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平成30年11月20日判決言渡
平成27年(行ウ)第429号イラク戦争検証結果報告書不開示処分取消等請求
事件
主文
1本件訴えのうち外務大臣が別紙1文書目録「本目録における番号」欄
記載1の行政文書の不開示部分を開示すべき旨を命ずることを求める請
求に係る部分を却下する。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1外務大臣が,平成27年4月17日付けで原告に対してした別紙1文書目録
「本目録における番号」欄記載1の行政文書(以下「本件文書1」という。)
の一部を不開示とする旨の決定(ただし,平成28年3月30日付け及び平成
29年10月31日付けでそれぞれされた本件文書1の一部を開示する旨の決
定による変更後のもの。以下,特に区別する必要がある場合を除き,上記の各
決定による変更の前後を問わず,「本件処分」という。)を取り消す。
2外務大臣は,原告に対し,本件文書1の不開示部分を開示せよ。
第2事案の概要
1本件は,原告が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報
公開法」という。)に基づいて,外務大臣に対し,アメリカ合衆国(以下「米
国」という。),英国等が,2003年(平成15年)3月,イラクに対して
武力行使をしたこと(以下「対イラク武力行使」という。)を支持するに至っ
た外務省内における当時の検討及び意思決定過程を改めて検証し,今後の政策
立案及び実施に役立てることを目的として,外務省内において実施された検証
(以下「本件検証」という。)に関する行政文書の開示を請求したところ,外
務大臣が,上記行政文書の一部に,情報公開法5条3号又は5号に規定するも
のに該当する情報が記録されていることを理由として,その一部につき開示を
しない旨の処分をしたため,原告が本件処分の取消しを求めるとともに,本件
文書1のうち開示をしないものとされた部分(ただし,平成28年3月30日
付け及び平成29年10月31日付けでそれぞれされた本件文書1の一部を開
示する旨の決定による変更後のもの。以下,特に区別する必要がある場合を除
き,上記の各決定による変更の前後を問わず,総称するときは「本件各不開示
部分」という。)を開示することの義務付けを求めた事案である。
2争いのない事実等(当事者間に争いがないか,又は各項の末尾に掲記した証
拠若しくは弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
(1)対イラク武力行使に至った経緯
アイラクが,1990年(平成2年)8月2日,クウェートに侵攻したこ
とを受け,国際連合安全保障理事会(以下「安保理」という。)は,同日,
イラクに対し,クウェートから即時に撤退することを求めること等を内容
とする決議を採択したが,イラクがこれを受け入れることはなく,クウェ
ートを占領し続けた。安保理は,同年11月29日,1991年(平成3
年)1月15日までにイラクがクウェートから撤退しない場合には,国際
連合(以下「国連」という。)の加盟国があらゆる措置を執ることを容認
すること等を内容とする決議を採択したが,イラクは,同日までにクウェ
ートから撤退しなかった。(以上,甲6,7,乙16)
イ米国を中心とするいわゆる多国籍軍は,1991年(平成3年)1月1
7日,イラクに対する攻撃を開始し,同年2月27日,クウェート市を解
放し,同年3月3日,イラクとクウェート及び多国籍軍の構成国との間で
暫定停戦協定が署名された。その後,安保理は,同年4月3日,イラクが,
化学兵器,生物兵器等の廃棄を国際的監視の下で無条件に受け入れること,
国際機関による実地査察を無条件で合意すること等を停戦の条件とする決
議を採択し,イラクもこれを受諾した。イラクは,一旦は,国際機関によ
る査察を受け入れたものの,1997年(平成9年)頃には,これを拒否
するようになり,1998年(平成10年)頃以降は,国際機関がイラク
で査察を実施することが不可能となった。(以上,甲6,7,乙16)
ウ米国のブッシュ大統領(当時。以下「ブッシュ大統領」という。)は,
2002年(平成14年)1月,いわゆる一般教書演説の中で,イラクを
イラン等とともに「悪の枢軸」として名指しした上で,イラクによるいわ
ゆる大量破壊兵器等の使用の危険性について言及するとともに,米国が安
全を確保するために必要な行動をとる旨を述べた。これを受けて,国連事
