弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人A外二四名の弁護人諌山博の上告趣意第一点について。
 所論は単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 (なお所論原判決の判断は正当として当審においてもこれを是認できる。)
 同第二点について。
 所論は判例違反をいう点もあるが、原判決の判断は所論引用の判例に相反するも
のとは認められず、その余の論旨は事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、同
四〇五条の上告理由に当らない。(なお原判決が、所論のように二百名からの集団
のなかに、最初から、あるいはその中途で参加していた者が、その集団のなかの誰
かの犯した刑事事件一切について刑事責任を負わなければならないとしているもの
でないことは、原判決判文上明らかである。そして原判決は、その挙示の証拠によ
り、本件集団に参加した各被告人は、右集団が暴行行為に及び、また場合によつて
は傷害の結果を発生し、あるいは住居侵入器物損壊等の事態を見るに至るかも知れ
ないことをも予想していたものと認めるのが相当であると認定した上で、その予想
の範囲内に属するものについて、被告人らに共謀による共同正犯としての責任あり
と判断したものであつて、右判断は正当である。)
 同第三点および第八点について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、同四〇五条の上告理由に当らない。(暴
力行為等処罰に関する法律一条一項の罪を犯すことを共謀した者の中で自らは何ら
の実行行為をも分担しなかつた者に対しては、刑法六〇条の適用により、共同して
犯行をした数人の行為につき共謀共同正犯の責任負わせることが相当である〔昭和
七年一一月一四日大判、集一一巻一六一一頁、同八年一一月二〇日大判、集一二巻
二〇五四頁、同一三年一〇月二七日大判、集一七巻七八三頁、同二九年(あ)第一
〇五六号、同三三年五月二八日大法庭判決、刑集一二巻八号一七一八頁参照〕また
右法令一条一項の「数人共同して」の「数人」には「多衆」をも含むと解するのが
相当であつて、多衆が共同しその威力を示して同条所定の罪を犯した場合には、数
人共同し且つ多衆の威力を示して同条の罪を犯したものというべきでめるから、原
判決の判断は正当である。なお、本件起訴状には公訴事実として、多衆が共同しそ
の威力を示して脅迫及び器物損壊をしたと認めらるべき具体的事実を表示してある
のであるから、訴因変更の必要はなく、また記録上本件訴訟の経過において、この
点において被告人らの防禦権が侵害されたものとは認められない。
 同第四点について、
 所論の中判例違反をいう点は、引用の判例は本件に適切でなく、論旨は採るを得
ない。(引用の判例は、不法監禁の手段としての単純な暴行、脅迫に関するもので
あつて、本件のごとく不法監禁の手段たる暴行、脅迫の行為が、暴力行為等処罰に
関する法律一条の罪に該当する行為または刑法二二三条の強要罪に当る行為に該当
する事案に関するものではない。)その余の論旨は単なる法令違反の主張であつて、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 同第五点について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、同四〇五条の上告理由に当らない。(爆
発物取締罰則にいわゆる爆発物とは、理化学上の爆発現象を惹起するような不安定
な平衡状態において、薬品その他の資材が結合せる物体であつて、その爆発作用そ
のものによつて公共の安全をみだし、または人の身体財産を害するに足る破壊力を
有するものと解するを相当とし、右理化学上の爆発現象というのは、通常、ある物
体系の体積が物理的に急激迅速に増大する現象すなわち物理的爆発竝びに物質の分
解または化合が極めて急速に進行し、かかる化学変化に伴つて一時に多量の反応熱
及び多数のガス分子を発生して体積の急速な増大を来たす現象すなわち化学的爆発
を指すものであるとすることは当裁判所大法廷の判例とするところである〔昭和二
九年(あ)第三九五六号、同三一年六月二七日大法廷判決、刑集一〇巻六号九二一
頁〕。そして、原審が認定したところによれば、本件ラムネ弾はラムネ瓶におよそ
三四瓦位のカーバイドを詰めたものであつて、これに水を数十瓦注入し傾斜あるい
は倒立させて直ちに投ずるときは、カーバイドと水の反応により急激多量にアセチ
レンガスを発生し、且つその反応熱等により右ガスの膨張を伴い、一方前記傾斜等
の際瓶内のラムネ玉が瓶の口を密閉するので、瓶内で発生を続けるガスの圧力が急
速に高まり、ついに容器である瓶の外壁を破つて急激にその体積を増大し、これが
ため瓶の破片を飛散させる現象を生じ、右経過におけるカーバイドと水の反応によ
るアセチレンガスの発生は化学反応であつてもそれは化学上の爆発というものでは
ないが、右のように発生したアセチレンガスが密閉された瓶内で急速に充満増加す
るため高圧を生じそれが瓶の耐圧限界を越え前記のごとくこれを破裂させるに至る
