弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
        被告人を懲役6年に処する。
        未決勾留日数中140日をその刑に算入する。
理       由
(犯罪事実)
 被告人は,
第1 平成16年2月5日午後11時45分ころ,当時の山梨県東山梨郡○○町○
○番地の○A廃車置場において,同所に置かれていたB所有に係る車両の助手席シ
ートに所携のライターで点火し,その火を同車に近接して置かれていた同人所有に
係る車両合計17台に順次燃え移らせ,よって上記車両合計18台(損害額合計約
137万円相当)を焼損し,もって他人の器物を損壊した
第2 同年3月8日ころ,同町○○番地所在のCが現に住居に使用している木造ト
タン葺き平家建居宅(床面積約172.24平方メートル)に放火しようと企て,同
人方風呂場外壁脇に設置されたボイラー用灯油タンクを引き倒して灯油を流出さ
せ,同所付近にあった紙に所携のライターで点火し,その火を灯油に引火させるな
どして火を放ったが,自然鎮火したため,凍結防止用水道管カバー,ボイラー送油
管等を焼損させたにとどまり,その目的を遂げなかった
第3 同月16日午前零時45分ころ,同町○○番地有限会社D車庫兼資材置場に
おいて,同所に置かれていたE所有に係る車両の助手席シートに所携のライターで
点火し,その火を同車に近接して置かれていたF所有に係るエアーコンプレッサー
カバー等4点に燃え移らせ,よって同車及び上記エアーコンプレッサーカバー等合
計5点(損害額合計約16万7810円相当)を焼損し,もって他人の器物を損壊
した
第4 同月23日午前2時ころ,同町○○番地所在の同町所有に係る現に人が住居
に使用せず,かつ,現に人がいない○○町消防団第2部詰所(木造モルタル2階建
て,床面積合計約95.79平方メートル)に放火しようと企て,同詰所2階に置
かれた段ボール箱在中の空き袋に所携のライターで点火した上,同所に置かれたポ
リタンク入りの灯油をその周囲の畳の上等にまき,その火を同所の壁,柱,天井等
に燃え移らせて火を放ち,よって,同所2階部分(床面積約49.26平方メート
ル)を焼損させ,もって現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物を
焼損させた
第5 平成17年2月25日午前零時ころ,山梨県山梨市○○番地所在G敷地内の
H所有に係る車庫内において,同所に置かれていた同人所有の木炭在中の段ボール
箱に所携のライターで点火して火を放ち,同段ボール箱を焼損し,そのまま放置す
れば,同段ボール箱に近接して駐車中の普通乗用自動車を焼損させ,さらにその火
を周囲の人家に燃え移らせるなどのおそれのある危険な状態を発生させ,もって公
共の危険を生ぜしめた
ものである。
(法令の適用)
 被告人の判示第1及び第3の所為はいずれも刑法261条に,判示第2の所為は
同法112条,108条(有期懲役刑の長期は,行為時においては平成16年法律
第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法
12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったと
きに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第4
の所為は同法109条1項(刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12
条1項に,裁判時においては上記改正後の刑法12条1項によることになるが,こ
れは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条に
より軽い行為時法の刑による。)に,判示第5の所為は刑法110条1項にそれぞ
れ該当するところ,
所定刑中判示第1及び第3の各罪については懲役刑を,判示第2の罪については有
期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47
条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をすることとする
が,平成16年法律第156号の施行前に犯したものと施行後に犯したものがある
場合であるから,同法付則4条本文により同法による改正前の刑法14条の制限内
で加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,刑法21条を適用して未決
勾留日数中140日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条
1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,地元の消防団に所属していた被告人が,ストレスを解消するため,約1
年余りの間に,現住建造物等放火未遂1件,非現住建造物等放火1件,建造物等以
外放火1件,器物損壊2件の合計5件の放火を敢行した連続放火事案である。
 被告人は,妻との間で生活費や子育て等をめぐり諍いが絶えなかったこと,実父
との間で仕事等をめぐり意見の対立等があったこと,消防団内部での自己の立場や
人間関係にも不満を抱いていたことなどから,日々ストレスを蓄積していたとこ
ろ,些細なことをきっかけに怒りを感じてはストレス解消をすべく本件各放火行為
に及んだものである。しかも,被告人は,放火をするのであれば,実父や消防団の
人間,近所の住人等に不安を与えたいなどと考え,消防団の管轄地域の中で放火を
行っているのであって,幼稚で身勝手な発想に基づく独善的な犯行というほかな
く,動機に酌量の余地はない。
 犯行態様を見ても,深夜の時間帯に人気のない場所を選んで放火に及んでいる
上,判示第2及び第4の事件についてはその場にあった灯油を利用するなど火勢の
拡大を意図しつつ放火しているものであり,放火の犯意は強固で危険な犯行であ
る。被告人は,判示のとおり1年余りの間に5件も連続的に放火行為を繰り返して
いるほか,被告人の供述によれば,これら5件を含め全部で約12件の放火を敢行
していたというのであって,常習性も顕著である。
 本件各犯行による財産的損害は約1300万円余りにものぼっている上,消防団
詰所の2階部分は全焼(判示第4)し,数多くの自動車を焼損させる(判示第1及
び第3)など,結果も重大である。これまでに判示第2の犯行について25万40
00円の保険金が,判示第4の犯行について1157万4000円の災害共済金が
それぞれの被害者に支払われているものの,これらは保険ないし共済によるもので
あって,いまだ被告人による被害弁償ないし補償は講じられていない。本件各犯行
による被害者らの処罰感情に厳しいものがあるのは当然であり,また,判示第5の
犯行により被告人が逮捕されるまでの間,被告人による連続放火が地域住民に与え
た不安感は相当なものであったとうかがわれるほか,地域住民の防災に尽力すべき
消防団員がストレス
解消のために放火を繰り返したという本件犯行が地域住民に与えた衝撃も軽視する
ことはできない。
 他方,被告人は,本件各犯行の重大性を自覚して真摯な反省の態度を示し,被害
者らに対する謝罪の意思を表明していること,社会復帰後は父親との関係を修復す
るなどして更生することを固く誓うとともに真面目に稼働して被害弁償にも努めた
い旨述べていること,被告人には道路交通法違反の罪による罰金前科以外に前科が
ないこと,その他被告人の年齢など,被告人にとって酌むべき事情も認められる。
 そこで,当裁判所は,これらの被告人にとって有利,不利な一切の事情を総合考
慮し,主文のとおりの刑を量定した次第である。
(検察官佐藤方生,国選弁護人水上浩一各出席)
(求刑 懲役7年)
  平成17年11月10日
     甲府地方裁判所刑事部
         裁判長裁判官   川  島  利  夫
            裁判官   矢  野  直  邦
            裁判官   肥  田     薫

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