弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
一本件控訴を棄却する。
二控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一控訴人
1原判決を取り消す。
2(主位的に)
本件訴えをいずれも却下する。
3(予備的に)
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二被控訴人
主文と同旨
第二事案の概要
一事案の概要は次の1ないし4のとおり付加訂正するほかは原判決の事案の概要原、、(
判決三頁末行から一九頁四行目まで)の記載と同一であるから、これを引用する。
「、」「」、1原判決四頁三行目の被告に対しの次に福岡県公安委員会の管理下にあるを
五頁一行目の「図画」の次に「写真」を、六頁一二行目の「一一条一項但書」の次、、)。
に「そして、出納員及び経理員は出納長の事務を補助するものとされている(同規則六条
二項、一一条三項。以下、右職員を『補助職員』という」を、それぞれ加える。。)。
2同八頁四行目の「支出命令書」の次に「所属控えを含む」を加える。(。)
3同八頁九行目の次に改行して「ところで、被控訴人が本件において開示請求を行った
のは、支出命令書、請求書(以下『支出証拠書類』という)であり、事業実施伺書、支。
出負担行為決議書、事業の履行確認書類(以下『照合資料』という)に対しては開示を。
求めていない」を加える。。
4同八頁一〇行目から一一行目の「事業実施伺書等」及び九頁三行目の「支出命令()(
書及び請求書等」をいずれも削除する。)
二控訴人の当審における補足主張
本件各文書の公文書性について
1本件条例について
(一)本件条例二条一項は、開示の対象となる「公文書」を定義しているが、その要件・
意義は、およそ「実施機関」との結びつきを離れてはこれを知ることができない。
すなわち、地方行政の執行機関は、多元的であり、かつそれぞれ専門的であって、長の
指揮監督を受けることなく、長から職務上独立し、また、執行機関相互においても互いに
独立してそれぞれが自らの判断と責任において事務の管理及び執行を行うものである地、(
方自治法一三八条の二、一三八条の四第一項、一八〇条の五第一、二項。そして、行政)
事務の管理、執行の過程において大量の文書が作成、取得されるが、これらの文書が本件
開示請求制度のもとで、本件条例二条一項にいう「公文書」に該当するか、そしてこれを
開示・非開示とするかについて、最も適切に判断し得るのは、まさに右事務を分掌する当
該執行機関にほかならない。本件条例二条二項は、このような観点から実施機関を定めて
いるのである。
そして、本件条例二条二項が県議会と公安委員会を実施機関から除外したのは、県議会
については、その独立性、自主性を尊重するべきであること、公安委員会については、警
察組織が、国や都道府県相互間における協力体制のもとで、公共の安全等に関して密接な
情報交換、交流を行っていることなどを配慮したからである。
(二)このように、本件条例は、二条一項において、開示の対象となる「公文書」の範囲
を明確にし、同条二項おいて、実施機関となった機関がその所掌する事務にかかる公文書
等に限ってその「公文書」の該当性及びその開示・非開示を判断することとして、実施機
関ではない執行機関が職務上作成又は取得し、決裁を終え、管理する文書等は、そもそも
右「公文書」に該当せず開示の対象外としているのである。
そうであれば、本件各文書は、その性質上、実施機関ではない県議会及び公安委員会に
よってその所掌する事務の執行過程において作成、取得され管理されている文書(なお、
本件条例二条一項にいう実施機関において「取得した」とは、文書等を事実上受領するこ
となどでは足りず、実施機関がその所掌事務にかかる文書等について最終的な処分権限を
得ることをいう。また「実施機関において管理している」とは、事実的、物理的な所持、

保管等、あるいは一般的抽象的な管理権限を意味するものではなく、当該文書にかかる所
掌事務との関係においてなされている「管理状態」を指すものである)にほかならず、。
したがって、本件条例二条一項にいう「公文書」に該当しないことが明白である。もとよ
