弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
○ 理由
一 一件記録によれば、原審が原決定の理由中で認定したとおりの事実を認めるこ
とができ、そのような事実関係のもとにおいては、相手方が昭和五五年二月二五日
付で抗告人らに対してなした建築物等移転通知及び照会の効力がそのまま維持され
たとしても、抗告人らに回復の困難な損害が生じるとはいえず、従つて、そのよう
な損害を避けるための緊急な必要があるとは認められないとした原審の判断は、相
当として是認することができる。そして、一件記録を検案しても、その他に原決定
を違法とすべき事由は見い出しがたい。
二 よつて、本件抗告はその理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用
の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、
主文のとおり決定する。
(裁判官 沖野 威 奥村長生 佐藤邦夫)
(原裁判等の表示)
○ 主文
1 本件申立てを却下する。
2 申立費用は申立人らの負担とする。
○ 理由
一 本件申立ての趣旨及び理由は別紙(一)及び(二)記載のとおりであり、これ
に対する被申立人の意見は別紙(三)記載のとおりである。
二 一件記録によれば、被申立人は東京都市計画池袋二丁目附近土地区画整理事業
の一環として昭和五四年七月二〇日付で申立人A所有にかかる東京都豊島区<地名
略>宅地四八八・〇九平方メートル(以下「本件土地」という。)について街区番
号五符号四五四の約三四八平方メートルの土地を仮換地に指定するとともに(以下
「本件仮換地」という。)本件土地の一部を他の宅地の仮換地に指定する旨の処分
をしたこと、本件土地には申立人A所有にかかる木造平家建居宅三棟(家屋番号<
地名略>ないし<地名略>)及び申立人鹿車興産有限会社(以下「申立会社」とい
う。)所有にかかる木造二階建共同住宅一棟(家屋番号<地名略>、以下これら四
棟の建物を「本件建物」という。)が存在しているところ、被申立人は昭和五五年
二月二五日付で申立人らに対し、期限を同年六月一〇日と定め右期限後はそれぞれ
の所有にかかる本件建物を本件仮換地上に移転する旨及び右期限までに申立人ら自
らがこれを移転する意思があるか否かを照会する旨の土地区画整理法第七七条第二
項に基づく通知及び照会(以下「本件通知」という。)をしたこと、申立人Aは右
仮換地指定処分の違法を主張してその取消しを求める訴えを提起したか(当庁昭和
五四年(行ウ)第一一六号)、それとは別に申立人らは右違法な仮換地指定に基づ
く本件通知も違法であるとの理由でその取消しを求める訴えを提起し(当庁昭和五
五年(行ウ)第六〇号)、現に当裁判所に係属中であること等の事実が一応認めら
れる。
三 そこで本件通知の効力がそのまま維持された場合申立人らに回復困難な損害が
生ずるか否かについて検討するに、申立人らは損害として(1)本件建物はその敷
地が準防火地域、住居地域であるために現に使用することができるが、本件仮換地
は防火地域、近隣商業地域内にあるため本件建物をそのまま移転することは許され
ず、取り壊さざるを得ないが、これにより申立人らは本件建物を喪失する、(2)
防火地域内にある本件仮換地に建物を新築するには鉄筋コンクリート造りにせねば
ならないが、そのためには莫大な出費を余儀なくされる、(3)申立人Aは本件建
物のうち三棟を三名の者に賃貸し一か月金九六、〇〇〇円の賃料を得ており、また
申立会社は本件建物のうち共同住宅を六名の者に賃貸し一か月金四一二、〇〇〇円
の賃料を得ているが、これら入居中の賃借人が退去を余儀なくされ、申立人らは賃
料収入を失う、の三点をあげている。
しかしながら(1)の点については本件通知は前記のとおり土地区画整理法第七七
条第二項に基づく通知及び照会であつて所定の期限後は施行者である被申立人にお
いて本件建物を本件仮換地上に移転することができ、申立人らとしてはこれを受忍
せざるを得ないことになるが、申立人らに対し移転を命じたものではない。一件記
録によれば本件仮換地を含む補助第七三号線沿いの地域が昭和五四年二月一三目付
東京都告示第一五六号によつて防火地域に指定されたことが一応認められるけれど
も、仮に防火地域の関係で本件建物を本件仮換地に移転することが建築基準法上許
されないとするならば、施行者の移転工事が執行不能となるに過ぎないのであるか
ら、本件通知がそのまま効力を維持されたとしても当然に本件建物が取り壊され、
申立人らが本件建物を喪失する結果となるということはできない。
次に(2)の点についても、仮に申立人らがこの機会に仮換地上に鉄筋コンクリー
ト造りの建物を新築することとし、そのために相当の出費を必要とするとしても、
右に示したところによればそれを本件通知が効力を維持した場合に生ずる損害と認
めることはできない。
更に(3)の点については一件記録によれば申立人Aは本件建物の一部を三名の者
に賃貸し、一か月九六、〇〇〇円の賃料を、申立会社は本件建物のうち共同住宅を
六名の者に賃貸し、一か月四一二、〇〇〇円の賃料をそれぞれ得ていることが一応
認められ、移転工事が行われればその期間中申立人らは本件建物を使用収益するこ
とができず、これにより申立人らは賃料額相当の損失を被ることになると推認され
るが、一般に賃料の減収は通常生ずる損失(土地区画整理法第七八条第一項)に含
まれ補償の対象となると考えられ、仮に補償されない損害があるとしてもこのよう
な損害は金銭によつて償うことのできる性質のものである。
以上によれば申立人ら主張の(1)ないし(3)の理由によつては申立人らに回復
困難な損害が生じ、これを避けるため緊急の必要があるとは認められず、他にこれ
を認めるに足りる疎明もない。
四 よつて、その余の点を判断するまでもなく本件申立ては理由がないことに帰す
るのでこれを却下することとし、申立費用の負担について行政事件訴訟法第七条、
民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
別紙(一)
行政処分執行停止申請
申立の趣旨
被申立人より申立人両名に対する昭和五五年二月二五日付建物移転命令(54三区
移第四四七号)の執行は、申立人両名より被申立人に対する御庁昭和五五年(行
ウ)第六〇号行政処分取消請求事件の判決確定に至るまで、これを停止するとの裁
判を求める。
申立の原因
一、被申立人は、昨昭和五四年七月二〇日付仮換地指定処分を以つて、申立人A所
有の
豊島区<地名略>
宅地  四八八・〇九平方メートル
についての仮換地を指定した。(甲第一号証一、二仮換地指定通知)而して、この
指定に基づき今回昭和五五年二月二五日付移転命令(54三区移第四四七号・・・
甲第二号証一乃至四)を命令したのである。
二、然しながら、この仮換地指定処分は違法なものであるため、申立人Aは、この
取消を求めて
御庁昭和五四年(行ウ)第一一六号行政処分取消請求事件を申立て、目下御庁にお
いて審理中である。(甲第三号証一、二)
三、申立人等が本件移転命令を違法なりと信ずるのは、以下の二点である。
(イ) 洗づ移転の対象となつている土地は、昭和四八年六月頃に縦覧に供せられ
た際の、土地の形状においても地積においても劣悪となつた点である。
すなわち縦覧に供された際の仮換地は、「西側二五メートル巾の道路に間口一〇メ
ートルに亘つて接続し、且つ地積も三五五平方メートルであつた」(甲第四号証、
図面)のに、今回の仮換地では、「西側二五メートル巾の道路に間口五・四六メー
トルに亘つて接続し、且つ地積も三四八平方メートルに減少した」のである。(甲
第一号証参照)図面を一見して判然する如く、細い鍵の手の土地となつて、使用価
値も半減したといえる状況である。
これは、昭和四八年六月頃の縦覧の際申立人Aが、本件土地に地続の土地を所有し
ていたところから、換地も本件土地と共に一個の換地とされるよう意見書(甲第七
号証)を出しておいたのが、却つて被申立人の感情を害したらしく今回のような換
地の劣悪化が為されたのである。
この仮換地によつて、申立人Aの減歩率は二八・五七パーセント、指数差はプラス
