弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成10年(行ケ)第40号 審決取消請求事件
判    決
原      告メモリーテック株式会社
代表者代表取締役【A】
訴訟代理人弁護士      相  澤  光  江
 同             藤  本  美  枝
 同             山  宮  慎一郎
 同             水  谷  直  樹
 同    弁理士【B】
 同             【C】
 被      告  三洋電機株式会社
代表者代表取締役【D】
訴訟代理人弁護士      本  渡 諒  一
同   裵     薫
 同             外  川     裕
 同             林   範  夫
 同             木  島 喜  一
 同             趙   星  哲
 同             伊  藤 孝  江
 同    弁理士【E】
 同             【F】
主    文
特許庁が平成7年審判第13939号事件について平成9年12月2日にした審
決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
事    実
第1請求
主文と同旨の判決
第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
被告は、発明の名称を「記録媒体」とする特許第1641076号発明(昭和5
5年6月9日実用新案登録出願(以下「原実願」という。)、昭和62年4月16
日特許出願(特願昭62-93714号)として出願変更、同日に特願昭62-9
3716号として分割出願、平成2年12月26日出願公告、平成4年2月18日
設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件特許発明」という。)の特
許権者である。
原告は、平成7年7月4日本件特許を無効とすることについて審判を請求した。
特許庁は、この請求を平成7年審判第13939号事件として審理し、被告は、
この手続において発明の詳細な説明の記載につき訂正(以下「本件訂正」とい
う。)を請求したが、特許庁は、平成9年12月2日、「訂正を認める。本件審判
の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成10年1月14日原
告に送達された。
 2 本件特許発明の特許請求の範囲の記載
  (1) 複数のプログラムより成る主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定
周期で多重記録して成る記録媒体に於て、
 プログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報を前記所定周期で多重記
録することを特徴とする記録媒体。
  (2) 前記記録媒体はスパイラル状記録トラックを形成するディスクレコードで
あることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の記録媒体。
 3 審決の理由
審決の理由は、別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとお
りであり、審決は、本件訂正は認められると判断した上、請求人(原告)主張の無
効事由(1)(本件特許は、その基礎出願である原実願の当初明細書及び図面(甲第3
号証。以下「原実願の当初明細書」という。)に記載された発明の範囲から実質的
に拡張された発明を要旨とするものであるから、その出願日は原実願の出願日に遡
及せず、現実の出願日である昭和62年4月16日とされるべきであり、本件特許
発明は甲第7号証(原実願の公開公報。審判甲第3号証。以下、本訴における書証
番号で表示する。)、甲第8号証(「図解コンパクトディスク読本」昭和57年1
1月25日株式会社オーム社発行。審判甲第4号証)及び甲第5号証(実開昭52
-4021号公報。審判甲第5号証)の刊行物に記載された発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項に該当し、ま
た、甲第6号証(特願昭54-37495号(特開昭55-129986号公報)
の当初明細書又は図面。審判甲第6号証)に記載された発明と実質的に同一である
から、同法29条1号3号に該当し、同法123条1項1号の規定により無効とさ
れるべきである。)については、本件特許発明は原実願の当初明細書又は図面に記
載された範囲内のものであり、出願日の遡及が認められるから、遡及が認められな
い場合の無効理由については判断をする必要がないとし、無効事由(2)(本件特許の
出願日の遡及が認められたとしても、本件特許発明は甲第5号証の刊行物に記載さ
れた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法2
9条2項に該当し、さらに、本件特許発明は審判甲第6号証の特許出願の当初明細
書等に記載された発明と実質的に同一であり、特許法29条の2に該当し、同法1
23条1項1号の規定により無効とされるべきである。)については、いずれも理
由がない旨判断した。
第3 審決の取消事由
1認否
  (1) 審決の理由Ⅰ(手続きの経緯)は認める。
  (2) 同Ⅱ(訂正の当否に対する当審の判断)のうち、「複合化」「複合」につ
いての判断(審決書4頁5行から7行「該当し、」まで)は認め、その余は争う。
  (3) 同Ⅲ(訂正後の本件発明の要旨)は争う。
  (4) 同Ⅳ(甲各号証の記載事項)は認める。
  (5) 同Ⅴ(当審の判断)は争う。
  (6) 同Ⅵ(むすび)は争う。
 2取消事由
審決は、分割出願の成否についての判断を誤り(取消事由1)、甲第5号証に基
づく進歩性についての判断を誤り(取消事由2)、甲第6号証との発明の同一性に
ついての判断を誤り(取消事由3)、訂正についての判断を誤ったものであるから
(取消事由4)、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(分割出願の成否についての判断の誤り)
 審決は、「本件の基礎出願である原実願及び分割出願の基礎になった特許出願の
当初明細書又は図面には、上記本件特許発明の要旨に相当する技術の開示がなされ
ているので、本件特許発明は、本件の基礎出願である原実願の当初明細書又は図面
に記載された範囲内のものであると共に、分割出願の基礎になった特許出願の当初
明細書又は図面に記載された範囲内のものでもあるので、本件出願は正規な分割出
願であるものと認められる。」(審決書8頁15行ないし9頁4行)と判断する
が、誤りである。本件特許は、原実願の当初明細書に記載された発明の範囲から実
質的に拡張された発明を要旨とするものである。
   ア 原実願の当初明細書の記載
    (ア) 原実願の当初明細書(甲第3号証)の記載は、次のとおりである。
実用新案登録請求の範囲
 「映像信号を螺線状トラックに記録するビデオディスクレコードに於て、映像信
号の垂直帰線区間に、プログラムの再生時間に関連する情報と、プログラムの再生
経過時間に関連する情報とを符号化して重畳記録したことを特徴とするビデオディ
スクレコード。」
 考案の詳細な説明
 「本考案は、残り時間を正確に表示し得るビデオディスクレコードに関する。
 ビデオディスクプレーヤは、再生時ビデオディスクレコードの垂直ブランキング
区間の第17H及び第18Hに重畳記録したフレームナンバーを検出することによ
り再生位置をテレビ画面上に表示すべく構成しており、再生位置の確認をすること
は可能である。しかし再生中にプログラムの残り時間を確認するためには、再生さ
れるフレームナンバーやピックアップの再生位置とビデオディスクレコードの外径
