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平成15年10月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成13年(行ウ)第10号損害賠償請求事件
口頭弁論の終結の日 平成15年8月5日
主文
1 被告らは,和歌山市に対し,各自139万1460円並びにこれに対する被告Aにお
いては平成14年1月13日から同B及び同Cにおいては同月11日から各支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
主文と同旨
2 被告ら
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告らの負担とする。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
原告らは,平成13年当時和歌山市長であった被告A並びに同市の職員であっ
た被告B及び被告Cが,平成13年4月5日から同月12日までした海外旅行(以下
「本件旅行」という。また,被告B及び同Cの旅行については,特に「本件出張」とも
いう。)のために,同市が被告B及び同Cに対してした合計139万1460円の旅費
の支出につき,本件出張は,職員海外派遣研修に名を借りて被告Aの私的な本件
旅行に随行した観光旅行にすぎない違法なものであり,本件出張を命じた当時の
同市長である被告A並びに本件出張をして公金を費消した被告B及び同Cには,そ
れぞれ同市に対する共同不法行為が成立し,同市に対し連帯して損害賠償義務を
負うべきところ,同市長は,被告らに対する上記共同不法行為に基づく損害賠償請
求権の行使を違法に怠っているとして,地方自治法242条の2第1項4号(平成14
年法律第4号による改正前のもの)に基づき,同市に代位して,被告らに対し,同
市の被告らに対する共同不法行為による損害賠償請求権に基づき,本件出張に
おいて支出された旅費相当額の139万1460円並びにこれに対する不法行為の
日である本件出張の後であり本件訴状送達の日の翌日である被告Aにおいては
平成14年1月13日から,被告B及び同Cにおいては同月11日から各支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の同市への支払を求めた。
これに対し,被告らは,被告B及び同Cによる本件出張は,職員海外派遣研修
旅行として適正かつ妥当な内容のものであり,単なる観光旅行ということはでき
ず,違法なものではない等と主張し,共同不法行為の成立を否認し争っている。
2 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲1の1・2・4・7,2,3,4の
1,5,7ないし9,22の1・3ないし7,乙1,10,18,19,30,32,33,37ないし
39,被告C及び同B各本人)及び弁論の全趣旨により,容易に認めることができ
る。
(1) 当事者
原告らは,和歌山市内に居住する住民である。
被告Aは,平成11年1月から平成14年7月まで,和歌山市長であった。
被告B及び同Cは,いずれも和歌山市職員であり,被告Bは,平成13年1月
から和歌山市企画部長の地位にあり,被告Cは,本件旅行のされた平成13年4
月当時,和歌山市企画部大学設置準備室総務調整班長の地位にあった。
(2) 本件旅行に至るまでの事実経過
被告Bは,和歌山市助役Dから,被告Cは,同Bから,平成13年3月26日,
平成13年度和歌山市職員海外派遣研修の研修員としてそれぞれ推薦を受け,
同年4月2日,派遣期間を同月5日から同月12日まで,派遣先をオランダ,イギ
リス,アメリカ外の予定,行程を別紙1のとおりとし,支出予定額を140万円,支
出科目を総務費,総務管理費,研修費,旅費及び外国出張旅費として,同市職
員研修運営協議会の審査を受け,承認された。
同月2日,被告Aは,同B及び同Cに対し,同月5日から同月12日までイギリ
ス,北アイルランド,オランダ及びアメリカを訪問場所とし,北アイルランドマギー
大学及びボストンバブソンカレッジの視察を研修内容とする平成13年度和歌山
市職員海外派遣研修(行程は別紙1のとおりである。)に参加する用務につき,
出張を命令した(以下「本件出張命令」という。)。
被告B及び同Cは,同月3日,和歌山市に対し,本件出張命令の旅費として,
被告Bにおいて69万9580円,被告Cにおいて69万1880円を請求し,同日,
同市から同市職員等旅費支給条例に基づき,上記金額(合計139万1460円)
の支給を受けた。
被告A,和歌山市の和歌の浦迎賓館・石泉閣整備事業に関して同市に建物を
賃貸しているE及び同市の指名業者であるF建設株式会社(以下「F建設」とい
う。)の代表取締役であるFは自費で,被告B及び同Cは,和歌山市から支給さ
れた上記旅費に自費(被告Bと同Cが自費で支出した額の合計は40万8540円
である。ただし,被告B及び同Cそれぞれの支払額には争いがある。)を併せて,
同月5日から同月12日まで,本件旅行をした。なお,本件旅行の旅費は,1人
当たり90万円であった。
(3) 本件旅行後の事実経過
被告B及び同Cは,和歌山市に対し,平成13年4月18日,視察先をアルスタ
ー大学(マギー及びジョーダンスタウンキャンパス),バブソン大学,ハーバード
大学ほかとする本件出張に関する復命書を提出した。
被告Bは,同月27日,市立大学構想に関する調査検討特別委員会におい
て,本件出張についての報告を行った。
被告Aは,同年6月14日,同市市議会において,本件旅行の概要について報
告した。
(4) 住民監査請求と同請求の棄却
  原告らは,平成13年9月28日,本件出張に際してされた旅費の支出につき,
公金支出として違法な点があるとして,和歌山市監査委員に対し,地方自治法2
42条1項に基づく住民監査請求を行った。
同市監査委員は,前記住民監査請求を棄却し,同年11月26日,これを原告
らに通知した。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件旅行及び本件出張の性格ないし実態
(原告らの主張)
本件出張は,後述のとおり,その実質は,自らの親しい友人2人を伴った被告
Aの私的な本件旅行の世話をさせるため,無計画に,海外派遣研修の名目で被
告B及び同Cに対して本件出張命令により出張を命じて,被告Aに随行させたも
のであり,また,旅行日程上もおよそ公金の使途としてふさわしい公務性のない
ものであり,その成果を活用したという状況もないから,単なる観光旅行にほか
ならないというべきである。
ア 本件旅行及び本件出張の計画の私的性格
(ア) 本件旅行は,被告Aが計画し,被告B及び同Cを同行させる形で本件出
張命令を出したものであり,また,被告B及び同Cの同行によって,旅行の
日程が変更されたという事情もないから,本件旅行と本件出張は不可分一
体のものである。したがって,本件出張が旅費を公金から支出するのにふ
さわしい公務といえるためには,被告A計画にかかる本件旅行に公務性が
なければならない。
  しかし,被告Aは,私費で本件旅行をし,また,友人5名を誘い,そのうちの
2名である和歌山市の指名業者であるF建設の代表取締役であるF及び同
市に対する債権者であると同時に被告Aと親しい間柄にあるEという当時の
市長として公平に職務に専念することが求められる立場の者の倫理として
必要以上に親しくなることが許されない者を全行程に同行させたものであ
る。殊に,被告Aは,平成12年5月14日から同月28日までのリッチモンド
市との姉妹都市提携親善交流のための渡米並びに平成13年2月16日か
ら同月22日までのニュージーランド及びオーストラリアへの花いっぱい運
動視察旅行に際し,Eを同行させており,本件旅行は,被告AとEとの3度目
