弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
,,「」1被告は原告P1に対し421万9984円及びうち別表1各月残業代
欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日から支払済みまで年6分の
割合による金員を支払え。
2被告は,同原告に対し,163万3204円及びこれに対する本判決確定の
日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告P2に対し,1102万7615円及びうち別表2各月「残業
代」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
4被告は,同原告に対し,644万8856円及びこれに対する本判決確定の
日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5被告は,原告P3に対し,1474万4497円及びうち別表3各月「残業
代」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日から支払済みまで年6
分の割合による金員を支払え。
6被告は,同原告に対し,1001万9958円及びこれに対する本判決確定
の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7原告らの,後記請求欄第5項記載の訴えを,いずれも却下する。
8原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
,,,。9訴訟費用はこれを5分しその2を原告らのその余を被告の負担とする
10この判決の第1,第3及び第5項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告P1に対し,2292万1532円及びうち別表4各月「残業
代」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日から支払済みまで年6
分の,うち826万7625円に対する本判決確定の日の翌日から支払済みま
で年5分の,各割合による金員を支払え。
2被告は,原告P2に対し,3676万1099円及びうち別表5各月「残業
代」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日から支払済みまで年6
分の,うち1390万4957円に対する本判決確定の日の翌日から支払済み
まで年5分の,各割合による金員を支払え。
3被告は,原告P3に対し,4763万8697円及びうち別表6各月「残業
代」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日から支払済みまで年6
分の,うち1982万5195円に対する本判決確定の日の翌日から支払済み
まで年5分の,各割合による金員を支払え。
4被告は,原告ら各人に対し,各21万5000円及び別表5各月「差額」欄
記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日から支払済みまで年6分の割
合による金員を支払え。
5原告らがそれぞれ,被告との間で,雇用契約上,以下の権利を有する地位に
あることを確認する。
()給与規程(平成12年4月1日改訂)22条に基づく時間外手当請求権1
()同規程18条及び管理職新職制導入案等に伴う規程改訂に基づく,課長2
職としての職務手当請求権
()同規程23条に基づく特励手当請求権3
()退職金規程(平成10年4月1日改訂)5条及び7条に基づく退職金請4
求権
6訴訟費用は被告の負担とする。
7第1ないし第4項につき仮執行宣言
第2事案の概要
原告らは,被告に雇用されており,課長代理の職位にあった。被告では,時
間外手当支払の要否の問題を契機に職制改革を行い(後記争いのない事実(),6)
課長代理を課長と副長に分けたが,原告らを旧職制下の課長代理のまま処遇し
続けた。その後は課長補佐という職位を新設し,原告らをそれに任命した(同
()。本件は,原告らが,①時間外(所定外及び法定外。以下「時間外」と7),
はこの意味で用いる)手当,②①に関する付加金,③新職制下と旧職制下の。
職務手当の差額,及びこれらに対する遅延損害金の支払を求め,併せて,④a
時間外手当請求権,b新職制下での課長職としての職務手当請求権,c管理職
,,にのみ支給される特励手当請求権d管理職扱いでの計算による退職金請求権
の各存在確認を求める事案である。
1争いのない事実及び弁論の全趣旨から明らかな事実(文中では「争いのない
事実」と表記する。また,参照の便宜のため証拠も付記する)。
()当事者1
被告は,ソフトウェア開発,受託計算等を業とする会社である。被告は従
業員約430名を擁し,うち旧職制下の課長代理以上の職位にあるものは,
約120名である。
原告らは,いずれも被告に勤務し,それぞれ平成2年ないし5年ころから
。,,課長代理の職位にある原告らは第1又は第2システム統括部に配属され
SEの業務を担当している。原告らは,電算労コンピュータ関連労働組合東
和システム支部(以下「支部」という)の組合員である。被告には,他に。
労働組合として,従業員の相当数で組織される東和システム労組(以下「東
和労組」という)がある。。
()被告における従来の職制(旧職制)は,統括部長・部長・部長代理・次2
長・課長・課長代理・班長・一般職,に分かれている。被告は,平成17年
9月からは,東和労組の所属員に対しては,統括部長・部長・部長代理・次
長・上席課長・課長・副長・班長・一般職,という職制(新職制。別紙2参
照)で処遇している。原告らは,課長代理の職位にある。
()被告における管理職には(どの職位からが管理職に当たるかには争いが3
ある,①職位に対応した職務手当(給与規程18条,甲1,②基本給の。))
30%相当の特励手当(同23条)が毎月所定内賃金として支払われ,③退
職金は,課長代理以上は,退職金基礎給の算定基準が退職時の俸給の70%
で(退職金規程5条,甲2,会社都合及び定年退職の場合の支給率が11)
0%,部長以上は120%である(同7条。これに対し,課長代理より下)
では,退職金基礎給の算定基準が退職時の俸給の50%で,会社都合及び定
年退職の場合の支給率が100%である(いずれも前同条。)
()被告の所定労働時間の定めは,午前9時から午後5時30分までの7時4
間30分であり,昼1時間の休憩時間がある。原告らの所属する第1又は第
2システム統括部の従業員に対しては,フレックスタイム制が適用されてい
る。
被告の所定休日の定めは,土,日曜日と祝日,12月30日から1月4日
までである。年間所定労働日数は,平成13年は244日,14年は245
日,16年は245日,平成17年(以下いずれも1月から12月)は24
3日,18年は247日,平成19年は244日,である。
()原告らの給与は,基準内給与として,基本給(年齢給+職能給,職務5)
手当,技術手当,住宅手当,家族手当からなっている(特励手当が基準内給
与か否かは争いがある。家族手当は時間外手当算定の基礎とされていな。)
い。
被告の就業規則では,所定労働時間を超え,法定労働時間の範囲内の時間
外労働に対しても,125を乗じた割増賃金を支払う定めとなっている。.