を検出して大体の残り時間を類推することは可能であるものの、正確な残り時間を
確認する方法がなかった。特に、同一レコード面に複数のプログラムが記録されて
いる場合にはレコードの外径やフレームナンバー及びピックアップの再生位置は残
り時間を表示するために何の手懸かりにもならない。
 そこで本考案は、ビデオディスクレコードの垂直帰線区間に、プログラムのフレ
ーム数と、プログラム毎のフレームナンバーを重畳記録することにより、プログラ
ム毎に残り時間を表示可能にした新規なビデオディスクレコードを提案せんとする
ものである。
 以下本考案を図示せる一実施例に従い説明する。まず、本実施例は、光学式のビ
デオディスクプレーヤを用いて映像信号を再生する周知のビデオディスクレコード
に本考案を採用するものであり、斯るビデオディスクレコードはFM映像信号を螺
線状の記録トラックとして形成するものであり、その映像信号の垂直帰線区間の第
17H目と第18H目には、周知の通り上位4ビットの識別符号を含む計24ビッ
トのトータルフレームナンバーがバイフェーズコードとして符号化されて重畳記録
されており、ビデオディスクプレーヤも再生時にバイフェーズ信号を抽出して復合
化することによりフレームナンバーを検出する回路を配している。
 そこで、本実施例は、斯るビデオディスクレコードの垂直帰線区間中第14H目
と第15H目に何ら信号が重畳されていないこと及び、ビデオディスクプレーヤが
バイフェーズコードに符合化されたフレームナンバーを検出可能にしていることに
鑑み、プログラムのフレーム数(S1)とプログラム毎のフレームナンバー(S
2)を、前述したフレームナンバーと同様のバイフェーズコードに符号化してそれ
ぞれ第14H目と第15H目に重畳記録するものである。」(1頁12行ないし3
頁17行)、
 「従って再生画像を映出するテレビ画面にはプログラムの経過時間や残り時間が
選択的に表示される」(5頁11行ないし13行)
    (イ) これらの記載によれば、原実願の当初明細書には、専らビデオディ
スクレコード上へのプログラムの再生時間等の情報を記録することのみが開示され
ていたものであり、それ以外の開示は皆無であった。また、ビデオディスクに関し
て開示されていた技術が、他の技術、記録媒体に対しても適用可能であるのか否
か、その適用方法等についても、開示や示唆はされていなかった。
   イ 本件特許の出願当初の明細書及び図面の記載
    (ア) これに対し、本件特許の当初明細書及び図面(甲第2号証)の記載
は、次のとおりである。
特許請求の範囲
 「(1) 複数のプログラムより成る主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定
周期で多重記録して成る記録媒体に於て、
 プログラム毎に設定されるプログラム再生経過時間情報を前記所定周期で多重記
録することを特徴とする記録媒体。
(2) 前記記録媒体はスパイラル状記録トラックを形成するディスクレコードである
ことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の記録媒体。」
 発明の詳細な説明
 「本発明は、プログラム毎の再生経過時間を正確に表示し得る記録媒体に関す
る。」の一文が加えられ、原実願の当初明細書の「本考案は、残り時間を正確に表
示し得るビデオディスクレコードに関する。」(甲第3号証1頁12行、13行)
が削除された。
    (イ) 上記変更されたうちの主要な点を整理して列挙すれば、以下のとお
りである。
     a 原実願においては、「映像信号を螺線状トラックに記録するビデオ
ディスクレコード」であったものが、本件特許においては、「記録媒体」に変更さ
れた。
     b 原実願においては、プログラムの再生時間等に関する情報を「映像
信号の垂直帰線区間」に記録するものであったものが、本件特許においては、同情
報を「所定周期」で記録することに変更された。
     c 原実願においては、記録方式が「重畳記録」であったものが、本件
特許においては、「多重記録」に変更された。
   ウ 実質的拡張
    (ア) このように、「ビデオディスクレコード」から「記録媒体」に変更さ
れたことにより、ビデオディスクだけでなく、CD-ROM、ミニディスク(M
D)、ディーブィーディー(DVD)等の異なる記録媒体が包含されることとなっ
た。
    (イ) また、「垂直帰線区間」から「所定周期」に変更されたが、「垂直帰
線区間」とは、我が国において採用されているテレビの信号方式(NTSC方式)
において、画面上に各画面を連続して表示させる際の、ある画面と次の画面との間
の表示の境目の区間(時間)を意味する上記テレビ信号に特有の区間を指すもので
あり、テレビ画面上に映像を表示させるビデオディスクにおいても、この信号方式
が採用されているため、原実願においては、もともと何らの情報も記録されていな
い「垂直帰線区間」を利用して時間情報を記録することが請求の範囲とされてい
た。ところが、信号が単に「所定周期」で記録されることに変更されたため、上記
テレビ信号方式以外の様々の信号方式に従った記録をも包含することとなった。
    (ウ) さらに、「重畳記録」から「多重記録」に変更されたが、「重畳記
録」とは、1つの信号の電圧に他の信号の電圧を同時に重ね合わせ、この2つの電
圧の和として2つの信号を同一タイミングにて記録する方式をいうが、これが、
「多重記録」に変更されたことにより、上記同一場所への電圧重畳とは全く異なる
記録方式を含む文言に変更された。
 すなわち、原実願の当初明細書において開示されていた考案の内容は、映像信号
を所定のテレビ信号方式(フォーマット)で記録したビデオディスクレコードのみ
を念頭に置いたものであって、これをテープその他の「記録媒体」に拡張適用した
り、他の信号形式の信号を記録する記録媒体に拡張適用すること、更には「重畳」
以外の記録方式を含むように拡張適用することは、技術思想として包含していなか
ったことが明らかである。
    (エ) したがって、本件特許発明は、原実願の当初明細書中に開示されてい
た内容によって支持されないものである。
 よって、本件特許の出願日は、分割出願の出願日である昭和62年4月16日と
なる。
   エ 被告の主張に対する反論
    (ア) 被告は、乙第1ないし第9号証に基づき「ビデオディスク」から「記
録媒体」等への補正は実質的拡張ではない旨主張するが、乙第1ないし第9号証に
は、テレビジョン信号以外の信号をビデオフォーマット以外の記録方式で記録する
ことについては何ら開示しておらず、テレビジョン信号以外のフォーマットを用い
て主情報に加えてトータル再生経過時間情報が記録されることが当業者にとって自
明であったことを何ら示すものではないし、複数の信号の多重化についても何ら開
示していないものである。
    (イ) 被告は、「垂直帰線区間」から「所定周期」への変更につき、主情報
に対しトータル再生経過時間情報を所定周期で多重記録することがビデオディスク
における定着した方法である旨主張し、このことからすると、記録媒体のいかんを
問わずこれらを所定周期で多重記録することは自明である旨主張する。
 しかし、そもそも原実願の当初明細書が開示しているビデオディスクに対するト
ータル再生経過時間情報の記録は、主情報が失われることがなく、かつトータル再
生経過時間情報が再生時に復元できるようにするために、主情報が記録されていな
い隙間部分である垂直帰線区間の所定位置にトータル再生経過時間情報を記録する
ことであり、単に所定周期で記録されているというものではない。そして、テレビ
ジョン信号以外の信号をビデオフォーマット以外の記録方式で記録することにつ
き、主情報が失われることがなく、かつトータル再生経過時間情報が再生時に復元
できる方法は、当時開発段階にあったものであり、当業者にとって自明なものとい
