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平成24年6月26日判決言渡
平成23年(行ケ)第10299号審決取消請求事件
平成24年4月24日口頭弁論終結
判決
原告ハリスコーポレイション
訴訟代理人弁理士伊東忠彦
同伊東忠重
同大貫進介
同山口昭則
同鶴谷裕二
同藤村直樹
被告特許庁長官
指定代理人岡崎克彦
同小谷一郎
同金澤俊
同樋口信宏
同芦葉松美
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2010-7591号事件について平成23年5月10日にした審
決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「無線によるエンジン監視システム」とする発明について,
2004年6月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年7月23
日,米国)を国際出願日として特許出願(特願2006-521081号。以下「本
願」という。)をしたが,平成21年12月8日付けで拒絶査定を受けた。これに
対し,原告は,平成22年4月9日付けで,拒絶査定に対する不服審判の請求(不
服2010-7591号)をし,同日付けで明細書について補正をした(以下「本
件補正」という。)。
特許庁は,平成23年5月10日,本件補正を却下し,「本件審判の請求は,成
り立たない。」との審決をし(附加期間90日。以下,単に「審決」という。),その
謄本は,同月24日,原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
本件補正前の特許請求の範囲(請求項の数9)の請求項1の記載は,次のとおり
である(以下,同請求項に記載された発明を「本願発明」という。なお,本件補正
後の特許請求の範囲の請求項1の記載も同一である。)。
「航空機のエンジンのパフォーマンスの記録を提供するためのシステムであって:
前記航空機エンジンの動作に関係する航空機エンジンデータを収集するために前
記航空機エンジンに取り付けられ,さらに無線通信信号を介して前記エンジンデー
タを送信するための送信機を有するエンジン監視モジュールであって前記航空機エ
ンジンを追跡するための前記航空機エンジンのシリアル番号に結びつけられたデー
タアドレスを割り当てられているエンジン監視モジュールと,
前記送信されたエンジンデータを受信するための受信機,
とを有することを特徴とするシステム。」
3本件補正の内容
本件補正の内容は,以下のとおり,明細書の段落【0011】を補正するもので
ある(下線部は,補正部分を表す。)
「【0011】
本発明のいま一つの側面では,エンジンデータを収集するためにFADEC/E
CUが航空機エンジンとともに動作する。当該エンジン監視モジュールはエンジン
データを集めるために電気的にFADEC/EDUに接続される。好ましくは当該
エンジン監視モジュールにデータアドレスが割り当てられ,該データアドレスは当
該航空機エンジンを追跡する(track)ためのエンジンシリアル番号と結び付
けられている。このデータアドレスは好ましくはインターネットアドレスを含んで
いる。当該エンジン監視モジュールはまた,トランシーバの一部として,エンジン
監視のために使われるさまざまなアルゴリズムを含むデータを機上処理のためにア
ップロードするための受信機をも含むことができる。」
4審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,①本件補正
は,特許請求の範囲の減縮に当たらず,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでな
い記載の釈明を目的としたものでもないから,平成18年法律第55号改正附則3
条1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下
「旧特許法」という。)17条の2第4項の規定に違反するとして却下した上,本願
発明は,米国特許第6353734号明細書(以下「引用文献」という。)に記載さ
れた発明及び周知技術に基づき,容易に発明をすることができたものであり,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断し,②仮に,本件補
正が適法であるとしても,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発
明(以下「本願補正発明」という。)は,引用文献に記載された発明及び周知技術に
基づき,容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定によ
り特許を受けることができないと判断したものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用文献に記載された発明の内容,同発明と
本願発明(本願補正発明)との一致点,相違点について,次のとおり認定した。
(1)引用文献に記載された発明の内容
「航空機エンジンのパフォーマンスの記録を提供するための航空機通信システム
であって:
前記航空機エンジンの動作に関係する航空機エンジンデータを収集するために前
記航空機に取り付けられ,さらに無線通信信号を介して前記エンジンデータを送信
するための無線(RF)トランシーバー136を有するGDLセグメント101で
あって前記GDLセグメント101と,
