弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成10年(行ケ)第372号 審決取消請求事件
     判    決
  原   告        三菱電機株式会社
  代表者代表取締役     【A】
  訴訟代理人弁理士     【B】
               【C】
               【D】
               【E】
  被   告        特許庁長官 【F】
  指定代理人        【G】
               【H】
               【I】
               【J】
      主    文
  原告の請求を棄却する。
  訴訟費用は原告の負担とする。
      事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が平成8年審判第1614号事件について平成10年9月16日にした
審決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、昭和63年5月25日「フォトマスクの作成方法」なる発明について特
許出願(昭和63年特許願第127309号)をしたが、平成7年12月18日拒
絶査定があったので、平成8年2月16日審判を請求し、平成8年審判第1614
号事件として審理されたが、平成10年9月16日「本件審判の請求は、成り立た
ない。」との審決があり、その謄本は同年10月28日原告に送達された。
 2 本願発明の要旨
 フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイ
スチップ毎の品質情報をフォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内に各デバ
イスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内の実デバイスの本パターンが描
かれたエリア外に区画された部分に記録することを特徴とするフォトマスクの作成
方法。
 3 審決の理由の要点
 (1) 本願発明の要旨
 前項のとおりと認める。
 (2) 引用例
  (a) これに対して、審判における拒絶の理由で引用した特開昭61-2849
10号公報(引用例1)に記載されるものは、半導体装置製造用基板及び半導体装
置製造方法に関するものであり、
 同公報1頁左下欄7行~10行に「その実パターン有効領域外または有効チップ
領域外に製造上の条件等を表す参考情報がパターニング形成されている」と、
 また、同12行~14行「前記ガラスマスク上の参考情報にはマスク製造規格に
対するマスク検査の結果が含まれている」と、
 同公報2頁左下欄12行~右下欄18行に「第1図は半導体装置製造用のガラス
マスク1を示しており、このガラスマスク1上の中央部には本来的に必要なマスク
パターンを形成するための実パターン有効領域2が確保されており、この有効領域
2の周囲に位置する余白領域3の一部にマスク名称4のほかに参考情報5がパター
ニング形成されている。即ち、上記参考情報5は、ガラスマスク1の製造上必要な
条件とか規格値であり、さらにはマスク検査後においてはパターン寸法値の規格
(設計目標値)からのずれ量αなどである。・・・(中略)・・・
 上記ガラスマスクによれば、その製造上必要な条件とか規格値とかマスク検査結
果などの参考情報が実パターン有効領域外に直接書き込まれているので、従来必要
とした別シートを省略でき、各製造工程での参考情報の管理が単純化され、情報管
理を正確、確実に行なうことが可能になるので、その生産性の向上、製造歩留りの
向上が可能になる。」と、
 同公報3頁左上欄5行~同右上欄3行に「本発明に係る基板を利用して半導体装
置を製造する方法の一実施例として、半導体ウエハ上にガラスマスクのパターンを
露光する工程について第4図を参照して説明する。この工程においては、ガラスマ
スク1に書き込まれているマスク検査結果情報であるパターン寸法規格値からのず
れ量αを露光装置でバーコード等認識部により自動的に読み取り、このずれ量αに
見合うだけ基準露光量Expを補正して最適値となるように自動的にフィードバック
制御を行なうことによって、半導体ウエハ6上に所定のパターン寸法が得られるよ
うに自動最適量制御方式によるプロセス制御を行なうことが可能になる。このよう
に、半導体装置製造工程での製造条件等を該当する基板から直接に、確実かつ正確
に認識できるので、工程処理の生産性がよくなり、各工程での品質制御がよくな