の海外旅行であることからすると,被告AとEは,本件旅行当時,親密な関
係にあったということができる。以上の事実にかんがみると,本件旅行は,
被告Aが,和歌山市の利害関係者であるばかりでなく,親密な関係にある
女性を同行させたものであるから,私的な観光旅行というほかなく,公務性
に欠ける。
  したがって,本件旅行と一体の関係にある被告B及び同Cの本件出張も,
公務性に欠けるというべきである。
(イ) 前提事実(2)のとおり,被告B及び同Cに対する海外派遣の決裁が得ら
れたのは,平成13年4月2日であるところ,被告B及び同Cは,この決裁に
先立つ同年3月21日,被告B名義で,本件旅行の代金のうち40万円を支
払った。このことは,とりもなおさず,被告Aの私的旅行である本件旅行が
大前提としてあり,被告B及び同Cの本件出張は,本件旅行とともに既定の
事実であり,海外派遣のための決裁の手続はあくまで公金を合法的に支出
するための方便であったことを示すものである。
(ウ) 被告らは,後記のとおり,本件出張の行程は,被告Cが専ら旅行会社と
交渉の上定めたものであり,被告Aと打ち合わせなどはしておらず,まし
て,同被告の意向が働いたものでもない旨主張する。しかしながら,本件旅
行を発案したのは,被告Aにほかならず,同被告と被告Cとの間に,本件旅
行の行程を決定するに当たり,何らの打ち合わせもされていなかったという
ことはあり得ない。
イ 本件旅行及び本件出張の計画性の欠如
(ア) 本件出張に当たっては,大学設置準備室に海外出張用の予算がなかっ
たことから,職員研修所の海外視察研修の予算を流用しており,このことか
らみても,大学設置準備室において,海外の大学の視察を予定しておら
ず,本件出張について,実施のごく直前まで何ら計画されていなかったこと
は明らかである。
(イ) 前提事実(2)のとおり,被告Bと同Cについて本件出張にかかる職員海外
研修派遣者の推薦がされたのは,本件旅行の出発日である平成13年4月
5日のわずか10日前である同年3月26日であった。また,被告らの主張に
よれば,G株式会社による本件出張の見積は,同月27日にされ,同年4月
2日の段階で,「至急」という形で被告B及び同Cに対する本件出張命令の
決裁がされている。このように,本件出張は,形式的にみても,出張者及び
旅行日程が,本件旅行の実施される直前に決まったものにほかならず,海
外視察のための準備が十分にされたものとは考えられず,何ら計画性のな
いものである。
  したがって,被告らの主張を前提としても,被告B及び同Cは,何ら計画性
のない本件出張により,被告Aの私的旅行である本件旅行に単に随行した
にすぎないといわざるを得ない。
(ウ) 被告らは,本件出張の訪問先であるアルスター大学及びバブソン大学
に対し,本件出張に先立ち,調査事項等を送付するなど,本件出張におい
て成果を上げるための準備を何らしていなかった。
ウ 本件出張の必要性の欠如
(ア) 本件旅行の目的は,和歌山市における市立大学設置構想に関する海外
大学の視察にあるとされている。しかし,同市における市立大学設置構想
については,平成12年12月,公立和歌山創造大学(仮称)設置基本計画
書が作成された。また,同市市議会の市立大学設置構想に関する調査検
討特別委員会の議事録によれば,本件旅行がされた平成13年4月の時点
で,広域連合設置にかかる規約の作成,公立大学開設準備委員会の設
置,基本計画書の内容等について周辺市町(1市9町)との協議を行う「仮
称公立大学設置協議会」を立ち上げるための協議を行い,周辺市町におい
ては同協議会への参加について概ね了解の感触を得ており,検討してもら
っている段階であるとされる。このように,大学設置の構想が固まり,周辺
市町の協力も取り付けた段階において,大学の基本構想に関して,本件出
張により,海外の大学を視察する必要性があるとは考えられない。
(イ) また,被告Bは,平成13年1月に同市企画部長に就任した後,国内の大
学を視察することなく,本件出張により海外の大学の視察をしていることに
なり,その必要性には疑問がある。
(ウ) 加えて,本件出張は,大学視察目的であったにもかかわらず,当初よ
り,オランダのキューケンホフ公園及びアメリカのラスベガスが訪問先とさ
れていた。被告らは,これをまちづくりの参考のためと称しているが,いず
れも世界的な観光地であり,しかも,キューケンホフ公園は,例年3月下旬
ころから5月下旬ころまでの期間に限って開園されている。
したがって,本件出張及びこれを含む本件旅行の目的が,これらの観光
を中心としていたことは明らかである。
エ 本件出張の目的と本件旅行の日程及び内容との乖離
(ア) 本件旅行における平成13年4月7日のキューケンホフ公園視察及び同
月8日のアムステルダム市内視察は,行政当局者との懇談のない通常の
観光コースを見ただけのものであり,観光旅行と何ら変わらない。
同月9日のハーバード大学視察は,大学当局者との懇談もない単なる施
設見学にとどまり,単なる観光旅行と異なるところはない。
同月10日のラスベガス滞在は,全くの自由行動とされており,行政当局
者との懇談のない単なる観光旅行にすぎないことは明らかである。
(イ) 被告らの主張によれば,本件出張の目的とされる海外大学の視察に当
たるものは,平成13年4月6日のアルスター大学視察と同月9日のバブソ
ン大学の視察であるが,前者については,視察時間が午前9時から午前1
1時までの2時間にすぎず,被告Cの復命書の記載内容も大学の概要紹介
程度にすぎない。また,後者についても,視察時間が午前11時からの1時
間程度にすぎず,被告Cの復命書の記載内容も,大学の概要紹介程度に
すぎない。
加えて,被告Bが,本件出張後提出した「海外研修で学んだこと」と題す
る文書は,本件出張に行かなくても書ける程度の抽象的なものにすぎな
い。
以上のとおり,本件出張の目的に沿う大学の視察は,行程表上,全行程6
泊8日のうちわずか3時間程度と短く,現に,被告B及び同Cが,本件出張
後,各視察先の概要紹介程度にすぎない報告文書を提出したにとどまること
からすれば,本件出張における上記視察の行程は,単なる見せかけにすぎ
ず,真の目的は,観光にあったことが明らかである。
オ 本件出張の成果が活用されていないこと
被告B及び同Cは,訪問した大学から資料を持ち帰ってはきているが,帰国
後翻訳をしていない資料が数多くあり,帰国後において,本件出張の成果は
活用されていない。このことからしても,本件旅行の主たる目的が大学設立の
ための視察にあったとみることはできない。
(被告らの主張)
本件旅行当時和歌山市長であった被告Aが,同市と利害関係をもつ者と必要
以上に親しくなること及び同被告が私費でF及びEと本件旅行をしたことと,同被
告の本件旅行の公務性は別問題である。すなわち,被告Aは,必要な視察であ
っても,公式訪問のような公的行事を除き私費で視察を行っていたのであるし,
本件旅行についてみても,後記アないしウのとおり,その目的,計画及び内容に
おいて十分公務性を有するものである。
まして,被告B及び同Cは,本件旅行において,被告Aやその同行者らの単な
る随行として渡航したものではなく,あくまで,本件出張の出張目的である研修
成果をあげるべく渡航したものであり,被告B及び同Cの本件出張については,
職員等海外派遣研修として適正かつ相当な内容のものであるから,公務性に欠
けるところはないというべきである。
ア 本件旅行の計画について
(ア) 被告Aは,平成13年1月ころ,大学開設準備委員を務める大学教授及
び事業家から,バブソン大学(推薦者は,H株式会社I顧問及びJ立教大学
教授)及びアルスター大学(推薦者はK L株式会社代表取締役)等の海外
の大学を視察することを勧められ,そのころから,本件旅行を計画した。ま
た,被告B及び同Cは,同年2月上旬ころ,同Aの指示により,本件旅行を
計画するに当たり上記両大学の調査を開始した。そして,被告B及び同C