前記送信されたエンジンデータを受信するためのルータ201,
とを有する航空機通信システム。」
(2)一致点
「航空機エンジンのパフォーマンスの記録を提供するためのシステムであって:
前記航空機エンジンの動作に関係する航空機エンジンデータを収集するために前
記航空機エンジンに取り付けられ,さらに無線通信信号を介して前記エンジンデー
タを送信するための送信機を有するエンジン監視モジュールであって前記エンジン
監視モジュールと,
前記送信されたエンジンデータを受信するための受信機,
とを有するシステム。」
(3)相違点
「エンジン監視モジュールに関して,本願発明(本願補正発明)においては航空
機『エンジン』に取付けられ,『航空機エンジンを追跡するための前記航空機エンジ
ンのシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てられている』のに対
して,引用文献に記載された発明においては,本願発明(本願補正発明)における
『エンジン監視モジュール』に相当する『GDLセグメント101』が航空機エン
ジンに取り付けられているかどうか不明であって,『航空機エンジンを追跡するため
の前記航空機エンジンのシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当て
られている』かどうか不明な点。」
第3当事者の主張
1取消事由に関する原告の主張
(1)取消事由1(本件補正却下の違法性)
旧特許法17条の2第4項は,特許請求の範囲について補正をする場合に適用さ
れ,明細書について補正をする場合には適用されない。本件補正は,特許請求の範
囲について補正をするものではなく,明細書の段落【0011】についてのみ補正
をするものである。したがって,旧特許法17の2第4項の規定に違反するとして,
本件補正を却下した審決の判断は,違法である。
(2)取消事由2(本願補正発明と引用文献に記載された発明との一致点・相違点
の認定の誤り)
審決は,引用文献には「航空機エンジンに取り付けられ(た)・・・GDLセグメ
ント101」が記載されているとして,GDLセグメント101が本願補正発明の
エンジン監視モジュールに相当すると誤って認定し,本願補正発明と引用文献に記
載された発明との相違点を看過した誤りがある。
すなわち,本願補正発明のエンジン監視モジュールは,データ収集デバイス程度
の小型のもので,航空機エンジンに取り付けられ,エンジン位置において,エンジ
ン・データのみを収集する。他方,引用文献に記載された発明のGDLセグメント
101は,航空機電子工学機器コンパートメントの制御された環境内に設置されて
おり,航空機エンジンに取り付けられているわけではない。
したがって,引用文献のGDLセグメント101は,本願補正発明の「航空機エ
ンジンに取り付けられ(た)・・・エンジン監視モジュール」に相当するものではな
く,審決の本願補正発明と引用文献に記載された発明との一致点・相違点の認定に
は,誤りがある。
(3)取消事由3(容易想到性判断の誤り)
ア審決は,航空機エンジンに取り付けられ,航空機エンジンを追跡するための
航空機エンジンのシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てられて
いるエンジン監視モジュールは周知であると認定しているが,誤りである。
すなわち,米国特許第5031396号明細書(甲2)に記載された発明は,エ
ンジンに重い構造を取り付ける用途のもので,ガスタービンエンジンのための静止
部構造を使って重いエンジン制御ユニット又は同様の機構(FADECなど)を支
持するものが記載されており,また,特公平8-30422号公報(甲3)に記載
された発明は,重い構成部品(コンポーネント),例えば電子エンジンコントローラ
を航空機エンジンに人為的に取り付け,又は取り外す方法及び装置に関する発明で
あり,非常に重いエンジン制御機構又は他のエンジンデバイスのための大きな構造
を支持するものが記載されており,いずれも,本願補正発明のような航空機エンジ
ンデータを収集するためのエンジン監視モジュールが航空機エンジンに取り付けら
れることは記載されていない。さらに,特開2002-225823号公報(甲4)
及び特開2002-28575号公報(甲5)に記載された技術は,いずれも航空
機とは無関係の技術分野に属するものである。これらをもって,航空機エンジンに
取り付けられ,航空機エンジンを追跡するための航空機エンジンのシリアル番号に
結びつけられたデータアドレスを割り当てられているエンジン監視モジュールが周
知であったとはいえない。
イ審決は,航空機エンジンに取り付けられ,航空機エンジンを追跡するための
航空機エンジンのシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てられて
いるエンジン監視モジュールという,本願補正発明の特徴点を分離することにより,
それぞれが周知であるとして,本願補正発明は容易想到であると認定,判断してい
るが,失当である。すなわち,本願補正発明のエンジン監視モジュールは,航空機
に直接取り付けられているからこそ,個々のエンジンのデータを収集し監視するこ
とができ,かつ,そのために個々のエンジンを追跡する(track)ための航空機
エンジンのシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てられていると
いう特徴を有し,これらが有機的に結びついて初めて本願補正発明の効果を奏する
ものである。
