弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
理       由
(罪となるべき事実)
第1 被告人は,Aと肉体関係をもったI(当時26歳)から慰謝料名目で金員を
喝取しようと企て,
B及びAと共謀の上,平成12年6月2日午後4時35分ころ,横浜市内の路上に
おいて,Iに対し,
被告人及びBが,「実は,探偵なんだけど奥さんの浮気調査をしている。あんた
は,この女とセック
スをしただろう。ナイフを持っているから,後ろから刺してもいいんだよ。」など
と言い,引き続き,
同日午後5時ころ,同市内の喫茶店内において,Iに対し,Bが,「こっちも旦那
さんから頼まれて
やっているんで,謝っただけでは済まないよ。俺たちもガキの使いじゃないんだ。
最後は,金で解決
するしかないんだ。お前,いくらまでなら出せる。お前は,ヤクザをなめてんの
か。」などと強い口
調で言って金員の交付を要求し,もしこの要求に応じなければIの身体等にいかな
る危害をも加えか
ねない気勢を示して同人を畏怖させ,よって,同市内において,同日午後5時43
分ころ,同人から
現金10万円の交付を受け,さらに,同日午後6時16分ころ,同人から現金10
万円の交付を受け
て,現金合計20万円を喝取した。
第2 被告人は,キャッシングカードをだまし取ろうと企て,B,C及びAと共謀
の上,同年10月
10日,千葉市(省略)株式会社J1支店において,Aが,行使の目的で,権限な
く,同店備付けの
会員入会申込書兼顧客カード(以下「申込書」という。)用紙の「氏名」欄に「J
2」,「住所」欄
に「千葉県(省略)」などとそれぞれ記載し,もってJ2作成名義の申込書1通を
偽造し,そのころ,
同店において,同店従業員J3に対し,AがJ2であって,上記偽造に係る申込書
が真正に成立した
ものであるかのように装って,これをJ2名義の国民健康保険被保険者証等と共に
提出して行使し,
上記J3を欺いてキャッシングカードを交付させようとしたが,同人から,AがJ
2本人でないこと
を看破されたため,その目的を遂げなかった。
第3 被告人は,B及びCと共謀の上,同月18日,宮崎県宮崎郡内の町役場にお
いて,被告人が,
行使の目的で,権限なく,同町役場備付けの住民異動届用紙の「届出人」欄の「本
人」と印字された
文字を丸で囲んだ上,同欄に「K1」,「異動日,届出日」の各欄に「12・1
0・18」,「住所
(新)」欄に「宮崎県宮崎郡(省略)」,「住所(旧)」欄に「宮崎県宮崎市(省
略)」,「氏名」
欄に「K1」などとそれぞれ記載した上,「届出人」欄のK1名下に「K1」と刻
した印鑑を押捺し,
もってK1作成名義の同人に関する住民異動届1通を偽造し,そのころ,同町役場
において,同町役
場町民生活課戸籍住民係K2に対し,真実は上記偽造に係る住民異動届に記載され
たK1の住民異動
の事実がないのに,その情を秘し,かつ,上記住民異動届が真正に成立したもので
あるかのように装
って,先に宮崎市役所係員から不正に入手したK1が宮崎市(省略)から宮崎県宮
崎郡(省略)に住
所を変更したかのように記載された宮崎市長作成に係る内容虚偽の転出証明書と共
に提出して行使し,
もって同人の住民異動に関する虚偽の申立てをして,情を知らない上記K2をし
て,同町役場電算室
に設置された公正証書の原本として用いられる電磁的記録である住民基本台帳ファ
イルにその旨不実
の記録をさせ,これを直ちに同所に備え付けさせて公正証書の原本としての用に供
した。
第4 被告人は,B及びCと共謀の上,同月30日,前記町役場において,被告人
が,行使の目的で,
権限なく,同町役場備付けの住民異動届用紙の「届出人」欄の「代理人」と印字さ
れた文字を丸で囲
んだ上,同欄に「K1」,「異動日,届出日」の各欄に「12・10・30」,
「住所(新)」欄に
「宮崎県宮崎郡(省略)」,「住所(旧)」欄に「宮崎県宮崎市(省略)」,「氏
名」欄に「K3,
K4」などとそれぞれ記載した上,「届出人」欄のK1名下に「K1」と刻した印
鑑を押捺し,もっ
てK1作成名義のK3及びK4に関する住民異動届1通を偽造し,そのころ,同町
役場において,同
町役場町民生活課戸籍住民係主査K5に対し,真実は上記偽造に係る住民異動届に
記載されたK3及
びK4の住民異動の事実がないのに,その情を秘し,かつ,上記住民異動届が真正
に成立したもので
あるかのように装って,先に宮崎市役所係員から不正に入手したK3及びK4が宮
