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         主    文
       原判決を破棄する。
       被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人佐藤庄市郎,同林彰久,同木村裕,同佐藤順哉,同池袋恒明,同関口
明博,同山宮慎一郎,同池田友子,同小池和正の上告理由について
 1 本件訴訟は,いわゆる預託金会員制ゴルフクラブに入会するため被上告人が
ゴルフクラブ経営会社に支払うべき預託金につき,ゴルフ会員権クレジット契約上
の保証人として支払をした上告人が,被上告人に対して,約定の分割金等の支払を
求めるものである。原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 株式会社D(以下「D」という。)は,預託金会員制ゴルフクラブであ
る「E」(以下「本件ゴルフクラブ」という。)を運営することを計画し,平成元
年11月ころから会員の募集を始め,平成2年3月6日に起工式を行い,ゴルフコ
ース「F」(以下「本件ゴルフ場」という。)の建設に着手した。Dが会員募集に
際して作成したパンフレットには,本件ゴルフ場の完成予定は平成4年度である旨
の記載があった。
 (2) 上告人と被上告人は,平成元年12月19日,被上告人がDから本件ゴ
ルフクラブの会員権(E個人正会員権。以下「本件ゴルフ会員権」という。)を取
得するに当たり,次の内容のゴルフ会員権クレジット契約(以下「本件クレジット
契約」という。)を締結した。
 ア 被上告人は,上告人に対し,被上告人がDに支払うべき預託金等1600万
円から申込金300万円を除いた1300万円の債務について保証することを委託
し,上告人はこれを保証する。
 イ 被上告人は,上告人が1300万円をその決済日に被上告人の保証人として
Dに代位弁済することを承認する。
 ウ 上告人が代位弁済をした場合,被上告人は上告人に対し,1300万円に分
割払手数料575万9000円を加算した1875万9000円を分割して,平成
2年2月10日に15万9300円,同年3月から平成12年1月まで毎月10日
限り15万6300円ずつ支払う。
 エ 被上告人が,支払期日に分割払金の支払を遅滞し,上告人から20日以上の
期間を定めてその支払を書面で催促されたにもかかわらず,その期間内に支払をし
ない場合,被上告人は期限の利益を喪失する。
 オ 遅延損害金年6パーセント
 (3) 本件クレジット契約の契約書(以下「本件契約書」という。)は,上告
人が作成した定型のゴルフ会員権クレジット契約書であり,本件契約書10条には
,「(1)購入者は,下記の事由が存するときは,その事由が解消されるまでの間
,当該事由の存する商品について,支払を停止することができるものとします。」
と記載され,支払停止の事由として,「①商品の引渡しがなされないこと,②商品
に破損,汚損,故障その他の瑕疵があること,③その他商品の販売について,販売
会社に生じている事由があること」が列挙されている。
 (4) 上告人は,平成元年12月25日,本件クレジット契約に基づき,被上
告人の保証人としてDに1300万円を代位弁済した。
 (5) 被上告人とD間で,遅くとも平成2年3月ころまでに,本件ゴルフクラ
ブの入会契約が成立した。
 (6) Dは,当初経営が順調であったが,株式相場の下落等によりばく大な損
失を出し,平成5年3月に「G有志の会会員」から,同年8月に上告人から,それ
ぞれ会社更生手続開始の申立てがされ,東京地方裁判所は,同月5日保全管理命令
を発し,平成6年12月2日に更生手続開始決定をした。
 (7) 被上告人は,平成4年9月10日以降の分割払金を支払わず,上告人は
,被上告人に対し,平成7年6月5日到達の内容証明郵便をもって,書面到達後2
1日以内に未払分割払金を支払うよう催告した。
 (8) 本件ゴルフ場の建設工事は,平成4年3月の荒造成段階で中止されてお
り,原審口頭弁論終結時においても工事は再開されていない。Dの管財人は本件ゴ
ルフ場を完成させたいとの意欲を持っているものの,完成のめどは立っていない。
 2 被上告人は,本訴請求に対する抗弁として,(1)本件ゴルフ場の開場の遅
れは,本件契約書10条(1)①ないし③に規定する支払停止の事由に該当する,
(2)本件クレジット契約においては,購入者が本件契約に関する一切の費用を負
担する旨が約されており,被上告人は,同約定に基づいて,平成2年2月13日,
第1回分割払金15万9300円を支払う際に,本件契約書に貼付すべき印紙代2
00円を合わせて支払ったにもかかわらず,上告人は,本件契約書に印紙を貼付し
ていないので,印紙代200円は,本件請求に係る分割払金の残金から控除される
べきであると主張した。
 3 原審は,前記事実関係の下で,大略次のとおり判示して,被上告人の上記2
(1)の抗弁を容れ,上告人の本訴請求を全部棄却した。
 (1) 本件契約書10条(1)③は,その規定の仕方からいうと,同条(1)
①,②を受け,これを補完する形で設けられた定めであり,また,その文言も,①
,②に準じる事由を広く支払停止の事由とする表現となっており,これを商品販売
