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平成22年2月3日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成21年(行ケ)第10113号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年1月13日
判決
原告株式会社イシダ
同訴訟代理人弁護士古城春実
伊原友己
岩坪哲
加古尊温
速見禎祥
同弁理士吉村雅人
藤岡宏樹
被告株式会社島津製作所
同訴訟代理人弁護士上原健嗣
上原理子
同弁理士豊岡静男
櫻井義宏
喜多俊文
開本亮
江口裕之
主文
1特許庁が無効2008−800202号事件につい
て平成21年4月1日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告が有する下記2の本件発
明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り
立たないとした別紙審決書(写し)記載の本件審決(その理由の要旨は下記3のと
おり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許
発明の名称:X線異物検査装置
原出願日:平成9年12月18日
分割出願日:平成18年3月8日
登録日:平成18年5月19日
特許番号:第3804687号
(2)無効審判手続及び本件審決
審判請求日:平成20年10月8日
審決日:平成21年4月1日
審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
原告に対する審決謄本送達日:平成21年4月13日
2本件発明の要旨
本件審決が対象とした本件発明(特許請求の範囲の請求項1に記載の発明)の要
旨は,以下のとおりである。
X線によって被検査物である食品の異物検査を行うX線異物検査装置において,
一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端として,少なくとも被検査物を移動す
る搬送機構および該搬送機構によって移動中の被検査物を透過したX線を検出する
ラインセンサを支持する片持ちフレームと,漏洩X線を防止するために前記搬送機
構および前記ラインセンサを被うカバーとを備え,前記カバーは前記片持ちフレー
ムの自由端側において,前記搬送機構の側面や底面を露出自在に開閉する開閉部分
を備えるとともに,前記開閉部分の閉鎖状態を保持する固定器具を備えることを特
徴とするX線異物検査装置。
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決は,前記特許請求の範囲の請求項1に記載された「片持ちフレー
ム」(以下「本件フレーム」という。)に関し,下記(2)のとおり解釈・認定した
上,下記(3)の引用発明1との対比及び下記(4)の引用発明2との対比を行い,その
結果として,要するに,本件発明は,下記アの引用発明1に周知慣用技術を適用す
ることによって当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず,下
記イの引用発明2でもなく,引用発明2に基づいて容易に発明をすることができた
ものであるともいえないから,本件特許を無効とすることはできない,というもの
である。
ア引用発明1:平成9年6月6日公開の特開平9−145343号公報に記載
された発明
イ引用発明2:原出願日前に「SLDX−1500S−WP」(島津メクテム
株式会社製造)として公然実施された発明
(2)本件フレームの認定
本件審決は,本件発明は,「X線異物検査装置」本体の支持構造体に支持された
単一の「片持ちフレーム」に「搬送機構及びX線ラインセンサ」が支持されている
発明と,「X線異物検査装置」本体の支持構造体に別々に支持された「片持ちフレ
ーム」に,「搬送機構」と「X線ラインセンサ」が,それぞれ支持されている発明
とを包含していると解釈した上,本件フレームは,単一の片持ちフレームであって
も,複数の片持ちフレームであっても,「X線異物検査装置」本体の支持構造体に
支持された「片持ちフレーム」であると認定している。
(3)引用発明1との対比
本件審決が認定した引用発明1及び本件発明と引用発明1との一致点及び相違点
は,以下のとおりである。
