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平成23年6月9日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
平成22年(行ケ)第10272号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年5月26日
判決
原告株式会社ハイピーテック
同訴訟代理人弁護士橋田健次郎
同弁理士間山進也
佐々木一政
被告株式会社コスモテックス
同訴訟代理人弁護士井坂光明
同弁理士藤野義昭
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2009−800186号事件について平成22年7月12日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係
る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな
いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,
下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件特許(甲12)
発明の名称:モータ制御装置
出願日:平成15年11月17日
登録日:平成18年4月28日
特許番号:第3797998号
(2)審判請求及び本件審決
審判請求日:平成21年8月31日
審決日:平成22年7月12日
審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
原告に対する審決謄本送達日:平成22年7月23日
2本件発明の要旨
本件審決が判断の対象とした発明の要旨は,次のとおりである。以下,請求項ご
とに「本件発明1」ないし「本件発明7」といい,これらを併せて「本件発明」と
いう。また,本件発明の明細書(甲12)を「本件明細書」という。なお,「/」
は,原文における改行箇所であり,請求項1の(A)ないし(H)の分説は,本件
審決において便宜上付与されたものである。
【請求項1】(A)複数のパルス列入力型モータを駆動するため,各パルス列入力
型モータ用の駆動パルスを出力するモータ制御装置であって,/(B)速度指令パ
ルスに基づいて補間処理を行い,前記駆動パルスを生成する補間制御部と,/
(C)補間開始位置から補間終了位置まで,前記速度指令パルスのパルス数をカウ
ントする総パルス数カウント部と,/(D)前記補間制御部によって生成された前
記駆動パルスをモータ制御装置の外部へ出力するか否かを制御するパルス出力制御
部と,/(E)前記総パルス数カウント部のカウント値をモータ制御装置の外部か
ら読み出すためのインターフェース部と/を備えると共に,/(F)動作モードと
して,総パルス数を求めるためのトレースモードと実動作のための通常動作モード
とを有し,/(G)前記パルス出力制御部は,前記トレースモード時には,前記補
間制御部によって生成された前記駆動パルスをモータ制御装置の外部へ出力せず,
前記通常動作モード時には,前記補間制御部によって生成された前記駆動パルスを
モータ制御装置の外部へ出力する/ことを特徴とする(H)モータ制御装置
【請求項2】前記補間終了位置に達したことを検出する終点検出部を更に備え,/
前記総パルス数カウント部は,前記終点検出部が前記補間終了位置を検出するまで,
前記速度指令パルスのパルス数をカウントする/ことを特徴とする請求項1に記載
のモータ制御装置
【請求項3】前記終点検出部は,複数の補間動作が連続して指示された場合,一番
最後の補間動作についての補間終了位置に達したことを検出し,/前記総パルス数
カウント部は,前記終点検出部が前記一番最後の補間動作についての補間終了位置
を検出するまで,前記速度指令パルスのパルス数をカウントすることを特徴とする
請求項2に記載のモータ制御装置
【請求項4】前記補間終了位置に到達したときの前記総パルス数カウント部のカウ
ント値を格納する記憶部を更に備えた/ことを特徴とする請求項1ないし3のいず
れか1項に記載のモータ制御装置
【請求項5】前記記憶部を複数備えた/ことを特徴とする請求項4に記載のモータ
制御装置
【請求項6】前記速度指令パルスを生成するパルス発生部を更に備え,/当該パル
ス発生部は,前記記憶部に格納されたカウント値に基づいて,減速開始位置を自動
検出する/ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のモータ制御装置
【請求項7】請求項1ないし6のいずれか1項に記載のモータ制御装置と,/複数
のパルス列入力型モータと,/前記モータ制御装置が出力する駆動パルスに基づい
て,前記複数のパルス列入力型モータを駆動する複数のモータドライバと/を備え
たことを特徴とするモータ制御システム
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,特許を受けようとする発明が
明確ではないとはいえず(特許法36条6項2号),当業者が実施をすることがで
きる程度に明確かつ十分に記載されたものでないとすることはできず(同条4項1
号),下記アの引用例1に記載の発明(以下「引用発明」という。)に下記イの引用
例2及び下記ウの引用例3の各記載事項を適用しても当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるとすることはできない(同法29条2項)というものである。
ア引用例1:CompactPCIMOTORCONTROLMODULEACP−425,ユーザ
ーズ・マニュアル(平成15年5月9日発行の奥付けがある。甲1)
イ引用例2:特開平9−295247号公報(甲2)
ウ引用例3:4軸補間制御用LSIIPC710取扱説明書(平成13年1
1月付け。甲7)
(2)本件審決が認定した引用発明並びに本件発明1と引用発明との一致点及び
相違点は,次のとおりである。
ア引用発明:複数のステッピングモータを駆動するため,各ステッピングモー
タ用のパルスを出力する高性能4軸モータコントロールボードであって,速度指令
パルスに基づいて補間処理を行い,前記パルスを生成するIPC710と,前記速
度指令パルスのパルス数をカウントするDRIVEPULSECOUNTERと,前記DRIVE
PULSECOUNTERのカウント値を高性能4軸モータコントロールボードの外部から読
み出すためのCompactPCI・インターフェースとを備えると共に,動作モードと
して,補間モードとスルーモードとを有する高性能4軸モータコントロールボード
イ一致点:複数のパルス列入力型モータを駆動するため,各パルス列入力型モ
ータ用の駆動パルスを出力するモータ制御装置であって,速度指令パルスに基づい
て補間処理を行い,前記駆動パルスを生成する補間制御部と,前記速度指令パルス
のパルス数をカウントするパルス数カウント部と,前記パルス数カウント部のカウ
ント値をモータ制御装置の外部から読み出すためのインターフェース部とを備えた
モータ制御装置
ウ相違点1:本件発明1は,パルス数カウント部が,「補間開始位置から補間
終了位置まで,前記速度指令パルスのパルス数をカウントする総パルス数カウント
部」であるのに対し,引用発明は,パルス数カウント部が,「速度指令パルスのパ
ルス数をカウントする」ものの,補間開始位置から補間終了位置までのパルス数を
カウントするか明らかでない点
エ相違点2:本件発明1は,「補間制御部によって生成された駆動パルスをモ
ータ制御装置の外部へ出力するか否かを制御するパルス出力制御部」を有すると共
に,動作モードとして,「総パルス数を求めるためのトレースモードと実動作のた
めの通常動作モードとを有し」,「前記パルス出力制御部は,前記トレースモード時
には,前記補間制御部によって生成された前記駆動パルスをモータ制御装置の外部
