弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人の控訴趣意は別紙のとおりである。
 第一点
 本件記録に徴すれば原審が釧路地方裁判所網走支部昭和二十五年刑公第二号被告
人Aに対する偽証被告事件記録編綴の
 一、 昭和二十四年十月二十日附Aの検察官に対する供述調書(同月十九日附検
察事務官作成のAの供述調書引用)
 二、 同年同月二十一日附検察官件成のAの供述調書
 三、 同日附検察官作成のAの第一回供述調書
 を夫々証拠として採用し、且つ右二、の書証を原判決が証拠として引用したこと
は所論のとおりである弁護人は右書証はいずれも証拠とすることに異議があつたも
のであるから之を証拠として採用し且引用することは違法である旨を主張するので
先ず右(一)乃至(三)の書証の証拠能力につき検討して見ると本件記録によれば
原審証人Aは其の第二回公判期日において検察官の要証事項につき種々証言中検察
官の「其のときBより何か話しがありましたか」との問に対し同証人は「其の事に
ついては起訴されて居て有罪判決を受けるおそれがあるので拒否します」と述べ次
に裁判官の「どうゆう点が違つて居ましたか」との問に対し同証人は「其の点につ
いて私が起訴されて居るので答えられません」と述べたので検察官は其の後の公判
期日において其の他の証拠書類と共に右一乃至三の各供述調書の証拠調を請求した
ところ弁護人より右各供述調書について証拠と<要旨>することに異議があつたため
原審は右異議を却下し右各供述調書の証拠調をしたことが明白である刑事訴訟法 要旨>第三百二十一条第一項第二号前段によれば検察官の面前における供述を録取し
た書面についてはその供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは
国外にいたため公判準備若しくは公判期日において供述することができないときは
之を証拠とすることができる旨を規定しているのであつてかかる規定を設けた法の
精神は事実発見といふ刑事訴訟本来の目的を達するためには個人の有する証人に対
する反対尋問権も或る程度の制限を受くることも亦已むを得ないとしたためである
と解せられこの精神を推すと本件A証人の前記の如き経緯において其の供述の一部
が再現不可能となつたような場合は右の規定に準じて考へ右各供述調書の証拠能力
を認めるのが相当であると思料されるしかも右各供述調書の形式、内容と其の他原
審の取調べた他の証拠と対比しても君各供述調書はその任意性及び信用性の点にお
いていささかも欠くるところがないのみならず当審の事実取調べにおける証人Aの
供述及び取寄せに係るAの偽証被告事件記録を綜合して前記判断の正当性を裏づけ
得るところであるしからば原審が前記各供述調書を証拠として採用したことは何等
訴訟手続に違背するものではなく且つ右二の書証を原判決が証拠として引用するこ
とも亦支障のないことである従つて論旨は独自の見解に基ずき右各供述調書の証拠
能力を否定するものであつて理由がない
 第二点及び第四点
 原判決の証拠として引用した昭和二十四年十二月二十一日附検察官作成のAの供
述調書が証拠能力を具有する書証であり且つその信用性あることは前記第一点にお
いて説示したとおりであつて原判示事実は其の引用に係る証拠により之を認むるに
足り原判決は証拠に基ずかずして原判示事実を認めたものではなく又記録を精査す
るも原審が重要なる証拠を逸脱して事実認定をしたとは思はれない所論は独自の見
解に立ち原審の専権に属する証拠の取捨選択及び其の価値判断を攻撃するものであ
つて理由がない
 第三点
 原審の公判手続は公判調書によつてのみ証明し得るところであつて原審公判調書
を通覧するも原審第四回公判調書の記載を除き弁護人所論の如き事実の記載はなく
原審が起訴しない事実につき判決したとは見られないしかも前項において説示のと
おり原判示事実はその挙示の証拠によつて認定するに足りるのであつて所論は独自
の見解に基ずき原審の証拠の取捨及びその価値判断を攻撃するものであり採用に値
しない
 よつて被告人の本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条により之を
棄却すべきものとし刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り当審における訴訟費用は
被告人の負担とし主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 黒田俊一 判事 猪股薫 判事 鈴木進)

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