り、結果として高品質の半導体装置を高歩留りで量産することが可能になる。」
と、
 それぞれ記載されている。
 これらの記載から、デバイスチップ領域の実デバイスの本パターンが描かれたエ
リア(「実パターン有効領域2」が相当する。)外に区画された部分(「参考情報
5」が相当する。)に、実デバイスの本パターン以外のデバイス製作上必要とされ
る情報類、すなわちガラスマスク製造上必要な条件、規格値、さらにはマスク検査
結果(マスク検査後におけるパターン寸法値の規格からのずれ量α)等を記憶して
おき、従来必要とした別シートを省略して、これらの情報を該当する基板から直接
に、確実かつ正確に認識することで、工程処理の生産性を高め、品質制御を向上さ
せ、結果として歩留まりを高めることを意図した、フォトマスクの作成方法が把握
できる。
  (b) 同じく引用した特開昭59-126631号公報(引用例2)に記載され
るものは、フォトマスク上のパターンをウエハ上に転写する写真工程に用いるフォ
トマスク上のパターン配置方法に関するものであり、
 同公報1頁右下欄2行~2頁左上欄6行及び第1図に「第1図(A)~第1図(C)は
従来のパターン配置方法の主要段階を示す平面図である。同図において、(1)は素子
デバイスを作動させるために必要な・・・・半導体素子本パターン、(2)は素子の特
性を計測するために必要な第1パターン(3a)、マスク製作に必要な第2パター
ン(3b)および第3パターン(3c)、ウエハプロセスの重ね合わせに必要な第4パター
ン(3d)からなる半導体素子作成上に必要な半導体素子パターン、(4)はレティク
ル、(5)はマスタマスクである。・・・・。これをレティクル(4)と称し、本番パタ
ーンの10倍に作成する。そして、このレティクル(4)を使用し、・・・・所望のパ
ターンを得るものである。」と記載されている。
 この記載から、フォトマスクの実パターンが描かれる有効領域(「レティク
ル(4)」が相当する。)内で各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域
(「半導体素子作成パターン(2)」が相当する。)の実デバイスの本パターンが描か
れたエリア(「半導体素子本パターン(1)」が相当する。)外に区画された部分
(「第1パターン(3a),(7a)~第4パターン(3d),(7d)」が相当する。)に、実デ
バイスの本パターン以外のデバイス製作上必要とされるパターンを記憶しておくフ
ォトマスクのパターン配置方法が把握できる。
 (3) 本願発明と引用例との対比
 そこで、本願発明と、引用例1記載のものを比較すると、
 両者は、フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけ
る品質情報をフォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内で実デバイスの本パ
ターンが描かれたエリア外に区分された部分に記録するフォトマスクの作成方法で
ある点で一致するものの、
 本願発明では、記録される品質情報が「デバイスチップ毎の品質情報」である
点、及び当該品質情報を記録する領域が「フォトマスクの実パターンが描かれる有
効領域内」であるが「各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内の
実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区分された部分」に記録する点を限
定しているのに対して、
 引用例1記載のものでは、前記に摘出したように「このガラスマスク1上の中央
部には本来的に必要なマスクパターンを形成するための実パターン有効領域2が確
保されており、この有効領域2の周囲に位置する余白領域3の一部にマスク名称4
のほかに参考情報5がパターニング形成されている。」と記載されることから、各
デバイスチップ毎の情報ではなく、また、各デバイスチップ毎に分割された各デバ
イスチップ領域内とはいえない点で相違している。
 (4) 相違点に関する審決の判断
 上記相違点について検討する。
 引用例2には、本パターン以外のパターンを各デバイス毎に各々配置することが
記載されており、各デバイスチップ毎にパターンを配置することが、従来から慣用
されていることが把握できる。
 また、このように工程処理で有効に機能する品質情報が各デバイスごとに切り離
された後の工程処理でも有用であることは自明なことであり、個別のデバイスパタ
ーンの有効チップ領域外に分割して、個別の品質情報をここに分散して存在される
ことは、当業者であれば容易に想到し得ることといえる。
