弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原判決中第1審判決別紙物件目録一記載の土地の共有物分割請求に係る部分を破棄
する。
前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人池原毅和,同森岡信夫の上告理由について
 1 本件訴訟は,亡D(以下「D」という。)の相続人である上告人が,母であ
るDからの遺贈によって第1審判決別紙物件目録一,二記載の土地建物(以下「本
件土地建物」という。)の共有持分を取得したと主張して,本件土地建物の他の共
有持分者である被上告人らに対して,本件土地建物の共有物分割を求めるものであ
る。原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 本件土地建物について,Dは2分の1の共有持分を有し,被上告人らは
各8分の1の共有持分を有していた。本件建物は本件土地上に建っており,Dは,
本件土地建物の外に不動産を有していなかった。
 (2) Dは,平成4年4月20日付けで,その全文,日付及び氏名を自署し,
これに印を押した遺言書(以下「本件遺言書」という。)を作成した。本件遺言書
の本文には,D所有の不動産である東京都荒川区ab丁目c番d号を上告人に遺贈
する旨の記載がある。
 (3) Dは,平成6年1月3日に死亡した。
 (4) Dの相続人は,E(長女),F(二女),G(三女),H(四女),上
告人(二男),I(五女)並びに亡J(長男,昭和48年6月13日死亡)の子で
ある被上告人B1,同B2及び同B3の9名である。被上告人B4は,亡Jの妻で
ある。
 (5) 本件遺言書作成当時,本件土地建物は,Dの自宅として用いられると共
に,上告人らの同族会社で廃品回収業を営む有限会社K商店(以下「K商店」とい
う。)の事業所としても用いられ,K商店の借入金を担保するために金融機関の抵
当権が設定されており,本件土地建物なしにK商店の経営が成り立たなかったこと
は明らかであった。そして,本件遺言書作成の前後において,K商店の経営の実権
を有していた被上告人B4とこれに反発する上告人とは反目し合っており,被上告
人ら家族と上告人との間には確執が続いていた。
 (6) 上告人と被上告人らの間では,本件土地建物の分割協議が調わない。
 2 原審は,以下のとおり判示して,上告人の本件土地の共有物分割請求を却下
した。
 (1) 本件遺言書に記載された「ab丁目c番d号」は,住居表示であり,文
字どおりに解するならば,同所所在の建物と解すべきことになる。
 (2) 前記1(5)の本件遺言書作成当時の事情によれば,Dが本件土地の共
有持分を上告人に遺贈する真意を有していたと解することはできない。
 (3) これらを総合すると,Dは本件建物の共有持分のみを上告人に遺贈した
ものと解すべきである。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 遺言の意思解釈に当たっては,遺言書の記載に照らし,遺言者の真意を合理的に
探究すべきところ,【要旨】本件遺言書には遺贈の目的について単に「不動産」と
記載されているだけであって,本件土地を遺贈の目的から明示的に排除した記載と
はなっていない。一方,本件遺言書に記載された「荒川区ab丁目c番d号」は,
Dの住所であって,同人が永年居住していた自宅の所在場所を表示する住居表示で
ある。そして,本件土地の登記簿上の所在は「荒川区ab丁目」,地番は「e番f」
であり,本件建物の登記簿上の所在は「荒川区ab丁目e番地f」,家屋番号は「
e番fのg」であって,いずれも本件遺言書の記載とは一致しない。以上のことは
記録上明らかである。
 そうすると,本件遺言書の記載は,Dの住所地にある本件土地及び本件建物を一
体として,その各共有持分を上告人に遺贈する旨の意思を表示していたものと解す
るのが相当であり,これを本件建物の共有持分のみの遺贈と限定して解するのは当
を得ない。原審は,前記1(5)のように本件遺言書作成当時の事情を判示し,こ
れを遺言の意思解釈の根拠としているが,以上に説示したように遺言書の記載自体
から遺言者の意思が合理的に解釈し得る本件においては,遺言書に表われていない
前記1(5)のような事情をもって,遺言の意思解釈の根拠とすることは許されな
いといわなければならない。
 4 以上のとおり,Dが本件建物の共有持分のみを上告人に遺贈したものと解す
べきであるとした原審の判断には,遺言に関する法令の解釈適用を誤った違法があ
り,この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この趣旨をいう
論旨は理由があり,原判決中上告人の本件土地の共有物分割請求を却下した部分は
破棄を免れない。そして,本件土地の分割方法につき審理を尽くさせる必要がある
から,同部分を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田
昌道)

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