へ出力せず,前記通常動作モード時には,前記補間制御部によって生成された前記
駆動パルスをモータ制御装置の外部へ出力する」のに対し,引用発明は,そのよう
なものか明らかでない点
(3)なお,「補間」の意義については,本件明細書に次の記載がある(【000
3】)。
パルス列入力型モータでは,パルス1個あたりの回転角である最小回転角が決ま
っているので,パルス列入力型モータによって制御される移動対象物の移動量は連
続的に変化させることはできず,前記最小回転角で決まる最小移動量が存在する。
したがって,所定の移動経路が与えられた場合であっても,実際は,実現可能な近
似的な経路に置き換えて,移動対象物の移動が行われる。与えられた移動経路に対
して,実現可能な近似的な経路を算出することを補間という。
4取消事由
(1)明確性の要件についての判断の誤り(取消事由1)
(2)実施可能要件についての判断の誤り(取消事由2)
(3)容易想到性についての判断の誤り(取消事由3)
第3当事者の主張
1取消事由1(明確性の要件についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)本件審決は,本件発明1の特許請求の範囲の記載が,トレースモードと通
常動作モードとを切り替える機能手段を明記していないが,モータ制御装置の技術
分野において,例えばその上位制御装置により切り換えるなど,そのモードを切り
替える様々な機能手段については周知の事項であって,当業者が普通に想定し得る
程度のことであるから,本件発明1が,分説(E)で特定されるインターフェース
部を備え,上記周知の機能手段によって切り換えられる分説(F)及び(G)で特
定されるトレースモード及び通常モードを有するモータ制御装置であることが明ら
かであって,分説(E)において,総パルス数カウント部のカウント値をモータ制
御装置の外部から読み出す必要について特定していないからといって,本件発明1
を明確でないとすることはできない旨を説示する。
(2)しかしながら,モータ制御装置がトレースモード及び通常動作モードを有
するためには,次の①ないし⑥の構成が必須であるから,本件発明1の特許請求の
範囲にはこれらが発明特定事項として記載されていなければならない。
①トレースモードの場合に,駆動速度として指定された速度(パルス周波数)
の速度指令パルスを終点検出部が補間終了位置を検出するまで発生し続け,通常動
作モードの場合に,加速時に要したパルス数をカウントし,指定された駆動速度に
達した時点で,トレースモードで得られた総パルス数に基づいて指定された下限速
度で速度指令パルス列のパルス周波数を減少させるための機能手段である「パルス
発生部」に対応する構成
②トレースモード及び通常動作モードのいずれの場合にも,上位CPUが各種
レジスタ群に書き込んだ各種パラメータ等に基づいて,補間制御部がX軸用及びY
軸用の駆動パルスを生成するための機能手段である「補間制御部」に対応する構成
③トレースモード及び通常動作モードのいずれの場合にも,補間終了位置への
到達を検出して,総パルス数カウント部に終点検出信号を出力するための機能手段
である「終点検出部」に対応する構成
④トレースモード及び通常動作モードのいずれの場合にも,パルス発生部によ
って生成された速度指令パルスのパルス数をカウントするための機能手段である
「総パルス数カウント部」に対応する構成
⑤トレースモードの場合に,終点検出信号が入力された時点でのカウント値を
総パルス数カウント値レジスタへセットし,通常動作モードの場合に,終点検出信
号が入力された時点でのカウント値を総パルス数カウント値レジスタへ格納しない
ための機能手段である「総パルス数カウント部」に対応する構成
⑥終点検出信号が入力された時点でのカウント値をセットするための機能手段
である「総パルス数カウント値レジスタ」に対応する構成
(3)しかるところ,本件発明1の特許請求の範囲には,前記①の「パルス発生
部」,前記③の「終点検出部」,前記⑤の「総パルス数カウント部」及び前記⑥の
「総パルス数カウント値レジスタ」を特定する事項がない。
そのため,当業者は,本件発明1の特許請求の範囲の記載からはトレースモード
及び通常動作モードを具備するモータ制御装置を具体的に想定することができず,
そのようなモータ制御装置において,「総パルス数を求めるためのトレースモー
ド」と「実動作のための通常動作モード」とが切換可能に実現されるのかにつき理
解することはできない。また,本件発明1には前記③の「終点検出部」が想定され
ていないから,分説(E)の「総パルス数カウント部のカウント値」がすなわち
「補間開始位置から補間終了位置までの速度指令パルスのパルス数」を意味するこ
とにはならず,そのようなカウント値をモータ制御装置の外部から読み出すことに
どのような技術的意味があるのかを理解できない。そうすると,2つの動作モード
に関連してされる駆動パルスの出力制御を特定する分説(G)の記載の技術的意義
も理解できず,分説(E),(F)及び(G)の技術的関連性が不明確となる。
(4)さらに,本件発明1の特許請求の範囲では,上位制御装置からトレースモ
ード及び通常動作モードのいずれかの動作モードの設定を受けたモータ制御装置が,
直前の動作状態からその余の動作状態にどのようにして,そしてどのような契機に
基づいて切り換わり,また,その切換えがモータ制御装置がその内部に具備するど
のような手段によってされるのかについて読み取ることができない。
(5)したがって,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2
号に違反し,これに反する本件審決の判断は,誤りである。
〔被告の主張〕
特許請求の範囲に発明特定事項としてどのような事項を記載するかは,発明の詳
細な説明に記載された事項の範囲内において(特許法36条6項1号),特許出願
人の判断に委ねられている(同条5項前段)。したがって,原告が勝手に認定した
発明特定事項が特許請求の範囲に記載されていなければならないなどと主張するこ
とは,許されない。
そして,特許法36条6項2号は,特許出願人の判断で選択された発明特定事項
の記載が明確であることを要求するものであり,原告が勝手に認定した発明特定事
項が特許請求の範囲に記載されていないからといって,同号違反が生ずるというこ
とはない。
したがって,原告が勝手に必須の要件として認定した前記①ないし⑥の構成が本
件発明1の発明特定事項としてその特許請求の範囲に記載されていないことをもっ
て同号違反が生じることはなく,原告の主張は,何ら理由がない。
2取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)補間処理の対象となる経路が真円を描くとき,「開始位置座標=終了位置座
標」の関係が成立するため,終点検出部は,補間処理開始時点で終点検出信号を生
成し,総パルスカウント部は,この時点でカウントを停止するから(本件明細書
【0033】),真円経路に関しては,本件発明1のトレースモードによっては総パ
ルス数に対応するカウント値を取得できないことが明らかである。そして,本件明
細書の発明の詳細な説明欄には,この場合に当業者が本件発明1の実施をすること
ができる程度に明確かつ十分な記載がない。
(2)この点について,本件審決は,補間処理の対象となる経路が真円を描く場
合に関して,補間処理開始時点で補間開始位置座標を補間終了位置座標と認識して
しまうと総パルス数がカウントできないことは明らかであって,そのような場合に,
例えば,補間終了位置の検出タイミングを遅らせ,現在位置座標=終了位置座標が
成立しなくなった時点で,補間終了位置の検出を開始するなど,補間開始位置を補
間終了位置と誤認しないように取り扱う程度のことは,当業者が普通に想定し得る
ことにすぎない旨を説示する。
(3)しかしながら,モータ制御装置が補間開始位置座標を補間終了位置座標と
して認識することを回避する処理を実行させる場合には,終点検出のタイミングの
