弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取り消す。
     本件保釈取消請求を却下する。
         理    由
 本件抗告の趣意は、弁護人大倉道由作成の抗告申立書記載のとおりであるから、
これを引用する。
 論旨は、要するに、原決定は、(一)、被告人は昭和四七年六月一日の公判期日
に正当な理由なく出頭しなかつたこと、(二)、被告人は裁判所の許可を受けるこ
となく昭和四七年六月一一日から同月一八日までの間、広島県因島方面に旅行して
指定条件に違反したこと、を理由として被告人に対する保釈を取り消したが、右
(一)については、さきに原裁判所のした同一の理由による保釈取消決定に対する
抗告審において、被告人の不出頭は刑事訴訟法九六条一項一号の「正当な理由なく
出頭しないとき」にあたると解するのは相当でないとの判断がなされたうえで、原
裁判所の右決定が取り消されているので、裁判所法四条により原裁判所は右抗告審
の判断に拘束され、再度これを保釈取消の理由とはなしえないものであり、右
(二)については、被告人が旅行したのは六日間に過ぎず、指定条件に違反してい
ないので、保釈取消の理由とはならない、したがつて、右(一)、(二)の理由に
より保釈を取り消した原決定は違法であるから、その取消を求める、というのであ
る。
 よつて所論にかんがみ本案事件記録ならびに当庁昭和四七年(く)第A号ないし
第B号保釈取消決定に対する抗告申立事件記録を調査して案ずるに、これらの記録
によると、原裁判所は被告人に対し、(1)、神戸地方裁判所昭和四七年(わ)第
一二〇号覚せい剤取締法違反被告事件(同年一月二六日勾留)について、同年二月
八日保証金二〇万円で、(2)同裁判所同年(わ)第C号銃砲刀剣類所持等取締法
違反・火薬類取締法違反被告事件(同年二月一〇日勾留)について、同年二月一九
日保証金一五万円で、(3)、同裁判所同年(わ)第D号傷害被告事件(同年四月
二三日勾留)について、同年五月四日保証金一五万円で、各保釈許可決定をし、被
告人はその都度釈放されたこと、右各保釈許可決定には、「七日以上旅行をしたり
又は転居する際は、事前に書面をもつて裁判所に届け出て許可を受けること」との
条件が付されていること、ところで、右(1)、(2)の事件を併合した事件の第
三回公判期日であり、かつ、右(3)の事件の第一回公判期日にあたる同年六月一
日午後一時の公判期日に被告人が出頭しなかつたため、原裁判所は同日職権で、正
当な理由なく公判期日に出頭しなかつたことを理由として、右各保釈許可決定を取
り消し、かつ、保証金全部を没取する旨の決定をしたこと(以下この決定を第一次
保釈取消決定ともいう)、右決定に対しては弁護人から抗告の申立がなされたか、
その理由は要するに、被告人は、右六月一日公判に出頭するため、自動車を運転
し、所用先の奈良から神戸市へ向かう途中、自動車が故障し運行不能となつたた
め、修理工場に救援を求めるなどしているうちに時間が経過し、所定の午後一時に
はとうてい出頭できないことが明らかになつたので、弁護人の事務所へ電話をし、
同事務所の事務員に右事情を弁護人に連絡してくれるよう伝言しておき、そのまま
帰宅したのであつて、裁判所へは弁護人から右事情を説明して諒解を得てくれるも
のと軽く考え右公判期日に出頭しなかつたのであるから、その不出頭は結局正当な
理由によるものであるというものであつたところ、抗告審である大阪高等裁判所
は、自動車修理工場の証明書を取り調べ、被告人および弁護人の陳述を聞くなどの
事実取調べをしたうえ、弁護人主張の事実を認めたうえ、被告人の右公判期日への
不出頭は、自動車が故障したため間に合わなくなつたもので、やむを得ない事由に
よるものであると判断し、刑事訴訟法九六条一項一号にいう「正当な理由がなく出
頭しないとき」にあたると解するのは相当でないとして、同月二〇日、第一次保釈
取消決定を取り消したこと、右取消決定に対しては特別抗告の申立はなく、同年七
月二日右決定が確定したこと、ところが、その後検察官の調査により、前記六月一
日被告人の自動車が故障したとの事実は全くなく、さきの抗告審で提出した前記証
明書は、被告人が知人を介して自動車修理工場の係員に依頼し、保釈取消を免れる
ために作成して貰つた内容虚偽のものであり、同日の公判に被告人が出頭しなかつ
たのはもつぱら被告人においてその公判期日を失念していたことによるものである
ことが判明するとともに、さらに被告人が原裁判所の許可をうけないで、同年六月
一一日から同月一八日までの間、広島県因島方面に旅行していたことも判つたの
で、同年一〇月六日、検察官から同法九六条一項一号および五号に違反したことを
理由として前記各保釈の取消請求がなされ、原裁判所は翌七日右検察官の請求をい
れて、(一)、被告人は、昭和四七年六月一日の公判期日に正当な理由がなく出頭
しなかつた、(二)、被告人は、裁判所の許可をうけることなく、昭和四七年六月
一一日から同一八日までの間、広島県因島方面に旅行して指定条件に違反した、と
の二個の理由で、前記各保釈を取り消し、かつ、保証金全部を没取する旨の決定を
したこと、以上の事実が認められる。
 そこで、右(一)、(二)の理由により原裁判所が前記各保釈の取消決定をした
ことの当否を検討することとする。
 (一) について
 所論は、原裁判所が右(一)の理由で前記各保釈を取り消したことは上級審の裁
判の拘束力を規定した裁判所法四条に違反すると主張するので、まずこの点につい
て案ずるのに、同条は、審級制度を前提とする規定であつて、上級審裁判所がある
事件についてした下級審裁判所の裁判を不当として破棄または取り消してその事件
