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平成26年7月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成24年(ワ)第10746号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成26年5月29日
判決
原告P1
原告株式会社テクノアオヤマ
原告ら訴訟代理人弁護士松本司
同田上洋平
同大江哲平
被告セキ工業株式会社
同訴訟代理人弁護士北山元章
同植松祐二
同鈴木翼
同大澤久志
同訴訟代理人弁理士前田弘
同竹内宏
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告ら
(1)被告は,別紙被告物件目録記載の物件を製造し,販売し又は販売の申出を
してはならない。
(2)被告は,前項の物件を廃棄せよ。
(3)被告は,原告株式会社テクノアオヤマに対し,4750万円及びこれに対
する平成24年10月17日から支払済みまで年5%の割合による金員を支
払え。
(4)被告は,原告P1に対し,1680万円及びこれに対する平成24年10
月17日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(5)訴訟費用は被告の負担とする。
(6)仮執行宣言
2被告
主文同旨
第2事案の概要
1前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者(甲12,13,弁論の全趣旨)
原告株式会社テクノアオヤマ(以下「原告会社」という。)は,自動車及び
農機具に使用するボルト,ナット,ブラケット等の小物部品の自動供給装置
の販売等を目的とする会社である。原告P1(以下「原告P1」という。)は,
原告会社において,設立時から平成18年まで代表取締役に就き,現在は取
締役に就いている者である。
被告は,各種機械の製作及び修理等を目的とする会社である。
(2)原告P1の有する特許権
原告P1は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の特許請求
の範囲【請求項2】に係る発明を「本件特許発明」という。)に係る特許権(以
下「本件特許権」という。)を有する。
本件特許の設定登録後,平成14年12月20日に特許異議の申立てがさ
れ,取消理由が通知され,その指定期間内である平成15年6月23日に訂
正請求がされるとともに意見書が提出され,同年8月19日付けの異議の決
定により訂正を認めるとともに,特許を維持するとの決定がされ,同決定は
同年9月8日に確定した。その後,平成24年8月1日,本件特許出願の願
書に添付された明細書の訂正を求める審判が請求され,同月28日,明細書
を審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める旨の審
決がされた(甲1~5,乙5~7,16。以下,本件特許出願の願書に添付
され,その後に訂正された明細書を「本件明細書」という。)。
特許番号第3309245号
発明の名称プロジェクションナットの供給方法とその装置
出願日平成8年12月28日
登録日平成14年5月24日
特許請求の範囲
【請求項2】(上記異議の決定及び上記訂正審決により訂正されたもの)
円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送出するパーツ
フィーダとこのパーツフィーダからのプロジェクションナットをストッパ面
に当てて所定位置に停止させ,その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェ
クションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナット
を目的箇所へ供給する形式のものにおいて,正規寸法よりも大きいプロジェ
クションナットを排除し正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナッ
トを通過させる計測手段をパーツフィーダの送出通路に設置し,ストッパ面
に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッ
ドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガイドロッドの外径は正規寸法のプロ
ジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると
共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大
きく設定されていることを特徴とするプロジェクションナットの供給装置。
(3)構成要件の分説
本件特許発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A円形のボウルに振動を与えてプロジェクションナットを送出するパー
ツフィーダと
Bこのパーツフィーダからのプロジェクションナットをストッパ面に当
てて所定位置に停止させ,
Cその後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔
内へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給す
る形式のものにおいて,
D正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを排除し正規寸法ある
いはそれ以下のプロジェクションナットを通過させる計測手段をパーツ
フィーダの送出通路に設置し,
Eストッパ面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクション
ナットを供給ロッドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガイドロッドの
外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずか
に小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクション
ナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている
Fことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置。
(4)被告の行為
被告は,別紙被告物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を,
業として,製造し,販売し,販売の申出をしている(被告製品の構成につい
ては,当事者間に争いがある。)。
2原告らの請求
原告P1は,被告に対し,本件特許権に基づき,被告製品の製造販売等の差
止め及び廃棄を求めるとともに,不当利得返還請求権に基づき,1680万円
及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(平成24年10月17日)から支
払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。
原告会社は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,475
0万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(平成24年10月17日)
から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めてい
る。
3争点
(1)被告製品は,本件特許発明の技術的範囲に属するか
ア被告製品は,本件特許発明の構成要件BからFまでを文言上充足するか
(争点1-1)
イ被告製品は,本件特許発明と均等なものとして,その技術的範囲に属す
るか(争点1-2)
(2)本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるか
ア本件特許発明は,本件特許出願前に公然知られた発明又は公然実施をさ
れた発明であるか,あるいは,当業者が上記の発明に基づいて容易に発明
をすることができたものであるか(争点2-1)
イ本件特許発明は,当業者が,本件特許出願前に頒布された特開平7-2
15429号公報(以下「乙12公報」という。)に記載された発明(以
下「乙12発明」という。)に基づいて,容易に発明をすることができた