ウ被告は,エンジン監視モジュールとFADECとを同一視しているが,FA
DECは,無線通信信号を介してエンジンデータを送信する機能を有しないから,
エンジン監視モジュールと同一視することはできない。FADECを航空機エンジ
ンに取り付けることが知られていたとしても,FADECとは異なるエンジン監視
モジュールを航空機エンジンに取り付けることが容易であったとはいえない。
また,引用文献(甲1)の7欄45~50行には,「GDLユニット111は,航
空機の航空電子工学機器コンパートメントの制御された環境内に好適に設置される。
GDLユニットは,破線122内に示す多数の航空機フライト・パラメータ・トラ
ンスデューサ,コクピット計器及び表示コンポーネントからの通信に結合される。」
と記載されており,引用文献に記載された発明においては,GDLユニット111
が「航空機の航空電子工学機器区画の管理された環境の中」に設置されることが最
善の選択肢であり,引用文献には,GDLセグメントを航空機エンジンに取り付け
ることは,記載も示唆もされていない。
エ以上のとおり,審決は,周知技術の認定を誤った上,本願補正発明の特徴点
を殊更分離し,それぞれが周知であるとして,本願補正発明は容易想到であると認
定,判断しているが,失当である。
2被告の反論
(1)取消事由1(本件補正却下の違法性)に対して
本件補正は,本願発明の「追跡する」との用語の意味を明確化するためにした補
正であり,実質的に特許請求の範囲についてする補正である。また,本件補正は,
不明りょうな記載の釈明を目的とする補正であるとしても,拒絶理由通知に係る拒
絶の理由に示す事項についてするものではない。さらに,本件補正は,請求項の削
除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正のいずれを目的とするものでもない。
したがって,旧特許法17の2第4項の規定に違反するとして,本件補正を却下
した審決の判断に誤りはない。
仮に,本件補正が特許請求の範囲についてする補正でないとすれば,本件補正に
より特許請求の範囲は何ら変更されなかったこととなるところ,審決は,変更のな
い特許請求の範囲の請求項1に係る発明について,特許法29条2項により特許を
受けることができないと判断している。したがって,審決が本件補正を却下した点
に誤りがあるとしても,審決の結論に誤りはない。
(2)取消事由2(本願補正発明と引用文献に記載された発明との一致点・相違点
の認定の誤り)に対して
審決は,引用文献に記載された発明として,航空機に取り付けられたGDLセグ
メント101と認定しており,航空機エンジンに取り付けられたGDLセグメント
101とは認定していない(一致点として認定した「航空機のエンジンに取り付け
られ,・・・エンジン監視モジュール」は,「航空機に取り付けられ,・・・エンジン
監視モジュール」の誤記である。)。また,引用文献に記載されたGDLセグメント
101は,GDLユニットを備えて,航空機エンジンデータを収集し,無線通信信
号を介してエンジンデータを送信するための無線(RF)トランシーバー136を
有していることからすれば,引用文献に記載された発明におけるGDLセグメント
101が本願補正発明におけるエンジン監視モジュールに相当するとした審決の判
断に誤りはない。なお,原告は,本願発明のエンジン監視モジュールは,データ収
集デバイス程度に小型で,エンジン・データのみを収集するものであると主張する
が,この主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
したがって,引用文献のGDLセグメント101は,本願補正発明のエンジン監
視モジュールに相当するとした審決の認定に誤りはなく,審決の本願補正発明と引
用文献に記載された発明との一致点・相違点の認定にも誤りはない。
(3)取消事由3(容易想到性判断の誤り)に対して
引用文献に記載された発明は,①GDLセグメントが航空機のエンジン状態を検
知するセンサーに接続されて航空機のエンジンのデータを収集し,②収集されたエ
ンジンデータは,GDLセグメントから地上にダウンロードされて到着地でエンジ
ン整備が必要かどうかの判断に役立てるなどエンジンの追跡管理に用いられるもの
であり,③エンジン状態を検知するセンサーに接続されたFADECエンジン制御
システムが既に存在しエンジン事象の監視に使用でき,④GDLセグメントのGD
Lユニットは,IPアドレスを保持し,航空機のテール番号(識別番号)と結びつ
けられている。また,航空機エンジンにFADECなどのエンジン制御システム(監
視モジュール)を取り付けることや,シリアル番号に結びつけられたデータアドレ
スを割り当てることは周知である。そうすると,引用文献に記載された発明におけ
るGDLセグメントとFADECを一緒に(あるいは一体化して)航空機エンジン
に取り付けると共に,IPアドレスと航空機エンジンのシリアル番号を結び付けて,
本願補正発明の構成に至ることは,容易である。
なお,引用文献(甲1)の7欄45~50行には,「GDLユニット111は,好
ましくは,各種の航空機フライトパラメータ変換器からの通信リンクや,破線12
2の中に示されているコクピットの計器および表示装置が連結される,航空機の航
空電子工学機器区画の管理された環境の中に設置される。」と記載されており,引用
文献に記載された発明は,GDLユニット111が「航空機の航空電子工学機器区
画の管理された環境の中」以外の場所に設置されることを排除していない。すなわ
