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平成31年1月31日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成29年(ワ)第9834号不正競争行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成30年11月27日
判決
原告株式会社コーワン5
同訴訟代理人弁護士小松陽一郎
同原悠介
被告株式会社技研製作所
同訴訟代理人弁護士石原真弓
同古庄俊哉10
同石津真二
主文
1被告は,別紙掲載文目録記載1ないし3の内容を,被告のウェブサイト
(https://www.giken.com/ja/)に表示してはならない。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。15
3訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負
担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙1及び2記載の内容を,被告のウェブサイト20
(https://www.giken.com/ja/)に表示してはならない。
2被告は,原告に対し,別紙謝罪広告目録記載1の内容の謝罪広告を同目録記
載2の要領で同目録記載3の新聞に2回掲載せよ。
3被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成29年10月20
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。25
第2事案の概要
本件は,原告が,被告が自己のウェブサイト上のウェブページに掲載した文章が
虚偽の事実であり,これにより営業上の信用を著しく毀損されたとして,被告に対
し,不正競争防止法2条1項15号,3条1項,4条,14条に基づき,上記ウェ
ブページの内容を被告のウェブサイトに表示することの差止め,謝罪広告の掲載並
びに損害賠償として1000万円及びこれに対する訴状送達の日(平成29年105
月19日)の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求めた事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
⑴当事者等(甲1ないし5,15,乙23,35(枝番号を含む。以下同じ。),10
被告代表者)
原告は,昭和57年3月1日に設立された,油圧式杭圧入引抜機の設計開発,制
作,販売,リース及び修理等を目的とする株式会社である。
土佐機械工業株式会社(以下「土佐機械工業」という。)は,昭和58年より自
走型油圧式杭圧入引抜機「スティルワーカ」の製造販売を行っていたが,平成1715
年4月,杭打込引抜機に関する事業を原告に譲渡し,以後原告が,杭打込引抜機の
製造販売を行っている。
被告代表者であるP1は,既設杭の引抜抵抗を反力として利用して,無振動,無
騒音で杭の圧入をすることのできる「サイレントパイラー」という名称の装置の開
発を行い,昭和50年に1号機を作製し,昭和53年に被告を設立して,以後,被20
告において油圧式杭圧入引抜機を製造販売している。
⑵被告ウェブサイトにおける記載
ア被告は,平成29年1月から,被告のウェブサイト
(https://www.giken.com/ja)(以下「被告ウェブサイト」という。)上に,被告
グループの50周年を記念する特設ページを開設し,その中に,50回にわたっ25
て,被告代表者の自伝を掲載した。被告は,同自伝の第27回として,「革新的な
自走式パイラー誕生」と題する別紙1記載の記事(以下「本件ウェブページ1」と
いう。)を掲載し,その中に,別紙掲載文目録記載1及び2の文章(以下「本件掲
載文1」などという。)を表示した。また,被告は,同自伝の第28回として,
「杭圧入の統合エンジニアリング企業へ」と題する別紙2記載の記事(以下「本件
ウェブページ2」という。)を掲載し,その中に,別紙掲載文目録3記載の文章5
(以下「本件掲載文3」という。)を表示した。
イ被告は,平成30年10月3日,本件ウェブページ1及び2を含む上記50
周年記念特設ページを,被告ウェブサイトより削除した(乙34)。
2争点
⑴本件掲載文1ないし3は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実か10
⑵本件ウェブページ1及び2の表示差止請求及び謝罪広告掲載請求について
⑶原告の損害について
3争点に関する当事者の主張
⑴争点⑴(本件掲載文1ないし3は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実か)
について15
【原告の主張】
ア本件掲載文1ないし3の記載の対象が原告と特定されること
不正競争防止法2条1項15号における信用毀損行為の保護の対象は営業上の信
用であるから,本件掲載文1ないし3の与える印象は,原告及び被告の競業者(圧
