弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告(請求の趣旨)
被告が昭和五一年一二月二七日付でなした原告の不定期航空運送事業及び航空機使
用事業免許切替申請を却下する旨の処分は無効であることを確認する。訴訟費用は
被告の負担とする。
二 被告(請求の趣旨に対する答弁)
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 原告の主張
(請求原因)
1 原告は、沖縄の復帰前の昭和四七年四月一八日及び同年五月九日合衆国民政府
高等弁務官から「エアータクシー」の許可を得て航空運送事業を営んでいた。(な
お、沖縄の復帰前、航空運送業者等が航空機を運行する場合には高等弁務官の許可
を得ることが必要とされていた。―「琉球列島における航空運送」高等弁務官布令
第六二号(「以下布令六二号」という。)第四 二節(a))
2 沖縄の復帰当時、右高等弁務官の許可をうけて航空法上の航空運送事業等に該
当する事業を経営していた者は、復帰の日から起算して三月を経過する日までの
間、航空法の規定による免許を受けないで、沖縄の復帰に伴う特別措置に関する法
律(以下「特別措置法」という。)の施行の際営業していた範囲内において当該事
業を経営することができ、又、その者が右の期間内に当該事業に関し航空法の規定
による免許を申請した場合において、その申請に対する免許の許否の通知を受ける
までの間は右三ケ月の期間を経過した後も当該事業を引続き経営できる旨規定され
ている。(沖縄の復帰に伴う運輸省関係法令の適用の特別措置等に関する政令《以
下「政令」という》二四条一五項)
そこで、原告は右エアータクシー事業を復帰後も継続して経営するため、原告の代
表者らが昭和四七年八月上旬運輸省航空局監督課に航空法上の免許申請手続につい
て行政相談のため赴いたところ、同課係官は原告の代表者らに対し右エアータクシ
ー事業は航空法上の不定期航空運送事業に該当するとの判断を示し、政令二四条一
五項後段の適用を受けるためには不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許申請
を被告に対してするよう指導した。
3 そこで、原告は、昭和四七年八月九日、被告に対し不定期航空運送事業及び航
空機使用事業免許の申請(以下「本件免許申請」という。)をしたところ、被告
は、同五一年一二月二七日これを却下(以下「本件却下処分」という。)した。
4 しかし、被告のおこなつた本件却下処分には以下に述べるような重大かつ明白
なる瑕疵があるので無効である。
(一) 原告は、本件却下処分をなす権限を有しない。
(1) 被告は航空法及び同法施行規則上定期航空運送事業者以外の者がおこなう
不定期航空運送事業及び航空機使用事業の免許権限を有するが、定期航空運送事業
者のおこなう右申請の免許権限並びにすべての定期航空運送事業の免許権限は運輸
大臣にあり被告にはない。(航空法一〇〇条一項、一二一条一項、 一二三条一
項)同法施行規則二四〇条一項三七号イ、同号の二)
(2) 原告の右エアータクシー事業は以下の理由で航空法二条一項一七号に規定
する「定期航空運送事業」に該当する。
すなわち、原告の右エアータクシー事業は米国の「コンミユンター」に該当し、路
線免許を必要としないが、運航スケジユールに従い二地点間に路線を定めて一定の
日時により運航する航空機により不特定多数の乗客を運送する事業であり、運送約
款を付した航空券の発売、運送約款の掲示、代理店の設置と集客がいずれも可能で
あつた。(なお、現行航空法の不定期免許では反復継続する運航は認められていな
い。)
(3) 従つて、原告は航空法上の定期航空運送事業者に該ると解すべきであり、
原告の本件免許申請もその実質は定期航空運送事業の免許申請であるから、被告は
原告の本件免許申請を却下する権限を有しない。
(4) 又、被告は昭和五〇年五月六日本件免許申請手続に関する説明会の席上原
告のエアータクシー事業は航空法上の定期航空運送事業に該当し、その免許権限は
運輸大臣にあると説明したうえ、本件申請に関する管轄を運輸省航空局へ移した。
従つて、この点からも被告に本件却下処分をなす権限のなかつたことは明らかであ
る。
(二) 本件却下処分は特別措置法五三条一項、憲法一四条に違反する。
すなわち、被告は特別措置法五三条一項により、原告のエアータクシーに関する右
