条)。そして,本件各LPSとしての意思
決定や本件各売買契約を締結する等の行為を,上記のとおり付与された独占的権限
に基づいて本件各GPが本件各LPSを代表して行っているのであるから,本件各
LPSは,団体としての組織を備えているといえる。
イ多数決の原則が行われていること
本件各LPSの経営判断は原則的に本件各GPにより行われることとされているが,
これは,上記アのとおり,本件各LPが本件各LPS契約により同意したことに基づ
くものであるし,本件各GPは,パートナーシップ持分の80%を超える持分を有す
るリミテッド・パートナーの賛成又は同意により解任される(本件各LPS契約2.
6条)のであるから,本件各LPSにおいて,多数決の原則が一定の程度行われてい
るということができる。
ウ構成員の変更にもかかわらず団体が存続すること
本件各LPS契約には,ジェネラル・パートナーの解任(2.6条),新規パート
ナーの承認(5.2条及び7.6条),リミテッド・パートナーの脱退(6.1条),
LPS持分の譲渡可能性(7.2条)などの規定があるから,本件各LPSは,構成
員の変更にもかかわらず団体が存続するものである。
エ団体としての主要な点が確定していること
上記ア及びイのとおり,本件各LPSについては,本件各LPの同意により本件各
GPが業務執行を行う代表と定められており,その解任についての規定も存在する。
また,本件各LPSは,構成員の財産とは区分された独自の財産を有しており,当該
財産の管理は,その権限を付与された本件各GPが行っている。さらに,本件各LP
S契約には,本件各LPSに生じる費用の支払(3.1条ないし3.4条),資本の
利用(4.4条),損益の割当て及び分配(4.6条ないし4.8条),パートナー
シップの終了及び清算(8条),会計及びパートナーへの報告(9条)に関する規定
も存在する。そして,これらの規定を含む本件各LPS契約の内容は,ジェネラル・
パートナー及びリミテッド・パートナーの持分の過半数によって署名した書面で修正
することができる(10.2条)ことなどからすれば,本件各LPSは,代表の方法
や団体の独立した財産の管理方法等,団体としての主要な点が確定しているというこ
とができる。
(原告らの主張)
本件各LPSは,次のとおり権利能力なき社団の要件を備えていない。
ア本件各LPSは,ジェネラル・パートナー1名とリミテッド・パートナー1名
(ただし,本件各LPS(C)の場合は2名)により構成されている極めて単純なL
PSであり,内部組織を全く備えておらず,団体としての組織を備えていない。
イ本件各LPS契約2.1条によれば,本件各LPSの管理運営・業務執行は原
則的にジェネラル・パートナーのみにより行われることとされている。
したがって,本件各LPSでは,多数決の原則が行われているとはいえない。
ウ州LPS法101条(9)は,LPSとは,2人以上の者により組成されるパー
トナーシップであり,1人以上のジェネラル・パートナーと1人以上のリミテッド・
パートナーにより構成される旨を定めている。また,州LPS法801条(3)及び(4)
によれば,LPSは,ジェネラル・パートナー又はリミテッド・パートナーが0人に
なった場合は,新たにジェネラル・パートナー又はリミテッド・パートナーが補充さ
れない限り,解散することとされている。すなわち,本件各LPSのようなデラウェ
ア州のLPSは,構成員が1人では組成できないし,また,構成員が1人となった場
合には,そのままでは存続もできないことになる。
したがって,本件各LPSは,構成員の変更にもかかわらず,団体そのものが存続
することはない。
エ本件各LPSの管理及び運営は本件各GPに委ねられており,本件各GPが一
般に本件各LPSのためにその名において行為するものとされている(本件各LPS
契約2.1条)。したがって,本件各LPSの代表は定められているが,代表の方法
は,格別定められていない。
また,本件各LPS契約においては,構成員の総会自体が予定されておらず,財産
の管理に関しても,何らの規定も設けていない。したがって,本件各LPSは,「そ
の組織によって,代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点
が確定している」とはいえない。
(3)本件各不動産賃貸事業から生じた損益の不動産所得該当性