遅らせ方や遅らせる変数の設定に応じて,それぞれ特有の作用効果や課題を生じる
ことも想定されるから,引用例1に記載された方法や一般的ないわゆる特異点回避
方法のみが例示されている状況では,当該回避する処理が周知・慣用的な技術であ
るということはできない。
また,引用発明は,円弧補間指令という特定の動作を行わせるものであり,乙1
「補間機能付き2軸モータコントロールICMCX312取扱説明書」(乙1)
及び「パルスコントロールLSIPCL6045Aユーザーズマニュアル」(乙
2)に記載の技術は,補間演算中に補間終了位置を直接検出するものではないから,
いずれも本件審決が認定するような,補間終了位置の検出のタイミングを遅らせる
技術ではないばかりか,本件発明1は,連続補間の中間では終点検出信号を生成し
ない(本件明細書【0032】)ことから明らかなとおり,補間終了位置の検出の
タイミングを遅らせるような契機を見出せない技術である。
(4)よって,本件審決の前記判断は,特許法36条4項1号の解釈適用を誤っ
ている。
〔被告の主張〕
(1)本件発明1において,補間処理開始時点で,補間開始位置座標を補間終了
位置座標と認識してしまうような場合に,補間開始位置を補間終了位置と誤認しな
いように取り扱う程度のことは,当業者が普通に想定し得ることである。
(2)外部から入力される各種信号に応じて,内部状態を遷移させつつ制御に必
要な各種信号を外部に出力する制御部を設計するに当たって,どのタイミングで
(いかなる内部状態の時に)入力信号を評価し,あるいは制御信号を出力するかは,
実装条件に応じて設計者が適宜選択できることであり,例えば,本件発明1におい
ても,終点検出部がどのタイミングで(いかなる内部状態の時に)補間終了位置に
達したことを検出(判定)し,終了検出信号を出力するかは,終点検出部を含むモ
ータコントロールLSIの設計者が適宜選択できることである。
(3)したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者がその実施をする
ことができる程度に明確かつ十分に記載されており,特許法36条4項1号に適合
する。このことは,本件特許出願当時,円弧補間処理において真円を描くことがで
きるモータ制御装置が一般に存在することからも明らかである(乙1,2)。
3取消事由3(容易想到性についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
(1)一致点の認定の誤りについて
ア平成15年3月1日発行の「トランジスタ技術」誌同年3月号(甲26)に
は,引用発明の対象製品の発売が記載されており,同年6月27日付けの株式会社
アバールデータの有価証券報告書(甲27の1)には,引用発明の開発について記
載されており,日本経済新聞社のインターネット記事(甲3)及び株式会社アバー
ルデータのウェブページ(甲27の2)には,引用発明の出荷が同年3月1日であ
る旨が記載されている。これらによれば,引用例1が同日以降速やかに頒布され,
あるいは遅くとも同年8月2日の時点で電気通信回線を通じて公衆によるアクセス
及び利用が可能となっていたことが,明らかである(甲28∼34,36)。
イ引用発明にいう「補間モード」とは,直線/円弧補間ドライブを行うための
モードであり,補間用パルスジェネレータであるPMC620からの速度指令パル
スを基に引用発明登載の補間制御用LSIであるIPC710(引用例3)が作成
した補間パルスを出力するものである一方,「スルーモード」とは,独立したドラ
イブを行うためのモードであり,補間用パルスジェネレータからの速度指令パルス
をIPC710がスルー(そのまま)で出力するものである。
そして,IPC710が4つの各軸ごとに有するパルス切替回路には,補間用パ
ルスジェネレータからの速度指令パルスと,補間パルスとが入力可能に接続されて
いるところ,引用例3には,IPCによる補間演算は,モードの指定に関わりなく
行われるが,補間パルスの出力は,当該軸が補間モードに指定されている場合のみ
行われる旨が記載されている。
そして,補間演算の実施と補間パルスの出力は,それぞれ独立して設定されるか
ら,引用発明には,補間演算が実行されており,かつ,補間パルスが出力される場
合(補間モード)及び補間演算が実行されておらず,したがって,補間パルスが出
力されない場合(スルーモードの一形態)のほか,やはりスルーモードの一形態と
して,補間演算が実行されており,かつ,補間パルスが出力されない場合(以下
「第3のモード」という。)が存在することになる。
ウ以上のとおり,引用例1及び3の記載に接した当業者は,引用発明登載のI
PC710が第3のモードを有していることを容易に理解可能であり,引用発明は,
本件発明1の分説(D)にいうパルス出力制御部の機能を提供している。したがっ
て,本件審決は,この点において,本件発明1と引用発明との一致点の認定を誤っ
ている。
(2)相違点1の認定の誤りについて
ア本件審決は,引用発明登載のPMC620が備えるDRIVEPULSECOUNTERに
ついて,速度指令パルスのパルス数をカウントするものではあるが,補間開始位置
から補間終了位置までのパルス数をカウントするか明らかでないとして,相違点1
を認定した。
イしかしながら,PMC620は,DRIVEPULSECOUNTERの機能により,速度
指令パルスを停止させるまでその出力パルス数のカウントを続ける。そして,前記
のとおり,補間パルスを出力しないように設定しても補間演算は実行可能であるか
ら(第3のモード),PMC620は,上記機能により補間開始位置から終了位置
までの速度指令パルス数を得ることができる。
したがって,相違点1は,存在せず,本件審決は,相違点1の認定を誤るもので
ある。
ウなお,本件明細書には,終点検出部が終点を検出して終点検出信号を生成し,
総パルス数カウント部を停止させ,総パルス数カウント値レジスタに総パルス数を
格納する旨の記載がある(【0033】)が,この構成は,前記のとおり,本件発明
1の特許請求の範囲に記載がないから,これらの構成を考慮する必要はない。仮に
これを考慮に入れたとしても,LSIなどの技術分野においてはカウント処理の機
能とカウント処理の停止機能とは別個の機能であり,各種のカウント技術及びカウ
ント停止技術が周知慣用技術として存在する(甲20∼22)。したがって,引用
発明のDRIVEPULSECOUNTERについて,制御の目的に応じた終点を設定し,終点の
到来に同期してカウントを停止して同期したカウントを総パルス数カウント値とし
て取得するように総パルスカウント部を構成することは,当業者が容易に想到でき
る。
(3)相違点2についての判断の誤りについて
ア前記のとおり,引用発明には第3のモードが存在し,かつ,相違点1が存在
しないから,本件発明1と引用発明とは,同様の機能手段を有しているといえる。
そのため,相違点2のうち,本件発明1が「総パルス数を求めるための」トレース
モードを有するとの点を除き,本件発明1と引用発明との間に相違点は存在しない。
イそこで,本件発明1の「総パルス数を求めるための」との構成について検討
すると,前記のとおり,本件発明1の特許請求の範囲には,総パルス数を求めるた
めの終点検出部,終点検出信号及び総パルス数カウント値レジスタに関する記載が
ない。したがって,上記構成は,本件特許の出願当時に既に周知の課題(甲20∼
22参照)であった「総パルス数を求める」という課題を単に願望的に記載するに
とどまる。
ウ仮に,「総パルス数を求めるための」との構成の存在を前提としても,引用
発明を第3のモードで動作させながら,引用発明のDRIVEPULSECOUNTERを引用発
明において終点検出が生成するBUSY/INTを使用して停止させる構成や,当時の周
知慣用技術(甲20∼22)を適用して,総パルス数カウント値に相当するカウン
ト値の到来に同期してカウントを停止させる構成とすることは,当業者には何ら困
