弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一再上告趣意第一点について。
 本件第二審判決が本件再上告被告人Aに関する犯罪として認定した事実は、判示
第一(二)「被告人B、A、C、D、E、F、G、H、I、J、K等は同月五日共
謀して、右同所で同様の重油約六千立を窃取し」たというにある。そして、この事
実は「関係各被告人が当公判廷で自分の関係している部分に付て同様の趣旨を供述
しているので、これを認めることができるとしている。すなわち、本件被告人Aの
自白の外に前記多数の相被告人の供述を証拠として採用しているのであるから、憲
法第三八条第三項にいわゆる「自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合」
に該当しないものと言わなければならぬ。従つて、第二審判決を是認した原審判決
は結局正当であるから、論旨はこの点において理由がない。
 同第二点について。
 しかしながら、大審院は旧憲法と裁判所構成法とに基く構成と組織と性格を有す
る裁判所であり、最高裁判所は厳粛な歴史的背景の下に日本国憲法と裁判所法とに
基く構成と組織と性格を有する裁判所である。共に司法権を行使する機関であり、
又わが国における最上級の裁判所であるという関係において、相互の間に幾多の類
似点はあるが、両者の生立、構成、組織、権限、職務、使命及び性格が著しく異る
ことは、敢て多言を要しないところである。従つて、憲法及び司法制度の一大変革
期にあたり、明治憲法及び裁判所構成法は廃止せられ、代つて日本国憲法及び裁判
所法は実施せられ、その施行の際廃止となつた大審院において従来受理していた一
群の訴訟事件をいかに処理するかは問題であるが、所論のごとく当然最高裁判所の
開設と共に当裁判所において審理さるべきものと論定し去ることはできない。かか
る一群の特殊な事件については、東京高等裁判所において受理したものとみなし、
同裁判所は大審院と同一の裁判権を有する旨を規定したからと言つて、裁判所法施
行令第一条及びその根拠とせられた裁判所法施行法第二条は、所論のように憲法第
一三条、第一四条に違反するということはあり得ない。大審院は廃止せられ、かか
る一群の訴訟事件は最早大審院において審判を受けることができなくなつたから、
東京高等裁判所において旧大審院と同様に特に五人の裁判官の構成からなる合議体
をもつて審判することを規定し、実際の運用において主として従来の大審院判事が
引き続きその衝に当ることができるように構想せられたものであつて、立法の上で
国民の基本的人権は十分に尊重せられている。又かかる特殊性を有する一群の事件
は一団として立法上平等に取扱われており、国民は人種、信条、性別、社会的身分
又は門地によつて毫も差別待遇をうけていない。従つて、前記規定は所論のごとく
憲法第一三条、第一四条に違反するということはできない。
 次に、裁判所の裁判権、審級その他の構成は、憲法上原則として法律において定
められることとなつており、その内容が公共の福祉に反しない限り有効であること
は論をまたぬ。前記規定は前述のごとく公共の福祉に反するものではないから、国
民はこれらの規定の定めるところに従つて裁判所において裁判を受ける権利が保障
されている。従つて、前記規定は所論のごとく憲法第三二条に違反するということ
を得ない。又前記一群の事件を処理するために東京高等裁判所に五人構成の合議体
を置いたが、これは純然たる司法裁判所であつて、司法裁判所の外に特別裁判所を
設けたものではないから、所論のように憲法第七六条第二項の趣旨に違背するもの
と言うことはできない。
 同第三点について。
 まず最初に、本点論旨が、再上告の理由として適法であるか否かの問題について
考えてみたい。これは、刑訴応急措置法第一七条に、「高等裁判所が上告審として
した判決に対しては、その判決において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合す
るかしないかについてした判断が不当であることを理由とするときに限り、最高裁
判所に更に上告することができる」とある規定のいわゆる「処分」の中に裁判を含
むか否かの問題を中心とする。この措置法の規定は、憲法第八一条に、「最高裁判
所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権
限を有する終審裁判所である」と定めた規定から由来し、これと甚だ親密な関連が
あることは明かである。そしてこの憲法第八一条の規定は、第九八条第一項に「こ
の憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に