(被告の主張)
ア仮に,本件各LPSが我が国の租税法上の独立した損益の帰属主体(法人及び
人格のない社団)と認められないとしても,所得区分を検討するに当たっては,本件
スキームにおける本件各不動産賃貸事業に係る以下のような事実関係を前提に考える
必要がある。
(ア)原告ら投資家は,本件各建物の賃貸により利益を得ることを目的としておら
ず,本件不動産賃貸事業自体からは損失が発生し,これを損益通算して租税負担を減
少することを前提に投資をしており,これは通常の経済取引とはいえない。そして,
本件スキームによる租税負担の減少による利益相当額は,一般投資家である原告ら投
資家が出資することにより本件スキームに参加した者の中で巡回し,それぞれ手数料
等という形で利益を分け合っているものである。
したがって,本件スキームは,損益通算による租税負担の減少による利益相当額を
不可欠の要素としており,当該利益相当額自体を目的としているものといえる。
(イ)本件各LPSのリミテッド・パートナーは,本件各LPSに対してパートナ
ーシップ持分を有するにすぎず,本件各不動産賃貸事業の対象とされている本件各建
物は本件各LPSが所有しているため,リミテッド・パートナーが本件各建物の所有
権を有していると認めることはできないし,また本件各建物の「貸主」となり得る占
有権(民法180条ないし205条)等の権利・権原を有していると認めることもで
きない。
(ウ)本件各不動産賃貸事業の対象となる本件各建物を「借主」に貸し付ける債務,
すなわち本件各建物を借主に使用・収益させる債務を履行しているのは本件各LPS
であって,本件各LPSのリミテッド・パートナーが本件各建物を貸し付けていると
認めることはできない。
イ不動産所得とは,賃貸借契約等に基づいて,貸主が相手方である借主に不動産
等の目的物を使用及び収益させることを約束することにより,借主から貸主に移転さ
れる経済的利益のうち,借主がこの目的物を使用収益することの対価としての性質を
有するものであるから,ある所得が不動産所得に該当するためには,一般的に賃貸借
契約の貸主となり得る権利・権原(所有権等)を有していることを前提として,貸主
が当該賃貸借契約の対象となる不動産等を借主に貸し付け,これを使用収益させるこ
とによって得た対価としての性質を有するものであることが必要である。
これを本件について見ると,上記のとおり,本件スキームは,損益通算による租税
負担の減少による利益相当額を不可欠の要素としており,当該利益相当額自体を目的
としているものといえる。また,本件各LPSのリミテッド・パートナーである本件
各受託銀行は,本件各建物を所有しているということはできない。さらに,実際に本
件各建物に関する占有権を取得したこともなく,賃貸借契約上の貸主としての債務
(借主に目的物を使用収益させる債務)を履行することが可能な法的地位を何ら有し
ていないのであるから,本件各LPSのリミテッド・パートナーである本件各受託銀
行が本件各建物を借主に貸し付けていると見ることはできない。
したがって,本件スキームから本件各受託銀行を介して原告ら投資家が受ける損益
は,賃貸借契約の目的物を使用収益させることによって得た対価としての性質を有す
るものとはいえず,不動産所得に該当しない。
ウなお,事業所得とは,自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有
償性を有し,かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業
務から生ずる所得である必要があるところ,リミテッド・パートナーである本件各受
託銀行及び原告ら投資家は,本件各不動産賃貸事業について何ら業務を行っておらず,
また,原告ら投資家が負うのは,本件各受託銀行を介した本件スキームへの出資だけ
であり,本件各LPSが本件各不動産賃貸事業に関して負う個別の債務等につき,本
件各受託銀行及び原告ら投資家が個人的な債務及び責任を負うことはなく,その出資
先である本件各LPSが自ら独立して負債,債務及び責任を負担することとされてい
る。
したがって,本件各不動産賃貸事業が原告らの計算と危険において独立して営まれ
ているということはできず,本件スキームから本件各受託銀行を介して原告ら投資家