()被告と支部の労使交渉では,残業代の支払が要求の1つとして取り上げ6
られきた。被告は,平成16年10月「課長代理の給与制度改訂」という,
通知を支部に対して行った(甲9)が,その骨子は,課長代理を非管理職へ
変更し,特励手当を支給せず,残業代は支払うというものであった。
被告は,平成17年9月8日,給与規程を新職制へ11月1日付けで改訂
する旨,支部に対して通知した(甲12の1。新職制の骨子は,①職位は)
前述のとおりとすること,②「管理職」は課長以上とすること,③課長以上
の職務手当を各1万円増額することであり,④課長代理から副長となる者に
ついては,非管理職となって特励手当が支給されなくなること,である。
平成17年10月26日,新職制導入に際し,原告らは,被告に対し,課
長職に任命されることの申し出をした(甲13。)
,,,,,被告は新職制導入後原告らを旧職制のまま課長代理として処遇し
職務手当は1万5000円を支給し,特励手当は支給するが,時間外手当は
支払わないものとした。
()被告は,平成20年11月1日,就業規則を改定して,被告の職制を整7
備し,従来旧職制の課長代理に位置付けられていた原告ら3名を,非管理職
として新設された「課長補佐」に任命した。これにより,原告らには,従前
どおり職務手当は1万5000円が支給され,特励手当は支給されず,退職
,()。金の算定は一般職扱いとなり時間外手当の支払が明確化された乙18
2争点
()原告らが時間外労働をした事実の有無(争点1)1
()特励手当は時間外手当算定の基礎となるべきものか(争点2)2
()原告らは労基法41条2号にいう管理監督者か(争点3)3
()時間外手当につき,被告の時効の抗弁の成否(争点4)4
()職務手当の請求の成否(争点5)5
()確認請求における確認の利益の有無(争点6)6
3当事者の主張
()争点1(原告らが時間外労働をした事実の有無)について1
(原告らの主張)
ア原告らは,システム開発等に携わっているところ,システム開発全体の
スケジュールは時間的に非常に厳しく,原告らは常に膨大な作業を強いら
,,,れておりその作業量は限られた人数のプロジェクトチームメンバーで
所定時間内にこなし得るものではない。被告は原告らに残業指示をしてい
ないと主張するが,業務内容と納期の指示・命令は,必然的に残業は当然
となり,徹夜や休日出勤もしなければ納期に間に合わせることができない
という過大な作業量を生み,原告らは事実上常に長時間労働を強いられて
いる。例えば原告P3の平成20年5月及び6月の残業時間は200時間
を超え,月間総労働時間は350時間に及んでいる。
イ原告らの実労働時間は,被告における出退勤月報によった。原告らは,
別表4(原告P1,同5(同P2,同6(同P3)のとおり時間外労))
働を行った。被告は,フレックスタイム制下での法定労働時間を,1か月
の所定労働日数×8時間として,これに基づいて計算しているが,誤りで
。,ある法定労働時間は所定労働日数にかかわらず暦日数で決まるのであり
小の月(30日)は171時間,大の月(31日)は177時間である。
(被告の主張)
原告らが一定程度時間外労働をしている事実は認める。この結果,原告・
被告間で時間外労働の量に争いがあるのは,
原告P1につき,平成18年6月及び同年8月分
同P2につき平成17年6月及び同年8月分,平成18年6月及び同年8
月分,平成19年8月分
同P3につき平成17年6月及び同年8月分,平成18年3月,同年6月
及び同年8月分,平成19年8月分,である。
フレックスタイム制下での,1か月の法定労働時間の枠は,週休日(被告
,)。,においては土日曜日を除いた日数×8時間とすべきであるこれに従い
法定割増賃金額は,以下のとおり計算される。
法定時間外労働時間(法定休日労働時間を除く)×法定割増賃金単価+法定
休日労働時間×法定休日割増賃金単価
()争点2(特励手当は時間外手当算定の基礎となるべきものか)について2
(被告の主張)
被告では管理職には特励手当が支給されることになっているところ,特励
手当は,時間外手当の代替・補填の趣旨を有している。したがって,被告給
与体系上,管理職として特励手当が支給されている者には時間外手当が支給
されないこととなっているので,給与規程22条には,支給対象について明
確な限定はないが,解釈上当然に,特励手当支給対象者は除かれる。
特励手当は被告設立時から設けられていたところ,設立当初の給与規程に
よれば,特励手当(当時の名称は精励手当)は,管理職の他に「業務上勤務
時間不定期又は監督者が勤務時間を認定困難な部署の職員」に支給され,当
初から一貫して,時間外手当の代替・補填の趣旨であった。そして,原告ら
の主張する「いわゆる管理職手当」としては,原告らも認めるとおり「職務
」(),,手当給与規程18条が支給され管理職手当が2種類あることになり
説明がつかない上,特励手当は職務手当とは異なり基準外手当として時間外
手当の算定基礎から除外されている。なお,特励手当が基準内給与とされた
場合,時間外手当の計算に当たって,所定外労働に対する給与を二重に計上
することになる。さらに,規程の体裁も,超過勤務手当の次に並んでおり,
かかる解釈に合致する。このように特励手当が時間外手当の代替・補填であ
ることは,被告社内においては当然の認識であり,原告らも同様であった。
そして,実際,被告においては,全従業員に対し,長年,上記のような認
識の下,時間外手当の支給対象者には特励手当が支給されず,特励手当の支
給対象者には時間外手当が支給されない扱いが続いており,これに異議を唱
える者はなかった。
上記のように,特励手当は,時間外手当見合いのものであるから,時間外
手当の額から,特励手当分を差し引くべきである。
(原告らの主張)
時間外手当の単価計算において除外し得る賃金費目は法で定められてお
,。り費目の名称やそれを当該企業が基準内賃金と扱うか否かは無関係である
被告は,設立当時の精励手当が時間外手当見合いのものであるとの証拠と
して当時の給与規程を提出するが,同規程22条は,同手当の額を女性15
%,男性30%と定めており,到底時間外手当見合いのものであるとの説明
がつかない。さらに,同規程23条3項は「超過勤務手当は前条の精励手,
当受給者には支給しない」と両手当の関係を被告の主張するように定めてい
るにもかかわらず,被告自身がその規程を現行給与規程に移行する際に削除
してしまっている。このようなことから,被告の主張は成り立たない。その
結果,時間外手当の単価計算は,別表8のとおりである。
()争点3(原告らは労基法41条2号にいう管理監督者か)について3
(被告の主張)
管理監督者は,名称にとらわれずに実態に即して判断するとされ,具体的
には,①管理職手当等の特別手当が支給され,待遇において,時間外手当が