を下級審裁判所に差し戻しまたは移送をした場合において、その差戻しまたは移送
を受けた下級審裁判所は、当該事件に関するかぎり、上級審裁判所の示した判断に
拘束され、これと異なる判断をすることができない旨を定めたに過ぎないから、本
件のように、差戻しまたは移送された事件にかかるものではなく、第一次保釈取消
決定およびこれについての抗告審の決定とは別個独立になされた保釈取消決定につ
いては、たとえ同一事項を判断の対象とするものであつても、同条の適用はなく、
原裁判所は、原決定をするにあたり、同条によつては右抗告審の決定に示された判
断に拘束されるものではないと解すべきである。したがつて、同条違反をいう所論
はこれを採用しがたい。しかし、だからといつて、さきの抗告審の決定になんらの
拘束性もないと解するのは早計である。
 <要旨>一般に、裁判が通常の方法で不服申立ができない状態(形式的確定)にな
つた場合、その裁判の判断内容である一定の法律関係は確定し(内容的確
定)、その内容的確定力により、その後においては同一事項について異なつた判断
内容の裁判をすることはできないと解するのが相当である。けだし、ある裁判で一
定の判断がなされその裁判が形式的に確定したのに、その後になつてその判断が誤
りであつたとしてこれと異なる判断内容の裁判をなすことを許すとすれば、判断対
象たる法律関係はいつまでも確定せず、法的安定性は遂に得られないこととなるか
らである。そして、このように裁判が形式的に確定した場合に内容的確定力を生ず
ることは、その裁判が終局裁判であるときは言をまたないところであるが、それが
終局前の裁判であつても、たとえば訴訟指揮に関する裁判のように、それ自体独立
の意味を有するものではなく、もつぱら訴訟の適正円滑な進行を図るためのもので
あり、それ故に訴訟の進行状況によつては適宜変更することも予想され、ひいてそ
の判断内容自体確定的であるとはいえない種類のものは別として、そうでないかぎ
り、異なるところはないというべきである。これを本件のごとき保釈に関する裁判
についてみると、それは訴訟指揮に関する裁判等と異なり、単に訴訟の進行にのみ
奉仕するものではなく、むしろ被告人の拘禁よりの解放に関する事項を内容とする
ものとして、それ自体独立の意味を有するものというべく、したがつてこれについ
ては、裁判一般の例に従い、それが形式的に確定することによつて内容的確定力を
生じ、その後に生じた事情を理由とする場合のほかは、さきになされた裁判と異な
る判断内容の裁判をすることはできないと解するのが相当である。そして、このこ
とは、たとえさきの裁判がその後発見された資料によつて誤りであることが明らか
になつた場合であつても異なるところではない。けだし、このような場合には、資
料こそ新たに発見されたものであるとはいえ、その資料よつて証明しようとする事
実自体はさきの裁判の際に存在したものであるから、その裁判の際に調査を尽くし
誤りを是正しておくべきであつたのであり、これをしないで、その裁判が形式的に
確定した後に、新たな資料を発見したことを理由に、同一事項についてさきの裁判
と異なる判断内容の裁判をするがごときは、いたずらに(すなわち、公訴取消後の
再起訴に関する刑事訴訟法三四〇条、再審に関する同法四三五条に類する規定もな
いのに)さきの裁判の内容的確定力を否定するものであつて、とうてい認めがたい
ところである。
 そこで、本件についてこれをみるに、第一次保釈取消決定に対する抗告審の決定
が、被告人が前記六月一日午後一時の公判期日に出頭しなかつたのはやむを得ない
事由によるもので、刑事訴訟法九六条一項一号にいう正当な理由がなく出頭しなか
つた場合にあたらないと判断したことは前叙のとおりであるから、右判断内容は、
右抗告審の決定の形式的確定とともに内容的にも確定し、その内容的確定力によ
り、その後において同じ公判期日への不出頭を理由に抗告審決定に反する決定をす
ることはできないといわなければならない。そして、右抗告審決定において資料と
された前記証明書および被告人の陳述内容が虚偽であり、ひいて被告人の不出頭が
正当な理由によるものでないことがその後に判明したとしても、それによつて右内
容的確定力を否定することができないことはさきに説示したとおりであるから、こ
のことを看過し、被告人の右不出頭が正当な理由によるものでないとして保釈を取
り消す旨さきの抗告審決定に反する判断をした原決定は違法であるといわなければ
ならない。
 (二) について
 被告人が裁判所の許可をうけないで、同年六月一一日から一八日までの八日間広
島県因島方面に旅行したことは前記のとおりであつて、その旅行期間を一一日から
一七日までの六日間という所論は、帰宅の日を誤るとともに日数計算をも誤つたも
のというべく、採用しえないのであるが、それにしても許可条件を超過した日数は
二日に過ぎず、そのために、またその後においても訴訟の進行に支障を生ぜしめた
との事実も認めがたいから、右無許可旅行の事実のみを捉えて直ちに保釈を取り消
すことは、裁量権の範囲を著しく逸脱したもので、不当といわざるをえない。
 してみると、右(一)、(二)の理由によつて被告人に対し各保釈許可決定を取
り消した原決定は、これに伴つてした各保証金没取の部分を含め、違法または不当
というのほかはなく、本件抗告は結局理由があるから、刑事訴訟法四二六条二項に
より、原決定を取り消したうえ、検察官の本件保釈取消請求を却下することとし、
主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 河村澄夫 裁判官 滝川春雄 裁判官 岡次郎)

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