六・三六となつて、同じ換地ブロツクの中でも最悪となつたのである。更に本件仮
換地は容積率が四〇〇パーセントであるから、地積が七平方メートル少なくなつた
ということは二八平方メートルの建築画積を失わされたことになり、例え金銭補償
があつたとしても替えることのできない損害となるのである。
斯様に、一旦図面を以つて示した換地を何等の理由も無く、劣悪化し、その理由さ
えも告げぬ処分は、土地区画整理法第八九条の「照応」性を被申立人自らが違反し
ているものである。何故ならば被申立人は一旦、三五五平方メートル、西側巾員二
五メートルの道路への接続間口一〇メートルを以つて申立人Aの本件土地に関して
は照応すると判断しながら、地積においても地形においても劣悪な状態にしたもの
を以つて照応すると告知したのであるから、自ら照応していないことを自白してい
るのであつて違法たること疑いないものである。
又、前述の如く、申立人Aが意見を述べたことを根に持つて劣悪化した処分をした
ことは憲法第一六条の不利益変更禁止の原則に悖り違憲である。更に又、同一の仮
換地々区内の市民に対し、一人を犠牲にして他を利する処分をすることは憲法第一
四条の法の下の平等の原則に違反する処分であつて取消されて当然のものである。
本件移転命令は、この違法な仮換地指定処分を前提として発せられたのであるから
やはり違法の処分であること明らかである。
(ロ) 次に、移転の対象となつた土地は、仮換地以前の土地と、その地区、地域
を異にしているため、申立人等、か現に所有する建物を移築することができない点
である。
すなわち、現在申立人等所有にかゝる建物は、いづれも木造であつて、現在地が
「準防火地域、住居地域」であるので使用できている物件であるが、仮換地後の土
地は「防火地域、近隣商業地域」であつて、本件の木造建物を移築することは許さ
れないのである。
昨昭和五四年中に、申立人等は本件土地の接続地につき仮換地処分を受けたため、
その接続地上にあつた木造建物の移築を豊島区役所に申請した。この場合も仮換地
前が「準防火地域、住居地域」であり、仮換地後が「防火地域、近隣商業地域」で
あつた。然るところ、建築主事は「引家工法による移築でも、解体工法による移築
でも、又当然新築であつても認められない」とて建築確認をしてくれなかつた(甲
第五号証一乃至八、建築確認申請書)。これでは、申立人等も住居を失つてしまう
ため、已むなく日本住宅公団に依頼して、同公団に、防火地域にても差支えない鉄
筋コンクリート造の共同住宅を建築してもらつた上、完成後これを買い取る方式に
て建築する他なくなつたのである。この共同住宅の建築費は概算金三三三、五三
一、一一〇円で、これを申立人Aは割賦払いにて金九四三、四三九、四四〇円にて
買い取ることとなるのである。(甲第六号証、契約証)
斯様に、同じく行政庁の立場でありながら、一方では被申立人の区画整理事務所と
して「木造にて移転せよ」と命令し、鉄筋コンクリート造の建物でなければ建築で
きないことを熟知しておりながら木造建物の補償金だけで移転させようとし他方、
建築主事としては「木造建物の建築は不可である」といわしめているであつて、相
矛盾しており、申立人等の如き市民としては、いづれに従うこともできぬ立場にあ
る。この事実は、本件移転命令が申立人等に不能を強いる法律行為であることを明
白に示しているのであつて、この命令自体無効のものである。
四、右のとおり、本件移転命令は、如何に考えても、無効もしくは取消の対象とな
る行政処分であるから去る三月二四日建設大臣に審査請求を為し、本日、申立人等
は移転命令の取消を求めて御庁に訴を提起した。然しながら、移転命令にあるとお
り、来る六月一〇日までに任意移転しない時には被申立人代表者が移転工事を執行
するとのことであるため、このまゝに経過する時は申立人等は現在所有している建
物を取りこわされて喪失し又、現に建物に入居中の賃借人等六世帯も退去させられ
るので申立人等は収入を失うこととなり、更に昨年と同様に鉄筋コンクリート造の
建物新築のために莫大な出費を強いられることとなり、申立人等として到底耐えら
れぬところから本件移転命令の執行停止を申立てた次第であります。
別紙(二)
準備書面
一、被申立人の昭和五五年五月二日付意見書「第二、事件の経緯」、(一)(二)
(三)(四)、二、三(八乃至一二頁)の事実は不知である。
二、意見書「四、換地の位置と形状に関する換地設計案」(一)(一二頁)の事実
中、昭和四八年五月二八日から同年六月一〇日までの間仮従覧を行つたとある点、
申立人Aの仮換地予定地が疎乙第二号証(一図)のとおりであつたことは認め、そ
の余は不知である。
被申立人は、申立人Aの換地の面積等について触れていない旨主張しているが、こ
れは誤りである。疎乙第二号証ノ一(一図)の表紙を見れば明らかな如く、この図
面は縮尺五〇〇分の一で書かれているのである。従つて、申立人Aの巾員二五メー
トルの道路に接した部分が二センチメートルであるから、原寸大に拡大すれば一〇
メートルとなるのである。
被申立人の主張のように、この仮従覧と称する図面が単に、位置形状を示したもの
だけだとすれば、もつといい加減の図面例えば見取図で足りる筈である。然るに、
右のように計算することによつて仮換地となる予定地の面積が判るので、区画整理
の対象地を所有する申立人Aとしては、一方において希望案も提出できたし、他
方、この図示された土地より悪くなることはないと信じたのである。
若し被申立人の主張のとおり位置と形状だけを示したものでかまわないということ
であれば、多数の人に都合のよいような図面を示しておいて、その後どんどん変更
すればよいということになるだろう。
然し、それでは対象住民を騙しているのと同じであつて、許されないところであ
る。やはり、仮従覧と称するものであつても地方公共団体の一手続であつて、一旦
之を示した以上当該住民に不利益変更を加えることは許されないのである。
三、右(二)(一三頁)の記載事実については略認める。
四、右(三)(一四頁)の記載事実の中、建築線が入つていることは認める。然
し、これは申立人の父、亡Bが、自己の住居と家作を建てるために申請して入れた
もので、A家の単独の建築線である。他に見られるように、甲、乙、丙といつた復
数の住民が各自所有地の一部を持ち寄つて申請した建築線とは異なるのである。言
い換えれば申立人Aの建築線は同人の都合で、南方へ変更しても、北方に変更して
も全く自由に動かすことのできる性質のものだつたのである。
それ故に、申立人Aとしては、本件仮換地の如く南北に両断されることなく、どち
らかに集合して欲しい旨を申述べたのである。その余の事実は不知である。
五、右(四)(一五頁)記載の事実は不知である。
六、右(三)(一七頁)に記載の事実は、前提が抜けている。即ち、昭和四九年
六、七月頃被申立人が、現在の仮換地と同じ仮換地予定地を図示した確定図なるも
の(疎乙第二号証二)を作成した上従覧に供したので、申立人Aが再度意見書を提
出したのである。意見書の内容は略この様であつた。然し、疎乙第二号証の一(一
図)と疎乙第二号証の二(二図)を見比べていただければ判然する如く、斯様な図
面の変更で不利益を蒙つているのは申立人Aだけであつて、同人の損害分が他の利
益になつていることは明らかである。その上、被申立人は斯様に不利益を課しなが
ら、何の理由の説明もしなかつたのである。
七、右(四)(一八頁)に記載の事実中、申立人Aが第三区画整理事務所に行つた
ことは認めるが、その経緯や内容は否認する。
先づその経緯であるが、被申立人の前記事務所職員が、申立人Aに対し、話がした
い、相談にのつてほしいと申入れて来たので、申立人Aが事務所に行つたのであ
る。事務所での話の内容は
申立人Aの土地は決めてしまつたから、何といわれても変更しない。若し換地予定
者同志の間で合意で変更するというのであれば、それはかまわない。
ということであつて、申立人Aの土地が不利益に変更された理由など聞いたことも
無かつたのである。何回も述べて恐縮ではあるが、昭和四八年の第一回目の図面で
示されたとおり、被申立人としては、この図面のとおりで照応すると思つたからこ
そ疎乙第二号証一(一図)として発表したに違いないのである。