ち,引用文献に実施例として記載されたGDLユニットは,好ましくは,航空機の
航空電子工学機器区画の管理された環境の中に設置され,その場合は航空機エンジ
ン以外のデータも収集するものであるが,単純にGDLセグメントを航空機エンジ
ンに取り付けることも容易である。
また,原告は,本願補正発明のエンジン監視モジュールは,航空機エンジンに直
接取り付けられ,そのシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てら
れ,これらが有機的に結びついて初めて本願補正発明の効果を奏すると主張する。
しかし,原告の上記主張は,失当である。すなわち,引用文献に記載されたGDL
ユニットにおいても,個々のエンジンのデータを収集して監視することができる上,
引用文献のGDLユニットは,好ましくは,航空機全体のデータを収集することを
前提にGDLユニットのIPアドレスと航空機のテール番号(識別番号)が結び付
けられているのであるから,監視対象を航空機エンジンとした場合において,GD
LユニットのIPアドレスを航空機ではなく,航空機のエンジンと結び付けること
は容易といえ,上記構成から顕著な効果が生ずることはない。
したがって,本願補正発明は,引用文献に記載された発明に周知技術を適用する
ことにより容易に発明をすることができたとする審決の認定,判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,審決が,本件補正を却下した点には誤りがあるが,本願補正発明は
引用文献に記載された発明及び周知技術に基づき容易に想到できたと判断した点に
誤りはなく,本件補正却下の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではないから,
審決を取り消すべきとはいえないものと判断する。その理由は,以下のとおりであ
る。
1取消事由1(本件補正却下の違法性)について
審決は,本件補正は,特許請求の範囲の減縮に当たらない上,請求項の削除,誤
記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的としたものではないから,旧特許法1
7条の2第4項1号ないし4号のいずれにも該当しないとして,これを却下した。
しかし,審決の上記判断には誤りがある。すなわち,旧特許法17条の2第4項
は,特許請求の範囲についてする補正に係る規定であるところ,本件補正は,前記
第2の3記載のとおり,明細書の段落【0011】の「追跡する」の後に,英語で
追跡を意味する語である「track」を付け加えるものであって,特許請求の範
囲についてする補正に当たらない。これに対し,被告は,本件補正は,実質的に特
許請求の範囲についてする補正であり,旧特許法17条の2第4項が適用される旨
主張するが,明細書の記載に係る補正に同条同項の適用があると解することはでき
ず,主張自体失当である。
したがって,審決の本件補正却下の判断には誤りがある。もっとも,審決は,本
件補正を却下する一方で,予備的に,本件補正が適法であるとしても,本願補正発
明は,引用文献に記載された発明及び周知技術に基づき,容易に発明をすることが
できたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと
判断しているので,進んでこの点について検討することとする。
2取消事由2(本願補正発明と引用文献に記載された発明との一致点・相違点
の認定の誤り)について
原告は,引用文献のGDLセグメント101は,航空機電子工学機器コンパート
メントの制御された環境内に設置されており,航空機エンジンに取り付けられてい
るわけではないから,審決には,引用文献のGDLセグメント101が航空機エン
ジンに取り付けられている本願補正発明のエンジン監視モジュールに相当すると認
定した誤りがあると主張する。
この点,確かに,審決は,本願補正発明と引用文献に記載された発明との一致点
として,エンジン監視モジュールが航空機エンジンに取り付けられている点を挙げ
ている。しかし,審決は,本願補正発明と引用文献に記載された発明との相違点の
認定において,引用文献に記載された発明においては,本願補正発明におけるエン
ジン監視モジュールに相当するGDLセグメント101が航空機エンジンに取り付
けられているかどうか不明であるとして,この点を相違点として挙げた上,上記相
違点に係る構成について,容易想到性の判断を行っている。そうすると,審決には,
本願補正発明と引用文献に記載された発明との一致点の記載には誤りがある(被告
主張のように誤記と解されるが,誤記としては初歩的なミスといえる。)ものの,全
体としては,本願補正発明と引用文献に記載された発明との一致点・相違点の認定
自体に誤りがあるとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。
3取消事由3(容易想到性判断の誤り)について
(1)事実認定
ア本願補正発明に係る特許請求の範囲の記載
本願補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,上記のとおり,本願発明に係る特
許請求の範囲の記載から変更がなく,前記第2の2記載のとおりである。すなわち,
本願補正発明は,航空機のエンジンのパフォーマンスの記録を提供するためのシス
テムであって,①航空機エンジンの動作に関係する航空機エンジンデータを収集す
るために航空機エンジンに取り付けられ,さらに無線通信信号を介してエンジンデ
