弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     第一審判決中被告人Aに関する有罪部分および原判決中同被告人に関す
る部分を破棄する。
     被告人Aを懲役一年二月に処する。
     押収にかかるナイフ一挺は、同被告人よりこれを没収する。
     被告人Aに対する本件公訴事実中、占領目的阻害行為処罰令違反の点に
つき、同被告人を免訴する。
     被告人Bの本件上告を棄却する。
     第一審における訴訟費用中、証人C、同D、同E、同B、同F(被告人
Aに対する占領目的阻害行為処罰令違反、傷害被告事件の第六回公判に出頭した分)、
同G(前同)、同H(前回)に支給した分は被告人Aの単独負担とし、証人I、同
J、同K、同G(被告人Aに対する業務妨害被告事件の公判廷外の証人として出頭
した分)、同L、同M、同N、同F(同被告人に対する占領目的阻害行為処罰令違
反被告事件の第二回公判に出頭した分)を除き、その余の各証人に支給した分は被
告人Aと第一審相被告人B、同O、同P、同Qの連帯負担とし、当審における訴訟
費用は被告人両名の各賞担とする。
         理    由
 被告人B、同A両名弁護人稲田秀吉の上告趣意第一点は、被告人等の電車運行阻
害行為は憲法二八条の保障する争議行為の一態様に過ぎないのであつて、争議行為
はそれ自体業務の正常な運営を阻害するものであるから、労働争議権が憲法で保障
されている以上、労働争議中になされた労働者の業務の正常な運営を阻害した本件
行為は、刑法の威力業務妨害罪とはならないと主張し、被告人Bの上告趣意は、本
件ピケツトラインは憲法の保障した動労者の権利を守る正当行為であるから、これ
を違法であるとした原判決は憲法に違反すると主張し、被告人Aの上告趣意三は、
本件ピケツトラインによる入坑拒止は団結権を守るための当然の行為であつて違法
ではない、仮りに違法であるとしてもピケツトに参加した全員を共犯とせず被告人
のみの行為を犯罪としたのは不当であつて法の平等に違反すると主張する。
 しかし、同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その
本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は
労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであつて、
これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業労の遂行行為
に対し暴行脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為はもちろん、不法に、使用者
側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすること
は許されないものといわなければならない(昭和二四年(オ)一〇五号同二七年一
〇月二二日大法廷判決、民集六巻九号八五七頁、昭和二三年(れ)一〇四九号同二
五年一一月一五日大法廷判決、刑集四巻一一号二二五七頁各参照)。されば労働争
議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するため執られた労働者側
の威力行使の手段が、諸般の事情からみて正当な範囲を逸脱したものと認められる
場合には刑法上の威力による業務妨害罪の成立を妨げるものではない。本件につい
て原審が確定した事実によれば、北海道苫前郡a町a炭鉱鉄道株式会社b鉱業所の
従業員約七八〇名をもつて組織する労働組合は、右会社に対し労働協約の改訂、割
増賞与金の要求、福利厚生施設の改善等を要求して昭和二五年五月頃から争議に入
り、数次交渉を重ねるうち、右組合員中争議から脱退するものが出てこれら脱退者
は従業員会を組織し、その数は漸次増加して約三三〇人に達したが、一方会社では
従来から会社の業務に従事していた組夫約五〇名を従業員に採用し、これらの者と
職員ならびに従業員会の者で採炭を続行していたので、罷業決行派はこれを制止し
ようとし互に反目して抗争を続けて来たものであるが、被告人B、同A等は、罷業
決行派の者と共に同会社の出炭業務を不能ならしめようとし、判示第一の一ないし
三記載の三日長時間にわたり、一〇〇余名の者と共に電車軌道上およびその附近に
座り込み又は立塞り或はスクラムを組み且つ労働歌を高唱する等の挙に出で、同会
社電車運転手R等の運転する電車の運行を阻止し威力を用いて同会社出炭業務を妨
害したというのである。
