弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金一万円に処する。
     被告人が右罰金を完納しないときは金二百円を一日に換算した期間被告
人を労役場に留置する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は神奈川区検察庁検祭官副検事甲名義の控訴趣意書記載のとおり
であり、これに対する答弁は弁護人菅谷瑞人提出の答弁書記載のとおりであるから
ここにこれを引用する。
 通商産業事務官乙作成にかかる商標登録原簿謄本ならびに特許庁商標公報、司法
警察員丙作成にかかる捜索差押調書の各記載及び原審ならびに当審証人丁1の証
言、原審における被告人本人の供述を総合すると、株式会社丁2は、それぞれ商標
法施行規則第十五条所定の第十五類(玻璃並他類ニ属セサル玻璃製品及琺瑯質品)
及び同上第四十六類(獣乳、其ノ製品及其ノ模造品、牛乳、羊乳、「コンデンスミ
ルク」、乳粉、「バタ」、人造「バク」「チーズ」等)を指定商品として、前者に
ついては昭和二十七年四月十四日、登録番号第四一〇六八八号、第四一〇六八九号
を以て、また後者については同年六月四日登録番号第四一二二一三号、同月十二日
第四一二四二一号を以てそれぞれ商標の登録を受け、これらの商標を硝子製の小壜
に浮き出させ、それをその製造にかかるコーヒー牛乳、グリコ牛乳等の容器として
使用していたこと、被告人は昭和二十一年十一月頃から清涼飲料、保存飲料等の製
造販売業を開始し昭和二十三年十一月頃、これを合資会社組織にして自らその無限
責任社員となり、現在に至るまで引続きその業務を行つてきたものであるが、その
間において、その製造にかかるコーヒー牛乳等の容器に、前記株式会社丁2の登録
商標を附してある硝子壜を用いて販売していたところ、昭和二十八年五月二十二日
右会社から、同会社の登録商標を附した古壜を使用することは商標権侵害になるか
らこれを中止するように、との警告を受けたにもかかわらず、その後も依然として
その使用を継続し、(一)昭和二十八年十二月頃から昭和二十九年一月二十九日ま
での間に肩書自宅に壜いて右登録商標の入つた硝子製小壜に、前記指定商品と同一
商品である、自己の生産にかかるコーヒー牛乳を壜詰にした製品九十四本を、戊他
四名に対して販売し、(二)昭和二十九年一月三十日前同所において販売の目的を
以て前同様前記登録商標の入つた硝子製小壜に自己生産のコーヒー牛乳を壜詰にし
た製品三百七十三本を所持していた事実を認めるに十分である。
 そこで被告人の右所為が商標法第三十四条第一号に該当するかどうかについて考
えてみると、商標権者は自己の製造、販売等にかかる商品なることを表彰するた
め、特定商品につき登録された商標を専用する権利を有し、その権利は排他的、独
占的のものであつて、他の者はこれを使用することを許されないものであることは
商標法の規定するところに照らして明白である。即ち、商標はその商標権者の製
造、販売等にかかる商品であることを表彰し、これによつてその商品の出所を明確
ならしめ、以てその価値を表現せしめるものであるから、商標は、商標権者におい
て、他の競業者に対し、その商品の同一又は類似品につき、自らの商品の価値を保
護するため、これを独占使用するものであつて、延いては消費者における商品の混
同、誤認をも防がんとするにあるものといわなければならない。従つて他人の登録
した商標は、これを同一又は類似の商品について使用することは許されないと同時
に、商品の容器自体に登録商標が附してある場合には、これをその商品と同一又は
類似の商品の容器として使用することもまた許されないものであることは明らかで
ある。従つて商標権の本質は、叙上のように、商品の信用、価値を維持し、かつこ
れが混同、誤認を防止するため、権利者にこれを専用する権利を認めたものにほか
ならないのであるから、前述の商標権の本質に反せず、商品の混同誤認を生ずる虞
が全く存在しない場合においては仮りに他人の登録商標の附してある容器を流用し
たとしても、これを以て敢えて商標権を侵害ずるとはいえないものと解する。換言
すれば、他人の登録商標を附した容器をその指定商品又は類似の商品の容器に流用