務総長は,イラクの外務大臣と査察の再開に向けた対話をしたものの,査
察の再開には至らなかった。
ブッシュ大統領は,同年9月12日,いわゆる国連一般討論演説におい
て,従前のイラクの安保理の決議の不履行を指摘し,安保理を通じた対処
の必要性を強調するとともに,イラクが対応しない際には行動が不可避と
なるであろうなどと発言した。安保理は,同年11月8日,イラクが安保
理の決議に継続的に違反していること,武装解除の義務の履行の最後の機
会であること,30日以内に大量破壊兵器に係る全ての活動についての申
告書を提出すること,義務の継続的違反は重大な結果を招くこと等を内容
とする決議(以下「安保理決議1441」という。)を採択し,イラクも
これを受諾したことから,国際機関による査察が再開されたが,イラクは,
これに消極的な対応をするにとどまった。(以上,甲6ないし8,乙16)
エ2003年(平成15年)1月以降同年3月まで,安保理を中心に,国
連の加盟国がイラクへの対応をめぐって様々な動きを見せ,同年2月5日,
米国のパウエル国務長官(当時。以下「パウエル国務長官」という。)が,
安保理を構成する国に対し,イラクの査察に対する非協力,大量破壊兵器
の隠蔽工作等を示す情報を提示するなどし,これ以上イラクに時間を与え
るべきではないなどの旨を述べるなどした。その後,米国及び英国等の米
国の方針に賛同する国は,同年3月20日,対イラク武力行使をするに至
った。なお,我が国は,同月18日,小泉純一郎内閣総理大臣(当時。以
下「小泉首相」という。)が,いわゆるぶら下がりインタビューにおいて,
米国の方針を支持する旨の発言をし,同月20日,対イラク武力行使が開
始された後,内閣総理大臣記者会見及び内閣総理大臣談話をもって,改め
て対イラク武力行使の支持を表明するとともに,緊急人道支援,周辺国支
援等を含む我が国の措置を発表した。(以上,甲4の2,甲6ないし8,
13,35,乙16)
オ対イラク武力行使により,当時のイラクの政権が崩壊した。そして,国
際機関が,対イラク武力行使の後,イラクにおいて査察を実施したが,当
該査察によっては,イラクが,対イラク武力行使がされた当時に,大量破
壊兵器を隠匿していたとの事実を確認することはできなかった。
(2)本件検証の経緯等
ア対イラク武力行使に加わった各国の一部(米国,英国,オランダ,オー
ストラリア)は,2003年(平成15年)3月から2009年(平成2
1年)6月にかけて,議会又は行政府に設置された委員会において,対イ
ラク武力行使に関する意思決定過程,情報能力等について調査を開始し,
2003年(平成15年)7月から2010年(平成22年)1月にかけ
て,調査報告書(英国において2009年(平成21年)に設置された委
員会(いわゆるチルコット委員会)を除く。)が作成され,その全部又は
一部が公開された(甲12,20ないし27(ただし,枝番のあるものは
枝番を含む。),乙16)。
イ我が国は,平成23年2月,前原誠司外務大臣(当時)が,外務省の職
員に対し,対イラク武力行使に関する我が国の対応についての検証をする
よう指示し,同年9月以降,本格的な検証が開始された(本件検証)。平
成24年12月21日,本件検証に係る報告書(本件文書1)がとりまと
められて玄葉光一郎外務大臣(当時)に報告されるとともに,報告の主な
ポイントについては,外務省のホームページ上で,一般にも公開された。
なお,外務省は,現時点においても,本件文書1を保有している。(以上,
甲4の1・2,乙16)
(3)本件処分等
ア原告は,平成27年1月12日,外務大臣に対し,情報公開法に基づき,
「「対イラク武力行使に関する我が国の対応(検証結果)」報告書全文,検証
実施のために用いられた文書,インタビューの記録」の開示を請求した(甲1)。
イ外務大臣は,平成27年4月17日,別紙1文書目録の「本目録におけ
る番号」欄記載1ないし6の各行政文書(以下,同目録の「本目録におけ
る番号」欄1ないし6に記載された文書について個別に摘示するときは,
「本件文書1」,「本件文書2」などと表記する。)及びその余の13の
各行政文書について,その全部又は一部につき開示をしない旨の処分をし
た。
なお,本件処分を含む上記の処分に係る書面(ただし,平成27年4月
17日付けのもの)において,本件処分の理由として記載されていたとこ
ろは,次のとおりであった。
「公にすることにより,他国との信頼関係を損なうおそれ,又は他国との交
渉上不利益を被るおそれがあるとともに,当該文書は我が国政府部内の協