 してみれば、引用例1においては、ガラスマスク全体に含まれるデバイス毎の情
報が余白領域に配置されるものであるところを、各デバイス毎に存在する「各デバ
イスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内の実デバイスの本パターンが描
かれたエリア外に区分された部分」を採用することは、当業者にとり格別困難性を
有することとはいえない。
 原告は、引用例1における参考情報が『製造上の条件等を表す参考情報』を記録
するものであり、これは『フォトマスク製作上におけるマスク基板のパターン寸法
値の情報』を意味し、本願発明のように『フォトマスクの作成中あるいは作成され
たフォトマスクの使用中におけるデバイスチップの品質情報』を書き込むことは、
引用例1には示唆がないと主張するが、前記のようにこの主張は採用できない。
 また、原告は、引用例1、2では、半導体ウェハに転写する際に各デバイスチッ
プ毎の品質をチェックして各デバイスチップ毎の良否を選別する技術思想が何ら示
唆されないと主張するが、既通知の特開昭62-75532号公報に「基板の主パ
ターン有効エリヤ外にレーザーを用いてパターン認識情報を直接書き込む基板の製
造方法であって、前記パターン認識情報を半導体製造上の現工程以降の処理制御条
件または現工程までの検査結果としたことを特徴とする基板の製造方法」(特許請
求の範囲)と記載されるように、各工程において品質情報を書き込むことが従来慣
用されている以上、この主張も採用できない。
 よって、これら引用例1記載のフォトマスクの作成方法において、引用例2記載
のパターン配置を適用して、本願発明のようにすることは当業者が容易になし得た
程度のことである。
 そして、これにより格別の効果が生じるものともいえない。
 (5) 審決のむすび
 したがって、本願発明は、第1引用例及び第2引用例に記載された発明に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規
定により特許を受けることができない。
第3 原告主張の審決取消事由
 本願発明は、フォトマスク作成時あるいはマスク使用時の情報を各ディバイスチ
ップの有効エリア外に記載させるものであって、各引用例のように、単に、フォト
マスク作成時の情報をマスクエリア外に記載されるものではない。しかも、本願発
明はかかる構成上の特徴から、各引用例では到底発揮することができない、顕著な
効果を発揮するものである。
 しかるに、審決はこれを看過し本願発明の進歩性を否定したものであり、取り消
されるべきである。審決の判断過程に即してその誤りを整理すると、以下のとおり
である。
 1 一致点の認定の誤り(取消事由1)
 (1) 審決は、本願発明と引用例1に記載のものとを比較して、「フォトマスクの
作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中における品質情報を……に記録す
るフォトマスクの作成方法である点で一致する」と認定している。
 しかし、引用例1には、本願発明の、作成されたフォトマスクの使用中における
品質情報を記録する点に関する記載がないので、この点で一致するとした審決の認
定は誤りである。これに関して、審決は、「『フォトマスクの作成中あるいは作成
されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップの品質情報』を書き込むこと
は引用例1には示唆がない」との原告の主張を排斥しているが、本願発明の「作成
されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップの品質情報を書き込む」点に
ついては、引用例1に全く記載がない。審決は、この誤った認定に基づいて本願発
明を容易に発明することができたと誤って判断したものである。
 (2) 審決は、「引用例1、2では、半導体ウエハに転写する際に、各デバイスチ
ップ毎の品質をチェックして各デバイスチップ毎の良否を選別する思想が何ら示さ
れていない」との原告の主張も排斥している。
 しかしながら、原告のこの主張は、「半導体ウエハに転写する際、すなわち作成
されたフォトマスクの使用中に、各デバイスチップ毎の品質をチェックして、各デ
バイスチップの品質情報をフォトマスクに記録することによって、その品質情報を
各デバイスチップ毎の良否を選別する思想が何ら示されていない」という趣旨であ
った。この主張の根拠は甲第2号証として本願明細書の「欠陥数はフォトマスクを
使用し洗浄していく毎に増加していく。この欠陥数を更にこのフォトマスクに記録