は,同月下旬ころ,被告Aから本件出張を勧められ,そのころから,市議会
の開催により繁忙を極める中,同年3月26日ころまでの間,同市職員海外
研修の審査を受けるための論文を作成した。そのため,被告B及び同Cが
研修員として推薦を受けたのが,同日となった。
  また,被告Cは,同Bと適宜協議しつつ,同月上旬ころから,本件出張につ
き,上記大学関係者及び旅行会社との打ち合わせを開始し,被告B及び同
Cが,本件旅行にかかる費用のうち私費で負担する予定であった各20万
円を,被告Aが90万円を支払ったことを受けて,旅行会社から,同月23日
に本件旅行の日程企画書が,同月27日に本件旅行の見積書が,それぞ
れ提出された。なお,被告Aは,繁忙のため,旅行日程の策定に関しては
全く関与することができなかった。
(イ) 普通地方公共団体の会計年度は,4月1日に始まり,翌年3月31日に
終わるとされているところ(地方自治法208条),本件出張は,平成12年度
の職員海外研修のための予算が既に執行済みであったことから,平成13
年度の職員海外研修として行われることとなったため,その支出の原因と
なる支出負担行為を同年4月1日以降とする必要があった。このような事務
処理上の要請から,被告Aは,本件出張命令の決裁時期を同年4月2日と
せざるを得なかった。
以上のとおり,本件旅行及び本件出張は,大学開設準備委員を務める大
学教授及び事業家から視察を勧められたバブソン大学及びアルスター大学を
視察するために,本件旅行については約3か月,本件出張についても少なくと
も約2か月にわたり計画されたものであり,書類の作成日付だけを見て,本件
出張には計画性がないとする原告らの主張は失当である。
イ 本件旅行の目的
(ア) 和歌山市における市立大学設置構想は,平成13年7月21日に開催さ
れた第1回公立和歌山創造大学(仮称)開設準備委員会会議において,平
成17年4月の開学を目指し,平成12年12月に策定された基本計画書を
叩き台として,より良い計画をしていくこととの方向付けがされた。一方,周
辺市町との協議については,平成14年5月の合意を目指していたものであ
る。したがって,本件旅行当時,市立大学設置構想の基本構想は確定され
たものではなく,海外の大学の実情を視察する本件旅行の必要性は存在し
ていた。
(イ) 被告Bは,和歌山県職員として在籍中に,同県立医科大学の事務局職
員に配属されていたから,国内の大学のシステムについては十分理解して
いた。したがって,同被告が,国内の大学を視察していなかったことが,本
件出張の必要性を失わせることにはならない。
(ウ) 被告ら(前記アのとおり,被告A及び同Bは,市議会開催中で繁忙であっ
たことから,専ら被告Cにおいて主として本件旅行の行程作成作業を行っ
た。)は,当初,本件旅行につき,アルスター大学(北アイルランド所在)及
びバブソン大学(ボストン所在)のみを視察する最短行程での渡航を計画し
ていたところ,旅行会社より,エコノミークラスを利用した場合,日本,イギリ
ス(北アイルランド),アメリカ,日本と直接視察予定地を結ぶ行程の航空運
賃1人当たり82万3620円よりも,日本,アムステルダム,イギリス(北アイ
ルランド),アムステルダム,ボストンとオランダのアムステルダムを経由す
る場合の航空運賃1人当たり65万円の方が,航空会社の提携の関係から
格安になると指摘を受けた。そのため,被告らは,本件旅行において,アム
ステルダムを経由することとした。そして,アルスター大学及びバブソン大
学の訪問及び各大学の教授らとの会見日程が,それぞれ同年4月6日及
び同月9日と決まったこと,アムステルダムでは1泊2万円であるのに対し,
ボストンでは1泊3万2000円と前者の方が安価であることから,両日の間
を利用して,同市が取り組んでいる重点政策の1つである「花いっぱいのま
ちづくり」及び平成14年5月同市で開催予定となっていた全日本花いっぱ
い大会のために,花いっぱいの街として世界的に有名なアムステルダムの
街を視察することとした。
  他方,ラスベガスの訪問については,同市の繁華街は,和歌山市の中心
街同様寂れているものの,商店街は,その活性化を図るために,約80億
円の投資をしてイルミネーション・ショーを開催するなどしており,まちづくり
や中心市街の活性化のために十分参考になるものと思料された。また,本
件旅行の行程にラスベガスを加えても,航空運賃に差異はなく,同地にお
ける宿泊費合計4万2000円と空港と市街地との間の交通費合計2万600
0円が増額するだけであった。そこで,被告らは,本件旅行の主たる目的で
はないものの,和歌山市の活性化の参考とするために,ラスベガスも視察
することとした。
  したがって,両市の視察には,和歌山市の活性化のための方策の参考に
するという目的があるのであり,また,職員が見聞を広め,教養を深めると
いう職員研修の目的に資するものでもあるから,両市が世界的な観光地だ
からといって,観光目的で本件旅行をしたものということはできない。
ウ 本件旅行の内容と目的の関連性
(ア) 前記イ(ウ)のとおり,本件旅行において,アムステルダム及びラスベガス
を訪問することは,本件旅行の日程上及び経費上の必要性並びに和歌山
市の活性化のための方策の参考にするという目的があり,また,職員が見
聞を広め,教養を深めるという職員研修の目的に資するものでもあるから,
両市の訪問をもって,本件旅行を観光旅行ということはできない。
(イ) 被告らの本件旅行の実際の行程は,別紙2のとおりであり,被告らは,
本件旅行において,平成13年4月6日午前9時から11時ころまでの約2時
間,アルスター大学マギーキャンパスを視察し,M教授などから大学等に
関する説明を受け,同日午後2時から3時30分ころまでの約1時間30分,
同大学ジョーダンスタウンキャンパスを視察し,N教授等から高等教育にお
ける起業家精神に関する説明を受け,同月9日の午前9時30分から10時
30分ころまでの約1時間,アメリカ合衆国ボストンのハーバード大学の施
設を見学し,大学を核としたまちづくりを見た後,同日午前11時から午後1
時30分ころまでの約2時間30分,バブソン大学を視察し,O教授から同大
学等に関する説明を受けた。そして,被告らは,これらの各大学から多数の
資料を持ち帰り,被告Cにおいて翻訳できるものは翻訳し,一部を和歌山
市国際交流課の職員に翻訳してもらうなどして,今後の役に立てるように保
存した。
(ウ) 以上のとおり,本件旅行においては,実質8日間のうち飛行機を10回乗
り継ぎ,44時間機中に滞在するという強行日程の下,中心目的である大学
の視察については,4箇所を実質約7時間にわたって視察研修し,併せて,
まちづくりの参考として,アムステルダム及びラスベガスを訪問し視察した
のであるから,その旅行内容は,職員の研修としても相当な内容のもので
あったというべきである。
(2) 被告らに共同不法行為が成立するか。
(原告らの主張)
ア 被告Aは,本件出張が,前記(1)の原告らの主張のとおり,観光旅行にすぎ
ず,公金の使途としてはおよそ許される余地のないものであることを認識しつ
つ,職員海外派遣研修を名目として,被告B及び同Cに対して,本件出張命令
を出した上,本件旅行のための旅費を被告B及び同Cに請求させ,和歌山市
職員等旅費支給条例に基づき支出させたのであり,このような被告Aの行為
は,その指揮監督・職務命令権限を逸脱してされた違法なものであることは明
らかである。
イ 他方,被告B及び同Cは,本件旅行が前記(1)の原告らの主張のとおり,観光
旅行にほかならないという事実を認識しつつ,本件出張命令を受けて本件旅
行の旅費を請求し,和歌山市からその旅費の支給を受け,本件出張によりこ
れを観光旅行に費消した。
ウ 以上の被告らの行為は,同市に対する共同不法行為に該当するものという
べきであり,被告らは,連帯して同市に対して,本件旅行において支出された