ものであるか(争点2-2)
ウ本件特許は,明確性要件に違反するものであるか(争点2-3)
(3)原告会社の損害額(争点3)
(4)原告P1の損失額(争点4)
第3争点に関する当事者の主張
1-1争点1-1(被告製品は,本件特許発明の構成要件BからFまでを文言
上充足するか)について
【原告らの主張】
以下のとおり,被告製品は,文言上,本件特許発明の構成要件Aを充足しな
いが,構成要件BからFまでを充足する。
(1)被告製品の構成
被告製品の構成は,別紙被告製品説明書記載のとおりであり,本件特許発
明の構成要件に対応させて表現すると,以下のとおりとなる。
aマグネットホルダーを回転することによりプロジェクションナットを送
出する選別機と
bこの選別機からのプロジェクションナットを先端ブロックに当てて所定
位置に停止させ,
cその後,供給ユニットのロッドのジェットピンをプロジェクションナッ
トのねじ孔内へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所
へ供給する形式のものにおいて,
d正規寸法(別紙被告物件目録1記載の物件ではM6)よりも大きいプロ
ジェクションナットを排除し正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクショ
ンナットを通過させる選別片を選別機のナット通路に設置し,
e先端ブロックに位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェクション
ナットを供給ユニットのロッドの進出時にその先端部で弾き飛ばすジェッ
トピンの外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも
わずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェク
ションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている
fことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置
(2)構成要件B及びC
構成b及びcは,それぞれ構成要件B及びCに相当し,被告製品は,構成
要件B及びCを充足する。
被告製品の「先端ブロックの底面」,「ジェットピン」は,それぞれ本件特
許発明の「ストッパ面」,「ガイドロッド」に相当する。
(3)構成要件D
構成dの選別片は,プロジェクションナットの通路に設置され,正規寸法
よりも大きいナットを排除し,正規寸法と同一又はそれ以下のナットを通過
させるものであるから,構成要件Dにおける計測手段に相当する。したがっ
て,被告製品は,構成要件Dを充足する。
(4)構成要件E
構成eは,構成要件Eに相当し,被告製品は,構成要件Eを充足する。
被告製品が,「正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッド
の進出時にその先端部で弾き飛ばす」ことについては,次のとおりである。
ア「弾き飛ばす」の意義
本件明細書の記載によれば,「弾き飛ばす」とは,①ガイドロッドの先
端部がプロジェクションナットの上面に当たることにより起こる現象で
あること,②ガイドロッドの先端がナットのねじ孔を貫通して反対側に
突き抜ける「串刺し作用」とは両立しない現象であること,③目的箇所
へのナットの供給を妨げる現象であることが分かる。被告製品において,
正規寸法より小さいナットが「はねて,空中を移動する」場合もあれば,
ガイドロッドの前進が途中で停止し,ナットがヒンジカバーとジェットピ
ンに挟まれたロック状態となる場合もあり得る。そして,これらを区別し
て解釈しなければならない理由は,本件明細書には存在しない。
したがって,「弾き飛ばす」とは,「ガイドロッドの先端部がプロジェク
ションナットの上面に当たった結果,プロジェクションナットが串刺しに
されず,目的箇所に供給されなくなること」をいう。
イ仮に,ガイドロッドの前進が途中で停止し,ナットがヒンジカバーと
ジェットピンに挟まれたロック状態となる場合が「弾き飛ばす」に該当し
ないとしても,次のとおり,被告製品は,「弾き飛ばす」構成を有してお
り,構成要件Eを充足する。
(ア)平成12年製造のNUTFEEDER(製造番号●●●●●●,型式N
S-ARF。以下「平成12年製品」という。)
平成12年製品は,被告が平成12年に製造,販売した製品であり,
被告製品と同じ型式である。現在,●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●が保有している。平成12年製品は寸法がM6のプロ
ジェクションナット(以下「M6ナット」と略する。ほかの寸法のナッ
トについても同様である。)を正規寸法としている。被告製品の供給ユ
ニットのロッドのジェットピンの外径(4.5㎜)は正規寸法のナット
のねじ孔の内径(M6では4.917㎜)よりもわずかに小さく設定さ
れていると共に正規寸法よりも小さいナットのねじ孔の内径(M5では
4.134㎜)よりも大きく設定されている。M6ナットにM5ナット
が混入した場合,ロッドの進出時にジェットピンの先端部分でM5ナッ
トを弾き飛ばすから,平成12年製品は,構成要件Eを充足する。
平成24年11月28日改訂の取扱説明書に記載されている被告製
品の構成は,平成12年製品に関する取扱説明書に記載されている構成
と同様であり,平成12年製品製造当時から,設計変更をしていないこ
とが推認される。被告により製造された平成12年製品が本件特許発明
の技術的範囲に属するならば,本件特許が登録された平成14年以降に
製造された被告製品についても,本件特許発明の技術的範囲に属すると
推認できる。
(イ)平成17年製造のナットフィーダ(製造番号●●●●●●●,型式N
S-ARF。以下「平成17年製品」という。)
平成17年製品も,被告が製造,販売した製品であり,被告製品と同
じ型式である。現在,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
が保有している。平成17年製品は,ガイドロッドの外径(6.4㎜)
が,正規寸法のM8ナットのねじ孔の内径(8㎜)よりもわずかに小さ
く設定されていると共に,正規寸法よりも小さいM6ナットのねじ孔の
内径(6㎜)よりも大きく設定されている。M8ナットにM6ナットが
混入した場合,正規寸法よりも小さいM6ナットは,ガイドロッドの進
出時にジェットピンの先端部で弾き飛ばされるから,平成17年製品
は,構成要件Eを充足する。
(上記ねじ孔の内径の寸法については,後記第4の2(2)参照)
(ウ)平成24年製造のパーツフィーダ(製造番号M6-3680,型式N
S-ARF。以下「平成24年製品」という。)及び平成15年製造の
パーツフィーダ(製造番号M6-591,型式NS-ARF。以下「平
成15年製品」という。)
被告は,平成24年製品及び平成15年製品がいずれも被告製品であ
るとした上で,平成24年製品及び平成15年製品について実験を実施
した結果によると,正規寸法より小さいプロジェクションナットは,ヒ
ンジカバーとジェットピンに挟まれて停止するロック状態が生じるの
であって,「はねて」もいないし,「空中を移動」してもいないと主張す
る。
しかし,平成24年製品の事実実験では「正規寸法よりも小さなプロ
ジェクションナット」を用いたものであるとは証明されていない。また,
ナットが進出する速度と,ジェットピンの前進速度とを調整することに
より,フランジ部分に次のナットが引っ掛からないようにすることは可
能である。被告による事実実験の結果から,「正規寸法よりも小さなプ
ロジェクションナット」一般において同様の結果が生じるとの結論を導
くことはできない。
また,スピンドル及びノーズピンは消耗品であり,平成24年製品や
平成15年製品のそれらは交換されている疑いがある。
したがって,平成24年製品及び平成15年製品についての実験結果
から,被告製品の構成を認定することはできない。
(5)構成要件F
被告製品は,プロジェクションナットの供給装置であり,構成fが構成要
件Fに相当し,構成要件Fを充足する。
【被告の主張】
以下のとおり,被告製品は,本件特許発明の構成要件A及びDからFまでを
充足するものではない。
(1)被告製品の構成
被告製品の構成a,b及びcは認め,その余は否認する。
被告製品の構成を,本件特許発明の構成要件に対応させて表現すると,以
下のとおりとなる。
aマグネットホルダーの磁石の磁力によってプロジェクションナットを吸
着して送出する選別機を備え,
bこの選別機からのプロジェクションナットを供給ホースによって供給ユ