ータを送信するための送信機を有するエンジン監視モジュールであって航空機エン
ジンを追跡するための航空機エンジンのシリアル番号に結びつけられたデータアド
レスを割り当てられているエンジン監視モジュールと,②送信されたエンジンデー
タを受信するための受信機とを有することを特徴とするシステムに係る発明である。
イ引用文献の記載
引用文献(甲1)には,以下の記載がある(以下,7欄45ないし50行以外は,
被告提出の訳文のみを示す。)。
「発明の属する技術分野
本発明は,航空機の飛行性能およびエンジン性能の記録を利用可能にするシステ
ムおよび方法に関し,より具体的には,最初の離陸の間にエンジンデータをダウン
ロードするだけではなく,航空機が着陸した後に飛行性能データもダウンロードす
る,スペクトル拡散地上リンクベース航空機データ通信システムに関する。」(1
欄11ないし19行)
「本発明に従って,このシステムは,航空機の飛行性能の記録および最初の離陸
の間にダウンロードされたエンジンデータの記録を利用可能にする。本発明に従っ
て,複数のセンサーが航空機に配置され,エンジン状態を検知し,少なくとも最初
の離陸の間にエンジンの運用に関するエンジンデータを生成する。地上データリン
クユニットが航空機内に設置され,エンジンデータを受信するため,複数のセンサ
ーに機能的に接続される。地上データリンクユニットの中央演算処理装置は,エン
ジンデータを受信し,続くダウンロードのため,あるいはエンジンに関する問題を
初期に特定するため,このデータを処理する。地上データリンクユニットには,デ
ータストアが含まれており,航空機の飛行中の飛行性能データを集積および保存す
る。さらにデータストアは,複数のセンサーから受信したエンジンデータを集積お
よび保存する。」(2欄3ないし19行)
「本発明の一側面において,地上データリンクユニットのデータストアが機能し,
航空機の飛行中に集積され,その後到着地の空港に着陸する際にダウンロードされ
るエンジンデータを保存する。このシステムには,FADECエンジン制御システ
ムが含まれる。センサーが,FADECエンジン制御システムに機能的に接続され
る。」(2欄36ないし42行)
「加えて,エンジン事象は航空機の飛行中にアーカイブ領域で検出および保存さ
れるだけではなく,離陸及び/又は初期上昇の最初の30秒間にダウンロードされ
る。こうして,整備要員または他の航空管制センターは,最初の離陸および上昇の
間にデータを取得し,到着地でエンジン整備が必要かどうかの判断に役立てること
が可能となる。」(5欄50ないし57行)
「ここで図12を参照すると,本発明で使用される,無線地上リンクに基づく航
空機データ通信システムの全システム構成の代表例が示されている。このシステム
構成は,連結された3つのサブシステムを有する。(1)航空機搭載の地上データ
リンク(GDL)サブシステム100,(2)空港設置の地上サブシステム200,
および(3)遠隔地の航空管制センター300である。航空機搭載の地上データリ
ンク(GDL)サブシステム100には,複数のGDL機上セグメント101が含
まれており,各セグメントはそれぞれ異なる航空機の航空電子工学機器区画の管理
された環境の中に設置されている。各GDL機上セグメント101は,無線通信リ
ンク120を通して,空港設置の地上サブシステム200の無線ルータ(WR)セ
グメント201と通信する機能を果たす。
この無線ルータセグメント201は,GDL機上セグメント101から受信した
ファイルを,有線イーサネットLAN207で直接,あるいはローカルエリアネッ
トワーク207と空港設置の無線ブリッジセグメント203を通して間接的に,空
港基地局202に配信する。無線通信リンク120として,S帯2.4-2.5G
Hzの範囲内など,電磁スペクトルの免許不要部分に位置する搬送周波数を有する,
スペクトル拡散無線周波数(RF)リンクを使用できる。
以下で説明されるが,GDLセグメント101の機上ユニット(AU)102は,
航空機に設置された後,飛行中に機上で生成された飛行性能データを収集および保
存する。また同機上ユニット102は,地上サブシステムの無線ルータ201を通
して航空機にアップロードされた情報を保存および配信する。次のフライトまたは
一連のフライトのための準備においては,地上サブシステム200の基地局セグメ
ント202からのローカルエリアネットワーク207によって,無線ルータ201
が機上ユニット102に連結される。」(6欄15ないし47行)
「ここで図13を参照すると,各GDLセグメント101が,GDLデータ記憶
および通信ユニット111(以下単にGDLユニットと呼ぶ)および付属の機体外
部(胴体など)設置のアンテナユニット113を備えた装置として図示されている。
別の実施形態においては,アンテナユニット113が,アンテナ双極子や,別個に
(直交)分極された複数のアンテナ部品のような異なる構成の部品を内蔵する場合
がある。」(7欄36ないし44行)
「TheGDLunit111ispreferablyinstalledwithinthecontrolledenvironment
ofanaircraft’savionicscompartment,towhichcommunicationlinksfrom
variousaircraftflightparametertransducers,andcockpitinstrumentsand
displaycomponents,shownwithinbrokenlines122,arecoupled.