支給されないことを十分に補っていること,②自己の出退勤について,自ら
決定し得る権限があること,③職務内容が,少なくともある部門全体の統括
的な立場にあること,④部下に対する労務管理上の決定権等につき,一定の
裁量権を有しており,部下に対する人事考課,機密事項に接していること,
以上の要件を満たすことを要すると解される。
システム開発等のプロジェクトにおいて,課長代理以上は担当プロジェク
トのリーダーとなり,担当プロジェクトの具体的な内容・進め方について,
広範な裁量を有する。具体的には,リーダーは,任せられたプロジェクトに
ついて,漠然とした構想を,自らのアイデア及びメンバーから出されたアイ
デアをまとめて,業務に反映するとともに,業務の進捗状況に応じて自ら出
(,。)退勤を管理する時間外労働等について上司の指示はなく自ら判断する
ほか,メンバーの出退勤の管理も行っている。また,パートナーと呼ばれる
下請会社を使用することもあるが,この際,下請会社に指示を出すのは,プ
ロジェクトリーダーの役目である。このように,課長代理以上の職務は,リ
ーダーとして広範な裁量に基づいて自らの責任で担当プロジェクトを進める
もので,時間管理になじまない。
ア原告らには,職務手当の他に,時間管理になじまない職務であることを
勘案して月額14万円余の特励手当が支給されている。平成19年2月分
で検討すると,原告らは上記特励手当が支給される一方,仮に原告らが一
般職とすれば支給される時間外手当は,原告P1が23万3744円,同
P2が13万9978円,原告P3が15万8340円となる。かかる特
励手当の額と計算上の(以下同じ)時間外手当の額を比較すると,同手。
当の代償として十分な金額である。もちろん,同手当の額は各月によって
上下し,同手当の額が特励手当の額を上回ることもないわけではないが,
逆に,時間外手当の額が特励手当の額を下回ることも多々ある上,原告P
1では,平成17年2月から同20年7月の実績では,特励手当の合計額
が時間外手当の合計額を250万円以上も上回っており,同手当の代替と
して十分すぎるといえる。
,,,,さらに実質的にも原告らの年間給与は平成17年18年の実績で
それぞれ1000万円をはるかに超え,また,定額収入は600万円を超
える。被告が,原告らに対し,超過勤務の有無を問わず,かように恵まれ
た安定収入を与えているのは,原告らの職務が,時間管理になじまず,裁
量に応じて各担当業務を遂行する重責だからである。
イ出退勤の自由について
原告らは被告から出退勤規制を受けていない。
原告らは,担当プロジェクトの進捗状況を見て,出退勤時間や休日出勤
を自ら判断している。被告から事前に出退勤時間を指示したり,後日指導
したりすることはない。原告らリーダーの上位に「プロジェクト責任者」
という名称の被告従業員が存在する場合でも,プロジェクト責任者は複数
のプロジェクトを同時に担当しているため,個々具体的なプロジェクトの
進捗状況やプロジェクト現場担当者の勤務状況を把握する立場になく,プ
ロジェクト責任者から同リーダーへの出退勤指示はない。上司は現場には
いないし作業形態も把握していないため,上司から出退勤規制を受けるこ
とはなく,自ら承認者として休日出勤を行っており,出退勤を自ら管理し
ていることが明らかである。
ウ原告らの職責について
原告らはそれぞれ担当プロジェクトのリーダーとして,担当プロジェク
トに関して統括的な立場にある。原告らは,各担当プロジェクトのリーダ
ーとして,担当プロジェクトを納期までに完成させる包括的な命令を受け
るのみで,上司からの具体的な業務指示はない。
,。,原告らがリーダーとして行う業務は以下のとおりであるリーダーは
受注した業務について,発注者が指定したスケジュール(マスタ一線表)
に合わせ,個別の受注業務の開発スケジュールを立てる。そして,スケジ
ュールに沿って,各メンバーに割り振った作業の進捗を管理し,問題点が
あればその対応をし,作業指示をする。具体的には,週に1度被告従業員
を集めて進捗確認を行い,納期に遅れそうな箇所があれば,その担当メン
,。バーに残業指示を出したり前記パートナーの進捗をフォローしたりする
また,メンバーの作業をチェックし,遅れ気味のメンバーには,一緒にで
きるまで残業することもある。そして,被告に対しては,月に1回プロジ
,。,ェクト点検報告書を提出してプロジェクトの進捗状況を報告するまた
担当プロジェクトで利益を出すことも,リーダーの職務である。リーダー
は,原価率を把握し,予定を上回った場合には,追加報酬請求をすべきか
判断し,営業と一緒になって,発注者と営業的な折衝を行う。この他,発
注者と具体的な業務内容を決定する交渉も,営業担当者とリーダーが一緒
に行う。以上のようなプロジェクトリーダーの役割から,原告らが名実と
もに,担当プロジェクトを統括していたことが明らかである。
エ部下に対する労務管理上の決定権等について
原告らは,部下に対する労務管理を行ってきた。
原告らは,プロジェクトリーダーとして,部下の勤怠をまとめるだけで
なく,上記のように,各プロジェクトの進捗に責任を負っており,プロジ
ェクトの進行状況に応じて,自ら判断して超過勤務・休日出勤を行うだけ
でなく,メンバーに対しても,自らの裁量で,超過勤務・休日出勤を指示
している。また,原告らは,所属するプロジェクトのメンバーから有給休
暇の申請を受け付け,メンバーが申請した有休を承認するか否かの裁量も
有している。
(原告らの主張)
原告らは管理監督者には当たらない。
ア原告らの待遇について
課長代理職にはわずか1万5000円の職務手当に加えて,基本給の3
0%に相当する月額14万円ほどが特励手当として支給されている。被告
は,特励手当は超過勤務手当の代替・補填の趣旨であると主張するが,そ
のような根拠はなく,職務手当と合わせて,いわゆる管理職手当とみるべ
きである。また,仮に補填とみるとしても極めて不十分であり(被告が例
としたものでも不足額9万円超,原告P1の例では不足額13万円超であ
る,管理監督者にふさわしい処遇とはいえない。また,原告らは旧職。)
制上の課長代理であり,新職制でいうところの課長に当たるが,被告職制
上の管理職の末端にすぎず,上位の統括部長や部長等に比べると権限,責
任は格段に低く,職務手当等の処遇も低く,新職制で課長代理から課長に
なった者だけでも50人くらいおり,さらに上位の者と合わせて相当数い
るのであり,そのすべてが経営者と一体的な立場であるはずがない。
イ出退勤の自由がないこと
被告では出退勤管理システムが導入されており,原告らは出勤及び退勤
時に同システムを使って時刻を記録し,それを1週間ごとにまとめて被告
本社にFAX等で送付している。原告らは,同システムによって,被告か
ら時間管理を受けているまた原告らは他社への直行・直帰外出就。,,,(