現象は物理的爆発ということができ、しかも瓶内のカーバイドに注入するときは容
易にガスを発生し前記爆発現象を示すものであるから、それは爆発現象を惹起しう
るような不安定な平衡状態において薬品その他の資材が結合されている物体に該当
するというのであり、またこれに、水数十瓦を注入し傾斜または倒立させた後五秒
乃至十数秒で爆発し、原判決説示のような種々の危険が予想されるというのであつ
て、右原審の認定はその挙示の証拠によりこれを是認できる。しからば、本件ラム
ネ弾はその爆発作用そのものによつて公共の安全をみだしまたは人の身体財産を害
するに足る破壊力を有するものと認めることができるから、原審がこれを爆発物取
締罰則にいわゆる爆発物に該当すると判示したことは正当である。)
 同第六点について。
 所論の中判例違反をいう点は、引用の判例は本件に適切でなく、その余の論旨は
単なる訴訟法違反の主張であつて同四〇五条の上告理由に当らない。(多数の被告
人に対する被告事件を併合審理して判決を言渡し、これについて一通の判決書が作
成されていても、判決は各被告人毎に成立しているのであつて、その理由の不備ま
たはくいちがいの有無は各被告人毎に判断さるべく、一の被告人に対する判決の理
由不備または理由のくいちがいが当然に他の被告人らに対する判決破棄の理由とな
るべきものではないこというまでもないから、原判決のこの点に関する判示は正当
である。)
 同第七点について。
 所論は単なる訴訟法違反の主張であつて、同四〇五条の上告理由に当らない。(
仮に所論書類を記録に編綴したことが違法であるとしても、右は判決に影響を及ぼ
すことが明らかな訴訟手続上の違法とは認められない。)
 同第九点について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、同四〇五条の上告理由に当らない。(所
論各証人はいずれも被告人Bと同Cとの共犯の事実に関する証人であるから、右証
人に支給した日当等は共犯の訴訟費用として刑訴一八二条により共犯者に連帯して
負担せしめうるものであり、被告人Cに対する判決において同人の負担とされてい
ても、本件において被告人Bに対してこれを負担させる旨言渡すことは違法ではな
い。執行の面においては、被告人Cから既に徴収した分は、被告人Bから重ねて徴
収することのできないことは勿論である。)
 被告人A外二四名の弁護人島田正雄、同柴田睦夫の上告趣意第一点について。
 所論は違憲をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であつて刑訴四〇五条の
上告理由に当らない。(所論の採るを得ないことは前記弁護人諌山博の上告趣意第
二点、第三点について説示したとおりである。)
 同第二点について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、同四〇五条の上告理由に当らない。(所
論ラムネ弾が、爆発物取締罰則の爆発物でないとの所論のとることを得ないことは、
前記弁護人諌山博の上告趣意第五点について説示したとおりである。)
 被告人Dの上告趣意について。
 所論は事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Eの上告趣意について。
 所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。(記録を調べても、所論Fの検察官に対する供述の任意性を疑うに足る
点は、何ら認められない。)
 被告人Gの弁護人今長高雄の上告趣意第一点について。
 所論は事実誤認を前提とする判例違反の主張であつて、前提を欠き採るを得ない。
 同第二点、第三点について。
 所論は違憲をいうが、その実質は単なる訴訟法違反、量刑不当の主張に帰し、刑
訴四〇五条の上告理由に当らない。(所論のような場合が憲法三六条の残虐な刑罰
に当らないことは当裁判所の屡々判示しているところである。)
 被告人Gの上告趣意について。
 所論は違憲をいうが、原判決のいかなる部分が憲法のいかなる条規に違反するか
具体的に示さないから上告理由としては不適法であり、論旨は結局単なる訴訟法違
反、事実誤認の主張をいでないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 被告人Bの上告趣意について。
 所論は事実誤認、単なる訴訟法違反の主張をいでないものであつて、刑訴四〇五
条の上告理由に当らない。(記録を調べても、所論被告人その他関係人の供述が拷
問、脅迫によつてなされたものと疑うべき点は何ら認められない。)
 記録を調べても所論の点につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて、同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三四年五月七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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