高等弁務官の許可の効力を沖縄の復帰後も承継し、当然に原告に対し航空法上の免
許を与えるべきであるにもかかわらず、原告に改めて免許申請をさせたうえ、これ
を新規の免許申請と同様に航空法の定める基準に従つて審査して却下したことは、
特別措置法五三条一項に違反し、又沖縄の復帰に際し沖縄の法人たる原告を不当に
不利益に扱つたもので憲法一四条に違反する。
(三) 本件却下処分は政令二四条一五項の趣旨に反し又明白な権限の濫用に基く
ものである。
すなわち、政令二四条一五項の趣旨に照らせば、被告は原告の本件申請の審査中原
告のエアータクシー事業の継続のために十分配慮すべきであつたにもかかわらず、
右エアータクシー事業継続のための手続を相談した原告の代表者らに対し、定期航
空運送事業免許申請を提出するよう指導すべきところ、右エアータクシー事業を航
空法上の不定期航空運送事業であると誤解し、不定期航空運送事業及び航空機使用
事業免許申請を出すよう誤つた指導をくり返したうえ、原告に対し以下のような迫
害を加えてその弱体化をはかり、本件申請を四年半も放置し原告の経営を窮地に追
い込んだ後に本件却下処分をおこなつた。
(1) 被告は、昭和四九年一二月一三日の読売新聞紙上で原告を誹謗し、その社
会的信用を失墜せしめた。
(2) 被告は他社に対し政令二四条一項による申請以前にツインオツター二〇人
乗航空機(ケロシン燃料)を提供し原告の運航区間内で競合させ原告の経営を圧迫
した。
(3) 被告は原告が運航していた石垣―与那国間において無免許であるとの理由
で一時その運航を停止せしめ、原告の同区間の経営を困難ならしめた。
(4) 被告は、原告が復帰の日まで航空運送事業上使用していた地対空用無線周
波数(一二二・三メガ)を取り上げ、原告が数千万円を投じて設置した無線塔も使
用せぬままに灰燼に帰せしめ、原告に多大な損害を与えた。
(5) 被告は原告所属の航空機に対し航空自衛隊にスクランブルをかけさせその
乗務員に精神的打撃を与えた。
(6) 被告は、那覇航空事務所に対し、原告の購入機(ドルニエ二機)の那覇飛
来の際はその着陸を拒否し、同機が着陸した場合は捕獲すべき旨の命令をした。
(7) 被告は原告の整備士に対し精神的圧力を加え、その結果ドルニエ二機は整
備されぬまま屑鉄同様となり、原告に甚大な損害を与えた。
よつて、原告は被告に対し、本件却下処分の無効確認を求める。
二 被告の主張
(請求原因に対する認否)
請求原因事実中1ないし3の事実は認め、その余は争う。
(本件却下処分の正当性)
本件却下処分は、以下の理由で適法かつ有効である。
1 被告は本件却下処分をなす権限を有している。
すなわち、本件免許申請は、(一)定期航空運送事業者以外の者がおこなつた
(二)不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許申請であり(三)申請者の住所
は大阪航空局の管轄区域内に存していた。(航空法一二一条及び一二三条各一項、
同法施行規則二四〇条一項三七号イ、同号の二、運輸省設置法五五条の三)
右(三)については原告も認めるところであるので右(一)および(二)につき、
以下その理由を詳述する。
(一) 航空法施行規則二四〇条一項三七号の定期航空運送業者とは航空法一〇〇
条一項の規定による定期航空運送事業の免許を受けた者を意味するが、原告は以下
にのべるように右免許をうけた者とは解し得ない。
すなわち
(1) 原告は右高等弁務官よりエアータクシー事業の許可を受けていたとはい
え、右エアータクシー事業の許可を航空法上の定期航空運送事業免許とみなす旨
の、若しくは、定期航空運送事業に該当する事業を経営していた者を同法上の定期
航空運送事業者とみなす旨の規定も存在しない。
(2) 仮に、右定期航空運送事業者には、申請当時、同法上の右免許を受けてい
なくとも、その性質において同法上の定期航空運送事業に相当する事業を適法に営
んでいた者も含まれると解するとしても、原告のエアータクシー事業は以下の理由
でその性質においても同法上の定期航空運送事業には該当しない。
(イ) 航空法上、定期航空運送事業とは二地点間に一定の路線を定め、一定の日
時により航行する航空機によつて行う航空運送事業であり(同法二条一七項)右免
許を受けた者は申請書の事業計画記載の一定の路線により一定の日時に従つた運送
役務を提供すべき公法上の義務を負う。
これに対し同法上の不定期航空運送事業とは、定期航空運送事業以外の航空運送事