この図面には検尺が入つているのであつて容易に土地の形状、面積が判るのであ
る。
それが、略一年の間に被申立人は申立人Aだけを不利益とした疎乙第二号証二(二
図)を以つて決定して来たのである。そして、この方も亦照応すると強弁している
のである。
何故に被申立人には斯様な嘘つきの職員が多いのだろうか、そして、又、今回は
「より照応」していると主張する。思つても見るがよい、若し被申立人の職員等の
月給を或る日突然減俸しておいて、君たちの働き振りを考えたらこれで丁度良いの
だと云つたとしたら、その職員が納得するかどうか、そして、その処分が極めて正
しいといわれたらその職員は従うのか。斯様な点からみても、被申立人が不利益に
変更した理由を説明したことなど無いことが判ろう。
八、同(五)(二〇頁)の事実は全部否認する。
但し、申立人Aが二月一六日に、被申立人の職員と話したことはある。それにして
もその内容は全く違つている。「間口を七・五メートルに」といつたのは、この日
までの間に、申立人Aが、友人の一級建築士に相談してみたところ、
間口五・四六メートルでは有効な建物は建たない。少くとも七・五メートル無いと
この土地の部分は死に地となる。との返事であつたので、このとおりの話をしたの
であつて、「七・五メートル」にして欲しいと要望した如きことはない。又、この
時も「照応」しているなどといわれたことも無かつた。
九、同六、(二一頁)の事実は知らない。
十、同七、(一)(二二頁)の事実は、本件土地の前に仮換地の行われた土地のこ
とである。
十一、同七、(二)(二三頁)の事実も違つている。
この交換案は、被申立人の職員が、疎乙第五号証のようなことではどうかと申入れ
て来たものである。
十二 同七、(三)(二四頁)の事実は否認する。この点は次のとおりである。即
ち、申立人Aが前記の一級建築士に相談してみたところ、
仮換地前の従前地には、申立人Aの行つている貸室を作つた場合には、1DK(略
七・五坪)で建築すると五二室建築できる。これに対して、仮換地上に建築したと
すると1DKが四四室、2DK(略一一坪)が三室で合計四七室建築できる。更
に、被申立人の提示した一括の土地であると、1DKで三二室、2DKで八室、合
計四〇室の建築ができるだけである
とのことであつた。
斯様なことでは、土地が一つになつたといつても、この地形では土地としての利用
価値が一層低下することになるので拒絶する外なかつたのである。
(甲第九号証一、二、三)
十三 七、(四)(二五頁)(五)(二六頁)(六)については、C氏、D氏との
交渉、了解は得られたらしかつたのであるが、申立人Aの換地予定地の直接南隣に
なるE氏が、どうしても承知しないということで交換はまとまらなかつたのであ
る。
十四 同、八「仮換地指定処分」(二八頁乃至三〇頁)は認める。但、二八頁四行
目の「同年五月二一日付」とあるのは「昭和五四年」の誤りである。
十五 同「第三、本案について理由がないことについて」 一、(一)、(二)
(三一頁以下)における申等人等の主張はそのとおりである。
十六 同、二(三三頁)(一)において申立人Aの所有地が「めくら地」であると
の主張は否認する。被申立人のいう「ゆくら地」は何を意味するかよく判らぬ点も
あるが、申立人Aの所有地は、自ら単独で建築線を入れた土地であることは前述し
た。そして、更に、本件土地に接続する「<地名略>、<地名略>」の土地が元々
申立人Aの父Bの所有時代に、裏側公道への通路となつていたのであつて、(甲第
一三号記)「めくら地」や「袋地」ではなかつたのである。この「<地名略>、<
地名略>」の土地は区画整理開始時点において、従足弟であるFの所有地となり、
而して、申立人鹿車興産が買受けたものである。申立人Aが巾員二五メートルの道
路に面して換地が与えられて当然と考えているのは、同人の従前地が四三・二〇メ
ートルに亘つて、新しい道路の敷地として被申立人に徴収されてしまう点、そし
て、前記「<地名略>、<地名略>」の土地が、全部この道路の敷地となつてしま
う(疎乙第三号証)にもかゝわらず、被申立人の指定したところでは、五・四六メ
ートルの巾における接触しか認められないのであつて、この点が理解できないから
である。殊に「<地名略>、<地名略>」の土地に至つては、いわゆる飛び換地と
なつて道路の反対側の奥の方である六〇ブロツクに移されてしまつており(疎乙第
一二号証)、被申立人の区画整理には整理の法則も、原則も認められないのであ
る。
被申立人は「<地名略>」の土地所有者が南面道路を希望したので、これに応じた
から申立人Aの土地が狭くなり、且つ主要道路への接触巾が小さくなつたと主張す
るが、期様な、一方的な、いゝかげんな理屈があるだろうか。左様な申出があれ
ば、申立人Aに対する場合と同様に拒否すればよいではないか。或は、申立人Aに
対して行つたと同様にその者の地積を減らしてやればよいではないか。申立人Aに
対しては不利益を押しつけて、「<地名略>」の所有者には押しつけられないなど
ということは考えられないところである。この一事を見ても被申立人が「照応」を
考えていないことが明らかである。
十七 同(二)(三七頁)の事実も、前に述べたとおり、元々同ブロツク内のE氏
の同意無しで、被申立人の職員が提案したものであつたため結果実現しなかつたも
のである。
一括換地予定地の案を示された時に、弁護士高橋龍彦が同席したことは認めるが、
満足の意を表わしたことはない。この案は当方の希望と地形が異つていたので、当
日は返事を留保した上、本人である申立人Aに検討させる旨を述べただけである。
然し、これとても前に述べたとおり、従前地であれば五二室の貸室のできる地積で
あつたものが、四〇室しかできないこととの結論となつて、土地の利用効率が悪す
ぎるため拒わらざるを得なかつたのである。
その次の間口七・六四メートル案は、E氏が了解されなかつたので実現しなかつた
のである。
右によつて、申立人Aが従前地より良好な土地を取得しようとしているといつた被
申立人の主張が、単に申立人Aを誹謗するためのものであることが明らかとなつた
と信ずる。
十八 同三、「本件通知、照会が不能を強いるものではないことについて」(四〇
頁以下)について左のとおり認否する。
同三、(一)、(二)において、被申立人は、本件移転通知照会が行政処分に該当
しない旨を主張する。然しなから、被申立人の「通知および照会」において
前記の期限後は土地区画整理法第七七条六項の規定に基き東京都知事が移転工事を
行うこととなりますので・・・・と述べているのを見れば明白な如く、この通知は
「期限付移転工事直接施行の意思の通知」であつて、若し、期限内に任意移転のな
い時は、被申立人が工事を施行するにつぎ申立人等の従前の建物の使用収益を禁止
する、そして被申立人の行う工事を受忍せよとて、受忍義務を課している命令行為
の性質を有するものであるからやはり行政処分として抗告訴訟の対象となるのであ
る。(同旨、大阪高裁昭和四一年一一月二九日、行裁例集一七巻、一三〇七頁)被
申立人自らも、この通知書中に、通知に不服の場合は六〇日以内に建設大臣に審査
請求し得る旨を明示して、右の法的性質を認めている。
なお、移転するか否かを照会されれば、やはり、自ら移転の道を選ぶのが人情と思
われる。申立人らも昨年の場合には、この方法を選んだところ、仮換地上に木造建
築は許されないとの豊島区建築主事の見解で、建築申請が却下され已むなく耐火建
築をすることとしたことは前回の書面で申述べたところである。ところで、被申立
人は、本件仮換地上に建築の許されない木造建物を直接施行で移築するというので
あるが、斯様な行為は区画整理に関して特例を認めていない建築基準法に悖る行為
であつて、仮に直接施行で木造建物が建築できたとしても、それは建築基準法第九
条による使用差止、取壊わしを受ける対象となるのであつて、被申立人が直接建築
することも違法というべきである。
十九 同、三、(三)(四五頁)の記載事実について、被申立人の主張はこの部分
について悪意に充ちている。即ち、自らの希望で従前地上の建物が建てられなくな
つたのだから自業自得だと言つているに等しい主張だからである。