入業界内の者)及び取引業者を基準として検討すべきである。20
ここで,平成22年以降,油圧式杭圧入引抜機を製造販売しているのは原告及び
被告のみであり,このことは圧入業界及び基礎工事業界一般において周知の事実と
なっていた。
よって,本件掲載文1ないし3に記載された「当社の下請けで加工を任せていた
高知の小さな会社」,「業界の小さな“鬼っ子”」,「当社の機械のコピー機をせ25
っせとつくっている件の会社」という表現が,前身である土佐機械工業を含む原告
(以下,合わせて単に「原告」ということもある。)を指すことは,競業者及び取
引業者にとって明らかである。
なお,被告は,本件掲載文3の記載は中央自動車興業株式会社(現商号アボロン
システム株式会社。以下,商号変更の前後を通じて「中央自動車興業」という。)
を指すものであると主張するが,本件掲載文3の「コピー機をせっせとつくってい5
る件の会社」という表現は,本件掲載文1及び2の記載を受けたものであるところ,
同会社は本件記載3以前に言及されておらず,また,同会社は神奈川県川崎市に本
店を有する株式会社であるから,被告の主張は失当である。
イ本件掲載文1及び2の内容
「コピー機」が権利侵害品を意味するものであること10
被告は,本件ウェブページ1及び2を含む一連の連載記事や被告ウェブサイトの
別ページにおいて,被告代表者がサイレントパイラーを「発明」し特許出願をした
こと,昭和55年1月にサイレントパイラーの基本特許を取得したことを記述して
いる。また,原告及び被告との間には長年にわたって互いの特許権を巡る紛争があ
り,このことは競業者等にとって周知の事実であった。15
そして,「コピー」とは「模倣,模造品」との意味を有するところ,上記の経緯
から,本件掲載文1及び2に接した競業者等は,「コピー機」との記載が被告のサ
イレントパイラーに関する特許権を侵害する製品を意味するものと理解することが
当然である。
しかし,原告の製造販売する製品は被告の製造販売する製品とは全く構成を異に20
し,被告の特許権を侵害するものではないから,「コピー機」を称されるいわれは
ない。
「コピー機」が粗悪品等を意味するものであること
仮に,「コピー機」等という記載から,原告の製品が被告の特許権を侵害するも
のであるとの印象を受けないとしても,「コピー」という用語は一般にオリジナル25
と比較して質が悪いもの,又は何らかの法律に違反して製造されたものを意味する
ものとして使用されている。「平然と」「鬼っ子」等の用語からも,原告の製品に
対して否定的な評価を含むものであることは明らかである。
原告の製品がサイレントパイラーをまねたものではないこと
一般的に油圧式杭圧入引抜機において利用されている基本原理は,昭和38年に
「無音無振動シートパイリング工法及びその装置」として特許出願されているもの5
であって,被告の製品も同原理を採用しているにすぎない。また,原告が昭和58
年に発売した製品は,被告の製品であるサイレントパイラーとは主要な構成におい
て相違があり,原告はこの構成について特許権も有するのであるから,原告の製品
は被告の製品を「まねた」ものではない。
まとめ10
したがって,本件掲載文1及び2の内容はいずれも虚偽であり,原告の信用を毀
損するものである。
ウ本件掲載文3の内容
被告は,本件掲載文3において,原告が被告の営業幹部を引き抜いたかのような
記載をしており,これに触れた競業者等は,本件掲載文1及び2の記載を踏まえ,15
「被告の特許権を侵害する製品の製造販売を続けている原告が,社会的相当性を欠
く方法により,被告の経営に大きなダメージを与える程度の規模で,競業避止義務
や秘密保持義務を負う幹部社員を一斉に引き抜いた。」という誤解や印象を持つこ
とになる。
しかし,被告の主張によっても,昭和58年頃,被告を退職して中央自動車興業20
に就職した従業員が4名程存在するが,原告へ転職した従業員は存在しない。
したがって,本件掲載文3の内容は虚偽であり,原告の信用を毀損するものであ
る。
エ被告の主張について
被告は,本件ウェブページ1及び2は被告代表者の自伝を記載したものであって,25
価値判断が含まれることに留意すべきであると主張するが,本件掲載文1ないし3
は,いずれも事実として油圧式杭圧入引抜機の業界における参入や撤退,同業他社
の引抜き等が記載されているから,これに接した競業者等は記載内容を単なる主観
的見解ではなく事実として理解することとなる。
また,仮に本件掲載文1ないし3に評価的要素が含まれていたとしても,営業誹
謗行為を規制する目的から広く事実の表明と解されるのであって,被告の主張は失5
当である。
オまとめ
以上より,原告と被告は,油圧式杭圧入引抜機の製造販売を行う会社として競争
関係にあるところ,本件掲載文1ないし3の各記載は,いずれも事実に反する虚偽
であって,同記載に触れた関係者は,原告が被告の特許権等を侵害する製品を製造10
販売したり,被告の従業員の引き抜きしたりしたものと誤解するから,被告が,少
なくとも過失により本件掲載文1ないし3を被告ウェブサイトに掲載したことによ
って原告の信用は著しく毀損された。
【被告の主張】
アサイレントパイラーについて15