が受ける損益は,社会通念上,原告らの事業によって生じたものということはできな
いから,事業所得にも該当することはない。
エ以上のとおり,仮に,本件各LPSが法人及び人格のない社団のいずれにも該
当しないとしても,本件スキームからリミテッド・パートナーである本件各受託銀行
を介して原告ら投資家が受ける損益は,配当所得,不動産所得及び事業所得には該当
せず,また,利子所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得又は一時所得のい
ずれにも該当しないことは明らかである。
したがって,上記損益が所得を構成する場合には,雑所得に該当することとなり,
本件各損失は,原告らの「不動産所得の金額」の「計算上生じた損失の金額」(所得
税法69条1項)に当たることはない以上,原告らは損益通算の適用を受けることは
できない。
オこれに対し,原告らは,本件不動産という資産から生ずる収益が原告らに直接
帰属しているのであり,その収益の基因となる資産の真実の権利者は,租税法上は,
原告らであるなどと主張する。
しかし,そもそも,所得税法12条は,資産から生ずる収益が帰属すると見られる
者が単なる名義人であって,その者以外の者がその収益を享受する場合があり得るこ
とを前提とした規定であり,当該規定に従えば,まず「収益の基因となる資産の真実
の権利者がだれであるか」を明らかにすべきなのであって,原告らが主張するように
「資産から生ずる収益を享受する者がだれであるか」をもって「収益の基因となる資
産の真実の権利者がだれであるか」を判断しようとするような論理構成は,明らかに
失当である。
そして,上記アで述べた事実関係に照らせば,原告らは名実共に本件各不動産の所
有者であるとは解し得ないのであり,本件各不動産賃貸事業に係る所得は,本件各L
PSに帰属するというべきである。
(原告らの主張)
ア本件において,まず,確認しておかなければならないのは,原告ら投資家が行
った本件スキームによる本件各建物に対する投資が,そもそも経済的に見て不合理な
ものであったのか,また,組合型の事業体を通じて不動産投資を行い,直接不動産投
資を行った場合と同じように損益通算による租税上の効果を得ることが,本件におけ
る各係争年分に適用される租税法令の下で禁止ないし制限されていたのかという点で
ある。
イ本件スキームによる本件各建物に対する投資が,不動産投資として,純経済的
に見て,通常の不動産投資と同じように値下がりリスクを負い,値上がり益を期待す
るものであったことは,以下に述べるところから明らかである。
(ア)原告ら投資家による本件各不動産投資事業は,本件各建物取得後,その維持
管理を十分に行い,必要な修繕や改装を実施することが企画され,かかる維持・管
理・修繕・改装を行うことによって,本件各建物から多額の賃料収入を得ることを見
込んでおり,かかる維持・管理・修繕・改装は,この賃料収入のうちから毎年積み立
てる修繕積立金等を充てるというものである。
本件各不動産投資事業は,かかる維持・管理・修繕・改装の結果,本件各建物から
の賃料収入を高め,そのヴァリューアップを目指していたが,投資期間(7年間を想
定)内に本件各建物のヴァリューアップが当初企図したとおりにできない等の理由に
より,その売却価格が下落するリスクもあった。例えば,売却価格が,取得時価格比
80%になれば,売却時における最終分配金はゼロとなり,取得時価格比100%で
あっても,売却時における最終分配金は541万8000円にすぎないリスクがあっ
た。これに対し,取得時価格比150%になれば,売却時における最終分配金は23
42万1000円となり,さらに上昇すれば,売却時における最終分配金はさらに多
額になる可能性もあった。しかも上記金額は,売却時における最終分配金にのみ着目
したものであって,賃貸料収入からの現金分配予定額や,後記の減価償却費との損益
通算による課税所得額の減少を考慮すれば,さらに大きな投資収益やメリットを得ら
れる可能性もあった。
このように原告ら投資家は,本件各建物の売却価格が上昇せず,その結果,売却時
における最終分配金が投資時に比べて減少あるいはゼロになるリスクを負担しつつ,
本件各建物の売却価格が上昇し,多額の収益やメリットが得られることを目指して,
本件不動産投資事業に投資を行ったのである。
(イ)そして,本件各建物は,いずれも,ヴァリューアップ型不動産投資事業を行