ニットの先端ブロックの底面に当てて所定位置に停止させ,
cその後,供給ユニットのロッド先端のジェットピンをプロジェクション
ナットのねじ孔内に貫通させてプロジェクションナットを目的箇所へ供
給する形式のものにおいて,
d選別機に設置した選別片により裏返ったプロジェクションナットを排除
して正姿勢のプロジェクションナットだけを通過させる選別片を選別機
に設置し,
eジェットピンの外径(4.64㎜)は正規寸法であるM6のプロジェク
ションナットのねじ孔の内径よりも小さく設定されていると共に正規寸
法よりも小さなプロジェクションナット(M5)のねじ孔の内径よりも大
きく設定されている
fことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置
(2)構成要件B及びC
構成b及びcがそれぞれ構成要件B及びCに相当し,被告製品が構成要件
B及びCを充足することは認める。
(3)構成要件D
パーツフィーダに設置された選別片は,プロジェクションナットを供給ユ
ニットに送る際に裏返ったナット(ナットの座面にある溶接突起部がステン
レスボードに向いた状態のもの)を排除して,正姿勢のナットだけを通過さ
せることを目的としており,正姿勢のナットと裏返ったナットを高さの違い
により選別できるように設置されているにすぎず,異常寸法のナットを排除
できる位置関係になるように選別片が設置されているわけではない。そもそ
も,正規寸法以外のナットが混入すること自体あり得ず,選別片が,正規寸
法より大きいナットの排除に使用されることはない。結果的に,正規寸法よ
り大きなナットも排除されることになるが,被告製品は,そのことを目的と
しているわけではなく,本件特許発明と技術的思想が異なる。
(4)構成要件E
被告製品では,プロジェクションナットがヒンジカバーとジェットピンと
に挟まれた状態となり,正規寸法より小さいナットを「弾き飛ばす」とはい
えず,被告製品の供給ユニットは「供給ロッドの進出時にその先端部で弾き
飛ばすガイドロッド」を備えていないから,被告製品は構成要件Eを充足し
ない。
ア「弾き飛ばす」の意義
構成要件Eの「弾き飛ばす」は,「弾く」と「飛ばす」の複合語である。
「弾く」とは「押し曲げられた物がはね返る力でうつ」,「はねてよせつけ
ない」等という意味であり,「飛ばす」とは「空に上げる」,「空中を移動
させる」等という意味であるから,「弾き飛ばす」は,「はねて,空中を移
動する」という意味で解釈しなければならない。
本件明細書では,「ガイドロッドの先端部がナットの上面に当たる」,
「ナットが串刺しにされない」,「ナットが弾き飛ぶ」,「目的箇所に供給さ
れない」という本件特許発明の機構が段階的に説明されているにすぎず,
「弾き飛ばす」の定義が記載されているとみることはできず,「弾き飛ばす」
を「はねて,空中を移動する」と解釈しても,本件明細書のほかの記載と
抵触することはない。
また,本件明細書では「確実に弾き飛ばす」とされており(【0015】,
【0016】),「弾き飛ばす」ことが本件特許発明の本質的部分であるこ
とからすると,正規寸法よりも小さいプロジェクションナットについては,
常に弾き飛ばさなければならない。
したがって,構成要件Eの「弾き飛ばす」とは,「確実にはねて,空中
を移動する」と解釈されるべきである。
イ平成12年製品
平成12年製品は,原告らが勝手に,被告製品を改造し,あるいは被告
製品を模して製作した模造品である疑いが強い。また,本件特許が登録さ
れた平成14年以降の製品の構成要件充足性が論じられるべきところ,平
成12年製品は平成12年に製造されたものである。
したがって,平成12年製品の構成から,被告製品の構成を認定するこ
とはできない。
ウ平成17年製品
弁護士法23条の2第2項による照会に対し,平成17年製品を現在保
有している●●●●の担当者がどのような状態を「弾き飛ばす」に該当す
ると理解して回答したか,そのほかの者が改造,修理,部品の交換を行っ
ていないかが不明である。
したがって,平成17年製品の構成自体が不明であるし,これから被告
製品の構成を認定することはできない。
エ平成24年製品及び平成15年製品
平成24年製品及び平成15年製品も被告が製造,販売した製品で,
被告製品と同じ型式である。
平成24年製品及び平成15年製品を用い,供給ユニットに正規寸法
であるM6ナットより小さいM5ナットが供給された場合の作動を確
認するため,事実実験を実施したところ,供給ユニットのロッドが前進
を開始しても,その前進が途中で停止し,M5ナットがヒンジカバーと
ジェットピンで挟まれるロック状態となり,プロジェクションナットが
「はねて」もいないし,「空中を移動」してもいないことが確認された。
平成24年製品も平成15年製品も,被告が製造した後,修理,改造
及び部品交換は行っていない。平成15年製品のガイドロッドの進出速
度は,平成24年製品とほぼ同じである。被告製品は,平成15年の時
点においても平成24年の時点においても,その機構に変わりはない。
したがって,被告製品は,構成要件Eの「弾き飛ばす」ことをしてお
らず,構成要件Eを充足しない。
(5)構成要件F
被告製品は,構成要件A,D及びEを充足せず,本件特許発明と特徴を異
にするから,構成要件Fを充足しない。
1-2争点1-2(被告製品は,本件特許発明と均等なものとして,その技術
的範囲に属するか)について
【原告らの主張】
前記1-1のとおり,被告製品は,構成要件BからFまでを充足する。
プロジェクションナットを移動させる方式において,被告製品の磁石方式(構
成a)が,構成要件Aの振動方式と相違するものの,以下のとおり,被告製品
は,本件特許発明と均等なものとして,その技術的範囲に属する。
(1)被告製品と本件特許発明の上記相違点が本件特許発明の非本質的部分で
あること
本件特許発明は,正規寸法よりも小さいナットがストッパ面に一時係止さ
れているとき,「ガイドロッドの先端部がナットの上面かまたはねじ孔の角部
に当たり,串刺し作用が生じることなくナットは弾き飛ばされてしまう」た
め,「異常寸法のナットが目的箇所へ供給されたり,溶接されるようなことが
回避できる」(本件明細書【0014】)などの効果を奏する点に本質がある。
磁石方式か振動方式かという相違点は,プロジェクションナットを移動さ
せる方式に関わるにすぎず,上記の効果とは関係がなく,本件特許発明の本
質的部分ではない。
(2)置換可能性
振動方式のパーツフィーダを,磁石方式の選別機に置き換えても,正規寸
法よりも小さいプロジェクションナットが目的箇所へ供給されないようにす
るという本件特許発明の目的を達することができ,本件特許発明と同一の効
果を奏する。
(3)置換容易性
パーツフィーダにおいてプロジェクションナットを移動させる方式には,
振動方式だけでなく磁石方式もあることは,被告の出願に係る特開平11-
59878号公報に記載されているから,振動を利用するナットの送出装置
に替えて,磁石方式を採用することは,被告が被告製品の製造販売を開始し
た平成12年頃には,既に公知技術となっており,当業者が容易に想到する
ことができた。
(4)被告製品の構成が公知技術から容易に推考されないこと
被告製品の構成は,本件特許の出願時において,公知技術と同一又は当業
者が容易に推考できたものではない。
(5)包袋禁反言など特段の事情はないこと
被告製品が,本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除
外されたものに当たるなどの特段の事情は存しない。
【被告の主張】
プロジェクションナットを送出するパーツフィーダには,本件特許発明のよ
うな振動方式のほかにも多種多様の種類があり,原告P1は,複数の公知技術
の中から同方式を選択して技術分野を限定している(構成要件A)から,被告
製品の構成aを意識的に除外したというべきである。
2-1争点2-1(本件特許発明は,本件特許出願前に公然知られた発明又は
公然実施をされた発明であるか,あるいは,当業者が上記の発明に基づいて容
易に発明をすることができたものであるか)について
【被告の主張】
本件特許出願前に株式会社電元社製作所(以下「電元社」という。)が,平成
5年に製造し,販売したFEEDER(製造番号93-6132,型式AF-V
MU-H10-DR。以下「平成5年電元社製品」という。)及び昭和56年に
製造し,販売したナットフィーダー(製造番号81-0356,型式AFVM-
6/8形。以下「昭和56年電元社製品」という。)は,次のとおり本件特許発
明の各構成要件を備えている。したがって,本件特許発明は,その出願前に日