被告代表者は,従来の方法で杭打ちをする際に問題となっていた振動や騒音を生
じさせない杭打機の開発を企図し,昭和48年夏頃から垣内商店(現在の商号は株
式会社垣内。以下,商号変更の前後を通じて「垣内商店」という。)の代表者であ
ったP2と共に,静荷重で杭を圧入する新型の油圧式杭圧入引抜機の開発に取り組
み,昭和50年7月頃,サイレントパイラーの試作1号機を完成させ,昭和53年20
1月,サイレントパイラーの製造販売会社として被告を設立して,同年6月からサ
イレントパイラーの量販を開始した。
サイレントパイラーは,複数の既設杭の引抜抵抗力を反力として利用し,静荷重
による圧入を行うという原理を採用している。この原理は被告代表者が独自に着想
したものであり,昭和50年7月当時,同様の原理を採用し実用化された油圧式杭25
圧入引抜機は存在しなかった。
イ本件ウェブページ1及び2の性質及び閲覧者について
本件ウェブページ1及び2は,被告が,平成29年1月に被告ウェブサイト上に
被告グループ創業50周年記念用のページを作成するに当たり,被告代表者が被告
の社内報において平成19年12月から平成23年12月まで連載した自伝を,同
ページ内のコンテンツの一つとして公開したものの一部である。本件ウェブページ5
1及び2中の表現は,自伝という性質から,多分に主観的見解,批評,抽象的推論
等の価値判断を含むものであり,また,用語も厳密に定義されたものを使用してい
ない。
加えて,本件ウェブページ1及び2の閲覧者は,圧入業界の者のみならず,被告
の株主や潜在的投資家等を含む不特定多数の一般人であるから,これらの一般人が10
どのように理解するかという観点を踏まえて,本件掲載文1ないし3の内容により
原告の営業上の信用の毀損又は毀損のおそれがあるか否かを検討すべきである。
仮に,原告の主張するとおり,原告の競業者を基準に営業上の信用の毀損又は毀
損のおそれを判断するとしても,当該業界は基礎工事に用いられる機械に関する業
界全般が基準とされるべきであって,競業者は杭圧入引抜機を現在販売・取引して15
いる者に限定されない。
ウ本件掲載文1及び2の内容及び対象について
本件掲載文1及び2の対象が原告と特定されないこと
本件ウェブページ1及び2を閲覧する一般人又は基礎工事業界の者にとって,高
知県内において被告以外に油圧式杭圧入引抜機を製造販売しているのが原告のみで20
あることは周知の事実ではないから,本件掲載文1及び2における「高知の小さな
会社」等の記載が原告を指すものであると認識することはない。
原告は,原告及び被告間の特許権を巡る紛争の存在が業界内で周知であったと主
張するが,被告が原告に対して送付した通知書(甲16)は昭和58年のものであ
り,本件時点において上記紛争が周知であったことの根拠足りえない。25
「コピー機」の意味について
仮に,本件掲載文1及び2が原告を指すものと認識されるとしても,一般人にと
って「コピー機」とは「模倣,模造品」という意味であり,上記のような本件ウェ
ブページ1及び2の性質及び文脈からは,被告の製品を「まねた機械」といった程
度に解されるのであって,被告の特許権を侵害する製品と限定的に解されることは
ない。なお,本件ウェブページ1及び2を含む被告代表者の自伝において,サイレ5
ントパイラーについて特許を取得したとの言及はなされていない。
また,本件掲載文1及び2には,「コピー機」と被告の油圧式杭圧入引抜機とを
比較する記述はなく,「コピー機」が質に劣る,粗悪品,違法に製造された物であ
るということに言及したり示唆したりする記載もない。むしろ本件掲載文1及び2
は,圧入機業界に他者が一斉に参入してきたがほぼすべての会社がまもなく撤退し10
たという当時の状況を述べた上で,「下請けで加工を任せていた高知の小さな会社」
一社のみが被告の競争相手として残り,現在も機械の販売を継続していることを,
競争相手として被告が評価している,という文脈で記述されているものであるから,
このような文脈を踏まえれば,「コピー機」という記載が製品の性質や品質の劣等
性,不適法性を示すという余地はない。15
よって,本件掲載文1及び2の記載が原告の製品が被告の特許権を侵害する若し
くは低品質又は違法な物であるという意味であることを前提として同記載が虚偽で
あるという主張は誤りである。
原告の製品がサイレントパイラーをまねたものであること
そして,原告は,被告のサイレントパイラーの圧入原理,機械の特長,構成,外20
観(形状・色彩)等をまねた油圧式杭圧入引抜機を,昭和58年頃から継続して製
造販売しているのであるから,上記記載は事実に基づくものである。
原告は,原告の製品と被告のサイレントパイラーとは,主要な構成について大き
な相違があると主張するが,原告及び被告以外の他社が製造販売していた油圧式杭
圧入引抜機のほとんどは,サイレントパイラーと一見して異なる形状,構成を採用25
している一方で,原告の製品はサイレントパイラーと酷似した形状,構成を有し,
被告代表者が実用化した原理を採用している。
原告は被告のサイレントパイラーの主要部材の製作,加工を担当していた垣内商
店の下請業者であったところ,垣内商店においてサイレントパイラーの設計図面の