業で、路線、一定の日時のいずれか、又は双方をあらかじめ定めないものを意味す
る。
(ロ) 「エアータクシー」本来の運航形態は、旅客の時々の需要に応じ飛行経路
により運航するものであるから、不定期航空運送事業に該当することは明らかであ
る。
そのうえ、原告が右高等弁務官の許可をうけたエアータクシー事業の範囲は認可証
の写等から判断して運航区間の定めはあるにしても、あらかじめ定められた日時に
運航すべき義務が課せられていたとは認め難い。
(ハ) そのうえ、一九七一年(昭和四六年)一二月二日付米国政府の広報「ニユ
ースリリース」によつても、原告のエアータクシー事業はノンスケジユールと記載
され、認可当局である米国民政府の見解でも不定期と理解されていたことは明らか
である。
(ニ) 本件免許申請は、以下にのべるようにその形式、内容共不定期航空運送事
業及び航空機使用事業免許の申請である。
(1) 本件申請書(修正申請書も含む)はいずれもその表題部に「不定期航空運
送事業及び航空機使用事業免許申請(昭和四九年七月二四日付修正申請書は不定期
航空運送事業免許申請のみ)」と記載されている。
(2) 本件申請書には定期航空運送免許申請書の記載要件(同法施行規則二一〇
条)中(イ)同法一〇一条一項一号及び二号に掲げる基準に適合する旨の説明(同
条七号)、(ロ)路線の起点、寄航地及び終点並びにそれらの相互間の距離(同条
八号イ)、(ハ)運行回数及び発着日時(同号ハ)、(ニ)定期運送用操縦士(同
条九号同法二八条)、(ホ)運航管理者(同条九号同法七八条)の各記載を欠いて
いる。
もつとも昭和四七年八月九日付申請書には「スケジユール表」が添付されている
が、右表は、その「註」によれば、米軍航空管制センターの要望により航空管制上
の目安として提出してあつたものを、原告の過去の運航実績の参考資料として添付
したにすぎず、原告の事業計画と関係のないことは、右表の編てつ位置、同表記載
の運航地点往復回数の記載が、事業計画で予定するそれと一致しないこと、及びそ
の後の修正申請書中にはスケジユールに関する何らの記載もないこと等から明らか
である。
2 本件却下処分は特別措置法五三条一項に違反しない。
すなわち、同法五三条一項の解釈上航空法の事業免許関係は同条一項の例外に該当
し(なお、同条一項の原則と例外の具体的適用については政令で規定すべきとこ
ろ、航空法関係の事業免許については、右原則を適用すべき旨の政令は存在しな
い。)、その他の法規中にも原告の有する右エアータクシー事業の許可を航空法上
何らかの免許とみなす旨の、若しくは復帰前の沖縄において適法に航空法上の定期
航空運送事業に該当する事業を経営していた者が航空法の規定による免許申請をし
た場合必ず免許すべき旨の、又は、その免許申請に対して処分基準を緩和すべき旨
を定めた規定も存しないのであるから、原告が復帰後航空法上の免許を要する運送
事業等を経営するには、改めて同法に基く免許申請をすべきと解することには、何
らの違法もない。
3 本件却下処分には政令二四条一五項の違反も権限の濫用もない。
(一) 原告が請求原因4(三)で主張した各事実はいずれも事実に反するが、仮
に事実であつたとしても本件却下処分は政令二四条一五項に違反しない。
(二) 被告が原告の弱体化をはかつたなどとは事実無根である。
本件申請の審理に長時間を要したのは、原告が事業計画の変更のためとして昭和四
八年八月三一目、同四九年七月二四日、同五〇年二月一七日の三回にわたり修正申
請をしたこと、同四九年三月頃、同五〇年二月頃原告役員の交代があつたこと、申
請書記載の事実と原告経営の事業の実態との間に齟齬があつたうえ、原告は、被告
の再三の督促にもかかわらず、必要な資料を提出せず、又提出した資料についても
不備があつたこと等によるものであつて、被告の害意又は怠慢に基くものではな
い。
(三) 運輸省航空局の職員が原告に対し不定期航空運送事業及び航空機使用事業
免許申請をするよう指導したことは前記のとおり何ら違法、不当ではなく、仮に右
指導内容に原告主張の誤りがあつたとしても、単に行政指導上の問題に留まり、原
告はこれに従うか否かの自由を有していた以上、右指導内容の誤りは本件却下処分
の無効原因たりえない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 (争いのない事実)
請求原因事実中1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
