弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを無期懲役に、同Bを懲約一〇年にそれぞれ処する。
     押収にかかる匕首一振(昭和三〇年領第一七五号の二一)は被告人Aよ
り、同匕首一振(同領号の一五)は同Bよりそれぞれこれを没収する。
     押収にかかる背広上着一枚、ズボン一枚、煙草「富士」四個、現金一三
一〇円、合オーバー一着(昭和三〇年領第一七五号の一乃至四及び一三)はいずれ
もこれを被害者Cに、同懐中電灯一個(同領号の一八)はこれを被害者Dに、同財
布一個(同領号の二〇)はこれを被害者Eにそれぞれ還付する。
     訴訟費用中、原審において被告人両名の各国選弁護人に支給した分はい
ずれも当該被告人の負担とし、当審において国選弁護人江島晴夫に支給した分は被
告人Bの、証人F、G、H、Iに各支給した分は被告人Aのそれぞれ負担とする。
         理    由
 被告人A、同被告人の弁護人森永竜雄、並びに被告人Bの弁護人江島晴夫の各控
訴の趣意は記録編綴の各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用す
る。これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 被告人Aの論旨第一点について
 所論は原判示第六の事実につき殺害の意思は無かつたものである旨事実の誤認を
主張するのである。しかし右殺意の点は原判決の挙示する照応証拠によつて優に証
明することが出来、記録を精査し、当裁判所の証拠調の結果に徴するも原判決に事
実誤認の疑は見出されない。論旨は理由がない。
 同被告人の論旨第二点及び同被告人の弁護人森永竜雄の論旨について
 所論はいずれも原判決が被告人Aに対し死刑を言渡したのは量刑不当であると主
張するのである。よつて記録並びに当審証拠調の結果を検討するに、同被告人は原
判決摘示の如き犯罪経歴を有するにかかわらず、その後もいささかも改悛するとこ
ろなく、原判示各強窃盗の犯行を重ねたものであり、その内刺身庖丁等の兇器を突
付けて強盗に及ぶこと三回、しかも警察の手が延び身の危険を知るやレ匕首を用意
し警察官を殺傷しても、あくまで逃走しようと決意するに至つたばかりでなく、実
父Jにおいて被告人が今後どのような罪を犯すかもしれないから一日も早く逮捕さ
れることを望むと漏した由を聞知するや、立腹して実父殺害をも企図した程のもの
であり、揚句の果て原判示第六記載の如く警察官K外三名から逮捕されようとする
や、かねて覚悟のとおり逃走する為には警察官を殺傷するもやむなしと決意し、隠
し持つた匕首をかざして右四名に対し必死の抵抗を為し、遂に右Kを殺害し、他二
名に原判示の如き重傷を加えるに至つたものであつて、その兇暴さはたぐい稀であ
るということが出来る。しかしながら他面右各証拠によれば被告人は本件各強盗の
犯行において、出刃庖丁等の兇器を突きつけてはいるが、これはいずれの場合にお
いても脅迫の為にのみ用いられており、これを以て被害者の身体生命に危害を加え
ようとはしていないこと、原判示第六の犯行も被告人逮捕の為赴いた警察官数人に
追いつめられた際逃走し度い一念から窮余遮二無二匕首を振廻した結果の出来事で
あるとも見られること、警察官の方にも被告人に乗ぜられる油断がなかつたとはい
えないこと、等被告人に有利と認められる諸事情も認められるのであり、これ等諸
事情に、被告人の今日の反社会性はその生立、家庭環境に原因することが多いと思
料されること、被告人が未だ二五年に満たぬ若年者であること等の諸点を勘案すれ
ば、被告人の反社会的性格は必ずしも未だ矯正不能の程度のものとは思料されない
のである。茲において当裁判所は一般予防の立場からばかりでなく特別予防の立場
からも慎重に考慮を重ねた結果被告人に対しては死刑をもつて臨むよりはむしろ無
期懲役を選択処断するのが刑政の目的に副うものであるとの結論に到達したのであ
る。しかるに原審は事茲に出でず被告人に対し死刑を言渡したであるからこれは不