申立人Aは、被申立人の本件区画整理の進め方が余りにも一方的であり、又、秘密
的過ぎるのを遺憾に思い、昭和五二年の審議会委員の選挙に立候補し、幸に当選し
た。ところで、前述した巾員二五米沿いの住民等から、換地が狭いので、近隣商業
地域にしてほしい旨の願望が多かつたので、これを被申立人側職員に伝えたことは
あつた。然し、申立人Aが被申立人主張の協議会(疎第一〇号証の二)において主
張した点は、折角、近隣商業地域になり、防火地域となつても、被申立人の日影条
例適用が解除されないと、この地域の住民の希望するような土地の有効利用ができ
ないので、近隣商業地域に指定されるときには第三種高度地区の指定の解除を同時
に行つてもらいたい。
との点を担当者に質問しているのであつて、当然のことながら、区画整理地域内住
民のために発言しているのである。申立人A個人の利益を追及しているが如く被申
立人が主張するのは、全くの偏見である。疎乙第一〇号証一、二(議事録)を一読
して明らかな如く、申立人Aは審議会委員として、本分を尽した討議をしているの
である。
それにしても、被申立人の主張である「木造建物が建てられなくなつたのは自業自
得である」といつた主張の仕方は、
地方自治団体としてあるまじき姿勢である。
斯様な用途地域の変更が、経緯はともあれ決まつた以上、これを客観的に受けとめ
て、本件区画整理事業に当るのが筋である。斯様に用途地域の変更に伴う区画整理
区域内の住民に対する補償も、木造建物ができない以上、補償金額においても、之
に見合う計算を出さなければ「任意に移転せよ」といえない筈である。
二十 同、第四「執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあることに
ついて」(四九頁乃至六四頁)に関しては、申立人等の執行停止が容認された場合
に、被申立人の本件区画整理事業に或る程度の影響があるとは思う。然し、影響は
極めて軽微なものである。その理由左の如し、
(イ) 申立人等に関する部分についての執行停止であるから、同じ五ブロツク内
においてさえ、他の者には影響なく、事業は進行してゆくのである。従つて、同ブ
ロツク内の「<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>、<地名略>」の
各土地については事業が引き続き進行することになる。
(ロ) 被申立人は、本件区画整理を六六のブロツクに分割して、<地名略>から
<地名略>までを対象地として区画整理事業を行つている。(疎乙第一二号証)土
地区画整理法八六条にいう工区が、本件の場合は一工区になつているのにもかかわ
らず被申立人が現に実行しているようにブロツク別に細分化して施行するのは如何
かと思うけれど、本件被申立人の事業進行の方法を見ると、例えば、五ブロツクで
は僅かに一〇名の者を対象として建物移転通知を発行しているのである。斯様な次
第であるから、申立人等のブロツク以外に六〇ケ所も工事を行い得る機会があるの
であつて、さしたる影響もないのである。
(ハ) 又、被申立人は、申立人等の建物が動かないと「<地名略>」の建物が動
けないため巾員二五メートルの道路が二・五メートルを残してふさがれてしまうと
主張するが、この二五メートルの道路なるものは未だ建設されている訳ではない。
その上、被申立人の従前の主張によれば、昭和五五年六月一〇日以降は直接施行
で、この建物を取り払つてしまうことができる筈であるから直接施行を行えば狭く
なつたからといつて困ることは無い筈である。例え、この道路に建設機械が通ると
しても、巾が一〇メートルもある建設機械などはないのであるから、之れ又、当面
被申立人の事業に差支えは生じないのである。
(ニ) 被申立人は申立人等の本件土地に対する執行停止が行われると
・・・前述した多額の資金を投下した本件事業の今後の進捗そのものを停止するこ
ととなり・・・(六三頁)
と、宛も本件区画整理事業そのものが停止されてしまうような大げさな表現をする
のであるが、現に既に、昭和五〇年に右事業において移転通知の発せられた六〇、
六二、六三、六四ブロツクについての直接施行もいまだに行つていないのであつ
て、(甲第一四、一五号証)これを見ても或る一部が停止されたからといつて、他
も停止となるといつた関係では無いことが明らかである。又、多額の資金を投じた
といつている点も、被申立人の疎乙第一〇号証一、二(議事録)によれば、被申立
人の職員等が換地指定を決めては、被申立人の本庁に予算を求めて資金を取つてい
る経緯が判明している。一方、この事業を執行される住民の側では、却つて、環境
が悪化し住みづらいと意見を述べる者が多い状況である(甲第一〇号証)から、被
申立人の職員らが、又別のブロツクについて予算を請求してゆけばよいのである。
以上のように、執行停止になつてもさしたる支障はないのである。
二 十一 同第五「回復困難な損害を避けるため緊急の必要がないことについて」
(六四頁)に対して左のように述べる。
(イ) 先づ、被申立人の移転通知に従つて、本件従前地上の木造建物を移転、再
築することは豊島区建築主事の認めぬところであるから、本件木造建物は取壊わし
て棄てる外ないところである。
そうであるとすると、申立人Aの所有建物は、三棟であつて、その延面積は一〇
七・六四平方メートルであり、昨年の木造建物の補償額が一平方メートル当り七
五、〇〇〇円であつたから、本年は、一平方メートル当り金八万円として金八、六
一一、二〇〇円となる。
又、申立人会社の建物は昭和五〇年七月現在の簿価で金一七、五四八、七九〇円と
なつていたので、これが差し当つての損失金となる(甲第一一号証))というの
は、現在では、最早この金額で再築できないからである。
(ロ) 次ぎに、仮換地上に建築できるのは耐火構造の建物であるから、これを建
築した場合の金利の負担を損害として計上しなければならない。何故ならば、申立
人等は建築資金をもつていないからである。適例になるものとして、昨年申立人A
が日本住宅公団に依頼して建築してもらうこととなつた鉄筋コンクリート造の建物
から、一平方メートル当りの負担金利を計算し、これを本件木造建物の面積分に引
き直してみることとする(甲第六号証二、割賦金総額等概算額について参照)勿
論、日本住宅公団の金利であるから我国では最も安い金利である(現在では、この
金利も高く改訂された)。
右のとおりで申立人Aの負担金利は金三三、四三五、四六〇円也、申立人会社の分
は金六一、二一七、五八一円也となるのである。
(ハ) 又、現在、申立人Aは三棟の本件建物を三名に賃貸し、一ケ月金九六、〇
〇〇円の収入を得ており、又、申立人会社は、本件建物を六名の者に賃貸してお
り、この一ケ月の収入家賃は金四一二、〇〇〇円也となつている。この建物を取壊
わして新たに貸家を建てた上賃貸できるまでの間の収入は零となるのである。建築
期間は昨年の例から考えて略々一年間であるから、この間の収入減は申立人Aの分
は金一、一五二、〇〇〇円、申立人会社の分は金四、九四四、〇〇〇円也となる
(甲第一二号証)。
(ニ) 右の外、従前の家屋の取壊わし費用、新しい建物の設計監理の費用、従前
地から仮換地への植栽に要する費用等意外のところで経費を要するのが常である。
そして、折角努力した結果、建物が完成した場合に入居者があるかどうか、これも
判らず心労の種である。甲第一〇号証にもあるとおり、借家人としては、現在より
も生活環境が悪化すると考えており家賃も安くして欲しいとさえいつている状況な
のである。
右のとおりであつて、現在判る範囲でさえ申立人Aにおいて金四三、一九八、六六
〇円、申立人会社において金八三、七一〇、三七一円の損害を生じることとなるの
であつて、申立人等としては到底耐えることのできない金額になつてしまうのであ
る。
以上
別紙(三) 意見書
右申立人の昭和五五年四月二四日付執行停止決定申立に対し、被申立人は執行停止
の可否につき以下のとおり意見を陳述する。
申立の趣旨に対する答弁
一 本件申立をいずれも却下する。
二 申立費用は申立人らの負担とする。
との決定を求める。
申立の理由に対する答弁
第一 事実の認否
一 申立の原因第一項記載の事実は認める。ただし、「移転命令」とあるのは、正