二 (被告の処分権限の有無について)
原告は、被告には本件却下処分をする権限がない旨主張するのでその点につき判断
する。
1 航空法一二一条一項、同法施行規則二四〇条一項三七号イにより、被告はその
管轄地域内における定期航空運送事業者以外の者の行なう不定期航空運送事業の免
許の権限を運輸大臣から委任されているので、原告の本件免許申請が、被告の右権
限内の事項に該当するかどうかについて、原告の主張にしたがつて順次検討する。
2 まず原告は、その経営する右エアータクシー事業が航空法上の定期航空運送事
業(同法二条一項一七号)に該当するので、原告は定期航空運送事業者と解すべき
であり、したがつて、前記規則二四〇条一項三七号の「定期航空運送事業者以外の
者」に該当しないので、被告は、原告の本件免許申請を却下する権限を有しない旨
主張するが、原告を航空法上の定期航空運送事業者に該当するとは認め難いので、
右原告の主張は採用しえない。
すなわち
(一) 航空法上の定期航空運送事業者とは、同法上の定期航空運送事業免許(一
〇〇条一項)を受けた者と解すべきところ、原告が本件申請当時から現在にいたる
まで同法上の手続により定期航空運送事業の免許を受けていないことはその主張に
照らし明らかであるうえ、原告が高等弁務官から受けていたエアータクシー免許
を、右定期航空運送事業免許とみなす旨の法令も存在しない以上、原告が右定期航
空運送事業者に該当すると解することはできない。
(二) 又、仮に、右定期航空運送事業者の免許を受けていなくとも特別措置法施
行の際沖縄県の区域内において適法に航空法の定期航空運送事業に該当する事業を
おこなつていた者も、右定期航空運送事業者に該当すると解しうるとしても、原告
の右エアータクシー事業は次に述べるとおり右定期航空運送事業に該当するとは認
め難いので、いずれにしても原告が右定期航空運送事業者に該当するとは解し得な
い。
(1) すなわち、同法上の定期航空運送事業とは二点間に路線を定め一定の日時
に運航する航空機によつておこなう運送事業であり、右事業免許を受けた者は、あ
らかじめ免許申請書に記載した一定の日時に従つた運送役務を果すべき公法上の義
務を負うと解すべきところ、成立に争いのない甲第七、第一二、第二二号証の一な
いし三、第二六号証、証人A、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は右エアー
タクシー事業をおこなうにあたり、あらかじめ運航のスケジユールを定め、航空券
を発売し、事実上右スケジユールに従つた運航をおこなつていたことが認められ
る。
(2) しかし、成立に争いのない甲第九、第一七号証、乙第九、第一七ないし第
二一号証、証人B、同Cの各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、高等弁務官のエ
アータクシーの許可証並びに右許可に関する運営許可証、運営明細書、公共の便宜
及び必要についての許可証及び原告提出の運航明細申請書(補足資料を含む)中に
は、原告が運航に際し具体的に一定の日時を定めて運送役務を提供する旨の記載の
ないこと、一九七一年一二月二日付米国民政府の広報「ニユースリリース」中に
は、原告は高等弁務官からの認可証により先島地域内の各離島間で「ノンスケジユ
ール」のエアータクシーサービスを行うことができる旨の記載のあること、甲一七
号証(伊藤良平「アメリカゼネラル航空の現状」)では、アメリカ合衆国における
コンミユーター(原告は右エアータクシー事業の形態が右コンミユーターに該当す
る旨主張している。)は、定期航空と異なり、発着回数ダイヤを企業が自由に決定
できる旨の説明がなされていることが認められる。
(3) そして、右2(二)(1)認定の各事実も、右2(二)(2)認定の各事
実と総合すれば、これをもつて原告が右エアータクシー事業に関し、一定の日時に
運送役務を果すべき公法上の義務を負つていたと認めるには不十分であり、他にこ
れを認めるに足りる証拠はない。
3 次に原告は、本件免許申請がその形式はともかく定期航空運送事業免許の申請
であつた以上、被告に本件却下処分をおこなう権限がなかつた旨主張するのでこの
点につき判断する。
成立に争いのない乙第一、第五ないし第八号証、証人B、同C、原告本人尋問の結
果(以下の認定に反する部分は除く)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告提出の
