弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一年に処する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 検察官永本広の控訴趣意、及び弁護人園田国彦の答弁はいづれも別紙記載のとお
りである。
 先づ弁護人の答弁の第二点について判断するに、弁護人は、原判決が無罪の言渡
をした場合にはこれに対して<要旨第一>検察官が控訴をすることは憲法第三十九条
違反であると主張するのであるけれども、同条に「既に無罪とされた行
為については刑事上の責任を問われない」というのは無罪の裁判の確定したものに
ついて重ねて刑事上の責任を問われない意味であつて、未確定の無罪裁判に対し訴
訟法の定めるところに従い検察官が上訴することは右憲法の禁止するものではな
い。従つて本件のように一部有罪一部無罪の言渡をした判決に対し検察官のなした
控訴は適法であり憲法に違反するものではない。
 よつて検察官の控訴趣意について調査するに、本件の訴因の要旨は、被告人は
 第一、 昭和二十五年九月十五日室蘭市のA方では同人保管の拳銃一挺等を窃取
し、
 第二、 法定の除外事由がないのに拘わらず右窃取にかゝる拳銃一挺を同日から
同月十九日まで被告人の住居で所持していた。
 というのであるところ、原判決は右第一の事実を認定し窃盗罪として被告人を懲
役一年に処し、右第二の事実については、拳銃を窃取したその者が窃取行為完成後
その物を所持する場合は窃盗罪の外に別個の犯罪を構成しないものと解し、この点
については無罪の言渡をしたのである。
 窃盗罪は財産罪であつて、刑法がこれによつて保護するところの法益は即ち被害
者の財産権であるから、たと<要旨第二>いその盗品を犯人が処分したとしても重ね
てこれについて横領罪その他の財産罪は成立しないものである。かしな
がら同一の盗品についてもその被害法益を異にする他の犯罪は、窃盗罪の外に重ね
て成立することを妨げるものではない。従つて若し右訴因第二の事実が認められる
ならば、その拳銃が同一被告人の窃取にかゝるものであつても、それは別に窃盗罪
と法益を異にする銃砲等所持禁止令違反罪として成立するものといわなければなら
ない。原判決はこの点について法律を誤解しているのであつて、検察官の主張は正
当である。
 而して原判決は法律を誤解した結果法令の適用を誤りしかもその誤りは、もしそ
の訴因の事実が証明されたならば有罪となるべきものを無罪としたのであつて、判
決に影響を及ぼすことが明らかであるから、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十
条により破棄せらるべきものである。
 よつて当裁判所は刑事訴訟法第四百条但書により直に次のとおり判決する。
 被告人は、
 第一、 昭和二十五年九月十五日室蘭市a町b番地室蘭市警察署勤務巡査堤昇冶
方で、同人保管の警察職員用拳銃一挺同拳銃用実砲十八発、手錠一個在中の手錠入
帯革一本、及び同人所有のソフト帽子一個を窃取し、
 第二、 法令に基き職務の為に所持する場合及び内閣総理大臣の定めるところに
より公安委員会の許可を受けた場合でないのに拘らず、第一記載の拳銃一挺を同日
から同月十九日まで被告人の同居先である室蘭市c町d番地Bアパート内C方にお
いて所持していたものである。
 (証拠説明省略)
 被告人の判示第一の行為は刑法第二百三十五条に、判示第二の行為は銃砲等所持
禁止令第一条第二条、同令施行規則第一条に各該当するのであるが、右第二の犯行
後罰金等臨時措置法の施行により同令所定の罰金額の変更があつたので、刑法第六
条第十条により軽い従前の刑に従い、同令の所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法
第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文及び第十条により重い窃盗
罪の刑に第四十七条但書の制限内で加重し、その刑期内で被告人を懲役一年に処す
べきものとする。
 訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項により全部被告人をして負担
させることとした。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 竹村義徹 判事 西田賢次郎 判事 河野力)

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