崎市(省略)から
宮崎県宮崎郡(省略)に住所を変更したかのように記載された宮崎市長作成に係る
内容虚偽の転出証
明書等と共に提出して行使し,もってK2及びK3の住民異動に関する虚偽の申立
てをして,情を知
らない上記K5をして,同町役場電算室に設置された公正証書の原本として用いら
れる電磁的記録で
ある住民基本台帳ファイルにその旨不実の記録をさせ,これを直ちに同所に備え付
けさせて公正証書
の原本としての用に供した。
第5 被告人は,B及びCと共謀の上,同年11月8日,宮崎県宮崎郡内の町役場
において,被告人
が,行使の目的で,権限なく,同町役場備付けの住民異動届用紙の「届出人」欄の
「3.代理人」と
印字された文字の「3」を丸で囲んだ上,同欄に「K1」,「届出日,異動日」の
各欄に「12・1
1・8」,「新住所」欄に「宮崎県宮崎郡(省略)」,「旧住所」欄に「宮崎県宮
崎市(省略)」,
「異動する人の氏名」欄に「K6」などとそれぞれ記載した上,「届出人」欄のK
1名下に「K1」
と刻した印鑑を押捺し,もってK1作成名義のK6に関する住民異動届1通を偽造
し,そのころ,同
町役場において,同町役場町民課戸籍住民係K7に対し,真実は上記偽造に係る住
民異動届に記載さ
れたK6の住民異動の事実がないのに,その情を秘し,かつ,上記住民異動届が真
正に成立したもの
であるかのように装って,先に宮崎市役所係員から不正に入手したK6が宮崎市
(省略)から宮崎県
宮崎郡(省略)に住所を変更したかのように記載された宮崎市長作成に係る内容虚
偽の転出証明書等
と共に提出して行使し,もって同人の住民異動に関する虚偽の申立てをして,情を
知らない上記町役
場町民課戸籍住民係職員をして,同町役場企画調整課に設置された公正証書の原本
として用いられる
電磁的記録である住民基本台帳ファイルにその旨不実の記録をさせ,これを直ちに
同所に備え付けさ
せて公正証書の原本としての用に供した。
第6 被告人は,B及びCと共謀の上,同月14日,宮崎市役所において,Cが,
行使の目的で,権
限なく,同市役所備付けの住民異動届用紙の「窓口にきた人」欄の「本人」と印字
された文字を丸で
囲んだ上,同欄に「L1」,「届出年月日,異動日」の各欄に「12・11・1
4」,「新しい住所」
欄に「宮崎市(省略)」,「いままでの住所」欄に「鹿児島市(省略)」,「異動
する人の氏名」欄
に「L1」などとそれぞれ記載した上,「窓口にきた人」欄のL1名下に「L1」
と刻した印鑑を押
捺し,もってL1作成名義の同人に関する住民異動届1通を偽造し,そのころ,同
市役所において,
同市役所市民部市民課市民第1係主査L2に対し,真実は上記偽造に係る住民異動
届に記載されたL
1の住民異動の事実がないのに,その情を秘し,かつ,上記住民異動届が真正に成
立したものである
かのように装って,先に鹿児島市役所係員から不正に入手したL1が鹿児島市(省
略)から宮崎市(
省略)に住所を変更したかのように記載された鹿児島市長作成に係る内容虚偽の転
出証明書と共に提
出して行使し,もって同人の住民異動に関する虚偽の申立てをして,人材派遣会社
から同市役所に派
遣され,住民記録システムの端末機を操作して住民登録に関するデータの入力業務
に従事していた情
を知らないL3をして,同市役所総務部情報政策課マシン室に設置された公正証書
の原本として用い
られる電磁的記録である住民基本台帳ファイルにその旨不実の記録をさせ,これを
直ちに同所に備え
付けさせて公正証書の原本としての用に供した。
第7 被告人は,B及びCと共謀の上,同月16日ころ,宮崎市(省略)K3方車
庫において,同所
に駐車してあった同人所有に係る普通乗用自動車1台(時価約300万円相当)を
窃取した。
第8 被告人は,B,C及びDと共謀の上,平成13年6月14日,宮城県名取市
役所駐車場に駐車
中の軽四輪乗用自動車内において,Dが,行使の目的で,権限なく,同市役所備付
けの住民異動届用
紙の「届出人資格欄」の「1.本人」と印字された文字の「1」を丸で囲んだ上,
「届出人氏名欄」
に「M1」,「届出年月日,異動年月日」の各欄に「13・6・14」,「住所
(新)」欄に「名取
市(省略)」,「住所(旧)」欄に「泉区(省略)」などとそれぞれ記載した上,
「届出人氏名」欄
のM1名下に「M1」と刻した印鑑を押捺し,もってM1作成名義の同人に関する
住民異動届1通を
偽造し,そのころ,同市役所において,同市役所市民福祉部市民課市民係長Mに対
