弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成13年(行ケ)第45号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成13年5月15日
判          決
   原      告     株式会社シグマ
 訴訟代理人弁理士    伊   藤   捷   雄
   被      告     特許庁長官 及川耕造
    指定代理人     八 木 橋   正   雄
同            大   橋   良   三
主          文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が不服2000-291号事件について,平成12年12月12日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成10年9月8日,「習う楽しさ教える喜び」の文字を標準文字
で書して成り,商標法施行令別表による商品及び役務区分第41類の「技芸,スポ
ーツ又は知識の教授」を指定役務とする商標(以下「本願商標」という。)につい
て,商標登録出願(平成10年商標登録願第76822号)をしたが,平成11年
11月26日に拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判の請求をした。特
許庁は,同請求を不服2000-291号事件として審理した結果,平成12年1
2月12日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成13年1
月10日にその謄本を原告に送達した。
 2 審決の理由
別紙審決書の理由の写しのとおり,本願商標は,その指定役務に関するキャ
ッチフレーズと理解されるにとどまり,自他役務を識別できる標識部分を有しない
ものであって,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができ
ない商標であるから,商標法3条1項6号に該当する,と認定判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願商標につき,自他役務の識別機能を有しているにもかかわら
ず,誤って,自他役務識別機能を有しないと認定,判断したものであり,この誤り
が結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきであ
る。
1 「習う楽しさ教える喜び」という語句が,審決が説示するように,ものごと
を習ったり,教えたりする際の一つの望ましい形,姿を表わしているとしても,こ
の語句が教育の理想の姿を表すキャッチフレーズとして一般に使用されている事実
は存在しないから,本願商標が自他役務識別機能を有しないと認定判断したのは,
審決の誤りである。
電話帳(甲第2号証)や各種教室情報誌(甲第9号証)をみても,「習う楽
しさ教える喜び」というキャッチフレーズは,どこにも記載されておらず,本願商
標のような語句がその指定役務を提供する各種学校の業界において日常使用されて
いるという事実をうかがわせるものは,全く見いだせない。被告が提出した乙第1
ないし第6号証にも,上記キャッチフレーズは,原告自身が経営する自動車教習所
による使用例1件以外には,記載されておらず,「習う楽しさ」単独の使用例及び
「教える喜び」単独の使用例も,1件も記載されていない。被告は,本願商標を前
段の「習う楽しさ」と後段の「教える喜び」とに分離し,しかも,前段の「習う楽
しさ」を「学ぶ楽しさ」に,後段の「教える喜び」を「教える楽しさ」に歪曲し
て,それぞれにつき,これと似たような例がある旨主張する。しかし,本願商標
は,すべての文字が標準文字で同書,同大,同間隔に書され,語呂語調もよいこと
から一連に称呼されるものであって,一体不可分のものであるというべきであるか
ら,これを分離して,しかも上記のように歪曲することには,何の合理性も認めら
れない。
2 審決が,本願商標が教育あるいは習い事のキャッチフレーズとして用いられ
ているとして挙げる具体例は,いずれも,被告の主張の根拠とはなり得ないもので
ある。
(1) 「小学生は年上のお兄さんやお姉さんと接することで授業の楽しさを知
り,高校生は小学生に接することで教える喜びを知ってほしい」との例において
は,本願商標の語句はキャッチフレーズとして記載されていない。またこの例は,
高校生と小学生の交流の目的として述べられているにとどまるものであって,教育