作成に関与していたP3や,被告においてサイレントパイラーの設計製図に関与し
ていたP4が,その後原告に転職したことなどからすれば,原告がサイレントパイ5
ラーに依拠して油圧式杭圧入引抜機を開発することは容易であった。
エ本件掲載文3の内容及び対象について
上記イのとおり,一般人又は基礎工事業界の者において本件掲載文3が原告を
指すものであると認識することはない。
そもそも,本件掲載文3は,昭和58年頃に被告の競合相手であった中央自動車10
興業を指すものであり,当時,被告の取引先の一つが破たんしたことをきっかけに,
被告代表者が営業担当者の外出を禁止したことから,これに反発する営業担当者の
うち数名が被告を退社し中央自動車興業へ転職したことについて書いたものである。
また,本件ウェブページ2の記載を全体としてみれば,上記のような被告代表者
の行為が原因で営業担当者が退職し競合相手に就職したことを記載したにすぎない15
ものと理解できるから,仮に「件の会社」が原告のことを指すものと認識するとし
ても,被告の従業員を自社に違法に勧誘したものと捉えることはなく,本件掲載文
3は,原告の営業上の信用を害するものではない。
オまとめ
以上より,被告が本件掲載文1ないし3を公開した行為が,原告の営業上の信用20
を害する虚偽の事実の告知に当たらないことは明らかである。
⑵争点⑵(本件ウェブページ1及び2の表示差止請求及び謝罪広告掲載請求)
について
【原告の主張】
ア差止請求25
本件ウェブページ1及び2は,本訴提起時,インターネット上で閲覧可能な状態
であり,被告は,これにより原告の信用を毀損し続けていた。
被告は,平成30年10月3日に,本件ウェブページ1及び2を削除したが,不
正競争防止法2条1項15号の該当性を争っており,現在においても,本件ウェブ
ページ1及び2の内容を再度被告ウェブサイトに掲載するおそれは十分にある。
イ謝罪広告掲載請求5
被告には原告の信用を毀損しないよう配慮する義務があるところ,被告が,同義
務に反し,本件掲載文1ないし3を被告ウェブサイトに掲載した行為には,少なく
とも過失が認められる。
したがって,原告は,被告に対し,営業上の信用を回復するのに必要な措置とし
て謝罪広告の掲載を求める権利を有する。10
【被告の主張】
差止請求及び謝罪広告掲載請求のいずれも争う。
差止請求について,被告代表者は,本件ウェブページ1及び2を含む被告グルー
プの50周年記念サイトについては,(相当期間が経過し)「終わった」ために削
除したと述べており(被告代表者),被告が再度これらのコンテンツを被告ウェブ15
サイトに掲載することはあり得ない。
⑶争点⑶(原告の損害)について
【原告の主張】
原告が,被告から前記⑴記載の信用毀損行為を受けたことにより被った損害は,
1000万円を下らず,少なくとも過失が認められることは,前記⑵イのとおりで20
ある。
【被告の主張】
争う。
第3当裁判所の判断
1認定事実(前記前提事実,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる25
事実)
⑴油圧式杭圧入引抜機の原理等
ア油圧式杭圧入引抜機とは,土木・護岸工事,大型建築物の基礎工事,耐震補
強工事等の際に行われる杭敷設工事において使用される建設機械であり,あらかじ
め地盤中の一定の深度まで複数の杭を貫入し,これらの既設杭を上部から掴み,そ
の引抜抵抗力を利用して新設の杭を押し込むことにより,順次,地中杭を敷設する5
機械である。この原理自体は,昭和38年に,「無音無振動シートパイリング工法
及びその装置」として,P5により特許出願(特願昭38-40847号)されて
いる(甲27,39,乙2,23,25ないし27)。
イ昭和40年頃,杭敷設工事は,ディーゼルエンジンの動力を利用して杭頭を
叩いて地中に打ち込むディーゼルハンマーや,杭を掴み振動させることにより地中10
に打ち込むバイブロハンマーにより施工されていたが,これらの工事はいずれも振
動や騒音を伴い,公害の原因として問題となっていた。無音無振動シートパイリン
グ工法や油圧式杭圧入引抜機は,この振動及び騒音を軽減する工法を可能にするも
のとして開発されたものである(甲27,乙23,28ないし30)。
⑵被告によるサイレントパイラーの開発・製造・販売の経緯等15
ア昭和46年頃,被告代表者は,油圧式杭圧入引抜機の開発を思い立ち,当時,
垣内商店の代表者であったP2と共に設計・開発を行い,昭和50年に,「サイレ
ントパイラー」第1号機(KGK-100A)を完成させた。これに伴い,被告代
表者は,油圧式杭圧入引抜機に関する特許(特願昭50-84067)を出願した。
昭和51年に小型・軽量化を行った同第2号機(KGK-100B)による施工,20
昭和52年に同第4号機(LGK-100D)の取引先への販売が行われ,昭和5
3年に量産型のサイレントパイラーであるKGK-100Hの販売が開始された。
被告代表者は,同年,サイレントパイラーの製造販売を行う会社として被告を設立
した(甲18,乙23,被告代表者)。
当初,被告代表者や被告と垣内商店との間におけるサイレントパイラーの開発・25