ア引用発明1(下記の「/」は原文の改行部分である。以下同じ)
X線によって食肉用のハムの包装用針金と異物との判別を行う放射線検査装置に
おいて,前記放射線検査装置は,4本の脚を有しX線の外部への漏れを遮蔽する支
持台1およびX線遮蔽箱6の部分と,コンベア台11の部分を有し,/前記支持台
1およびX線遮蔽箱6の部分は,X線管2を有するとともに,支持台1の垂直部に
直角に支持され,他方は自由端になっているX線センサ(ラインセンサ)5を有し,
/前記コンベア台11の部分は,上面に,被検体を該X線遮蔽箱6内に搬送するた
めの第1ベルトコンベア12と第2ベルトコンベア14を有し,/前記コンベア台
11は,前面方向に引き出し可能にするため,先端部にそれぞれキャスタ12が取
り付けられた4本の脚を有し,/前記X線遮蔽箱6は直方体状をなし,その長手方
向の前面にはX線を遮断する扉7が蝶番により開閉自在に取り付けられ,該扉7の
対向側面は支持台1の垂直部に固定され,前記X線管2,前記X線センサ5を覆っ
ている放射線検査装置。
イ本件発明と引用発明1との一致点及び相違点
一致点:X線によって被検査物である食品の異物検査を行うX線異物検査装置に
おいて,被検査物を移動する搬送機構および該搬送機構によって移動中の被検査物
を透過したX線を検出するラインセンサと,漏洩X線を防止するために前記搬送機
構および前記ラインセンサを被う部材を備えるX線異物検査装置である点。
相違点1:搬送機構及びラインセンサが,本件発明では「一方の端部を自由端と
し他方の端部を支持端として」いる「片持ちフレーム」により支持されているのに
対して,引用発明1では,X線センサ(ラインセンサ)5は,支持台1の垂直部に
直交に支持され他方は自由端になっているものの,X線センサ(ラインセンサ)5
が,支持台1の垂直部に直接支持されているのか,或いは,支持台1の垂直部に直
交に支持された「片持ちフレーム」により支持されているのかは不明であり,また,
第1ベルトコンベア12と第2ベルトコンベア14は,先端部にそれぞれキャスタ
12が取り付けられた4本の脚を有するコンベア台11に配置されている点。
相違点2:漏洩X線を防止するための部材が,本件発明では,「前記片持ちフレ
ームの自由端側において,前記搬送機構の側面や底面を露出自在に開閉する開閉部
分を備えるとともに」,「前記開閉部分の閉鎖状態を保持する固定器具を備え」て
いる「カバー」であるのに対して,引用発明1では,「X線の漏れを遮断する支持
台1」,「X線遮蔽箱6」及び「X線を遮蔽する扉7」で漏洩X線を防止しており,
また,「X線を遮断する扉7」は,蝶番により開閉自在となっているが,開閉する
ことにより何を露出させるのか不明であり,更に,固定器具を備えているのか不明
である点。
(4)引用発明2との対比
本件審決が認定した引用発明2及び本件発明と引用発明2との一致点及び相違点
は,以下のとおりである。
ア引用発明2
X線によって被検査物である食品の異物検査を行うX線異物検査装置であって,
/被検査物を搬送する搬送機構を有し,/該搬送機構は下端に車輪を有した4つの
支柱からなる台上に配置され,該搬送機構の後側は2本の支柱にて支持され,正面
側は2本の支柱に蝶番で取り付けられたブラケットと解除可能となるよう係止され,
/検査装置本体は,一方の端部が自由端で,他方の端部が支持端である,搬送機構
によって移動中の被検査物を透過したX線を検出するラインセンサを支持する片持
ちフレーム,筐体,及びX線を遮蔽するカバーを有し,/前記台は,前記搬送機構
の下方に底板,及び正面側の2本の支柱の前記ブラケットの下方位置にX線を遮蔽
するパネルを設け,/前記カバーは,搬送機構の正面側及び片持ちフレームの自由
端側において開閉する開閉部分を備え/前記開閉部分の閉鎖状態を保持する固定器
具を備えるX線異物検査装置。
イ本件発明と引用発明2との一致点及び相違点
一致点:X線によって被検査物である食品の異物検査を行うX線異物検査装置に
おいて,被検査物を移動する搬送機構および該搬送機構によって移動中の被検査物
を透過したX線を検出するラインセンサと,漏洩X線を防止するために前記搬送機
構および前記ラインセンサを被う部材を備え,前記部材は前記片持ちフレームの自
由端側において開閉する開閉部分を備えるとともに,前記開閉部分の閉鎖状態を保
持する固定器具を備えるX線異物検査装置である点。
相違点A:搬送機構及びラインセンサが,本件発明では「一方の端部を自由端と