していくことにより」との記載(5頁17行ないし19行)に基づいている。
 引用例1、2には本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイ
スチップ毎の品質情報を」フォトマスクに記録する、という点に相応する記載はな
いし、かかる点を想起させるような記載もない。
 2 格別の効果の看過(取消事由2)
 審決は、本願発明は「これにより、格別の効果が生じるものともいえない」と断
じている。
 しかしながら、本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイス
チップの品質情報を書き込む」に基づく格別の効果は、本願明細書の5頁17行か
ら6頁第1行に記述がある。すなわち、本願明細書は、フォトマスク使用中におけ
る問題点を「欠陥数はフォトマスクを使用して洗浄していく毎に増加していく」と
指摘し、本願発明の特有の作用を、「この欠陥数を更にこのフォトマスクに記録し
ていく」(すなわち、作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎
の品質情報をフォトマスクに記録していく)と説明した上で、この特有の効果を
「フォトマスクの寿命が一目にて判別でき、フォトマスクの管理が容易となる」と
明瞭に記述している。
 3 本願発明の要旨の誤認(取消事由3)
 審決は、本願発明の「フォトマスク作成中」と、品質情報が記録される場所(部
分)に関する構成とにのみ着目し、「作成されたフォトマスクの使用中におけるデ
バイスチップ毎の品質情報」が(フォトマスクに)記録される、という構成要素に
ついては全く認識していない。
 審決は、本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ
の品質情報を書き込む」点を看過しているが故に、この構成に相応する構成が引用
例1、2に認められないにもかかわらず、本願発明が引用例1及び引用例2から
「容易になし得た」と誤認し、この構成によってのみ発揮される特有の作用や効果
が、本願明細書に明瞭に記載されているにもかかわらず、「格別の効果が生じるも
のはいえない」と誤認したものである。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
 本願発明は「フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中に
おけるデバイスチップ毎の品質情報……を記録する」ことを構成要件とし、「フォ
トマスクの作成中における品質情報」あるいは「作成されたフォトマスクの使用中
における品質情報」のいずれかを選択するものである。
 審決がした一致点の認定は、引用例1に「フォトマスクの作成中における品質情
報をフォトマスクの実パターンが描かれる有効領域内で実デバイスの本パターンが
描かれたエリア外に区画された部分に記録するフォトマスクの作成方法」が記載さ
れていることから、上記の本願発明のように「フォトマスクの作成中における品質
情報」あるいは「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」のいずれか
を選択するものであるから、引用例1には、「フォトマスクの作成中における品質
情報」に関する記載があるとしたものである。
 審決はこのような趣旨で引用例1の認定をしたものであり、引用例1あるいは引
用例2に「作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報
を」フォトマスクに記録する、という点に相応する記載又はかかる点を想起させる
ような記載があるとしたものではない。
 2 取消事由2(格別な効果の看過)について
 本願発明は「フォトマスクの作成中における品質情報」あるいは「作成されたフ
ォトマスクの使用中における品質情報」のいずれかを選択してフォトマスクに記録
するものであるから、原告の主張は理由がない。
 3 取消事由3(本願発明の要旨の誤認)について
  審決には、原告主張のような本願発明の要旨の誤認はない。
第5 当裁判所の判断
 1 本願発明について
 甲第2号証及び第3号証の1、5によれば、本願明細書に本願発明について次の
ような記載があることが認められる。
 [産業上の利用分野]
 本願発明は半導体素子の製造工程にて使用されるフォトマスクの作成方法に関す
るものである。(当初明細書1頁11行ないし12行)
 [従来技術]
 従来のフォトマスクの作成は、次のようであった。通常の写真製版工程と同じよ