旅費相当額である139万1460円の損害賠償義務を負うべきである。
(被告らの主張)
原告らの主張は争う。
前記(1)の被告らの主張のとおり,本件出張は,職員の出張として,適正かつ
妥当な内容のものであり,原告らの主張は,その前提を欠く。
また,被告B及び同Cは,本件旅行の当初,被告Aに同行したF及びEが,本
件旅行に同行するということを,同人らが関西国際空港の搭乗ゲートを被告らと
一緒に通るまで知らなかったのであり,まして,本件旅行が違法なものであると
の認識はなかった。
(3) 和歌山市が被告らに対して損害賠償請求権を行使しないことが,違法に怠る
事実に該当するか。
(原告らの主張)
前記(2)原告の主張のとおり,被告らは,和歌山市に対し,共同不法行為に基
づく損害賠償請求権を有するところ,和歌山市長は,被告らに対し,その行使を
違法に怠っている。
(被告らの主張)
原告らの主張は争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件出張の性格ないし実態)について
(1) 認定事実
前提事実(2),(3)のほか,証拠(甲1の1ないし7,2,3,4の1ないし4,5,11
ないし13,22の1ないし7,24,25,26の1・2,乙1,2の1ないし4,4の1・
2,7ないし10,16の1・2,17ないし33,36ないし39,41,被告C及び同B各
本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件旅行前における和歌山市における市立大学設置に向けた活動の状況
(ア) 被告Aは,平成11年1月に行われた和歌山市長選挙において,大学の
設置を公約の1つに掲げて当選した。
被告Cは,同年5月ころから,同市に市立大学が設置される可能性を調
査検討する担当となり,市立大学構想検討委員会(以下「検討委員会」とい
う。)の委員の選定,就任交渉等を行った。同年6月に実施された同市議会
において,同委員会の委員報奨金,会議費,調査委託料等の必要費が補
正予算として予算化され,同委員会は,同年8月,正式に設置され,同年1
2月,「和歌山市立大学設置可能性調査報告書」を作成した。
和歌山市は,平成12年4月,企画部内に大学設置準備室を設置し,同
年5月,和歌山市立大学(仮称)設置基本計画策定委員会(以下「策定委
員会」という。)を設置し,同委員会は,同年12月,「公立和歌山創造大学
(仮称)設置基本計画報告書」を作成した。同報告書において,平成16年4
月に大学を開学するとされた。
(イ) 被告Cは,検討委員会の事務を執り行うとともに,大学設置準備室室長
として,策定委員会の事務を執り行い,資料の収集や国内の大学の訪問
調査を行っており,平成11年度には7か所,平成12年度には1か所の国
内の大学を訪問した。
(ウ) 平成12年度及び平成13年度の予算編成において,市立大学の設置に
当たり海外の大学の視察をするための予算は,設定されていなかった。
イ 本件旅行及び本件出張に至るまでの事実経過
(ア) 被告Aは,平成13年1月ころから,被告Bその他の職員らとの打合せ等
において,外国の大学を視察するための旅行を実施することを示唆してい
た。
被告Cは,平成13年2月12日の関西ベンチャー学会において,Hから
バブソン大学の資料等を受領し,同月13日,これを被告Aに渡した。被告A
は,同月初旬ころ,被告Cに対し,アルスター大学について,インターネット
等で調査するよう指示した。
被告Aは,同年1月ころから同年2月初旬ころまでの間に,同年4月上旬
ころアルスター大学及びバブソン大学の訪問等を内容とする旅行に行くこと
とし,海外旅行をする際によく誘っていた友人5人を旅行に誘ったところ,F
及びEがこれに同行することとなった。
(イ) 被告Aは,平成13年2月下旬ころ,被告Bに対し,同年4月ころに行われ
る被告Aのアルスター大学とバブソン大学の視察旅行と合わせて,これら
の大学の視察研修するよう勧めるとともに,大学設置準備室の職員1名を
指名し同時に視察研修するよう依頼した。被告Bが,和歌山市企画部には
海外視察のための予算がない旨を指摘すると,被告Aは,海外視察研修費
を申請すればよいのではないかと示唆した。
被告Bは,その後,被告Cに対し,被告Aがアルスター大学及びバブソン
大学の視察に行くところ,自身と被告Cも一緒に視察に行くよう勧められた
旨伝えるとともに,同被告に対し視察に行くかどうかを尋ねた。被告Cは,
同Bに対し,視察に行く旨回答し,その翌日,被告Aに対しても,視察に同
行する旨回答した。
(ウ) 被告B及び同Cは,企画部及び大学設置準備室には海外大学視察のた
めの予算がなく,平成12年度における和歌山市の海外視察研修の予算は
既に消化されていたことから,平成13年度における同研修の予算枠(1人
当たり約70万円)を利用することとし,同研修に申し込み,同年3月初旬こ
ろから,同研修の審査のための課題論文の作成を開始し,被告B及び同C
のいずれも,同月20日ころ,課題論文を完成させた。被告Bは,課題論文
に,街作りの事例研修及び街作りの核となる公立大学をより良いものとす
るために,バブソン大学及びアルスター大学マギーキャンパスにおける研
修を希望する旨記載し,被告Cも,課題論文にアルスター大学マギーキャン
パス及びバブソン大学の訪問を希望する旨記載した。
被告Bは,同月26日,和歌山市職員研修運営協議会長に対し,被告C
を海外視察研修に推薦し,和歌山市助役のDは,同日,同会長に対し,被
告Bを海外視察研修に推薦した。これらの推薦の際,被告Bは,同Cが公
立大学の設置に積極的に取り組んでいるので適任者として推薦する旨の
意見を,Dは,被告Bにつき,公立大学の設置が和歌山市の最重点施策の
1つであり,企画部長である被告Bが先頭に立つ必要があるところ,研修に
よってより見識を深める必要がある旨の推薦意見を記載した。また,この推
薦に当たり,旅行会社が作成した同月27日付けの旅行費用見積書及び同
月28日付けの行程表(別紙1)が添付され,上記見積書には,エコノミーク
ラスを利用することを前提とすると旅行代金が1人当たり65万円になると
の記載があった。
(エ) 被告Cは,平成13年3月初めころから,旅行会社の担当者との間で,本
件旅行の行程についての折衝を開始するとともに,被告Aの指示により,ア
ルスター大学についてはJに,バブソン大学についてはHに,それぞれ各大
学への訪問日程の調整を依頼した。そして,アルスター大学マギーキャン
パスへの訪問は,同年4月6日(最終的には午前9時から午前11時までと
された。)と,バブソン大学への訪問は,同月9日の午前11時から午後2時
までと,それぞれ決定された。なお,各大学との折衝に当たっては,被告B
及び同Cは直接関与しておらず,仲介者を介して,各大学に対して調査事
項を送付することもしなかった。
被告らは,旅行会社から,日本,アルスター大学のある北アイルランド,
バブソン大学のあるボストンとの間を直接往来する(旅行代金1人当たり8
2万3620円)よりもオランダのアムステルダムを経由した方が(旅行代金1
人当たり65万円),航空会社間の提携により航空運賃が安価になるとの指
摘を受けたことから,アムステルダムを経由することとした。このアムステル
ダム経由の決定を受けて,被告C及び同Bは,同Aとも協議し,アルスター
大学を訪問する同月6日(金曜日)とバブソン大学を訪問する同月9日(月
曜日)との間の同月7日午後及び同月8日午前をアムステルダムの滞在に
充て,その間同市内を視察することとし,バブソン大学訪問後の同月10日
には,ラスベガスを訪問することとして,旅行会社の担当者に行程の作成を
依頼し,同担当者は,遅くとも同年3月21日までに,別紙1と同内容の行程
表を作成し,被告らに交付した。被告らは,同月21日,被告Aが旅行代金
全額の90万円を,被告Bが同被告及び同Cの旅行代金のうち40万円をそ
れぞれ支払った。E及びFの旅行代金については,F建設が,同月28日,1