本国内において公然知られ,又は公然実施をされた発明として新規性を欠き,
本件特許は無効にされるべきものである。また,仮に新規性を有するとしても,
本件特許発明は,上記発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものであるから進歩性を欠き,本件特許は無効にされるべきものである。
したがって,原告らの権利行使は特許法104条の3により制限されるべき
である。
(1)平成5年電元社製品
ア以下のとおり,平成5年電元社製品は,本件特許発明の各構成要件を備
えている。
(ア)構成要件A
平成5年電元社製品は,プロジェクションナットを貯留し送り出す
パーツフィーダと,ナットを目的箇所へ供給する送給装置を備えている。
パーツフィーダは,ナットを貯留する円形のボウルと,ボウルに振動を
与えるバイブレータを備え,ボウルの上部外周壁にナットを送り出す
ナット送り管が接続され,ボウルの振動によりナットが送り出される。
したがって,パーツフィーダは,「円形のボウルに振動を与えてプロ
ジェクションナットを送出するパーツフィーダ」に相当するから,平成
5年電元社製品は構成要件Aを備えている。
(イ)構成要件B
平成5年電元社製品の送給装置は,プロジェクションナットを目的箇
所に送るスピンドルと,スピンドルを進退させるエアシリンダーを備え,
エアシリンダーのシリンダー部前端にガイドシリンダーが同軸で結合
され,ガイドシリンダーの前端においてナット受けが設けられている。
このナット受けよりチューブ接続管が上方へ延び,このチューブ接続管
とボウルのナット送り管が送給チューブで接続される。ナット受けには,
パーツフィーダから送給チューブによって送られるナットを停止させ
るストッパが設けられており,このストッパでナットが所定位置に停止
する位置決めがされる。
したがって,平成5年電元社製品は,「このパーツフィーダからのプ
ロジェクションナットをストッパ面に当てて所定位置に停止させ」に相
当する構成を有し,構成要件Bを備えている。
(ウ)構成要件C
平成5年電元社製品の送給装置のスピンドルの前端にはプロジェク
ションナットのねじ孔を貫通するガイドロッドが設けられ,スピンドル
を前進させると,スピンドル先端のガイドロッドがナットのねじ孔を貫
通し,ナットがスピンドルによって目的箇所に送られる。
したがって,スピンドルは本件特許発明の供給ロッドに相当し,平成
5年電元社製品は,「その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェク
ションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させてプロジェクション
ナットを目的箇所へ供給する形式のもの」であるから,構成要件Cを備
えている。
(エ)構成要件D
平成5年電元社製品のパーツフィーダには,プロジェクションナット
送出通路の途中2箇所に,ねじ孔が縦に開いた状態のナットを通過させ,
ねじ孔が横に開いた状態のナットの通過を排除する排除プレートが設
けられ,ナット送出通路には,さらに2箇所の排除プレートを通過した
ナットの表裏を選別する選別プレートが設けられている。正規寸法のM
10ナットよりも大きいプロジェクション溶接用M12六角ナットを
ナット送出通路に載せ,パーツフィーダを作動させると,M12ナット
は排除プレートに当たり,ナット送出通路からボウルの底に落下し,正
規寸法のM10ナット及びそれよりも小さいプロジェクション溶接用
M8六角ナットをナット送出通路に載せ,パーツフィーダを作動させる
と,M10ナット及びM8ナットは,排除プレートには当たらず,排除
プレートを通過する。
したがって,排除プレートは本件特許発明の計測手段に相当するので,
平成5年電元社製品は,「正規寸法よりも大きいプロジェクションナッ
トを排除し正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナットを通
過させる計測手段」としての排除プレートを「パーツフィーダの送出通
路」に設置しているから,構成要件Dを備えている。
(オ)構成要件E
平成5年電元社製品では,正規寸法よりも小さいM8ナットを送給
チューブから供給してストッパ面に当てて停止した状態にし,スピンド
ルを前進させると,M8ナットはスピンドルの進出時にガイドロッドの
先端で弾かれ落下する。ガイドロッドの外径は8.3㎜であり,正規寸
法のM10ナットのねじ孔の内径8.8㎜よりもわずかに小さく,正規
寸法よりも小さいM8ナットのねじ孔の内径6.8㎜よりも大きい。
したがって,ガイドロッドは,「ストッパ面に位置決めされた正規寸
法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッドの進出時に先端
部で弾き飛ばすガイドロッド」に相当し,「ガイドロッドの外径は正規
寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく
設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナット
のねじ孔の内径よりも大きく設定されている」から,平成5年電元社製
品は構成要件Eを備えている。
(カ)構成要件F
平成5年電元社製品が構成要件Fの構成を備えていることは明らか
である。
イ平成5年電元社製品が,製造当時のものと同一性を有すること
平成5年電元社製品は,平成5年11月30日に電元社から出荷され,
同年12月に被告が購入し,平成10年4月まで被告の工場において稼働
していたものである。平成5年電元社製品は,事実実験の際に,破損し,
廃棄されていたヒンジ板(キックバネを含む。),送給チューブを取り
付けたほかには,購入後,現在に至るまで,部品の交換,修理,改造等
を行っていない。したがって,平成5年電元社製品は,平成5年当時の
構成と同一性を失っていない。
なお,ヒンジ板の形状等は,本件特許発明の本質的部分である「弾き飛
ばす」こととは関係がなく,ヒンジ板を取り付けても,平成5年電元社製
品の同一性が失われることにはならない。
(2)昭和56年電元社製品
ア以下のとおり,昭和56年電元社製品は,本件特許発明の各構成要件を
備えている。
(ア)構成要件A
昭和56年電元社製品は,プロジェクションナットを貯留し送り出す
選別機と,ナットを目的箇所へ供給する送給装置を備えている。選別機
は,ナットを貯留する円形のボウルと,このボウルに振動を与えるバイ
ブレータを備え,ボウルの上部外周壁にナットを送り出すナット送出通
路が接続され,ボウルの振動によりナットが送り出される。
したがって,選別機は,「円形のボウルに振動を与えてプロジェクショ
ンナットを送出するパーツフィーダ」に相当するから,昭和56年電元
社製品は構成要件Aを備えている。
(イ)構成要件B
昭和56年電元社製品のM6ナット用の送給装置は,プロジェクショ
ンナットを目的箇所に送るスピンドルと,スピンドルを進退させるエア
シリンダーを備え,エアシリンダーのシリンダー部前端にガイドシリン
ダーが同軸で結合され,ガイドシリンダーの前端においては接続金具が
設けられている。接続金具よりシューターが上方へ延び,シューターと
ボウルのM6ナット用送出通路が接続されている。接続金具の取り付け
金具に取り付けられたヒンジ板には,選別機からシューターによって送
られるナットを停止させるストッパが設けられており,ストッパでナッ
トが所定位置に停止する位置決めがされる。
したがって,昭和56年電元社製品は,「このパーツフィーダからの
プロジェクションナットをストッパ面に当てて所定位置に停止させ」に
相当する構成を備えており,構成要件Bを備えている。
(ウ)構成要件C
昭和56年電元社製品の送給装置のスピンドルの前端にはプロジェ
クションナットのねじ孔を貫通し反対側に突き抜けた状態になるガイ
ドロッドが設けられ,スピンドルを前進させると,スピンドル先端のガ
イドロッドがナットのねじ孔を貫通し,そのナットがスピンドルによっ
て目的箇所に送られる。
したがって,スピンドルは本件特許発明の供給ロッドに相当し,昭和
56年電元社製品は,「その後,供給ロッドのガイドロッドをプロジェ
クションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させてナットを目的箇所
へ供給する形式のもの」であるから,構成要件Cを備えている。
(エ)構成要件D
昭和56年電元社製品の選別機には,プロジェクションナット送出通
路の途中2箇所に,ねじ孔が縦に開いた状態のM6ナット及びM8ナッ
トを通過させ,ねじ孔が横に開いた状態のM6ナット及びM8ナットの
