弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
(申立て)
一 原告
1 平成四年七月二六日執行の参議院(選挙区選出)議員選挙の東京都選挙区にお
ける選挙を無効とする。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨。
(主張)
一 請求原因
1 原告ら及び別紙選定者目録記載の選定者らは、いずれも平成四年七月二六日執
行の参議院(選挙区選出)議員選挙(以下「本件選挙」という。)の東京都選挙区
における選挙人である。
2 本件選挙は、公職選挙法(昭和三五年法律一〇〇号)一四条、同法別表第二の
参議院(選挙区選出)議員の選挙区及び議員定数の定め(以下「本件議員定数配分
規定」という。)に基づいて執行されたものである。本件議員定数配分規定は、参
議院議員選挙法(昭和二二年法律一七号)の定める参議院地方選出議員の定数配分
規定(以下「旧規定」という。)の内容をそのまま引き継いだものであるが、旧規
定の定数配分は、各都道府県を一選挙区とし、昭和二一年四月二六日施行の臨時統
計調査に基づく総人口を議員総数一五〇人で除して得た数値で各選挙区の人口を除
して得た数値を、各選挙区の議員数を偶数とするとの前提の下に端数を切上げ、切
捨ての処理を行って整数化するという方法で行われたもので人口比例原則に沿った
ものであった。しかし、本件議員定数配分規定については、その後、沖縄の復帰に
伴い沖縄県を一選挙区として議員二人を追加配分し、昭和五七年法律八一号による
改正により比例代表制が導入されたのに伴い地方選出議員を選挙区選出議員と改称
するなどのほか立法上の改定が加えられないままに経過した。
3 そして、本件議員定数配分規定の内容は、制定後の人口の異動の結果、本件選
挙当時、人口比例原則から著しく乖離したものとなり、各選挙区間の議員一人当た
りの選挙人数の較差は、参議院議員選挙法施行直後の昭和二二年四月二〇日に執行
された参議院地方選出議員選挙では最大二・五一対一(岐阜県選挙区対鳥取県選挙
区)であったものが、本件選挙当時には最大六・五九対一(神奈川県選挙区対鳥取
県選挙区)に達しており、ある議員定数の各選挙区の選挙人数を上位の議員定数で
割り戻した場合の議員一人当たりの選挙人数が上位の議員定数の選挙区の議員一人
当たりの選挙人数を上回っているという逆転現象が増加し、四七選挙区のうち一〇
選挙区(大阪府選挙区、神奈川県選挙区、埼玉県選挙区、北海道選挙区、兵庫県選
挙区、福岡県選挙区、宮城県選挙区、岐阜県選挙区、熊本県選挙区、鹿児島県選挙
区)についてそのような逆転現象が発生していた。しかも、このような投票価値の
平等の原理に全く反する状態を国会は長期間放置していたものであり、本件議員定
数配分規定は、憲法一四条一項、一五条一項、三項、四四条及び九八条一項に違反
し無効であるから、本件選挙は無効である。
4 よって、原告らは、公職選挙法二〇四条に基づき、本件選挙のうち東京都選挙
区における選挙を無効とする判決を求める。
二 請水原因に対する被告の認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2のうち、本件選挙が本件議員定数配分規定に基づいて執行されたこと、同
規定が旧規定の内容を引き継いだものであり、旧規定が各都道府県を一選挙区と
し、議員総数を一五〇人とし、その制定当時の人口数を考慮した上、各選挙区に偶
数の議員数を配分するという前提で定数配分をしていること、本件議員定数配分規
定については、その後原告らの主張するような改正が行われたことは認めるが、そ
の余は争う。
3 同3のうち、参議院議員選挙法の施行直後の昭和二二年四月二〇日に執行され
た参議院地方選出議員選挙及び本件選挙における各選挙区間の議員一人当りの選挙
人数の最大較差が原告ら主張のとおりであったことは認めるが、選挙人の多い選挙
区でありながら選挙人の少ない選挙区より議員定数が少ないという意味での逆転区
は八選挙区(大阪府選挙区、愛知県選挙区、神奈川県選挙区、埼玉県選挙区、千葉
県選挙区、宮城県選挙区、岐阜県選挙区、三重県選挙区)であり、その余は争う。
(証拠関係)(省略)
○ 理由
一 原告ら及び別紙選定者目録記載の選定者らが本件選挙の東京都選挙区における
選挙人であることは、当事者間に争いがない。
二 原告らは、本件議員定数配分規定は、制定後の人口の異動の結果、本件選挙当
時、人口比例原則から著しく乖離したものとなり、各選挙区間の選挙人の投票価値
に不平等が生じ、選挙区間にいわゆる逆転現象が生じていたが、国会はそのような
投票価値の平等の原理に反する状態を長期間放置していたものであり、本件議員定
数配分規定は、憲法一四条一項、一五条一項、三項、四四条及び九八条一項に違反
するから、右規定に基づいて行われた本件選挙は違憲であり無効であると主張す
る。
憲法は国会を衆議院と参議院の両議院で構成するものとし、各議院の権限及び議員
の任期等に差異を設けているが、参議院議員の選挙について、その制度の仕組みの
具体的決定を原則として国会の裁量にゆだねている。そして公職選挙法は、憲法の
趣旨に則り、参議院議員については国民代表としての実質的内容ないし機能に衆議
院議員とは異なる独特の性格をもたせるべく、参議院議員を全都道府県の区域を通
じて選挙される比例代表選出議員と都道府県を単位とする選挙区において選挙され
る選挙区選出議員とに区分し、前者については実質上職能代表的な色彩が反映され