 以上諸般の事情を総合すれば、本件行為は正当なものとは認められず、不法に威
力を用いて会社の業務を妨害したものというのほかないのであるから、原判決が右
行為に刑法二三四条、二三三条を適用処断した第一審判決を肯認したのは正当であ
つて、原判決には所論のような違憲違法はない。なお、原判決が起訴されている被
告人A等を有罪とし、起訴されていないその余のピケツト参加者全員を共同正犯と
して処罰しなかつたのは当然であつて、違憲違法ということはできない。被告人A
の上告趣意二には被告人の傷害行為が正当防衛であつたとの主張もあるが、かかる
主張は事実誤認又は単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当
らない。
 被告人A弁護人稲田秀吉の上告趣意第二点および同被告人の上告趣意一について。
 第一審判決において、被告人Aは、日本共産党の機関紙「アカハタ」が昭和二五
年六月二六日附および同年七月一八日附の連合国司令官の指令によりその発行を停
止せられ、その後その後継紙および同類紙の発行をも停止せられたものてあるに拘
わらず、右指令に違反し「東京都足立区c町S社編集印刷発行入T」の名義をもつ
て東京都内にて発行している「平和のこえ」が前記「アカハタ」の後継紙であるこ
とを知りながら、昭和二六年二月上旬頃苫前郡a町字d線の自宅において、前記「
平和のこえ」第一一号九部を頒布の目的で所持し、その発行行為をなし、もつて前
記指令に違反し、占領目的に有害な行為をなしたものと認定された。そして、昭和
二五年政令三二五号占領目的阻害行為処罰令によつて処罰を受けた。第二審判決に
おいては、控訴は理由なきものとして棄却されたのであつた。
 前記指令違反の行為を処罰する政令三二五号占領目的阻害行為処罰令の規定は、
講和条約発効と共に効力を失い、したがつて刑の廃止があつたと認むべきである。
それ故、この指令違反の点において第一審および原判決を破棄し、被告人を免訴す
るを相当とする。
 よつて被告人Bに関する本件上告は刑訴四一四条、三九六条によりこれを棄却し、
当審における訴訟費用は同法一八一条に則り同被告人に負担させるものとする。つ
ぎに刑訴四一一条一号により被告人Aに関する原判決および第一審判決中、同被告
人に対し有罪を言渡した部分を破棄し、同法四一三条但書に従い被告事件について
更に判決をすることとし、第一審判決の確定した事実に法令を適用すると、被告人
Aの判示第一の二、三の各威力業務妨害の所為は刑法二三四条、二三三条、罰金等
臨時措置法二条、三条に、判示第二の傷害の所為は刑法二〇四条、罰金等臨時措置
法二条、三条にそれぞれ該当するところ、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上
は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条、一〇条により犯情の重いと認
める後者の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役一年二月に処し、
主文第三項掲記の押収物件は同法一九条一項二号、二項によりこれを没収すべきも
のとし、訴訟費用は刑訴一八一条、一八二条に則り主文第六項掲記のとおり負担さ
せるものとする。
 なお、被告人Aに対する本件公訴事実中、占領目的阻害行為処罰令違反の点につ
いては犯罪後の法令により刑が廃止されたものと認むべきこと前示のとおりである
から、刑訴四一四条、四〇四条、三三七条二号を適用して右の点につき、同被告人
に免訴の言渡をすべきものとする。
 よつて裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔の反対意見があるほか裁判官全員一致の意
見で主文のとおり判決する。
 裁判官田中耕太郎、同斎藤悠輔の反対意見は、次のとおりである。
 すなわち平和条約発効前に犯した昭和二五年政令三二五号占領目的阻害行為処罰
令違反の罪に対する刑罰は平和条約発効後といえども、廃止されたものといえない
ことは昭和二七年(あ)第二八六八号同二八年七月二二日言渡の大法廷判決記載の
われわれの意見のとおりである。
 裁判官霜山精一、同井上登、同栗山茂、同岩松三郎、同谷村唯一郎、同本村善太
郎は退官につき評議に関与しない。
 検察官 安平政吉、同竹原精太郎、同福原忠男、同神山欣治公判出席
  昭和三三年五月二八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎

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