84万8000円を支払った。
被告B及び同Cは,同Aと協議の上,旅行会社の担当者に対し,アムス
テルダム市内視察の内容として,キューケンホフ公園の視察及び水上バス
による運河巡りを希望するとともに,同年4月9日のボストン市内の視察の
内容としてハーバード大学の視察を希望し,旅行会社は,これらの希望を
盛り込み,同月2日ころまでに,行程表を完成させた。
(オ) 和歌山市長であった被告Aは,平成13年4月2日,前記(ウ)認定の職員
海外派遣研修への被告B及び同Cの推薦を了承するとの決裁をするととも
に,被告B及び同Cに対し,本件出張命令を出した。
被告B及び同Cは,和歌山市に対し,同月3日,本件出張命令にかかる
旅費の支払を請求し,同日,被告Bが69万9580円,被告Cが69万188
0円をそれぞれ受領し,この合計139万1460円を旅行会社に支払うととも
に,被告Bが同被告及び同Cの旅行代金合計180万円と上記旅費139万
1460円及び前記(エ)認定のとおり被告Bが支払った旅行代金のうち40万
円(合計179万1460円)との差額8540円を支払った。
ウ 本件旅行の行程及び内容
(ア) 本件旅行(平成13年4月5日出発,平成13年4月12日帰国)の実際の
行程は,概ね別紙2のとおり(ただし,アルスター大学ジョーダンスタウンキ
ャンパスの視察は,午後2時15分からである《乙9》。)である。出発前の行
程から変更されたのは,平成13年4月6日のアルスター大学の訪問に当
たり,午前9時から午前11時まで予定されていたマギーキャンパスの視察
のほか,同大学の好意により,同日午後2時から午後3時30分までの間,
同大学ジョーダンスタウンキャンパスの視察が実施された点と,同月7日午
後のアムステルダム滞在中において,キューケンホフ公園の視察のほか,
フリーマーケット(市場)の視察がされた点である。
(イ) 被告らは,平成13年4月6日(金曜日)午前9時ころから午前11時ころ
まで,アルスター大学マギーキャンパスを訪問し,資料の交付を受けるとと
もに,約30分間施設を見学し,通訳を介して,担当者から合計約1時間20
分の説明を受けた。被告らは,その後同日午後2時15分ころから3時30
分ころまでの間,同大学の担当者の好意により,同キャンパスから約100
キロメートル離れた場所に位置する同大学ジョーダンスタウンキャンパスを
訪問し,資料の交付を受けるとともに,通訳を介して,担当者から約1時間
の説明を受けた。
被告らは,同月7日(土曜日)午後,キューケンホフ公園を訪問し,被告B
及び同Cは,同日午後,アムステルダム市内のフリーマーケットにも訪れ
た。いずれの訪問も,同市の担当者等との面会はなかった。
被告らは,同月8日(日曜日)午前,アムステルダム市内において,水上
バスによる運河巡りをした。この際,同市の担当者等との面会はなかった。
被告らは,同月9日(月曜日)午前9時30分ころから午前10時30分ころ
まで,通訳及び旅行会社のガイドを伴い,ハーバード大学を訪問し,配布さ
れている資料を入手したが,同大学の担当者等と面会することはなかっ
た。
被告らは,同日午前11時ころから午後1時30分ころまで,バブソン大学
を訪問し,資料の交付を受けるとともに,通訳を介して約1時間30分間の
説明を受け,約1時間施設を見学した。
被告らは,同日夜,ラスベガスに到着した。被告らの予定では,同月10
日(火曜日)は,同市内で自由行動とされており,被告B及び同Cは,同日
午後0時ころから午後4時ころまでと午後7時から午後9時までの間,同市
内を見て回ったが,同市当局の者らと面談をすることはなかった。
(ウ) 被告B及び同Cと被告A,E及びFは,平成13年4月5日の出発日に関
西国際空港で合流し,その後の旅行の道中は,同じ飛行機のビジネスクラ
スに搭乗し,各訪問地における陸路の移動は5人全員が1台の専用車に乗
って移動し,同じホテルに宿泊していた。また,E及びFも,アルスター大学
マギー及びジョーダンスタウンの両キャンパス並びにバブソン大学を訪問
し,ハーバード大学の見学にも同行した。また,被告ら並びにE及びFは,キ
ューケンホフ公園の見学,アムステルダム市内の水上バスによる運河巡り
においても5人で一緒に行動していたが,アムステルダム市内のフリーマー
ケットの見学及びラスベガス市内の自由行動においては,被告B及び同C
は一緒に行動していたが,被告A,E及びFは,被告B及び同Cとは,別行
動であった。
(エ) 被告ら並びにE及びFの本件旅行中における搭乗手続や宿泊手続とい
った諸手続については,関西国際空港における搭乗手続は旅行会社が行
ったが,その余の手続は,被告Cが行っていた。
エ 本件旅行後に行われた復命,報告等
(ア) 被告B及び同Cは,平成13年4月18日,本件出張に関する復命書を訪
問地において交付された資料等を添付して提出し,この復命書は,同月27
日決裁された。
  被告Bは,復命書中の「海外研修で学んだこと」と題する報告書において,
アルスター大学及びバブソン大学の学生のそれぞれ4割以上の者が自分
の会社を設立したいと希望していること,両大学とも積極的に地域及び産
業との関係を持っていることを記載しているが,その余は一般的抽象的な
報告をするにとどまった。他方,被告Cは,「海外研修を終えて」と題する報
告書において,アルスター大学マギーキャンパス,同大学ジョーダンスタウ
ンキャンパス,バブソン大学,ハーバード大学,アムステルダム市内及びラ
スベガス市内といった各訪問地における視察内容等を説明しているところ,
アルスター大学マギーキャンパスに関する報告は,ほぼ同キャンパスの担
当者から配付された資料(乙20)を翻訳したものであり,同大学ジョーダン
スタウンキャンパスに関する報告は,300字にも満たないものであり,バブ
ソン大学に関する報告は,その約半分がHが被告Cを介して被告Aに交付
した日本語の雑誌の記事(乙2の3)を引き写したものであり,ハーバード大
学に関する報告は,ごく抽象的にしか記載されておらず,アムステルダム市
内視察に関する報告は,見学した場所を列記し,簡単な感想を付したもの
であり,ラスベガスに関する報告は,同市のごく一般的な説明を簡単にした
にすぎないものであった。
(イ) 被告Bは,平成13年4月27日,市立大学設立構想に関する調査検討
特別委員会において,本件出張について報告した。その報告内容は,アル
スター大学のマギー,ジョーダンスタウンの各キャンパス,バブソン大学,ハ
ーバード大学に関するものであり,その内容は,被告Cが復命書に添付し
た「海外研修を終えて」と題する報告書とほぼ同旨であった。
(ウ) 被告Aは,平成13年6月14日に開催された和歌山市議会定例会にお
いて,本件旅行について報告した。その報告内容は,アルスター大学のマ
ギー,ジョーダンスタウンの各キャンパス,バブソン大学,アムステルダム
市内及びラスベガス市内の視察に関するものであった。
(エ) 被告Cは,訪問先から入手した資料のうち,説明を受けたもの(乙20な
いし29)については,和歌山市国際交流室の職員に対し,和訳を依頼し,
訳文を作成したが,その余の資料については,訳文を作成するなどの手配
はしなかった。
オ 上記認定事実に反する当事者の主張に対する判断
(ア) 被告らは,被告Cが本件旅行及び本件出張の行程を決定するに当たり,
被告Aとは協議したり,同被告の意向を確認したことはなく,専ら,被告Cが
旅行会社の担当者との間で折衝に当たり,被告Cと同Bが必要に応じて協
議をして決定したと主張する。そして,証拠(乙18,32,33,被告C及び同
B各本人)中には,本件旅行の行程の決定に当たり,被告Aは何ら関与し
ていない旨の被告B及び同Cの供述記載ないし供述部分がある。
しかしながら,証拠(甲11,12)によれば,被告Aは,平成13年9月28
日に行われた本件旅行に関する記者会見において,被告B及び同Cが本