当に重い処置であるといわなくてはならない。論旨は理由があり原判決は此の点に
おいて破棄を免がれない。
 被告人Bの弁護人江島晴夫の論旨第一点について
 所論は原判示第二の(四)の事実につき被告人等は窃盗の行為を完了した後強盗
に着手しているのであるから原審が準強盗既遂と認定したのは事実誤認である。仮
に然らずとするも原判決が被告人等が原判示Lに対して加えたと判示している暴行
脅迫は、同人の反抗を抑圧したかどうか明らかでないから被告人等の所為を以<要
旨>て準強盗と認定したのは事実誤認であるというのである。しかし原判決の認定し
たところによれば、被告人等は原判示D方寝室で同人所有の現金二百円外一
点を窃取し、更に金品物色中右Dに感づかれたので、同女を脅迫し金品を強取しよ
うと考えたが、同女が声を立てると、剣道三段の同家養子Lが眼を覚し逮捕される
虞もあるので、併せてこれを免れるため、その場に居直り、被告人等は交互に刺身
庖丁等をもつて同女に対し原判示暴行脅迫を加え金品を強奪しようとした際、Dの
悲鳴を聞きつけて前記Lが現われたため、同人に逮捕されることを免れるため、同
人に対し原判示暴行脅迫を加えた上金品強奪の目的を遂げずして逃走したというの
であつて、被告人等の右所為は一面Dに対し暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧し金
品を強取しようとして遂げなかつた点において強盗未遂罪を構成すると共に、他面
窃盗財物を得て逮捕を免がれる為右D及び前記Lに対し暴行脅迫を加えた点におい
て準強盗既遂の罪を構成するものと解すべきである。してみれば、右強盗未遂の罪
は右準強盗既遂の罪の中に吸収されて別罪を構成しないものと解すべきであるから
原判決には所論のような違法は存しない。而して原判決は被告人等は逮捕を免がれ
る為、ひとりLに対してのみならず右Dに対しても暴行脅迫を加えたものであると
認定しているものであることは、その判文自体に徴し極めて明瞭であつて、それに
よれば被告人Aは刺身庖丁を、同Bは出刃庖丁をそれぞれ持つて右Dの胸許に突つ
け、交互に「騒ぐな、静かにせい、黙れ、静かにせい」等といつて脅迫し、更に被
告人Bが右Dの首を締め口を捻じあげる等の暴行を加え、更に右Lに対してBにお
いて右手を洋服のポケットに入れ、恰も兇器を携帯しているもののように装い「殺
してやるぞ、切つてやるぞ」等と言つて脅迫し、更に右Lの肩先を手にて突き飛ば
す等の暴行を加えたというのであるから、右暴行脅迫は被害者の反抗を抑圧すべき
程度のものであることは明らかである。原判決には所論のような違法はなく論旨は
いずれも理由がない。
 同弁護人の論旨第二点について
 所論は原審が被告人Bを懲役一二年に処したのは量刑重きに失し不当であるとい
うのである。よつて記録並びに当審証拠調の結果を検討するに本件犯行の動機、態
様、回数、被告人に昭和二七年八月四日窃盗、恐喝罪により懲役一年六月以上三年
以下に処せられた犯罪経歴のあること、本件犯行によつて得た金品の使途等を考察
すると本件犯情の軽からざること勿論であるが、他面右各証拠によれば、被告人は
右前科の外強盗その他特に兇悪な犯罪の前歴がないこと、本件犯行はもともと被告
人Aの誘引によつて敢行せられるに至つたものであると認められること、本件犯行
中二回にわたる強盗乃至強盗傷人の犯行において被告人は出刃庖丁或は薪割用鉈を
被害者に突つける等の兇暴な所為に出でてはいるが、それはいずれの場合において
も脅迫の為にのみ用いられており、之を以て直接被害者の身体生命に対し危害を加
えようとはしていないこと、本件窃盗の回数は少ないとはいえないが、その被害総
額はさして大きくないこと、その他記録にあらわれた諸般の情状を考察すれば原審
が被告人に対し懲役一二年を科したことは酷に失するものと認める。論旨は理由が
あり原判決は此の点において破棄を免がれない。
 よつて刑事訴訟法第三九七条第一項第三八一条に則り原判決を破棄し同法第四〇