り、控訴人はこれを管理してもいないのである。
(三)もっとも、本件各文書は、出納長がその職務である支払を実行するに先立ち、審査
確認を行う対象でもあるため、出納長の所掌事務にかかる文書としての一面を有すること
は否定しないが、それは、事業実施に伴う支出につき、その手続的適正に関する事務の審
査という出納長の所掌事務の処理にのみ必要であるからであって、支出を終えると支出の
事実は別に記録され、出納長にとって、照合資料及び支出証拠書類ともに不要となる。そ
して、本件条例は、右のとおり当該事業を実施し、その意義及び文書の記載内容を最も正
確に把握している当該事業を所掌する機関が実施機関となって本件各文書の「公文書」性
及びその開示・非開示の判断をすべきものとしているのである。
(四)仮に、控訴人が、以上の制度趣旨を無視して、自らは本件各文書にかかる事務を所
掌していないにもかかわらず、開示・非開示の判断を行い、その判断を誤り、開示すべき
、、、でない情報を開示した場合その結果は重大かつ回復不可能であり個人又は団体の権利
利益を侵害するとともに行政運営にも支障を生ずることになる。
また、地方自治法上の知事の権限等に関する一般的・抽象的規定に対比して本件条例二
条一項の「公文書」の要件を解釈しようとすると、本件条例において実施機関を複数かつ
限定して設けた意義を没却することになる。
2財務規則について
(一)財務規則九三条と「取得」
財務規則九三条は、出納長が支払を行うためには支出負担行為が適法であることを確認
しなければならない(地方自治法二三二条の四第二項)との規定を受けて、審査確認に必
要な書類や審査確認事項(同規則九三条一項、審査確認ができないときの対応(同条二)
項)を定めたものにすぎない。したがって、それは支出命令書、支出負担行為決議書等の
文書を「取得」したり、いったん「取得」した文書を他の部署に取得させたりすることを
定めた規定ではない。
(二)財務規則一三一条と「管理」
財務規則一三一条一項において、出納長が支払決定の後、送付を受けた審査確認対象文
書のうち支出証拠書類を、その余の照合資料のように返送することなく、特に「月ごとに
編集」することとしたのは、監査委員が行う月例出納検査の資料とするものを出納長にお
いて編集し、監査委員がその送付を受けて月例出納検査を行うことが便宜であると考えた
ためであり、同条二項は、支出証拠書類にも一連の文書の流れがあることから、支出証拠
書類も「別に定める文書管理の方法により、すなわち、各機関がそれぞれの文書管理規」
程に基づいて、各機関ごとに編集され保存されることを明らかにしたにすぎない。このよ
うに同条一項は、出納長による文書の管理を念頭において定められた規定ではなく、その
編集及び保存の方法に関する同条二項も同様である。
三被控訴人の当審における補足主張
本件各文書の公文書性について
1本件条例は、情報公開制度研究会の報告である「福岡県における情報公開制度のあり
方について(乙六)を基本に、この内容を具体化していったものである。右報告の要旨」
に「この制度は、行政機関に原則としてその保有する情報の公開を義務づけ、住民に広く
情報公開請求権を保障するべきものである。そして、右請求権の内容、行使の手続等につ
、、。」いては開示許否決定に関する救済手続を含め条例で明確に定められるべきものである
とあり、この趣旨からすれば、本件条例の解釈・運用に当たっては行政の裁量や内部法規
。、「」、に基づいて処理することを排すべきであるしたがって公文書性等の判断について
控訴人が主張するような当該事業の意義及びこれに関わる文書等の内容を最も的確に把握
している当該事業を所掌する機関がこれを行うという解釈はあり得ず、そのような限定し
た解釈や裁量を排除することにこそ本件条例の情報公開の制度の趣旨があるのである。
2ところで、地方自治法上、予算の調整及び執行権は、知事に専属し、議会及び公安委
(、)。、員会はこれを有していない同法一四九条二号一八〇条の六第一号これらの機関が
その職務に関し、支出負担行為、支出命令、その他の予算執行を必要とするときには、知
事に対してこれらの手続をとるべきことを求める必要があり、知事から独立して単独でこ
れらをすることはできない。このため、県議会や県警本部の財務担当課の職員を知事部局