し他方の端部を支持端として」いる「片持ちフレーム」により支持されているのに
対し,引用発明2では,ラインセンサは片持ちフレームにより支持されているが,
搬送機構は,下端に車輪を有した4つの支柱からなる台上に配置され,該搬送機構
の後側は2本の支柱にて支持され,正面側は2本の支柱に蝶番で取り付けられたブ
ラケットと解除可能となるよう係止されている点。
相違点B:漏洩X線を防止するための部材の開閉部分が,本件発明では,「前記
搬送機構の側面や底面を露出自在に開閉する」のに対して,引用発明2では,「カ
バー」を開閉することにより何を露出させるのか不明である点。
4取消事由
(1)本件発明の要旨認定の誤り(取消事由1)
(2)引用発明1の認定の誤り(取消事由2)
(3)相違点1についての判断の誤り(取消事由3)
(4)引用発明2の認定の誤り(取消事由4)
(5)相違点Aの認定の誤り(取消事由5)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,第2の3(1)のとおり,本件フレームは「X線異物検査装置」本体
の支持構造体に「一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端として」片持ち状態
に支持されているフレームであると認定した上,本件発明と引用発明1及び引用発
明2との対比を行っている。
しかしながら,本件フレームが何に支持されているかについては,特許請求の範
囲の記載において何ら限定されていないのであり,発明の要旨は,特段の事情がな
い限り,特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるべきところ,本件特許出願に
係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載についてこの
ような特段の事情はないから,本件審決による本件発明の要旨の限定的な認定は誤
りである。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載においても本件フレームが「X線異
物検査装置本体の支持構造体」に支持されている「フレーム」であるとの開示又は
示唆は何ら存在しない。
したがって,本件審決は,本件発明と引用発明1及び引用発明2との対比を行う
前提である本件フレームの認定を誤っており,同審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
本件審決は,特許請求の範囲の記載それ自体の解釈として,すなわち,片持ちフ
レームとは,一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端としているフレームであ
るから,支持端では何かに支持されていることは自明であるが,本件発明のX線異
物検査装置が備える構成要素としては「搬送装置」,「ラインセンサ」,「片持ち
フレーム」「カバー」,「保持器具」しか記載されていないところ,「搬送装置」
及び「ラインセンサ」は本件フレームに支持されるものであり,また,「カバー」
及び「保持器具」は本件フレームを支持するものではなく,そうすると,結局,本
件フレームを支持しているのは,「X線異物検査装置」の本体ということになる
(なお,X線異物装置には,上記構成要素以外にも,装置の本体としての構成要素
を含んでいることは自明である)から,X線異物検査装置のうち,本件フレームを
支持していることを示すものとして「X線異物検査装置本体の支持構造体」という
表現をしたにすぎないのであって,本件フレームについて,「X線異物検査装置本
体の支持構造体」と一体となって,すなわち,分離不能の状態で,「搬送機構」及
び「ラインセンサ」を支持する部材であるとまで認定しているわけではない。
また,本件審決は,本件フレームについて,そのような理解が本件明細書の発明
の詳細な説明の記載とも矛盾しないと説示しているが,上記のとおり,特許請求の
範囲の記載の解釈として,X線異物検査装置のうち,本件フレームを支持している
ことを示すものとして,「X線異物検査装置」本体の支持構造体という表現をした
にすぎないものであり,発明の詳細な説明の記載をもって本件発明の要旨認定をし
たものではない。
