弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決のうち予備的請求に関する部分を破棄する。
2前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻
す。
3上告人の主位的請求に関する上告を棄却する。
4前項に関する上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人豊川義明,同徳井義幸の上告受理申立て理由第1及び第2について
1本件は,Aの株主である上告人が,Aの買い受けた土地について,同社の取
締役である被上告人に所有権移転登記がされているなどと主張して,被上告人に対
し,平成17年法律第87号による改正前の商法(以下,単に「商法」という。)
267条1項の規定に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移
転登記手続をすることを求める株主代表訴訟である。
2上告人は,第1審判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」とい
う。)は,いずれもAが第三者から買い受けてその所有権を取得したものである
が,Aではなく被上告人への所有権移転登記がされていると主張し,被上告人に対
し,①主位的には,Aの取得した本件各土地の所有権に基づき,Aへの真正な登記
名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求め,②予備的には,Aは,本件各
土地の買受けに当たり,取締役である被上告人に対し,本件各土地の所有名義を被
上告人とする所有権移転登記手続を委託し,被上告人との間で期限の定めのない被
上告人所有名義の借用契約を締結していたが,遅くとも本件訴状が被上告人に送達
された時までには上記借用契約は終了したとして,上記契約の終了に基づき,Aへ
の真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めている。
3原審は,次のとおり判断して,本件訴えをいずれも却下した。
株主代表訴訟は,商法が,株主総会の権限を限定し,取締役の権限を広範なもの
とするとともに,取締役の特定の行為について,取締役に対し,会社と取締役との
間の委任契約に基づく善管注意義務による責任を超えて厳格化,定型化された特別
の責任を負わせていることを受けて,その責任の履行を確実なものとし,株主の地
位を保護するために設けられたものと理解される制度である。そうすると,株主代
表訴訟によって追及することのできる取締役の責任は,商法266条1項各号所定
の責任など,商法が取締役の地位に基づいて取締役に負わせている厳格な責任(以
下「取締役の地位に基づく責任」という。)を指すものと理解すべきであり,取締
役がその地位に基づかないで会社に負っている責任を含まないと解することが相当
である。
したがって,本件訴えは,いずれも株主代表訴訟の対象とはならない取締役の責
任を追及するもので,不適法といわざるを得ない。
4しかしながら,原審の上記判断のうち,株主代表訴訟によって追及すること
のできる取締役の責任は,取締役の地位に基づく責任を指すとして,予備的請求に
係る訴えを却下した部分は是認することができない。その理由は,次のとおりであ
る。
(1)昭和25年法律第167号により導入された商法267条所定の株主代表
訴訟の制度は,取締役が会社に対して責任を負う場合,役員相互間の特殊な関係か
ら会社による取締役の責任追及が行われないおそれがあるので,会社や株主の利益
を保護するため,会社が取締役の責任追及の訴えを提起しないときは,株主が同訴
えを提起することができることとしたものと解される。そして,会社が取締役の責
任追及をけ怠するおそれがあるのは,取締役の地位に基づく責任が追及される場合
に限られないこと,同法266条1項3号は,取締役が会社を代表して他の取締役
に金銭を貸し付け,その弁済がされないときは,会社を代表した取締役が会社に対
し連帯して責任を負う旨定めているところ,株主代表訴訟の対象が取締役の地位に
基づく責任に限られるとすると,会社を代表した取締役の責任は株主代表訴訟の対
象となるが,同取締役の責任よりも重いというべき貸付けを受けた取締役の取引上
の債務についての責任は株主代表訴訟の対象とならないことになり,均衡を欠くこ
と,取締役は,このような会社との取引によって負担することになった債務(以下
「取締役の会社に対する取引債務」という。)についても,会社に対して忠実に履
行すべき義務を負うと解されることなどにかんがみると,同法267条1項にいう
「取締役ノ責任」には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する
取引債務についての責任も含まれると解するのが相当である。
(2)これを本件についてみると,上告人の主位的請求は,Aの取得した本件各
土地の所有権に基づき,Aへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記
手続を求めるものであって,取締役の地位に基づく責任を追及するものでも,取締
役の会社に対する取引債務についての責任を追及するものでもないから,上記請求
に係る訴えを却下した原審の判断は,結論において是認することができる。
これに対し,上告人の予備的請求は,本件各土地につき,Aとその取締役である
被上告人との間で締結された被上告人所有名義の借用契約の終了に基づき,Aへの
真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めるものであるから,
取締役の会社に対する取引債務についての責任を追及するものということができ
る。そうすると,予備的請求に係る訴えは,株主代表訴訟として適法なものという
べきである。これと異なる原審の判断には法令の解釈を誤った違法があり,この違
法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
5以上によれば,論旨は上記の限度で理由があり,上告人の主位的請求に関す
る上告は棄却すべきであるが,原判決のうち予備的請求に関する部分は破棄を免れ
ない。そして,予備的請求の本案について更に審理を尽くさせるため,上記の部分
につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官堀籠幸男裁判官藤田宙靖裁判官那須弘平裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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