うに形成され、ガラス基板上に被着された金属クロム薄膜上にレジストを被着し所
望部分のみを電子ビーム露光装置を用いて描画現像しレジストパターンを得る。そ
のレジストパターンをマスクにしてエッチングすると、所望のディバイスのパター
ンが形成される。この製造工程において欠陥の発生は不可避であり、各マスク毎に
その欠陥の種類が異なり欠陥数もまちまちである。さらに、これらのフォトマスク
を使用していくと、洗浄などにより欠陥個数が増加する。(同1頁下から3行ないし
2頁10行)
 これらの欠陥個数の管理は別の台帳などでなされることが多く、どれほどの欠陥
がありどれほど増加したか不明確であり、また寸法測定値においても規格値内に入
っているフォトマスクを出荷しているが、寸法値がマスク毎にすべて異なり転写の
際の露光条件を決定するのが難しいなどの問題点があった。(同2頁12行ないし下か
ら3行)
 [本願発明の技術的課題]
 本願発明は、以上のような問題点を除去するためになされたもので、フォトマス
ク作成中あるいは使用中の寸法値や欠陥データなどの品質情報をフォトマスク内に
記録したもので、これによりより精度の高いデバイスを作成していくことを目的と
したものである。(同2頁下から2行ないし3頁4行)
 [作用]
 本願発明に係るフォトマスクの作成方法によれば、フォトマスク内の各デバイス
チップ毎の品質情報を管理することが可能となり、半導体ウエハに転写する際に各
デバイスチップ毎の品質をチェックしまた把握した上で使用できるのでデバイスの
形成上有利な点が多く歩留まりの向上となる。(平成8年3月15日付け手続補正
書2頁11行ないし18行)
 [効果]
 本願発明によれば、フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使
用中におけるデバイスチップ毎の品質情報をフォトマスクの実パターンが描かれる
有効領域内に各デバイスチップ毎に分割された各デバイスチップ領域内の実デバイ
スの本パターンが描かれたエリア外に区画された部分に記録するようにしたので、
フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使用中において増加する
欠陥数や種類等の管理情報を含む各ディバイス毎の品質情報を、フォトマスクの実
パターンが描かれる有効領域内に各ディバイスチップ毎に分割された各ディバイス
領域内の実ディバイスの本パターンが描かれたエリア外に区画された部分に記録し
管理することができ、したがって、半導体ウエハに転写する際には各ディバイス毎
の品質をチェックしまた把握した上で使用できることになり、フォトマスクの作成
中あるいは作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎の品質情報
に基づいて各ディバイスチップ毎の良品と不良品の判別ができるとともに、テスト
工程で各ディバイスチップ毎に品質情報をパターン認識して良品と不良品を選別す
るプログラムを組めば良品と不良品とを容易に自動判別することができる。(同2頁
下から8行ないし3頁7行)
 2 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
 (1) 本願発明の特許請求の範囲の記載は、前記本願発明の要旨のとおりであり、
また、引用例1の記載から、審決認定のとおり、「デバイスチップ領域の実デバイ
スの本パターンが描かれたエリア(「実パターン有効領域2」が相当する。)外に
区画された部分(「参考情報5」が相当する。)に、実デバイスの本パターン以外
のデバイス製作上必要とされる情報類、すなわちガラスマスク製造上必要な条件、
規格値、さらにはマスク検査結果(マスク検査後におけるパターン寸法値の規格か
らのずれ量α)等を記憶しておき、従来必要とした別シートを省略して、これらの
情報を該当する基板から直接に、確実かつ正確に認識することで、工程処理の生産
性を高め、品質制御を向上させ、結果として歩留まりを高めることを意図した、フ
ォトマスクの作成方法」の発明が把握し得ることは、原告も争わないところであ
る。
 本願発明と引用例1から把握し得るものとして審決が認定した発明とを対比する
と、両者は、フォトマスクの作成中における品質情報をフォトマスクの実パターン
が描かれる有効領域内で実デバイスの本パターンが描かれたエリア外に区分された
部分に記録するフォトマスクの作成方法である点で一致するものと認められるが、
引用例1には「作成されたフォトマスクの使用中における品質情報」を記録するこ
との記載はないことが明らかである。
 (2) しかしながら、本願発明の特許請求の範囲の記載によれば、本願発明は「フ