通過を排除する排除プレートが設けられ,ナット送出通路には,さらに
2箇所の排除プレートを通過したナットの表裏を選別する裏表選別突
条が設けられている。M8ナットよりも大きいM10ナットを送出通路
に載せ,パーツフィーダを作動させると,M10ナットは排除プレート
に当たり,送出通路からボウルの底に落下し,M5ナット,M6ナット
及びM8ナットを送出通路に載せ,選別機を作動させると,M5ナット,
M6ナット及びM8ナットは排除プレートには当たらず,排除プレート
を通過する。裏表選別突条が設けられている部分よりも送給装置側にお
いて,M6用送出通路とM8用送出通路に分岐しており,分岐部にM8
ナットをM6用送出通路には向かわせず,M8用送出通路に向かわせる
分別プレートが設けられている。
したがって,排除プレート及び分別プレートは本件特許発明の計測手
段に相当し,昭和56年電元社製品は,「正規寸法よりも大きいナット
を排除し正規寸法あるいはそれ以下のプロジェクションナットを通過
させる計測手段」としての排除プレート及び分別プレートを「パーツ
フィーダの送出通路」に設置しているから,構成要件Dを備えている。
(オ)構成要件E
昭和56年電元社製品では,正規寸法よりも小さいM5ナットを
シューターから供給しストッパに当てて停止した状態にし,スピンドル
を前進させると,M5ナットはスピンドルの進出時にガイドロッドの先
端で弾かれ落下する。M6用送給装置のガイドロッドの外径は4.66
㎜であり,正規寸法のM6ナットのねじ孔の内径5.09㎜よりもわず
かに小さく,正規寸法よりも小さいM5ナットのねじ孔の内径4.29
㎜よりも大きい。
したがって,ガイドロッドは,「ストッパ面に位置決めされた正規寸
法よりも小さいプロジェクションナットを供給ロッドの進出時にその
先端部で弾き飛ばすガイドロッド」に相当し,ガイドロッドの外径は「正
規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さ
く設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナッ
トのねじ孔の内径よりも大きく設定されている」から,昭和56年電元
社製品は構成要件Eを備えている。
(カ)構成要件F
昭和56年電元社製品が構成要件Fを備えていることは明らかであ
る。
イ昭和56年電元社製品は,昭和56年当時の構成と同一性を失っていな
い。すなわち,シューターは送給装置の先端部に固定されているので,送
給装置及びシューターを含むナットフィーダの装置全体が昭和56年製造
のものと認められる。
【原告らの主張】
(1)平成5年電元社製品
ア平成5年電元社製品のうち,本件特許出願前に公然実施をされていたと
認められるのは,パーツフィーダに係る構成のみであり,構成要件B,C
及びEを含めた本件特許発明が公然実施をされたとは認められない。
イスピンドル及びノーズピンは消耗品であり,使用している間に何度か交
換していることは疑いがないから,事実実験において用いられたスピンド
ル及びノーズピンが,平成5年に製造されたものであるとは認められない。
そもそも,パーツフィーダと比較して,送給装置のガイドシリンダー,ス
ピンドル及びノーズピンは摩耗,汚れ,錆等がなく,明らかに別の時期の
製品であると認められる。したがって,平成5年電元社製品が平成5年に
製造されたとは認められない。
仮に平成5年電元社製品の送給装置やスピンドルが平成5年に製造さ
れたものであったとしても,平成5年電元社製品におけるプロジェクショ
ンナットの供給方式は永久磁石方式を採用しており,ガイドロッド(ノー
ズピン)が短くても,ナットを串刺し状に貫通させることなく,ナットを
目的箇所へ供給することができる。したがって,「正規寸法より小さいプ
ロジェクションナットを確実に弾き飛ばす」という本件特許発明特有の作
用効果を奏するものではない。
(2)昭和56年電元社製品
被告が昭和56年電元社製品を購入したのは平成25年3月であり,事実
実験の時点で,昭和56年電元社製品が製造当時のままの構成を備えていた
か不明である。シューターが固定されていることと,容易に分離可能である
ことは両立するのであり,シューターが固定されていることをもって,送給
装置を含む全体が昭和56年に製造されたと認めることはできない。
仮に,昭和56年電元社製品の送給装置やスピンドルが昭和56年に製造
されたものであったとしても,昭和56年電元社製品は,ナットの供給方式
として,永久磁石方式を採用しており,本件特許発明の作用効果を奏するも
のではない。
2-2争点2-2(本件特許発明は,当業者が,本件特許出願前に頒布された
乙12公報に記載された乙12発明に基づいて,容易に発明をすることができ
たものであるか)について
【被告の主張】
本件特許発明は,出願前に頒布された乙12公報に記載された乙12発明に,
特公昭47-41655号公報(以下「乙13公報」という。)に記載された発
明(以下「乙13発明」という。),「機械設計」第17巻第1号53頁以降(以
下「乙3刊行物」という。)に記載された発明(以下「乙3発明」という。)及
び実開昭60-151821号公報(以下「乙14公報」という。)に記載され
た発明(以下「乙14発明」という。)を適用することによって,当業者が容易
に発明をすることができたものであるから,本件特許発明は進歩性を欠き,本
件特許は無効にされるべきものである。
(1)乙12発明
乙12公報には,以下の発明(乙12発明)が記載されている。
12A回転式の振動コンベアからなるボウルに振動を与えてプロジェ
クションナットを送出する整列手段と
12Bこの整列手段からのプロジェクションナットを受入部の底面に
当てて所定位置に停止させ,
12Cその後,送出杆の先端部をプロジェクションナットのねじ孔内に
係合させてプロジェクションナットを目的箇所へ供給する形式のもの
において,
12Dプロジェクションナットの倒立又は縦横を選別し,突起の向きを
一方向に整列する手段を整列手段に設置し,
12E受入部の底面に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェ
クションナットを送出杆の先端部の進出時にその先端で弾き飛ばす送
出杆の先端部の外径は正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の
内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法よりも小さ
いプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されてい

12Fことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置
(2)乙12発明と本件特許発明との対比
ア一致点
乙12発明の「ナット」,「整列手段」,「送出杆」,「送出杆の先端部」は,
それぞれ本件特許発明の「プロジェクションナット」,「パーツフィーダ」,
「供給ロッド」,「ガイドロッド」に相当し,乙12発明の構成12A,1
2B,12E及び12Fは,それぞれ本件特許発明の構成要件A,B,E
及びFに相当する。
イ相違点
(ア)相違点1
本件特許発明は,プロジェクションナットを目的箇所へ供給する際に,
供給ロッドのガイドロッドをナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通させ
て供給するのに対して(構成要件C),乙12発明は,送出杆の先端部
をナットのねじ孔内に係合させて供給する点で,両者は相違する。
(イ)相違点2
本件特許発明は,パーツフィーダの送出通路に「正規寸法よりも大き
いプロジェクションナットを排除し正規寸法あるいはそれ以下のプロ
ジェクションナットを通過させる計測手段」を設置しているのに対して
(構成要件D),乙12発明においては「プロジェクションナットの倒
立又は縦横を選別し,突起の向きを一方向に整列する手段」を設置する
ものの,正規寸法よりも大きいプロジェクションナットを排除するか等
については不明である点で,両者は相違する。
(3)容易想到性
ア相違点1
(ア)乙13発明の内容
乙13発明において,ナットは工作物にスポット溶接されるから,本
件特許発明の「プロジェクションナット」に相当する。乙13発明の図
面によれば,案内棒はナットの螺糸孔内へ串刺し状に貫通している。ス
ピンドルが下降し案内棒がナット孔を串刺し状に貫通してそのナット
が板金工作物のナット溶接個所に供給されるから,スピンドルは本件特
許発明の「供給ロッド」に相当し,案内棒は本件特許発明の「ガイドロッ