える状態ではなかった。したがって、そのような方法が原実願の当初明細書には何
ら開示されていなかったものである。よって、被告の上記主張は失当である。
    (ウ) 被告は、原実願の当初明細書(甲第3号証)の4頁13行において
「各信号多重域」との用語が使用されていることを根拠として、「重畳記録」から
「多重記録」への変更が実質的拡張に当らない旨主張するが、上記「各信号多重
域」との記載は、本来「重畳域」とすべきところを誤って「多重域」と記載したも
のにすぎない。
 また、原実願の当初明細書に開示されたものは、トータル再生経過時間情報及び
プログラム毎に設定される再生経過時間情報を再生時に主情報から分離して復元可
能な態様で主信号Aと共に記録するために、主信号Aの電圧波形の変化が既知であ
る部分(垂直帰線区間内の所定部分)に時間情報Bを重畳して記録したというもの
であって、それ以外の重畳については何ら開示していないところ、上記の記録方式
は、電気通信において、本来の多重化である伝送路を専有する時間をずらした上で
入力信号を切り換える方式(時分割多重方式)とは明らかに異なるものである。
  (2) 取消事由2(甲第5号証に基づく進歩性についての判断の誤り)
 審決は、「本件特許発明が甲第5号証に記載の事項に基づいて当業者が容易にな
し得たものとは認められない。」(審決書11頁19行ないし12頁1行)と判断
するが、誤りである。
   ア 甲第5号証第4図(C)においては、トータル再生経過時間に相当する
時間情報とプログラム毎の再生経過時間情報に相当する時間情報が表示信号7によ
り共に表示されており、また、同第3図においては、プログラム毎の再生経過時間
に準ずる情報が表示信号7により表示されている。そうすると、これらの表示に対
応する表示信号がテープ中に記録されていることも、また明らかである。
    (ア) すなわち、甲第5号証の発明の詳細な説明の項には、
「本考案は記録済ビデオテープに係り、テープ上に映像信号と共にテープの進行或
いは記録内容等に関連した信号を記録することにより、再生時に再生画面上磁気テ
ープの進行状況、記録内容或いはテープ残量等を示す表示を画像再生と併せて行な
いうる様に記録した記録済ビデオテープを提供することを目的とする。」(1欄2
2行ないし28行)、「ビデオトラック5の端部には垂直同期信号6が記録され、
ビデオトラック5上垂直同期信号6の記録位置より数H(水平走査期間)ずれた位
置に映像信号と重畳して表示信号7が記録されている。」(2欄33行ないし36
行)、「第4図Cは記録時間の経過をデジタル表示ではなく回転角度としてアナロ
グ的に表示する実施例を示す。画面25上の円板像30は磁気テープ1の記録内容
により例えば3色(30a、30b、30c)に色分けされている。円板像30の
中心を中心として回転する指針31はテープ進行に伴って連続的に回転し、記録内
容との再生時間関係を表示する。従って、指針31による時間表示と内容表示とを
同時に行ないうる。」(4欄38行ないし5欄2行)と記載されている。
 これらの記載によれば、甲第5号証においては、ビデオテープの信号を記録する
トラック上の垂直同期信号6の記録位置より数Hずれた位置に表示信号7を記録
し、この表示信号7により、第4図(C)に図示されているような表示をテレビ画
面上に行うというものである。
 ところで、この第4図(C)においては、ビデオテープ全体の記録時間は、円板
全体の中心角、すなわち360゜として、記録内容毎の記録時間は、各記録内容の
領域(部分円)の中心角として、トータル再生経過時間は指針31が始点となす角
度によって、記録内容毎の再生経過時間は、指針31が当該記録内容の始点となす
角度によって、各残余時間は、トータル再生経過時間に対応するものとしては、3
60゜から指針31が始点となす角度を減じた角度として、記録内容毎の再生経過
時間に対応するものとしては、各記載内容の領域毎の中心角から各記載内容の経過
時間に相当する角度を減じた角度として、それぞれ表示されている。
    (イ) また、甲第5号証第3図は、表示信号7の第4図(C)とは異なる態
様でのテレビ画面上への表示の仕方を開示しているが、この点について同号証は、
「本実施例の表示は上記書籍等におけると同様な表示番号を再生画面上の表示記号
としたものであり、第3図に示す表示像26の表示番号「5-7」は第5編第7章
であることを意味する。表示像26と包装ケース、ジャケット等に記載された目次
とを参照することにより、磁気テープ1を記録番組内容の途中から再生した場合で
も、再生画面の内容を容易に理解でき、所望再生個所よりの再生を迅速に行なうこ
とができる。なお表示後26は再生画面の隅部に現れる為番組内容の再生画像の妨
げとなることはない。」と説明されている(4欄8行ないし18行)。
 この記載によれば、甲第5号証第3図は、再生されている画面が書籍中の第5編
第7章を表示していることを示す例として開示されているが、更に細分化されたプ
ログラム毎の位置(経過時間を含む)を表示することも同様の技術で行うことがで
き(補助映像として時分秒の数字を表示信号7上に記録しておけばよい。)、当業
者にとって極めて容易なことである。したがって、甲第5号証第3図においては、
テレビジョン信号をビデオフォーマットで記録したビデオテープ上にプログラム毎
の再生経過時間情報を所定周期により重畳記録することが開示されていると評価す
ることが十分に可能である。
    (ウ) 以上のとおり、甲第5号証第4図(C)においては、テレビジョン信
号をビデオディスクの場合と同一のビデオフォーマットで記録するとともに、表示
信号7をビデオテープの各トラック上の同一位置に重畳記録しているほか、この重
畳記録された表示信号7の内容は、上記のとおりビデオテープ全体の記録時間、記
録内容の数のみならず、トータル再生経過時間、記録内容毎の再生経過時間情報を
含むものである。
 そして、表示信号7として記録されている上記各情報をテレビ画面上で数字とし
て表示したいのであれば、甲第5号証第3図や第4図(A)(B)の場合と同様
に、上記の円板像に代えて、これらの情報を数字で表示した表示像の映像をビデオ
テープ上の各トラックに表示信号として記録しておけばよいだけのことであって、
当業者であれば極めて容易になし得ることである。
 また、上記の記録内容や時間情報を全て数値として表示するのではなく、その中
からトータル再生経過時間と記録内容における再生経過時間のみを表示すること
も、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項である。
   イ 被告は、本件特許発明は、トータル再生経過時間情報とプログラム毎の
再生経過時間情報を別々に記録することを要件とする旨主張する。
 しかし、本件特許発明の特許請求の範囲は、両者をそれぞれ別々に記録するの
か、同時に記録するのかについては何ら規定していない。しかも、本件特許発明の
実施例においては、両者が別々に記録されている例が開示されているものの、この
ように別々に記録することが技術的に必須であるか否かについては明細書上何ら記
載も示唆もない。したがって、本件特許発明は、トータル再生経過時間情報とプロ
グラム毎の再生経過時間情報を記録媒体上に別々に記録することも、同時に記録す
ることも、共に包含しているものというべきである。
   ウ 仮に本件特許発明がトータル再生経過時間情報とプログラム毎の再生経
過時間情報を別々に記録することを要件とするとしても、本件特許発明は甲第5号
証に基づき容易に推考することができたものである。
    (ア) すなわち、甲第5号証においては、時間情報が、第3図においては
「5-7」として、第4図(A)、(B)においては、それぞれ「15|60」等
として、第4図(C)においては円板上に回転する矢印の位置、角度、部分円の中