ォトマスクの作成中」における品質情報、あるいは「作成されたフォトマスクの使
用中における」品質情報のどちらか一方を選択して記録するものと認められるとこ
ろ、前記のように把握される引用例1記載の発明は「フォトマスクの作成中」にお
ける品質情報を記録するものということができ、この点において本願発明と一致す
るものであることは明らかである。
 審決は、「両者は、フォトマスクの作成中あるいは作成されたフォトマスクの使
用中における品質情報」を記録するものであるとし、引用例1記載の発明も「作成
されたフォトマスクの使用中における品質情報」をも選択的に記録するものである
かのように表現しているけれども、引用例1記載の発明が「フォトマスクの作成中
における品質情報」をも記録するものであるという点においては本願発明と一致す
るところであり、審決がその趣旨で認定していることは明らかであるから、審決に
一致点の認定の誤りがあるものと認めることはできない。
 (3) 原告の準備書面中の主張には、本願発明は、フォトマスクの作成中の品質
(欠陥)の変化、あるいはマスクの使用時の品質(欠陥)の変化の情報を記録する
ものであるから、本願発明の特許請求の範囲でいう「あるいは」は「及び」の意味
であるとする部分がある。しかし、本願発明は、「フォトマスクの作成中」におけ
る品質情報、あるいは「作成されたフォトマスクの使用中における」品質情報のい
ずれかを選択して記録するものであることは、その特許請求の範囲の記載自体から
明らかであり、原告の主張は採用することができない。
 (4) 以上のとおりであり、審決は、本願発明の「フォトマスクの作成中」におけ
る品質情報を選択して記録する場合について、引用例1記載の発明に、引用例2記
載のパターン配置を適用して、本願発明のようにすることは当業者においては容易
になし得た程度のことである旨判断したものと理解すべきであって、そこに、原告
主張のように、一致点の認定の誤りに基づく容易性判断の誤りがあるものとは認め
られない。
 3 取消事由2(格別な効果の看過)について
 原告は、本願発明は作成されたフォトマスクの使用中におけるデバイスチップ毎
の品質情報をフォトマスクに記録していくことで「フォトマスクの寿命が一目にて
判別でき、フォトマスクの管理が容易となる」という特有の効果を奏するから、こ
れを看過した審決の認定は誤りであると主張する。
 しかしながら、「フォトマスクの寿命が一目にて判別でき、フォトマスクの管理
が容易となる」という原告主張の効果は、本願発明の構成のうち「作成されたフォ
トマスクの使用中における品質情報」を選択してフォトマスクに記録するときのみ
の効果であって、「フォトマスクの作成中における品質情報」を選択してフォトマ
スクに記録するときの効果であるとは認められない。審決は、後者の場合における
本願発明の構成による効果を引用例1記載の発明の効果と対比して、本願発明は格
別の効果を生じるものともいえないと認定したものと理解されるのであり、そこに
原告主張の格別の効果の看過の誤りがあるということはできない。
 したがって、審決取消事由2も理由がない。
 4 取消事由3(本願発明の要旨の誤認)について
 原告は、審決は本願発明の「作成されたフォトマスクの使用中における」品質情
報を記録することについて認識していないから、本願発明の要旨を誤認している旨
主張する。
 しかし、本願発明は「フォトマスクの作成中における品質情報」あるいは「作成
されたフォトマスクの使用中における品質情報」のいずれかを選択してフォトマス
クに記録するものであることは前示のとおりであり、審決は、本願発明のうち前者
を選択したフォトマスクの発明につき、「引用例1記載のフォトマスクの作成方法
において、引用例2記載のパターン配置を適用して、本願発明のようにすることは
当業者が容易になし得た程度のことである。」と認定したものと認められ、そこ
に、原告の主張のような誤りがあるとは認められない。
 したがって、取消事由3も理由がない。
第6 結論
 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却さ
れるべきである。
(平成11年12月17日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
     裁判長裁判官   永   井   紀   昭
        裁判官   塩   月   秀   平
        裁判官   市   川   正   巳

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