おうとする投資家にとっては,投資対象として魅力的な中古集合住宅であった。
本件建物(C)は,ロサンゼルス近郊のα地区に所在する中所得者向けの集合住宅
であるが,2000年当時,この地区の周辺では,コリアン・タウン(韓国人街)の
開発が見込まれており,加えて,撤退したホテルの跡地に小売業を中心とした大規模
商業施設の開発計画が持ち上がっていた。そのため,この地区は,近い将来,人口の
増加や雇用の増加によって,旺盛な賃貸需要が発生することが見込まれていた。加え
て,本件建物(C)は,1977年に建築されたものであったから,本件LPS
(C)が組成された2000年時点では建築から既に約23年が経過しており,当時
は,維持・管理のレベルが低下し,修繕・改装も効率的に行われていないなど,物件
としての実力を十分に発揮できていない状態にあった。
同様に,本件建物(P)は,フロリダ州のジャクソンビル(Jacksonville)市に所
在する中所得者向けの集合住宅であるが,2000年当時,ジャクソンビル大都市統
計地域(MSA)における人口の平均年齢は米国の平均年齢より若く,2000年以
降も人口,世帯数,世帯収入の増加が見込まれていた。また,当該地区には雇用を創
出する企業が多く,さらには空室率が平均5%程度で稼働率が高いことから,当該地
区は,2000年以降も人口の増加や雇用の増加によって,旺盛な賃貸需要が発生す
ることが見込まれていた。加えて,本件建物(P)は,1974年に建築されたもの
であったから,本件LPS(P)が組成された2002年時点で建築から既に約28
年が経過しており,当時は,維持・管理のレベルが低下し,修繕・改装も効率的に行
われていないなど,物件としての実力を十分に発揮できていない状態にあった。
このように,本件各建物は,いずれも,ヴァリューアップ型不動産投資事業を行お
うとする投資家にとっては,投資対象として魅力的な中古集合住宅であった。
(ウ)このように,本件各不動産投資事業は,米国に所在する中古木造集合住宅に
投資し,その資産価値を高めて売却することによって,売却益の獲得を目的とした通
常の不動産投資事業である。原告ら投資家は,本件各不動産投資事業により,将来生
ずべき賃料収入及び不動産譲渡損益の全てについて,持分割合に応じた収益又は損失
の配分を受けることとされており,将来における不動産市況の動向等如何により儲か
る場合もあれば損失を蒙る場合もあると認識していたものである。個人が不動産投資
を行い,賃料収入を得た場合には,我が国の租税法上不動産所得(所得税法26条1
項)とされ,賃貸された不動産の減価償却費などの不動産所得の損失がある場合には
他の種類の所得と損益通算をすることが所得税法上認められている(所得税法69
条)ところ,本件不動産投資事業も不動産投資である以上,同じルールにより所得計
算がなされることになることは当然である。原告ら投資家は,このような不動産所得
に関する租税法の取扱いを理解した上で投資しており,何ら異常なことでもなければ
租税回避行動でもなく,「合理的経済人」としては当然の行動を行ったものである。
ウまた,平成17年度税制改正により創設された特定組合員の不動産所得に係る
損益通算等の特例(本件措置法特例)は,組合型の事業体を用いた減価償却費の先行
計上に伴い損益通算を受けるという租税上の効果を勘案した取引について,損益通算
を否認することで意図された租税上の効果を否定するために創設されたものである。
しかるに,本件スキームも,そのような取引と同様の経済的目的・性質を有する取
引であって,原告ら投資家に損益通算が認められるか否かという租税法上の問題の所
在も同様であるから,本件スキームにおける租税上の効果は,正に本件措置法特例に
より初めて否定されるものになったということができる。
これを逆にいうと,本件措置法特例が適用されない課税年分については,本件のよ
うな組合型の事業体を用いた減価償却費の先行計上に伴い損益通算を受けるという租
税上の効果を勘案した取引について損益通算を否定する立法上の措置は,いまだ存在
せず,したがって,当該年分については,原告ら投資家の損益通算を否定することは,
租税法律主義の原則を持ち出すまでもなく,租税法上は不可能であった。
エ以上を前提として,原告ら投資家が不動産所得の計算上生じた損失を有するか
