弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主 文
1 原告と被告の間の甲府地方裁判所平成16年(手ワ)第○号約束手形金
請求事件について同裁判所が平成17年○月○日に言い渡した手形判決を取り消
す。
2 原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実および理由
第1 請求
 被告は原告に対し1000万円とこれに対する平成16年11月30日から支払
いずみまで年6%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は原告の請求を認容した手形判決に対する被告の異議に基づく訴訟である。
原告の請求は,約束手形の振出人である被告に対する手形金1000万円およびこ
れに対する満期(平成16年11月30日)から支払いずみまで手形法所定年6%
の割合による利息の支払請求である。
 1 争いのない事実
 原告は別紙手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という)を所持してい
る。
 被告は本件手形を振り出した。
 原告は平成16年11月30日に本件手形を支払場所に呈示した。
 2 争点ー抗弁対抗の可否
【被告の主張】
 (1) 被告主張の事実関係
 ア Aは被告から約束手形を詐取しようとくわだて,平成16年7月20日午後
4時頃,東京都○○ビル内の喫茶店において,被告のために手形を割り引く意思も
割引金を被告に交付する意思もないのに,これがあるかのように装い,被告のY代
表取締役(以下「Y社長」という)に対し,「7月末までに手形を割り引いて割引
金を交付する」と述べ,Y社長をそのように誤信させ,Y社長からその場で本件手
形を含む額面1000万円の約束手形5通の交付を受け,もって人をあざむいて財
物の交付を受けた。
 その際,AはY社長に対し,「H代表者B」名義の受領書を渡した。そこにはB
会入会金および技術指導料として手形5通で5000万円を受領したと書かれてい
た。Yはどういうことかと気になったが,とくに説明を求めずに受け取った。
 イ 7月末までに約束の割引金の交付がなかったので,Y社長は仲介者のCとD
に手形の返還を要求し,8月30日,本件手形以外の4通の手形を返却してもらっ
た。9月17日頃,Y社長は義兄のEとともに東京へ行き,池袋の喫茶店でA,
C,Dと会い,本件手形の返還を要求した。しかしAは「F(という会社)の水耕
栽培の仕事の測量設計監理代として(原告代表取締役の)Xに渡してしまったから
返せない」と居直り,話は物別れに終わった。
 ウ 原告のX代表取締役(以下「X社長」という)は,Aと利益を同じくする立
場にあり,上記アの事情を知りながら本件手形をAから取得した。
 エ 原告とその前主であるAあるいは株式会社Gとの間には手形の原因関係が存
在しない。
 (2) 被告の法律上の主張
 以下の理由により,被告は被告とAないしGとの間に存在する事由をもって原告
に対抗することができる。
 ア 割引金不払いと原告の悪意
 被告は割引によって金融を得る目的で本件手形をAに交付したが,割引金の支払
いを受けられなかった。原告はこれを知りながらAから本件手形を取得した。
※ 被告は「詐取」を主張するが,被告の主張によれば本件手形は割引によ
って被告が金融を得るために振り出された手形であり,割引金が支払われなかった
以上,被告はこれを理由に手形金の支払いを拒否できる。Aの側の詐欺の故意まで
主張立証する必要はないと解する。
 イ 原因関係二重欠缺
 被告とAないしGとの間に手形振出の原因関係は存在せず,原告とAないしGと
の間に手形裏書の原因関係は存在しない。
 
【原告の主張】
 (1) 被告主張の事実関係に対する認否
 ア 被告の主張(1)ア,イの事実はいずれも知らない。
 イ 同ウは,X社長がAから本件手形の交付を受けたことは認めるが,それ以外
の事実は否認する。
 ウ 同エの事実は否認する。
 (2) 原告主張の事実関係
 ア X社長は,平成16年8月頃,Gの専務取締役であるAから,以下の経緯で