したがって,原告の主張は失当であり,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(引用発明1の認定の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,本件発明の要旨認定を誤っただけでなく,甲1の請求項3の記載に
限定して引用発明1を認定した。
しかしながら,甲1の図7及び発明の詳細な説明における【0002】ないし
【0005】における従来の技術の記載によれば,搬送機構を片持ち,両持ちとす
ることはいずれも周知であるほか,露出自在の開閉部分についても当業者に自明で
あるから,甲1には搬送機構をコンベア台11で支持するか否かについて限定のな
い発明が開示されているというべきである。
したがって,本件審決による引用発明1の認定は誤りであり,本件発明と引用発
明1との一致点及び相違点の認定もこれを前提とする誤ったものであるところ,こ
れらの誤りは審決の結論に影響を与えることが明らかであるから,本件審決は取り
消されるべきである。
〔被告の主張〕
原告は,無効審判請求書において,甲1の【0035】ないし【0038】や図
1(a)及び(b)を摘示しているが,【0002】ないし【0005】や図7について
摘示していなかったものである。
本件審決はこれを前提として,甲1の第1実施形態例(【0034】)に基づい
て引用発明1を認定しているのであり,原告の主張は失当である。
また,原告が主張する従来技術の記載や図7においては,ベルトコンベアやX線
センサの支持方法が不明であり,これらの記載から原告が主張するような先行技術
を認定することはできない。
したがって,本件審決による引用発明1の認定及びこれを前提とする本件発明と
引用発明1の一致点及び相違点の認定に誤りはなく,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(相違点1についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,引用発明1は「汚れたベルトコンベア101を水洗する場合があり,
この場合にはベルトコンベア101が放射線検査装置の内部に組み込まれたままで
は水洗の作業性が良くない。」という課題を解決するため,コンベアを放射線検査
装置本体から前方に引き出すことができるよう「第1ベルトコンベア12と第2ベ
ルトコンベア14は,先端部にそれぞれキャスタ12が取り付けられた4本の脚を
有するコンベア台11に配置され」という構成を採用したものと理解した上,甲2
に記載されている「X線透過自動検査装置の壁面に昇降台5(搬送機構に相当)が
片持ちに支持されている」という事項を引用発明1に適用し,引用発明1のコンベ
アを放射線検査装置本体に片持ち支持した場合,この課題が解決できなくなるので,
甲2に記載されている事項を引用発明1に適用することには困難性が存在すると判
断した。
しかしながら,甲1には水洗の作業性に関する課題やその解決手段とは無関係の
従来技術が開示されており,甲2,3,13ないし15及び引用発明2にあるよう
に搬送機構を片持ちフレームにより支持する技術は周知であり,本件発明における
課題である水洗の作業性については,外部に引き出す場合に比べて,内部に組み込
んだままでは相対的に悪化するとしても,片持ちにすることにより改善されること
は明らかであるから,このような周知技術を引用発明1に適用することに何ら困難
性はない。
したがって,本件審決による相違点1については判断は誤りであり,同審決は取
り消されるべきである。
〔被告の主張〕
本件審決は,甲1の第1実施形態に基づいて引用発明1を認定したものであり,
同発明は,内部に組み込んだままでは水洗の作業性がよくないという課題を解決す
るためのものであるから,コンベア台を前方方向に引き出せないように構成変更す
ることには阻害要因があるというべきであり,本件審決が甲2に記載された技術を
引用発明1に適用することに困難性があるとしたことに誤りはない。
また,引用発明1に周知技術を適用した第1,第2ベルトコンベアをコンベア第
に片持ち支持し,前方に引き出すことができる発明は,本件発明とは異なるもので
あるから,原告の主張は本件審決の結論に影響を与えるものではない。
したがって,取消事由3は理由がない。
4取消事由4(引用発明2の認定の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,引用発明2について,引用発明1と同様,メンテナンスの際には,