議の内容に関する記録であって,公にすることにより政府部内の率直な意
見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるため,不
開示としました。」
情報公開法5条3号,5号該当(以上,甲2)
(4)本件処分に対する不服申立て等
ア原告は,平成27年5月14日,外務大臣に対し,前記⑶イの処分のう
ち外務省が使用する電信システムの内部の処理・管理に係る情報,公表慣
行のない外務省職員の電話番号及び個人に関する情報に該当する部分を除
く不開示に係る処分についての異議申立てをした(乙1)。
イ外務大臣は,前記アの異議申立てを受け,平成28年3月30日,前記
⑶イの処分の一部を変更する旨の決定をした(乙3)。
ウ外務大臣は,平成28年6月30日,本件文書2,3及び6の一部を開
示する旨の前記⑶イの処分の一部を変更する旨の決定を,同年9月30日,
本件文書4及び5の一部を開示する旨の前記⑶イの処分の一部を変更する
旨の決定を,それぞれした(乙5,9)。
エ外務大臣は,平成29年10月31日,本件文書1の一部を開示する旨
の本件処分を変更する旨の決定をした(乙15)。
(5)本件訴えの提起及びその後の経緯等
ア原告は,平成27年7月16日,本件訴えを提起した。
イ原告は,平成28年12月21日,本件第6回口頭弁論期日において,
本件訴えのうち本件文書4に関する処分の取消し及び本件文書4の不開示
部分の開示の義務付けをそれぞれ求める部分を取り下げ,被告は,同月2
7日,これに同意した。
ウ原告は,平成29年3月18日,本件訴えのうち本件文書2,3,5及
び6に関する各処分の取消し及び本件文書2,3,5及び6の各不開示部
分の開示の義務付けをそれぞれ求める部分を取り下げ,被告は,同月31
日,これに同意した。
第3争点及び争点に関する当事者の主張の要点
1本件各不開示部分を開示することの義務付けについて(本案前の争点及び本
案の争点3)
(原告の主張の要点)
行政事件訴訟法3条6項2号は,行政庁に対し一定の処分を求める旨の法令
に基づく申請がされた場合において,当該行政庁がその処分をすべきであるに
もかかわらずこれがされないときに,行政庁がその処分をすべき旨を命ずるこ
とを求めることができる旨定めている。そして,同法37条の3第1項2号及
び5項は,当該法令に基づく申請を棄却する旨の処分がされた場合において,
当該処分が取り消されるべきものである場合に,請求に理由があると認められ,
行政庁が当該行政処分をすべきであることが根拠法令上明らかであると認めら
れる場合には,当該処分の義務付けが認められる旨定めている。
本件においては,後記2以下で述べるとおり,本件各不開示部分に記録され
た情報はいずれも不開示情報(情報公開法5条柱書きにいう「不開示情報」の
こと。以下同じ。)に該当しないから,本件処分は取り消されるべきものであ
る。また,本件処分の根拠となっている情報公開法は,行政庁に対し,行政文
書に記録された情報が不開示情報に該当しない場合は,原則として当該文書の
開示を義務付けているところ,本件文書1に記録された情報は不開示情報に該
当しないから,外務大臣は,原則どおり本件文書1を開示する義務を負う。そ
して,当該開示の義務の内容は一義的に明白である上,判例(最高裁平成30
年1月19日第二小法廷判決・裁判集民事258号)も,情報公開法5条3号
の不開示情報に該当しないとした情報に係る開示決定の義務付けを認容すべき
ものと判断しており,被告の主張とは異なる立場に立っていることが明らかで
ある。
よって,外務大臣に本件各不開示部分の開示を義務付けることが認められる
べきである。
(被告の主張の要点)
(1)義務付けの訴えが不適法であること
本件訴えのうち前記第1の2の請求に係る部分は,行政事件訴訟法3条6
項2号に定めるいわゆる申請型義務付け訴訟と解されるところ,申請型義務
付け訴訟のうち,「当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却す
る旨の処分又は裁決がされた場合」の類型については,当該処分又は裁決が
「取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在である」ときに限
り,提起することができるとされている(同法37条の3第1項2号)から,
併合提起した処分又は裁決の取消請求又は無効等確認請求(同条3項2号)
が認容されることが訴訟要件である。しかし,後記2以下で述べるとおり,
本件処分は適法であり,取り消されるべきものに当たらないから,上記義務