本件免許申請(修正申立書を含む)はいずれもその表題部に「不定期航空運送事業
及び航空機使用事業免許申請書(昭和四九年七月二四日付修正申請書は不定期航空
運送事業免許申請のみ)」であることが明記されており、原告もその本人尋問中で
右申請書を不定期航空運送事業免許申請書として作成したことを自認しているこ
と、本件申請中には定期航空事業免許申請書であれば記載を義務づけられている航
空法一〇一条一項一・二号に掲げる基準に適合する旨の説明(航空法施行規則二一
〇条一項七号)路線の起点、寄航地及び終点並びに相互間の距離(同条八号イ)運
行回数及び発着日時(同号ハ)等の記載の欠けていることが認められる。
右事実によると、本件免許申請はその内容形式とも不定期航空運送事業免許の申請
であつて、定期航空運送事業免許の申請であるとは到底認め難く、他にこれを認め
るに足りる証拠はないので原告の右主張は採用できない。
4 さらに原告は、被告が昭和五〇年五月六日本件免許申請手続に関する説明会の
席上原告の有するエアータクシー免許に基づく航空運送事業は「定期航空運送事
業」に該当し、その免許権限は運輸大臣にあると説明したうえ、本件免許申請事案
の管轄を運輸省航空局に移した旨主張し、証人A、原告代表者本人尋問の結果中に
はこれに副う供述もあるが、右各供述も二2、3判示の各事実、証人B、同Cの各
供述に照らし、にわかに採用しえず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、原告
の右主張も採用しえない。
三 (特別措置法五三条一項、憲法一四条違反について)次に、原告は、被告が特
別措置法五三条一項により原告の右エアータクシーに関する高等弁務官の許可の効
力を沖縄の復帰後も承継し、当然に原告に対し航空法上の免許を与えるべきであつ
たにもかかわらず、原告に改めて免許申請をさせたうえ、これを新規の免許申請と
同様に航空法の定める基準に従つて審査して却下したことは、同法五三条一項に違
反し、又、沖縄の復帰に際し沖縄の法人たる原告を不当に不利益に扱つたもので憲
法一四条に違反する旨主張するが、原告の右主張も次に述べる理由により採用でき
ない。
すなわち
1 特別措置法五三条一項は、同法施行前に本土法令の規定に相当する沖縄法令の
規定によりなされた免許等の処分は政令で定めるところにより本土法令の相当の規
定によりなされた処分とみなすことを原則とする一方、沖縄、本土間で処分の基準
が著しく異なる等特別の理由のある場合は例外として、みなし規定を適用しない旨
規定する。
そして、一・二判示の事実、前掲甲第九号証、乙第一、及び第五ないし第八並びに
第一七ないし第二一号証、成立に争いのない甲第一三及び第一四(但し書き込み部
分は除く)号証、証人Cの証言並びに弁論の全趣旨によれば、復帰前の沖縄ではエ
アータクシー免許のように航空法上独立の事業免許としては規定されていない免許
が法令上独立の免許の種別として規定されていた外、右免許審査の基準、免許を与
える際の条件についても航空法上のそれとは著しく異なつていたことが認められる
うえ、航空法上の航空運送事業の免許に関しては、航空機航行上の安全性を確保す
るため、国内でその審査基準、免許を与える際の条件等を均一化し、右事業の範囲
内容運営形態を全国的に統一する必要性が極めて高いことをも考慮すれば、航空法
関係の事業免許は同法五三条一項の例外事項に該当すると解すべきである。(因
に、航空法関係の事業免許については、同第一項の原則に従つて復帰前の沖縄法令
の規定によりなされた免許等を本土の法令によりなされた免許とみなす旨の政令は
存在しない。)
従つて、原告が右エアータクシー事業を沖縄の復帰後も継続するためには、改めて
航空法上の免許申請手続をとつたうえ、右申請につき同法規定の基準による審査を
受けなければならないと解することは、同法五三条一項に違反するものではない。
2 もつとも本件のように特別措置法五三条一項例外事項に該当する場合、本土法
令の免許基準が復帰前の沖縄法令のそれより厳格であるとすると、復帰前の沖縄法
令による事業免許を受けていた者に、本土法令に基く新たな免許の取得、延いては
事業の継続が困難になる等の不利益の生ずることが十分予想されるところである。
しかし、本件却下処分のため原告に右のような不利益が生じたとしても、右不利益
は、航空機の航行上の安全性を確保するため国内の航空法上の事業免許の審査基準
