弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aの本件上告はこれを棄却する。
     原判決のうち被告B酒造株式会社、同Cに関する部分(但し被告B酒造
株式会社について無罪の部分を除く)を破棄する。
     被告B酒造株式会社を罰金五〇万円に処し、被告人Cを罰金二万円に処
する。
     被告人Cにおいて右罰金を完納することができないときは、金五〇〇円
を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
     訴訟費用のうち原審において証人Dに支給した分は被告B酒造株式会社、
同C及び被告人Aの連帯負担とする。
     被告B酒造株式会社において使用人Eの違反行為により責を負うべき物
価統制令違反の点は無罪。
         理    由
 弁護人小室薫の上告趣意第一点について。
 検察官が起訴後において裁判所の決定を俟つことなく、所論の処置に出でたこと
は不穏当の譏を免れないのであるが、論旨主張のごとく右の現金に帯封が施されて
いたか、また帯封に日附印が押捺されていたかどうかについての検証が本件犯罪事
実についての唯一の証拠方法というわけではなく、原審は被告人A等の供述及び証
人F、同D等の供述により問題の金円の預金される前の状態を考慮に入れて事実を
認定したと思われるのであつて、論旨は帰するところ、原審の採用した証拠の価値
判断を非難して事実の誤認を主張するのにほかならない。なお、論旨は、原判決は
憲法の人権保護の大原則を無視したというが、かゝる漠然たる主張は上告の理由た
り得ない。
 同第二点について。
 原審公判調書の指摘の個所に当つてみても、所論のごとき不一致を認めえないか
ら論旨は採用することができない。
 同第三点について。
 昭和二四年一〇月二四日の原審第四回公判調書(一二九三丁)には「裁判長は先
に為したる検証調書、各証人訊問調書の要旨を告げその都度被告人等の意見弁解の
有無を問うたところ、各被告人はありませんと述べた」とあつて、所論の書類は適
法の証拠調を経ていること明白であるから論旨は理由がない。
 同第四点について。
 論旨は理由がある。被告B酒造株式会社は、同会社取締役社長被告人Aが会社の
業務に関してなした物価統制令違反行為に連坐するほか、同会社常務取締役の原審
相被告人Eが会社の業務に関してなした(一)物価統制令違反(二)臨時物資需給
調整法違反の両行為についても連坐すべきものとして起訴されたのであるところ、
原判決は被告人Eに対し右公訴事実につきいずれも犯罪の証明がないとして無罪の
言渡をしたのであるから、被告会社に対しても右両行為につき無罪の言渡をしなけ
ればならなかつたのである。蓋し物価統制令第四〇条によつて法人の代表者、従業
員等が同条に定められた違反行為をなした結果、法人が処罰せらるゝ場合には、代
表者、従業員等と同一罪責のもとに処罰せられるものである以上、代表者、従業員
等が無罪であれば、法人も責を負わないことは理の当然である。
 しかるに原判決は理由において「右(二)の事実にもとずく被告B酒造株式会社
の臨時物資需給調整法違反の公訴事実について犯罪の証明がなく」と説示して主文
に「被告B酒造株式会社の臨時物資需給調整法違反の点は無罪」と言渡したけれど
も(一)物価統制令違反関係については、その言渡を欠いているのである。即ち判
決理由においては、被告B酒造株式会社の(一)物価統制令違反行為が無罪である
ことを説示しながら、主文において無罪の言渡をしなかつた違法があり、破棄を免
れない。
 同第五点について。
 論旨も理由がある。被告人Cについて原判決は「前記物価統制令違反の所為を容
易ならしめ之を幇助したもの」と判示して物価統制令違反幇助の事実を認定しなが
ら、その擬律の部において正犯に関する規定を適用したのみであつて、刑法第六三
条、第六八条第四号の従犯に関する減軽の規定を適用しなかつたのであるから原判
決には理由齟齬乃至不備の違法があり、破棄を免れない。
 同第六点について。