業規則40条で許可を要する,仮眠,休暇等については,勤怠諸願と。)
して所定の届出用紙に記入して所属部長宛てに申請し,統括部長の許可又
は承認を得なければならず,自らの裁量で休暇等を取ることはできない。
被告は,原告らがプロジェクトの進捗状況に応じて自ら出退勤を管理して
いると主張するが,被告においては,始業・終業時刻を自由に選択できる
時間帯を設けたフレックスタイム制を採用しているから,その範囲内で原
告らが制度上,勤務時間を調節できるのは当然である(但し,実態が伴わ
ない。すなわち,被告が主張する原告らが有するとする時間管理の裁。)
量は,フレックスタイム制によるものにすぎず,原告らが出退勤自体を行
う裁量や権限を有するわけではない(みなし時間制ですらない。。)
また,フレックスタイム制を採用しているものの,原告らは実際に作業
を行っている発注会社における出社時刻に事実上拘束されており,決まっ
た時刻にほぼ毎日出社している。さらに,前記()(原告らの主張)のと1
おり,システム開発全体のスケジュールは非常に厳しく,原告らは常に膨
大な作業を強いられ,納期の指示・命令を守るため,残業,徹夜や休日出
勤も当たり前となるという長時間労働を常に強いられている。以上より,
原告らに出勤,退勤についての自由はない。
ウプロジェクトリーダーであることは管理監督者性肯定要素でないこと
プロジェクトリーダーはエンジニアとしての実力に応じてシステム開発
ごとに決まるものであり,被告社内における職制と不可分の関係にない。
プロジェクトの進行については,システム開発のプロジェクト全体を統
括する富士通が全体のスケジュールを決め,富士通のマネージャーが各社
に下請けさせたサブシステムの進捗状況を管理している。そのため,被告
のプロジェクトリーダーは,富士通が決定した全体のスケジュールの範囲
内で,被告が受注したサブシステムの開発スケジュールを立て,各メンバ
ーの進捗管理,作業指示をするにすぎない。全体のスケジュール管理が厳
しく,時間的余裕がない中で作業を行うのであるから,プロジェクトリー
ダーには,プロジェクトの進行や作業の進め方についての裁量や決定権限
がないことは明らかである。
また,プロジェクトチームのトップはプロジェクト責任者であって,プ
ロジェクトリーダーは現場の作業上のとりまとめ役にすぎない。重要な局
面での最終責任,対処権限はプロジェクト責任者にあり,プロジェクトリ
。,ーダーにはそのような責任も権限もないプロジェクト責任者となるのは
被告の職制でいう統括部長,部長,次長に限られており,課長代理がプロ
ジェクト責任者となったことは一度もない。
プロジェクトリーダーは,富士通が決定した全体スケジュールの中で,
被告が受注したサブシステムの開発スケジュールを立て,そのスケジュー
ルに沿ってプロジェクトチームの各メンバーの進捗管理をしたり,問題へ
の対応をしたり,作業指示や残業指示をしたりしている。プロジェクトリ
ーダーがチーム内で行うこれらプロジェクトの統括は社内に数あるプロジ
ェクトの1つに関するものにすぎず,経営者と一体的な立場にある管理監
督者としての経営的観点に関する権限とは全く異なる。
エ原告らの職責
原告らは,プロジェクトリーダーを務める場合ですら,チームメンバー
を決定する権限もなく,メンバーの人事考課を行うこともない。
メンバーの勤務記録をとりまとめて被告に送付したり,有休等の勤怠諸
願書を受け付けているのは,とりまとめを行って被告に届ける事務作業を
行っているにすぎない。メンバーから有給休暇等の申請があった場合,プ
ロジェクトリーダーは所定箇所に押印して被告本社に持って行くのみで,
申請に対する許可権限は有しない。また,プロジェクトリーダーには,下
請会社を決定する権限もない。さらに,被告においては,経営トップらに
よる幹部会が毎週行われているが,これに参加するのは社長,役員,部長
以上の社員であって,原告ら課長代理がこれに参加することはない。
よって,原告らがプロジェクトリーダーを務める場合も,それはプロジ
ェクトごとの業務管理者にすぎず,人事や労務管理,下請先の決定等経営
上の重要な決定権限と業務に関する最終責任を負う重要な立場にない。
()争点4(時間外手当につき,被告の時効の抗弁の成否)について4
(被告の主張)
仮に被告に時間外手当支払義務があるとしても,本訴提起日より2年を超
えて遡る平成17年2月26日を支払期日とする同年1月分以前の割増賃金
,,,請求権について被告は平成19年6月4日の本件口頭弁論期日において
上記消滅時効を援用するとの意思表示をした。
(原告らの主張)
,。,被告の時効の援用は権利の濫用に当たる管理監督者の要件に関しては
古くから一貫した行政解釈が示され,裁判例も多数ある。被告は,遅くとも
支部から問題を指摘された平成15年春闘時には,労基署に相談するなどし
,,て自らの見解の正否を確認しその誤りに容易に気が付くことができたのに
これをせず,漫然と年月を経過させ,文字どおり残業代不支給を正当化する
ことのみを目的とした小手先の対応をし,本訴提起のやむなきに至らせたも
ので,その悪質性は顕著である。したがって,労使間の信義に照らしても,
被告の消滅時効の援用は,許されない。
()争点5(職務手当の請求の成否)について5
(原告らの主張)
被告は,原告ら3名を含む支部組合員についてのみ,新職制を適用せず,
旧職制のまま今日まで処遇している。すなわち,原告ら課長代理たる組合員
に対しては,1万5000円の職務手当(新職制では2万5000円)及び
特励手当を支払うものの,残業代を支給せず,次長たる組合員に対しては1
万円の増額を伴わない職務手当を支給している。したがって原告らは,平成
17年11月から平成20年7月までの,新職制に基づく職務手当と実際の
支給額の差額を求める。
(被告の主張)
原告らは,被告の就業規則が変更され,原告らが新職制における課長職に
就任したと主張するが,甲12の1及び2は,標題のとおり,労使間で合意
ができた場合に就業規則を変更するための案にすぎず,就業規則が変更され
た事実はないし,被告が原告らを課長に任命した事実はない。したがって,
職務手当と支給額の差額を支払う義務はない。
()争点6(確認請求における確認の利益の有無)について6
(被告の主張)
原告らは,原告らが,a給与規程22条に基づく時間外手当請求権,b課
長職としての職務手当請求権,c同規程23条に基づく特励手当請求権,d
管理職扱いでの計算による退職金請求権,を有する地位にあることの確認を
,,,求めているが上記のうちdの請求については将来の地位の確認であって
即時確定の利益がなく,却下を免れない。その他の確認請求についても確認
の利益が認められない。仮に認められるとしても,原告らの請求は,aを除
きいずれも理由がなく,棄却されるべきであるが,aについては,平成20