関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」とある規定と密接な
表裏の関係が存することも明白である。さらに、第七六条第三項においては、「す
べて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ
拘束される」と規定し、又第九九条においては、「天皇又は摂政及び国務大臣、国
会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と規定
し、裁判官の憲法遵守義務を明かに定めているのである。現今通常一般には、最高
裁判所の違憲審査権は、憲法第八一条によつて定められていると説かれるが、一層
根本的な考方からすれば、よしやかかる規定がなくとも、第九八条の最高法規の規
定又は第七六条若しくは第九九条の裁判官の憲法遵守義務の規定から、違憲審査権
は十分に抽出され得るのである。米国憲法においては、前記第八一条に該当すべき
規定は全然存在しないのであるが、最高法規の規定と裁判官の憲法遵守義務から、
一八〇三年のマーベリー対マデイソン事件の判決以来幾多の判例をもつて違憲審査
権は解釈上確立された。日本国憲法第八一条は、米国憲法の解釈として樹立せられ
た違憲審査権を、明文をもつて規定したという点において特徴を有するのである。
そしてこの違憲審査権は、近代政治科学における最も特筆大書すべき生産物である
と称されているものであつて、この制度の内包する歴史的意義と世紀の使命はまこ
とに深遠であると言わなければならない。
 憲法第八一条によれば、最高裁判所は、一切の法律、一切の命令、一切の規則又
は一切の処分について違憲審査権を有する。裁判は一般的抽象的規範を制定するも
のではなく、個々の事件について具体的処置をつけるものであるから、その本質は
一種の処分であることは言うをまたぬところである。法律、命令、規則又は行政処
分の憲法適否性が裁判の過程において終審として最高裁判所において審判されるに
かかわらず、裁判の憲法適否性が裁判の過程において終審として最高裁判所におい
て審判されない筈はない。否、一切の抽象的規範は、法律たると命令たると規則た
るとを問わず、終審として最高裁判所の違憲審査権に服すると共に、一切の処分は、
行政処分たると裁判たるとを問はず、終審として最高裁判所の違憲審査権に服する。
すなわち、立法行為も行政行為も司法行為(裁判)も、皆共に裁判の過程において
はピラミツド型において終審として最高裁判所の違憲審査権に服するのである。か
く解してこそ、最高裁判所は、初めて憲法裁判所としての性格を完全に発揮するこ
とができる。
 同条の「処分」は、英訳憲法として発表されているものにおいては、オフイシア
ル・アクトと表現されている。オフイシアル・アクトとは統治機関の行為の意味で
あつて行政機関の行政処分も司法機関の裁判行為も共に含まれている。また同条と
密接な表裏の関係にある第九八条第一項においては、「国務に関するその他の行為」
と言つており、行政処分も裁判も共に国務に関する行為であることは、疑を容れる
余地もないところであろう。その英訳憲法として発表されているものにおいては、
アザー・アクト・オブ・ガヴアメントという言葉が用いられているので、これを行
政府の行為と曲解し、これを援引して、憲法第八一条及び刑訴応急措置法第一七条
等にいわゆる処分を行政処分に限定し裁判を含まずと説く者がある。けれども、米
国憲法並にその流を汲むところでは、ガヴアメントすなわち政府とは国家の統治機
関の意味であつて国会も内閣も裁判所も、その中に包含されていることを特に注視
せねばならぬ。憲法前文中における「政府の行為」という用語も、この意義に解す
べきものである。されば、アクト・オブ・ガヴアメントの中には、行政府の行政処
分も裁判所の裁判も共に含まれている。ところで、なお一つの有力な異説が考えら
れる。それは、憲法は、一方において三権分立の原理に従つて第七六条で「すべて
司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する」
旨を定めると共に、他方においていわゆる抑制均衡の制度として第八一条で違憲審
査権を裁判所の権限に分配したものであるから、裁判の憲法適否の審査は、固有の
司法権の領域において上級審下級審の関係に基いて行われ、抑制均衡のための憲法
適否の審査は、性質上立法及び行政行為のみについて行われると説くのである。従
つて、この説によれば第八一条の処分は、行政処分に限られ、裁判を含まないとせ
られる。これは、、憲法の解釈論としては一応よく筋のとおつた傾聴すべき議論で