るようにし、後者については都道府県を基盤とする地域代表の要素を加味しようと
する趣旨で、参議院議員の選挙制度の仕組みを定め、また、議員定数については、
その総数二五二人のうち、前者に一〇〇人を、後者に一五二人を配分し、憲法が参
議院議員は三年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて、後者に
ついて各選挙区を通じてその選出議員の半数が改選されるように配慮し、四七の各
選挙区に各二人を均等に配分した上、残余の五八人につき人口を基準とする各都道
府県の大小に応じて二人ないし六人の偶数の議員を付加配分しているのであるが、
このような仕組みは参議院の性格にかんがみ国民各自、各層の利害や意見を公正か
つ効果的に国会に反映させるための具体的方法として合理性を欠くものとはいえな
いというべきである。
参議院議員選挙について以上のような選挙制度の仕組みを採用した場合には、投票
価値の平等の要求は人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲
歩、後退を免れないから、選挙区選出議員の選挙において各選挙区の議員一人当た
りの選挙人数にある程度の較差が生ずることとなるが、そのために選挙区間におけ
る選挙人の投票の価値と平等がそれだけ損なわれることになったとしても、これを
もって直ちに議員定数の配分の定めが憲法一四条一項等に違反して選挙権の平等を
侵害したものとすることはできないというべきである。また、社会的、経済的変化
の激しい時代にあって不断に生ずる人口の異動をどのような形で選挙制度の仕組み
に反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するもの
であって、その決定は右の変化に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と
権限を有する国会の裁量にゆだねられているところであるから、議員定数配分規定
の制定後人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選
挙人数の較差が拡大するなどしたとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が
生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において投票価
値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程
度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、こ
のような不平等状態を是正するなんらの措置をも講じないことが、複雑かつ高度に
政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限に係ることを考
慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の
定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である(最高裁昭和五四年(行
ツ)第六五号同五八年四月二七日大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁、同昭和六
二年(行ツ)第一二七号同六三年一〇月二一日第二小法廷判決・裁判集民事一五五
号六五頁参照)。
したがって、参議院(選挙区選出)議員選挙の各選挙区の議員定数の配分は人口比
例原則に則って行われるべきであるとする原告らの主張は採用できない。また、本
件議員定数配分規定がその旧規定の内容を引き継いだ参議院議員選挙法の施行直後
の昭和二二年四月二〇日に執行された参議院地方選出議員選挙では、各選挙区間の
議員一人当たり選挙人数の較差は最大二・五一対一(岐阜県選挙区対鳥取県選挙
区)であったものが、その後、本件議員定数配分規定につき、人口の異動に対応し
た定数の是正措置が講ぜられなかったことにより、平成四年七月二六日の本件選挙
当時においては、右較差が最大六・五九対一(神奈川県選挙区対鳥取県選挙区)に
及んでいたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、弁論の全
趣旨により成立を認める甲第一号証の一によれば、選挙人の多い選挙区でありなが
ら選挙人の少ない選挙区より議員定数が少ないという意味での逆転区は被告主張の
とおりの八選挙区であることが認められるが、選挙区選出議員の議員定数の配分と
選挙人数との間に右のような不均衡が存したとしても、それだけではいまだ違憲の
問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするに足りないというべきで
あり、本件選挙当時においては、いまだ本件議員定数規定が憲法に違反するに至っ
ていたということはできないから、原告らの主張は失当である。
三 以上の次第で、原告らの本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費
用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文
のとおり判決する。
(裁判官 菊地信男 伊藤 剛 大谷禎男)

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