GDLユニット111は,好ましくは,各種の航空機フライトパラメータ変換器
からの通信リンクや,破線122の中に示されているコックピットの計器および表
示装置が連結される,航空機の航空電子工学機器区画の管理された環境の中に設置
される。」(7欄45ないし50行。なお,原告は,上記部分について,「GDL
ユニット111は,航空機の航空電子工学機器コンパートメントの制御された環境
内に好適に設置される。GDLユニットは,破線122内に示す多数の航空機フラ
イト・パラメータ・トランスデューサ,コクピット計器及び表示コンポーネントか
らの通信に結合される。」と訳するべきと主張するが,採用の限りでない。)
「そのように設置された場合,GDLユニット111は,予備データ経路124
を通して航空機の機上データ取得装置126(例えばこの例ではDFDAU(デジ
タルフライトデータ取得ユニット))に接続される。GDLユニット111は,D
FDAU16(判決注・「16」は「126」の誤記と認める。)からのフライト
パラメータのデータの流れに同期し,収集されたデータをメモリに保存する。同時
にGDLユニット111は,データ経路125を通して,航法装置および/または
旅客エンターテイメント局などの1台または複数の付加的機上ユニットに連結され,
空港の地上サブシステム無線ルータ201からアップロードされた各種データ,音
声および映像ファイルなどを供給する。
機上データ取得ユニット126は,収集されたフライトデータを航空機のフライ
トデータレコーダ(DFDR)128に従来の方法で伝送する標準的なフライトデ
ータリンク129を介して,デジタルフライトデータレコーダに連結される。」(7
欄50ないし65行)
「図6Aには,常に番号400で示されるジェットエンジンの断面図が図示され
ており,基本的構成要素,およびジェットエンジンからの,またジェットエンジン
に対するエンジン気流FADEC(全自動デジタルエンジン制御装置)制御402
を示している。この制御402は,エンジン事象のリアルタイム監視に使用するこ
とができる。前述の事象は,離陸後1分間ほどで遠隔地の診断センターにダウンロ
ードされ,同センターは到着地における搭載状態での整備を実施すべきかどうかを
判断する。
理解しやすくするため,このジェットエンジンを説明するための参照場号を40
0番台から始める。図6Aに示されているとおり,エンジン気流FADEC制御4
02には,コア区画抽気,油溜め加圧,油溜め排気,アクティブクリアランスコン
トロール,低圧および高圧回復,さらに排気および排液が含まれる。これらの機能
は,当業者に知られているとおり,基本的なFADEC制御システム402によっ
て監視することができる。」(14欄1ないし16行)
「図6Bは,一実施例においてエンジン始動中に監視された要素を図示している。
監視項目には,エンジン油圧システム,油圧(psi),エンジン遮断スイッチ,
油温(℃),燃料流量(lb/時),百分率で示したN2LおよびN1L,さらに
摂氏で示した油温およびEGT(排気温度)が含まれる。数値範囲がグラフの縦軸
に示され,時間がグラフの横軸に示されている。
この情報は,本発明による地上データリンクユニットを介して地上設置の処理装
置にダウンロードすることが可能であり,遠隔地の診断センターは到着地における
搭載状態での整備を実施すべきかどうかを判断することができる。」(15欄1な
いし12行)
「図9は,本発明の一実施形態において実現可能な航空運航ネットワークアーキ
テクチャの一例を図示している。ネットワーク全体は,広く普及しているインター
ネット標準TCP/IPプロトコルを基盤とする。将来のTCP/IPからTP4/
CLNPへのゲートウェイが,ATCネットワーク作成に関する現在の産業界にお
ける基準との互換性を示すために図示されている。理解しやすくするため,本発明
のこの側面を説明するための参照番号は500番台から始まる。
図9はこの効率的なシステムを図示しており,500に点線で示された機上シス
テム,502に点線で示されたGDL空港端末,さらに504に点線で示された運
航管理システムを図示している。これら3組のユニットは,公衆交換電話ネットワ
ークおよび代表的な公衆交換システムを含む航空運航広域ネットワーク506に接
続される。この航空運航システムには,航空機上に設置されたGDLユニット51
0が含まれ,このGDLユニット510は,データ接続512を介して,代表的な
処理装置であるSunSPARCコンピュータ端末518へのブリッジ514お
よびゲートウェイ516で,GDL空港端末502に接続される。」(23欄「T
ABLEIX」の次行ないし24欄7行)
「ホストネットワーク識別のため,GDLネットワーク上の各ホストは,固有の
IPアドレスを前もって割り当られる。これは静的アドレスであり,設定後に変更
されることはない。しかしながら,航空運航ネットワークが動的IPアドレスの割
り当て(動的ホスト構成プロトコルなど)を必要とする場合,現在のGDLネット
ワークコンポーネントのIPアドレス割り当て方式を再構成し,航空運航ネットワ
ークのIPアドレス割り当てネットワークサーバからGDLネットワークのIPア
ドレスを取得することができる。
コンピュータをGDLネットワークに接続するために,各GDLホストは,IP
アドレスおよび関連するコンピュータ名を含み,ネットワーク上の他の使用可能な
ホストを記述した内部テーブルを有する。」(26欄35ないし47行)
「AS(判決注・GDL機上セグメントを示す。)がGDL装備空港を離れ,プロ
ーブ信号を受信できなくなると,ATG電話回線システムを介してSCにダイヤル
アップ接続し,ホームネットワーク上の自らの存在についてホームエージェントに
知らせ,初期設定であるホームネットワークでの固定IPアドレスに戻る。」(2
7欄39ないし43行)