ある。しかしながら、裁判の違憲審査権は、普通の上級審下級審の関係でのみ行わ
れるものとすれば、法律が審級制を定めるに当り、例えば現行裁判所法のように、
簡易裁判所を起点とする三審制と地方裁判所を起点とする三審制を二元的に設けて
いる場合においては、前系統の三審制の過程における裁判の違憲審査は、終に最高
裁判所の権限に属しない結果となる。かかる結果は、到底容認すべからざるところ
であつて、この説の欠陥と誤謬を露呈することになるのである。憲法制定の際の第
八一条原案によれば、第一項においては「最高裁判所は、終審裁判所である」と規
定し、第二項においては「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法
に適合するかしないかを決定する権限を有する」と規定してあつたのを、衆議院に
おいて修正し第二項の末尾に第一項を合体せしめ、現行第八一条が制定せられた。
かくて最高裁判所は、違憲審査については、常に最終審として関与する趣旨が一層
明確に認められたのである。すなわち、最高裁判所の憲法上における事物の管理権
が宣明せられ、憲法裁判所である性格が確立せられたのである。これは、憲法上に
おける不動の原理であると言わなければならない。
 さて、刑訴応急措置法第一七条第一項において「高等裁判所が上告審としてした
判決に対しては、その判決において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するか
しないかについてした判断が不当であることを理由とするときに限り、最高裁判所
に上告することができる」と規定したのは、前記憲法第八一条の原理に従つて再上
告の道を確認したに過ぎないのである。すなわち、高等裁判所が上告審としてした
判決に対しては単なる審級制からすれば、最早再上告を許す必要はないのであるが、
違憲審査制からすれば、憲法適否を理由とする限り、最高裁判所に再上告を許す必
要があるのでこれを確認して明定したまでのことである。言いかえれば、措置法の
規定によつて初めて再上告が許されたものではなく、憲法適否の審査は憲法第八一
条によつて終審として最高裁判所の権限に属するという原理を再確認して再上告を
定めたものである。されば、前記措置法第一七条にいわゆる処分の中に裁判を含む
ことは、憲法第八一条の場合と同様である。
 次に又、前記措置法第一七条の適用に関し、判決において憲法違反の判断をする
場合には、その判断は積極的に表明せられることを要するは性質上当然であるが、
これに反し憲法適合の判断をする場合には、その判断は必ずしも常に積極的に表明
せられることを要せず、特に判決において憲法違反を表明していないときは、すべ
て憲法適合の判断を含蓄しているものと解することが、相当であり且つ憲法第八一
条の精神によく合致するものと言わなければならない。従つて、再上告は、憲法適
否を理由とする限り、適法であると解すべきものである。
 さて、本件再上告趣意第三点は、憲法適否を理由として主張しているから一応再
上告の訴訟要件を具備し適法なもののごとくである。しかし本件は、公開の公平な
裁判所において、合憲的な刑事訴訟の手続に従い、十分被告人の弁明を聴いて、審
理せられ、刑罰を科せられたものであることは、一件記録に徴し明かである。それ
故憲法第三一条違反を理由とする論旨は当らない。事実審である第二審判決の事実
認定乃至証拠の採否に、たとえ所論のような瑕疵があつたとしても、それは単に刑
事訴訟法の手続違背の問題であつて、憲法違反の問題ではあり得ない。従つて、こ
れを再上告の理由として認めることはできないのである。
 裁判官齋藤悠輔の本件に対する意見は次のとおりである。
 憲法第九八条第一項は「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する
法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有
しない。」と規定し、同第九九条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判
官其の他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定している。
従つて独り裁判官のみに限らず、一切の立法、行政、司法の公務員は、国務に関す
る行為をなすに当り、自ら内省、反省し自己批判を行い、その行為が憲法に適合す
るかしないかを決定し、憲法に適合するように行動すべき職務と権限とを有するも
のである。それ故、その公務員の行為を是正する権限を有する上級者あるときは、
その最上級の者において最終の違憲審査決定権を有するを当然とする。而して、我