 論旨もまた理由がある。所論のごとく原判決は被告人Aの判示第二の(一)(二)
の物価統制令違反行為は犯意継続に出でたものと認めて、昭和二二年法律第一二四
号附則第四項による改正前の刑法第五五条を適用し一罪として処断しながらこれと
連坐する被告B酒造株式会社に対しては右の所為が併合罪の関係に立つものとして
罰金刑を併科処断したのである。しかし物価統制令第四〇条によつて法人がその代
表者の行為について責に任ずる場合に代表者の行為が連続一罪の関係にある以上、
法人もまた連続一罪として処断をうくべきものであることは大審院判例に徴するも
明らかといわねばならないから(昭和一六年(れ)第一五八五号、同年一二月一八
日大審院判決。昭和一七年(れ)第七五九号、同年七月二四日大審院判決参照)、
原判決が、右のごとく被告人Aの判示第二の(一)(二)の行為を連続一罪の関係
にあるものと認めたにかゝわらず、これにつき物価統制令第四〇条により被告B酒
造株式会社を問擬するに際し併合罪として処断したのは擬律錯誤の違法あるものと
いうべく、この点においても論旨は理由がある。
 よつて被告人Aの本件上告は理由がないので刑訴施行法第二条、旧刑訴第四四六
条によつて上告を棄却すべく、被告B酒造株式会社、同Cの本件上告はいずれも理
由があるので旧刑訴第四四七条、第四四八条に則り原判決のうち両被告人に関する
部分を破棄した上、次のとおり判決する。
 原判決の確定した事実に法令を適用すれば、被告B酒造株式会社に対しては物価
統制令第四〇条の適用により代表者たる被告人Aの処罰法条と同一の適用をすべき
ところ、同被告人の原判示第二の(一)(二)の各所為は物価統制令第三三条、第
三条、第四条、昭和二一年五月一三日大蔵省告示第三四一号に該当し、右は犯意継
続にかゝるので昭和二二年法律第一二四号附則第四項による改正前の刑法第五五条
により物価統制令第三条違反の一罪として処断すべく(罰金額については本件犯行
後昭和二三年法律第二五一号によつて変更があつたので刑法第六条、第一〇条を適
用して軽い行為当時のものによる)、所定の罰金額の範囲内で被告B酒造株式会社
を罰金五〇万円に処する。
 被告人Cの原判示第三の(一)(二)の各所為は物価統制令第三三条、第三条、
第四条、昭和二一年五月一三日大蔵省告示第三四一号、刑法第六二条第一項に該当
するところ、右は犯意継続にかゝるので昭和二二年法律第一二四号附則第四項によ
る改正前の刑法第五五条により物価統制令第三条違反の一罪として処断すべく、所
定刑中罰金刑を選択し、(罰金額については本件犯行後昭和二三年法律第二五一号
によつて変更があつたので刑法第六条、第一〇条を適用して軽い行為当時のものに
よる)、なお従犯であるから刑法第六三条、第六八条第四号により法定の減軽をし
た上、所定の罰金額範囲内において被告人Cを罰金二万円に処し、同被告人におい
て右罰金を完納することができないときは刑法第一八条に従い金五〇〇円を一日に
換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
 なお、主文第五項掲記の訴訟費用は刑訴施行法第二条、旧刑訴第二三七条第一項、
第二三八条に則り同項記載のごとく負担させるべく、被告B酒造株式会社において
使用人Eの違反行為により責を負うべき物価統制令違反の点は、前叙のごとく犯罪
の証明がないから、旧刑訴第四五五条、第三六二条を適用して無罪の言渡をする。
 よつて裁判官全員一致の意見で主文のとおう判決する。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二七年八月五日
     最高裁判所第三小法廷
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
 裁判長裁判官長谷川太一郎は退官、裁判官穂積重遠は死亡につき署名捺印するこ
とができない。
            裁判官    井   上       登

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