確には「建築物等移転通知および照会」(以下、「本件通知・照会」という。
)であつて、本件通知・照会は申立人らに対し、建物移転を命令したものではな
い。
二 同第二項記載の事実は認める。
仮換地指定処分が違法であるとの主張は争う。
三 (1)同第三項(イ)第一段「先づ移転の・・・・・・・・・なつた点であ
る。」までの主張は争う。
(2) 同第二段「すなわち、・・・・・・・・・状況である。」までの記載事実
のうち、昭和四八年六月に縦覧に供された際の仮換地(正確には換地予定地であ
る。以下「換地予定地」という。)が西側二五メートル幅の道路に間口一〇メート
ルに亘つて接続し、かつ地積も三五五平方メートルであつたとの点は否認する。右
縦覧では、換地の位置と形状を表示したに止まる。
その余の事実は認める。
主張は争う。
(3) 同項(イ)第三段「これは・・・・・・・・・為されたのである。」まで
の記載事実は認める。主張は争う。
(4) 同項(イ)第四段「この仮換地によつて・・・・・・・・・となるのであ
る。」までの記載事実のうち、申立人Aの仮換地の減歩率が二八・五七パーセント
であるとの点、及び右仮換地の容積率が四〇〇パーセントであるとの点は認める。
その余の事実は否認する。
主張は争う。
(5) 同項(イ)第五段及び第六段「斯様に、・・・・・・・・・明らかであ
る。」までの主張は争う。
四 (1)申立の原因第三項(ロ)第一段「次に・・・・・・・・・点である。」
までの主張は争う。
(2) 同項(ロ)第二段「すなわち、・・・・・・・・・許されないのであ
る。」までの事実は認める。
主張は争う。
(3) 同項(ロ)第三段「昨昭和五四年中に、・・・・・・・・・こととなるの
である。」までの記載の事実のうち、昭和五四年中に、申立人らが本件土地の接続
地につき仮換地指定処分を受けたとの点、右接続地上にあつた木造建物の移築を豊
島区に申請したとの点、右接続地についても、従前地が準防火地域、住居地域であ
り、仮換地が昭和五四年二月一三日以降防火地域、同年同月三日以降近隣商業地域
となつたとの点はいずれも認める。
その余の事実は不知。
(4) 同項(ロ)第四段「斯様に、・・・・・・・・・ものである。」までの主
張は争う。
五 同第四項記載の事実は認める。
主張は争う。
第二 事件の経緯
一 東京都市計画池袋二丁目付近土地区画整理事業(以下、「本件事業」という。
)の概要は次のとおりである(疎乙第一号証)。
(一) 本件事業の施行地区(以下、「本件地区」という。)は、国鉄池袋駅より
北方約三〇〇メートル以北に位置し、本件地区の南端は、池袋駅付近を中心として
施行した東京都市計画第一〇地区復興土地区画整理事業の第二工区(池袋西口付
近)に接し、その北端は放射八号線(通称川越街道)に接し、その東端は通称平和
通りに接した豊島区<地名略>及び<地名略>の各一部を包含する約二〇五、五五
五平方メートルの区域である。
(二) 本件事業は昭和三九年度を初年度として昭和五八年度完了をめざすもので
ある。
(三) 本件事業により整備される主な公共施設
1 都市計画街路補助第七三号線(以下、「補助第七一二号線」という。) 幅員
二五ないし二八メートル、延六二二メートル
2 都市計画街路補助第一七三号線(以下、「補助第一七一二号線」という。) 
幅員一五ないし一八メートル、延長三六五メートル
3 区画街路
(1) 幅員一五メートルのもの 延長 三五〇・九メートル
(2) 幅員八メートルのもの 延長 二、六二五・八メートル
(3) 幅員五メートルのもの 延長 三、一三五・九メートル
(4) 幅員四メートルのもの 延長 六一・五メートル
4 公園 二ケ所 面積 延べ約〇・二ヘクタール
(四) 本件事業に要する総経費は、二〇八億二三八一万六〇〇〇円であり、すで
に現在までに投下した資金は、五七億六六〇〇万一〇〇〇円に及んでいる。
二 都市計画決定
本件事業は、昭和三九年四月一六日付建設省告示第一、二〇五号をもつてその施行
すべき区域の都市計画決定が告示された。
三 事業計画の決定
被申立人は、右都市計画決定を受けて、昭和四〇年一月二一日本件事業の事業計画
を決定し、同月三〇日、東京都告示第九三号をもつて、その旨を告示した。
なお、その後、昭和四七年二月二八日付東京都告示第二一三号及び昭和四九年三月
二三日付東京都告示第二九一号をもつて本件事業の事業計画を変更している。
四 換地の位置と形状に関する換地設計案
(一) 被申立人は、本件事業における土地区画整理審議会(以下、「審議会」と
いう。)委員と施行者により構成される協議会において検討のうえ作成された換地
設計についての案に基づき、まず換地の位置と形状に関する換地設計案を、昭和四
八年五月二八日から同年六月一〇日までの間、関係権利者の閲覧に供した(これを
「仮縦覧」という。)。そのうち、申立人Aの換地の位置と形状は、疎乙第二号証
(一図)のとおりであり、換地の面積等については触れていない。
(二) 申立人Aは、同年六月一日に、換地の位置と形状に関する換地設計案を閲
覧し、同年六月二三日に右案に対する意見書を提出した。右意見書において申立人
Aは、おおむね次のようなことを述べた(疎甲第七号証の一及び二)。
すなわち、従前の土地は一続きの土地であり、新設の二五メートル道路(補助第七
三号線)に接しているにもかかわらず仮換地は二分されており照応の原則に合致し
ないから不服である。仮換地を二分することなく八メートル街路の南北の何れか一
方に補助第七三号線に面して矩形に、または二分する場合は、何れも二五メートル
道路(補助第七三号線)に面して矩形にして欲しいというものであつた。
(三) ところで、被申立人が、申立人Aの所有する土地について疎乙第一号証の
とおりの位置と形状にしたのは次の理由による。
すなわち、換地の位置と形状に関する換地設計案は、現状を考慮して設計されたも
のであるところ、申立人Aの所有地は、公図のうえでは五筆の土地が一体となつて
いるが、現況は、公道である通称平和通りにつながる建築基準法第四二条第二項の
建築線(幅員三・六ないし四メートル、延長三二・八三メートル)がその真中に設
定され、両側に居住及び共同住宅を建築し使用している(疎乙第二号証。)そこ
で、被申立人は右建築線に代わるべき幅員八メートルの区画街路を新設し、その両
側に申立人Aの換地と位置を定めたものである。
(四) 換地の位置と形状に関する前記換地設計案に対しては、申立人Aの意見書
を含め二四三通の意見書が提出された。
被申立人は右意見書を処理するために、昭和四八年七月二五日から同年一一月三〇
日に至るまでの間、延べ一一回にわたり協議会を開催し、意見書の検討を行い、同
年一二月一九日から同年同月二一日までの間、及び昭和四九年一月二八日から同年
同月三一日までの間の二回にわたり、意見書に対する説明会を開いた。
申立人Aは、昭和四九年七月二四日に右換地設計案を閲覧し、同年八月一二日に右
換地設計案に対する意見書を被申立人に提出した。右意見書における申立人Aの意
見はおおむね次のとおりであつた(疎乙第四号証)。
すなわち、申立人Aの従前の五筆一続きの土地は、今回の換地設計案によれば南北
に分断され、北側の土地は補助第七三号線に面しないし、南側の土地は台形であつ
たものが、換地の位置と形状に関する換地設計案で逆L字形にされ、さらに今回、
補助第七三号線に面する部分は、一〇メートルあつたものが五・四六メートルと半
分にされた。補助第七三号線に面する部分が一〇メートルであつても有効利用が妨
げられるのに、更に地形悪化、しかも最高減歩で承服できない。換地設計案を即時
是正するよう要求するというものであつた。
その後、申立人Aは、被申立人の第三区画整理事務所に来所し、今回発表された換
地予定地では補助第七三号線に面する間口が五・四六メートルしかなく、前回発表
された換地の位置及び形状に関する換地設計案における一〇メートルより狭くな
り、換地の利用価値が低下したので困る旨主張した。
これに対し、右事務所では、確かに前回発表した換地図では、補助第七三号線に面
する間口は、約一〇メートル程度あつたが周囲の権利者とも意見を調整する必要が
あり、また申立人A所有の<地名略>の土地(以下、「本件従前地」という。)の