年11月1日付け改訂の給与規程22条に基づくものであれば認められる。
原告らは,管理職として厚遇されながら,これに加えて法定割増賃金を要
求しているもので,二重取りにほかならない。被告は,原告らが管理監督者
の重責を担うに足る自覚を持っていないことが明らかになったため,前記日
(),付で就業規則給与規程・退職金規程を改訂して職制を整備するとともに
原告らを一般職である課長補佐に任命した。これにより,原告らは,時間外
手当請求権を有するとともに,管理職にのみ支給される特励手当請求権や管
理職扱いでの退職金請求権を有することはなくなった。
(原告らの主張)
前記争いのない事実()のとおり,被告は,平成17年11月1日から,6
新職制を実施することとしたが,それまでの労使交渉の経過から,この新職
制実施が,原告らの管理職時間外手当請求を封じ込めるための手段として行
われたことは明らかであった。被告は「労働者本人の管理監督者としての自
覚」なるものを持ち出し,労働基準法が強行法規である以上,管理監督者が
労働者の自覚云々という主観によるのでなく,その者の就労形態及び業務内
容等に鑑みて客観的・法的に判断されるものであることを無視し続けてい
る。以上の経過から明らかなとおり,被告が実施した新職制は,支部が法律
に則って請求している残業代の支払を免れるため「管理監督者」と会社の,
職制上の「管理職」をあえて一致させ「残業代を要求するなら一般職扱い,
し,労働条件を不利益変更する」という脅しをもって支部の要求を断念させ
ようとしたものである。原告らは新職制を受容し,課長となる申し出をした
,,,のであるから新職制上の課長として処遇されるべきであり新職制実施後
2万5000円の職務手当の支払等の管理職としての扱いがされるべきであ
る。
第3当裁判所の判断
1争点1(原告らが時間外労働をした事実の有無)について
()本件において,原告らが一定量の時間外労働をした事実は当事者間に争1
いがない。この結果を表にしたものが別表1(原告P1,同2(同P2,))
同3(同P3)の「①残業時間「②法定外残業時間「③休出時間(休日,」」
出勤の意」の各欄である。)
()原告・被告間で時間外労働の量に争いがあるのは,2
原告P1につき,ア平成18年6月分及びイ同年8月分(いずれも法定外
労働時間分,)
同P2につきウ平成17年6月分及びエ同年8月分,オ平成18年6月分
(いずれも法定外労働時間分)及びカ同年8月分(時間外労働分,法定外労
,),(),働時間分休日労働分のすべてキ平成19年8月分法定外労働時間分
同P3につきク平成17年6月分(時間外労働分,法定外労働時間分,休
日労働分のすべて)及びケ同年8月分(法定外労働時間分,コ平成18年)
3月分(休日労働分,サ同年6月分及びシ8月分,ス平成19年8月分及)
びセ11月分(いずれも法定外労働時間分,である。)
これらの原告・被告間の労働時間の食い違いは,
法定労働時間の考え方の違いに基づくものコを除くすべて
端数処理の違いに基づくものク,コ
外出時間の算定の違いに基づくものセ
となっている。
法定労働時間の考え方の違いは,第2,3()に摘示したとおりであり,1
原告らの主張が合理的であるから,原告らの主張によることとする。その他
,,。の部分はいずれも些細であるから同様に原告らの主張によることとする
2争点2(特励手当は時間外手当算定の基礎となるべきものか)について
労基法施行規則21条は「法第三十七条第四項の規定によつて,家族手当,
及び通勤手当のほか,次に掲げる賃金は,同条第一項及び第三項の割増賃金の
基礎となる賃金には算入しない」として「別居手当,子女教育手当,住宅。,
手当,臨時に支払われた賃金,一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を
掲げる。ここに列挙されたものは,労基法の強行法規的性格からいって,限定
列挙又はそれに近いものと考えられる。したがって,ここに列挙された手当以
外の費目は,基本的に時間外手当の算定の基礎となるものというべきである。
被告は,被告給与規程において,特励手当が基準外賃金であり,時間外手当の
算定の基礎は基準内賃金のみであることなどを主張するが,そのような被告に
おける定め等は意味を持ち得ないといわなければならない。
また,被告は,特励手当が時間外手当見合いのものであるとも主張し,特励
手当が以前精励手当と呼ばれていたという経緯や当時の給与規程の定め方等に
ついても主張する。しかしながら,証拠(乙11)によれば,廃止された昭和
49年4月1日制定の給与規程22条は,被告が特励手当の基となったと主張
,,。する精励手当の額を女性15%男性30%と定めていることが認められる
このことからは,精励手当が明確に時間外手当見合いのものであるとはいえな
い。そして,特励手当は,被告の主張によれば,この性格を受け継いでいるも
のと考えられる。さらに,同規程23条3項は「超過勤務手当は前条の精励,
手当受給者には支給しない」と両手当の関係を被告の主張するように定めてい
るにもかかわらず,被告がその条項を現行給与規程に移行する際に削除してし
まっている。このことからも,現在の特励手当が,時間外手当見合いのものと
いう精励手当と同じ趣旨とは解されない。被告のこの主張は理由がない。特励
手当は時間外手当算定の基礎として計算されるべきである。
3時間外手当の計算
()そうすると,原告らの時間外労働の単価は,特励手当をもその計算基礎1
に入れて,別表9のとおり計算される。ところで,前記争いのない事実()7
,,。のように平成20年11月以降原告らには特励手当が支給されていない
このことには問題がなくもないが,原告らは同手当の給付請求をしていない
から,請求権の存否は不明であり,後記7のように同手当の受給権の確認請
求は不適法であるから,実際に支給されていない同手当は,計算基礎には含
めないものとせざるを得ない。
()上記()の残業単価を,前記1認定の時間外労働に乗じたものが,別表121
ないし3の「④残業代」の欄である。
4争点3(原告らは労基法41条2号にいう管理監督者か)について
()管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理につき,経営者と一体1
的な立場にあるものをいい,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきで
あると解される(昭和22年9月13日発基第17号等。具体的には,①)
職務内容が,少なくともある部門全体の統括的な立場にあること,②部下に
対する労務管理上の決定権等につき,一定の裁量権を有しており,部下に対
する人事考課,機密事項に接していること,③管理職手当等の特別手当が支
給され,待遇において,時間外手当が支給されないことを十分に補っている