難なくなし得たことである。
エまた,本件審決は,引用例2に記載の発明がカウントする「U軸送り指令」
が本件発明1の「駆動パルス」に相当し,引用例2には本件発明1の「トレースモ
ード」のごとく「速度指令パルス」をカウントすることについて記載や示唆がない
旨を説示する。
しかしながら,引用例2のゲート回路は,1つの制御信号を有し,1つの入力信
号を2つの出力信号へと振り分ける機能を有するから,マルチプレクサとして構成
される(甲23)。他方,IPC710の各軸のパルス切替回路は,2つの入力信
号から1つの出力信号を生成すればよいから,デマルチプレクサ又はセレクタとし
て構成することができる。そして,マルチプレクサとセレクタ(デマルチプレク
サ)とは,データの送付方向を変えるだけで等価なゲート回路として構成すること
が周知である(甲23,24)から,当業者は,引用発明のパルス切替回路に引用
例2に記載のゲート回路を適用すれば,モータ制御装置の外部にモータ駆動のため
のパルスを出力させず,したがって軸を実動作させることなく,開始位置から終了
位置までを総パルス数にマッピングするためのパルス出力切替回路を容易に想到で
きる。
オしたがって,本件審決は,相違点2についての容易想到性に関する判断を誤
るものである。
(4)本件発明1の作用効果についての判断の誤りについて
ア本件審決は,本件発明1の作用効果について,トレースモードを設けること
で繁雑な計算等をすることなく容易に,総移動量に相当する速度指令パルス数を求
めることができ,また,機械系の動作が行われないため,加減速制御を行う必要が
なく速度パラメータも設定可能な最大値に設定できるので,総パルス数のカウント
に要する時間を短縮できるという,格別の効果を奏するものである旨を説示する。
イしかしながら,モータ駆動制御において移動開始位置から移動終了位置まで
の総パルスカウント数を現在位置に対応付ける技術(本件明細書【0032】)は,
モータ制御技術分野における周知の技術課題である(甲17,18)。
そして,特開平8−190419号公報(甲22)は,2軸補間制御装置の加減
速制御方法を記載しているところ,円弧形状に対応した経路に沿って補間演算部が
生成する補間パルスをORゲートによって総和すること及び補間終了割込信号につ
いて記載しているから,ORゲートで駆動パルスをカウントさせておき,補間割込
信号をORゲートのカウント禁止信号として入力すれば駆動パルスを総和して総パ
ルスカウント値を取得することができることは,明らかである。
さらに,甲22の要旨は,補間演算部や位置制御部として市販の専用LSIを使
用しながら繁雑な計算によってあらかじめ総移動距離を計算する必要を無くすとい
う技術課題を解決するものと認められる。
そうすると,甲22の上記機能によれば,繁雑な計算によってあらかじめ総移動
距離を計算する必要がなく,減速開始位置を容易に決定できるため,「繁雑な計算
等をすることなく容易に,総移動量に相当する速度指令パルス数を求める」という
作用効果は,容易に実現できる。
したがって,本件発明1の作用効果のうち,この点に顕著性は認められない。
ウ次に,シミュレータ用モータ制御インターフェースが現在位置をパルス数と
して計算し,現在位置が要求位置と等しくなった時点でモータを停止させることで,
モータ制御プログラムのデバッグを行う技術(甲25)のほか,NANDゲート列
(甲19)やセレクタ及びマルチプレクサ(引用例2,甲23,24)といった技
術を利用して,引用発明において擬似的にコネクタの接続を外し,上位装置が正常
に動作していてもモータ制御装置を動作させないのと同様の作用効果を得ることは,
当業者であれば予測可能な程度のことであるにすぎない。
したがって,本件発明1の「機械系の動作が行われない」ことによる作用効果に
は,顕著性がない。
エ本件発明1は,①トレースモードのための各種レジスタの設定を行い動作を
開始し,②補間動作の現在位置座標が補間終了位置座標に一致したことを判断し,
③当該一致を契機として終点検出信号によってモータ制御装置の動作クロックに同
期して総パルス数カウント部を停止させ,その時のカウント値を総パルスカウント
値レジスタに格納して総パルス数カウント値を取得し,④補間演算の終了を上位C
PUに通知するものである。
しかし,上記①,②及び④の機能は,引用発明の第3モード(①),終点検出
(②)及びBUSY/INT割込機能(④)として,引用発明が備えるものである。
そして,上記③の機能に必須の構成である終点検出,終点検出信号及び総パルス
数カウント値レジスタの構成については,本件発明1の特許請求の範囲に記載がな
い。むしろ,引用発明のPMC620のDRIVEPULSECOUNTERは,上記③と同一の
効果を奏するものである。
したがって,本件発明1は,モータ制御装置の単独の「物」の作用としてみれば,
引用発明の各機能手段が奏する作用を再認識した程度のものである。
オ本件審決は,本件明細書の記載(【0038】∼【0048】)に基づいて本
件発明1の作用効果を認定しているが,これは,上位CPUが本件発明1のモータ
制御装置を動作させる方法の作用効果であって,モータ制御装置という「物」自体
が奏する特有の作用効果ではない。
カ以上のとおり,本件審決による本件発明1の作用効果の認定には誤りがある。
〔被告の主張〕
(1)一致点の認定の誤りについて
ア引用例1の対象製品(ACP−425)の発売は,平成15年12月22日
であり(乙3),本件特許出願日(同年11月17日)よりも後である。したがっ
て,引用例1は,本件特許出願前に頒布された刊行物ではない。
イ引用例1及び3には,引用発明には補間モードとスルーモードがある旨を記
載するにとどまり,それ以外のモードを読み取るための動機付けとなり得る記載や
これを示唆する記載は,存在しない。したがって,当業者は,引用例1及び3から
第3のモードなるものの存在を読み取ることが実質的に不可能であって,原告の主
張は,本件発明を知った上で引用例1及び3を恣意的に解釈するものである。
なお,当該軸が補間モードに指定されている場合にのみ補間パルスの出力が行わ
れる旨の引用例3の記載は,例えば,補間モードとして設定すべき軸をユーザーが
誤ってスルーモードに設定した場合に,補間ドライブ実行中のように見えながらも
補間パルスが出力されないという状況が発生し得ることをユーザに注意的に告知す
るものであるにすぎない。
(2)相違点1の認定の誤りについて
ア引用例1は,本件発明1の相違点1に係る構成を開示も示唆もしていない。
イなお,本件審決は,相違点1について,引用発明において補間モードを実行
した場合,PMC620から出力される速度指令パルスをDRIVEPULSECOUNTERが
カウントすることとなり,結果として補間開始位置から補間終了位置まで速度指令
パルスのパルス数がカウントされるから,引用発明において補間モードを実行し,
パルス数カウント部(DRIVEPULSECOUNTER)により補間開始位置から補間終了位
置まで速度指令パルスのパルス数をカウントすることを,当業者が容易に想到でき
た旨を説示している。
しかしながら,PMC620は,生成し出力したパルス数を単にカウントするも
のであるから,補間終了位置においてその連続駆動動作を停止させない限り必要な
総パルス数を得ることはできないところ,引用例1には,当該停止をさせるような
構成が何ら記載も示唆もされていない。そして,本件発明よりも前には,機械系の
動作を行わずにモータ制御装置により速度指令パルス出力を一度させることによっ
て移動対象物の総移動量に相当する速度指令パルス数を実際にカウントして求める
という本件発明1におけるトレースモードの技術思想は,全く存在しないのである
から,補間ドライブの際に必要となる出力パルス数を計算によって求めることが前
提となっている引用発明において,当業者は,補間開始位置から補間終了位置まで
の速度指令パルスのパルス数をカウントさせることを容易に想到し得ない。さらに,
