弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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        主    文
       原判決中上告人の敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき,本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
        理    由
 上告代理人田中登,同小黒芳朗の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分
を除く。)について
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人らの子である甲(平成4年1月29日生。当時9歳)は,平成1
3年8月18日,上告人の過失によって発生した交通事故(以下「本件事故」とい
う。)により死亡した。
 (2) 被上告人らは,本件事故による甲の上告人に対する損害賠償請求権を法定
相続分である各2分の1の割合で相続により取得した。
 2 被上告人らは,不法行為等による損害賠償請求権に基づき,上告人に対し,
本件事故による損害賠償を請求している。
 3 原審は,甲の将来の逸失利益の算定における中間利息の控除割合につき,次
のとおり判示して,被上告人らの請求を一部認容した。
 交通事故による逸失利益を現在価額に換算する上で中間利息を控除することが許
されるのは,将来にわたる分割払と比べて不足を生じないだけの経済的利益が一般
的に肯定されるからにほかならないのであるから,基礎収入を被害者の死亡又は症
状固定の時点でのそれに固定した上で逸失利益を現在価額に換算する場合には,中
間利息の控除割合は裁判時の実質金利(名目金利と賃金上昇率又は物価上昇率との
差)とすべきである。民法404条は,利息を生ずべき債権の利率についての補充
規定であり,実質金利とは異なる名目金利を定める規定であるので,これを実質金
利の基準とすることの合理性を見いだすことはできない。また,旧破産法(平成1
6年法律第75号による廃止前のもの)46条5号ほかの倒産法の規定や民事執行
法88条2項の規定が弁済期未到来の債権を現在価額に換算するに際して民事法定
利率による中間利息の控除を認めていることについては,いずれも利息の定めがな
く,かつ,弁済期の到来していない債権を対象としており,弁済期が到来し,かつ
,不法行為時から遅延損害金が発生している逸失利益の賠償請求権とは,その対象
とする債権の性質を異にしているのであって,中間利息の控除割合についてこれら
の規定を類推又はその趣旨を援用する前提を欠くものというべきである。
 我が国の昭和31年から平成14年までの47年間における定期預金(1年物)
の金利(税引き後)と賃金上昇率との差がプラスとなった年は16年で,マイナス
となった年は31年であること,そのうちプラス2%を超えたのは3年(最大値は
プラス2.3%)であり,マイナス5%を下回った年は16年(最小値はマイナス
21.4%)であり,全期間の平均値はマイナス3.32%であり,平成8年から
平成14年までの期間の平均値は0.25%であることによれば,甲の将来の逸失
利益を現在価額に換算するための中間利息の控除割合としての実質金利は,多くと
も年3%を超えることはなく,中間利息の控除割合を年3%とすることが将来にお
ける実質金利の変動を考慮しても十分に控え目なものというべきである。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 我が国では実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向か
らすれば,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利
息の割合は民事法定利率である年5%より引き下げるべきであるとの主張も理解で
きないではない。
 しかし,民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは,民法の
制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率,我が
国の一般的な貸付金利を踏まえ,金銭は,通常の利用方法によれば年5%の利息を
生ずべきものと考えられたからである。そして,現行法は,将来の請求権を現在価
額に換算するに際し,法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には,法定利率
により中間利息を控除する考え方を採用している。例えば,民事執行法88条2項
,破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)
46条5号も同様),民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項
1号,2号等は,いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって
現在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来
の逸失利益を現在価額に換算するについても,法的安定及び統一的処理が必要とさ
れるのであるから,民法は,民事法定利率により中間利息を控除することを予定し
ているものと考えられる。このように考えることによって,事案ごとに,また,裁
判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ,被害
者相互間の公平の確保,損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。
上記の諸点に照らすと,【要旨】損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失
利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によ
らなければならないというべきである。これと異なる原審の判断には,判決に影響
を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。
 5 以上のとおりであるから,原判決中上告人の敗訴部分を破棄し,損害額等に
ついて更に審理を尽くさせるため,同部分につき,本件を原審に差し戻すことにす
る。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官金谷利廣
裁判官 濱田邦夫 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖)

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