心角等として、それぞれ表示されていた。上記の各実施例においては、時間情報が
ビデオテープ上に1つの補助映像として所定周期で記録されているが、これらを分
離して別々の独立した補助映像としてビデオテープ上に記録することも、技術的に
は極めて容易である。
 そして、甲第5号証には、補助映像を主映像と共に記録する場合ばかりではな
く、単独で補助映像のみを主映像が記録されていない垂直帰線区間内に記録しても
よいことが開示されている(5欄15ないし29行)。この場合には、表示ボタン
の押下げ等により画面全体を下に押下げて表示すれば、垂直帰線区間内に記録した
補助映像を画面上に表示することが可能であり、補助映像を主映像と分離した形で
画面上に表示することが可能である。
 したがって、甲第5号証において、第3図、第4図(A)ないし(C)の各表示
につき、これらを複数の表示に分離して、これに応じた時間情報をビデオテープ上
に別々に記録した上で画面上に表示することは、技術的には極めて容易であり、甲
第5号証の開示に基づく自明の範囲に含まれていることは明らかである。
    (イ) さらに、原実願の出願時においては、記録媒体上で2種類の時間情報
を所定の周期で別々に記録することは、周知技術であったものであり、本件特許発
明と同一の2種類の時間情報を所定周期で記録するという技術も周知技術として存
在していたものである。
     a すなわち、トータル再生経過時間情報を主映像と共に記録すること
は、ビデオテープを用いたテレビ映像や音声の記録において、1960年代から広
く行われてきていた(甲第21号証126頁左欄1行ないし129頁右欄2行)。
各社のタイムコードを統一して規格として制定されたものとして1970年(昭和
45年)に業界団体から提案されたSMPTEタイムコードが存在する(甲第21
号証126頁左欄1行ないし右欄13行、129頁右欄3行ないし132頁右欄末
行)。このSMPTEタイムコードの構成も、大別して、ビデオテープ上の絶対位
置(番地)の特定をビデオテープの開始位置を00時00分00秒として以後連続
する時間情報として記録していくタイムコードの領域と、ビデオテープのユーザー
の任意の利用(情報記録)に任されているユーザーズビットと呼ばれる領域に二分
されている。
     b そして、このうちビデオテープ上の絶対位置を時間情報で記録する
タイムコードの部分は、テレビ画像の単位である1フレームの単位でビデオテープ
上に連続して記録されており(甲第23号証第1図参照)、ビデオテープ上の絶対
位置がビデオテープ再生開始端からの時、分、秒、フレーム番号等の時間情報とし
て記録されているから、本件特許発明におけるトータル再生経過時間情報にほかな
らない。
     c 次に、ユーザーズビットについては、1フレームの単位で順次記録
されていくものであるから、タイムコードと同一の所定周期で記録されているもの
である。
 そして、ユーザーズビットをどのように利用するかについて、甲第21号証に
は、SMPTEコードと同一の構成であるEECo社が提唱したタイムコードに関
して、「コントロール・ビット(注・ユーザーズビットのことである。)」に対す
る情報の記録方法としての使い方として「ASCIIコードで25文字、BCDコードで5
0数値扱えるので例えばテープ・リール番号の記録や、収録日、収録経過時間(タ
イマ)、シーンやカット番号、その他いろいろな使い方を考え出すことができるだ
ろう。」(129頁左欄8行ないし右欄2行)と説明されている。上記引用部分に
おいて言及されている「収録経過時間(タイマ)」は、プログラム毎の収録経過時
間であるから、本件特許発明にいうプログラム毎の再生経過時間にほかならない。
 そして、甲第27号証(昭和48年11月発行の「放送技術26巻11号」中の
「全自動カセットVTR ACR-25」)には、放送局でVTRを用いて映像情
報を順次再生して送出するに際し、再生送出する個々の映像のビデオテープ上での
正確な位置を特定するために、あらかじめユーザーズビットに相当するスペアビッ
トに上記時間情報を記録しておき、これにより、再生する際の正確な位置合わせを
行うことを可能とすることが説明されている(106頁左欄22行ないし29行及
び106頁右欄3行ないし5行)。
 甲第28号証(昭和51年9月発行の「放送技術29巻9号」中の79頁ないし
83頁の「ACR-25とTOSBAC40によるテレビCM自動送出システ
ム」)には、ビデオテープ上に個々のプログラムを録画(収録)する際に、特定の
プログラムの録画部分のSOM(STARTOFMESSAGE)とEOM(ENDOFMESSAGE)との間
に15、14、13、12・・・3、2、1という時間情報を記録しておくことが
図示されており、ビデオテープ上にトータル再生経過時間情報とプログラム毎の再
生経過時間情報を同一の所定周期で別々に記録することが開示されている。
    (ウ) 以上のとおり、甲第21号証等により認められる原実願の出願当時の
技術水準を前提とすれば、本件特許発明がトータル再生経過時間情報とプログラム
毎の再生経過時間情報を別々に記録することを要件とするとしても、甲第5号証第
4図(C)等の開示内容から本件特許発明に想到することは容易であったものであ
る。
    (エ) なお、甲第5号証に基づく本発明の容易推考性を検討するに当たっ
て、原実願の出願当時における技術水準ないし技術常識に基づいてこれを検討すべ
きことは当然であり、その立証のために甲第21ないし28号証を本件訴訟段階に
おいて提出し得ることは当然である。
   エ さらに、甲第5号証第4図(C)においては、トータル再生経過時間情
報とプログラム毎の再生経過時間情報が画面上に表示されているものの、ビデオテ
ープ上に記録されているのはトータル再生経過時間情報のみであり、プログラム毎
の再生経過時間情報は目視の効果として認識できるのみで、ビデオテープ上には記
録されていないとの審決の立場を前提とした場合にも、本件特許発明は甲第5号証
に基づき容易に想到することができたものである。
 すなわち、審決も、甲第5号証第4図(C)にトータル再生経過時間情報とプロ
グラム毎の再生経過時間情報が表示されていることは認めている。
 そして、当業者としては、前記ウ(イ)に述べたSMPTEタイムコード及びその
利用例をも併せ考慮する限り、甲第5号証第4図(C)で表示されている二種類の
時間情報をビデオテープ上に異なる情報として別々に記録することに想到すること
は容易というべきである。
   (3) 取消事由3(甲第6号証との発明の同一性についての判断の誤り)
 審決は、本件特許発明と甲第6号証に記載された発明とは同一の発明とは認めら
れない旨(審決書13頁6行、7行)判断するが、誤りである。
    ア 甲第6号証の発明の詳細な説明には、「本発明は、音楽、映像、英会
話等の信号データを時分割多重、周波数多重、機械的チャンネル分割等の方式によ
り多チャンネルで記録したレコードにおいて、レコード全体に再生位置を示すアド
レスを記録することにより、目的の信号データをより速く、かつ確実に選択するこ
とを目的としたレコードのアドレス記録および再生方式に関するものである。」
(2頁左上欄15行ないし右上欄2行)、「本発明は、このような自動選曲その他
の信号データの選択制御を可能とするためになされたもので、レコードの記録チャ
ンネルに、記録すべき情報と曲毎等の残余時間に比例した信号とを多重化して、順
次アドレス情報として付加してなるアドレス記録および再生方式であって、したが
って、再生位置(針の位置)では、常に曲の残余時間を把握できるようにしたもの
である。」(2頁右下欄6行ないし13行)と記載され、実施例中において、記録
される信号の内容の例として、「3番目の1ビットは、曲中エリア(10)か曲間エリ
ア(11)かをあらわすもので、例えば、曲中は“1”、曲間は“0”であらわし、さ