製造に関する役割分担は不明確であったが,昭和56年頃からは,被告が図面作成
を行い,垣内商店が製作した製品を被告に納入するという分担がなされた。また,
垣内商店は,複数の工作所等にサイレントパイラーの部品の製造を下請けさせてお
り,土佐機械工業も,昭和54年ないし昭和55年頃まで主要部品の製造を請け負
っていた(乙24,証人P3,証人P6,被告代表者)。
イP3は垣内商店の従業員として,P4は被告の従業員として,それぞれサイ5
レントパイラーの図面作成等に関与していたが,その後いずれも土佐機械工業に転
職し,P3は,昭和53年11月7日から平成2年6月16日まで,及び平成3年
8月16日から現在まで,原告に勤務している(乙24,31ないし33,証人P
3)。
ウ昭和57年,被告の取引先であった中道機械産業株式会社につき会社更生手10
続開始決定がなされ,これに関連して,被告の従業員のうち複数名が,昭和58年
1月31日付けで被告を退職した(乙3,5)。
⑶原告による油圧式杭圧入引抜機の製造・販売の経緯等
ア土佐機械工業は,昭和57年頃,サイレントパイラーと同じ圧入原理を利用
する油圧式杭圧入引抜機の製造・販売を開始した。また,土佐機械工業は,P3を15
発明者として油圧式杭圧入引抜機に関する特許(特開平6-299555号)を取
得した。開発に先立ち,土佐機械工業は,被告の有する特許権等の権利を侵害しな
いよう,弁理士と相談して権利関係について調査を行った(甲3,4,証人P3)。
イ土佐機械工業は,昭和57年3月,株式会社ニューコーワンと合併するとと
もに,原告を設立し,生コン車事業を原告に譲渡して,自らは株式会社ニューコー20
ワンの商号で杭圧入引抜機の事業を行っていたが,平成17年3月,株主総会の決
議により解散するとともに,同年4月1日付けで,杭圧入引抜機の事業を原告に譲
渡し,以後,原告が,油圧式杭圧入引抜機の製造等を行った(甲2)。
⑷被告と原告との間における紛争の経緯
ア被告は,昭和58年,土佐機械工業に対し,同社の製品は当時被告において25
出願中であった特許(特願昭55-59123号)等の技術的範囲に属し,補償金
の支払請求をする所存であるとする通告書を送付し,同時期に,取引先に対し,「模
造品に対する警告のお知らせ」と題する書面(土佐機械工業の名称を挙げずに,サ
イレントパイラーの模造品を作っている会社に特許法等に基づく通知書を発したこ
と等を告げる内容のもの。)を送付した(甲15,16)。
イ被告が土佐機械工業に対する前記通告の根拠とした特許出願(特願昭55-5
59123号)については拒絶査定がなされ,被告はこれに対し不服審判を請求し
たが,特許庁は,平成10年2月27日付けで,特許異議申立人土佐機械工業が提
出した証拠により,本願発明は,出願前に公然実施された発明と同一であることが
認められるとして,本件審判の請求は成り立たないとする審決を行い,前記拒絶査
定を維持した(甲17)。10
ウ平成23年以降も,被告が原告の有する特許権について5件の無効審判を請
求するなど,原告と被告との間には特許権等を巡る紛争が継続して存在しており,
原告,被告及びその取引先等を含む業界においては,土佐機械工業の事業を譲り受
けた原告と被告との間に,特許権等に関する紛争があることは周知の事実であった
(甲20,39,証人P3,被告代表者)。15
⑸油圧式杭圧入引抜機の製品等について
ア昭和55年から60年頃,被告,原告及び中央自動車興業を含む複数の会社
が,油圧式杭圧入引抜機の製造・販売を行っていた。その基本的な原理は,上記⑴
のとおり既設杭を引き抜く力の反動を利用して新設杭を貫入するというものであり,
その用途や製造時期により細部の形状は異なるものの,多くは,複数の既設杭を下20
向きに掴む部分,一本の新設杭を保持し地中に貫入する部分及び動力部が一体とな
った形状を採ることが認められる(甲27,36,37,乙4,6,7,9ないし
20)。
イその後,多数の会社が油圧式杭圧入引抜機の事業より撤退し,平成29年の
時点で,高知県内で前記事業を行っている会社は,原告と被告のみであった(甲225
0,39,証人P3,被告代表者)。
⑹本件ウェブページ1及び2について
ア被告は,被告ウェブサイトにおいて,平成29年1月,被告グループの創業
50周年を記念するために「50周年記念サイト」と題するウェブページを公開し,
その中で,被告代表者が平成19年12月から平成23年12月までの期間に社内
報に連載した「●(省略)●」と題する自伝を,週1回,50回にわたり掲載した5
(以下「本件連載」という。)。本件ウェブページ1及び2は,本件連載のうち第
27回及び第28回に当たる(甲6,7,乙34,35)。
本件連載において,被告代表者は,自らの出生,成育歴,高校卒業後に勤務した
職場での出来事,結婚・家族歴,被告の前身となる会社の創業,サイレントパイラ
ーの着想及び開発までの試行錯誤,その後の被告の発展,被告代表者の理念等につ10
いて,概ね時系列に沿って詳細に述べている。
その中でも,サイレントパイラーについては,本件ウェブページ1及び2の記載
に至るまで,着想(第16回),垣内商店との共同開発(第17回ないし第20回),