するようなことは極力これを避けるべきではあるが、もしそれを利用するような場
合には、それに附してある商標が認識されないように、完全にこれを抹消するか、
もしくは他の物で完全に掩蔽し、容易に剥離しないようにする等の方法によつて、
その商標が附してないものと同様の状態にした上でなければこれを使用し得ないこ
とは、前段説述した趣旨に照らして明白である。(大審院大正十二年十二月一日判
決、刑集二巻八四二頁参照)
 これを本件の場合についてみると、前認定のように、被告人は、前記株式会社丁
2の登録商標が附してある硝子小壜をその指定商品と同一商品の容器に流用してい
たものであるからその使用について、前記のような特段の方法を講じない限り、商
標権を侵害するものといわなければならない。然るに、弁護人は、「被告人が右古
壜を流用するについては、その内容物が合資会社己の製品であることを明示したレ
ツテル、および王冠を用い、前記株式会社丁2の製品と混同誤認される虞のないよ
うに万全の注意を払つているから、商標権の侵害にならない。」と主張しているか
ら、調査すると、押収にかかる己製造のコーヒー牛乳壜詰(当庁昭和三二年押第三
五二号の一〇)ならびに庚壜詰(前同押号の八)を対照すると、被告人は前記古壜
を使用するについては、合資会社己製造のものであることを明らかにするような王
冠及びレツテルを使用していること、その王冠は赤地の中央に白く◎を抜き、その
周囲に「辛」その他の文字を小さく輪形に表わして、口栓となし、またレツテルは
濃淡ある黄褐色の模様地に、いずれも濃褐色にて「コーヒー牛乳」、「MILK 
COFFEE」と太字で二段に横書きし、その上部に同色にてTRADE◎MAR
K、また右方にコーヒー牛乳製造元合資会社己その他の文字を細字にて表示して、
これを壜の肩部に糊着け貼付して売り出していたこと、及びこの王冠やレッテルは
前記株式会社丁2で用いている王冠やレツテルとはその外観、体裁、模様、色彩等
を異にしていることが認められるが、王冠は直径二、五糎に過ぎない小さい物であ
り、また被告人の用いたレツテルは幅約三・五糎、長さ約十一糎のやや弓なりをな
した細長い紙片で、その貼付してある場所は壜の首部に近い肩部であることが明ら
かである。ところで、前記株式会社丁2の登録商標第四一〇六八九号及び第四一二
二一三号は高さ約十六糎の硝子壜のほとんど全面にわたつて浮き出しの方法によつ
て用いられているが、被告人の貼付したレツテルで掩蔽されているのは、そのうち
最上部にある菊花弁のような凸凹を表わした約二糎の図形のほぼ半分に過ぎず、そ
の下方にある約六糎の凸凹部分は勿論、その中央部にある盾形とおぼしき図形(こ
れは前記登録商標第一〇六八八号及び第四二四二一号そのものに該当する)は全然
掩蔽されずに露出したままになつていることが明白である。しかも原審ならびに当
審証人丁1の証言、壬の司法警察員に対する供述調書及び原審鑑定人癸の鑑定の結
果を総合すると、本件で問題になつているコーヒー牛乳のような壜詰品は、これを
需要者に販売するに際し、夏季は水や氷で冷却し、また冬季は温湯であたためて売
られる場合も少くないから、単に硝子壜に糊で貼付したに過ぎないレツテルは剥離
する可能性が存することが認められ、そうすれば壜に浮き出された前記登録商標は
全く掩蔽されずにそのまま使用される結果となるのは理の当然である。叙上のよう
に、被告人が、他人の登録商標の附してある本件の古壜を流用するについて、その
壜の肩部に貼付したレツテルは剥離し易く、また仮に剥離しないとしても、それは
前叙のように僅かに他人の登録商標の極く一小部分を掩蔽するに過ぎず、その重要
な部分はそのままに残されているのであるから、たとえその壜の口栓に用いた王冠
に前記のような表示があつたとしても、これを指定商品と同一又は類似の商品に使
用すれば、商品の出所につき混同誤認を生ずる虞のあることは極めて明白であると
いわなければならない。果して然らば被告人が本件の古壜を利用するについて施し
た方法は不完全であつて、到底商標権侵害の責を免れしめるに足る適切なものであ
るとは認められないからこの点に関する弁護人の所論は理由がない。
 つぎに弁護人は、「被告人は自己の生産にかかる商品であることを明示するた
め、前記のようなレツテルや王冠を用いており、前記株式会社丁2製造にかかる商