らに残りの10ビットは全曲数のうち何曲目であるかの曲番(第2図のフレーム
(n+1)では第5番目の曲、フレーム(n+5)では第10番目の曲)をあらわ
す。また後半のフレーム(n+3)(n+7)…の残りの11ビットは、信号デー
タの残余時間に比例したアドレスをあらわす。」(3頁右下欄8行ないし16行)
と記載され、さらに、「本発明は、上述のような記録および再生方式としたので、
レコードのあらゆる再生位置で現在地がわかり、したがって早送り、早戻しが速く
確実にできること、演奏途中での次曲のジャンプが容易であること、演奏中の曲番
号が表示できること、演奏中の曲の残余時間が表示できること、自動演奏プログラ
ムをキーボードに入れた時点でプログラムの所要時間が表示できることなど極めて
すぐれた効果を奏することができる。ディスク状のレコードでは、早送り、早戻し
の際アドレスをランダムに飛び越して検索する必要があるが、特にこのような場合
に効果的である。」(7頁左下欄4行ないし15行)と記載されている。
 これらの記載によれば、甲第6号証においては、実施例として、1枚のレコード
中に複数の曲が記録されている場合に、曲毎に曲番号を付したうえで、曲毎の残余
時間に比例した信号を記録することが開示されている。
 このことを前提として、甲第6号証の特許請求の範囲においては、
「(1)再生すべき信号データを記録する記録チャンネル以外の記録チャンネルに、
最終位置を基準として、信号データの残余時間に略比例した数値を示すアドレス情
報を順次記録するようにしたレコードのアドレス記録および再生方式。
 (2)複数の再生すべき信号データを、複数の記録チャンネルに記録してなるレコ
ードにおいて、前記記録チャンネル以外の記録チャンネルに、チャンネル番号およ
び各チャンネル毎につぎの信号データの先頭位置を基準として、前記信号データの
残余時間に略比例した数値を示すアドレス情報を順次記録するようにしたレコード
のアドレス記録および再生方式。」が特許請求されている。
   イ ところで、上記特許請求の範囲(1)項は、レコード中に記録されている音
楽の曲数が1曲である場合等を念頭において特許請求されているものであるが、本
件特許発明と甲第6号証特許請求の範囲(1)項とは、トータル再生経過時間を特許請
求しているか、残余時間を特許請求しているかの点で相違しているが、これらの相
違は、設計事項の範囲内のものであり、本件特許発明と甲第6号証特許請求の範
囲(1)項とは相互に同等のものである。
   ウ また、レコード上にトータル再生経過時間を記録することは、原実願の
出願時においても周知技術であった。
   エ そうすると、甲第6号証に開示されている発明の通常の実施形態として
は、トータル再生経過時間情報が記録されているレコード中に、更に実施例中に開
示されている個別のプログラム毎の残余時間ないしはこれと同等の関係にあるプロ
グラム毎の再生経過時間情報を記録することも、当然に含まれていてしかるべきも
のである。
 したがって、甲第6号証中には、実質的に本件特許発明と同一の発明が開示され
ているというべきである。
  (4)取消事由4(訂正についての判断の誤り)
 審決は、「「記録することも可能であり、また、経過フレーム数に代えて残りフ
レーム数を記録しても良いことは言うを挨たない。」を「記録することも可能であ
る。」にする訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当するものであるので、当該訂正
は認められる。」(審決書4頁7行ないし12行)と判断するが、誤りである。
   ア 原実願の当初明細書(甲第3号証)においては、「本考案は、残り時間
を正確に表示し得るビデオディスクレコードに関する」(1頁12行、13行)と
記載していたものであり、残り時間を表示することを出願にかかる考案の内容とし
て積極的に強調していた。そして、同明細書中では、このことを前提として、「上
述せる本実施例は、垂直帰線区間にプログラムのフレーム数とプログラムの経過フ
レーム数を重畳したが、本考案は、フレームに代え秒情報を記録することも可能で
あり、また経過フレーム数に代えて残りフレーム数を記録しても良いことは言うを
挨たない。」(5頁14行ないし19行)と説明していた。
   イ したがって、この部分の説明が明瞭でない記載であるとの前提でその釈
明を認めることは、いかなる点からみても根拠のないものである。
第4 審決の取消事由に対する認否及び反論
1認否
 原告主張の審決の取消事由は争う。
 2反論
 (1) 取消事由1(分割出願の成否についての判断の誤り)について
  ア 本件特許発明の技術思想の本質は、プログラム毎の再生経過時間を表示
することを技術的課題とし、プログラム毎の再生経過時間を所定周期で多重記録す
るという構成の採用により、かかる技術的課題を解決したことにある。そして原実
願の当初明細書では、その出願当時公知のビデオディスクにおいて具体的に実現さ
れた例が開示されている。
ところで、原実願の出願当時、ビデオディスクと同様の技術的基盤に立つ記録媒
体としてテープ、DAD等が存在したが、これらの記録媒体においては記録媒体の
種類、形式のいかんを問わず、複数のプログラムよりなる主情報に対しトータル再
生経過時間情報を所定周期で多重記録することが周知かつ普遍的となっていた。
    (ア) ビデオディスクに関しては、乙第1号証(1978年にマグナボック
ス・コンシューマー・エレクトロニクス・カンパニーにより頒布されたビデオディ
スクプレーヤー(Model VH 8000)のサービスマニュアル)、乙第2号
証(1979年12月に頒布されたフィリップス社およびMCA社の2社の提案に
よるオプティカル・ビデオ・ディスクシステム・60Hz/525 lines-
M/NTSCについての規格書)は、ビデオディスクへ主情報を記録すること、主
情報が複数プログラムを含むこと、及びトータル再生経過時間情報を多重記録する
ことを教示していた。
   (イ)テープに関しては、乙第3号証(昭和54年8月9日に発行された電
波新聞電子テクノロジー第二部エレクトロニクス特集第97号)、乙第4号証(昭
和55年2月16日公開の特開昭55-22286号公報)、乙第5号証(昭和5
5年3月29日公開の特開昭55-45176号公報)は、テープへ主情報を記録
すること、主情報が複数プログラムを含むこと、及びトータル再生経過時間情報を
多重記録することを教示していた。
   (ウ) DADに関しては、乙第5号証、乙第6号証(昭和55年5月発行
「放送技術」33巻5号67頁ないし73頁)、乙第7号証(昭和54年に頒布さ
れた昭和54年電気四学会連合大会の記録)、乙第8号証(昭和52年9月頒布の
ティアック株式会社の試作品紹介パンフレット)、乙第9号証(昭和54年11月
20日株式会社オーム社発行の「ディジタルオーディオ技術入門」)は、DADへ
主情報を記録すること、主情報が複数プログラムを含むこと、及びトータル再生経
過時間情報を多重記録することを教示していた。
    (エ) 原告は、乙第1ないし第9号証にはテレビジョン信号以外の信号をビ
デオフォーマット以外の記録方式で記録することについては何らの開示もされてい
ない旨主張するが、乙第3、第4、第6、第7、第8及び第9号証にはテレビ信号
形式を用いながら音声信号を記録する方式が教示されているから、原告の上記主張
は誤りである。
   イ 原告は、原実願における「ビデオディスク」、「映像信号の垂直帰線区
間」を本件特許における「記録媒体」、「所定周期」に変更することは原実願の当
初明細書の範囲を超える実質的拡張である旨主張する。
    (ア) しかしながら、上記のように、ビデオディスク、テープ、DAD等の
記録媒体は同様の技術基盤に立つ記録媒体であり、①動的記録の技術分野(媒体と
変換器との間の相対的運動に基づいた情報記録の技術分野)であること、②時間に
