弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理       由
(犯行に至る経緯)
被告人は,昭和25年に本籍地で実父A及び実母Bの長男として出生し,地元の
中学校
を卒業し,約2年後に自衛隊に入隊したが,間もなく辞めて実家に戻り,家業の農
業を手
伝うなどして暮らし,昭和48年に妻Cと婚姻して,昭和50年には長男(以下
「被害者」
という。)をもうけ,昭和51年ころから道路舗装会社で働くようになった。
被告人とCは,被害者出生の際に,医師から,胎児が胎盤から離れているので生
きてい
ない旨告げられ,Cが胎児摘出のために帝王切開の手術を受けたところ,胎児であ
った被
害者は生きていて2000グラムほどの未熟児として母体から取り出されたことか
ら,死
んだとあきらめていた同人が生きて産まれたので,ことのほか喜び,他方,Cが出
産に対
する恐怖心が生じてしまったことなどから,二人で子供は被害者一人にしようと話
し合い,
一人息子の同人を可愛がり,甘やかして育て,また,A及びBも初孫である被害者
を可愛
がった。
被害者は,幼いころは身体が小さかったが,中学に入学するころには近所の同級
生より
も大きな体格となり,また,中学2年生のころまでは特に問題がなかったが,3年
生のこ
ろから,被告人やCらに対して反抗的な態度を取るようになり,次第に,気に入ら
ないこ
とがあったりなどすると暴れ出し,高校3年時に暴力事件を起こして退学させられ
てから
は,酒を飲んでは家族の者に対しても暴力を振るうようになり,時には,家族の者
に対し
て包丁をちらつかせたり,家の窓ガラスを叩き割るなどしたこともあった。そし
て,被害
者が暴力を振るうと,被告人らでは体格のいい被害者を手に負えず,Cが近所に住
む体格
のいい同女の実弟に頼んで被害者を押さえつけてもらったりもしていた。しかし,
被告人
らは,被害者に暴れられるのを恐れ,日ごろから同人の機嫌を損ねないようにその
顔色を
うかがう生活を送るばかりであって,CやBは被害者からパチンコ代をせびられた
りする
とこれを渡したり,また,被告人においても,被害者が飲酒の上車を運転して事故
を数回
起こして自動車を損壊していたが,その都度,被告人名義で自動車を買って被害者
に与え,
人身事故での罰金も被告人が出してやったりなどし,酒癖の悪く,被告人らの手に
負えな
い被害者に困り果てていた。
ところで,被害者は,平成9年に前妻と婚姻したものの,同女に対する暴力が原
因で半
年余り後に離婚したが,その際,同女から,今時高校を卒業していないと恥ずかし
いなど
と言われたことから,被害者は,定時制高校に入学すると,住職もしていた担任の
先生に
影響されて住職になりたいと言い出し,心を入れ替えるなどと言って,平成12年
4月か
ら岩手県内にあるお寺で僧として2年間修行するようになったが,その間の平成1
3年2
月ころ,当時交際していた女性が妊娠していることが判明し,同年5月,同女と再
婚し,
同年9月には女の子をもうけた。そして,被害者は,上記お寺での修行期間を終え
て平成
14年4月25日に実家に戻り,両親らの住む母屋の隣の離れで,再婚相手と子供
と共に
暮らし,宮城県内のお寺で僧侶の見習いとして働き,同年6月25日には,再婚相
手と結
婚式を挙げる予定であった。
被告人は,上記のとおり被害者の機嫌を損ねないようにして,同人がお寺で修行
中も金
の無心に応じて送金し,一時帰宅した際には要求に応じて現金を渡していたが,修
行期間
を終えて実家に戻ってきた同人が,ささいなことで怒鳴ったり,親を親とも思わな
いよう
な言葉を発したりすることから,お寺で修行したのに,以前よりも悪くなったと考
えてま
すます困り果てていた。
被害者は,同年6月19日午後6時30分過ぎころに仕事を終えて帰宅し,その
後,い
つものように被告人らと共に被告人方茶の間で夕食を取ったが,その際,被告人及
び被害
者はそれぞれ缶ビールを飲み,被告人が用事で出かけ,同日午後9時ころ帰宅した
ものの,
被害者はビールが足りないとCに買いに行かせるなどしてまだ飲み続けていたが,
やがて,
自分の住んでいる離れに戻って布団に入った。ところが,突然起きあがり,再婚相
手に「
飲み屋に行く。」と言い出し,同女に制止されたにもかかわらず離れの外に出た。
母屋にいたCは,その騒ぎを聞きつけ,茶の間でテレビを見ていた被告人に「何
か変な
声が聞こえる。」と言って外に出たところ,被害者から「2万円よこせ,2万円出
せ。」
などと要求されたが,同人が車で飲みに出かけるのでは又事故を起こすと心配し,
これを
断ると,同人に蹴られてしまった。
そして,Cに続いて外に出た被告人は,被害者がCを蹴ったりしているのを目撃
し,こ
れを制止したが,被害者から顔面を殴りつけられたり,太もも辺りを蹴られたりし
たため
にその場に倒れてしまい,起きあがると,Cから「被害者が飲みに行くから2万円
をよこ