現況を考え合せた結果、今回発表のような換地予定地とした。今回発表した換地予
定地の方がより本件従前地に照応しているので形状の変更は困難であるが、換地予
定地を交換するという形でならば検討の余地がある旨を説明した。
申立人Aは、右説明に対し、換地の交換について考えてみるとのことであつた。
(五) 換地設計案に対しては、申立人Aの意見書を含め、一三二通の意見書が提
出された。
被申立人は、右意見書の処理のため、昭和四九年九月一〇日から昭和五〇年二月六
日に至るまでの間、延べ一一回にわたり協議会を開催し、その間に検討の終つた<
地名略>内の意見書提出者中、説明を必要とする二五名の関係権利者に対して、昭
和五〇年二月一五日から同月一七日までの間、説明会を行つた。
申立人Aは、二月一六日の説明会に出席し、現在五筆の土地を一括使用しているこ
とを理由に一括換地を強く希望し、補助第七三号線に面した間口をせめて七・五メ
ートル程度にして欲しい旨を要望した。
被申立人は、これに対して換地設計案における申立人Aの換地予定地は現況に照応
しており、一括換地はできないから換地設計案で了承してほしい旨を説明した。
五 <地名略>の区域についての換地設計及び仮換地指定
被申立人は、五で述べた換地設計案に基づき、本件事業施行地区のうち意見書の処
理の終えた<地名略>の区域について、将来定めるべき換地計画の一内容となる換
地設計を作成し、昭和五〇年三月二七日右換地設計を審議会に諮問し、右審議会か
らこれを承認する旨の答申を得た。
また、換地設計に基づく仮換地指定については、昭和五三年八月二三日右審議会に
諮問し、同様にこれを承認する旨の答申を得た。
六 換地予定地の交換交渉
(一) 被申立人は、昭和五〇年七月九日に、申立人Aに対して、申立人所有の<
地名略>ほか三筆の土地(以下、「<地名略>ほかの土地」という。)と他の権利
者の土地(<地名略>及び<地名略>)との換地交換について話をもちかけたが、
申立人Aは、換地設計案における換地予定地について納得していないことを理由
に、右交換の話を拒否した。
(二) 申立人Aは、昭和五三年五月半ば頃から、一-二ブロツク及び五ブロツク
の権利者の意見書に基づき換地予定地の交換案を疎乙第五号証のように作成し、右
ブロツクの権利者である申立外D、Cと折衝を行い、右両名の了承をほぼ得た上
で、昭和五三年六月二〇日に右換地予定地交換案の提示を行つた。
被申立人は、右換地予定地交換案は疎乙第五号証から明らかなとおり、申立人Aの
意見書の要望通りの一括換地となるものであるから、当然に申立人Aの了承を得ら
れるものと思い、申立人Aとの折衝に当つた。
しかし、申立人Aは、右換地予定地交換案を評価しながらも、若干の検討時間が欲
しいとして回答を保留した。
(三) 被申立人は、昭和五三年六月二六日、(二)で述べた換地予定地交換案に
ついて申立人Aの回答を求めたところ、申立人Aは、右換地予定地交換案について
設計士に相談したところ、一括換地では、建築上利用効率が低いとのことであるの
で一括換地では了承できないとして、右換地予定地交換案を拒否した。
その際、申立人Aから分割換地の方が建築上効率がよいから一-二ブロツクの<地
名略>はかの土地の換地はそのままにして、五ブロツクの本件従前地の換地予定地
の補助第七三号線に面する間口を拡大して欲しい旨の要望があつた。
(四) 被申立人は、(三)で述べた申立人Aの要望をふまえて、申立外D、Cと
再び折衝して換地予定地交換案(疎乙第六号証)を作成し、右申立外両名の了承を
得て、昭和五三年七月二九日に申立人Aに右換地予定地交換案(疎乙第六号証)を
提示した。
しかし、右案が申立人Aが昭和五〇年二月一六日の換地設計案に係わる説明会で被
申立人に強く希望した案に添うものであつたにもかかわらず、申立人Aは、補助第
七三号線に面する間口が七・六五メートルでは不十分であり、換地の位置と形状に
関する換地設計案における一〇メートルの間口に戻してもらいたいと主張したの
で、右換地予定地交換案についても申立人Aの了承を得ることはできなかつた。
(五) 昭和五三年八月一六日、申立人Aから、申立外E所有の土地(<地名略
>)の換地予定地を五ブロツクの北東角(疎乙第七号証)にして欲しい旨の要望が
あつたので、被申立人は、申立外Eの意向を問い合せたところ、同人は、補助第七
三号線から離れたくないということで、申立人Aの要望は拒否された。
(六) その後も、申立人Aから換地予定地交換の要望があつたが、これも他の権
利者の了承が得られず、申立人Aの要望どおりには実現されなかつた。
七 仮換地指定処分
(一) 被申立人は、昭和五三年一〇月三〇日付で、申立人A所有の<地名略>ほ
かの土地につき仮換地指定通知処分を行ない、同年五月二一日付で建築物等移転通
知および照会を行つた。
これに対し、申立人Aは、同年九月二〇日までに<地名略>ほかの土地を明け渡
し、右移転に伴う六五、四八〇、二五四円の損失補償金を受領した(疎乙第八号証
一ないし三)。
なお、申立人Aは、同年一二月二〇日建設大臣あて、右仮換地指定処分に対する審
査請求を提起している。
(二) 被申立人は、昭和五四年七月二〇日、本件従前地に対する仮換地指定処分
(以下「本件仮換地指定処分」という。)を行つた(疎甲第一号証の一及び二)と
ころ、申立人Aは、建設大臣に対する審査請求を前置することなく(地方自治法第
二五六条参照)、同年一〇月一五日、本件仮換地指定処分の取消を求める訴えを提
起した(疎甲第三号証の一)が、右訴訟は昭和五五年四月七日に結審している。
(三) 被申立人は、昭和五五年二月二五日、申立人両名に対し、
同年六月一〇日までに仮換地に移転すべき旨の建築物等移転通知および照会を行つ
た(以下「本件通知・照会」という。)。
本件通知・照会に対し、申立人は同年三月二四日に審査請求を申し立て、さらに、
本件執行停止の申立を行つてきたものである。
第三 本案について理由がないことについて
一 本案における申立人らの主張
本件執行停止申立事件の本案訴訟である建物移転命令取消請求事件(御庁昭和五五
年(行ウ)第六〇号)の訴状によれば、本件通知・照会は次の点で違法であるとい
う。
(一) 本件通知・照会の前提となる本件仮換地指定処分により指定された仮換地
(以下「本件仮換地」という。)は昭和四八年五月二八日に仮縦覧に供された換地
の位置形状に関する換地設計案において一たん照応するとされた換地予定地よりも
劣悪なものであり、又本件仮換地指定処分は被申立人の恣意に基づくものである。
(二) 本件仮換地は本件従前地と都市計画法上の地域地区を異にしているため、
申立人らが現に所有する木造建築物を仮換地に移転することができないので本件通
知・照会は申立人らに不能を強いるものである。しかし、右に述べた申立人らの主
張は以下述べるとおり、いずれも理由がない。
二 本件仮換地指定が照応原則に違反していないことについて
(一) 仮換地は従前地に照応しなければならないことはいうまでもない(土地区
画整理法(以下「法」という。)第九八条第二項、同第八九条第一項)。
ところで申立人A所有の<地名略>他の土地と本件従前地とは公図上では地続きの
一帯の土地であるが、公道に面しないいわゆる「めくら地」である。すなわち、右
二つの土地の現況は右二つの土地を分割する幅員約三・六メートルないし四・〇メ
ートル、延長約三三メートルの私道により公道である平和通りからの通路を確保
し、右私道を建築基準法第四二条第二項により、道路位置の指定を受けることによ
り、右二つの土地は宅地としての利用が可能な状態であつた(疎乙第三号証)。
かかる「めくら地」が区画街路に面するようになるのは、土地区画整理事業の目的
からして従前地と仮換地とは照応してこそあれ、照応を欠いているということはな
い。ところが本件従前地はめくら地であり、一方仮換地は幅員二五メートルという
本件地区内最大の道路である補助第七三号線に面し、
かつ北側は区画街路(八メートル)にも面しているのであるから充分照応している
というべきである。
右のように換地設計したのは申立人が従前から補助第七三号線に面した換地を強く
希望していたところ、たまたま、五ブロツクに配置する他の権利者の換地予定地を