伴って主情報の変化を記録するものであること等において共通の性質を有し、さら
に、③複数のプログラムよりなる主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周
期で多重記録することが周知かつ普遍的となっているという点でも共通していた。
一般的に、このような共通性を有する記録媒体の1つについて、何らかの技術的
課題が提起されれば、その技術的課題は他の種類の記録媒体における課題でもある
ことが容易に想起され、また、その技術的課題に対する解決手段が与えられれば、
その解決手段は他の種類の記録媒体においても実施可能であることは容易に想起さ
れることである。
   (イ) 具体的にみても、ビデオディスク、テープ、DAD等の記録媒体のい
かんを問わずアドレス情報であるトータル再生経過時間情報が主情報に対し多重記
録されていることは周知かつ普遍的となっており、また、多重記録の性質上、別の
信号をさらに多重記録することは技術上当然なし得ることであるから、ビデオディ
スクについて、プログラム毎の再生経過時間を表示するという技術的課題とその解
決手段としてプログラム毎の再生経過時間を所定周期で多重記録するという構成を
開示することにより、ビデオディスク以外の他の記録媒体において、プログラム毎
の再生経過時間を表示するという技術的課題の解決のためにプログラム毎の再生経
過時間を所定周期で多重記録するという構成を採用することは、極めて容易に想起
されることである。
    (ウ) しかも、原実願の当初明細書には、ビデオディスクのみに限定する旨
の記述はどこにも存在せず、原実願を映像信号を記録したビデオディスクのみを念
頭に置いた発明に限定すべき理由は全く存しない。
さらに、本件特許発明において映像信号の垂直帰線区間に時間情報を記録するこ
とは、主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周期で多重記録するという定
着した方法のビデオディスクにおける方法を記述したものにすぎない。
    (エ) 原告は、「所定周期」への変更が実質的拡張となる他の理由として、
単なる「所定周期」では信号間で相互干渉が生じ元の信号を復元できない旨主張す
る。しかしながら、相互干渉なしに元の信号を復元することができる態様でトータ
ル再生経過時間情報及びプログラム毎の再生経過時間情報を重ねて記録できるの
は、「所定周期」ではなく「多重」のためである。
    (オ) したがって、①客体を原実願の「ビデオディスク」から「記録媒体」
に変更し、それに伴い、②時間情報を記録する箇所を「映像信号の垂直帰線区間」
から「所定周期」に変更した点は、原実願の当初明細書に自明の事項として示され
ていたものである。
   ウ 原告は、「重畳記録」から「多重記録」への補正が要旨変更である旨主
張する。
    (ア) 原告は、「重畳」を1つの信号の電圧に他の信号の電圧を同時に重ね
合わせて2つの電圧の和として2つの信号を同一タイミングにて記録する方式に限
定しているが、現実には、一般にある電気信号(信号A)に対して他の電気信号
(信号B)を重ねることを「重畳」と呼んでいる。例えば、乙第10号証(昭和5
5年5月13日に頒布された「電波新聞」)は、テレビの映像信号の垂直帰線区間
に文字情報を重畳して放送する技術に対して「文字多重」という用語が既に用いら
れていた事実を示している。甲第9号証(昭和52年10月20日第1刷発行の日
本放送出版協会発行のNHKカラーテレビ教科書[上])における「カラーテレビ
信号では、白黒の映像信号(輝度信号)に搬送色信号が重畳され、」(23頁下か
ら3行、2行)の記載も、NTSCカラーテレビジョン標準方式におけるカラーテ
レビジョン信号が白黒の映像信号(輝度信号)に対し搬送色信号が周波数多重され
ていることを記述するために「重畳」の用語を用いている。そして、信号Aと信号
Bの重畳に際して特定の重畳態様を採るとき「多重」が実現し、信号Aと信号Bは
区別が可能となるのである。
    (イ) 原実願の当初明細書(甲第3号証)においても、技術用語として「多
重」(4頁13行)を用いている。
    (ウ) 原実願の当初明細書に開示された技術は、その実施例から見て、時分
割多重であることは当業者に明らかである。
    (エ) したがって、「重畳記録」から「多重記録」への変更が実質的拡張で
ある旨の原告の上記主張は失当である。
  (2) 取消事由2(甲第5号証に基づく進歩性についての判断の誤り)について
 ア 甲第5号証中の考案の詳細な説明及び図面の記載から、直角領域単位の
色分けの「記録内容」をプログラムとして解釈することは困難である。
 なぜなら、プログラム記録領域が直角領域単位であることが不自然である。さら
に、トータル経過時間表示指針がプログラム領域30a,30bの境界上にある特
殊な状態の図解が特許実務の点で不自然である。
 イ 上記のプログラムとしての理解の困難性にもかかわらず、「記録内容」
をプログラムとして理解しようとしても、甲第5号証第4図(C)は、せいぜいト
ータル経過記録時間指針の移動範囲に関連して円板像をプログラム領域表示として
用いたことの副産物として、トータル経過時間用指針が同時に各プログラムについ
ての経過時間の目視を可能にする効果を理解することができるものであり、そのよ
うな効果が奏せられたことから、各プログラム毎の経過時間の表示の技術は完成さ
れたものであり、プログラム毎の経過時間表示に関する技術的課題が存在しない。
 したがって、トータル経過時間情報とは別に各プログラム毎の経過時間情報をビ
デオ信号に多重記録する構成を教示するものとして第4図(C)を理解することは
当業者にとって不可能なことである。
そのような状況において、トータル経過時間情報とは別に各プログラム毎の経過
時間情報をビデオ信号に多重記録する構成を理解し、又はかかる構成に想到するこ
とは、各プログラム毎の経過時間の目視について屋上屋を架す無駄なことであるか
ら、当業者にとって完全に思いとどまるよう強制され、全く発想の余地すらないこ
とである。
   ウ 本件特許発明においては、トータル経過時間情報とプログラム毎の経過
時間情報は別々に取り出すことができるものである。すなわち、本件特許発明の特
許請求の範囲は、主情報に対しトータル再生経過時間情報を多重記録するものにお
いて、プログラム毎の再生経過時間情報も多重記録することを明記しているとこ
ろ、これら両情報は、「多重」の固有の性質から、主情報から、そして相互にも別
々に取り出すことができるものとして記録されることになるものである。
 エ(ア) 原告の主張は、映像信号の中に分離不可能に補助映像信号を含ませた
技術である点において、甲第5号証第4図(C)の教示技術が本件特許発明と相違
する点を看過している点で根本的に誤っている。
    (イ) 原告は、本件特許発明が「別々に記録する」ことを前提として、甲第
5号証の第4図(C)におけるトータル再生経過時間情報とプログラム毎の記録時
間の補助映像を主映像とともに記録したときに再生映像において奏されるプログラ
ム毎の再生経過時間情報の目視効果から、トータル再生経過時間情報と、プログラ
ム毎の再生経過時間情報とに分けて補助映像を主映像とともに記録することは技術
的に可能である旨主張するが、偶々得られるにすぎない目視効果から上記のような
構成実現への変更は容易ではなく、原告の主張は、本件特許発明を知った後の後知
恵による主張といわなければならない。
    (ウ) 原告は、甲第5号証には、単独で補助映像のみを主映像が記録されて
いない垂直帰線区間内に記録してもよいことが開示されている旨主張するが、補助
映像もまた映像信号であることから、トータル再生経過時間情報はブラウン管に表
示されたときはじめて人間によって目視、判断が可能となるにすぎず、トータル再
生経過時間情報をデータとして抽出することができないことに変わりはない。
