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裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金四九万四四〇〇円
及びこれに対する昭和五四年一二月一日から支払済まで年六分の割合による金員の
支払をせよ。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、
被控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
 当事者双方の事実主張及び証拠関係は、控訴人が甲第三号証を提出し、被控訴人
がその成立を認めると述べた旨付加するほか、原判決事実摘示と同一である(但
し、原判決四枚目表四行目の「民事部」を「民事」に改める。)から、これを引用
する。
         理    由
 控訴人は、自動車販売を業とするところ、サンハイブ工業に対して昭和五三年一
月三〇日本件自動車を売渡し、買主サンハイブ工業は、右自動車の買受代金中頭金
一〇万四九八〇円を現金で支払い、一一万八〇〇〇円につき下取車の価格を同額と
合意したうえ右下取車をもつて代物弁済し、残金九九万〇六七五円については、同
年三月六日サンハイブ工業が松本信金からローン契約で借入れた同額の金員をもつ
て同日これを支払い、もつて売買代金全額を完済したこと、右ローン契約において
はサンハイブ工業の松本信金に対する借入金債務を控訴人が連帯保証したことは、
当事者間に争いがない。
 成立に争いのない甲第一号証(本件売買とローンに関する契約書によれば)、控
訴人とサンハイブ工業との間で、サンハイブ工業が松本信金からの右借入金債権あ
るいは控訴人の右連帯保証に基づく求償債権を完済したときに、本件自動車の所有
権がサンハイブ工業に移転する旨(約款五条)、また、買主サンハイブ工業につき
更生手続開始の申立がされたときは、控訴人は直ちにサンハイブ工業の借入金全額
を代位弁済することができ、その代位弁済前であつても、サンハイブ工業に対し代
位弁済をすれば求償することのできる額の支払を請求することができる旨(同一〇
条)合意されたことが認められるけれども、右の場合に右求債権は更生手続開始の
申立時に当然発生する(求償債権の発生を更生手続開始の申立時まで遡らせる)趣
旨の合意がされたことを認めるに足りる証拠はなく、右一〇条の文言のみをもつて
右趣旨に解することもできない。そして、サンハイブ工業につき昭和五四年四月二
七日更生手続開始決定がされたこと、控訴人は松本信金に対し昭和五四年一二月一
日サンハイブ工業の松本信金に対する同年四月以降の割賦金合計四九万四四〇〇円
及びこれに対する同年四月六日から同年一一月六日まで年一四パーセントの割合の
約定損害金一万三四九〇円を前記連帯保証契約に基づく連帯保証人として支払つた
ことも当事者間に争いがない(前記求償権の事前行使の意思表示がされた事実はこ
れを認めることができない。)。
 <要旨>ところで、売買契約が双務契約といわれるのは、売買の目的物の所有権移
転ないしその所有権移転登記(登録)及び目的物の引渡と代金の支払が相互
に対価関係に立つためであり、代金が消費者ローン等の利用によつて支払われ、売
主が買主に対して求償債権を有する場合に、売主がこの求償債権の履行を受けるま
で右目的物の所有権が移転せず、その登録手続を拒むことができるものと約束され
たとしても、この約束をもつて更生法一〇三条にいう双務契約と解すべきではな
い。思うに、契約自由の原則の下においては、売買契約の当事者は、売主の所有権
の移転及び所有権移転登記(登録)手続をなすべき義務と買主の代金支払義務のほ
かに付加してされた義務とを対価関係に立たしめ、引換給付にすべきことを合意す
ることは許されないとはいえないであろう。
 しかしながら、右のような内容の合意が更生法一〇三条にいう双務契約関係とし
て扱わるべきかは別問題である。会社更生法は、窮境にある株式会社についてすべ
ての利害関係人の利害を調整しつつ事業の維持更生を図ることを目的とするもので
あり(同法一条)、会社財産の上に担保権を有する者といえども、更生手続に参加
しその手続において権利の行使を許されるにすぎないのである(同法一二三条以
下)(なお破産法九五条参照)。
 双務契約においては、相互の債権は牽連性を有し対価関係にあり、かつ担保視し
あう関係にあるが、双務契約のこのような性質に鑑み、更生法一〇三条は、更生手
続開始決定時において双務契約の双方の債務が履行を完了していないものについ
て、企業再建目的達成と更生手続の円滑化のために右会社更生法の目的の範囲にお
いて特別に設けられたものであることは後記(本判決の引用する原判決の説示)の
とおりである。従つて、更生法一〇三条にいう双務契約における契約の双方の当事
者の負担する対価的意義を有する債務とは、民法が規定する本来的意義の双方の債
務を指し、前記のように、所有権移転ないし所有権移転登記(登録)手続の履行と
求償債権の履行とを対価関係に立たしめ、引換給付にすべきことが合意されたとし
ても、このような合意をもつて同条にいう双務契約ということはできない。
 控訴人が主張するように控訴人が更生会社に対して有する本件求償債権をも更生
法一〇三条の双務契約関係に立つ債権の中に含ませ、控訴人の右求償債権を更生会
社に対する債権中最優位に立つ共益債権(同法二〇八条七号)として扱うことは、
更生会社に対する債権者間の衡平を著しく失することになり、このような解釈は結
果的にも不当といわざるをえない。
 したがつて、本件売買契約については、更生手続開始前に売買代金は全額支払わ
れて履行が完了し、控訴人がサンハイブ工業に対し連帯保証債務を履行したことに
基づく割賦金四九万四四〇〇円とこれに対する約定損害金一万三四九〇円の求償債
権を有することは前記のとおりであるが、この債権と本件自動車の所有権移転登記
手続をすべき義務とが更生法一〇三条の双務契約に基づく未履行の両債務であると
いうことはできない(なお、右求償金債権は代位弁済をした昭和五四年一二月一日
に発生し、更生手続開始当時に発生していたといえないから、この点でも同条一項
の要件を充たさない。)。
 さらに、控訴人は、本件求償金債権は、実質上本件売買の未払代金債権の変形し
たもので、本件売買契約当時に発生しているものとして、本件自動車の移転登録義
務の履行と双務契約の関係にあり、これに同法一〇三条を類推適用すべきものであ
るかに主張するけれども、この主張が採用しえないことは、原判決一〇枚目表二行
目から一三枚目表一〇行目まで(但し、一〇枚目裏四行目、一〇行目の「更生債
権」をそれぞれ「更生会社に対する債権」、同七行目の「更生法上の更生債権者」
を「更生会社に対する債権者」と改め、一二枚目裏三行目から同七行目までを「そ
の実質においてサンハイブ工業の松本信金に対する消費貸借債務ないし控訴人に対
する求償金債務の履行確保を図る担保的機能を有するに過ぎないから、後記のよう
に更生担保権者としての保護が与えられれば足り、本件求償金債権を売買代金債権
と同一視して、本件求償金債権と本件自動車の移転登録義務の履行とが本件売買契
約時から双務契約関係にあるとして更生法一〇三条を適用すべきものとする控訴人
の主張は採用できない。」に改め、一三枚目表九行目の「更生債権者」とあるを
「更生会社に対する債権者」と改める。)に記載のとおりであるから、これを引用
する。
 以上に説示したところから明らかなように、控訴人の本件求償金債権につき更生
法一〇三条を適用すべきであるとの主張は採用することができないから、これを前
提とする控訴人の請求は失当として棄却すべきである。
 よつて、右と同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを
棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり
判決する。
 (裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 倉田卓次 裁判官 高山晨)

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