検査装置本体から搬送機構を配置している台を引き出すものであると認定している。
しかしながら,そもそも本件発明における「メンテナンス」がどこまでを指して
いるのは全く不明であり,コンベアベルトのテンション調整等の日常の点検が「メ
ンテナンス」から除外される理由は存在しない。
他方,引用発明2においても,台を引き出すことなくコンベアベルトの取り外し,
片持ちフレームの清掃が可能であり,これらも本件発明の「メンテナンス」に含ま
れるというべきである。
そうすると,本件審決による引用発明2の認定は不当に狭く認定された誤ったも
のであり,この誤りが相違点Aの認定及び判断に影響を及ぼすことは明らかである
から,本件審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
原告は,本件発明の「メンテナンス」の内容が不明であると主張するが,本件発
明における「メンテナンス」の意義については,本件発明の従来技術,課題及び効
果から明らかにすべきであり,本件明細書の【0008】,【0009】,【00
11】,【0032】及び【0033】の記載によると,従来においてもカバーの
分解,取り外しなしでも可能であったもの,本件発明によりカバーの分解,取り外
しなしでも可能となったもののすべてが含まれる。
他方,本件審決が,引用発明2について,引用発明1と同様,メンテナンスの際
に本体から搬送機構を配置している台を引き出すことを考慮して判断していること
は相当であり,原告の主張は失当であるから,取消事由5は理由がない。
5取消事由5(相違点Aの認定の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,上記1〔原告の主張〕のとおり,本件発明の要旨認定を誤った結果,
本件発明と引用発明2の相違点Aを認定しており,本件審決の判断は誤りである。
また,仮に本件審決による本件発明の要旨認定を前提としても,引用発明2の搬
送機構は,本体背面側の垂直支持部の一端に取り付けられ,他方を自由端とする水
平支持部(レール)に支持されており,いずれにしても本件フレームに文言上包摂
されるというべきである。
したがって,本件審決による相違点Aの認定は,上記いずれの観点からも誤りで
あり,同審決は取り消されるべきである。
〔被告の主張〕
本件審決による本件発明の要旨認定に原告主張の誤りがないことは上記1〔被告
の主張〕のとおりであり,取消事由4は理由がない。
また,取消事由4に係る原告のその余の主張は,審判手続において主張されてい
ないものであり,主張自体失当である。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)について
(1)本件審決による本件発明の要旨認定
本件審決は,本件発明の要旨について,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づ
き,上記第2の2のとおり認定しているところ,同記載中には,X線異物検査装置
が備える「片持ちフレーム」自体が具体的にどのように支持されているかについて
限定する記載はない。
他方,本件審決は,本件発明と引用発明1の対比を行う前提として,本件発明は,
「X線異物検査装置」本体の支持構造体に支持された単一の「片持ちフレーム」に
「搬送機構及びX線ラインセンサ」が支持されている発明と,「X線異物検査装
置」本体の支持構造体に別々に支持された「片持ちフレーム」に,「搬送機構」と
「X線ラインセンサ」が,それぞれ支持されている発明とを包含していると解釈し
た上,本件フレームは,「X線異物検査装置」本体の支持構造体に支持された「片
持ちフレーム」であると認定していることは,上記第2の3(2)のとおりである。
そして,本件審決は,本件発明と引用発明1との相違点1として,「搬送機構…
が,本件発明では「一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端として」いる「片
持ちフレーム」により支持されているのに対して,引用発明1では,…第1ベルト
コンベア12と第2ベルトコンベア14は,先端部にそれぞれキャスタ12が取り
付けられた4本の脚を有するコンベア台11に配置されている」と認定しているが,
その認定は,本件発明の「片持ちフレーム」が「X線異物検査装置本体の支持構造
体に支持されているもの」であるとの本件審決の上記解釈を前提としてはじめて認