    (エ) 原告は、甲第21号証等に基づく主張をするが、そのような新しい証
拠方法に基づく特許性否定の主張は、別個の審決の取消事由を構成するものであ
り、新たな審判請求において行われるべきである。
    (オ) 仮に本訴において甲第21号証等に基づく主張が認められるとして
も、甲第21号証の教示から本件特許発明に想到するには、甲第21号証のユーザ
ー記録利用のための未記録媒体においてトータルタイムコードとは別にユーザービ
ット領域を必ず残しておくことが前提であることに反して、本件特許発明の複数プ
ログラムの記録済媒体へ転用してユーザービット領域をすべてプログラム毎の再生
経過時間情報の記録に変更することに想到しなければならないが、このような変更
を行うには、自己矛盾を含む想到困難性を克服しなければならず、当業者にとって
困難なことである。
 また、原告は「収録経過時間」について甲第21号証の1件の引用例のみを引用
するにとどまり、しかも、その内容が記録済媒体におけるプログラム毎の経過時間
と関係のないことである。また、甲第27号証については、主情報の記録部分につ
いての経過時間情報の記載が全くない。さらに、甲第28号証はランダムサーチを
目的としてブロック単位のカウントダウンの記録を述べるが、このブロック単位が
記録済媒体におけるプログラムと何の関係もなく、したがってブロック単位毎のカ
ウントダウンがそのようなプログラム毎の経過時間と何の関係もない。以上のとお
り、原告の引用する甲第21、第27及び第28号証は、その記載内容から見て
も、また文献の引用数から見ても、記録済媒体におけるプログラム毎の経過時間記
録の周知性を立証するものとは到底認められない。
    (カ) さらに、甲第5号証と甲第21号証等との組合せによっても、甲第5
号証における主映像に対しトータル再生経過時間情報とプログラム記録時間の表示
の補助映像によるプログラム再生経過時間情報の目視効果を基にトータル再生経過
時間情報及びプログラム毎の再生経過時間情報の双方の補助映像を主映像に含ませ
ることに変更する点において、まず目視効果から上記構成への変更の想到の困難性
がある。それにもかかわらず、甲第5号証と甲第21号証等との組合せから本件特
許発明に想到するためには、甲第5号証の主情報に補助映像を含ませることに代え
て、トータル経過時間情報とプログラム毎の再生経過時間情報の双方を甲第21号
証等のようなタイムコードで多重記録する構成を実現することへの変更の想到困難
性が含まれる。さらに、甲第5号証と甲第21号証等から本件特許発明への変更に
想到するには、甲第21号証等におけるユーザー記録用のための未記録媒体におい
てトータルタイムコードとは別にユーザーズビット領域を必ず残すことが前提であ
ることに反して、本件特許発明のような複数プログラムの記録済媒体へ転用して、
ユーザーズビット領域をすべて記録済媒体のプログラム毎の再生経過時間のデータ
で事前に記録することに変更するということへの想到困難性を克服しなければなら
ない。よって、甲第5号証と甲第21号証等との組合せによって本件特許発明に想
到することも困難である。
  (3) 取消事由3(甲第6号証との発明の同一性についての判断の誤り)につい

   ア 甲第6号証に記載された発明は、次のプログラムの開始位置のサーチを
行うことを主目的とし、付随的に次のプログラムの開始点までの残時間の表示を行
うもので、このような目的から、次のプログラムの開始点を基準とした当該プログ
ラムの残り時間を所定周期で多重記録することを構成とする。
  イ 本件特許発明と甲第6号証に記載された発明との間には、次に掲げる相
違が存在する。
  ①本件特許発明の当該プログラムの経過時間の記録では、直ちに当該プ
ログラムの経過時間が表示できるのに対し、甲第6号証に記載された発明の次のプ
ログラムの開始点までの残時間の記録では、それによって直接的に達成されるのは
次のプログラムの開始位置のサーチにすぎない。
  ②甲第6号証に記載された発明の次のプログラムの開始点までの残時間
は、当該プログラムの残時間表示として利用しようとすると、次に述べる問題点を
含む。すなわち、甲第6号証に記載された発明において記録されるのは次のプログ
ラムの開始点までの残時間であって、当該プログラムそのものの終点までの残時間
ではない。そのため、甲第6号証に記載された発明における次のプログラムの開始
までの残時間を当該プログラムの残時間として流用し表示することは、曲間の空白
(4秒程度であるが、厳格に統一はされていない。)の誤差を有する。さらに、甲
第6号証に記載された発明では、記録されるのは次のプログラムの開始点までの残
時間であるから、当該プログラムが複数プログラムの最終のときは次のプログラム
が存在せず、したがって次のプログラムの開始点までの残時間もまた存在しない。
このような理由で、甲第6号証に記載された発明を当該プログラムの残時間の表示
の目的で流用することは全く実用的といえず、当業者もまたそのような流用を試み
ようとはしないものである。
   ウ 以上によれば、甲第6号証に記載された発明と本件特許発明を同一であ
るとは到底いえない。
  (4) 取消事由4(訂正についての判断の誤り)について
 「記録することも可能であり、また、経過フレーム数に代えて残りフレーム数を
記録してもよいことは言うを挨たない。」を「記録することも可能である。」とす
る訂正は、実質的に「経過フレーム数に代えて残りフレーム数を記録してもよいこ
とは言うを挨たない。」の削除に相当するものであり、本件特許発明の出願の際に
行われた特許請求の範囲の補正に整合するために行われたものである。
 ところで、本件特許発明の出願の際に行われた特許請求の範囲の補正が要旨変更
を含むことなく許されることについては、前記(1)のとおりである。
 このように、特許請求の範囲の補正が認められる以上、特許請求の範囲の補正に
整合するような明細書の記載の訂正は明瞭でない記載の釈明に該当するものであ
る。
           理   由
1 取消事由1(分割出願の可否についての判断の誤り)について
 (1) 原実願の当初明細書の開示事項
 本件特許出願の基礎出願である原実願の当初明細書に、本件特許発明の要旨に相
当する技術の開示がなされているか否かについて検討する。
   ア 甲第3号証によれば、原実願の当初明細書には、その実用新案登録請求
の範囲に「映像信号を螺旋状トラックに記録するビデオディスクレコードに於て、
映像信号の垂直帰線区間に、プログラムの再生時間に関連する情報と、プログラム
の再生経過時間に関連する情報とを符号化して重畳記録したことを特徴とするビデ
オディスクレコード。」(1頁5行ないし10行)と記載され、その考案の詳細な
説明に、「本考案は、残り時間を正確に表示し得るビデオディスクレコードに関す
る。」(1頁12行、13行)、「ビデオディスクプレーヤは、再生時ビデオディ
スクレコードの垂直ブランキング区間の第17H及び第18Hに重畳記録したフレ
ームナンバーを検出することにより再生位置をテレビ画面上に表示すべく構成して
おり、再生位置の確認をすることは可能である。しかし再生中にプログラムの残り
時間を確認するためには、再生されるフレームナンバーやピックアップの再生位置
とビデオディスクレコードの外径を検出して大体の残り時間を類推することは可能
であるものの、正確な残り時間を確認する方法がなかった。特に、同一レコード面
に複数のプログラムが記録されている場合にはレコードの外径やフレームナンバー
及びピックアップの再生位置は残り時間を表示するために何の手懸かりにもならな
い。」(1頁14行ないし2頁8行)、「そこで本考案は、ビデオディスクレコー
ドの垂直帰線区間に、プログラムのフレーム数と、プログラム毎のフレームナンバ
ーを重畳記録することにより、プログラム毎に残り時間を表示可能にした新規なビ