原告提出の証拠には,引用発明のDRIVEPULSECOUNTERを停止させる構成について
動機付けとなる記載が何らない以上,引用例1のDRIVEPULSECOUNTERに関する記
載からは,総パルス数カウント値に相当するカウント値の到来に同期してカウント
を停止させる構成を採用することは,当業者であっても容易に想到できるものでは
ない。
また,原告提出の証拠(甲20∼22)は,いずれも,本件発明のようにあらか
じめ分かっていない移動対象物の総移動量に相当する速度指令パルス数を求めるた
め,速度指令パルスのカウントを総パルス数カウント部に行わせるものではない。
以上のとおり,補間開始位置から補間終了位置まで速度指令パルスのパルス数を
あらかじめカウントする本件発明は,当業者が容易に想到し得るものではないから,
本件審決は,相違点1に関する判断を誤っており,仮に原告の主張する他の取消事
由に理由があるとしても,取り消されるべきものではない。
(3)相違点2についての判断の誤りについて
ア本件発明1は,移動対象物の総移動量に相当する速度指令パルス数を容易に
求めることを可能にするモータ制御装置を提供することを目的とするものであり
(本件明細書【0010】),本件発明1のトレースモードとは,移動対象物の移動
開始位置から移動終了位置までの移動量に相当する総パルス数のカウントを行うた
めの動作モードである(本件明細書【0036】)。そして,本件発明1は,トレー
スモードを有するとともに,「補間開始位置から補間終了位置まで,前記速度指令
パルスのパルス数をカウントする総パルス数カウント部」と,「前記総パルス数カ
ウント部のカウント値をモータ制御装置の外部から読み出すためのインターフェー
ス部」とを備えることで,移動対象物を所望の移動経路に沿って移動させるのに必
要な総パルス数を簡単に得ることを可能としているのであって(本件明細書【00
37】∼【0048】【0082】∼【0095】),「総パルス数を求める」ことは,
技術課題を願望的に記載するものなどではない。
イ引用例2に記載のゲート回路は,U軸送り指令手段からの指令をU軸駆動ア
ンプとU軸位置カウント手段のいずれか一方に入力させるようにするものであり,
このような機能は,デマルチプレクサによって実現される一方(乙6),マルチプ
レクサは,複数の入力のいずれか1つを選択して出力するものである(甲23,乙
6)。しかも,デジタル回路においては,データは,入力から出力に向かって一方
方向にのみ流れるから,データの送付方向を変えるだけで等価なゲート回路として
構成することは,周知ではあり得ない。
(4)本件発明1の作用効果についての判断の誤りについて
ア特開平11−309405号公報(甲17)は,パルスモータの脱調検出機
能を備えた基板処理装置に関するものであり,あらかじめ決められた総パルス数と
の関係でポンプ駆動モータの脱調の有無を検出するために,実際に与えられた駆動
パルスの総数をカウントすることが記載されているだけである。また,特開200
0−60185号公報(甲18)は,ステッピングモータにより駆動されるホー
ム・エレベータ・ドアの制御装置に関するもので,記憶装置にドアの全閉位置と全
開位置を記憶させるため,ドアを全閉位置に移動させ,記憶装置にドアが全閉の位
置に対応するパルスを記憶させた後にドアを全開の位置まで移動させてエンコーダ
の出力より得たパルスを記憶装置に記憶させることなどについて記載があるが,ド
アを全閉に移動させる方法,パルスを取得する方法及びドアを全開の位置に移動さ
せる方法等がいずれも不明であるばかりか,そもそも,補間動作を行うものではな
い。
また,甲22は,本件発明と同じく円弧補間の場合に補間終了位置までの総移動
量をあらかじめ求めることが複雑であることを技術課題としているが,これを全く
異なる技術思想によって解決するものである。
以上によれば,原告主張に係る「モータ駆動制御において移動開始位置から移動
終了位置までの総パルスカウント数を現在位置に対応付ける技術」は,その内容が
不明であるばかりか,そのような技術は,モータ制御技術分野における周知の技術
などではない。
イ原告は,「機械系の動作が行われない」ことの作用効果が顕著ではない旨を
主張するが,前記のとおり,引用例1その他の証拠には総パルス数を求めるための
トレースモード時に補間制御部によって生成された駆動パルスをモータ制御装置の
外部に出力させないようにする構成は,何ら記載も示唆もされていないから,原告
の上記主張は,理由がない。
ちなみに,特開平8−147019号公報(甲25)は,モータをソフト的にシ
ュミレートすることで所要の目的を達成するものである一方,本件発明は,同じモ
ータ制御装置を,トレースモードと通常動作とで実際に動作させるものであり,技
術思想が全く異なる。また,特開平5−161394号公報(甲19)のNAND
ゲート列は,マルチプレクサではなくてデマルチプレクサとして機能するものであ
る。
ウ本件発明の作用効果は,本件発明によって初めて得られるものであって,こ
れと同旨の本件審決の認定に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(明確性の要件についての判断の誤り)について
(1)本件発明1の要旨は,前記第2の2の請求項1に記載のとおりであるとこ
ろ,本件明細書には,本件発明について概要次の記載がある。
ア本件発明は,パルスモータ(ステッピングモータ)やパルス列入力型サーボ
モータの制御を行うモータ制御装置に関するものである(【0001】)。
イ数値制御(NC)工作機械や搬送機器等における位置制御には,駆動回路に
入力されるパルス数に応じた回転量が得られるパルス列入力型モータが利用されて
おり,例えば,XY平面上を移動対象物(工具等)を移動させるためには,X軸用
及びY軸用の2個の当該モータが利用されるが(【0002】),当該モータでは,
パルス1個あたりの回転角である最小回転角が決まっており,これにより最小移動
量が決まるので,当該モータによって制御される移動対象物の移動量は,連続的に
変化させることができない。そこで,上記モータに備えられたモータ制御LSIは,
上位CPUからの指示に従ってパルスジェネレーターが発生する速度指令パルスに
基づき,与えられた移動経路に対する実現可能な近似的な経路を算出して(補間又
は補間処理),X軸用駆動パルス及びY軸用駆動パルスをそれぞれ適宜出力する
(【0003】【0004】)。
このようにして移動対象物を移動開始位置から移動終了位置まで移動させる際,
移動開始時及び移動停止時における急激な速度変化による移動対象物への影響を低
減させるため,直線加減速制御等が行われる(【0005】)。しかし,減速開始位
置を求めるためには,移動対象物を移動開始位置から移動終了位置まで移動させる
のに必要な速度指令パルスの総パルス数を求める必要があるところ,その算出には
非常に手間がかかっていた(【0006】【0007】)。
ウ本件発明の目的は,移動対象物の総移動量に相当する速度指令パルス数を容
易に求めることを可能にするモータ制御装置を提供することにある(【0010】)。
すなわち,本件発明は,その請求項に記載された構成により,総パルス数カウント
部が補間開始位置から補間終了位置までの速度指令パルスのパルス数をカウントす
ることで,繁雑な計算をすることなく容易に,総移動量に相当する速度指令パルス
数を求めることができるものである(【0011】∼【0016】)。
エすなわち,本件発明の補間制御部は,本件発明に接続された上位CPUによ
り設定された各種パラメータ(補間開始位置座標,補間終了位置座標,補間動作の
種類等。なお,円弧補間の場合,補間開始位置座標は,(−2000,0)になり,
補間終了位置座標は,(2000,0)になる。)に従って,パルス発生部によって
生成された速度指令パルスに対して所定の補間処理を行い,X軸用及びY軸用の駆
