弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月及び罰金参万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは、金百円を一日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
         理    由
 弁護人渡辺里樹上告趣意について。
 執行猶予の言渡は原審が所論その他諸般の情状に照しこれが言渡をすることが刑
の一般予防の目的を害せず、却て、その特別予防の目的を達成するに適するか否か
を職務上自由に裁量して決定すべき任意事項であるから、原審がこれを言渡さなか
つたからとてもとより違法であるといえない。また、証人申請の採否も原審の自由
裁量に属すること言うまでもないから、原審がこれを採用しなかつたからとて、憲
法第三七条第一項の公平な裁判所の裁判を受ける権利を害するものといえないこと
並びに同条第二項後段に違反するものでないこと、いずれも当裁判所の判例の趣旨
とするところである(前者につき昭和二二年(れ)第二五三号同二三年七月一四日
言渡大法廷判決、後者につき同二二年(れ)第二三〇号同二三年七月二九日言渡大
法廷判決各参照)なお、刑訴第四一〇条第一三号にいわゆる「法律ニ依リ公判ニ於
テ取調フヘキ証拠」とは、刑訴第三四二条に規定するがごとき法律上必ず取調を要
すべき証拠というものであるから、所論第一点で言うような公判廷で申請した証人
若しくは所論第二点で主張するような参考として弁護人から原審に提出した証明書、
診断書、歎願書及びレントゲン背髓カリエス写真のようなものは、いずれもこれに
当るものとはいえない。それ故原審判決には、所論第一、二点でいうような違法は
ない。
 しかし、職権を以て調査するに、原判決は、その法律適用において、被告人の所
為をば、昭和二一年勅令第三一一号第四条第一項、第一条第四号、一九四七年六月
二七日連合国最高司令官の刑事裁判権の行使に関する覚書改正の件に該当するもの
としたが、右第一条第四号は我が国の刑事裁判権に属する事件に適用のない規定で
あるのみならず、右覚書改正の件に基く昭和二二年政令第一六六号によつて削除せ
られたものであるから、かゝる法令を適用したのは法令を不当に適用した違法があ
るものといわざるを得ない。従つて本件上告は、この点において結局理由あるに帰
し原判決は破棄を免れない。
 よつて刑訴第四四七条、第四四八条に従い原判決を破棄し被告事件につき更に判
決を為すに、原判決の確定した被告人の所為は、昭和二一年勅令第三一一号第二条
第三項第四条第一項にいわゆる占領目的に有害な行為に該当するところ、情状によ
り同条第二項をも適用しその所定の懲役刑及び罰金刑の刑期及び金額の範囲内にお
いて、被告人を主文の懲役刑及び罰金刑に処し刑法第一八条により罰金不完納の場
合は、主文の期間被告人を労役場に留置すべきものとし、主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二三年一二月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    岩   松   三   郎

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