せと言っている。」と聞かされ,又酒を飲んで車を運転して事故を起こされては大
変だ,
なんとしても飲酒運転だけはやめさせなければならないと考え,自分一人では被害
者に太
刀打ちできないことから,母屋で寝ていたAに「じいさん,また始まったや。」な
どと声
をかけて起こした。そこで,被告人は,すぐにもとの場所に戻ると,母屋の玄関前
で,C
に殴るなどしていた被害者を認め,これを制止しようとして同人の背後から左腕を
同人の
のど元に回して後方に引き倒し,仰向けに倒れた同人の胸部に馬乗りとなってその
のど元
を手で押さえつけるなどしながら,同人をロープで縛り付けようと考え,Cに「母
さん,
ロープ持ってこい。」と大声を出すと,同女がこれに応じて被告人方の車庫内にあ
った麻
ロープを持ってきて被告人に渡した。そして,そのころ,Aが被害者の太もも付近
に覆い
かぶさって同人を押さえつけており,被告人も被害者の上に馬乗りになったままで
後方を
振り返りこれに気付いた。
(罪となるべき事実)
被告人は,平成14年6月19日午後9時50分ころ,Cから麻ロープを受け取
ると,
被害者(当時27歳)のこれまでの家庭内暴力を思い起こし,これから先も同人が
酒を飲
んで暴れたりして家族にどんな迷惑をかけるか分からず,家族が同人のわがままな
振る舞
いに振り回されるのはたくさんだ,もう我慢できないと考え,被告人が馬乗りにな
って被
害者が身動きできなくなっているこの機会に,上記麻ロープで同人の頸部を絞めて
殺害し
ようと決意し,前記のとおり,同人の太もも付近に覆い被さって同人を押さえてい
た被告
人の父Aに「このままだと人に迷惑をかけるからひと思いにやっから。」と大声で
言い,
同人もこれを了解し,ここに被告人とAは暗黙のうちに意思を相通じて,宮城県登
米郡a
町b番地所在の被告人方敷地内において,被害者に対し,殺意をもって,麻ロープを
同人
の頸部に1回巻き付けて絞め付け,さらに,同人が手足をばたつかせていたことか
ら,上
記麻ロープを頸部に二,三回巻き付けて,同ロープを右足の底で踏んで固定した上
で引っ
張って絞め付け,よって,そのころ,同所において,同人を頸部圧迫により窒息死
させて
殺害した。
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法60条,199条に該当するところ,所定刑中有期懲役
刑を選
択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,同法21条を適用して未
決勾留
日数中90日をその刑に算入することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項
ただし
書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,父親と共謀の上,一人息子である被害者の頸部を麻ロープで
絞め付
けて絞殺したという殺人の事案である。
本件犯行の動機を見ると,被告人ら家族は被害者の家庭内暴力に困り果てていた
もので
あるが,本件当時,同人がかなり飲酒したにもかかわらず,被告人の妻に酒代を要
求した
上,被告人の妻や被告人に制止されても被告人らに暴行を加え,車を運転して更に
飲みに
出かけようとし,なんとしてもこれを阻止しようとした被告人が,被告人の妻に暴
行を加
えている被害者の背後から左腕を同人ののど元に回して後方に引き倒し,仰向けに
倒れた
同人に馬乗りになり,実父と共に被害者を押さえつけ,被告人の妻に持って来させ
たロー
プで被害者の身体を縛り付けようとした際,これまでの同人の家庭内暴力などを思
い出し,
この先もどんな迷惑をかけられるか分からず,同人のわがままな振る舞いに振り回
される
のはもうたくさんだ,我慢の限界にきているなどと考えて,とっさに同人を殺害し
ようと
決意したというのである。
なるほど,既に成人しており,二度も結婚して家庭を持ち,子供ももうけ,働い
ている
被害者が,両親である被告人らに酒代をせびったりするなどということは,甘えや
わがま
まな行為であるといわれてもやむを得ず,酒を飲んで暴れたり,飲酒運転をするな
どとい
うことも強く非難されてもやむを得ないことであって,これらの点を見れば,被害
者に責
められるべきところがあるということができる。
また,酒癖が悪い被害者が酒を飲んで被告人らに暴力を振るってきており,体格
のいい
被害者が暴れたときには,被告人らにおいて手に負えず,被告人らが困り果ててい
たこと
は,同情できることであり,本件直前に被害者の飲酒運転を阻止しようとしたこと
は十分
に斟酌できる事情である。
しかしながら,被告人が「被害者が,酒を飲んで暴れたり,車を運転するような
ことを
いつかは直すし,これは直るだろうと思っていた。被害者が最初に結婚したときに
は,嫁
をもらったなら少しは落ち着くだろうと期待したが,それも期待はずれに終わっ
た。お寺