定することができるものであり,また,本件発明と引用発明2との相違点Aとして,
「搬送機構…が,本件発明では「一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端とし
て」いる「片持ちフレーム」により支持されているのに対し,引用発明2では,…
搬送機構は,下端に車輪を有した4つの支柱からなる台上に配置され,該搬送機構
の後側は2本の支柱にて支持され,正面側は2本の支柱に蝶番で取り付けられたブ
ラケットと解除可能となるよう係止されている」と認定しているが,その認定につ
いても同様である。
そうすると,本件審決は,本件発明に係る本件フレームについて,「X線異物検
査装置本体の支持構造体に支持されているもの」であるとの特定事項を付加した上,
本件発明の要旨認定を行ったものというほかはない。
(2)本件についての検討
ア特許請求の範囲の記載
本件発明を特定する本件明細書の特許請求の範囲の記載は,上記第2の2のとお
りであり,その記載から明らかなとおり,本件発明はX線異物検査装置についての
発明であって,少なくとも搬送機構及びラインセンサを支持する「片持ちフレー
ム」と漏洩X線を防止するための特定の構造を有する「カバー」とを備えることを
特徴とするものであるが,上記特許請求の範囲の記載によると,本件フレームがX
線異物検査装置に設置されるものであること自体は自明である。
この点について,被告は,特許請求の範囲の記載の解釈として,本件フレームが
支持されている「X線異物検査装置の本体の支持構造体」であることまで特定され
るように主張するが,同記載から理解することができるのは,上記の限度であって,
本件フレームがX線異物検査装置のどこにどのように設置されるものであるかとい
う「片持ちフレーム」自体の支持構造については,何ら記載がないから,被告の主
張を採用することはできない。
イ当業者の技術常識
甲1,2及び16によると,本件特許出願当時において,X線による検査装置の
機構を支持するフレームとしては,後記ウ(ア)のとおり,本件明細書の発明の詳細
な説明において従来技術として挙げられているように,キャスター付の4本脚によ
って支持されて引き出し可能となっているもののほか,一体であっても後壁面の縦
方向のレールに上下動可能に片持ち支持されたフレームを採用したものが存在して
いたことを考慮すると,X線異物検査装置の機構を支持するフレーム自体の支持構
造に関して,本件特許出願時において確立した技術常識が存在していたとは認めら
れない。
そうすると,特許請求の範囲の記載に基づいて,本件フレームの支持構造につい
て何らかの限定を加えて解釈することはできない。
ウ発明の詳細な説明の記載
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の「片持ちフレーム」の構
造に関連する次の各記載がある。
【技術分野】【0001】本発明は,X線を用いて被検査物内の異物の検出を行う
異物検査装置に関し,特に異物検査装置の支持フレームに関する。
【0007】X線異物検査装置は,複数本の支持脚によって上記各機構を支持する
構成としている。図6は従来のX線異物検査装置の支持構成を説明するための概略
斜視図である。図6において,内部にX線発生供給102を備えるカバー105,
搬送機構103,該搬送機構103を被うカバー106,図示しないX線検出器等
の各検査機構は複数本の支持脚101によって支持される。このような従来のX線
異物検査装置は,例えば,特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平9−250992号公報
【0008】従来のX線異物検査装置では,検査機構を複数本の支持脚101によ
って支持する構成であるため,X線異物検査装置の内部に設けられた機構の補修や
部品交換等のメンテナンスが困難であるという問題がある。
【0009】X線異物検査装置が備える搬送機構やX線検出器等…の構成部分はカ
バーを含めて支持脚101によって支持される構成である。そのため,搬送用のベ
ルトやX線検出器等の補修,清掃,あるいは部品交換等のメンテナンスを行うには,
…支持脚の陰となる部分のメンテナンスが困難であり,工具や交換具品が支持脚と
干渉して挿入が困難となる。
【0010】そこで,本発明は前記した従来のX線異物検査装置の問題点を解決し,