「表XIは,GDLシステム制御装置が,地上からのネットワークトラフィック
を可能な限り費用対効果の高い仕方で航空機に転送することができるよう,使用可
能なデータ通信オプションを常に監視する方法の例を示している。この表は,シス
テム制御装置が,各航空機に付随する電話番号に加えて,静的または「ホーム」I
Pアドレスと仮のDHCP「外部」IPアドレスの両方を識別することを示してい
る。前項で説明されたプロセスは,最も経済的な転送オプションが優先度の高いメ
ッセージのために使用されることを保障する。GDL装備空港に近隣で接続された
場合,ASは常に自らの仮DHCP「外部」IPアドレスを登録するためである。
優先度の低いファイル送信の場合,ASおよびSCはGDL接続オプションが使用
可能になるまでそのファイルを保存する。
表XI
動的メッセージングアドレス表
テールトレイ静的静的動的
番号番号電話番号「ホーム」IP「外部」IP
N631xxxxxxxxx.xxx.xxxxxx.x.xxx.xxxx.x.xxx.xx
N632xxxxxxxxx.xxx.xxxxxx.x.xxx.xxxx.x.xxx.xx

(28欄11ないし31行)
(2)判断
ア上記引用文献の記載によれば,引用文献には,①地上データリンクユニット
(GDLセグメント)は,航空機のエンジン状態を検知するセンサーに接続されて
航空機のエンジンのデータを収集していること,②収集されたエンジンデータは,
GDLセグメントから地上にダウンロードされて到着地でエンジン整備が必要かど
うかの判断に役立てるなどエンジンの追跡管理に用いられていること,③FADE
Cエンジン制御システムは,エンジン状態を検知するセンサーに接続され,エンジ
ン事象の監視に使用できること,④GDLセグメントのGDLユニットは,IPア
ドレスを保持し,航空機のテール番号(識別番号)と結びつけられていることが記
載されており,引用文献に記載された発明は,GDLセグメントを通じて各エンジ
ンを監視していると認められる。
また,甲2(米国特許第5031396号明細書)には「電子エンジン制御は,
一般的にエンジンの外部に搭載されてエンジンケースの1つを形成する。電子エン
ジン制御部は,エンジンの作動パラメータを監視し,エンジンの燃料制御部から燃
焼部への燃料の流れを調整する。」(1欄37ないし41行。被告提出の訳文のみを
示す。)と,甲3(特公平8-30422号公報)には「航空機エンジンは,その外
側に取付けられる種々の構成部品例えば電子エンジンコントローラ(EEC)及び
フルオーソリティー(FullAuthority)デジタルエンジンコントロ
ーラ(FADEC)を装備し,・・・」(3頁6欄23~26行)と,乙1(特開平
11-117811号公報)には「・・・このエンジン本体1の外周には,当該エ
ンジンAに係わる各種補機が備えられている。・・・上記エンジン制御装置3は,こ
の補機の1であり,エンジン本体1の作動を電気的に制御するものである。・・・」
(段落【0009】,【0010】)と記載されており,航空機エンジンにFADEC
などのエンジン制御システムを取り付けることや,FADECなどのエンジン制御
システムがエンジン事象を監視する機能を有することは,周知の技術事項といえる。
そして,引用文献に記載された発明のGDLセグメントは,航空機のエンジンのデ
ータの収集のほか,航空機の飛行中の飛行性能データの収集や,音声及び映像ファ
イルなどのアップロードを行うもので,複数種類の情報を総合的に処理する装置で
あるが,一つの装置で各種の情報を総合的に処理するか,情報の種類ごとに個別に
処理するかは,適宜選択できる技術的事項であるといえ,GDLセグメントにおけ
るエンジンの監視機能のみに着目し,その手段を各エンジンに取り付けることは,
容易に想到できたといえる。
さらに,引用文献に記載された発明においては,ネットワーク全体はTCP/I
Pプロトコルを基盤として,GDLユニットがIPアドレスを保持し,飛行機のテ
ール番号と結びつけられているところ,エンジンをシリアル番号で追跡管理するこ
とや,物品を管理するためシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当
てることは周知であること(甲4ないし7,乙1ないし4)からすれば,引用文献
に記載された発明において,IPアドレスをエンジンのシリアル番号と結びつける
ことも,容易に想到できたといえる。
なお,本願補正発明の効果についてみても,引用文献に記載された発明や周知技
術から予測し得る範囲内のものであり,格別顕著なものとはいえない。
以上によれば,本願補正発明は,引用文献に記載された発明に周知技術を適用す
ることにより容易に想到することができたといえる。
イ原告の主張に対して
(ア)原告は,甲2,3には,本願補正発明のような航空機エンジンのデータを収
集するためのエンジン監視モジュールが航空機エンジンに取り付けられていること
は記載されていない,また,甲4,5に記載された技術は,いずれも航空機とは無
関係の技術分野に属するものであり,これらをもって,航空機エンジンに取り付け
られ,航空機エンジンを追跡するための,航空機エンジンのシリアル番号に結びつ
けられたデータアドレスを割り当てられているエンジン監視モジュールが周知であ
ったとはいえないと主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。すなわち,上記のとおり,甲2,3及び
乙1によれば,FADECなどのエンジン制御システムはエンジン事象を監視する
機能を有しており,航空機エンジンのデータを収集するために,航空機エンジンに
監視モジュールを取り付けることは周知であったと認められる。また,上記のとお
り,引用文献に記載された発明は,GDLセグメントを通じて航空機のエンジンの
監視のほか,航空機の飛行中の飛行性能データの収集や音声及び映像ファイルなど