免許を与える際の条件等を均一化し、国内の航空運送事業の範囲、内容、運営形態
を統一するという高度の公共の利益を達成するためには必要かつやむをえざる不利
益であるので、右不利益の発生を根拠に本件却下処分が憲法一四条に違反すると解
することはできない。
四 (政令二四条一五項違反、権限濫用について)
最後に、原告は、被告が、原告から右エアータクシー事業継続のための手続の相談
を受けた際、前記のように定期航空運送事業免許申請を提出するよう指導すべきと
ころ、右エアータクシー事業を航空法上の不定期航空運送事業であると誤解し不定
期航空運送事業免許及び航空機使用事業免許申請をするよう誤つた指導をくり返し
たうえ、原告に迫害を加えその弱体化をはかり、本件申請を四年半も放置して原告
の経営を窮地に追い込んだ後に本件却下処分をおこなつたのであるから、本件却下
処分は政令二四条一五項の趣旨に明らかに違反し、又権限を濫用したものであつ
て、重大かつ明白な瑕疵があるので無効である旨主張するが、右原告の主張も以下
に述べる理由により採用しえない。
1 まず、運輸省航空局の係官は原告に対し右エアータクシー事業が不定期航空運
送事業に該当するとの判断にたつて不定期航空運送事業と航空機使用事業の免許申
請を、するよう指導したことは当事者間に争いのないところであるが、二2判示の
ように原告の右エアータクシー事業が、航空法上の定期航空運送事業に該当すると
は認め難い以上、右エアータクシー事業が同法上の定期航空運送事業に該当するこ
とを前提に右指導の適否を論難する原告の主張は、その前提を欠きその余の点を判
断するまでもなく採用しえない。
2 次に本件申請の審査に四年以上を要したことは当事者間に争いはないものの前
掲乙第一、第五ないし第八号証、成立に争いのない甲第二号証の一、第三号証、第
八号証、乙第二、第三号証、第一〇ないし第一六号証、証人B、同C及び弁論の全
趣旨を総合すれば原告は被告に対し、昭和四七年八月九日付、本件免許申請書を提
出した後、昭和四八年七月三一日付、同年八月三一日付、昭和四九年七月二四日
付、昭和五〇年二月一九日付の四回にわたり右申請内容を修正変更する申請書を提
出していること、原告が右各申請の際被告に提出した資料が不十分であつたため、
被告は原告に対し、再三にわたり口頭で右資料の追完を求め、さらに昭和四八年三
月一九日、二〇日頃、四月二四日、同年一二月一〇日、昭和五〇年三月二四日、昭
和五一年四月二〇日、同年七月三日にいずれも書面をもつて右追完を求めたが、原
告から満足な回答を得られなかつたこと、原告の代表者が昭和四九年から五〇年頃
にかけて二回交代したことが認められ、以上の各点を総合すれば、本件申請の審査
に長期間を要した原因は被告の原告に対する害意又はその怠慢にあるとは認めるこ
とはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
3 次に成立に争いのない甲第一号証によれば、読売新聞が昭和四九年一二月一三
日付記事で「無免許飛行もう許さん」との見出しの下原告のエアータクシー事業の
継続を報道し、右記事中には、被告係官が「こんな会社では安全の保障に責任が持
てない。運輸省の基準に合うよう改善しない限り運航中止の措置を取る」等と発言
した旨の記載があるが、右記事も、四2判示の審査の経緯証人B、同Cの各証言に
照らすとこれをもつて直ちに、被告が本件申請の審査期間中原告を迫害してその弱
体化をはかつたこと及び右迫害が主たる原因となつて原告が経営上の窮地に追い込
まれことを認めるには不十分であつて、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
4 従つて、本件却下処分が政令二四条一五項の趣旨に明らかに違反し又濫用にあ
たるとの原告の主張はこれを認めるに足りる証拠はない。
五 以上判示のとおり、被告の本件却下処分は適法な処分であつて、原告主張の如
き瑕疵はなく、他に処分を無効ならしめる程重大且つ明白な瑕疵は認められない。
六 よつて原告の被告に対する本訴請求は理由がないのでいずれもこれを棄却する
こととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条民事訴訟法八九条を適用し
て主文の通り判決する。
(裁判官 宮城藤義 長嶺信栄 大竹たかし)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