ド」に相当する。
したがって,乙13発明は,構成要件Cに相当する構成を備えている。
(イ)容易想到性
乙12発明と乙13発明は,いずれも,従来手作業で行っていたナッ
ト供給を装置によって自動化することを目的とする発明であり,乙12
発明は物品としてのナットを自動供給する装置に関するものであり,乙
13発明はスポット溶接機へのナットの供給方法及び装置に関するも
のであり,両者は同一の技術分野に属する。
したがって,当業者であれば,乙13発明に記載されたナットの孔を
串刺し状に貫通する案内棒の構成を乙12発明に記載された送出杆の
先端部に設けることは,基礎的な技術手段を適用するにすぎず,容易に
想到することができる。
イ相違点2
(ア)乙3発明の内容
乙3発明の部品については,図面の「扁平部品」の記載から,プロジェ
クションナットも含まれることが分かる。そして,「大きいものはゲー
トでひっかかりシュートへ送り出されない」ものの,「ゲートの切欠き
形状を通過するような小さいものは,整列された部品と同様,シュート
へ送り出される」ので,本件特許発明の構成要件D「正規寸法よりも大
きいプロジェクションナットを排除し正規寸法あるいはそれ以下のプ
ロジェクションナットを通過させる計測手段」に相当し,かかるゲート
は,図面から明らかであるとおり,送出通路に設置されている。
したがって,乙3発明は,構成要件Dに相当する構成を備えている。
(イ)乙14発明の内容
乙14発明において,チェックゲージが設置されている螺旋形段部は
「その終端部から送出用の供給管が伸びている」ことから,チェック
ゲージはパーツフィーダーの送出通路に設置されているといえる。
「ナットが裏向きになつていると,ガイド溝の深さに相当する分だけ突
起が高くなるので,この高くなった箇所がチェックゲージの前面に接触
する」ことからすると,チェックゲージと正規寸法のプロジェクション
ナットとの隙間は,当該ナットの溶接用突起よりも小さいことになり,
図面からも,正規寸法より大きいナットはチェックゲージによって排除
されることが明らかである。
したがって,乙14発明は,構成要件Dに相当する構成を備えている。
(ウ)容易想到性
乙12発明,乙3発明及び乙14発明は,いずれもプロジェクション
ナットを含むナットを供給するパーツフィーダに関する発明であるか
ら,当業者であれば,乙3発明又は乙14発明に記載された正規寸法よ
りも大きいプロジェクションナットを排除し正規寸法あるいはそれ以
下のプロジェクションナットを通過させるゲート又はチェックゲージ
を,乙12発明の整列手段に設けることは容易に想到することができる。
【原告らの主張】
以下のとおり,本件特許発明は,乙12発明に基づいて,当業者が容易に発
明することができたものではない。
(1)乙12発明と本件特許発明との対比
ア一致点
本件特許発明と乙12発明は,「円形のボウルに振動を与えてプロジェ
クションナットを送出するパーツフィーダとこのパーツフィーダからのプ
ロジェクションナットをストッパ面に当てて所定位置に停止させ,その後,
供給ロッドのガイドロッドを用いてプロジェクションナットを目的箇所へ
供給する形式のプロジェクションナットの供給装置」という構成の限度で
一致している。
イ相違点
本件特許発明と乙12発明には,被告が主張する相違点1及び2に加え,
以下の相違点がある(相違点3)。
本件特許発明のガイドロッドは,ストッパ面に位置決めされた正規寸法
より小さいプロジェクションナットを供給ロッドの進出時にその先端部で
弾き飛ばすものであり,その外径は正規寸法のプロジェクションナットの
ねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されていると共に正規寸法より小
さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定されている
のに対して,乙12発明はこの点が不明である。
(2)容易想到性
ア相違点1
乙12発明が,ナットが詰まった時や装置の保守点検時にシュートを脱
着しても,その取付位置を間違えることなく,結果としてナットの表裏選
別を確実に行うことを解決課題及び目的としているのに対し,乙13発明
は,従来は手作業で行っていたナット供給を,装置を用いて自動化すると
いうことを目的としている。したがって,乙12発明と乙13発明は,目
的とする解決課題及び作用効果が全く異なるものであり,乙12発明に乙
13発明のナット供給方式を適用する動機付けはなく,当業者が容易に想
到できるものではない。
イ相違点2
乙14発明には,「正規寸法よりも小さいプロジェクションナット」につ
いての記載がなく,相違点2に関し,当業者が,「正規寸法あるいはそれ
以下のプロジェクションナットを通過させる計測手段」が開示されている
と理解することはできない。
ウ相違点3
相違点3に関し,乙3刊行物,乙13公報及び乙14公報には,構成要
件Eに相当する構成が開示されていない。
2-3争点2-3(本件特許は,明確性要件に違反するものであるか)につい

【被告の主張】
本件特許発明の構成要件Eの「ガイドロッドの外径は正規寸法のプロジェク
ションナットのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定」及び「正規寸法より
も小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定」との記載
は,意味が明確ではなく,本件特許は,明確性要件に違反するものであり,無
効にされるべきものである。
【原告らの主張】
以下のとおり,本件特許は,明確性要件に違反するものではない。
(1)プロジェクションナットのねじ孔の内径には規格があり,M10ナットが
正規寸法である場合も,M8ナットが正規寸法の場合も当然存在するから,
一義的に数値で特定するのは不可能であるため,本件明細書では,正規寸法
を基準に相対的にガイドロッドの外径を特定している。本件明細書の記載か
ら,構成要件Eにおける発明特定事項が「正規寸法のプロジェクションナッ
トの内径>ガイドロッドの外径>正規寸法より小さいプロジェクション
ナットの内径」という意味を有するものであることは,当業者にとって自明
である。
(2)被告の主張は,本件特許発明を具体的に実施する上で高い寸法精度が要求
される場合があるとの指摘にすぎず,明確性要件とは無関係である。
3争点3(原告会社の損害)について
【原告会社の主張】
(1)被告は,平成21年9月28日から平成24年9月15日までの間,被告
製品を,1台当たり少なくとも40万円で,少なくとも360台製造販売し
(売上合計1億4400万円),少なくとも4320万円(利益率30%)の
利益を得た。
原告P1は,本件特許が出願された直後から,原告会社に対し,本件特許
発明について,期限を本件特許存続中とする独占的通常実施権(仮通常実施
権を含む。)を許諾していた。原告会社は,本件特許発明を独占的に実施し得
る地位にあったといえ,特許法102条2項の類推適用により,上記利益の
額は,原告会社が受けた損害の額と推定される。
(2)原告会社は,本件の解決のために,訴訟代理人弁護士に委任した。本件と
相当因果関係のある弁護士費用は,430万円を下らない。
(3)したがって,原告会社の損害は合計4750万円である。
【被告の主張】
否認ないし争う。
4争点4(原告P1の損失)について
【原告P1の主張】
被告は,平成14年9月28日から平成21年9月27日までの間,被告製
品を,1台当たり少なくとも40万円で,少なくとも840台製造販売した(売
上合計3億3600万円)。本件特許発明の実施に対し原告P1が受けるべき実
施料率は,年5%を下らない。
本件特許発明の実施行為により,被告は,法律上の原因なく,1680万円
の利得を受けた一方,原告P1は,同額の損失を被っており,この利得と損失
の間には因果関係がある。
【被告の主張】
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
被告製品が本件特許発明の構成要件Eに相当する構成を備えていると認める
に足りる証拠はなく,被告製品は,本件特許発明の技術的範囲に属するものと
はいえない。
以下,その理由を説明する。
1「弾き飛ばす」の意義
(1)本件明細書の記載
本件明細書には,概ね以下の記載がある(甲4)。
ア発明の属する技術分野
本件特許発明は,プロジェクションナットを供給する分野におけるもの
であり,供給ロッドのガイドロッドをプロジェクションナットのねじ孔内
へ串刺し状に貫通させて,ナット供給を行うものに関するものである(【0
001】)。
イ従来の技術及び発明が解決しようとする問題点