付けの訴えは,同条1項2号の要件を欠くものであり,不適法なものとして
却下されるべきである。
(2)仮に義務付けの訴えが適法であるとしても同訴えが棄却されるべきもの
であること
本件訴えのうち前記第1の2の請求に係る部分については,行政庁がその
処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用
と認められることが義務付けの訴えを認容するための本案の要件として必要
となるところ,本件について,外務大臣が判断の基礎とすべきではない事情
を考慮したため,又はある事実に対する評価が明白に誤っているために外務
大臣が著しく妥当性を欠く判断をした旨の認定がされたとしても,当該事情
又は事実に対する評価を除外して判断した場合,最終的にどのような判断を
すべきかという点については,外務大臣にはなお第一次的判断権が留保され
ているというべきであり,このような判断については,外交関係についての
権限及び責任を有する外務大臣の判断が尊重される必要がある。このことは,
情報公開法5条3号が,国の安全又は他国との交渉に関する行政庁の長の第
一次的判断権を尊重している趣旨からもうかがわれる。
2情報公開法5条3号,5号及び6号該当性の審査方法及び立証責任の所在等
(本案の争点1)
(原告の主張の要点)
(1)情報公開法における開示の基本的枠組み
情報公開法の制定時に策定された「情報公開法要綱案の考え方」等におい
ては,行政機関の保有する情報を広く公開することは,民主主義や憲法の基
礎である国民主権の理念にのっとった国政運営を一層実質的なものとする上
で極めて重要な公益性を有することから,その重要性に照らし,行政文書は
飽くまでも開示することが原則であって,この開示は行政機関の長の義務で
あるとする基本的枠組みが採用されている。この点は,情報公開法1条に反
映されているほか,情報公開法5条柱書きも,「行政機関の長は,開示請求
があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(中略)
のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書
を開示しなければならない」と規定し,上記の基本的な枠組みを具体化して
いるのであり,同条の一部である3号,5号及び6号もその例外ではない。
(2)情報公開法5条3号,5号及び6号の解釈
ア情報公開法に基づく開示請求権は,法律上の重要な権利である上,同法
5条3号は,濫用されやすいものである旨の指摘や,同号の規定が行政機
関の恣意的な運用を許容するものではない旨の情報公開法の立法過程にお
ける政府委員(当時)の答弁もあることから,同号にいう「おそれ」の判
断に当たっては,単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然
性が求められるというべきであり,同号にいう「相当の理由」についても,
行政文書を開示することによる利益又は公益性を十分考慮する必要がある
ほか,行政機関の長が上記のおそれがあると認めるにつき,法規の目的に
従って所定の権限を適法に行使すべきものとしての限定を付する趣旨で要
件を付加したものであると解するのが相当である。
そうすると,行政機関の長が同号所定の不開示情報に該当すると判断を
して不開示処分をした場合において,当該処分の取消訴訟が提起されたと
きは,行政機関の長は,当該判断の公正妥当を担保するに足りる可能な限
り具体的な事実関係に基づく合理的な根拠を示すことに加え,不開示とす
ることの利益が行政文書を開示することによる公益性を上回ることについ
ても合理的な根拠を示すことを要するものと解するのが相当である。そし
て,裁判所は,上記の事実関係をしんしゃくして上記の場合に該当するか
どうかを判断すべきものであり,その判断は,外務大臣の判断が全く事実
の基礎を欠いているかどうか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠
いているかどうかなどに限定されるものではないというべきである。その
上で,裁判所は,不開示部分にどのような情報が記載されているかを相当
具体的に特定した上で,不開示部分の情報が開示された場合の不利益を具
体的に検討し,裁判所自身の立場において不利益が生ずる蓋然性の判断を
し,その論理的帰結として,行政機関の長による判断の相当性も判断する
という枠組みを採用すべきである。
なお,上記のような見解に沿う裁判例(東京高裁平成26年7月25日
判決・裁判所HP)も存する。