動パルスを生成する(【0020】【0031】【0039】)。本件発明の終点検出
部は,補間制御部から出力される駆動パルスの数をカウントし,その値と上位CP
Uによって設定された補間終了位置座標値とを比較して,補間終了位置に達したか
否かを判定して,終点検出信号を出力するが(【0032】【0045】),総パルス
数カウント部は,速度指令パルスの入力が開始されてから,当該終点検出信号が出
力されるまで速度指令パルスの数をカウントし,そのカウント値を総パルス数カウ
ント値レジスタに設定する(【0033】【0046】)。
オトレースモードとは,移動対象物の移動開始位置から移動終了位置までの移
動量に相当する総パルス数のカウントを行うための動作モードである(【003
6】)ところ,トレースモードにおいては,機械系の動作が行われず,加減速制御
が不要となるので,開始位置から終了位置まで一定の駆動速度で駆動させることで
総パルス数のカウントに要する時間を短縮させることができるばかりか,駆動速度
を実動作時より早くすることも可能となり,総パルス数のカウントに要する時間を
更に短縮させることもできる(【0037】)。
(2)以上を踏まえて,本件発明1の特許請求の範囲の記載の明確性について検
討すると,本件発明1は,「パルス列入力型モータ用の駆動パルスを出力するモー
タ制御装置」である旨が明記されているから,パルスを発生させる構成(パルス発
生部)を具備していることが自明である。
次に,本件発明1の特許請求の範囲には,本件発明1が「補間開始位置から補間
終了位置まで,前記速度指令パルスのパルス数をカウントする総パルス数カウント
部」及び「動作モードとして,総パルス数を求めるためのトレースモード」を備え
ている旨の記載があるものの,当該記載によっては,トレースモードにおいて補間
終了位置までのパルス数をカウントするための具体的な手段については一義的に明
確ではない。そこで,本件明細書の記載を参酌すると,トレースモードとは,移動
対象物の移動開始位置から移動終了位置までの移動量に相当する総パルス数のカウ
ントを行うための動作モードであって(【0036】),終点検出部が終点検出信号
を出力することによって総パルス数をカウントし,そのカウント値を総パルス数カ
ウント値レジスタに設定する構成を有することについて具体的な記載がある(【0
032】【0033】【0045】【0046】)。そして,本件発明1の特許請求の
範囲には,本件発明1が「動作モードとして…実動作のための通常動作モードとを
有し」ている旨の記載があり,かつ,トレースモードの場合と異なり,パルス列入
力型モータが通常動作を行う際に総パルス数カウント値レジスタに総パルス数を格
納する必然性がないことは,技術常識に照らしても自明である。したがって,本件
発明1は,総パルス数をカウントするために終点検出信号を出力する構成(終点検
出部)及び当該カウント値を格納する構成(総パルス数カウント値レジスタ)を備
えていることが明らかであり,通常モードの場合には,カウント値の格納について
特定する必然性がない。
また,本件発明1の特許請求の範囲の「前記総パルス数カウント部のカウント値
をモータ制御装置の外部から読み出すためのインターフェース部とを備える」との
記載から,本件発明1の外部に上位制御装置が接続されることは,明らかであり,
当該特許請求の範囲には,本件発明1が「動作モードとして総パルス数を求めるた
めのトレースモードと実動作のための通常動作モードとを有し」ており,両モード
が駆動パルスを外部へ出力するか否かで相違する旨の記載もあるところ,このよう
なモードの切換えについては,上記上位制御装置を利用することを含めて各種の技
術的手段が存在することは,技術常識に属する。
以上のとおり,本件明細書の記載も参酌すれば,本件発明1の特許請求の範囲の
記載は,所期の課題を解決して本件明細書記載の作用効果を得られることが理解可
能なものであるほか,本件明細書に記載の実施例(【0018】∼【0059】【0
064】∼【0107】)の構成とも矛盾するところは見当たらない。したがって,
上記特許請求の範囲は,本件発明1を明確に記載しており,特許法36条6項2号
に違反するところはないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(3)これに対して,原告は,本件発明1を明確に特定するためには,「パルス発
生部」,総パルス数カウント部に終点検出信号を出力するための「終点検出部」,当
該信号入力時点のカウント値を取り扱う「総パルス数カウント部」及び当該カウン
ト値をセットする「総パルス数カウント値レジスタ」にそれぞれ対応する構成が必
要であるのに,本件発明1の特許請求の範囲には,これらが記載されていない旨を
主張するほか,本件発明1の特許請求の範囲の記載では,トレースモードと通常動
作モードとを切り換えるための契機及び具体的な機能手段について理解できない旨
を主張する。
しかしながら,特許請求の範囲には,出願人が特許を受けようとする発明を特定
するための事項のすべてを記載することとされており(特許法36条5項),出願
人による特許請求の範囲の記載は,それが明確であれば,特許法36条6項2号に
違反することはないところ,前記のとおり,本件明細書の記載も参酌すれば,本件
発明1の特許請求の範囲の記載は,明確であるといえるから,原告主張に係る構成
が特許請求の範囲に具体的に記載されていないからといって,同号に違反するとい
うものではない。
以上のとおり,明確性の要件に関する原告の上記主張は,独自の見解であって,
採用できない。
2取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について
(1)原告は,補間処理の対象となる経路が真円である場合の総パルス数の取得
について,本件明細書には具体的な方法が記載されておらず,当業者がその実施を
することができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張する。
(2)しかしながら,前記1(1)エに記載のとおり,本件発明の補間制御部は,上
位CPUにより設定された各種パラメータ(補間開始位置座標,補間終了位置座標,
補間動作の種類等。なお,円弧補間の場合,補間開始位置座標は,(−2000,
0)になり,補間終了位置座標は,(2000,0)になる。)に従って,パルス発
生部によって生成された速度指令パルスに対して所定の補間処理を行い,X軸用及
びY軸用の駆動パルスを生成するものとされており(本件明細書【0020】【0
031】【0039】),本件発明によって補間開始位置座標と補間終了位置座標と
が一致する図形を描くように移動対象物を移動させる場合であっても,設定された
パラメータに従って移動経路を特定し,これに基づいて補間処理を実施するもので
あることは,技術常識に照らしても明らかである。
(3)したがって,当業者は,本件明細書の前記記載(【0020】【0031】
【0039】)に技術常識を適用することで,真円の円弧補間処理の場合の総パル
ス数を取得することができたものと認められる。
よって,本件明細書は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十
分に記載されていたものというべきであり,これに反する原告の上記主張は,採用
できない。
3取消事由3(容易想到性についての判断の誤り)について
(1)引用例1の公知性について
引用例1は,株式会社アバールデータの商品である4軸補間モーターコントロー
ルモジュールACP−425の取扱説明書(ユーザーズ・マニュアル)であるとこ
ろ,その奥付けには,初版1刷発行日として平成15年(2003年)5月9日と
の記載がある。そして,同社が平成14年12月2日にACP−425の受注を開
始し,平成15年3月1日にこれを出荷予定であるとするインターネット記事(甲
3),同内容を伝える同社のホームページの記載(甲27の2)及び同社がACP