メンテナンスを容易に行うことができる異物検査装置を提供することを目的とする。
【0011】本発明のX線異物検査装置は,X線異物検査装置を支持する従来の支
持脚を省く構成とすることによって,搬送用のベルトやX線検出器等の補修,清掃,
あるいは部品交換等のメンテナンスを容易とするものである。
【0012】本発明のX線異物検査装置は,上記の構成を実現するために,…一方
の端部を自由端とし他方の端部を支持端として,少なくとも被検査物を移動する搬
送機構および該搬送機構によって移動中の被検査物を透過したX線を検出するライ
ンセンサを支持する片持ちフレーム…を備え…ることを特徴とするものである。
【0013】本発明は片持ちフレーム構成とすることによって,X線異物検査装置
の側面部分や底面部分に,支持のための脚部材が存在しない構成とすることができ,
支持脚に干渉することなく工具や交換部品をX線異物検査装置内に挿入することが
でき,搬送用のベルトやX線検出器等の補修,清掃,あるいは部品交換等のメンテ
ナンスを容易に行うことができる。
【0014】本発明の実施の態様によれば,片持ちフレームは,基部上に垂直に立
てた垂直支持部と,該垂直支持部から横方向に延びた水平支持部を備えた構成とす
ることができ,水平支持部は,被検査物を移動する搬送機構等の機構を支持する支
持部であり,又,垂直支持部は,水平支持部及び該水平支持部上で支持する機構を
その一方の端部で支持する支持部である。
【0016】本発明の他の実施の態様によれば,片持ちフレームはX線発生器を支
持する支持部を備え,X線発生器,搬送機構,X線検出器等の構成部分を一体に支
持することができる。なお,垂直支持部及び水平支持部の垂直方向及び水平方向は,
各支持部材の概略的な取り付け方向を示すものであり,角度を限定するものではな
い。
【発明を実施するための最良の形態】【0018】以下,本発明の実施の態様を図
を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明のX線異物検査装置を説明するため
の概略斜視図であり,図2は本発明のX線異物検査装置を説明するための断面図で
ある。図1,2において,X線異物検査装置1は,…X線照射機構と,…搬送機構
と,…X線検出機構,及び…検出機構を備える。又,X線異物検査装置1は上記各
機構を支持するフレーム10を備える。
【0019】フレーム10は,最下部の支持部分を構成する基部11と,該基部1
1上に立てられる垂直支持部12と,該垂直支持部12から水平方向に取り付けら
れる水平支持部13,15を備える。水平支持部13,15は,その一方の端部を
垂直支持部12側に固定あるいは移動可能に取り付けられ,他方の端部を自由端と
し,片持ちによる支持フレームを構成している。なお,図1,2では,水平支持部
13は垂直支持部12側に固定され,L字型支持部15は垂直支持部12側に対し
て上下方向に移動可能に取り付けられる構成例を示している。又,X線異物検査装
置1が備える他の機構についても,垂直支持部12に片持ちで取り付けた水平支持
部(図示しない)により支持することができる。
【0032】…搬送機構やX線検出器は,被検査物によって汚れが生じる可能性が
あり,特に生肉や加工食品等の異物検査を行う場合には,清掃を行う必要がある。
又,搬送機構は可動部分を備えており,補修や部品交換を行う必要があり,又,X
線検出器についても補修や部品交換を行う必要がある。
【0033】これらの構成部分のメンテナンスを行う場合,脚部や支柱等が内部あ
るいは開閉カバーの開放位置に存在すると,工具や交換部品と干渉して取り扱いや
挿入を困難にする場合がある。これに対して,本発明のX線異物検査装置では,搬
送機構やX線検出器を片持ちで支持する構成とすることによって,開閉カバーの開
放側には脚部や支柱を除いた構成とすることができるため,工具や交換部品の挿入
や取り扱いを容易とすることができる。
【0034】…開閉カバー62の開放部分は,清掃位置や補修位置に応じて定める
ことができる。特に,底面部分においては,フレームを片持ち構造とすることによ
って,搬送機構やX線検出器の下方部分を開放した状態とすることができるため,
メンテナンスが容易となる。
【0035】本発明の実施の形態によれば,片持ちフレームとすることによって,
X線異物検査装置の側部方向や底部方向が開放されるため,工具や部品を脚部に干
渉されることがなく容易に挿入することができ,メンテナンス操作を行うことがで