配した結果、本件従前地の換地予定地を補助第七三号線に面するような形で配置す
ることができることとなつたので、換地の位置、形状に関する換地設計案で疎乙第
二号証一図のような換地予定地を仮縦覧に供したのである。
ところが、四四七番の三の土地所有者から従前地の南面が道路であつたので、換地
も南面道路にして欲しい旨の要望があり、被申立人は右要望を妥当なものと判断
し、五ブロツク内の換地予定地を配置しなおしたところ、本件従前地の換地予定地
は補助第七三号線に面する部分が狭くならざるを得なくなつたものであるが、被申
立人は、それでもなお、本件従前地よりも換地予定地の方がすぐれたものであり、
しかもそれは、申立人Aの意向に沿い、かつ、有利な方向でなされたものであるか
ら、照応原則に違反するものではないと判断した。
(二) 昭和四九年七月一七日に換地設計案を発表し、申立人Aから同年八月一二
日に意見書の提出を受けた後、被申立人は、第二・七で述べたとおり、申立人Aの
希望にできるだけ沿うべく、他の権利者の同意を得て換地予定地を交換すべく折衝
にあたり、申立人Aさえ同意すれば、申立人Aの当初からの希望である補助第七三
号線に面した一括換地予定地を得ることができたにも拘らず、建築上の利用効率が
悪くなると称して、一括換地予定地になる換地予定地の交換案を拒否し、一転して
今度は分割換地予定地を希望し、また、その後も分割換地予定地のままで、補助第
七三号線に面する間口を、七・六五メートルにする案も拒否した(疎乙第九号
証)。
右両案のうち、一括換地予定地となる案については、同案提示の際、同席した申立
人らの訴訟代理人たる高橋龍彦弁護士も満足の意を表したものであり、また、間口
を七・六四メートルとした案も、申立人Aから、昭和五〇年二月一六日の意見書に
対する説明会において出された要望に従つたものであり、右両案を拒否する申立人
Aの態度は、明らかに、本件区画整理事業において、従前地をはるかにしのぐ良好
な換地予定地を得ようとするものであつて、到底、被申立人の許容できるものでは
ない。
(三) 以上、要するに、本件仮換地指定処分は照応原則に違反するものではな
く、ましてや、被申立人の恣意に基づくものでもないことは明らかである。
三 本件通知・照会が不能を強いるものではないことについて
(一) 本件通知・照会について、申立人らは移転命令と誤解しているようなの
で、本件通知・照会についてまず説明する。
土地区画整理事業の施行者は、仮換地若しくは仮換地について仮りに権利の目的と
なるべぎ宅地又はその部分を指定した場合(法第九八条第一項)、従前の土地につ
いて使用収益を停止させた場合(法第一〇〇条第一項)、又は公共施設の変更若し
くは廃止に関する工事を施行する場合において、従前の宅地又は公共施設の用に供
する土地に存する建築物その他の工作物又は竹木土石等(以下「建築物等」とい
う。)を移転除却することが必要になつたときは、これらの建築物等を移転除却す
ることができる(法第七七条第一項)。
ところで建築物等の移転除却の必要は、建築物等所有者の責に帰すべき事由によつ
て生じたものではなく、全く土地区画整理施行の必要から生じたものであるから、
その移転除却の実施は、施行者の建築物等所有者に対する義務である。ただ法は、
建築物等の所有者等に対して、所有者等が、相当期間内に移転又は除却する意思が
有るか無いかを照会し、所有者等自身による移転除却の機会を与えることとしたも
のであり(法第七七条第二項)、建築物等の移転・除却通知および照会は、建築物
等の所有者等に対して、建築物等の移転除却という作為義務を果すものではない。
(二) 本件通知・照会は、法第七七条第二項の規定に基づき行われたものであ
り、申立人ら自からが、申立人ら所有の建築物等を昭和五五年六月一〇日までに移
転する意思が有るか無いかを問い合わせたにすぎず、何ら申立人らに移転義務を負
わせたものではない。従つて、本件通知・照会が、申立人らに不能を強いる法律行
為であるとの申立人らの主張が失当であることは明らかである。
(三) なお、申立人らは、本件従前地が、準防火地域・住居地域であつたもの
が、本件仮換地では防火地域・近隣商業地域となつていることを問題としているの
で、この点について、以下述べる。
本件事業の進渉にともない、補助第七三号線沿い(一-二、五、六の各ブロツク)
に換地が予定された権利者から、移転までに、用途地域及び容積率を変更して宅地
の利用増進をはかつて欲しい旨の強い要望が出されていた。とくに本件事業の土地
区画整理審議会委員である申立人Aは、同審議会及び協議会においても、補助第七
三号線沿いについて、近隣商業地域に指定し、第三種高度地区の指定の解除・日影
条例の対象区域外にすることを強く施行者たる被申立人に求めていた(疎乙第一〇
号証)。
被申立人は、右要望に応じるべく豊島区と協議したうえ、昭和五四年二月三日に用
途地域の変更を、同年同月一三日に防火地域及び第三種高度地区の変更を告示した
(疎乙第一一号証)。右告示により、補助第七三号線沿いの地域は、防火地域・近
隣商業地域となつたものである。
従つて、右地域地区の指定替えによつて、申立人らが本件仮換地に木造建築物を新
築できなくなつたとしても、それは自からが望んだ結果であつてこれをもつて、本
件通知・照会の違法事由とすることは許されない。
第四 執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあることについて
一 本件事業の目的と必要性について
(一) 本件地区は、池袋駅西口の繁華街に隣接した商住混在の密集地であり、豊
島区内でも有数の高い人口密度を有し、本件地区内の家屋は木造ないし簡易耐火造
りで密集しており、火災発生時には延焼の危険度が高いうえ、人車混合の細街路は
日常通行のみならず、消防活動にも支障をきたしているのが現状である。現に、本
件地区内の約半分の地域が震災時消防活動困難地域に指定されている。
それ故に、本件地区において、火災発生時の延焼とりわけ地震による二次災害とし
ての火災を効果的に防止するために、自然発生的に形成された街区の体系を改善
し、計画的に公共施設を整備することが急務となつている。
(二) また、本件地区は池袋駅西口の繁華街に隣接していることから、池袋の副
都心としての機能が拡大されていくことに対応せざるを得ない地区であり、それ故
に現在の自然発生的に形成された街区・細街路のままでは現在以上に野放図で無秩
序な街になつてしまうおそれが多大な地区である。
(三) そこで、本件事業は、本件地区内の公共施設を整備改善し、宅地の利用増
進を図ることにより、本件地区の火災等の災害に対する安全性を、池袋の副都心と
しての機能拡大への対応の中で実現することをめざすものである。
その結果、本件事業が完成すれば、道路率・空地率(本件地区の総面積に対し、そ
れぞれ道路・空地が占める総面積の割合)及び宅地の利用増進に伴う耐火建築物が
増加することにより延焼阻止要因が増加し、また、道路が整備されることにより消
防活動が強化され延焼の危険性が軽減されること等を通じて災害に対する安全性を
強化できるのである。
二 本件事業により整備される公共施設の公共性について本件事業により整備され
る主な公共施設は第二・一で述べたとおりである。これらの公共施設の果すべき機
能を以下述べる。
(一) 補助第七三号線・同第一七三号線について
補助第七三号線・同第一七三号線は
1 池袋西口と川越街道ないし山手通りを結ぶ街路として
2 本件地区内に発生する交通を効率よく安全に幹線街路へ誘導する街路として
3 通勤・通学・買物等に使用される地域サービス街路として
必要な補助街路であり、
1 通風・採光等生活上必要な空間として
2 火災延焼の防火線また避難及び救急活動のための通路を確保する防災用空間と
して
3 水道管・下水道管・ガス管等の都市住民の生活に不可欠な都市施設を収納する
空間として必要な都市空間である。
これらの諸機能を有する街路はすでに一で述べたとおり従前本件地区には欠けてい
たものであり、補助第七三号線・同第一七三号線の築造により、本件地区の都市環
境が向上されるものである。
(二) 区画街路について
区画街路は本件地区内に発生する交通を効率よく補助街路へ誘導する機能を有し、