の職員に併任し、知事の権限に属する事務である財務会計事務を所掌させて、右の予算執
行にかかる事務を処理しているのであって、本件各文書は、実施機関である控訴人がその
補助職員をして職務上作成した文書にほかならない。そして、仮に控訴人が主張するよう
に、実際に本件各文書を県議会や県警本部の財務担当課が取得、管理しているとしても、
それはやはり実施機関である控訴人が取得、管理していることに変わりはない。
3控訴人は、事業実施機関が最も正確にその意義、内容を把握している旨主張するが、
被控訴人が本件において開示を求めているのは支出証拠書類であって、事業自体の経過や
結果が記載されている文書を対象としているものではない。却って、支出関係書類は、予
算執行に責任を負う知事(控訴人)において最も的確に判断できると考えるのが合理的で
ある。
第三当裁判所の判断
一本件各通知の処分性について
原判決二〇頁二行目の「べきである」の次に「もっとも、不存在の通知が、当該文書(
が当初から存在しなかったり、既に廃棄されたなどという理由に基づくような場合には、
控訴人主張のように、これを観念の通知と解する余地もあるが、本件の場合がこれに該当
しないことは明らかである」を加えるほかは、原判決一九頁七行目から二〇頁二行目。)
までの記載と同一であるから、これを引用する。
二本件各文書の公文書性について
1本件各文書の取得について
次のとおり付加訂正するほかは、原判決二〇頁五行目から一〇行目までの記載と同一で
あるから、これを引用する。
(一)原判決二〇頁八行目冒頭の「とおり」の次に「財務規則の施行から平成八年一〇、
月一日までは」を加え、九行目の「予定されている」を「予定されていた」と改め、同、
「、」「、」行目の本件各文書はの次にそれらが平成七年度の支出証拠書類であることに鑑み
を加える。
(二)同二〇頁一〇行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「控訴人は、本件条例二条一項の定める『取得』したとは、文書等を取得した実施機関
がこの文書等につき最終的な保持ないし処分権限等を有する場合に右の『取得』したに該
当するのであって、右の権限を有しない実施機関が事務処理の過程で受領し所持したこと
があってもこれを当該機関が『取得』したことにはならないと主張する。
しかし、本件条例三条では、本件条例の解釈、運用について、実施機関は県民の公文書
等の開示を求める権利が十分に尊重されるように解釈、運用するものとする旨を定めてい
る。さらに九条において、実施機関は開示請求された公文書等に同条各号所定のいずれか
に該当する情報が記載されているときは、当該公文書等の全部又は一部(一〇条)を開示
しないことができるとも定めており、これらの規定にそもそもの一条に定める本件条例の
目的等を総合考慮すると、本件条例は、情報公開制度の対象となる公文書を原則として公
開すべきであるとして、その対象を広く把握し、ただ開示の除外事由を定めて公開しない
ことのできる非公開文書を明らかにしているものと解される。そうすると『取得』の趣、
旨も、本件条例が公文書を原則開示としていることを十分に斟酌しながら理解するのが相
当であり、この観点に立つとき『取得』の趣旨を、文書等を取得した実施機関がこの文、
書等につき最終的な保持ないし処分権限を有する場合にのみこの取得が『取得』になると
狭く解すべき必然性はないというのが相当である。そして、福岡県情報公開条例解釈運用
基準(乙九)においても『職務上取得したとは、実地機関の職員が自己の職務の範囲内、
において、事実上取得した場合をいい、文書等に関して自ら法律上の取得権限を有するか
否かを問わない』と解説しているのに止まるのであって、控訴人の主張に必ずしも沿う。
ものとは解されない。
このようにして、前記の経緯を踏んで控訴人の補助機関である出納長に送付された支出
証拠書類である本件各文書は、出納長すなわち控訴人がその職務の範囲内において少なく
とも事実上『取得』したものであるというのが相当である。そして、この『取得』も、右
にとどまらず、後記2(二)のとおりの少なくとも平成八年一〇月一日以前の財務規則一
三一条一項及び二項の定めに関する運用実績に照らすと、本件各文書について、出納長が
保持ないし処分権限をも取得したと解し得る余地すらある」。