憲法は立法、行政、司法の三権を分立し、各別異の機関をしてこれを分担せしめ、
その間互に独立して相侵犯することを許さない建前であるから、特別の規定を設け
ない限り、各機関の右違憲審査権も夫々独立して互に他の批判を許さない性質のも
のである。こゝにおいて憲法第八一条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則
又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」
と規定して、その立法並びに行政行為に対する違憲審査決定権を最高裁判所を終審
とする司法裁判所に与え、司法裁判所にその優位を認めたのである。それ故同条に
いわゆる処分には司法裁判所の行為たる裁判はその性質上包含されないものと解す
べきである。蓋し、処分とは抽象的権限の具体的実行を意味するものであるから裁
判もその概念の範囲に属しないとはいゝ得ないとしても、審査決定権の主体的行動
はその審査の客体たる行為から当然除外さるべきであるからである。何となれば他
を見、他を聞く者は己れを見、己れを聞かないものであり、他人の行為を批判する
右規定に自己の行為を包含せしむるの道理ないからである。自己の行為たる裁判に
対しては、自己固有の領域における異議、上訴又は非常上訴等の方法を以て内省、
反省、是正するのが当然であつて、右のような他判の憲法規定を設くるの必要はな
い。
 然るに我裁判所法並びに刑事訴訟法は刑事裁判について三級審又は二級審の制度
を採り、しかも最高裁判所を終審とするものと、高等裁判所を終審とするものとを
認めているから、若し後者の手続過程中右憲法第八一条所定の違憲問題が起つた場
合には、その問題が最高裁判所において取扱はれない結果を来す虞れがある。それ
故、かゝる虞れある場合には、同条にいわゆる終審裁判所である最高裁判所の最終
決定を受けしめる方法を講ずる必要がある。この必要その他を充すため憲法の施行
に伴う刑訴応急措置法は、その第一、二条の規定(特に「裁判所法……制定の趣旨
に適合するように」参照)の外、更に、一方においては、その第一五条に」高等裁
判所が上告裁判所である場合に、最高裁判所の定める事由があるときは、決定で事
件を最高裁判所に移送しなければならない。」と規定して、予め、例えば裁判所法
第一〇条第一、二号すなわち一、当事者の主張に基いて法律、命令、規則又は処分
が憲法に適合するかしないかを判断するとき、二、前号の場合を除いて、法律、命
令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき、その他最高裁判所が相当と認
める事由ある場合には、高等裁判所の判断を省略して直ちに最高裁判所をして終審
としてこれらの問題を判断せしむることを得せしめ、また、他方においては、その
第一七条第一項において「高等裁判所が上告審としてした判決に対しては、その判
決において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかについてした判
断が不当であることを理由とするときに限り、最高裁判所に更に上告することがで
きる。」と規定して、特に、第四級又は第三級審として、最高裁判所に対する再上
告の道を開いたのである。
 それ故、この第一七条第一項の規定にいわゆる「処分」中には裁判を包含しない
ものと解すべきこと前記憲法第八一条の場合と異なるものではなく、また、その「
判断」とは右裁判所法第一〇条第一、二号制定の趣旨と同じく、当事者の主張に基
く明示又は黙示の判断若しくは裁判所の職権発動に基く否定的な判断(すなわち適
合しないと認めたとき)と解すべきであり、更に、原上告判決においてかゝる判断
の存すること及びその判断の不当であることを再上告の理由とすることは共に再上
告の厳格な適法要件であると解すべきである。若し憲法第八一条の処分中に裁判を
包含せしめるときは、本来の刑事訴訟の外更に裁判を物体とする訴訟並びに裁判の
執行を停止する仮処分申請のようなものゝ続発を認容せねばなるまい。また、右の
適法要件を認めないならば、徒に濫訴を招来し、審級制度は、動揺破壊を免れない
であろう。法乃至裁判の安定確立も、亦た、国民の権利と公共の福祉とを保障する
憲法の精神であらねばならぬ。されば、若し裁判就中裁判所の個々の訴訟行為に対
する違憲問題を必ず最高裁判所をして取扱はしめるを相当とするならば、前記措置
法第一五条にいわゆる「最高裁判所の定める事由」中に最高裁判所自らが規定すれ
ば足るのであつて、濫りに、再上告の適法要件を抹殺し去るの要はない。
 然るに、多数説の理由は、次の諸点において根本的の誤謬と欠陥と弱点とを包蔵
し、到底賛同し得ない。
