弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人田坂貞雄、同田坂駿の上告理由(後記)第一点について。
 論旨の(一)ないし(三)は、要するに原判決は社会通念に違反し、且つ審理不
尽又は実験則違反があるというのであるが、しかし原判決の判示説明と証拠とを照
合してみると、原判決が理由の前段において解除契約の折衝の経過を詳細に認定し
た上、本件解決案(甲第八号証)が、当事者双方にとり利害関係重大な紛争解決の
契約であり、かかる内容の複雑なものは、当事者の意思表示を明確にし、その存在
及び内容につき将来紛争の起らないような慎重な表示行為が要請されるから、その
ため契約書の作成が要望されることは社会通念上明らかであると判断したのであつ
て、この判断は相当であり違法とは認められない。そして原審はさらにかかる社会
通念上の判断を前提として、本件当事者間に契約書の作成が要望されていた事実に
より、当事者の意思はむしろ契約の成立を書面の作成にかからしめていたものと認
め、従つて契約書が作成されなかつた以上、結局右契約は成立するに至らなかつた
と認定したことも相当であつて、所論のような違法は認められない。論旨(四)は、
原判決が所論の点について理由を判示していないことを非難するのであるが、原判
決がすでに前述の理由により契約の不成立を認定した以上、必しもさらに所論のよ
うな関係について判断を示さなければならないものではない。従つて原判決に所論
のような違法はない。論旨(五)及び(六)は要するに独自の見解に立つて原判決
の事実認定、証拠の取捨判断を非難するのであつて論旨は理由がない。
 上告代理人吉田三市郎の上告理由(後記)第一点について。
 被上告人の本件契約不成立の主張は、記録について弁論全体の趣旨を総合すれば、
結局原審認定のように、本件契約の成立は証書の作成にかけられていたという趣旨
を包含するものと認められるから、原判決は被上告人の主張しない事実によつて上
告人に敗訴を言渡したものではなく、論旨は理由がない。
 同第二点ないし第五点について。
 所論は、原審の認定した事実を正解しないで理由不備を主張し(第二点)、原判
示を正解せず又は原審の認定していない事実に基いて審理不尽経験則違背を主張し
(第三点)、或は原審で主張せず従つてその判断を経ていない事実に基いて擬律錯
誤を主張し(第四点)、さらに又原判決を正解せずして理由不備擬律錯誤を主張す
るのであつて(第五点)、いずれも理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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