の時に存在していた事由に限る趣旨はうかがえないから,③に規定する事由は,商
品販売の時に存在した事由に限られると解することはできない。ゴルフ場の経営主
体が将来一定時期における完成予定を掲げて造成中のゴルフ場に係るゴルフ会員権
の販売をする場合については,単にその購入者に当該ゴルフ会員権を取得させれば
足りるのではなく,当該ゴルフ場をその予定の時期又はそれからそれほど遠くない
時期に完成させ,当該ゴルフ会員権の購入者にこれを利用させることが当該ゴルフ
会員権販売契約の内容となっているものと解するのが相当である。
 (2) これを本件についてみると,本件ゴルフ場が平成4年度又はそれからそ
れほど遠くない時期に完成し,被上告人が本件ゴルフ場を利用してゴルフのプレー
をすることができるようになることは,本件売買契約の内容になっていたものと認
めるのが相当である。被上告人は,本件ゴルフ場の完成予定時期を既に4年以上経
過してもまだこれを利用することができず,本件ゴルフ会員権購入の目的を達成す
ることができない状態にある。このように本件売買契約の重要な要素が履行されな
いで4年以上が経過しているという状況にかんがみれば,Dは,既に本件売買契約
について債務不履行の状態にあり,被上告人からいつ本件売買契約を解除されても
やむを得ない状況にあるということができ,このような事情は,本件契約書10条
(1)③に規定する事由に該当するものと解するのが相当である。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 (1) 本件クレジット契約は,Dと被上告人との間の預託金会員制ゴルフクラ
ブの入会契約を前提とし,そのための預託金相当額の信用を供与するものであるか
ら,両契約が経済的,実質的に密接な関係にあることは否定し得ないとしても,両
者は当事者及び効果を異にする別個の法律関係であるから,被上告人が入会契約上
生じている事由をもって当然には上告人に対抗することはできない。そして,本件
クレジット契約に割賦販売法(平成11年法律第34号による改正前のもの,以下
同じ。)30条の4第1項の規定が適用されないことは明らかである。ところで,
上告人と被上告人との間の保証委託契約においては,本件契約書10条(1)の約
定が存するところ,本件ゴルフ場の開場遅延が,同約定に規定する被上告人が上告
人の求償金の履行請求を拒み得る事由に該当するか否かが問題となる。
 (2) 記録によれば,本件クレジット契約に使用された定型の契約書には,不
動文字で,表題に「ゴルフ会員権クレジット」と,「商品(役務)名」の欄に「ゴ
ルフ会員権」と記載されており,裏面の6条(1)には「申込者はゴルフ会員権証
書をゴルフ場会社より受領した際は販売会社を通じて直ちに会社へ担保として差し
入れます。」と記載されるなどゴルフ会員権販売会社とゴルフ場経営会社が別主体
であることを前提とする規定が置かれていることがうかがわれる。これらの記載に
よれば,本件クレジット契約に使用された定型の契約書は,申込者が販売会社から
ゴルフ会員権を購入する場合に用いられることを予定して作成されたものと解され
,裏面の10条(1)の規定が,昭和59年11月26日付け通商産業省産業政策
局消費経済課長通達「昭和59年改正割賦販売法に基づく標準約款及びモデル書面
について」に添付された「個品割賦購入あっせん標準約款」11条(1)と同内容
の規定であることを勘案すれば,本件クレジット契約の締結当時割賦販売法の適用
対象ではなかったゴルフ会員権の販売について,同法30条の4第1項に準じた効
果を認める特約としての意義を有していたと解することができる。
 したがって,本件クレジット契約に使用された定型の契約書10条(1)③に規
定する「商品の販売について,販売会社に対して生じている事由」とは,ゴルフ会
員権の販売について,仮に販売会社が申込者に代金支払を請求してきたとすれば,
売買契約に関して代金の支払を拒むことができる事由に限定され,申込者が販売会
社に対して主張できない事由まで,クレジット会社に主張できることを認めたもの
と解することができないから,申込者が販売会社からゴルフ会員権を取得した後に
当該ゴルフ場の経営会社に生じた債務不履行は上記規定にいう支払拒絶の事由とな
らないと解するのが,当事者の合理的意思に合致するというべきである。
 (3) ところで,本件におけるゴルフ場経営会社と申込者との間の法律関係が
ゴルフ会員権の販売契約ではなく,預託金会員制ゴルフクラブの入会契約であるこ
とは前記のとおりである。そうすると,本件クレジット契約における本件契約書記
載の約定の解釈は,本件クレジット契約の内容に即して,本件契約書10条(1)
③を「その他ゴルフ場経営会社との入会契約について,ゴルフ場経営会社に生じて
いる事由があること」と読み替えた上で,預託金会員制ゴルフクラブの入会契約が
売買契約ではないことを勘案しつつ,前記(2)の場合の意思解釈に準じて,当事
者の合理的な意思を探究するのが相当である。そうすると,本件契約書10条(1)
③に規定する支払拒絶の事由は,仮にゴルフ場経営会社が申込者に預託金等の支払
を請求してきたとすれば,当該ゴルフ場経営会社に対し預託金等の支払を拒むこと
ができる事由に限定されるのであって,申込者が当該ゴルフ場経営会社に預託金等