こと,④自己の出退勤について,自ら決定し得る権限があること,以上の要
件を満たすことを要すると解すべきである。
以下では原告らにつき,これらの要件を満たすかを検討する。
()ア部門全体の統括的な立場にあるか否かについて2
被告は,原告らの職制上の地位「課長代理」でなく,特定の業務におけ
る地位である「プロジェクトリーダー」の権限等について,管理監督者で
あると主張するようである。しかしながら,証拠(甲26,30,原告ら
各本人)によれば,プロジェクトリーダーは,個々のシステム開発等の業
務(プロジェクト)ごとに選任され,プロジェクトによっては,原告らよ
りも職制上上位にある者がプロジェクトに入っていても,適性等によって
は,例えば原告らが,それを追い越してプロジェクトリーダーに選任され
ることがあり,原告らもやや大きめのプロジェクトチームになると,リー
ダーでなくメンバーとなることもあるるなど,職制上の地位と不可分では
ないことが認められる。とすれば,原告らが常にプロジェクトリーダーと
いう地位にあるわけではないことから,プロジェクトリーダーという地位
の管理監督者性を検討するのはそもそも疑問がある。それでも一応この点
を検討すると,前記証拠及び証拠(甲23,原告P3,P2各本人)によ
れば,プロジェクトの人数はプロジェクトリーダーごとに異なるが,被告
従業員1名ないし案件によっては最大100名程度のものまであり,原告
らは,最大でも4∼5名のプロジェクトチームのリーダーに選任されるこ
とが多くプロジェクトによっては原告らよりも職制上上位にある者統,,(
括部長,部長,次長等)がプロジェクト責任者に選任される。
しかし,前記証拠によれば,原告らは,プロジェクトチーム内ではリー
ダーとして存在しているが,プロジェクトチームの構成員を決定する権限
もなく,パートナーと呼ばれる下請会社を決定する権限もなく,それは上
記の職制上上位にある統括部長,部長,次長等が決定しており,また,原
告らはプロジェクトのスケジュールを決定することもできず,こちらは被
告の重要な顧客である富士通が決定しており,作業指示も富士通の決定し
たマスター線表という計画表に沿って行われるものと認められる。このよ
うな状況下で,この程度の部門を統括することでは,部門全体の統括的な
立場にあるということは困難である。
イ部下に対する労務管理上の決定権等について
本件全証拠によっても,原告らが,その部下であるチーム構成員(作業
担当者)の人事考課をしたり,昇給を決定したり,処分や解雇を含めた待
遇の決定に関する権限を有していた事実は認められない。従業員の新規採
用を決定する権限があるどころか,上記ア認定のように,プロジェクトチ
ームの構成員を決定する権限すらない。被告が主張するように,原告らが
部下の休暇の承認をしていたとしても(それすら,より上位の者の決裁を
得ていたようであるが,このような状況下では,原告らが経営者と一体)
的な立場にあるものということは,到底できない。
また,証拠(甲26,29,原告P3本人)によれば,原告らが,前記
スケジュールに拘束されて,出退勤の自由を有するといった状況で到底な
い事実も認められる。
,,以上検討したところによればその余の要素について検討するまでもなく
,。,原告らは管理監督者には当たらないというべきであるしたがって被告は
原告らの時間外労働に対する手当の支払を免れないというべきである。
5争点4(時間外手当につき,被告の時効の抗弁の成否)について
前記第2,3()のとおり,原告らは,平成13年9月分から平成20年71
月分までの時間外手当の請求をしている。これに対し被告は,本訴提起日より
2年を超えて遡る平成17年2月26日を支払期日とする同年1月以前の分に
ついて,消滅時効を主張している。本訴提起は平成19年3月20日であるか
ら,これから2年を超えて遡った日に最も直近の給与支払日である平成17年
2月26日以前に支払期の到来した時間外手当請求権については,消滅時効が
完成したものというべきである。
原告は,被告の時効の援用は,権利の濫用に当たるとし,被告は管理監督者
の要件について,遅くとも支部から問題を指摘された平成15年春闘時には,
労基署に相談するなどして自らの見解の誤りに容易に気が付くことができたの
に,これをせず,漫然と年月を経過させ,やむなく本訴提起させたもので,労
使間の信義に照らし,被告の消滅時効の援用は許されない,と主張する。しか
しながら,被告が,原告の時間外手当請求権の行使を妨げるため,時効完成を
企図して原告の権利行使を妨害するような行為に出た事実は,本件全証拠によ
るも認められず,証拠(甲3ないし21,書証の枝番号は省略する)及び弁。
論の全趣旨によれば,支部と被告間の労使交渉において,課長代理を管理職と
扱うか否かについて双方で様々なやりとりがあったが,少なくとも支部は,時
間外手当の請求を繰り返し行っており,これに対し被告は,原告らに対し時間
外手当を支払う旨述べたり,そのようなそぶりを見せたことはなく,したがっ
て,原告らにおいて権利行使をためらわせるような事情が存したとはいえない
というべきである。であれば,被告がその行為によって原告らの前記請求権の
時効を完成させたとはいえないから,被告の時効の援用は,権利の濫用に当た
るとはいえない。
6争点5(職務手当の請求の成否)について
前記争いのない事実()及び()のとおり,平成17年11月1日の被告の新67
職制導入前は,課長代理である原告らには,1万5000円の職務手当が支給
されていたが,導入後も,旧職制のままその待遇は据え置かれ,同額の職務手
当が支給された。さらに,平成20年11月1日の就業規則の変更後も,原告
らの職務手当の額に変化はない。
原告らは,原告らに支給されるべき職務手当の額が2万5000円であると
主張し,実際に支給された額との差額を請求する。しかしながら,2万500
0円という額は,新旧いずれの職制及び就業規則変更後を問わず,課長の職務
手当であるところ,本件全証拠によっても,被告が原告らを被告の課長に任命
した事実は認められない。そしてほかに,原告らが2万5000円の職務手当
を請求し得る根拠は見当たらない。したがって,結局,原告らが上記額の職務
手当を請求し得る根拠はなく,差額の請求も理由がない。
7争点6(確認請求における確認の利益の有無)について
()給与規程(平成12年4月1日改訂)22条に基づく時間外手当請求権1
の確認請求について
既に判示したように,本件において,原告らの請求している時間外手当の
請求は理由がある。同請求は過去の時間外労働に対する時間外手当の請求で
あるところ,この部分については,原告らは給付請求をしている以上,確認
請求することは,確認の利益がなく,認められない。
将来の時間外手当請求権の確認請求については,時間外手当は時間外労働
の対価として発生するものであり,時間外労働をすることなく時間外手当が