本格的な事業展開(第21回ないし第23回),被告の設立及び方向性の確立(第
24回,第25回),被告が主導して基礎工事会社を組織する「圧入業界」を確立15
したこと,油圧式杭圧入引抜機の製造販売に参入した会社がほぼすべて早期に撤退
したこと(第26回)等の経緯について,多くの分量を割いている。
イ被告は,本件連載の第27回である本件ウェブページ1において,「革新的
な自走式パイラー誕生」との表題を付して,まず圧入機分野に参入してきた他社の
ほぼすべてが土俵に上がる前に撤退したことを述べた上で,本件掲載文1として,20
「ただ一社だけ,当社の下請けで加工を任せていた高知の小さな会社がサイレント
パイラーのコピー機をつくって売り始めた。」と記載し,これも考えようによって
はマイナスばかりでもなく,当社が発明した機械であっても,一社で市場を完全に
独占するのはやはり罪悪であると述べた上で,本件掲載文2として,「いまでもこ
の会社は平然とコピー機を製造しているが,業界の小さな“鬼っ子”にむしろ感謝25
している。」と記載している。
本件ウェブページ1の後段において,被告は,どんな会社が参入して来ようが,
勝負は最初から決していたこと,昭和56年6月,自走式パイラーを発売したこと
が被告の転機になったこと,取引先であった東京の機械商社が突然倒産したこと,
これをきっかけに,被告代表者が社内の引締めを行ったこと等を記載している(甲
6)。5
ウ被告は,本件連載の第28回である本件ウェブページ2において,「杭圧入
の総合エンジニアリング企業へ」という表題を付して,取引先の倒産に危機感を感
じ,社内の引締めを決断し,すべての営業所に戒厳令を出したこと,これでほとん
どの営業幹部が辞めることになったことを述べた上で,本件掲載文3として,「辞
めた社員の一部は,当社の機械のコピー機をせっせとつくっている件の会社に引き10
抜かれた。彼らが当社にいた頃は,『機械の値段を下げて一気にそこを潰しましょ
う』などと言っていたその相手である。」と記載し,後段で,給与の高い営業幹部
が辞めて利益率は大幅に改善され,被告は株式上場への道を一気に駆け上ったこと
等を記載している(甲7)。
エ原告は,平成29年9月頃,本件ウェブページ1及び2に接した取引先から,15
本件掲載文1ないし3について指摘を受けた(甲20,証人P3)。
2争点⑴(本件掲載文1ないし3は原告の営業上の信用を害する虚偽の事実か)
について
⑴本件掲載文1ないし3の対象について
ア本件ウェブページ1及び2の閲覧者について20
本件ウェブページ1及び2が掲載された被告ウェブサイトは,不特定多数の一般
人に対して公開されているが,本件ウェブページ1及び2を含む本件連載が「50
周年記念サイト」内のコンテンツであること,被告代表者の自伝であること,社内
報における連載記事の再掲であること等から,本件ウェブページ1及び2の閲覧者
の多くは,被告の事業内容,あるいは被告代表者の業績や人柄に関心を抱く者,具25
体的には被告の関係者や取引業者,競争相手,油圧式杭圧入引抜機を使用した工事
を行う工事業者といった当該業界の者が中心になると考えられる。
したがって,これらの者が,本件掲載文1ないし3に接した際,本件連載中の他
の記事と合わせてどのような認識を持つかについて検討すべきことになる。
イ当該業界の認識について
平成29年当時,油圧式杭圧入引抜機の製造販売事業を行う会社は,高知県5
内においては原告及び被告以外には存在しなかったこと,昭和54年から55年頃
まで,土佐機械工業がサイレントパイラーの部品の製造の下請けをしていたこと,
P3が垣内商店でサイレントパイラーの図面作成等に関与した後,土佐機械工業を
経て原告に勤務していること,被告が土佐機械工業に対し同社の製品は被告の発明
の技術的範囲に属する旨を通告したことは前記1で認定したとおりであり,原告の10
資本金が2300万円であるのに対し,被告の資本金が80億5567万0215
円であること(甲1,5)を考慮すると,被告代表者であるP1が,本件掲載文1
ないし3として,「当社の下請けで加工を任せていた高知の小さな会社」,「この
会社は平然とコピー機を製造している」,「当社の機械のコピー機をせっせとつく
っている件の会社」と記載した際に,土佐機械工業又は原告を指す意図でしたこと15
は明らかである。
そして,上記各事情は,当該業界の者にとっては知り得ることであったと考えら
れるし,前記1で認定したところによれば,被告と土佐機械工業及び原告との間に
は,長年にわたって特許権等に関する紛争があり,これらの事情は,当該業界の者
にとって周知であったとされるのであるから,当該業界の者は,本件掲載文1ない20
し3に記載されている会社が土佐機械工業及びその事業を承継した原告を指すとい
うことを容易に理解するものと解されるし,現に,原告の取引先は,本件ウェブペ
ージ1及び2に接して原告のことを指すものと理解し,原告に連絡しているのであ
る。
被告は,本件掲載文3について,原告ではなく中央自動車興業を指すもので25
あると主張する。
しかし,「件の会社」という表現は,以前に言及された会社を指す表現であると