本件地区内の生活道路として必要不可欠なものであることはいうまでもない。
また、区画街路も補助第七三号線・同第一七三号線について述べたところと同じ
く、本件地区にとつて必要な都市空間である。
従前の本件地区は、区道ですら行止まりのものもあり、まして私道は細く曲りくね
り都市空間としての機能を担いうるものではなく、現に、本件地区では、下水道は
区道部分に敷設されているに過ぎない。
さらに、本件地区内の土地は、公道に面しないいわゆる「めくら地」が多く(疎乙
第一二号証)、現に申立人A所有の土地も「めくら地」であり、その所有地の中央
に建築線としての私道を設けないと宅地として充分な利用ができない土地である。
それ設に、本件事業により区画街路が整備されることは本件地区の都市環境を向上
させるものである。
(三) 公園は、憩いの場所、災害時の一時避難場所等として多くの機能を持つ都
市にとつて必要不可欠の施設である。ところが、本件地区内には従前、公園は全く
存せず、本件事業により公園が設置されることは、本件地区の都市環境を向上させ
ることは自明の理である。
三 本件事業における本件仮換地の指定及び建築物等の移転の方法
(一) 被申立人は本件事業が本件地区にとつて必要不可欠なものであることにか
んがみ、本件事業を効率的に進渉させるべく次のような事業の進行方法をとつてい
る。
すなわち、換地予定地の各ブロツクごとに仮換地の指定を行ない、仮換地(仮権利
地)の効力の発生する日ないし従前地につき使用収益を停止する日を一定期日に定
め、従前地上の建築物解体移築を同時に行うという手法をとつている。かかる手法
をとることにより建築物の解体が終つた従前地をすみやかに事業計画が予定する街
区に造り替え、建築物の移築を行うことが可能となり、権利者の使用中断を最少限
度におさえることができるのである。
(二) 本件仮換地が含まれている五ブロツクについても、同ブロツクに換地予定
地を与えられることになつたすべての権利者に対して昭和五四年七月二〇付で、仮
換地(仮権利地)の指定の効力が発生する日を同月三〇日とする旨の仮換地指定を
行つている。
四 本件通知・照会の効力を停止することが公共の福祉に重大な影響を及ぼすこと
について
本件事業は、一及び二で述べたように、非常に公共性の強い事業であり、本件事業
の早期完成は、本件地区とつて必要不可欠なものである。
以下、仮りに本件通知・照会の効力が停止されたとすると、どのような影響がでる
かを具体的に述べる。
(一) 補助第七三号線について
本件従前地は、その一部が補助第七三号線の予定地内にあり、申立人らは補助第七
三号線の予定地内に三棟の建築物を所有している(疎乙第三号証)。従つて仮り
に、本件通知・照会の効力が停止され、昭和五五年六月一〇日を徒過した後も、被
申立人が申立人らの建築物を本件仮換地上へ移転することができなくなると、補助
第七三号線は、この部分において長さ約一七メートルにわたつて幅員を約一〇メー
トル失わざるを得なくなる(疎甲第一号証の一・三枚目仮換地位置図)。
さらに、本件従前地の北西に隣接し、その全体が補助第七三号線の予定地内にある
<地名略>の土地の換地予定地の大部分が、本件従前地内にあることから、右<地
名略>の土地上にある建築物もまた移転することができず、補助第七三号線の予定
地内に残らざるを得なくなつてしまう(疎甲第一号証の一、三枚目仮換地位置
図)。
その結果、補助第七三号線はこの地点で、二五メートルの幅員中約二・五メートル
を残してふさがれてしまうのであつて、補助街路としての役割を全く果さないもの
となつてしまうのである。
(二) 区画街路について
五 ブロツクの北側の区画街路もまた補助第七三号線につながる部分において、八
メートルの幅員のうち約二・五メートルないし約一・五メートルを失い、その機能
を充分に果せなくなる(疎甲第一号証の一、三枚目仮換地位置図)。
(三) 五ブロツクの街区の造成
申立人らの建築物を移転することができなくなることの結果、五ブロツクの街区の
造成そのものもできなくなり、さらに、五ブロツクの街区の造成を待つて、仮換地
指定・建築物の移転を行うとしている未着手部分の手続もまたとまらざるを得なく
なり、三で述べた手法そのものが実行不能となつてしまう。
以上(一)ないし(三)で述べたことから明らかなとおり本件通知・照会の効力を
停止することは、前述した多額の資金を投下した本件事業の今後の進渉そのものを
停止することとなり、本件事業の早期完成が健全な都市環境整備上・必要不可欠な
本件地区にとつて、たえがたい損失を及ぼすものである。従つて第三でも述べたと
おり本件通知・照会によつてさしたる損害も蒙るおそれのない申立人両名のため
に、本件事業の進渉が差し止められることは、公共の福祉に重大な影響がある場合
にあたるというべきである(東京高裁昭和二八年三月二五日決定、行集一四巻六六
四頁)
第五 回復困難な損害を避けるため緊急の必要がないことについて
申立人らは、申立人らが、その所有する建築物を昭和五五年六月一〇日までに任意
に移転しないときは、(1)右建築物を喪失し、(2)右建築物から家賃収入を失
い、また、(3)鉄筋コンクリート造の建物を新築するため莫大な出費を強いられ
ることになると主張する。
しかしながら、建築物等の移転通知照会に後続する具体的な執行が仮換地への移転
を予定しているときは建築物等の所有にとつて、回復の困難な損害が生じないこと
は、営業利益の減少がある場合を含めて判例も認めるところであり(神戸地裁昭和
三二年一月三一日決定・行集三巻六号一三〇〇頁、東京高裁昭和三八年三月二五日
決定・行集一四巻三号六六四頁、福井地裁昭和二八年七月一四日決定・行集四巻七
号一七七一頁)、本件通知・照会もまた、仮換地への移転を予定するものであり、
回復困難な損害を生じるものではないことは明らかである。
なお、念のため、申立人らが主張する損害がないことについて、以下述べる。
一 申立人らは、その所有する建築物を喪失しないことについて
本件通知・照会で定められた期限である昭和五五年六月一〇日までに申立人らが、
その所有する建築物を自から移転しないときは、第三・三・(一)で述べられたと
おり、被申立人は、その本来的義務の履行として、右建築物を本件仮換地に移転す
るだけであつて、右建築物を除却する訳ではない。従つて、被申立人が右建築物を
仮換地へ移転した後は、申立人は仮換地上に右建築物を所有することになるのであ
つて、右建築物を喪失することはない。
二 家賃収入については補償が行われることについて
申立人ら所有の建築物を本件従前地から、本件仮換地へ移転する間、申立人らは、
家賃収入を失うが、これについては、被申立人は土地区画整理事業損失補償基準等
に基づき、当該移転期間に応ずる賃貸料相当額から、当該期間中の管理費相当額及
び修繕費相当額を控除した額を補償するものであり、申立人らには現実の損失は発
生しない。
三 鉄筋コンクリート造の建物の新築について
すでに第三・三・(一)で述べたとおり、権利者の従前地上の建築物等を仮換地へ
移転するのは、本来的に被申立人の義務であるから、申立人自からがその所有建築
物を移転すべき義務はなく、従つて、本件通知・照会により本件仮換地上に鉄筋コ
ンクリート造の建物を建築すべき義務を負うものではないことはもちろんのことで
ある。
また、将来申立人らが本件仮換地上に建築物を新築する際に、建築基準法上の現制
によりめ耐火構造の建築物を建築しなければならないとしても、第三・三・(三)
で述べたように、都市計画法上の地域・地区の変更を望んだのは申立人ら自身であ
つて、被申立人は右要望の実現に協力したものであり、申立人らが身から招来した
結果に他ならない。
このような場合は、回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるときに該当し
ないというべきである。
第六 結語
本件執行停止申立は、行政事件訴訟法第二五条に定められた執行停止の要件を充た
さないものであり、すみやかに却下されるべきものと思慮する。

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