に修行に行けば直るだろうと思って期待していた。この間,孫が生まれ,嫁も入籍
して被
害者も妻子ある身になったので,落ち着くだろうと期待したが,修行が終わってか
ら,私
の目からはかえって以前よりも悪くなっているように見えた。だからといって,私
は被害
者に特に注意するようなことはしなかった。むしろ,酒に酔って被害者が暴れ出さ
ないよ
うに,機嫌が悪くならないように,見て見ぬ振りをした。」などと供述しているよ
うに,
被告人は,被害者の暴力を恐れて機嫌を損ねないようにしてきたのであって,被告
人の対
応は消極的であったといわざるを得ない。
たしかに,被告人らが被告人の妻の実弟に頼んで被害者を押さえ付けてもらった
り,祈
祷のようなことをする者に相談したりしていたことが認められるが,しかし,これ
は,被
害者の暴れる根本的な原因を除去するものとは到底いえないものであって,被告人
らは,
上記以外に,積極的に対応してきたとはいえないばかりか,被害者の暴力を恐れた
とはい
え,同人の要求に応じて現金を渡したり,同人が自動車事故を起こすたびに,被告
人名義
で自動車を買い与え,これが6回にも及んでいるのであって,結果的には,前記の
ような
被害者の行動を助長してきたともいえるのである。
にもかかわらず,被告人は,本件直前,実父と共に被害者を押さえることができ
たのを
機に,前記のとおり,我慢の限界に来ているなどと考え,とっさに同人を殺害しよ
うと決
意したものであるが,同人が修行を終えて自宅に戻ってきてから本件犯行まで2箇
月足ら
ずの間であったとはいえ,暴れたことが一度あるにすぎないことを併せ考慮すれ
ば,同人
に馬乗りになってロープを手にするや,前記のように考えて殺意を抱いたその動機
は,安
易で短絡的であるといわざるを得ない。
そして,犯行の態様について見ると,被告人は,仰向けに倒れた被害者に馬乗り
になり,
実父が被害者の太もも辺りに覆い被さって押さえつけて同人が身動きできない状態
で,同
人の頸部に麻のロープを1回巻き付け,これを引っ張って頸部を絞め付け,苦しむ
同人を
目の当たりにしながらも,躊躇することなく,さらに,麻のロープを巻き付けて足
で固定
してロープを引っ張って絞め付け,同人を窒息死させて殺害したものであって,本
件は,
確定的な殺意に基づく執ようで残虐な犯行である。
さらに,被害結果について見ると,被害者は,家庭内で暴力を振るい,被告人ら
が困り
果てていたという事情はあるものの,生命まで奪われなければならないような理由
はなく,
同人は,前記のとおり,前妻から,今時高校を卒業していないと恥ずかしいなどと
言われ
ると,定時制高校に進学したり,その高校の先生の影響を受けて,自己の欠点を直
そうと
してお寺で修行をしたりしている上,勤め先ではそれなりに働いて職場に適応して
いたと
認められるのである。
それにもかかわらず,被告人は,生後間もない子供がいて,結婚式を間近に控え
る被害
者の生命を奪ったのであり,27歳で実父である被告人により殺害されて命を終え
ざるを
得なかった被害者の無念さは察するに余りあり,また,子供にとってはかけがえの
ない父
親であるのに,その子供から父親を永久に奪い去ったものであって,本件の結果は
誠に重
大である。
また,本件には自首が成立しているとはいえ,被告人は,犯行後も,自分一人で
やった
ことにするなどと家族に言って,共犯者が自殺するまでその存在を隠していたので
あって,
自首の点を過大に評価するのは相当でなく,以上からすれば,被告人の刑事責任は
重い。
他方,本件犯行には計画性はなく,ロープを手渡された際に衝動的になされた犯
行であ
ること,長年家族に対して飲酒の上暴力を振るい続けてきた被害者にもそれなりの
責めら
れるべき点があるといえること,被告人の妻及び被害者の妻も被告人に対し厳しい
処罰を
望んではいないこと,被告人にはこれまで何らの前科もなく,土木作業員として真
面目に
働いてきたこと,被告人は最終的には本件犯行を認め,実子を殺害してしまったこ
とに悔
悟の念を示すとともに,残された被害者の妻や子供に対し養育費等を送るようにし
たいと
述べていることなど被告人にとって酌むべき事情も認められる。
しかし,上記のような事情を最大限に考慮しても,本件は,実父が今まで述べて
きた経
緯の下で実子を確定的殺意をもって絞殺したという重大事案であり,被告人の刑責
を軽く
見ることはできず,被告人を主文の刑期に処するのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑―懲役8年)
平成14年10月7日
仙台地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官   本  間  榮  一
裁判官   齊  藤  啓  昭
裁判官   目  黒  大  輔

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