解するのが当然であるところ,中央自動車興業は本件連載において本件掲載文3以
前に一度も言及されておらず(乙35,被告代表者),中央自動車興業が高知県内
に本店又は支店を有していたことはないことから(甲28),第28回である本件
ウェブページ2の「件の会社」については,直前の第27回である本件ウェブペー5
ジ1にある「平然とコピー機を製造販売している高知の小さな会社」を受けた表現
と解するのが相当であり,逆に,これを中央自動車興業と解する余地はないといわ
ざるを得ない。
⑵「コピー機」との表現について
ア「コピー」という表現は,一般には,同一性を保ちつつ,転写,複製,演奏10
等を行うことと解され,権利者の許諾を得ずに著作物,商標,意匠あるいは商品形
態についてのコピーをした場合,多くの場合に権利侵害が成立することから,コピ
ー品の製造販売や輸入が違法であることは,一般的な警告の対象とされている(甲
21ないし26,33ないし35,乙22)。
特許権との関係でコピーという表現が使われることは多くはないが,上述した同15
一性の保持を前提とすると,相手方の製品が自身の製品のコピーであると表現する
ことができるのは,外観,構造等が同一,あるいは区別し得ない程度に類似してい
るような場合か,少なくとも,相手方の製品が,自身の有する特許発明の技術的範
囲に属し,特許権侵害が肯定されるような場合に限られると解される。
そうすると,外観等が類似はしていても,全体としては同一とはいえない場合や,20
機能や基本となる原理が類似していても,特許発明の技術的範囲に属するのではな
い場合に,これをコピーと表現した場合,本来は特許法その他の法律により違法と
される範囲外の行為について,違法との印象を与える内容を告知することになる。
イ本件について見るに,原告の製品は,被告のサイレントパイラーと同じ圧入
原理を利用する油圧式杭圧入引抜機であるが,この基本原理自体は,サイレントパ25
イラーの開発以前である昭和35年から公知であったものであるし,原告の製品の
形状は,サイレントパイラーの形状と一部類似することが認められるが,油圧式杭
圧入引抜機という機械の機能を発揮するためにはある程度決まった構造・形状を採
らざるを得ないと合理的に推測できるのであって,他の会社がかつて製造していた
油圧式杭圧入引抜機も,サイレントパイラーと主要な構造や形状が類似していたこ
とが認められる。また,サイレントパイラーの図面作成に携わったことのあるP35
らが,その後土佐機械工業へ転職したことが認められるが,同社は油圧式杭圧入引
抜機の開発に際し,被告の有する特許権等の権利を侵害するおそれがないか弁理士
と相談して調査したとされることは前記認定のとおりである。
そして,被告の特許申請については拒絶査定が確定し,土佐機械工業において杭
打込引抜機についての特許を取得していることは既に認定したとおりであって,本10
件において,土佐機械工業または原告が自らの杭打込引抜機を製造販売することが,
特許権を含む被告の何らかの排他的権利を侵害すると認めるに足りる事実の主張,
立証はなされていない。
ウ以上によれば,被告は,原告の製品が,被告の製品をコピーしたものである
と表現し得る場合ではないにもかかわらず,本件掲載文1ないし3において,原告15
の製品を「コピー機」と記載したものであるから,これは,虚偽の事実に当たると
いうべきであるし,既に検討したところに照らし,競争関係にある原告の営業上の
信用を害する行為に当たるというべきである。
エ被告は,本件連載が被告代表者の自伝であるという性質から,主観的であり
価値判断を含む記載であることが考慮されるべきであって,本件ウェブページ1及20
び2の全体の表現ぶりや,本件掲載文2の「当社が発明した機械ではあるが,一社
で市場を完全に独占するのはやはり罪悪である。」,「業界の小さな“鬼っ子”に
むしろ感謝している。」等の表現から,「コピー機」を作っているとする会社を否
定的に評価するものではないと主張する。
しかし,本件連載を通じ,被告代表者がサイレントパイラーを発明したことが強25
調されており,本件ウェブページ1においても,「世界ではじめて杭圧入機を実用
化し,世の中になかった「圧入業界」をつくり」との記載がある中で,本件掲載文
2及び3においては,「平然とコピー機を製造している」,「当社の機械のコピー
機をせっせとつくっている」との表現がなされているのであるから,「コピー機」
という表現が,被告の発明品であるサイレントパイラーの技術を,被告の権利を侵
害し,あるいは,違法な手段で盗用・模倣したという否定的な文脈で用いられてい5
ることは明らかであり,この表現に接した者は,原告の製品が被告の製品の模造品
や模倣品,違法な権利侵害品であるとの印象を受けるものと認められる。
上記被告の主張を採用することはできない。
⑶「引き抜かれた」との表現について
本件ウェブページ2の前半は,昭和58年頃,被告の取引先の一つが会社更生手10
続開始決定を受けたことをきっかけに,被告代表者が被告の営業担当者に対して社
外への外出を禁止するという措置を執り,これに反発した営業幹部の多くが退職し,
その一部は「件の会社」に引き抜かれたというものであり,被告代表者の措置に反