件旅行に同行することになったことによって,本件旅行日程が変更されたと
いうことはなかったと発言したことが認められ,これによれば,被告Aが本件
旅行の日程を決定するに当たり主導的な役割を果たしたと強く推認され
る。そして被告Aの上記発言に,公務で多忙なはずの和歌山市長である被
告Aが,1週間以上にわたり,さらにはラスベガス滞在により本来目的とし
ていたはずの大学の視察終了後も海外に滞在するという本件旅行の行程
の決定に何ら関与していなかったとは到底考えられないことを併せると,被
告B及び同Cの上記供述記載ないし供述部分は到底採用することができ
ず,他に,被告Aが本件旅行の行程の決定に関与したことを覆すに足りる
証拠はない。
(イ) 被告らは,旅行会社において本件旅行の行程表を最初に作成したの
は,平成13年3月23日であると主張する。そして,証拠(乙41,被告C及
び同B各本人)中には,上記主張に沿う被告Bの供述部分並びに被告Cの
供述記載ないし供述部分がある。また,乙41中には,被告B及び同Cが同
月21日に本件出張の旅行代金のうち40万円を支払ったのは,旅行会社
の担当者から手付金の支払を要求されたからにすぎず,本件旅行の行程
が確定したからではないとの被告Cの供述記載部分がある。
しかしながら,前記イ(エ)認定のとおり,被告Aが,同日,本件旅行の自
己の旅行代金全額の90万円を支払っていることからすれば,同日の時点
において本件旅行の行程が確定していたことは容易に推認される。そし
て,被告Cが本件旅行の日程が確定した後に本件旅行の代金を支払ったと
供述していたにもかかわらず,被告B本人尋問期日において,被告らが平
成13年3月21日に旅行代金全額ないしその一部を支払ったことが明らか
な証拠(甲22の3・4)が提出された後に乙41が提出されたことに照らす
と,上記の被告Bの供述部分及び被告Cの供述記載ないし供述部分は到
底採用できず,他に上記推認を覆すに足りる証拠はない。
(ウ) 被告らは,本件旅行の代金のうち私費で支払うこととなった分のうち,被
告Bが20万8540円,被告Cが20万円支払ったと主張する。
しかしながら,証拠(甲22の1・3・7,25,26の1・2,乙37,39)によれ
ば,上記被告両名の本件出張に要した旅行費用合計180万円のうち,和
歌山市から支出された139万1460円を控除した40万8540円について
の領収証の記載が被告B宛とされていること及び被告Cがその主張する2
0万円を支払ったことを裏付ける客観的な資料がないことからすれば,被告
B及び同Cの供述記載ないし供述部分は採用することができず,他に前記
認定を覆すに足りる証拠はない。
(2) 本件旅行及び本件出張の実態
ア 被告Aは,私人であるE及びFとともに,私費で本件旅行を行ったのであるか
ら,被告Aについては,本件旅行が私的な旅行であったことは明らかである
(本件旅行の内容が,公的性格を有するか否かについては,後記イ(イ)のとお
りである。)。
イ(ア) 前記(1)ア認定のとおり,策定委員会が,平成12年12月,「公立和歌山
創造大学(仮称)設置基本計画報告書」を作成し,市立大学の基本構想を
まとめるとともに,市立大学の開学時期を平成16年4月に設定しているこ
と,その一方で,被告Cは,平成11年度から平成12年度にかけて国内の
大学を8か所も視察するとともに資料を収集しつつも,平成13年度におい
て海外の大学の視察を実施するための予算を設定していなかったことから
すれば,被告ら及び和歌山市の市立大学設置を担当する者らにおいて,本
件旅行の企図された平成13年2月初めころの時点で,海外の大学の視察
が市立大学の設立のために必要なものであると考えていなかったことは明
らかで,むしろ被告Aが被告B及び同Cに対し本件旅行への同行を勧めた
(前記(1)イ(イ))ことから,急遽本件出張が計画されたと認めるのが相当で
ある。また,前記(1)イ(エ),オ(ア)のとおり,本件旅行の行程は,被告B及び
同Cが,被告Aと協議して定められたものであり,前記(1)ウ(ウ),(エ)認定の
とおり,本件旅行においては,被告B及び同Cと被告A,E及びFが,同じ飛
行機のビジネスクラスに搭乗し,各訪問地における陸路の移動にあって
は,旅行会社が手配した1台の専用車を利用し,アムステルダム市内及び
ラスベガス市内での自由行動の時間を除いてはほぼ5人で一緒に行動し,
同じホテルに宿泊していた上,被告らのみならずE及びFの本件旅行中に
おける出国時以外の飛行機への搭乗手続及び宿泊手続を被告Cが行って
いた。
以上のとおり,被告Aが計画した私的な本件旅行が本件出張の端緒とな
っており,本件出張の行程の決定に当たり,被告Aが関与し,本件旅行に
おいて被告A,E及びFの私的な旅行と本件出張とがほとんど同一に実施さ
れた上,被告Cが被告A,E及びFの国外における飛行機への搭乗手続や
宿泊手続を行っていたことに照らすと,被告B及び同Cによる本件出張は,
被告A,E及びFによる私的な本件旅行と一体のものであったとみるほかな
い。
(イ) 前記(1)ウ(ア),(イ)認定のとおり,被告B及び同Cは,8日間にわたる本
件出張において,アルスター大学マギーキャンパスを約2時間,同大学ジョ
ーダンスタウンキャンパスを約1時間15分,バブソン大学を約2時間30分
それぞれ訪問し,通訳を介して担当者の説明を受けたり,施設を見学した
一方,平成13年4月7日の午後から同月8日の午前中までの間,アムステ
ルダム市内において,キューケンホフ公園,フリーマーケット,水上バスによ
る運河巡り等をし,同月9日にはハーバード大学の施設見学を約1時間行
い,同日夜から同月10日までの間,ラスベガス市内で自由行動をしていた
ところ,アムステルダム市内,ハーバード大学及びラスベガス市内における
視察の際に担当者等との面会ないし懇談がされなかったことに照らすと,こ
れらの行動は,何ら一般の観光旅行と変わらないものといわざるを得な
い。
そのため,本件出張と一般の観光旅行との相違を示すのは,被告B及
び同Cがアルスター大学マギー及びジョーダンスタウン両キャンパス並びに
バブソン大学を訪問した点であるところ,これらの訪問時間を合計しても6
時間にも満たないものである上,担当者等との懇談は通訳を介しての会話
であり,実際の懇談内容は懇談時間の半分程度にすぎないものであったこ
と,前記(1)イ(エ)認定のとおり,被告らは,アルスター大学についてはJに,
バブソン大学についてはHに,それぞれ各大学への訪問日程の調整を依
頼したのみで,各大学に対して調査事項を送付するようなこともしなかった
こと,前記(1)エ(ア),(イ),(エ)認定のとおり,被告B及び同Cは,本件出張後
の復命に当たり報告書を提出し,被告Bは,市立大学設立構想に関する調
査特別検討委員会において本件出張について報告をしているが,その内
容は,被告Bの報告書については,大部分が一般的抽象的なものであり,
被告Cの報告書については,その大部分が配付された資料の翻訳ないし
日本の雑誌記事の引き写しにすぎないものであり,被告Bの同委員会にお
ける報告も被告Cの報告書とほぼ同内容のものであり,配付を受けた資料
も一部を除いては翻訳されることなく保存されるにとどまっている。
以上の事実に照らすと,本件出張の中核部分となるべきアルスター大学
マギー及びジョーダンスタウン両キャンパス並びにバブソン大学の訪問は,
時間的にみても,本件出張の全日程からみても,本件旅行のうち一般の観
光旅行と同視される部分と比較しても,極めて短いものであったといわざる
を得ないし,専ら第三者に日程調整を委ね,調査事項を送付するなどの準
備をしなかったという点からみて,視察調査の準備が十分なものであったと
はいえず,本件出張後の報告も,一般的抽象的な記載にとどまるか文献な
いし資料の引き写しにとどまり,実際に視察調査をした者の報告としては不
十分なものであったといわざるを得ず,入手した資料もその後活用している