し,真実は上記偽
造に係る住民異動届に記載されたM1の住民異動の事実がないのに,その情を秘
し,かつ,上記住民
異動届が真正に成立したものであるかのように装って,先に仙台市泉区役所係員か
ら不正に入手した
M1が仙台市泉区(省略)から宮城県名取市(省略)に住所を変更したかのように
記載された仙台市
泉区長作成に係る内容虚偽の転出証明書と共に提出して行使し,もって同人の住民
異動に関する虚偽
の申立てをして,情を知らない上記名取市役所市民福祉部市民課住民記録係M3を
して,同市役所総
務部企画課電子計算係ホストマシーンルームに設置された公正証書の原本として用
いられる電磁的記
録である住民基本台帳ファイルにその旨不実の記録をさせ,これを直ちに同所に備
え付けさせて公正
証書の原本としての用に供した。
第9
1 被告人は,B及びCと共謀の上,同月18日,仙台市宮城野区(省略)所在
の駐車場において,
同所に駐車してあったN1所有の軽四輪乗用自動車1台(時価約100万円相当)
を窃取した。
2 被告人は,前記1のとおり窃取したN1所有の車両を売却して金員をだまし
取ろうと企て,B,
C,E及びDと共謀の上,同日,同区(省略)所在の中古車等の仕入販売を営むN
2事務所において,
同店従業員N3らに対し,真実は,同車両が窃取したものであるのに,その情を秘
し,かつ,同車両
の所有者がN4であるかのように記載された内容虚偽の自動車検査証及び同人を被
保険者とする内容
虚偽の国民健康保険被保険者証等を提示した上,EがN4であるかのように装っ
て,同車両の売却を
申し込み,上記N3らをしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同所において,
同人から同車両売
買名目で現金57万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。
第10 
1 被告人は,B,Cと共謀の上,同日,同区(省略)所在の駐車場において,
同所に駐車してあ
ったO1所有又は管理に係る革ジャンパー,預金通帳等3点積載の軽四輪乗用自動
車1台(時価合計
約92万円相当)を窃取した。
2 被告人は,前記1のとおり窃取したO1所有の車両を売却して金員をだまし
取ろうと企て,B,
C,E及びDと共謀の上,同日,同区(省略)所在の中古車等の仕入販売を営む有
限会社O2事務所
において,同社代表取締役O3に対し,真実は同車両が窃取したものであるのに,
その情を秘し,か
つ,同車両の所有者が前記N4であるかのように記載された内容虚偽の自動車検査
証及び同人を被保
険者とする内容虚偽の国民健康保険被保険者証等を提示した上,EがN4であるか
のように装って,
同車両の売却を申し込み,上記O3をしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同
所において,同人
から同車両売買名目で現金70万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付さ
せた。
第11
1 被告人は,B及びCと共謀の上,同月19日,同区(省略)所在の駐車場に
おいて,同所に駐
車してあったP1所有又は管理に係る運転免許証等24点積載の軽四輪乗用自動車
1台(時価合計約
76万円相当)を窃取した。
2 被告人は,B,C,E及びDと共謀の上,前記1のとおり窃取したP1所有
の車両を売却して
金員をだまし取ろうと企て,同日,同市泉区(省略)所在の中古車等の仕入販売を
営む株式会社P2
事務所において,同店従業員P3に対し,真実は同車両が窃取したものであるの
に,その情を秘し,
かつ,同車両の所有者が前記M1である旨告げるとともに,同人を被保険者とする
内容虚偽の国民健
康保険被保険者証等を提示するなどして,DがM1であるかのように装って,同車
両の売却を申し込
み,上記P3をしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同所において,同人から
同車両売買名目で
現金30万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。
第12 被告人は,B,C及びFと共謀の上,同年7月25日,前記名取市役所にお
いて,Fが,行使
の目的で,権限なく,同市役所備付けの住民異動届用紙の「届出人資格」欄の
「1.本人」と印字さ