のアップロードを行うものと認められるところ,そのうちエンジンを監視する機能
のみに着目し,その手段を各エンジンに取り付けるとの構成に至ることは容易であ
ったといえる。そして,甲4,5,乙3,4に記載されるように,物品を管理する
ためシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てることは広く知られ
た技術であり,航空機エンジンの技術分野においても参考とされるべきものといえ
る。なお,引用文献には,ネットワーク全体はTCP/IPプロトコルを基盤とし,
GDLユニットがIPアドレスを保持し,飛行機のテール番号と結び付けられてい
ることが記載されており,引用文献自体にエンジン監視モジュールが航空機エンジ
ンを追跡する(track)ための航空機エンジンのシリアル番号に結びつけられ
たデータアドレスを有する点についての示唆があるといえる。
したがって,航空機エンジンのデータを収集するためのエンジン監視モジュール
を航空機エンジンに取り付けることや,エンジン監視モジュールに航空機エンジン
のシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てることは,周知であっ
たといえ,原告の上記主張は,失当である。
(イ)原告は,本願補正発明のエンジン監視モジュールは,航空機エンジンに直接
取り付けられているからこそ,個々のエンジンのデータを収集し監視することがで
き,かつ,そのために個々のエンジンを追跡する(track)ための航空機エン
ジンのシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てられているという
特徴を有し,これらが有機的に結びついて初めて本願補正発明の効果を奏するもの
であるところ,審決は,これらの本願補正発明の特徴点を分離して,容易想到性判
断を行った誤りがあると主張する。
しかし,原告の上記主張は,失当である。すなわち,審決は,引用文献に記載さ
れた発明において,エンジンのデータを収集することや,エンジンを追跡管理する
ことが行われていることを踏まえた上で,航空機エンジンに直接エンジン監視モジ
ュールを取り付けることや,エンジン監視モジュールに航空機エンジンのシリアル
番号に結びつけられたデータアドレスを割り当てることがそれぞれ周知であると認
定し,これらを総合して本願補正発明の容易想到性を判断したものであり,本願補
正発明の特徴点を分離して判断したとはいえない。
(ウ)原告は,FADECは,無線通信信号を介してエンジンデータを送信する機
能を有しないから,エンジン監視モジュールとFADECとを同一視することはで
きず,FADECを航空機エンジンに取り付けることが知られていたとしても,エ
ンジン監視モジュールを航空機エンジンに取り付けることが容易であったとはいえ
ない,引用文献に記載された発明においては,GDLユニット111が「航空機の
航空電子工学機器区画の管理された環境の中」に設置されることが最善の選択肢で
あり,引用文献には,GDLセグメントを航空機エンジンに取り付けることは,記
載も示唆もされていない,と主張する。
この点,確かに,FADECなどのエンジン制御システムは,エンジン監視モジ
ュールそのものとはいえず,また,上記引用文献の記載によれば,引用文献に記載
されたGDLセグメントは,航空機のエンジンのデータのほか,航空機の飛行中の
飛行性能データの収集や音声及び映像ファイルなどのアップロードを行うもので,
好ましくは,航空機の航空電子工学機器区画の管理された環境の中に設置されるも
のであり,このようなGDLセグメントをそのままFADECと一緒に,あるいは
一体化して,航空機エンジンに取り付けることが容易とは直ちには言い難い。
しかし,FADECなどのエンジン制御システムは,エンジン監視モジュールそ
のものとはいえないとしても,エンジン事象を監視する機能を有するものである。
また,上記のとおり,引用文献に記載された発明において,GDLセグメントを通
じて航空機のエンジンを監視する機能に着目し,そのための手段を各エンジンに取
り付けることに想到することは容易であったといえる上,引用文献には,エンジン
監視モジュールが航空機エンジンを追跡する(track)ための航空機エンジン
のシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを有する点についての示唆がある
といえる。そうすると,無線通信信号を介してエンジンデータを送信するための送
信機を有し,航空機エンジンのシリアル番号に結びつけられたデータアドレスを割
り当てられているエンジン監視モジュールを航空機エンジンに取り付けること自体
が知られていないとしても,引用文献に記載された発明に上記周知技術を適用する
ことにより,本願補正発明の構成に想到することは容易であったといえる。
したがって,原告の上記主張も採用することができない。
(3)小括
以上のとおり,本願補正発明は,引用文献に記載された発明に周知技術を適用す
ることにより容易に発明することができたといえ,審決の本願補正発明に係る容易
想到性判断に誤りはない。
4結論
以上のとおり,審決が本件補正を却下した点には誤りがあるが,本願補正発明は
引用文献に記載された発明及び周知技術に基づき容易に想到できたと判断した点に
誤りはなく,本件補正却下の判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない
から,審決にはこれを取り消すべき違法は認められない。その他,原告は,縷々主
張するが,いずれも,理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
西理香
裁判官
知野明

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