弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決及び第一審判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 被告本人の上告趣意は、後記書面のとおりである。
 被告本人の上告趣意について。
 所論は、原判決の法令違反を主張するのであつて刑訴四〇五条の適法な上告理由
にあたらない。しかし、第一審判決及び原判決の認定したところによると本件塩は、
被告人が塩専売法臨時特例(昭和二〇年一二月二九日勅令第七二九号、昭和二四年
五月二八日法律第一一二号で廃止)により、自給用に供するため政府に届け出でて
製造した塩であるが、被告人がこの塩について、塩専売法臨時特例施行規則(昭和
二〇年一二月二九日大蔵省令第一一五号、昭和二四年五月三一日大蔵省令第四二号
で廃止)三条による所轄専売官署の指示に従うことなく、物々交換の目的で他に搬
出し、A方倉庫に一時蔵置したものである。原判決はこの事実に基き、自給用に供
するため製造した塩を右塩専売官署の命令指示に従うことなく譲渡交換等の目的で
他に搬出した場合は、自給用としての性質を失い政府の売渡さない塩として塩専売
法の適用を受けるものと解釈しなければ、塩専売法の目的を達することができない
とし、被告人に対し塩専売法の罰条を適用した第一審判決に違法はないと判断した
のである。しかしながら、前記塩専売法特例施行規則三条によれば、自給塩はこれ
を譲渡する場合「所轄専売官署ニ於テ……為スコトアルベキ必要ナル指示ニ従フコ
トヲ要ス」と定めているが、この指示を予じめ受けることなく物交のため搬出した
という事実だけで、自給塩であつた塩が自給塩の性質を失い、旧塩専売法五条に「
政府ヨリ売渡シタル塩ニ非ザ」る塩となると解することはできないばかりでなく、
また右のような事実だけで行為者を罰する明文がない。且つまた被告人は本件塩を
物交のため前記倉庫に一時蔵置したというのであるから、塩専売法(行為当時)に
譲渡の未遂を罰する規定がないのと比照すれば、原判決のように解するときは、自
給塩についてのみ譲渡の未遂を罰することとなり、その間権衡を失するのそしりを
免れない。すなわち、原判決はこの点において法令の解釈を誤つた違法があり破棄
を免れないから、刑訴四一一条一号により職権をもつて原判決及び第一審判決を破
棄すべきものとし、なお当裁判所が直ちに判決することができる場合であり被告人
の本件行為は前記の理由で罪とならないから、刑訴四一三条但し書、四一四条、四
〇四条、三三六条により裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。
 検察官 岡琢郎出席
  昭和二七年一二月二三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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