きる。又,片持ちフレームはX線発生部,搬送機構,X線検出器等の構成部分を一
体に支持することができる。
(イ)上記(ア)の各記載によると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に関し,
以下のようにいうことができる。
本件発明における「片持ちフレーム」については,特許請求の範囲の記載におけ
る記載のとおり,「一方の端部を自由端とし他方の端部を支持端と」するものであ
るというほかに,発明の詳細な説明の記載中において,その構造自体が更に一般的
に限定されたものであることを前提とする記載はない。
また,発明の実施の態様として記載された部分において,「基部上に垂直に立て
た垂直支持部と,該垂直支持部から横方向に延びた水平支持部を備えた構成とする
ことができ」ると記載されるものの,本件発明の「片持ちフレーム」自体の支持構
造がこのような構成に限定される趣旨の記載は存在しない。
なお,「基部」については,発明の実施の態様についての概略斜視図及び断面図
に従って,その構造を説明する部分において「フレーム10は,最下部の支持部分
を構成する基部11と,該基部11上に立てられる垂直支持部12と,該垂直支持
部12から水平方向に取り付けられる水平支持部13,15を備える」と説明され
ているが,この説明が本件発明の「片持ちフレーム」の構成を限定する趣旨のもの
でないことは明らかである。
本件発明において「片持ちフレーム」が採用されたのは,従来のX線異物検査装
置において検査機構を支持する構成が,複数本の支持脚によって支持するものであ
ったため,X線異物検査装置の内部に設けられた機構の補修や部品交換等のメンテ
ナンスが困難であったという課題を解決するためである。
そして,本件発明においては,「片持ちフレーム」の採用によって,X線異物検
査装置の側面部分や底面部分に,支持のための脚部材が存在しない構成とすること
ができるため,支持脚に干渉することなく工具や交換部品をX線異物検査装置内に
挿入することができ,メンテナンスを容易に行うことができるという効果を奏する
ところ,メンテナンスの内容として挙げられているのは,「搬送用のベルトやX線
検出器等の補修,清掃,あるいは部品交換等」である。
(ウ)上記(イ)によると,本件発明の「片持ちフレーム」は,少なくとも搬送機
構及びラインセンサの下部に工具や交換部品を挿入することのできる空間を作出し,
メンテナンスを容易にするために採用された構成であり,本件発明の効果は,「一
方の端部を自由端とし他方の端部を支持端と…する」という「片持ちフレーム」の
構造そのものによって導かれ,「片持ちフレーム」自体の支持構造の如何を問わな
いものであるということができる。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明における記載を検討しても,本件発
明に係る特許請求の範囲の記載における「片持ちフレーム」の文言について,それ
自体の支持構造に関する何らかの限定を加えて解釈する契機はないといわざるを得
ない。
(3)小括
以上によると,本件フレームが「X線異物検査装置本体の支持構造体に支持され
ているもの」に限定されることを前提とする本件審決による発明の要旨認定は誤り
であるというべきである。
そうすると,本件審決は,上記1(1)のとおりの誤った発明の要旨認定を前提と
して,本件発明と引用発明及び実施発明との対比・判断を行ったものであり,本件
審決が,本件発明に係る特許を無効とすることができないとした理由は,上記第2
の3(1)のとおり,相違点1の部分に係る構成について当業者が容易に想到し得た
ということができないというもの,及び,同相違点Aの部分が実質的な相違点であ
り,かつ,相違点Aに係る構成について,相違点1の上記部分と同様の理由により,
当業者が容易に想到し得たということができないというものであって,これらに尽
きるのであるから,本件審決の発明の要旨認定の誤りが,審決の結論に影響を与え
ることは明白である。
2結論
以上の次第であるから,その他の取消事由について判断するまでもなく,本件審
決は取り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官高部眞規子
裁判官杜下弘記

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