れた文字の「1」を丸で囲んだ上,「届出人氏名」欄に「Q1」,「届出年月日,
異動年月日」の各
欄に「13・7・25」,「住所(新)」欄に「名取市(省略)」,「住所
(旧)」欄に「仙台市宮
城野区(省略)」などとそれぞれ記載した上,「届出人氏名」欄のQ1名下に「Q
1」と刻した印鑑
を押捺し,もってQ1作成名義の同人に関する住民異動届1通を偽造し,そのこ
ろ,同市役所におい
て,同市役所市民福祉部市民課市民係Q2に対し,真実は上記偽造に係る住民異動
届に記載されたQ
1の住民異動の事実がないのに,その情を秘し,かつ,上記住民異動届が真正に成
立したものである
かのように装って,先に仙台市宮城野区役所係員から不正に入手したQ1が仙台市
宮城野区(省略)
から宮城県名取市(省略)に住所を変更したかのように記載された仙台市宮城野区
長作成に係る内容
虚偽の転出証明書と共に提出して行使し,もって同人の住民異動に関する虚偽の申
立てをして,情を
知らない上記名取市役所市民福祉部市民課住民記録係Q3をして,同市役所総務部
企画課電子計算係
ホストマシーンルームに設置された公正証書の原本として用いられる電磁的記録で
ある住民基本台帳
ファイルにその旨不実の記録をさせ,これを直ちに同所に備え付けさせて公正証書
の原本としての用
に供した。
第13
1 被告人は,B及びCと共謀の上,同年8月2日,仙台市太白区(省略)所在
の駐車場において,
同所に駐車してあったR1所有の軽四輪乗用自動車1台(時価約100万円相当)
を窃取した。
2 被告人は,B,C,G及びHと共謀の上,前記1のとおり窃取したR1所有
の車両を売却して
金員をだまし取ろうと企て,同日,同区(省略)所在の中古車等の仕入販売を営む
有限会社R2事務
所において,同店店長R3に対し,真実は同車両が窃取したものであるのにその情
を秘し,かつ,同
車両の所有者が前記Q1であるかのように記載された内容虚偽の自動車検査証及び
同人を被保険者と
する内容虚偽の国民健康保険被保険者証等を提示するなどして,GがQ1であるか
のように装って,
同車両の売却を申し込み,上記R3をしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同
所において,同人
から同車両売買名目に現金65万円の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付さ
せた。
第14 被告人は,B及びCと共謀の上,同月3日,同区(省略)所在の駐車場にお
いて,同所に駐車
してあったS所有又は管理に係る運転免許証等9点積載の軽四輪乗用自動車1台
(時価合計約103
万5100円相当)を窃取した。
第15 被告人は,B及びCと共謀の上,同日,宮城県多賀城市(省略)所在の駐車
場において,同所
に駐車してあったT所有に係るチャイルドシート等約12点積載の軽四輪乗用自動
車1台(時価合計
約103万3800円相当)を窃取した。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
罰      条
第1の行為    刑法60条,249条1項
第2の行為中
有印私文書偽造の点
刑法60条,159条1項
偽造有印私文書行使の点
刑法60条,161条1項,159条1項
詐欺未遂の点
刑法60条,250条,246条1項
第3ないし第6,第8,第12の各行為中
各有印私文書偽造の点
いずれも刑法60条,159条1項
各偽造有印私文書行使の点
いずれも刑法60条,161条1項,159条1項
各電磁的公正証書原本不実記録の点
いずれも刑法60条,157条1項
各不実記録電磁的公正証書原本供用の点
いずれも刑法60条,158条1項,157条1項
第7,第9の1,第10の1,第11の1,第13の1,第14,第15
の各行為
いずれも刑法60条,235条
第9の2,第10の2,第11の2,第13の2の各行為
いずれも刑法60条,246条1項
科刑上一罪の処理    
第2の罪     有印私文書偽造とその行使と詐欺未遂につき刑法54
条1項後段,10
条(1罪として最も重い詐欺未遂罪の刑(ただし,短期は偽造有印私文書行使罪の
刑のそれによる。)
で処断)
第3ないし第6,第8,第12の各罪
各有印私文書偽造とその各行使と各電磁的公正証書原
本不実記録とその
各供用につきいずれも刑法54条1項後段,10条(1罪として刑及び犯情の最も
重い偽造有印私文
書行使罪の刑で処断)