発した営業幹部の退職が先行し,引抜きにより退職したとするものではない。
しかしながら,本件ウェブページ1の記載を前提に本件ウェブページ2を見た場15
合,本件掲載文3の「当社の機械のコピー機をせっせと作っている件の会社」は土
佐機械工業又はその事業を承継した原告と解されることは前記認定のとおりである
し,「コピー機をせっせと作っている件の会社」という否定的表現の中で「引き抜
かれた」という表現が用いられれば,これに接する者は,土佐機械工業又は原告が,
違法,不当な手段を用いて,被告の従業員を転籍させたとの印象を抱くものと解さ20
れる。
本件において,昭和58年1月31日付けで退職した被告の従業員が,土佐機械
工業に転職したとの事実は認められないし,土佐機械工業又は原告が被告の従業員
に対して違法・不当なはたらきかけをしたという事実も認められないから,被告が,
本件掲載文3に「件の会社に引き抜かれた」と記載したことは,競争関係にある原25
告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したことになる。
⑷まとめ
以上より,被告は、本件掲載文1ないし3を被告ウェブサイトに掲載し,競争関
係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布したもの(不正競争防止法
2条1項15号)と認められる。
一方,本件ウェブページ1及び2のうち本件掲載文1ないし3以外の部分につい5
ては,虚偽の事実であることや原告の営業上の信用を害することの主張立証がある
とはいえない。
3争点⑵(本件ウェブページ1及び2の表示差止請求及び謝罪広告掲載請求)
について
⑴表示差止請求10
被告は,平成30年10月3日,前記「50周年記念サイト」を被告ウェブサイ
ト上から削除したことが認められるが,被告代表者は,尋問において削除の理由に
つき,「消してないです。終わったからやめたわけです。」と述べ,本件掲載文1
ないし3の内容自体には問題がないとの認識を示した。また,被告代表者は,尋問
において,自らがサイレントパイラーの発明者であることを繰り返し強調し,圧入15
原理を利用する油圧式杭圧入引抜機はすべて「コピー」だと思うと述べた。
そして,本件連載は,前記「50周年記念サイト」のために作成されたものでは
なく,被告の社内報における連載の再掲であったから,被告が,被告グループの5
0周年記念とは別の機会に,本件掲載文1ないし3を含む本件連載を被告ウェブサ
イトに掲載するおそれも一定程度認められる。20
したがって,前記2で検討したところによれば,本件ウェブページ1及び2の表
示の差止めを求める原告の請求は,本件掲載文1ないし3の表示の差止めを求める
限度で,理由があることになる。
⑵謝罪広告掲載請求
原告は,信用回復措置として別紙謝罪広告目録記載3の新聞に同目録記載1のと25
おりの謝罪文を同目録記載2の要領で掲載するよう求めるが,本件掲載文1ないし
3の内容及び公表の態様等を総合すると,本件においては,被告の故意・過失を論
じるまでもなく,当該謝罪広告を掲載する必要性までを認めることはできない。
4争点⑶(原告の損害)について
原告は,被告が本件ウェブページ1及び2を被告ウェブサイトに掲載した不正競
争により,営業上の信用を害され,1000万円を下らない損害を被った旨主張す5
る。
しかしながら,本件においては,取引先から本件ウェブページ1及び2について
の指摘があったことを認定し得るに止まり,原告の営業上の信用が害された結果,
金銭をもって賠償すべき損害が原告に生じたことについての具体的主張,立証は何
らなされていない。10
したがって,本件においては,被告の故意・過失を論じるまでもなく,原告の損
害賠償請求は理由がない。
5結論
以上によれば,原告の請求のうち,不正競争防止法2条1項15号,3条1項に
基づき,本件ウェブページ1及び2のうち本件掲載文1ないし3の内容を被告ウェ15
ブサイトに表示することの差止めを求める部分については理由があるから認容し,
その余の請求は理由がないからいずれも棄却する。
よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部20
裁判長裁判官
谷有恒25
裁判官
野上誠一5
裁判官10
島村陽子
(別紙)掲載文目録
1ただ一社だけ,当社の下請けで加工を任せていた高知の小さな会社がサイレ
ントパイラーのコピー機をつくって売り始めた。
2当社が発明した機械ではあるが,一社で市場を完全に独占するのはやはり罪
悪である。いまでもこの会社は平然とコピー機を製造しているが,業界の小さな
“鬼っ子”にむしろ感謝している。
3辞めた社員の一部は,当社の機械のコピー機をせっせとつくっている件の会10
社に引き抜かれた。彼らが当社にいた頃は,「機械の値段を下げて一気にそこを潰
しましょう」などと言っていたその相手である。
別紙1
●(省略)●
別紙2
●(省略)●5
別紙謝罪広告目録
●(省略)●

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