の理想として述べられているものではない。
(2) 「本や教科書もない場所で,子供たちは一生懸命に字を覚えて勉強してい
た。学ぶこと,教えることの喜びを改めて感じることができました。教員としての
自信が新しく生まれたような気がします」との例においては,本願商標の前段部分
である「習う楽しさ」の字句はなく,本願商標の語句はキャッチフレーズとして記
載されていない。
(3) 「平和橋自動車教習所,『創業40周年記念和歌』を募集中;下の句は
『習う楽しさ,教える喜び』で,上の句を募集しています。」との例は,本願商標
の出願人である原告自身の経営する自動車教習所による使用例であって,第三者に
よる使用例ではない。商標登録出願人が,自己の出願商標を自社の宣伝目的でさま
ざまな使用態様で使用するのは当然であり,これを本願商標が自他役務の識別力を
有していないことの根拠とすることはできない。
3 本願商標が自他役務の識別機能を有することは,本願商標と同じように教育
の一つの理想の形,姿,或いはキャッチフレーズとなり得る商標が,次のとおり登
録されていることからも,明らかである。
① 「人から人への教育」
 指定役務 第41類「学習塾における教授」
② 「学術とスポーツの真剣味の殿堂たれ」」
指定役務 第41類「大学における教授等」
③ 「これなんの話?」
指定役務 第41類「学習塾における教授」
④ 「もっと,心のそばへ。」
指定役務 第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授等」
⑤ 「子供達に日々希望と感動の祈りを」
指定役務 第41類「育児の教授等」
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,審決に原告主張の違法はない。
本願商標は,これを本願の指定役務に使用するときは,これに接する取引
者・需要者は,何人かの業務に係る役務であることを認識することができないもの
であるから,商標法3条1項6号に該当する。
1 原告の主張1について
本願商標は,その指定役務との関係において,人の注意を引くように工夫し
た簡潔な宣伝文句,いわゆるキャッチフレーズを表したものとして理解されるもの
であり,同様のキャッチフレーズは,知識の教授関連の役務について一般的に用い
られている(乙第1号証の1ないし4,第2号証の1ないし7)。
これらは,いずれも,役務の提供者が,その提供に係る役務の特徴を端的に
表し,需要者の注意を引くためにキャッチフレーズとして用いられているものであ
る。
そして,本願商標の「習う楽しさ教える喜び」の語句の前半部分の「習う楽
しさ」の文字部分は,「習う」の語が「学ぶ」の語義を有することから(乙第3号
証),本願商標は「学ぶ楽しさ教える喜び」と読み替えることができる。
この「学ぶ楽しさ」の語句は,全国紙に多数回掲載され(乙第4号証),ま
た,「教える楽しさ」の語句も,全国紙に複数回掲載されており(乙第5号証),
これらの語は各種の知識の教授の関係記事の中で使用されている。
これらの事実からすれば,これらの2つの語句を結合したものと容易に認
識,理解される本願商標は,その指定役務について一般的に使用されているありふ
れた語句ないしはキャッチフレーズの一つを表したものということができる。そし
て,上記の使用例にみられるように,キャッチフレーズは,役務の質,特徴等を簡
潔に表したものであって,単なる宣伝文句として理解されるにとどまり,これが役
務について使用されても,自他役務の識別標識として,自他役務を識別することが
できず,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができないも
のといわざるを得ない。
2 原告の主張2について
原告の主張2(1)の使用例は,「習う楽しさ教える喜び」の語句が,「教える
側と学ぶ側の共有」を具体的に表現したもので,教育が教授側の一方的なものでな
く,教授側と学習側双方の共有的なものであることの典型を例示するものであ
る。(2)の使用例は,「習う」の語が「学ぶ」と同義であることを踏まえた,本願商
標と類似した語句の使用の例を挙げたもので,乙第1号証の1の広告記事で用いら
れている「日本を教えて世界を学ぶ。」のキャッチフレーズに対応し,(1)の使用例
と同じく,「教える側と学ぶ側の共有」を具体的に表現したものである。(3)の使用
例は,原告のインターネットのホームページ(乙第6号証)に掲載されているもの
であり,「習う楽しさ,教える喜び」の文字部分は,提供に係る役務についての説