発生することはあり得ない。したがって,原告らが,まだしていない時間外
労働に対する時間外手当請求権の確認請求をしているのであれば,そのよう
な不確定な訴えは不適法であり,確認の利益がなく,認められない。
()同規程18条及び管理職新職制導入案等に伴う規程改訂に基づく,課長2
職としての職務手当請求権について
上記()同様,過去分の請求と将来分の請求に分けて検討する。1
過去分の職務手当請求権については,訴えの方法は端的に給付請求による
,()。べきであり原告らは現に本訴においてその給付請求をしている前記6
これに加えて確認請求をしなければならない理由は見当たらない。したがっ
て,この確認請求は確認の利益がなく,認められない。
将来の課長職としての職務手当請求権については,まだ任命されていない
(),課長職としての職務手当請求権前記6参照について確認請求することは
,,。そのような不確定な訴えは不適法であり確認の利益がなく認められない
()同規程23条に基づく特励手当請求権について3
上記()同様,過去分の請求と将来分の請求に分けて検討する。1
過去分については,証拠(乙18,20)及び弁論の全趣旨によれば,原
告らが,平成20年11月1日,就業規則(給与規程)が改正され,新職制
が導入されて,原告らは課長補佐に任命され,原告らに特励手当が支給され
なくなったことが認められる。しかしながら,上記就業規則変更の効力はと
もかく,訴えの方法は端的に給付請求によるべきであり,原告らは確認請求
によらなければならない理由について,特段の主張・立証をしていない。そ
うすると,前記確認請求は確認の利益がなく,認められない。
将来の特励手当請求権については,将来の事情は不確定である上,訴えの
方法も給付請求によるべきであるところ,現在において給付判決を得ておく
必要性については全く主張・立証がない。であれば,将来の給付請求さえ認
められない状況で,かつ確認の利益について何ら主張がないから,そのよう
な不確定な訴えは不適法であり,確認の利益がなく,二重の意味において認
められない。
()退職金規程(平成10年4月1日改訂)5条及び7条に基づく退職金請4
求権について
原告らが口頭弁論終結時現在,被告に在職しており,いまだ退職していな
いことは当事者間に争いがない。ところで,退職金請求権は,特定の日時に
退職した(又はせいぜいこれに近い日時において退職する)という事実があ
って初めて具体的な請求権として発生するものである。したがって,原告ら
において,極めて近い将来退職の予定があるとの主張・立証もない時点にお
いては,そのような不確定な訴えは不適法であり,確認の利益がなく,認め
られない。
8付加金の請求について
本件において,被告は,原告らに対し時間外手当を支払わず,本件訴訟提起
後も,和解において時間外手当を支払うとしつつ,特励手当を控除すると主張
するなど,結局時間外手当を支払う姿勢が見られないから,付加金の支払を命
ずるのが相当である。付加金の額は,各原告につき,別表1ないし3の「⑤付
加金」の欄の最下段の合計欄のとおりである。
9結論
以上判示したように,原告らの請求は,時間外手当及び付加金並びにこれら
に対する遅延損害金の請求について,主文第1ないし第3項の限度で,理由が
,,あるからこれを認容し職務手当差額の請求は理由がないからこれらを棄却し
,。確認請求はいずれも不適法であるからいずれも却下し主文のとおり判決する
東京地方裁判所民事第11部
裁判官村越啓悦
(別表1)
①②③④⑤⑥
年月残業時間法定外休出時間残業代付加金支払日
残業時間
2005年1月2090107,20048,2402005年02月26日
2月50026,80002005年03月26日
3月60032,16002005年04月26日
4月1005,36002005年05月26日
5月40021,44002005年06月26日
6月1005,36002005年07月26日
7月40761,96340,5232005年08月26日
8月000002005年09月26日
9月000002005年10月26日
10月000002005年11月26日
11月000002005年12月26日
12月20010,88402006年01月26日
2006年1月2100112,43402006年02月26日
2月110058,89402006年03月26日
3月70037,47802006年04月26日
4月2210118,0305,3652006年05月26日
5月52250278,980134,1252006年06月26日
6月63570337,995305,8052006年07月26日
7月44170236,06091,2052006年08月26日
8月63590337,995316,5352006年09月26日
9月54330289,710177,0452006年10月26日
10月2660139,49032,1902006年11月26日
11月39180209,23596,5702006年12月26日
12月2120112,66510,7302007年01月26日
2007年1月160086,89602007年02月26日
2月56270304,136146,6372007年03月26日
3月90048,87902007年04月26日
4月70038,01702007年05月26日
5月150081,46502007年06月26日
6月130070,60302007年07月26日
7月1900103,18902007年08月26日
8月1410076,03454,3102007年09月26日
9月170092,32702007年10月26日
10月29170157,49992,3272007年11月26日
11月2290119,48248,8792007年12月26日
12月160086,89602008年01月26日
2008年1月100054,53002008年02月26日
2月100054,53002008年03月26日
3月140076,34202008年04月26日
4月1960103,60732,7182008年05月26日
5月90049,07702008年06月26日
6月130070,88902008年07月26日
7月1005,45302008年08月26日
合計77529674,219,9841,633,204
(別表2)
①②③④⑤⑥
年月残業時間法定外休出時間残業代付加金支払日
残業時間
2005年1月120063,20402005年02月26日
2月2500131,67502005年03月26日
3月27150142,20979,0052005年04月26日
4月39180206,34995,2382005年05月26日
5月46120243,38663,4922005年06月26日