とは言い難い。これに,前記(1)イ(ウ),ウ(イ)認定のとおり,被告らのアルス
ター大学ジョーダンスタウンキャンパスへの訪問が,当初から計画されたも
のではなく,大学側の好意に基づくものであったことも併せると,本件出張
のうち大学を視察した部分についても,公立大学の設立に向けた実効性あ
る視察ないし被告B及び同Cにおいて公立大学の設立を担当するに当たり
必要な見識を深めるといった視察を行うというよりも,むしろ形式を整えるた
めにされたものといわざるを得ない。
ウ 以上のとおり,本件旅行は,被告Aが私費で民間人であるE及びFとした私
的な旅行と被告B及び同Cの本件出張とが一体となってされたものであり,そ
の内容についても,多くの部分が一般の観光旅行と異なるものではなく,視察
旅行としての側面を有すべき海外の大学への視察についても,その準備状
況,実際の視察内容及び本件出張後の報告の状況に照らすと,視察というよ
りも形式を整えるためにされたものといわざるを得ないことに照らすと,本件
出張の実態は,真実視察ないし研修を目的としたものではなく,視察ないし研
修名目でされた観光旅行にほかならないというべきである。
(3) 被告らの主張に対する判断
ア 被告らは,本件旅行においてアムステルダム市内の視察をしたのは,日本
から直接イギリス,北アイルランド,ボストンと直接移動するよりも,アムステ
ルダムを経由した方が航空運賃が安価となるし,アムステルダムにおける宿
泊費(1人1泊2万円)の方がボストンにおける宿泊費(1人1泊3万2000円)
と安価となることに加えて,アルスター大学を訪問する予定の平成13年4月6
日とバブソン大学を訪問する予定の同月9日の間が土曜日,日曜日の休日に
該当することから,その間を利用して,和歌山市が取り組んでいる「花いっぱ
いのまちづくり」及び平成14年5月に開催が予定されていた全日本花いっぱ
い大会のために,アムステルダム市内を視察しようとしたものであり,本件出
張において必要性及び合理性があった旨主張する。そして,被告B及び同C
の供述記載(乙10,18,32,33)ないし供述中には,被告らの主張に沿う部
分があり,証拠(甲1の6,乙16の1・2,31)によれば,旅行会社の試算で
は,本件旅行においてエコノミークラスを利用した場合の1人当たりの航空運
賃の合計が38万3800円となるのに対し,日本,イギリス及び北アイルラン
ド,ボストンと直接移動した場合の1人当たりのエコノミークラスの航空運賃の
合計が64万5000円であること,ボストンにおける宿泊費が1人1泊3万200
0円である一方,アムステルダムにおける宿泊費が1人1泊2万円と試算され
ていることが認められる。
しかしながら,前記(1)イ(ウ),(エ)認定のとおり,被告B及び同Cが職員海外
派遣研修のための課題論文を平成13年3月20日ころまでに作成し,同月2
6日に被告B及び同Cに対する同研修のための推薦がされた一方,本件旅行
の行程は遅くとも同月21日にはアムステルダム市内を視察する旨が確定し
ており,それ以前にアムステルダム市内を視察するという計画が検討されて
いたと推認されるところ,そうであるにもかかわらず,被告B及び同Cが作成し
た同研修の審査のための課題論文(甲1の3・5)及び被告B及び同Cらを同
研修員として推薦するための推薦意見(甲1の2・4)においても,「花いっぱい
のまちづくり」や全日本花いっぱい大会について何ら触れられていないことに
照らすと,アムステルダム市内の視察が本件出張の研修目的に含まれるとみ
ることはできないし,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,アムステルダム市内視察中
に同市の担当者らとの面会等がなかったことに照らすと,同市内滞在中にお
ける視察の内容は,一般的な観光旅行と変わるものではないというほかなく,
同市の視察を本件出張の目的に資する旨の被告らの主張を採用することは
できない。
また,海外における視察旅行において一定程度の私的な観光が許容され
る余地のあること,アムステルダム市内の視察等が,土曜日,日曜日の休日
にされたものであること,本件旅行の旅費の節減のために同市内に滞在する
ことが有用であることを考慮しても,前記(2)イ(イ)説示のとおり,本件出張にお
いて,公務の旅行として一般の観光旅行と差異が生じなければならない各大
学の訪問が極めて不十分なものであったことに照らすと,本件旅行及び本件
出張が,全体として観光旅行であるとの認定判断を覆すには足らないという
べきである。
イ 被告らは,ラスベガス市の視察は,まちづくりや中心市街の活性化のために
参考になると考えられることから,本件旅行の主目的ではないものの,和歌山
市の活性化の参考とするために同市の視察をすることとしたのであり,一般
の観光旅行ではなく,職員が見聞を広め,教養を深めるという職員海外派遣
研修の目的に資するものであった旨主張する。
しかしながら,前記アのアムステルダム市の視察と同様,本件旅行でラス
ベガス市に行くことが遅くとも平成13年3月21日には確定しており,それ以前
にラスベガス市内を視察するという計画が検討されていたと推認されるとこ
ろ,そうであるにもかかわらず,被告B及び同Cが同月20日ころまでに作成し
た職員海外派遣研修の審査を受けるための課題論文や,同月26日に作成さ
れた被告B及び同Cを同研修員として推薦するための推薦意見には,専ら市
立大学の設立による和歌山市の活性化について論じてあるものの,ラスベガ
ス市を視察することや同市を視察することによる和歌山市の活性化について
は何ら触れられていないことに照らすと,本件旅行においてラスベガス市に行
くことを本件出張の目的とみることはできないし,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,
被告らのラスベガス市内における日程が自由行動であり,被告B及び同Cが
した視察において同市の担当者らとの面会等がなかったことに照らすと,同市
滞在の内容は単なる観光旅行にほかならないとみるほかない。
また,被告B及び同Cが,ラスベガス市内に滞在して,見聞を広め,教養を
深めることができたとしても,このような効果は,公的なものであれ私的なもの
であれ,旅行一般についていえる効果であるということができるから,このよう
な効果があることをもって,一般的な観光旅行にすぎないものが,公務性ない
し公的性格を有することを基礎付けることにはならないというべきである。
ウ 被告らは,被告B及び同Cが,本件旅行において,E及びFが同行することを
知らなかったのであり,被告A,E及びFの単なる随行として渡航したのではな
く,本件出張の目的である研修成果を上げるために渡航したのであり,被告B
及び同Cの本件出張は職員海外派遣研修として適正かつ相当なものであり,
公務性に欠ける点はないと主張する。そして,被告B及び同Cの供述記載(乙
10,32)ないし供述中には,被告B及び同Cが本件旅行にE及びFが同行す
ることを知らなかった旨の部分があり,本件出張に当たり旅行会社が作成し
た手配旅行引受書(乙40)には,本件出張の申込人員が2名と記載されてい
る。
しかしながら,前記(1)イ(ア),(イ),(エ),ウ(ウ),(エ)認定のとおり,被告Aが
まずE及びFとの旅行を決定してから被告B及び同Cに本件旅行の参加を勧
めていること,被告B及び同Cが,同Aと協議して本件旅行の行程を決定して
いること,本件旅行において,被告B及び同Cと被告A,E及びFは,同じ飛行
機に搭乗し,同じ専用車で陸路を移動し,同じホテルに宿泊していた上,アム
ステルダム市内のフリーマーケットの見学やラスベガス市内での自由行動以
外はほぼ一緒に行動していたこと,本件旅行中,被告Cが,同B及び同Aのみ
ならず,E及びFの搭乗手続や宿泊手続を行っていたことに照らすと,本件旅
行は,被告B,同C,同A,E及びFの5人が一緒に行くという形で行程及び内