本件手形を受け取った。
 X社長は,平成14年6月,Aから測量の仕事を紹介された。Aが一緒に仕事を
しているHというところが東京都△△の土壌改良の事業を請け負っており,その仕
事の一部を原告に発注することができるということだった。工事に着工すれば約1
億円の仕事になる,そのために協力金として1000万円をだしてほしいと言われ
たので,X社長はこれを信じこみ,同年6月13日付けでH(代表者B)との間で
工事請負協定書を締結し,同時に現金1000万円をBに交付した。ところがその
後工事が開始することはなく,X社長はAに何度も催促した。
 そうしたところ,平成16年8月,Aは,X社長に対し,「F株式会社という会
社が山梨県○○で水耕栽培事業を計画しているので,原告がこの対象地域を測量し
てほしい。また開発行為についてもその手続を請け負ってほしい」と申し出た。そ
して,そのための前払分も含むものとして,AはGのために本件手形に裏書してこ
れをX社長に交付した。Gの代表取締役はBである。X社長は,原告が平成14年
6月に交付した1000万円の協力金の返還および測量の仕事の前払金の一部とし
て本件手形を受け取った。手形金1000万円のうち500万円が協力金の返還,
残りの500万円が測量の仕事の前払いである。
 イ 原告は,平成16年9月に入ってから,山梨県○○の対象地で測量の作業に
着手し,平板測量,現況測量,用地測量等の測量を実施した。しかし作業を始めた
後に本件手形をめぐるトラブルの発生を知り,途中でストップした。
第3 争点に対する判断
 1 本件手形授受の当事者
 証拠(乙1,原告代表者X)と弁論の全趣旨により以下の事実を認める。
 ア 本件手形は,平成16年7月20日,同月末の被告の資金繰りに窮していた
Y社長が,手形割引によって被告が金融を得ることを目的として振り出し,Aに交
付したものである。
 イ Y社長とAの間では,7月末日までにAが被告に割引金を交付するという約
束があったが,この期限までに割引金は交付されなかったし,その後も交付されな
かった。
 ウ Y社長はAに対して本件手形の返還を要求し,9月17日頃には直接面会し
て返還を求めたが,Aは正当な理由なく返還を拒否した。
 エ 原告のX社長は,対価を支払うことなくAから本件手形の交付を受けた。
 オ Aは本件手形の受取人・第1裏書人であるGの専務取締役である。
 以上の事実によれば,本件手形は,被告のY社長からAへ,Aから原告のX社長
へと交付されたと認められる。Y社長が被告の代表者として,X社長が原告の代表
者として行動したのは明らかであるが,Aが個人としての立場で行動したのかG代
理人としての立場で行動したのかは必ずしも明確でない。しかし,手形面上の受取
人・第1裏書人がGであること,Aが同社の専務取締役であることから,Aは同社
の代理人として行動したのであると判断する。したがって,本件手形授受の当事者
は,振出については被告とG,裏書については同社と原告である。
 
 2 振出の原因関係
 上記のとおり本件手形は手形割引により被告が金融を得ることを目的として振り
出されたのであるから,被告とGとの間の手形振出の原因関係は,両者間の金銭融
通に関する合意である。そして,この合意に基づく期限である平成16年7月末日
までに割引金は被告に交付されなかったし,その後も交付はなかったので,融通に
関する合意は解除されたと認められるから,原因関係は消滅した。Gは本件手形に
ついて何の権利も有しない。
 3 裏書の原因関係
 原告は,裏書の原因関係として,
a 原告のGに対する1000万円の協力金返還請求権(その法的性質は不当
利得返還請求権であると解される)のうちの500万円
b 原告がF株式会社から請け負った山梨県○○の測量事業についての同社に
対する請負代金請求権のうちの500万円
の2つをあげる。ところが,X社長は,代表者尋問において,aを否定し,裏書の原
因関係はもっぱらbであると供述した。すなわち,原告はFに対して1000万円を
超える請負代金請求権を取得することとなり,そのうちの1000万円分の前払い