2本件各文書の管理について
次のとおり付加訂正するほかは、原判決二〇頁一二行目から二七頁一二行目までの記載
と同一であるから、これを引用する。
(一)原判決二一頁六行目の「しかし」の次に、次のとおり加える。、
「支出証拠書類は、前記第二・三1(一(二)のとおり、出納長にとっては、支払決定)
をするに当たって予め支出命令につき審査・確認するために必要である(地方自治法二三
二条の四)のみならず、支出後にも支出の誤りの有無について点検する必要が生じた場合
にも必要な書類であるほか、財産の記録管理や決算の調整と提出等の職務遂行のためにも
必要な書類である(同法一七〇条。したがって、この観点からすると、支出証拠書類の)
保管・保存・廃棄が財務担当課の専権に当然に属するものとはならず、出納長もその職務
・権限に照らすと右文書の保管・保存・廃棄について関与、所掌し得る立場にあるという
べきである。そして」、
(二)同二一頁九行目の「に照らすと」を次のように改める。、
「は、管理の主体について疑義が生じないようにこれを規則をもって特定・明示したもの
、、()、、であるとも解し得るのでありまた前記第二・三1三のとおり福岡県においては
少なくとも本件移管がなされる平成八年一〇月一日までは、運用上、支出証拠書類は、こ
れを出納長が管理していたとみなされるのである。そうすると,本件移管後はともかく、
それ以前においては」、
(三)同二二頁五行目の「しかし」の次に、次のとおり加える。、
「前記出納長の職務・権限に照らすと、照合資料についてならともかく、こと支出証拠書
類についても控訴人の指摘が妥当するのか、すぐには決し難いというべきであり、そもそ
も」
(四)同二四頁五行目の次に改行の上、次のとおり加える。
「なるほど、同条一項が主体を明記して前記のとおり定めたのは、監査委員の月例出納
検査の便宜のために収入及び支出にかかる証拠書類につき『編集』形式を採るように指定
したものであるとの側面もあろう。しかし、これが専ら右検査のためであるとは、後記説
示の平成八年一〇月一日までの支出証拠書類の保管・取扱いの実績に鑑みるとき、すぐに
は断じ難い。また、仮に同条二項が主体を明示しなかったのは、同条一項の『収入及び支
出に係る証拠書類』については『別に定める文書管理の方法』により、各機関がそれぞ、
れの文書管理規程に基づき編集、保存すべきことを定めたからであると解してみても、出
納長の職務・権限に照らすと、出納長及び出納員も『収入及び支出に係る証拠書類』の、
うち、少なくとも支出証拠書類については、同条二項の主体となり得る立場にあるという
べきであり、この主体となり得ないと解すべき理由は見当たらない」。
3本件各文書の決裁又は回覧等の手続の終了について
原判決二八頁一行目及び二行目の記載と同一であるから、これを引用する。
4小括
原判決二八頁三行目(ただし、冒頭の「4」を除く)から六行目までの記載と同一で。
あるから、これを引用する。
三本件移管について
原判決二八頁八行目から三〇頁三行目までの記載と同一であるから、これ引用する。た
だし、同二九頁七行目の「被告」を「控訴人部局」と改める。
四結論
以上によれば、本件各処分は抗告訴訟の対象となる行政処分であるところ、本件各文書
は、本件各処分時において、本件条例二条一項の定める公文書であり、かつ、控訴人が管
理するものであるから、本件各文書が右条項に定める公文書に該当しないことを理由とす
る本件各処分は違法であり、本件各処分の取消しを求める被控訴人の本訴請求を正当とし
て認容すべきである。
なお、控訴人が本件移管により本件各文書を現に所持していないとしても、このような
ことを主張して被控訴人の本訴請求を拒むことができないことは、前記三において説示し
たとおりであるから、本件訴えは、訴えの利益を欠くものではない。
よって、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないか
らこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第五民事部
裁判長裁判官近藤敬夫
裁判官萱嶋正之
裁判官長久保尚善

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