併合罪の処理      刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第
2の罪の刑に法定
の加重)
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑事情)
1 事案の概要
本件は,被告人が,共犯者と共謀の上,いわゆる美人局を行って現金20万円
を喝取した事案(
判示第1),他人の住民登録を無断で異動し,手に入れた他人名義の国民健康保険
被保険者証(以下
「保険証」という。)等を利用して,消費者金融業者から現金をだまし取ること及
び上記の方法で入
手した印鑑登録証明書等を利用して無断で自動車の名義変更をした上,同車両を窃
取し,中古車買取
業者に売却して現金をだまし取ることを企て,合計6件の住民異動を行った事案
(判示第3ないし第
6,第8及び第12),消費者金融業者から現金をだまし取ろうとしたが,未遂に
終わった事案(判
示第2)及び合計7台の車両を窃取し,そのうち4台を中古車買取業者に売却して
現金をだまし取っ
たという事案(判示第7,第9ないし第11の各1,2及び第13の1,2,第1
4及び第15)で
ある。
2 判示第1の事案について
被告人は,仕事を辞め,無為徒食の生活を送るうちに,いわゆる美人局などの
犯罪行為によって
生計を立てていた共犯者から誘われるままに行動を共にするようになり,自らも生
活費や遊興費欲し
さから,積極的に本件犯行に及んだものであって,自己中心的で短絡的な動機に酌
量の余地はない。
犯行態様についてみても,本件は,綿密な計画と役割分担の下に,共犯者の女
性を通じて被害者
を呼び出し,ホテルから出てきた被害者に対し,被告人らが暴力団を装って脅しつ
け,執ように金銭
の要求をした上,消費者金融業者から借入れをさせて現金20万円を喝取したもの
であって,計画的
で卑劣な犯行である。
被害者は,恐怖心から消費者金融業者から借入れを行って被告人らに現金を渡
し,喝取金額と利
息の負担を強いられたのであって,被害結果は重大であるが,被告人からの被害弁
償はなく,被害者
は被告人らの厳重処罰を望んでいる。
3 判示第2ないし第15の事案について
(1) 本件各犯行の犯行計画の概要は以下のとおりである。
まず,被告人らは,判示第1のような恐喝行為は警察に捕まる危険性が高い
と考え,市役所等
で住民異動登録をする際,従前の保険証を持参しなくともその場で新たな保険証が
交付されることを
利用して他人名義の保険証を手に入れ,消費者金融業者から借入れを行おうと企
て,被告人や共犯者
と同年代で世帯主が国民健康保険に加入している男女及び異動先とするアパート等
の空き室を探しだ
し,被告人又は共犯者が役場の窓口に赴いて虚偽の住民異動を行って保険証の交付
を受け,それと並
行して,消費者金融業者から就業事実の確認をされた場合でも犯罪が発覚しないよ
うに,保険証の名
義人を装った共犯者がアルバイトの申込みをして一時的な就業事実を作り出すなど
の準備行為を行っ
た上,共犯者が保険証の名義人に成りすまして消費者金融業者に借入れの申込みを
して,現金をだま
し取る計画を立てた。
また,被告人らは,消費者金融業者から現金をだまし取る方法では,名義人
の個人情報等を詳
細に記憶しなくてはならず,犯行が発覚しやすいことから,上記の手口と並行し
て,他人の住民異動
を無断で行い,それによって手に入れた印鑑登録証明書等を利用して他人名義の普
通乗用自動車の名
義変更を行い,中古車買取業者に売却して現金をだまし取ることを企てた。そこ
で,被告人らは,前
記記載の方法で,車両の新名義人となる人物の住民異動を行い,保険証,住民票及
び印鑑登録証明の
交付を受け,窃取する普通乗用自動車の名義人についても,同様に住民異動を行っ
て住民票及び印鑑
登録証明書の交付を受け,陸運支局において,上記の方法で手に入れた新,旧名義
人の住民票,印鑑
登録証明書及び再交付を受けた自動車検査証等を提出して車両の名義変更を行った
上,車両の販売代
理店に注文しておいた合いかぎを利用して車両を窃取し,被告人らが,上記の方法
で手に入れた保険
証を身分証明書として示すなどして同車両の新名義人に成りすまし,同車両を中古
車買取業者に売却
して現金をだまし取る計画を立てた。
さらに,被告人らは,犯行を重ねるうちに,販売代理店に合いかぎの製作を
依頼するよりも,
自分たちで合いかぎを製作した方が警察に捕まりにくいと考え,仲間を合いかぎ製
作講座に通わせ,