容が決定され,実施されたものであり,被告B及び同Cは,当初より,E及びF
が同行することを知っていたと強く推認される。そして,被告B及び同Cが,い
ずれも,本件旅行の当初,E及びFが同行してくるとは知らなかったと供述記
載ないし供述する一方,旅行に同行していたE及びFに対し,本件旅行中どの
ような経緯で本件旅行に参加するに至ったか等について何ら質問しなかった
という不自然な供述をしていることや被告A,E及びFと本件旅行の最初に関
西国際空港で出会った場所について全く齟齬する供述をしていること(被告C
は搭乗手続前に被告A,E及びFと会ったと供述するのに対し,被告Bは,搭
乗手続終了後,被告A,E及びFに会ったと供述している。)に照らすと,E及び
Fが本件旅行に同行することを知らなかったとする被告B及び同Cの前記供述
記載ないし供述部分は採用することができない。また,本件出張にかかる手
配旅行引受書の申込人員が2名と記載されている点については,公費で本件
出張をしたのが被告B及び同Cの2名であったことを示すにとどまるから,前
記推認を覆すには足らないというべきであり,他に前記推認を覆すに足りる証
拠もない。
したがって,被告B及び同CがE及びFの本件旅行への同行を知らなかった
ことを前提とする被告らの主張は前提を欠くものというほかない。
エ 被告らは,被告AがE及びFと本件旅行をしたことと本件旅行の公務性は別
問題であり,被告Aは,必要な視察であっても,公式訪問のような公的行事を
除き,私費で視察を行っていたのであるから,本件旅行においても,その計画
及び内容から公務性を判断すべきである旨主張する。
しかしながら,前記(2)イ(イ)説示のとおり,本件旅行の内容自体,多くの部
分が一般の観光旅行と異なるものではなく,公的な視察旅行としての側面を
有すべき海外の大学への視察についても,その準備状況,実際の視察内容
及び本件出張後の報告の状況に照らすと,視察というよりも形式を整えるた
めにされたものといわざるを得ないことに照らすと,到底本件旅行に公務性な
いし公的性格があるということはできないというべきである。
2 争点(2)(被告らの共同不法行為の成否)について
ア 被告Aの共同不法行為責任
  前記1(2)説示のとおり,本件出張は,その実態が,真実視察ないし研修を目的
としたものではなく,視察ないし研修名目でされた観光旅行にほかならないとこ
ろ,前記1(1)イ認定のとおり,被告Aは,本件出張及びそれと一体でされた本件
旅行にE,F,被告B及び同Cを誘い,被告ら協議の上でその行程を決定し,被
告B及び同Cに本件出張命令を出して,同被告らに和歌山市から本件出張にか
かる旅費合計139万1460円を支出させ,本件旅行を実施し,同被告らをしてこ
の旅費を費消させたものである。したがって,被告Aは,本件出張が観光旅行に
ほかならないことを自ら認識して本件出張命令を出したというほかなく,このよう
にして出された本件出張命令は,被告Aが和歌山市長として和歌山市職員に対
して有する指揮監督及び職務命令の権限を逸脱した違法なものであり,被告A
が本件出張命令を出したことは,後記イのとおり,本件旅行及び本件出張を共
同して計画し,これを実施し自ら本件出張にかかる旅費を費消した被告B及び
同Cとの間で,和歌山市に対する共同不法行為を構成するというべきであり,本
件出張にかかる旅費139万1460円全額につき,和歌山市に対し,被告B及び
同Cと連帯して損害賠償義務を負うというべきである。
イ 被告B及び同Cの共同不法行為責任
前記1(1)イ,ウ認定のとおり,被告B及び同Cは,被告Aの勧めにより,本件
旅行に参加することを決めるとともに,職員海外派遣研修の審査を受け,被告A
と協議して本件出張の行程を決定し,被告Aから出された本件出張命令に基づ
き,和歌山市に対し,本件出張にかかる旅費を請求して,旅費合計139万146
0円を受領し(被告B分69万9580円,被告C分69万1880円),被告A,E及
びFとともに本件旅行を実施して,これを費消したものである。これに,前記1(2)
説示のとおり,本件出張の実態が,視察ないし研修名目でされた観光旅行にほ
かならないことを併せると,被告B及び同Cは,被告Aと共同して視察ないし研修
名目で観光旅行を計画し,行程を決め,これを実施したというほかなく,これらの
被告B及び同Cの行為は,前記ア説示にかかる被告Aの本件出張命令ととも
に,和歌山市に対する共同不法行為を構成するというべきであり,被告B,同C
及び同Aは,本件出張にかかる旅費139万1460円全額につき,和歌山市に対
し,連帯して損害賠償義務を負うというべきである。
ウ 被告らの主張に対する判断
(ア) 被告らは,本件出張の内容が,和歌山市の職員の出張として適正かつ妥
当な内容のものであることを前提として,被告らには,和歌山市に対する共同
不法行為責任は成立しない旨主張する。
しかしながら,前記1(2)説示のとおり,本件出張は,被告A,E及びFの私的
旅行と一体でされ,その内容も視察ないし研修名目でされた観光旅行にすぎ
ないものといわざるを得ないから,被告らの主張は,その前提を欠くというべ
きである。
(イ) 被告らは,被告B及び同Cは,本件旅行の当初,被告Aに同行したF及びE
が,本件旅行に同行することを,同人らが関西国際空港の搭乗ゲートを被告
らと一緒に通るまで知らなかったのであり,まして,本件旅行が違法なもので
あるとの認識はなかった旨主張する。
しかしながら,前記1(3)ウ認定のとおり,本件旅行が,被告B,同C,同A,
E及びFの5人が一緒に行くという形で行程及び内容が決定及び実施された
のであり,被告B及び同Cは,当初より,E及びFが同行することを知っていた
と強く推認され,これを覆すに足りる適確な証拠がないことに照らすと,被告B
及び同Cが,E及びFが本件旅行に同行することを知らなかったとの主張は,
到底採用することができない。
また,前記1(2)イ,ウ説示のとおり,被告B及び同Cが,被告Aとともに本件
旅行の行程及び内容を決定していたことに照らすと,被告B及び同Cは,本件
旅行が視察ないし研修名目であるとはいえその実質が観光旅行にほかなら
ないことを認識していたか,少なくとも認識すべきであったにもかかわらずこれ
を看過した過失があることは明らかであるから,仮に,被告B及び同Cが,本
件旅行が違法なものであるとの認識を有していなかったとしても,過失による
責任を免れず,よって,被告B及び同Cが被告Aと連帯して和歌山市に対して
共同不法行為に基づく損害賠償義務を負うべきであるとの結論に消長を来す
ものではない。
3 争点(3)(和歌山市長が損害賠償請求権行使を怠っているか。)について
弁論の全趣旨によれば,和歌山市長が,被告らに対し,直ちに損害賠償請求を
行わないことを正当化する事情は何ら見当たらないと認められるから,和歌山市長
が,被告らに対し,損害賠償請求を行わないことは,違法に財産管理を怠ったもの
というべきである。
4 結論
以上によれば,被告らは,和歌山市に対し,共同不法行為による損害賠償義務
に基づき,連帯して139万1460円及びこれに対する和歌山市に損害を生じさせ
た不法行為の日である本件出張の後であり本件訴状が送達された日の翌日であ
ることが本件記録上明らかな,被告Aにおいては平成14年1月13日から,被告B
及び同Cにおいては同月11日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る金員を支払うべき義務があるというべきである。よって,原告らが和歌山市の住
民として,同市に代位してこれを行使する本件請求は理由があるから,これを認容
することとし,主文のとおり判決する。
和歌山地方裁判所第二民事部
裁判長裁判官  礒尾 正
裁判官  秋本昌彦
裁判官  成田晋司
別紙1及び2「旅行行程表」省略

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