明文中の「教習生の習う楽しさ,インストラクターの教える喜びの場面・・・」の
表現に照らしても,需要者の注意を引くための,単なる,キャッチフレーズ(モッ
トー)として認識されるとみるのが自然である。
3 原告の主張3について
原告の挙げる登録例は,教育に関わり合いを有するものではあるとしても,
本願商標とは構成が異なるものであるばかりでなく,本来,当該商標が登録できる
ものであるかどうかは個別に判断されるべきであるから,上記登録例があることの
みをもって,本願商標が登録されるべきものであるとする原告の主張は失当であ
る。
第5 当裁判所の判断
1 原告は、本願商標である「習う楽しさ 教える喜び」の語句が教育の理想の
姿を表すキャッチフレーズとして一般に使用されている事実は存在しないと主張す
る。確かに,原告による使用(乙第6号証等)以外に,この語句がキャッチフレー
ズとして現に使用されていることを示す証拠はない。
しかしながら,本件において問題となるのは,この語句に接した取引者・需
要者が,これを自他役務の識別標識として認識するのか,それとも,これをキャッ
チフレーズとして理解するのかということである。このことは,この語句がキャッ
チフレーズとして現に一般に使用されているか否かのみによって決せられるもので
はない。審決は,「習う楽しさ 教える喜び」の語句がキャッチフレーズとして一
般に使用されているとは認定しておらず,一般に供用されていることを根拠に結論
を導いたものではないことは,審決書の理由の記載から明らかである。上記の語句
がキャッチフレーズとして使用されていることが証拠上認められないからといっ
て,そのことをもって,直ちに,審決の認定判断に瑕疵があるとすることはできな
いのである。
2 本願商標は,「習う楽しさ」の語句と「教える喜び」の語句を組み合わせて
作られたものである。「習う」とは,「教えられて自分の身につける。まなぶ。」
を,「楽しさ」とは,「満足で豊かな気分であること。快いこと。」を,「教え
る」とは,「学問や技芸などをさとし知らせる。できるように導く。」を,「喜
び」とは,「よろこぶこと。また,その気持ち。」(広辞苑参照)を,それぞれ意
味する語であり,「習う楽しさ」とは,文字どおり,習うことの楽しさを,「教え
る喜び」とは,文字どおり,教えることの喜びを,それぞれ意味することは,一見
して明らかである。
そして,これらの意味を有する語句を簡潔に組み合わせた「習う楽しさ 教
える喜び」の語句が本願商標の指定役務である技芸,スポーツ又は知識の教授に関
して用いられた場合には,この語句に接した取引者・需要者は,それを妨げる何か
特別な事情がない限り,この語句の有する上記の意味を想起したうえで,ごく自然
に,「習う側が楽しく習うことができ,教える側が喜びをもって教えることができ
る。」という,教育に関して提供される役務の理想,方針等を表示する宣伝文句な
いしキャッチフレーズとして認識,理解することになるものというべきであり,こ
のことは,実際の使用例の有無を検討するまでもなく明らかである。
そして,本件全証拠を検討しても,上記認識,理解を妨げる特別の事情を見
いだすことはできない。
このようにみてくると,審決のなされた時点において,「習う楽しさ 教え
る喜び」の文字に接した取引者・需要者は、これを,各種学校等の教育に関する役
務の理想,方針等を表示する宣伝文句ないしキャッチフレーズであると認識,理解
するにとどまり、自他役務の識別標識とは認識しないものと認める以外にないもの
というべきである。
3 原告は,本願商標と同じように教育の一つの理想の形,姿,あるいはキャッ
チフレーズとなり得る商標が,複数登録されていることから,本願商標も登録が認
められるべきである旨主張する。しかし,これらの各登録商標が,現に,自他役務
の識別標識として,一般の取引者・需要者に認識されていると認めるに足りる証拠
はないから,これらの登録商標の存在は,本願商標の自他役務の識別性の有無につ
いての判断を左右するものではない。
第6 以上のとおり,原告主張の審決取消事由には理由がなく,その他審決には,
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
        裁判長裁判官  山   下   和   明
        
           裁判官   宍   戸       充
  
 
           裁判官    阿   部   正   幸

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