(1) 憲法第九九条は、すべての公務員が、この憲法を尊重し擁護する義務を負
ふと規定しているのに、独り裁判官のみが憲法遵守の義務あるもののごとく主張し、
また、憲法第七六条第三項は裁判官は、たゞ良心に従ひ独立してその職務を行う積
極的使命あることを規定したもので、この場合、憲法の外更に法律は、単にその消
極的拘束条件たるに過ぎないのに、この規定から故ら法律を除外して、単に憲法の
みの積極的遵守義務を抽出し、これらの規定と憲法第九八条とにより当然違憲審査
権を肯定するのは、その前提において、既に甚だしい強弁たるを免れないこと。
(2) 明文のない米国における判例を引用して右(1)の理由により憲法第八一
条は必ずしもこれあるを要せずと説き、しかも、同条は最高裁判所のみの権限を規
定したものではなく、一切の下級裁判所も等しく違憲審査権を有するものと解すべ
きであるのに、独り、最高裁判所のみを憲法裁判所の性格を有するものとしてその
権限を奇怪なピラミツド型に拡張すること。
(3) 元来、裁判の本質である(イ)事実の判断すなわち認定行為、(ロ)法令
の解釈行為、(ハ)法令と事実との該当性の判断すなわち適用行為がいずれも「処
分」と言い得るか甚だ疑問であり、また、それが当面の問題であるにもかかわらず、
殆んどその理由を語ることなく、単に当然自明として肯定し、しかも飜訳英語の文
字解釈においてのみしきりに多弁なること。
(4)「処分」に当然「裁判」を含む理由の説明に当り、いわゆる法令すなわち抽
象的規範の違憲審査権と問題の処分の違憲審査権とを同一に取り扱い、一切の法令
審査権あるの故を以て当然一切の処分のそれを持つべきであるとすること、従つて
刑事の訴訟手続の過程において第一、二審裁判所は法令の違憲審査権を有するのに
何故に裁判すなわち論者の処分のそれを有しないかを説明し得ないこと。
(5) 司法固有の領域における上訴手続においては、能う限り再上告を避けるた
め、刑訴応急措置法第一五条の規定を設け、高等裁判所が上告審である場合でも、
その判断を省略して、最高裁判所が、直ちに、上告審として審判し得る道あるにも
かかわらずこの規定を看過し、更に通常の上告の外、特に、非常上告の制度あるを
忘れ、却て、裁判は処分に含まれないとする説の欠陥と誤謬とを露呈するものと非
難すること。
(6) 同法第一七条の明文あるにかかわらず、多くその理由を示さずに再上告は
同規定によつて初めて許されたものではなく、憲法第八一条の原理の再確認に過ぎ
ないと独断すること。
(7) かくて突如として再上告の適法要件を不必要として抹殺し従つて濫訴を奨
励する結果を来すこと。
 果たして、然らば、本件再上告論旨第一点は、原上告判決の判断が法律、命令、
規則又は処分に関しない点で、同第二、第三点はともに原上告判決に法定の判断の
存しない点でいずれも再上告適法の要件を具備しない失当がある。従つて本件再上
告は既にこの点で不適法として棄却すべきである。
 しかのみならず、本論旨第一点で攻撃している原上告判決の判断は正当であるか
ら、この論旨はその点でも理由なきものと考える。蓋し、上告は法令違反を理由と
するときに限り許さるべきであり、その法令違反を定める標準時期は、第二審判決
に対する上告の場合には、原則として、その判決をした時である。たゞ、刑訴第四
一五条は「判決アリタル後刑ノ廃止若ハ変更又ハ大赦アリタルトキハ之ヲ上告ノ理
由ト為スコトヲ得」と規定して、特に、その例外を認めているに過ぎない。それ故
本件第二審判決をなした時に適法であつた証拠の採用行為がその後における憲法規
定の改正に伴ひ違法となる理由はない。これを違法視するのはいわゆる不能を強い
るものであり、何人も実行の時に適法であつた行為については刑事上の責任を問は
ないものとした憲法の精神にも反する。しかも、所論の憲法規定は刑の廃止若しく
は変更又は大赦に該当しないこと言うまでもないから所論は上告適法の理由となら
ないものである。
 よつて刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は反対意見者を除く他の裁判官全員の一致した意見である。
 検察官下秀雄関与
  昭和二三年七月七日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    三   淵   忠   彦
            裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    庄野理一は退官につき署名捺印すること
ができない
         裁判長裁判官    三   淵   忠   彦

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