弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人高橋己之助の上告趣意第一点について。
 他人に暴行又は脅迫を加えて財物を奪取した場合に、それが恐喝罪となるか強盗
罪となるかは、その暴行又は脅迫が、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに
足る程度のものであるかどうかと云う客観的基準によつて決せられるのであつて、
具体的事案の被害者の主観を基準としてその被害者の反抗を抑圧する程度であつた
かどうかと云うことによつて決せられるものではない。原判決は所論の判示第二の
事実について、被告人等三名が昭和二二年八月二三日午後十一時半頃被害者方に到
り、判示の如く匕首を示して同人を脅迫し同人の差出した現金二百円を強取し、更
に財布を・ぎ取つた事実を認定しているのであるから、右の脅迫は社会通念上被害
者の反抗を抑圧するに足る程度のものであることは明かである。従つて右認定事実
は強盗罪に該当するものであつて、仮りに所論の如く被害者Aに対しては偶々同人
の反抗を抑圧する程度に至らなかつたとしても恐喝罪となるものではない。果して
然らば原判決には何等所論の如き擬律錯誤の違法はない。論旨は、理由なきもので
ある。
 同第二点について。
 記録によると、原審が昭和二三年六月一日弁論を終結したこと、同月十一日所論
のような理由により弁論再開並びに証拠調の申請書が提出されたこと及び原審が右
申請に対する許否につき何等の決定をなさず判決を言渡したことは明かである。し
かし弁論の再開は裁判所の職権に属するところであつて、弁護人の為す再開の申請
は右職権の発動を促すだけのものである。
 従つて裁判所が再開の必要がないと認めた以上、その申請について決定をする必
要はないのである。又、弁論終結後の証拠調の申請は、裁判所が弁論再開の必要が
ないと認めて弁論を再開しなかつた場合には、何等訴訟法上の効果を生ずるもので
はないから、これに対して決定をする必要はないのである。原審は弁論再開の必要
なしと認めて判決を言渡したもので所論の弁論再開並びに証拠調の申請につき何等
の決定をしなかつたのは正当である。所論は右申請が刑事訴訟法上認められた攻撃
防禦の方法であることを前提とするものであるが、その前提が前記の如く認められ
ないのであるから、論旨は理由なきものである。
 被告人Bの上告趣意について。
 論旨は原判決認定事実中致死の点について殺意がなかつた旨を主張する外は、家
庭の状況、犯行の動機、犯行後の心境等を記述して、寛大な処分を願うと云うので
あるから所論は結局原審の専権に属する事実の認定及び量刑の不当を主張するに帰
着し、上告適法の理由とならない。
 よつて本件上告は理由がないから、刑事訴訟法施行法第二条、旧刑事訴訟法第四
四六条により主文の如く判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 茂見義勝関与。
  昭和二四年二月八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎

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