合いかぎ複製機等を購入して,被告人らも技術を修得した仲間から合いかぎ製作技
術を学び,また,
軽自動車の名義変更は,新所有者の住民票,自動車検査証等を提出するだけで,簡
単に手続を行うこ
とができることから,軽自動車の名義変更をすることにした。そして,経験上,窓
口で住民異動手続
を行ったり,中古車買取業者と交渉する実行犯役が最も逮捕されやすいことを知る
と,街で声をかけ
た女子高校生などを実行犯役とするなどして犯行を繰り返していた。
(2) 被告人は,全く自由気ままに遊興等にふけっては,更に遊興費や生活費を得
る手っ取り早い
方法として,共犯者が考え出した前記のような犯行計画に積極的に加担し,途中共
犯者の逮捕の事実
や自らも検挙されそうになった事実を経てもなお,社会や関係者多数への影響等を
一切顧みることも
せず,約1年間にわたって,各地を転々としながら常習的に本件各犯行を敢行して
いったのであって,
動機において,誠に身勝手極まりないというほかはなく,犯行への執着性も際立っ
ている。
犯行態様についてみても,前記のとおり,本件各犯行はいずれも極めて計画
的であり,被告人
とその共犯者間においては,それぞれの役割分担が明確にされ,各犯行において,
入念な準備行為を
経た上で,非常に手際よく犯行が行われている。そして,前記のとおり,犯行を重
ねるうちにますま
す巧妙化し,宮城県内においては,多数の少女を言葉巧みに犯罪行為に巻き込んで
いるのであって,
この点においても悪質である。
被告人は,住民異動手続や中古車買取業者への売却においては,自ら役場に
赴いて住民異動手
続を行ったり,実行犯役として少女らを使うようになってからも,市役所の窓口や
中古車買取業者の
事務所にまで付き添って具体的な指示を出すなどし,また,窃盗においては,窃取
する自動車を探し
だし,工具を使用して自動車のドアロックを開け,合いかぎを製作しているのであ
って,いずれの犯
行においても極めて重要な役割を果たしている上,本件各犯行の立案者たる共犯者
と同等の分け前を
手にしていたのであって,被告人の刑事責任の重さは立案者たる共犯者に比しても
さして劣らないと
いうべきである。
さらに,本件各犯行による財産的被害についてみると,窃取された車は7
台,窃盗の被害総額
は合計約870万円にも上り,うち4台については中古車買取業者への売却を通じ
て,合計約220
万円の詐欺の被害を生じさせているのであって,各被害者が受けた財産的被害は多
大であるが,これ
に対する被告人からの被害弁償はなく,今後もその見込みはない。
また,被告人らは,無断で6件の住民異動を行い,その結果手に入れた保険
証,住民票及び印
鑑登録証明書等を消費者金融業者からの借入れや中古車の売却に悪用していたので
あり,無断で住民
登録を異動され,知らぬ間に車両の名義人などにされた被害者らが受けた事実上の
不都合及び困惑や
不安等の精神的苦痛の程は大きい。加えて,被告人らの犯行は,各地で住民異動手
続及びそれに付随
する保険証の発行事務手続等を混乱させ,ひいては,円滑,迅速な行政執行や行政
サービスの在り方
に支障を来すとともに,これらの制度自体の信頼を害し,さらには,社会生活の中
で公文書として高
度の信用性をもつべきはずの保険証や印鑑登録証明書等の信用をも害したのであっ
て,被告人らの犯
行が社会に与えた影響は計り知れず,この点における被害結果も重大である。
4 結論
以上を総合すると,被告人の刑事責任は極めて重く,判示第2の犯行について
は,店員に犯行が
発覚して未遂に終わっていること,窃盗の被害品の一部が還付され一部被害回復が
実現していること,
被告人は,長期間身柄を拘束され,その間本件各犯行の被害者に対して謝罪の手紙
を書くなどして反
省の情を深めており,更生の意欲もうかがわれること,被告人は若年で前科前歴が
ないことなど,被
告人にとって酌むべき事情を十分に考慮しても,被告人に対し,主文掲記の刑を科
すことは,誠にや
むを得ないというべきである。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役7年)
平成14年12月4日
仙台地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官   畑 中  英 明
裁判官   佐々木  直 人
裁判官   大 塚  さや子

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