−425の発売を伝える「トランジスタ技術」誌同年3月号の広告(甲26)に加
えて,製品の取扱説明書が製品の販売に近接して不特定多数の利用者に対して頒布
されることは,経験則に照らして明らかであることを併せ考えると,引用例1は,
遅くとも本件特許出願日(平成15年11月17日)前である同年5月ころには頒
布されていたものと認められ,当該認定に反する証拠(乙3)は,これを採用でき
ない。
よって,引用例1は,本件特許出願日前に頒布された刊行物として,公知であっ
たものと認められる。
(2)引用発明について
本件審決が認定した引用発明は,前記第2の3(2)アに記載のとおりであるとこ
ろ,補間制御用LSIとして被告製造に係るIPC710を登載しており,その取
扱説明書である引用例3は,平成13年(2001年)11月現在のものであると
されており,引用例1でも参考文献として記載されているから,本件特許出願日前
に頒布された刊行物である。
そして,引用例1及び3には,概要次の記載がある。
ア引用発明は,高性能4軸モータコントロールボードで,最大4軸までの直線
補間及び任意の2軸の円弧補間制御が行える3UタイプのCompactPCIモジュ
ールであり,その制御対象は,ステッピングモータ及びサーボモータである。
また,IPC710は,1チップで最大4軸までの直線補間及び任意の2軸の円
弧補間制御を行うことができるLSIであり,速度指令パルスを与えることにより,
補間パルスを出力する。
イ引用発明及びIPC710には補間モードとスルーモードの2つのモードが
あり,軸ごとに指定することが可能である。補間モードとは,直線/円弧補間ドラ
イブを行うためのモードであり,補間用パルスジェネレータからの速度指令パルス
を基に作成された補間パルスを出力する。
引用発明のスルーモードとは,PCM620から出力されたパルスをIPC71
0がスルー(そのまま)で出力するものと説明され,IPC710のスルーモード
とは,独立したドライブを行うためのモードであり,各軸ごとに用意されたパルス
ジェネレータからの指令パルスを出力するものと説明されている。
ウIPC710による補間演算は,補間モード/スルーモードの指定にかかわ
りなく行われるが,補間パルスの出力は,当該軸が補間モードに指定されている場
合のみ行われる。
エ引用発明のDRIVEPULSECOUNTERREADコマンドとは,各軸からDRIVE
PULSECOUNTERの値を読み出すコマンドであり,当該DRIVEPULSECOUNTERからは,
ドライブ中の場合,現ドライブにおける現在までの出力パルス数を読み出すことが
できるほか,前回のドライブにおける出力パルス数を読み出すことができ,常時実
行可能である。
オ引用発明は,各象限を45度に区切り,各部における必要パルス数を計算し
て合計することで,円弧補間ドライブ時に必要とされる速度指令パルス数を算出す
るものである。
(3)一致点の認定の誤りについて
ア前記(2)アないしウの記載によれば,引用発明は,直線又は円弧補間ドライ
ブを行うために補間用パルスジェネレータからの速度指令パルスを基にIPC71
0が作成した補間パルスを出力する補間モードと,補間演算とかかわりなく,補間
パルスが出力されずに速度指令パルスがそのまま出力されるスルーモードとの2つ
のモードを各軸ごとに指定することが可能な4軸モータコントロールボードである
といえる。
そして,引用発明に登載されたIPC710は,補間演算を行って補間パルスを
生成するものであるから,本件発明1の補間制御部に相当するところ,引用例1が
参考文献としている引用例3(IPC710の取扱説明書)は,前記(2)ウの記載
により,IPC710がある軸について補間パルスを生成しているにもかかわらず,
当該軸がスルーモードに指定されているために,当該補間パルスが出力されない状
態(第3のモード)があり得ることを開示しているといえる。このように,引用発
明は,IPC710の生成した補間パルスを外部へ出力するか否かを制御すること
が可能であるから,本件発明1が有する「補間制御部によって生成された駆動パル
スをモータ制御装置の外部へ出力するか否かを制御するパルス出力制御部」(分説
(D))との構成を備えているものと認められる。
したがって,この点を一致点として認定しなかった本件審決の判断には,誤りが
あるといわなければならない。
イ以上に対して,被告は,引用例1及び3から第3のモードを読み取ることは
できないし,引用例3の前記(2)ウの記載は,ユーザのモード設定の誤りに対する
注意的な告知にすぎない旨を主張する。
しかしながら,前記(2)ウの記載及びそれが前提とする引用発明の構成に関する
引用例1の記載に照らせば,第3のモードがあり得ることは,当業者が十分に理解
可能であるばかりか,引用例3には,上記(2)ウの記載がユーザに対する注意的な
告知であることを窺わせるに足りる明確な記載がない。
よって,被告の上記主張は,採用できない。
(4)相違点1についての認定の誤りについて
ア本件審決が認定した相違点1は,前記第2の3(2)ウに記載のとおりである
ところ,引用例1は,前記(2)エに記載のとおり,引用発明が発生した速度指令パ
ルスのカウント値を得る機能を有している旨を記載している。
イこの点について,原告は,引用例1には引用発明をスルーモードに設定する
ことで,補間開始位置から終了位置までの速度指令パルス数を得ることができると
の記載がある旨を主張する。
しかしながら,引用発明は,前記のとおり,ステッピングモータ等を制御対象と
する4軸モータコントロールボードであって,引用発明の円弧補間ドライブは,前
記(2)オに記載のとおり,各象限を45度に区切り,各部における必要パルス数を
計算して合計することで,円弧補間ドライブ時に必要とされる速度指令パルス数を
算出することを前提としており,この点を解決すべき技術課題とはしていない。し
かも,引用例1は,その他の部分においても,本件発明1が備える補間開始位置か
ら補間終了位置までの移動量に相当する総パルス数をカウントする機能について何
ら触れるところがない。
このように,引用発明は,本件発明1の,機械系の動作を伴わずに補間開始位置
から終了位置までの移動量に相当する速度指令パルスの総パルス数をカウントする
こと(トレースモード)で繁雑な計算をすることなく容易に総移動量に相当する速
度指令パルス数を求めるという技術思想を想定していないことが明らかである。し
かも,本件特許出願当時において,速度指令パルスに基づいて補間処理を行い,駆
動パルスを生成するモータ制御装置に関して,上記技術思想が当業者に知られてい
たと認めるに足りる証拠はないから,引用例1には,引用発明の有する速度指令パ
ルス数のカウント値を得る機能を利用して,補間開始位置から終了位置までの速度
指令パルス数を得ることを当業者が読み取るに足りるだけの示唆も動機付けも見当
たらない。
ウこのように,引用例1には,本件特許出願当時の技術水準を基礎として,当
業者が特別の思考を要することなく容易にその技術的思想を実施し得る程度に原告
主張に係る技術的思想の内容が開示されているとは到底いい難いから,引用例1が
補間開始位置から終了位置までの速度指令パルス数をカウントする機能について何
ら触れるところがない以上,引用発明は,補間開始位置から終了位置までの当該パ
ルス数をカウントするか明らかでないというほかない。
よって,相違点1を認定した本件審決の判断に誤りはなく,原告の前記主張は,
採用できない。
(5)相違点2についての判断の誤りについて
ア前記(3)アに記載のとおり,引用例1は,「補間制御部によって生成された駆
動パルスをモータ制御装置の外部へ出力するか否かを制御するパルス出力制御部」
の構成(第3のモード)を有するものと認められるから,本件発明1と引用発明と
の相違点2は,本件発明1が,動作モードとして「総パルス数を求めるためのトレ
ースモードと実動作のための通常動作モードとを有」するのに対し,引用発明が,