従来の技術では,供給ロッドのガイドロッドの外径がプロジェクション
ナットのねじ孔の内径よりも大幅に小さく設定されており(【0002】),
ガイドロッドが,ストッパ面に停止した正規寸法よりも小さいプロジェク
ションナットをも串刺しにして通常通りに供給してしまい(【0003】),
パーツフィーダ側の送出コントロールと供給ロッドの構造,寸法との有機
的な関連性が設定されずに,異常寸法のナットに対する解決策が満足にと
れていないという問題があった(【0005】)。
ウ問題を解決するための手段とその作用
請求項2ではガイドロッドの外径が,正規寸法のプロジェクションナッ
トのねじ孔の内径よりもわずかに小さく設定されると共に,正規寸法より
も小さいプロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定され
ることとされ,パーツフィーダにおいてあらかじめ正規寸法よりも大きい
ナットを意図的に排除した後,正規寸法よりも小さいナットを供給ロッド
の箇所で供給させないようにし,パーツフィーダ側と供給ロッド側とに連
携性を持たせている(【0006】)。
エ発明の実施の形態
ガイドロッドの外径は,正規寸法のプロジェクションナットのねじ孔の
内径よりもわずかに小さく設定されるとともに,正規寸法よりも小さいプ
ロジェクションナットのねじ孔の内径よりも大きく設定される(【000
9】)。その結果,正規寸法のナットのねじ孔がガイドピンに嵌り合う(【0
010】)のに対し,正規寸法よりも小さいナットについては,供給ロッ
ドが進出するとガイドロッドの先端部がナットの上面に当たることにな
り,ナットは弾き飛ばされ,目的箇所へは供給されない(【0013】)。
オ効果
正規寸法よりも小さいナットがストッパ面に一時係止されているとき
は,ガイドロッドの先端部がナットの上面かねじ孔の角部に当たり,串刺
し作用が生じることなくナットが弾き飛ばされ(【0014】,【0015】,
【0016】),正規寸法よりも大きいプロジェクションナットをあらかじ
め排除しておくためのパーツフィーダにおける計測機能と,一時係止状態
にあるナットへのガイドロッドの作動とが有機的に関連付けられ,正規寸
法よりも小さいナットを排除するための特別な機構等が全く不要となる
(【0014】)。
(2)特許請求の範囲及び本件明細書の訂正の経緯
ア原告P1は,本件特許に係る特許異議に際し,訂正を請求し,請求項2
の「ガイドロッド」を「ストッパ面に位置決めされた正規寸法以下のプロ
ジェクションナットを供給ロッドの進出時にその先端部で弾き飛ばすガ
イドロッド」に訂正することを求めるとともに(甲3,乙7),意見書(乙
16)を提出した。原告P1は,上記意見書に,「本件特許発明はガイド
ロッドの外径をその上限と下限とをもって特定することによって,ガイド
ロッドに正規寸法以下のナットを排除する機能を積極的に付与したもの
です。言い換えれば,パーツフィーダにおける計測機能と一時係止状態に
あるナットへのガイドロッドの作動とが有機的に関連付けられているの
で,一連の作動がシステマティックに行われるのです。」と記載した。
イ原告P1は,明細書の訂正を求める審判請求をし,「正規寸法以上の」
とあるのを「正規寸法よりも大きい」と訂正し,「正規寸法以下の」とあ
るのを「正規寸法よりも小さい」と訂正することなどを求めた(甲4,5)。
原告P1は,審判請求書(甲4)に,本件特許発明において,「正規寸法
よりも大きいナットはパーツフィーダ側で排除し,正規寸法よりも小さい
ナットをガイドロッド先端部で弾き飛ばすという構成を採用した」旨記載
した。
(3)検討
特許請求の範囲及び本件明細書に,「弾き飛ばす」の意義を直接に明示した
記載は見当たらないが,これらの記載内容に,訂正の経緯を併せ考慮すると,
「正規寸法」とは,プロジェクションナットのねじ孔の内径に関するもので
あり,「弾き飛ばす」とは,供給ロッドのガイドロッドが,正規寸法よりも小
さいプロジェクションナットを,目的箇所へ供給されないように排除する動
きを意味すると考えられる。
ここで,「弾き飛ばす」のうち,「弾く」には,「のけものにする。排斥する。
はねてよせつけない。」という意味があり(乙17の1),「飛ばす」には,「飛
ぶようにする。空に上げる。空中を移動させる。」という意味がある(乙17
の2)。
したがって,「弾き飛ばす」とは,供給ロッドのガイドロッドが,その進出
時に,ストッパ面に当たって所定位置に停止した正規寸法よりも小さいプロ
ジェクションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通せずに,ガイドロッドの先
端部を当該ナットの上面やねじ孔の角部に当てて,当該ナットをはねて,空
中を移動させて落下させることによって,当該ナットを排除するという動き
を意味すると解される。
正規寸法よりも小さいプロジェクションナットが,ヒンジカバーとジェッ
トピンで挟まれ,停止したままの状態(ロック状態)は,当該ナットを排除
しているわけでなく,「弾き飛ばす」とはいえない。
2被告製品の構成及び構成要件充足性
原告らは,平成12年製品と平成17年製品を被告製品であるとして,その
構成要件充足性を主張する。これに対し,被告は,平成24年製品と平成15
年製品を被告製品であるとして,その構成要件充足性を争う(これらの製品は,
正規寸法より小さいプロジェクションナットを弾き飛ばすことをせず,ロック
状態を生じるので,前記1のとおり,構成要件Eを充足しない。)。
いずれの製品も,被告が製造し,販売したものであり,型式も被告製品と同
じであるが,以下に述べるとおり,現在の平成12年製品と平成17年製品が,
製造当時のものと同じ構成であると認めることはできず,被告製品が,本件特
許発明の構成要件を充足するとの原告らの主張を認めることはできない。
(1)平成12年製品
以下のとおり,平成12年製品は,正規寸法よりも小さいプロジェクショ
ンナットを弾き飛ばす構成を備えているが,ジェットピンの形状が被告製品
のものとはいえず,平成12年製品によって,被告製品の構成を認定するこ
とはできない。
ア平成12年製品の構成(プロジェクションナットを弾き飛ばすこと)
甲第6号証では,プロジェクションナット供給装置のジェットピンが,
正規寸法よりも小さいと思われるナットを「弾き飛ばす」状況が撮影され
ている。証拠(甲17,20,24)によれば,甲第6号証において撮影
されたナット供給装置は,被告が平成12年●●に製造した平成12年製
品(NUTFEEDER:製造番号●●●●●●,型式NS-ARF)である
と認められる。
イ平成24年製品及び平成15年製品の構成(プロジェクションナットを
弾き飛ばさないこと)
しかしながら,他方で,証拠(乙2の1・2,乙38の1・2)によれ
ば,被告が平成24年に製造した平成24年製品(製造番号M6-368
0,型式NS-ARF)及び平成15年に製造した平成15年製品(製造
番号M6-591,型式NS-ARF)では,選別機に,正規寸法のM6
ナットと共に,正規寸法よりも小さいM5ナットを混入させた場合,M5
ナットについては,供給ユニットのロッドが前進を開始した後,その前進
が途中で停止し,M5ナットがヒンジカバーとジェットピンに挟まれた状
態になったこと,すなわち,ナットを弾き飛ばしていないことが認められ
る。
ウジェットピンの形状の比較
平成12年製品のジェットピンの形状(甲18)と平成24年製品の
ジェットピンの形状(乙2の1,写真9)及び平成15年製品のジェット
ピンの形状(乙38の1,写真10)を比較すると,平成12年製品の
ジェットピンのフランジ部分の角がなだらかなテーパー状になっている
のに対し,平成24年製品及び平成15年製品のジェットピンのフランジ
部分の角が直角になっている。加えて,平成11年に製造されたNUT
FEEDER(製造番号M6-98,型式NS-ARF)も,ジェットピンの
フランジ部分の角が直角になっている(乙33の1・2)。
以上によると,むしろ,被告製品のジェットピンの形状は,一貫して,
フランジ部分の角が直角になっていることが認められる。
なお,取扱説明書(甲7,乙1)に掲載されたジェットピンの図では,
フランジ部分の角がなだらかになっている。しかし,取扱説明書の前後の
記載内容をみると,ジェットピンの図は,シリンダー部を構成する部品の
概要及び名称等を説明する趣旨で掲載されているにすぎず,必ずしも部品
の細部の形状まで精密に記載しているわけではない。
また,平成12年製品を保有する●●●●の担当者による平成25年1
0月23日付けの陳述書(甲20)には,平成12年●●●に平成12年