否かという問題を検討する。その場合,①原告ら投資家が本件各LPSを通じて行っ
た本件各不動産投資事業に係る所得が,本件各LPS自体に帰属するのか,それとも
(信託を介して)原告ら投資家に帰属するのかという問題(所得の帰属の問題)と,
②原告ら投資家に帰属するとして,その所得は不動産所得として区分されるのか否か
(所得の区分の問題)という2つの別個の問題を検討する必要がある。
(ア)そのうち,所得の帰属については,本件各LPSが「外国法人」にも外国の
「人格のない社団等」にも該当しないと判断される場合には,本件各LPSは所得税
法及び法人税法上の納税義務者には該当しないことになるから,本件各不動産投資事
業に係る所得は,本件各LPS自体に直接帰属することはなく,原告ら投資家に直接
帰属すると解するほかない。
(イ)そして,原告ら投資家が本件各LPSを通じて行った本件各不動産投資事業
は「不動産の貸付け」(所得税法26条1項)に該当する行為以外の何ものでもない
以上,原告ら投資家に帰属する本件各不動産投資事業に係る所得は,不動産所得とし
て区分されることになる。
この点,被告は,ある所得が不動産所得に該当するためには,納税者が,賃貸借契
約の「貸主」となり得る何らかの権利・権原(所有権あるいは占有権等)を有してい
ることを前提とした上で,不動産を「借主」に貸し付け,これを使用収益させること
によって得た対価としての性質を有するものであることを要するとして,原告ら投資
家に帰属する所得が不動産所得に当たらないと主張する。しかし,所得税法26条1
項は単に「不動産所得とは,不動産〔中略〕の貸付け〔中略〕による所得」と規定し
ているのみであり,同条の文理上,不動産を貸し付けた主体が納税者本人であるか,
納税者本人が貸し付けた不動産を所有等しているかは要件とはされていない。被告の
主張は,明文なき要件を付加して不動産所得の範囲を不当に狭く解するもので,失当
である。
また,被告は,雑所得であるとの主張の根拠として,本件各LPSのリミテッド・
パートナーは本件各建物を所有していないなどと主張するが,そのこと自体州LPS
法の規定及び本件各LPS契約4.5条を無視するものであるし,そもそも本件各L
PSが我が国の私法及び租税法上の法人にも人格のない社団等にも該当しないのであ
れば,我が国の私法及び租税法上は,本件各LPSの構成員が本件各建物を所有して
いるものと解するほかないのである。したがって,被告の当該主張も失当である。
さらに,被告は,本件各LPSのリミテッド・パートナーが本件各LPSの管理又
は運営等の権限を有しないことも,本件各不動産投資事業に係る所得が不動産所得に
該当しないことの理由として挙げる。しかし,不動産所得は,「不動産の貸付け」
(所得税法26条1項)の「規模や業務への関与度合いに関係なくその損失の他の所
得との損益通算が可能とされている」という「特質」を有するものである。事業所得
の場合についてはその規模や業務への関与度合いが薄ければ所得区分が雑所得となり
損益通算が否定されるが,不動産所得はそうではない。したがって,本件各LPSの
リミテッド・パートナーの本件各LPSの管理又は運営等の権限の有無などといった
点は,本件各不動産投資事業に係る所得が不動産所得に区分されるか否かを何ら左右
しない。また,この点は,被告の主張する「法人」該当性の判断基準とも何ら関係が
ないから,本件各LPSの「法人」該当性ないし所得の帰属の問題とも無関係である。
(4)通則法65条4項の「正当な理由」の有無
(被告の主張)
通則法65条4項の「正当な理由」があると認められる場合とは,真に納税者の責
めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしても
なお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解
される。
原告らの主張する事情のうち,平成12年7月政府税調中期答申等の記載内容につ
いては,米国のLPSが我が国の租税法上の法人に含まれないことを明言するもので
はなく,政府の公の見解が表明されたものでもないのであるから,仮に当該記載内容
により本件各LPSが我が国租税法上の法人に該当しないと考えたとしても,通則法
65条4項の正当な理由があるという余地はない。