を支払って入会した後に当該ゴルフ場経営会社に生じた債務不履行は支払拒絶の事
由とならないと解するのが,当事者の合理的意思に合致して相当というべきである。
 (4) 【要旨】前記1の原審が確定した事実によれば,被上告人は,未開場の
ゴルフ場であることを認識した上で,本件ゴルフクラブに入会することを企図して
,本件クレジット契約を締結し,本件ゴルフ会員権を取得したものであって,本件
ゴルフ場が未開場であることは,被上告人がDに対して預託金等の支払を拒むこと
ができる事情とはいえない。そうすると,本件ゴルフ場の開場遅延は,本件ゴルフ
会員権を取得した者に対するDの債務不履行といえるものの,本件契約書10条(
1)③に規定する支払拒絶の事由に該当しないというべきである。
 5 以上のとおり,本件契約書10条(1)③に規定する支払拒絶の事由がある
として上告人の本訴請求を棄却した原審の判断には,契約の解釈適用の誤りがある
といわざるを得ず,この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨はこれと同趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。
 6 進んで,被上告人の前記2(2)の抗弁について検討すると,上告人及び被
上告人は本件契約書の作成者として依然として印紙税を納付する義務を負っており
,上告人は,被上告人に対して,印紙代として被上告人から受領した金員をもって
印紙税を納付する債務を負担しているというべきであって,本件請求に係る分割払
金の残金から印紙代として支払った金員を控除すべき旨の被上告人の主張は失当で
ある。
 7 以上説示したところによれば,上告人の請求には理由があるから,これを認
容した第1審判決は正当であって,被上告人の控訴を棄却すべきである。
 よって,裁判官深澤武久の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文
のとおり判決する。
 裁判官深澤武久の反対意見は,次のとおりである。
 1
私は,「本件契約書10条(1)に規定する支払拒絶の事由は,仮にゴルフ場経営
会社が申込者に預託金等の支払を請求してきたとすれば,当該ゴルフ場経営会社に
対し預託金等の支払を拒むことができる事由に限定されるのであって,申込者が当
該ゴルフ場経営会社に預託金等を支払って入会した後に当該ゴルフ場経営会社に生
じた債務不履行は支払拒絶の事由とならないと解するのが,当事者の合理的意思に
合致して相当というべきである。」との多数意見に賛成することができない。その
理由は次のとおりである。
 2 本件クレジット契約は,被上告人が未開場のゴルフ場のゴルフクラブに入会
するため会員を募集するゴルフ場経営会社と販売会社の地位を兼ねるDに支払う預
託金につき,上告人が,クレジット契約によって預託金相当額の信用を供与するに
際し,割賦販売法30条の4第1項と同趣旨に解される,ゴルフ場経営会社と顧客
との間の抗弁権の接続を認める特約をしたものである。すなわち,本件クレジット
契約に同法は適用されないが,本件契約書10条(1)③は同法30条の4に関す
る昭和59年11月26日付け通商産業省産業政策局消費経済課長通達「昭和59
年改正割賦販売法に基づく標準約款及びモデル書面について」に添付された「個品
割賦購入あっせん標準約款」11条(1)と同じ文言が用いられていることから,
上告人は同法30条の4の趣旨にそった約定をした結果,同条に準じた責任を負う
に至ったものである。
 3 未開場のゴルフ場のゴルフクラブ入会契約を締結したDは,契約締結後相当
の期間内にゴルフ場施設を完成し,利用可能な状態にしたうえ,これを会員の利用
に供すべき債務を負っている。ところで,同法30条の4は,販売会社と信用供与
会社が分離したため販売会社に主張できた抗弁が信用供与会社に主張できないとい
う顧客に生じる不利益を回避するために一定の要件のもとに抗弁の接続を認めたも
ので,顧客が自社割賦であれば販売会社に主張できた事由を信用供与会社に主張で
きる,すなわち,顧客が販売会社の自社割賦で商品を買ったならば販売会社に割賦
金の支払を拒める事由が生じた場合に,クレジット会社に対してもその事由を主張
して割賦金の支払を拒めるとするものであり,前記特約はこれと同旨の効力を有す
るのである。ゴルフ場経営会社であるとともに販売会社でもあるDは,平成4年3
月頃資金不足のため本件ゴルフ場建設工事を荒造成段階で中止し,平成6年12月
には,会社更生手続開始決定を受けて,ゴルフ場の開場は絶望的となっているので
あるから,被上告人はDの自社割賦によって預託金を支払う契約を締結していたな
らば,Dの上記債務不履行を理由に割賦金の支払を拒絶できることになる。この支
払拒絶の抗弁は,本件契約書10条(1)③の特約によって上告人にも主張できる
と解すべきである。これと同旨の原判決は是認できるので本件上告は棄却されるべ
きである。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田
 顯)

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