製品を購入した当時,スピンドルの先端の形状が平成12年製品を撮影し
た写真のとおりであり,平成20年9月頃に原告会社に貸与するまでの間,
部品の交換,修理,改造をしたことはない旨が記載されている。しかし,
上記の陳述書は,平成12年製品を保有する●●●●の社員から聞き取っ
た内容を記載したにとどまり(甲24),上記の記載内容によって,当該
社員が約13年前に購入した平成12年製品のジェットピンの形状まで
記憶しており,製造された当初から平成12年製品のジェットピンのフラ
ンドル部分がなだらかなテーパー状であったと認めることはできず,ほか
にそのような事実を認めるに足りる証拠はない。
エプロジェクションナットを弾き飛ばすか否かを決める原因
平成24年製品及び平成15年製品において,M5ナットがヒンジカ
バーとジェットピンに挟まれた状態になったのは,ロッドの前進が停止し
たのが原因であると考えられる。そして,ロッドの前進が停止したのは,
ジェットピンが,先端ブロックに停止したM5ナットのねじ孔内に串刺し
状に貫通せずにM5ナットを前方に押し動かし,供給ホース内にある後続
のプロジェクションナットが下方に動き,ジェットピンのフランジ部分が,
その角が直角になっているために,後続のナットに引っ掛かったのが原因
であると考えられる(乙2の1・2,乙38の1・2)。
平成15年製品を用いた事実実験(乙38の1・2)では,ヒンジカバー
とジェットピンに挟まれたM5ナットを取り除き,ヒンジカバーを開いた
状態にしたところ,後続のナットの下部が仮止め室の前面開口の上縁と
ジェットピンのフランジとに挟まれて後続のナットが傾き,ジェットピン
のフランジが後続のナットを供給ユニット前端のブロックにロックした
状態になっていたことが認められる。このことは,ジェットピンのフラン
ジ部分が後続のナットに引っ掛かることがロック状態の原因であること
を裏付けている。したがって,ジェットピンの形状の違いが,正規寸法よ
りも小さいナットを弾き飛ばすか否かに違いが生じる原因となっている
と考えられる。
オジェットピンの速度が及ぼす影響
原告らは,ナットが進出する速度と,ジェットピンの前進速度とを調整
することにより,フランジ部分に次のナットが引っ掛からないようにする
ことは可能であると主張する。確かに,ナットを弾き飛ばす平成12年製
品と,ロック状態を生じる平成24年製品を比較したところ,これらの速
度が異なることが窺える(甲6,乙2の2,乙20の1・2,乙38の2,
乙42の1)。
しかしながら,速度の違いだけがナットを弾き飛ばす原因であると断定
することもできず,ジェットピンの形状が前記のロック状態の原因である
ことを否定することはできないというべきである。
仮に,ジェットピンの前進する速度の違いが原因で,ナットを弾き飛ば
すか否かの違いが生じる可能性があるとしても,被告製品において,
ジェットピンの前進する速度の設定が,平成12年製品のものと認めるに
足りる証拠はない。むしろ,証拠(乙1)によると,平成24年製品のも
のは,ジェットピンの前進する速度を調整する機構を備えておらず,被告
製品の設定どおりであることが窺える。
また,平成15年製品についても,平成24年製品とほぼ同じ時間を要
することが窺える(乙42の1・2)。
カまとめ
以上のとおり,平成12年製品は,ジェットピンが交換され,被告製品
が本来備えているはずのジェットピンとは異なるジェットピンが取り付
けられている疑いがあり,被告製品と認めることはできない。したがって,
平成12年製品によって,被告製品が正規寸法よりも小さいプロジェク
ションナットを「弾き飛ばす」という構成要件Eに相当する構成を備えて
いると認めることはできない。
(2)平成17年製品
弁護士法23条の2第2項による照会に対し,●●●●は,工場内に,被
告が平成17年に製造した平成17年製品(製造番号●●●●●●●,型式
NS-ARF)を保有し,供給ホースにM8ナットと共にM6ナットを混入
した場合,M6ナットは,供給ユニットのロッドの進出時に,ジェットピン
の先端部で弾き飛ばされる旨回答している(甲25の1・2)。
しかし,●●●●は,M6ナットを混入した場合,供給ユニットのロッド
の前進が途中で停止し,M6ナットがヒンジカバーとジェットピンに挟まれ
たロック状態になることが「あります。(一瞬ですが)」と回答しており,ロッ
ク状態が生ずるとも読み取れる。また,回答書のみでは,●●●●の工場内
にあるプロジェクションナット供給装置,特に,ジェットピンがどのような
形状をしているか,あるいはどのような状況で供給装置を作動させたかは明
らかではない。
したがって,平成17年製品によって,被告製品が正規寸法よりも小さい
プロジェクションナットを弾き飛ばすという構成要件Eに相当する構成を備
えていると認めることはできない。
なお,原告らは,前記第3の1-1【原告らの主張】(4)イ(イ)において,
M6ナットとM8ナットの内径をそれぞれ6㎜,8㎜と説明している。これ
は,甲25の2に基づく主張と考えられるが,これらのナットはJIS規格
に基づく規格品であり,上記寸法は,M6ナット,M8ナットに螺合するお
ねじの外径の基準寸法であり(甲10),実際のナットの内径の寸法とは異な
ると考えられる。
(3)そのほかに,被告製品が構成要件Eに相当する構成を備えていると認める
に足りる証拠はない。
3結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求には
いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田陽三
裁判官松阿彌隆
裁判官林啓治郎
(別紙)
被告物件目録
1品名NUTFEEDER
型式NS-ARF
2上記1のほか,別紙被告製品説明書と同一の構成を有するプロジェクション
ナットの供給装置
(別紙)
被告製品説明書
1製品の説明
名称NUTFEEDER型式NS-ARF
2符号の説明
3鋼板部品
4正規寸法のプロジェクションナット
5供給ユニット
6ロッド
7中間チューブ
8供給ホース
25ジェットピン
27シリンダー
28先端ブロック
29ねじ孔
30ガイドピン
31ホッパー
32選別機のナット通路
33マグネットホルダー
331マグネット
332クロス
34選別片
35入り口板
38正規寸法より大きいプロジェクションナット
39正規寸法より小さいプロジェクションナット
40ヒンジカバー
41選別機
42選別ボード
43ステンレスボード
44モーター
3図面の説明
図1供給ユニットの縦断面図
図2供給ユニット全体を示す側面図
図3正規寸法のプロジェクションナットにジェットピンが貫通している状
態を部分的に示す縦断面図
図4選別機の選別部の斜視図
図5図4のB-B断面図
図6図5のC-C断面図
図7図4のA-A部分断面図
図8正規寸法より大きいプロジェクションナットを排除している状態を示
す図
図9~11正規寸法より小さいプロジェクションナットをジェットピンで
弾き飛ばしている写真
4構成
aマグネットホルダー33を回転することによりプロジェクションナット
4を送出する選別機41と
bこの選別機41からのプロジェクションナット4を先端ブロック28に
当てて所定位置に停止させ,
cその後,供給ユニット5のロッド6のジェットピン25をプロジェクショ
ンナット4のねじ孔29内へ串刺し状に貫通させてプロジェクションナット
4を目的箇所へ供給する形式のものにおいて,
d正規寸法(例えばM6)よりも大きいプロジェクションナット38を排除
し正規寸法4あるいはそれ以下のプロジェクションナットを通過させる選別
片34を選別機41のナット通路32に設置し,
e先端ブロック28に位置決めされた正規寸法よりも小さいプロジェク
ションナット39を供給ユニット5のロッド6の進出時にその先端部で弾き
飛ばすジェットピン25の外径(M6用では4.5㎜)は正規寸法のプロジェ
クションナット4のねじ孔の内径(M6では4.917㎜)よりもわずかに小
さく設定されていると共に正規寸法よりも小さいプロジェクションナット3
9のねじ孔の内径(M5では4.134㎜)よりも大きく設定されている
fことを特徴とするプロジェクションナットの供給装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11

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採用情報


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激動の時代に
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