〇条但書に従い直に判決すべきものとする。
 原判決の確定した事実を法律に照らすに被告人Aの原判示第一及び第二の(一)
乃至(五)、第四の各所為中、住居侵入の点はいずれも刑法第一三〇条、罰金等臨
時措置法第二条第三条刑法第六〇条に、同第一及び第二の(二)の各所為中強盗傷
人の点はいずれも同法第二四〇条前段、第六〇条に、同第二の(四)の所為中強盗
の点は同法第二三八条第二三六条第一項第六〇条に、同第二の(一)、(三)及び
第四の各所為中窃盗の点はいずれも同法第二三五条第六〇条に、同第二の(五)の
所為中窃盗未遂の点は同法第二四三条第二三五条一第六〇条に、同第六の所為中I
外三名に対する公務執行妨害の点は、いずれも同法第九五条第一項に、Kに対する
殺人の点は同法第一九九条に、I及びHに対する殺人未遂の点は、いずれも同法第
二〇三条第一九九条に、匕首所持の点は、銃砲刀剣類等所持取締令第二六条第一号
第二条(懲役刑選択)に各該当するところ右第六の所為中、Kに対する公務執行妨
害と殺人、I、Hに対する各公務執行妨害と殺人未遂とは、いずれも一個の行為に
して数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段第一〇条に則
り、それぞれ重い殺人及び殺人未遂の罪の刑に従い、また右第一、第二の(一)乃
至(五)及び第四の各所為中、住居侵入は強盗傷人、強盗、窃盗、同未遂のいずれ
も手段たる関係にあるから、同法第五四条第一項後段第一〇条に則り、それぞれ最
も重い強盗傷人、強盗、窃盗、同未遂の罪の刑に従い、以上は同法第四五条前段の
併合罪であるが、右第六の所為中Kに対する殺人罪につき所定刑中無期懲役刑を選
択するので、同法第四六条第二項本文に則り他の刑を科さないこととし、同被告人
を無期懲役刑に処すべきものとする。次に被告人Bの原判示第二の(一)乃至
(五)、第三、第四、第五の(一)の各所為中、住居侵入の点はいずれも同法第一
三〇条、罰金等臨時措置法第二条第三条、刑法第六〇条(但し刑法第六〇条は第五
の(一)については適用しない)に、同第二の(二)の所為中強盗傷人の点は同法
第二四〇条前段第六〇条に、同第二の(四)の所為中強盗の点は同法第二三八条第
二三六条第一項第六〇条に、同第二の(一)、(三)及び第三、第四の各所為中窃
盗の点はいずれも同法第二三五条第六〇条に、同第五の(一)の所為中窃盗の点及
び同第七の(二)、(三)の各所為はいずれも同法第二三五条に、同第二の(五)
の所為中窃盗未遂の点は同法第二四三条第二三五条第六〇条に、同第五の(二)の
所為は銃砲刀剣類等所持取締令第二六条第一号第二条に、同第七の(一)の所為は
刑法第九八条に各該当するところ、右第二の(一)乃至(五)及び第三、第四、第
五の(一)の各所為中住居侵入は強盗傷人、強盗、窃盗、同未遂のいずれも手段た
る関係にあるから、同法第五四条第一項前段第一〇条に則り、それぞれ最も重い強
盗傷人、強盗、窃盗、同未遂の罪の刑に従い、右第二の(二)の強盗傷人の罪につ
いては所定刑中有期懲役刑を、第五の(二)の銃砲刀剣類等所持取締令違反の罪に
ついては所定刑中懲役刑を各選択し、累犯にかかる前科があるから刑法第五六条第
一項第五七条に則り前記第二の(二)の強盗致傷罪、第二の(四)の強盗罪の刑に
ついては同法第一四条の制限内て、いずれも累犯加重をなし、以上は同法第四五条
前段の併合罪であるから同法第四七条第一〇条に則り右強盗致傷の罪の刑に同法第
一四条の制限内で併合罪の加重を為した刑期範囲内で同被告人を懲役一〇年に処す
べきものとする。
 その外没収につき刑法第一九条第一項第一号第二項本文、押収品の被害者還付に
つき刑事訴訟法第三四七条第一項、訴訟費用の負担につき同法第一八一条第一項本
文を適用し主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 村木友市 裁判官 渡辺雄 裁判官 原田博司)

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