また,原告らの主張するその余の事情は,結局のところ,原告ら独自の見解ないし
期待に基づき本件各LPSが法人に該当しないと信じたというものにすぎず,法令の
解釈を誤っていたということに尽きる。
そもそも,本件各不動産賃貸事業は,損益通算による租税負担の減少を目的とした
スキームの一環であり,原告ら投資家は,かかる利益にあずかるため,本件スキーム
に参加し,本件各不動産賃貸事業から生じた損失を原告ら投資家の不動産所得の金額
の計算上生じた損失として所得税の確定申告をしたことが強く推認される。そして,
原告らも認めるとおり,米国のLLCが「外国法人」に該当する旨の国税庁のQ&A
が平成13年6月に発出されていることも併せ考慮すれば,原告ら投資家は,本件各
LPSが我が国租税法上の法人に当たり,本件各不動産賃貸事業から生じた損失を原
告ら投資家の不動産所得の計算上生じた損失として損益通算できない可能性があり得
ることを認識し,あるいは認識し得たにもかかわらず,本件スキームによる利益にあ
ずかるため,法令を正しく解釈することなく申告に至ったものといえるのであり,こ
れをもって通則法65条4項に規定する「正当な理由」があるといえないことは明ら
かである。
(原告らの主張)
およそ外国のパートナーシップが「法人」に該当し得るとの解釈は,平成17年度
税制改正の解説として平成17年8月頃に示されたものであり,さらに国税庁個人課
税課が発遣した平成18年1月27日付け「平成17年度税制改正及び有限責任事業
組合契約に関する法律の施行に伴う任意組合等の組合事業に係る利益等の課税の取扱
いについて(情報)」において最初に公式に明らかにされるまで,およそ外国のパー
トナーシップが「法人」に該当し得るとの解釈が課税庁により公式に明らかにされた
ことはなかった。加えて,本件各LPSを含むデラウェア州のLPSの「人格のない
社団等」該当性については,課税庁の公式な見解は今日に至るまで示されていない。
さらに,本件各LPSが「法人」に該当するかどうかという問題については,本件
に係る国税不服審判所裁決がこれを否定し,また他の類似事案においても本件各LP
Sと同様,本件各LPS法を準拠法として組成されたデラウェア州のLPSの「法
人」該当性が否定されている。
以上のような事情に鑑みれば,仮に本件各LPSが法人又は人格のない社団等に該
当すると判断された場合であっても,原告ら投資家が本件各係争年分の所得税につい
て,本件各不動産投資事業に係る所得が原告ら投資家に直接帰属しかつ不動産所得と
して損益通算を行ったことには,真に原告ら投資家の責めに帰することのできない客
観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお原告ら投資家に過少申告
加算税を賦課することが不当又は酷になるというべきであるから,通則法65条4項
にいう「正当な理由」があるというべきである。
別紙10
日米租税条約
3条
1この条約の適用上,文脈により
別に解釈すべき場合を除くほか,
(e)「者」には,個人,法人及び法
人以外の団体を含む。
(f)「法人」とは,法人格を有する
団体又は租税に関し法人格を有する団
体として取り扱われる団体をいう。
ARTICLE3
1ForthepurposesofthisCon
vention,unlessthecontextotherw
iserequires:
(e)theterm"person"includesa
nindividual,acompanyandanyot
herbodyofpersons;
(f)theterm"company"meansany
bodycorporateoranyentitythat
istreatedasabodycorporatedfor
taxpurposes;
日米租税条約の議定書
2条約3条1(e)に関し,「法人
以外の団体」には,遺産,信託財産及
び組合を含む。
2Withreferencetosubparagra
ph
(e)ofparagraph1ofarticle3of
theConvention,theterm"anyot
herbodyofpersons"includesane
state,trust,andpartnership

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