として本件手形の交付を受けたというのである。
 このX社長の供述に対しては,以下のとおり,疑問点あるいは不自然な点をたち
どころにいくつも指摘することができる。
 第1に,Fという会社が実在するのかどうかがまずもって明らかでない。被告が
提出した証拠(乙7)によれば,f株式会社という会社は存在するようだが,この
会社とX社長のいうFという会社が同じものかどうかすら確認できる証拠はない。
 第2に,原告とFの間に真に請負契約が存在するのであれば,契約書や見積書あ
るいは発注書など,その根拠となる契約関係書類が存在するはずであるが,原告は
そのような書類をいっさい提出しない。これは不自然といわざるをえない。また,
そのような書類すらないのに前払金として額面1000万円の手形を交付するとい
うのもきわめて不自然である。
 第3に,原告が行ったという作業もきわめて疑わしい。原告は作業を行った証拠
として図面等(甲5ないし8〔枝番を含む〕)を提出するが,これらがいつどのよ
うにして作成されたのか,その内容からはわからない。本件訴訟係属後に作成され
たのではないかという疑問も否定することができない。さらに,いつ,どこで,ど
のような手順で,だれが,どのような作業を行ったかについてのX社長の説明にい
たっては,あいまいであるうえにきわめて怪しく,とうてい納得できるものではな
い。
 第4に,原告はFのために仕事をするというのに,なぜ同社ではなくGないしA
がその請負代金の前払いとして本件手形を原告に交付したのか,その経緯に関する
X社長の説明はさっぱり理解することができない。FとAとの関係も不明である。
 第5に,前述したように,原告は,本件手形裏書の原因関係として,その主張に
おいては上記a(協力金返還請求権)とb(請負代金請求権)の2つをあげており,
X社長作成の陳述書(甲2)にもそのような記述があるのに,X社長は尋問におい
てはbのみが原因関係であると供述した。しかし,そのように説明を変化させたこと
について,X社長は納得できる説明をすることができなかった。これも不審であ
る。
 第6に,X社長の説明するX社長とAの関係はきわめて不自然な関係である。X
社長は,本件手形について当然きくべきことをAにきいていないし,Aのほうも,
当然説明すべきことをX社長に説明していない。X社長は,すくなくともAとの関
係については真実を述べていないと断定せざるをえない。
 第7に,尋問におけるX社長の供述態度をみると,質問をはぐらかしたり質問に
対して正面から答えようとしない傾向が顕著にみられるし,ある事実があったかな
かったを語るべきところで「私はそう思います」などとぼかした表現をくりかえし
使用しており,自己の体験に基づき真実を語ろうとする者の態度とはとうてい思え
ない。その供述全体に信用性がないといわざるをえない。
 以上のような問題点の検討に基づき,当裁判所は次のように結論づける。原告の
主張する原因関係のうち,上記a(協力金返還請求権)は,X社長自身が否定してお
り,本件手形裏書の原因関係ではない。上記b(請負代金請求権)は,これに関する
X社長の供述はまったく信用することができず,X社長のいうような原因関係は存
在しないと認められる。これらに加え,本件訴訟における原告の主張の経緯などの
事情を総合的に考慮すると,Gと原告との間の本件手形裏書の原因関係はいっさい
存在しないと認定することができる。
 4 結論
 被告は,本件手形の受取人であるGに対しては,割引金の支払いがなかったこと
を理由に手形債務の履行を拒むことができる。次に,Gと原告との間の裏書の原因
関係は存在せず,原告は手形の支払いを求める何らの経済的利益も有さない手形所
持人であるから,被告は,Gに対する抗弁をもって原告に対抗し,手形債務の履行
を拒むことができる(最判昭和45年7月16日民集24巻7号1077頁参
照)。原告の請求は理由がないので,これを認容した手形判決を取り消し,原告の
請求を棄却する。
   甲府地方裁判所民事部
 裁判官  倉 地 康 弘
(別紙)手形目録(省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