そのようなものか明らかでない点であるというべきである。
イそこで,引用発明に基づく本件発明1のトレースモードに関する構成の容易
想到性について検討する。
本件発明1にいうトレースモードとは,繁雑な計算等をすることなく,容易に総
移動量に相当する速度指令パルス数を求めることを目的として(本件明細書【00
16】),移動対象物の移動開始位置から移動終了位置までの移動量に相当する総パ
ルス数のカウントを行うための動作モードであるところ(本件明細書【0036】),
引用例1は,前記3(2)オに記載のとおり,引用発明が各象限を45度に区切り,
各部における必要パルス数を計算して合計することで,円弧補間ドライブ時に必要
とされる速度指令パルス数を算出することを前提としており,この点を解決すべき
技術課題とはしていないばかりか,前記3(2)エに記載のとおり,引用発明が
DRIVEPULSECOUNTERREADコマンドにより,発生した速度指令パルスのカウント
値を得る機能を有していることを開示しているものの,それ以上に,補間開始位置
から終了位置までの当該パルス数をカウントすることまでを開示しているとまでは
いえない(相違点1。前記3(4))。
以上によれば,引用発明は,本件発明1の,機械系の動作を伴わずに,補間開始
位置から終了位置までの移動量に相当する速度指令パルスの総パルス数をカウント
すること(トレースモード)で,繁雑な計算をすることなく容易に,総移動量に相
当する速度指令パルス数を求めるという技術思想を想定していないことが明らかで
あり,引用例1には,本件発明のトレースモードに関する構成を想到するに足りる
示唆も動機付けもないというべきである。
また,前記(3)アに記載のとおり,当業者は,引用例3を参照することで,IP
C710の生成した補間パルスを外部へ出力するか否かを制御することが可能であ
ることを理解することができる。しかしながら,引用例3の当該記載部分(前記
(2)ウ)は,IPC710が補間パルスを外部に出力するか否かを制御し得ること
を開示しているのみで,当該制御機能についてはそれ以上の記載が何もないため,
当該制御機能の目的及び用途や,さらにこの点について引用例3が開示しているこ
との趣旨は,いずれも不明であるというほかない。しかも,前記(2)オに記載のと
おり,引用発明は,必要とされる速度指令パルス数を算出することを前提としてお
り,この点を解決すべき技術課題とはしていないから,引用例3の上記記載部分は,
引用発明にこれを適用してIPC710が有する上記機能を速度指令パルスの総パ
ルス数を求めることに用いることについて示唆又は動機付けとするには足りないと
いうほかない。
したがって,引用発明登載のIPC710の取扱説明書である引用例3を参照す
ることで,IPC710の生成した補間パルスを外部へ出力するか否かを制御する
ことが可能であることを当業者が理解したとしても,当業者は,引用発明をスルー
モードに設定し,かつ,その場合に引用発明の有する速度指令パルス数のカウント
値を得る機能を利用して,補間開始位置から終了位置までの速度指令パルス数を得
ることで,本件発明1のトレースモードに関する構成を容易に想到することはでき
なかったというべきである。
ウ以上に対して,原告は,パルス数をカウントする技術が周知であったし,ま
た,引用例2に記載の発明をゲート回路として適用することで,当業者が本件発明
1のトレースモードに関する構成を採用することを容易に想到し得た旨を主張する。
しかしながら,前記(2)オに記載のとおり,引用発明は,必要とされる速度指令
パルス数を算出することを前提としており,トレースモードにより繁雑な計算等を
回避して容易に総パルス数を求めるという本件発明1の技術思想を想定していない
から,パルス数をカウントする技術が周知であり,あるいは仮に引用例2に記載の
発明をゲート回路として適用することが可能であったとしても,引用例1及び2に
接した当業者は,本件発明1のトレースモードに関する構成を容易に想到すること
はできなかったというべきである。
よって,原告の上記主張は,いずれも採用できない。
(6)本件発明1の作用効果についての判断の誤りについて
ア原告は,モータ駆動制御において移動開始位置から移動終了位置までの総パ
ルスカウント数を現在位置に対応付ける技術が周知の技術課題であり(甲17,1
8),繁雑な計算によってあらかじめ総移動距離を計算する必要をなくして減速開
始位置を容易に決定できるという本件発明1の作用効果も格別顕著ではない(甲2
2)旨を主張する。
しかしながら,本件発明1の作用効果が格別顕著でないとした場合に,そのこと
から直ちに本件発明1が容易に想到可能であったといえるか疑問であることは措く
としても,原告が指摘する上記発明は,移動開始位置から移動終了位置までの総パ
ルス数を求めたり(甲17,18),あるいは減速開始位置を決定する(甲22)
に当たり,いずれもモータによって機械系を実際に駆動するものであるから,機械
系を駆動させないことによって総パルス数のカウントに要する時間を短縮するとい
う本件発明の作用効果を期待できないものである。
よって,原告の上記主張は,採用できない。
イ原告は,モータの実動作に生じる課題を解決するために機械系の動作を行わ
ない技術は既に開示されている(甲19,25)から,本件発明1の作用効果には
顕著性がない旨を主張する。
しかしながら,原告が指摘する上記発明は,速度指令パルスに基づいて補間処理
を行い駆動パルスを生成するモータ制御装置において,移動対象物の総移動量に相
応する速度指令パルス数を容易に求めることを課題としたものではなく,これらの
技術課題の異なる発明の作用効果を引用発明に適用することはできない。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして採用できない。
ウ原告は,本件審決が認定する本件発明1の作用効果は,上位CPUの作用効
果であって,モータ制御装置である本件発明1の作用効果ではない旨を主張する。
そこで検討すると,確かに,前記1(1)ウ及びオに記載の本件発明1の作用効果
(本件明細書【0011】∼【0016】【0037】)は,上位CPUが本件発明
1というモータ制御装置を動作させる方法による作用効果であるということもでき
なくはない。しかしながら,上位CPUは,本件発明1のモータ制御装置に対して
直線補間や円弧補間等の所望の動作を指示する一方,駆動パルス自体は,当該指示
に基づいて本件発明1が発生させるものであるから,上記作用効果は,本件発明1
のモータ制御装置を前提として初めて達成できる作用効果である。
したがって,上記作用効果は,本件発明1の作用効果であるということができ,
原告の上記主張は,採用できない。
4小括
以上によれば,本件発明1の特許請求の範囲は,本件発明1を明確に記載したも
のであり,本件明細書は,本件発明1を実施可能な程度に明確かつ十分に記載した
ものである。そして,本件審決には,一致点及び相違点2の一部について認定を誤
る部分があるものの,相違点1の認定に誤りはなく,本件発明1の相違点2に係る
構成のうち,動作モードとしてトレースモードを有する点については,引用例1に
はこれを採用するに足りる示唆も動機付けもないから,当業者は,引用例1に基づ
いて本件発明1を容易に想到することができなかったものというべきである。
そして,本件発明2ないし7は,いずれも,本件発明1に他の構成を付加するも
のであるから,本件発明1が容易に想到できなかったものである以上,当業者は,
本件発明2ないし7についても,これらを容易に想到できなかったものというべき
である。
したがって,本件審判の請求が成り立たないとした本件審決の結論に誤りはない。
5結論
以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官井上泰人
裁判官荒井章光

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