6月76700402,116370,3702005年07月26日
7月57300301,587158,7302005年08月26日
8月95900502,645476,1902005年09月26日
9月74530391,534280,4232005年10月26日
10月2700142,85702005年11月26日
11月93720499,689386,8562005年12月26日
12月68410365,364220,2932006年01月26日
2006年1月914912549,534327,5222006年02月26日
2月563511358,815247,8092006年03月26日
3月63510333,018269,5862006年04月26日
4月73527427,615316,1472006年05月26日
5月57300302,556159,2402006年06月26日
6月66600350,328318,4802006年07月26日
7月47200249,476106,1602006年08月26日
8月86814479,420452,8802006年09月26日
9月86650456,488345,0202006年10月26日
10月35150185,78079,6202006年11月26日
11月36150191,08879,6202006年12月26日
12月41213234,827128,6672007年01月26日
2007年1月54250290,142134,3252007年02月26日
2月3490182,68248,3572007年03月26日
3月42230225,666123,5792007年04月26日
4月37160198,80185,9682007年05月26日
5月34150182,68280,5952007年06月26日
6月28150150,44480,5952007年07月26日
7月44250236,412134,3252007年08月26日
8月28236185,262158,3972007年09月26日
9月3500188,05502007年10月26日
10月164085,96821,4922007年11月26日
11月37240198,801128,9522007年12月26日
12月3510188,0555,3732008年01月26日
2008年1月2300124,08502008年02月26日
2月33120178,03564,7402008年03月26日
3月2810151,0605,3952008年04月26日
4月38250205,010134,8752008年05月26日
5月2400129,48002008年06月26日
6月46330248,170178,0352008年07月26日
7月31190167,245102,5052008年08月26日
合計2,0231,1654311,027,6156,448,856
(別表3)
年月①②③④⑤⑥
残業時間法定外休出時間残業代付加金支払日
残業時間
2005年1月3187198,89580,2612005年02月26日
2月83540428,114278,5322005年03月26日
3月34220175,372113,4762005年04月26日
4月51300266,271156,6302005年05月26日
5月51170266,27188,7572005年06月26日
6月857911505,814474,4882005年07月26日
7月77500402,017261,0502005年08月26日
8月94890490,774464,6692005年09月26日
9月71507410,164300,5232005年10月26日
10月492213329,136188,1692005年11月26日
11月2870148,48437,1212005年12月26日
12月37100196,21153,0302006年01月26日
2006年1月4070208,72036,5262006年02月26日
2月57360297,426187,8482006年03月26日
3月624110379,866270,2882006年04月26日
4月77560404,327294,0562006年05月26日
5月52250273,052131,2752006年06月26日
6月20140105,02073,5142006年07月26日
7月3690189,03647,2592006年08月26日
8月74690388,574362,3192006年09月26日
9月49280257,299147,0282006年10月26日
10月49300257,299157,5302006年11月26日
11月64430336,064225,7932006年12月26日
12月49300257,299157,5302007年01月26日
2007年1月3990207,32447,8442007年02月26日
2月40110212,64058,4762007年03月26日
3月46260244,536138,2162007年04月26日
4月40190212,640101,0042007年05月26日
5月65460345,540244,5362007年06月26日
6月65520345,540276,4322007年07月26日
7月56370297,696196,6922007年08月26日
8月40360212,640191,3762007年09月26日
9月2400127,58402007年10月26日
10月131069,1085,3162007年11月26日
11月43290228,588154,1642007年12月26日
12月3000159,48002008年01月26日
2008年1月2500133,45002008年02月26日
2月64430341,632229,5342008年03月26日
3月94670501,772357,6462008年04月26日
4月1161030619,208549,8142008年05月26日
5月207180221,231,7961,087,6702008年06月26日
6月222180291,352,2211,128,0252008年07月26日
7月11410221729,597665,5412008年08月26日
合計2663176712014,744,49710,019,958

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
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◎事務所の名称は自由に選択可能
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