品と混同誤認をさせようとする意図、即ち同会社の商標権を侵害する意思がなかつ
たから商標法第三十四条第一号所定の罪の犯意がなかつたものである。」と主張<要
旨>しているが、同条第一号の罪の犯意があるとするには、行為者が他人の登録商標
であることを認識しながら、これをその指定商品と同一又は類似の商品に使
用する意思があれば足り、必ずしも商品の信用、価値を損し、或はその出所につい
て混同誤認を生ぜしめようとする意図を必要とするものではないと解すべきところ
押収にかかる株式会社丁2から合資会社己宛の警告書一通(当庁昭和三二年押第三
五二号の一二)に、当審における被告人本人の供述を総合して考えると、被告人は
前認定のように昭和二十八年五月二十二日、本件商標権者である株式会社丁2か
ら、その登録商標の附してある古壜を使用することは同会社の商標権を侵害するも
のである旨の通告を受けたことが認められるから、少くともその時以後においては
前記硝子壜には同会社の登録商標が付せられていること、従つてこれを使用するこ
とはその商標権を侵害することになるという認識があつたものと認めざるをえず、
従つて、たとえ被告人において、積極的に商標権者の商品の信用、価値を損し、或
はこれと混同誤認を図ろうという意思でなくても、なお前記法条所定の罪について
犯意があつたものというに妨げないものであるから、この点に関する弁護人の所論
もまた採用することができない。
 要するに、被告人の所為は他人の登録商標を同一もしくは類似の商品に使用した
ものにほかならないから、商標法第三十四条第一号に該当するものであるといわな
ければならない。従つて右と反対の見地に立ち、被告人に無罪の言渡をした原判決
は事実を誤認し、かつ前記法条の解釈適用を誤つたものと認めざるをえないから破
棄を免れない。検察官の論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十二条、第三百八十条に則りこれを
破棄し、同法第四百条但書によつて当裁判所で直ちに判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は横浜市a区b町c丁目d番地に本店を有し、清涼飲料ならびに保存飲料
の製造販売を業とする合資会社己の無限責任社員であるが、乳製品製造販売業株式
会社丁2が商標法施行規則第十五条所定の第十五類(玻璃並他類ニ属セサル玻璃製
品及琺瑯質品)及び同上第四十六類(獣乳、其ノ製品及其ノ模造品、羊乳、「コン
デンスミルク」、乳粉、「バタ」、人造「バタ」「チーズ」等)を指定商品として
登録した商標(昭和二十七年四月十四日登録第四一〇六八八号、第四一〇六八九
号、同年六月四日登録第四一二二一三号及び同月十二日登録第四一二四二一号)の
入つている硝子製小壜を登録商標が付してあるものであることを知りながら、これ
を使用し、
 (一) 昭和二十八年十二月頃から昭和二十九年一月二十九日までの間に、前記
合資会社己の本店において、右商標入硝子製小壜に指定商品と同一の商品であるコ
ーヒー牛乳を壜詰にした製品合計九十四本を戊他四名に対して販売し
 (二) 昭和二十九年一月三十日前記自宅において、販売の目的を以て右商標入
硝子製小壜に指定商品と同一の商品であるコーヒー牛乳を壜詰にした製品三百七十
三本を所持し
 たものである。
 (証拠の標目)(省略)
 (法律の適用)
 被告人の所為は包括して商標法第三十四条第一号、罰金等臨時措置法第二条第一
項に該当するから、所定刑中罰金刑を選択しその金額範囲内で被告人を罰金一万円
に処し、被告人において右罰金を完納しないときは刑法第十八条第一項に基いて金
二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置すべく、原審における訴訟費用
は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に則りこれを被告人に負担させることにす
る。
 よつて主文のように判決する。
 (裁判長判事 三宅富士郎 判事 河原徳治 判事 下関忠義)

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