デオディスクレコードを提供せんとするものである。」(2頁9行ないし14
行)、「以下本考案を図示せる一実施例に従い説明する。まず、本実施例は、光学
式のビデオディスクプレーヤを用いて映像信号を再生する周知のビデオディスクレ
コードに本考案を採用するものであり、斯るビデオディスクレコードはFM映像信
号を螺旋状の記録トラックとして形成するものであり、その映像信号の垂直帰線区
間の第17H目と第18H目には、周知の通り上位4ビットの識別符号を含む計2
4ビットのトータルフレームナンバーがバイフェーズコードとして符号化されて重
畳記録されており、ビデオディスクプレーヤも再生時にバイフェーズ信号を抽出し
て復合化することによりフレームナンバーを検出する回路を配している。」(2頁
15行ないし3頁7行)、「そこで、本実施例は、斯るビデオディスクレコードの
垂直帰線区間中第14H目と第15H目に何ら信号が重畳されていないこと及び、
ビデオディスクプレーヤがバイフェーズコードに符合化されたフレームナンバーを
検出可能にしていることに鑑み、プログラムのフレーム数(S1)とプログラム毎
のフレームナンバー(S2)を、前述したフレームナンバーと同様のバイフェーズ
コードに符号化してそれぞれ第14H目と第15H目に重畳記録するものであ
る。」(3頁8行ないし17行)、「第2図の回路ブロック図は、斯るバイフェー
ズコードを読取記憶した後残り時間を演算してテレビ画面の一部に表示せしめる回
路を顕わし、・・・本実施例は前記フレーム数記憶回路(4)と前記フレームナン
バー記憶回路(5)の各ビット出力を減算回路(7)に入力して残りのフレーム数
を演算しており、減算出力とフレームナンバーを選択入力するマルチプレクサ
(8)は制御出力(CN)によって入力信号を選択し、選択出力は次段の切換回路
(9)にてフレーム表示を秒表示に換算されてキャラクタジェネレータ(10)に
入力され、映像信号に同期するキャラクタジェネレータ出力は映像信号に重畳され
る。従って再生画像を映出するテレビ画面にはプログラムの経過時間や残り時間が
選択的に表示される。」(4頁8行ないし5頁13行)、「上述せる実施例は、垂
直帰線区間にプログラムのフレーム数とプログラムの経過フレーム数を重畳した
が、本考案は、フレームに代え秒情報を記録することも可能であり、また経過フレ
ーム数に代えて残りフレーム数を記録しても良いことは言うを挨たない。」(5頁
14行ないし19行)と記載されていることが認められる。
  イ 以上の記載によれば、原実願の当初明細書に記載された考案は、従来のビ
デオディスクプレーヤは再生時にビデオディスクレコードの垂直帰線区間の第17
H及び第18Hにバイフェーズコードとして符号化され重畳記録されたフレームナ
ンバーを検出することにより再生位置をテレビ画面上に表示すべく構成され、これ
により再生位置の確認をすることは可能であるものの、正確な残り時間を確認する
方法がなかったところ、ビデオディスクレコードの垂直帰線区間中第14H目と第
15H目には何らの信号が重畳されていないこと、ビデオディスクプレーヤがバイ
フェーズコードに符号化されたフレームナンバーを検出可能にしていることに鑑み
て、プログラムのフレーム数とプログラム毎のフレームナンバーを、フレームナン
バーと同様のバイフェーズコードに符号化してそれぞれ第14H目と第15H目に
重畳記録することにより、テレビジョン画面にプログラムの経過時間や残り時間等
を正確に表示し得るビデオディスクレコードにあるものと認められる。
 しかしながら、原実願の当初明細書には、トータル再生経過時間情報やプログラ
ムごとに設定されるプログラム再生経過時間情報を、①「ビデオディスクレコー
ド」以外の記録媒体に記録すること、②「映像信号の垂直帰線区間」以外の箇所に
記録すること、③映像信号の垂直帰線区間に「重畳」以外の手段で記録することに
ついては、何らの開示も示唆も認められない。
 (2) 本件特許発明
 本件特許発明の特許請求の範囲の記載が事実欄第2、2記載のとおりであること
は、当事者間に争いはない。
 (3) 実質的拡張の可否
 前記(1)、(2)によれば、
① トータル再生経過時間情報やプログラムごとに設定されるプログラム再生経過
時間情報を記録する対象を、原実願の当初明細書にあっては「ビデオディスクレコ
ード」であったものを、本件特許発明では「記録媒体」に変更し、
② プログラムの再生時間等に関する情報を、原実願の当初明細書にあっては「映
像信号の垂直帰線区間」に記録するものであったものを、本件特許発明においては
「所定の周期」で記録することに変更し、
③ 原実願の当初明細書にあっては「映像信号の垂直帰線区間」に「重畳」の手段
で記録するものであったものを、本件特許発明においては「多重」の手段で記録す
ることに変更したものである。
 そうすると、本件特許発明は、原実願の当初明細書に開示されていない事項をそ
の要旨とするものと認められる。
 (4) 被告の主張に対する判断
  ア 被告は、原実願の出願当時の技術状態を念頭において当業者が原実願の当
初明細書を読めば、プログラム毎の再生経過時間を表示するという目的解決のため
に「複数のプログラムから成る主情報に対しトータル再生経過時間情報を所定周期
で(多重)記録して成る記録媒体に於いて、プログラムごとに設定されるプログラ
ム再生経過時間情報を前記所定周期で多重(記録)することを特徴とする記録媒
体」が開示されていることは自明であるから、本件特許発明は、原実願の当初明細
書に記載した事項の範囲内である旨主張する。
 しかしながら、本件特許発明は、原実願の当初明細書に記載されていなかった垂
直帰線区間を有しない音声やデータ等の他の信号形式を記録する記録媒体、さら
に、トータル再生経過時間情報やプログラムごとに設定されるプログラム再生経過
時間情報である経過時間情報を垂直帰線区間以外の箇所に所定周期で多重記録する
ことを含むこととなったものであるところ、この点の技術事項が原実願の当初明細
書に接する当業者にとって自明のことであることを認めるに足りる証拠はない。被
告は、自明の根拠として乙第1ないし乙第9号証を指摘するが、これらの証拠は、
いずれもテレビ映像信号の記録形式により情報を記録する場合に関するものであっ
て、垂直帰線区間を有しない他の信号形式を記録する記録媒体において、どの箇所
に、どのようにして上記トータル再生経過時間情報やプログラム毎に設定されるプ
ログラム再生経過時間情報を周期的に多重記録するのかについては記載も示唆もさ
れていないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、本件特許発明に記載された内容が、当時の技術水準を念頭において
原実願の当初明細書に接したとしても当業者に自明の事項であるということはでき
ないから、原告の上記主張は理由がない。
 (5) まとめ
 以上によれば、本件特許の出願日は、原実願の出願日である昭和55年6月9日
まで出願日が遡及することはなく、その現実の出願日である昭和62年4月16日
になるものというべきである。
 そうすると、請求人(原告)が主張する甲第7号証、甲第8号証及び甲第5号証
に基づく想到容易性につき、審決が判断を行わなかったことは誤りである。そし
て、この誤りが審決の結論に影響を及ぼす可能性のあることは明らかである。
 したがって、原告主張の取消事由1は理由がある。
2結論
よって、原告の請求は、その余の取消事由について検討するまでもなく、理由が
あるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年12月14日)
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 塩  月  秀  平
    裁判官 市  川  正  巳

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