弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A、BことCの弁護人奥山八郎、同安田重雄の上告趣意、被告人DことE、
同FことG、同HことKの弁護人小玉治行、同丹波景致の上告趣意、被告人Iこと
Jの弁護人阿河準一の上告趣意は、末尾添付の各書面記載のとおりである。
 被告人E、回G、同Kの弁護人小玉治行、同丹波景致の上告趣意第二点について。
 所論は、刑法九五条一項の規定は、日本国の公務員が日本国の公務員の職務を執
行するに当り之に対し暴行又は脅迫を加えた者を処罰する規定であつて、たとえ日
本国の公務員であつても、日本国の公務員として日本国の職務すなわち公務を執行
する場合でなく、他国の軍隊又は官憲の命令及びその指揮下に他国の軍隊又は官憲
の機関又は補助者として職務を執行するに当り、之に対し暴行又は脅迫を加えた者
に対しては、例えば昭和二一年勅令三一一号のごとき他の法令を適用するは格別、
刑法九五条を適用すべき限りではないのである。従つて原判決が本件警察官吏及び
収税官吏に対する本件被告人らの暴行脅迫をもつて刑法九五条一項の公務執行妨害
罪に該当するものとして、被告人らに有罪の宣告をしたのは、法律を不法に適用し
たものであつて、憲法三一条に違反する旨主張する。
 しかし、わが国が連合国の占領管理下にありた当時においては、わが国の官憲は
連合国最高司令官またはその委任に基き進駐軍当局が、占領目的遂行のために発す
る命令を遵守しまたは施行する義務を科せられていたものであるから、かかる命令
に基きわが国の公務員が進駐軍当局の占領目的遂行のための行動に協力しまたはこ
れを補助する行為も、わが国の公務員としてわが国の公務を執行するものに外なら
ないといわなければならない。そして、原判決の引用する第一審判決の認定によれ
ば、判示警察官吏並びに収税官吏は、判示第二九情報部野戦公安隊司令官L少佐の
「一、朝鮮人によつて所有又は占有されているM師範学校附近基地及びその他疑あ
る地区又は占領軍に対し疑ある罪悪を捜査すべし、二、没収した総ての物品は警察
本部に送付又は追て命令あるまで貴方に保管すべし」との命令により同隊所属N軍
曹指揮の下に判示朝鮮人部落現場に赴いてその密造酒等の検挙のためにする臨検、
捜索、差押に着手したというのであるから、所論の警察官吏、収税官吏らの所為は
わが国の公務員としてわが国の公務の執行をなしたものというを妨げない。されば
右所為が刑法九五条一項にいう公務員の職務の執行に当らないと主張する論旨は理
由がないものであり、所論違憲の主張はその前提を欠き採るを得ない。
 同上告趣意第一点について。
 所論は、本件においては、L少佐の命令中には、日本国官憲において、憲法三五
条によることを要しない旨の命令は発していないのであるから、日本国官吏が刑法
九五条の適用を受くべき日本国の公務員として職務を執行するに当つては、飽くま
でも日本国憲法三五条を厳守すべきであつて、「このような場合には右手続を執行
するにつき裁判官の令状を必要としないものである」と断じた第一審判決は明らか
に憲法三五条に違反するものであり、従つて、第一審判決の右違法を容認した原判
決も亦違憲違法である旨主張する。
 しかし本件事案においては、前判示のとおり、警察官吏および収税官吏らのした
臨検等の所為は、連合国進駐軍の司令官の命令に基き且つその下僚の直接指揮の下
に、進駐軍当局の占領目的遂行のための行動に協力しまたはこれを補助したもので
あつて、かかる連合国軍の行動はわが憲法乃至法律にかかわりなく行われるもので
あるから、これが協力又は補助としてなされる前判示の臨検等の所為についてもわ
が憲法乃至法律に従つて裁判官の令状を求めなければならないとすることはできな
い。されば裁判官の令状なくして行われた本件臨検捜索押収等を妨害した所為をも
つて、刑法九五条一項の公務執行妨害罪に当るものとした原判決には、所論のよう
な違憲違法ありといえない。それ故、論旨は理由がない。
 被告人Cの弁護人奥山八郎、同安田重雄の上告趣意について。
 論旨第一点中いわゆるL少佐の捜査命令の存在を争う点並びに論旨第二点、第三
点は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであつて、、刑訴四〇五
条の上告理由に当らない。
 論旨第一点中憲法三五条違反をいう点の理由のないことについては、小玉、丹波
両弁護人の上告趣意第一点につき説示したとおりである。従つて、所論逮捕状の発
付が違法であるとはいえないから、この点に関する主張も採用できない。
 被告人Jの弁護人阿河準一の上告趣意について。
 所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。
 よつて刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三三年一月二九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斉   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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