弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人及び弁護人の各控訴趣意の要旨はいづれも別紙記載の通りである。
 よって先づ弁護人の控訴趣意について考へて見るに原判決が認定した判示第二の
事実は、
 被告人は、昭和二十五年一月頃一時使用のためAから同人所有にかゝる旭川市a
b丁目Bアパート内の六畳一室を賃借したが、同年三月頃Aから右賃貸借解約の申
入を受けその後その六畳室の明渡しを求められるにいたつた。それで同年七月八日
頃においては、右六畳室についての被告人の賃借権は消滅しており、被告人がその
後継として右六畳室の使用者を定めて見たところでその者がその賃借権者となるわ
けでもなく又その六畳室に居住することをAが承諾するものでもないこと明かな情
況にあつたし真実Aの承諾を得るような心算はないにもかゝわらず、賃借権譲渡を
口実に他から金員を騙取しょうと考えて、同日同市cC方において、Dに対し、右
Bアパート内の六畳一室は被告人に賃借権があり権利金として金三千円を渡してく
れゝばこの賃借権を譲渡し家主のAの承諾を得て直ちに右六畳室に居住のできる運
びにする旨を告げて、同人をその通り誤信させ、よつてその翌九日前記Bアパート
内において同人から六畳室賃借権譲渡権利金名義の下に金三千円を交付させてこれ
を騙取した。
 というのであつて、被告人がAのアパートの六畳室を賃借したのは一時使用のた
めの賃貸借と認めている。
 しかしながら原判決挙示のAの検察官に対する供述調書と被告人の検察官に対す
る供述調書とを彼此検討すると、Aは昭和二十五年一月から被告人にそのアパート
の六畳室一室を賃貸したが、それについては被告人が妻を呼びよせてから賃貸借契
約書を作成することゝし、それまでは一ケ月金三百円の賃料とし、その他の条件は
別段これを定めなかつたこと、被告人が妻を呼びよせる時期も未定であり、又何時
までに呼びよせない場合はどうするといふ申し合せもなかつたこと、が認められる
のであつて、これによれば妻を呼びよせないということも、それによつて賃貸借を
終了させることにはならないことは勿論、その部屋の利用の性質上その賃貸借の目
的が臨時的であるともいへないし、又契約の動機からしてその賃貸借が臨時的のも
のであることが明瞭な場合ともいへない。尤も被告人は当初Aに対し、何時でも要
求次第明渡すことを約諾したことが認められるけれども、それは契約の臨時性を意
味するものとは解せられないのである。そうすると本件は一時の賃貸借ではなく弁
護人の主張する通り通常の賃貸借と見るのが妥当であつて、従つて本件は借家法の
適用を受くべきものであるとしなければならない。
 ところで貸主Aは昭和二十五年三月頃被告人に対して明渡を要求したことは右の
証拠によつて認められるけれども、借家法の適用を受くる本件賃貸借においては、
借主が予めなした明渡の約諾は無効であるし、たといそれが正当の事由のある解約
申入であつたとしても六ケ月の予告期間を置かなければならないし、又被告人の賃
料不払を原因とする解除の意思表示であると見られる資料もないのであるから、昭
和二十五年七月八日頃は被告人の賃借権はまだ消滅していなかつたものと認めざる
を得ないのである。
 従つて原判決の判示はこの点において誤つている。
 弁護人は右は原判決の理由のくひちがいであると主張するけれども原判決が前記
のように本件賃貸借を一時使用の目的であるから昭和二十二年七月八日頃には消滅
していたと判示したのは、結局その挙示の証拠のうち如何なる部分を証明力ありと
して採用するかの判断を誤つた結果の認定の誤りであるから、それは理由のくひち
がいではなくて事実誤認であるといはなければならない。
 よつて原判決には以上の点について事実誤認があるのであるけれども、この誤認
が判決に影響を及ぼすこと明らかな場合であるか否かを判断するに、被害者Dが被
告人に金員を交付したのは、被告人から前記六畳の部屋については被告人に賃借権
があり、権利金として金三千円を渡してくれゝばこの賃借権を譲渡し家主Aの承諾
を得て直ちにその部屋に居住のできる運びにする旨を告げられたので、その通り信
用した結果によるものであることは、原判決認定の通りであつて、これによれば高
波はその金員を被告人に渡せば直ちにその部屋に居住できるものと信じたからこ
そ、その金員を渡したのであつて、若し直ちに居住できることになつていないなら
ばその金員を被告人に渡さなかつたものである、といふ点が、本件が詐欺となる所
以の重点であつて、被告人の賃借権が消滅していたか否かは高波が直ちにその部屋
に居住し得ることになつていたか否かを決するための副次的な材料たる事情にすぎ
ないのである。而して高波がその部屋に居住できるか否かは、むしろ家主Aの意思
如何にかゝる問題であつて、被告人の賃借権が消滅していなかつた本件の場合とい
へども、Aが賃借権の譲渡を承諾しない限り高波は右六畳室の賃借権を取得するに
由がないわけである。しかるに原判決は、高波がその部屋に居住することをAが承
諾するもので安いこと明かな情況にあつたし、又被告人が真実Aの承諾を得るよう
な心算はなかつたといふことを認定しており、この認定は一件記録に徴するに誤り
はないのであつて、そうすると被告人の行為はこの点に為いて既に詐欺罪を構成す
ること疑のないところである。
 <要旨>以上の通りであつて、被告人の賃借権が消滅していたと認定した点は原判
決は前記の通り事実誤認であるけれども、その消滅の如何にかゝはらず詐欺
罪となること前述の如く、しかも右の点に誤認があつたとしてもそれがため量刑に
影響があるとも思へないのであるから、右の誤認は判決に影響を及ぼすこと明らか
な場合とはいへないのである。
 以上の理由により弁護人の控訴趣意は理由がない。
 次に被告人の控訴趣意を調査するに一件記録に徴すると原判決に事実誤認の点は
前記の点を除いては認められないし、その他控訴趣意に主張するような事実は認め
られないのである。
 よつて本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条によりこれを棄却す
ることゝし、当審の訴訟費用は同法第百八十一条第一項によりこれを被告人の負担
とし、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 竹村義徹 判事 西田賢次郎 判事 河野力)

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