イ情報公開法5条5号は,開示請求の対象となる行政文書の中には,行政
機関等としての最終的な決定前の事項に関する情報が少なからず含まれる
ことになるため,これらの情報を開示することによって,外部からの干渉,
圧力等によりその率直な意見の交換,意思決定の中立性が損なわれたり,
未成熟な情報が確定的情報と誤解され国民の間に混乱を生じさせたりする
ことのないようにする必要がある一方,国民の的確な理解と批判の下にあ
る公正で民主的な行政の推進という情報公開法の目的に照らせば,最終的
な意思決定がされる前に情報を開示することが必要なことが少なくないた
め,審議,検討又は協議に関する情報の公開に際しては,政府の説明責任
の観点から開示することによる利益と,開示によって適正な意思決定等に
もたらされる支障とを比較衡量する必要があるとしたものである。そして,
同号の規定するそれぞれの支障について「不当に」という文言が付加され,
行政文書の情報の性質により,個別具体的な判断に基づき,行政機関の適
正な意思決定に支障を及ぼすおそれの有無及び程度と開示の利益を比較衡
量し,不開示とされる情報の範囲が必要な場合を超えて広がらないように
配慮している。
したがって,同号にいう「不当に」とは,審議,検討等途中の段階の情
報を公にすることの公益性を考慮してもなお,適正な意思決定の確保等へ
の支障が看過し得ない程度のものを意味し,同号にいう「おそれ」も,単
なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が求められるとい
うべきである。
ウ情報公開法5条6号は,行政機関の長に広範な裁量権を与える趣旨では
なく,各要件の該当性を客観的に判断する必要があり,また,事務又は事
業がその根拠となる規定又は趣旨に照らし,公益的な開示の必要性等の
種々の利益を衡量した上での「適正な遂行」といえるものであることが求
められ,「支障」の程度は名目的なものでは足りず,実質的なものが要求
され,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値
する蓋然性が要求されるというべきである。なお,上記のような見解に沿
う裁判例も複数存する。
(3)被告の主張が誤っていること
ア被告は,判例(最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7
号1223頁。以下「最高裁昭和53年判決」という。)を引用し,情報
公開法5条3号にいう「おそれ」があると「認めることにつき相当の理由
がある」との文言について,上記の判例と同様に解し,行政機関の長に広
い裁量を認めるべきである旨主張する。
しかし,最高裁昭和53年判決は,当該事案で採用された基準が直ちに
他の処分に適用されるわけではないことを明確にしている上,憲法を含む
法令上保障されていない権利である外国人の入国の権利や在留する権利に
関して判断したものであり,かつ,出入国管理及び難民認定法(以下「入
管法」という。)上も,在留期間の更新の事由の有無に係る判断基準が特
に定められていないばかりか,更新を認める場合が例外となるように規定
されているのに対し,本件で問題となる情報公開法に基づく開示請求権は,
法律上の重要な権利であり,情報公開法上も情報の公開の要否に係る判断
要素が具体的に規定されているだけではなく,そもそも,開示が認められ
ることが原則であり,同法5条3号に該当することにより開示が制限され
るのが例外と位置付けられているのである。
このように,最高裁昭和53年判決の事案と本件とでは,対象となる事
柄,行政機関の判断の結果制約を受ける事柄の権利性の有無,条文の規定
ぶりなどが全く異なっているから,最高裁昭和53年判決の判断基準をそ
のまま本件に当てはめて行政機関の長に対していわゆる白紙委任に近い広
範な裁量権が認められているということはできない。
イ被告は,情報公開法5条3号が入管法21条3項の文言を参考にして立
法されたものであり,旅券法(平成17年法律第55号による改正前のも
の)13条1項5号の規定ぶりとは異なっているから,同号の規定を参考
にして情報公開法5条3号を解釈することはできない旨主張する。
しかし,どの法令と同様に考えるべきかを検討するに当たって重要なこ
とは,法が処分を行政庁の裁量に任せる趣旨,目的及び範囲を処分ごとに
検討する視点であり,その際に重視すべきことは,行政庁の処分によって
制約される権利又は事項が何かということであるところ,被告が参酌すべ
きとする入管法の場合に行政庁の処分により制約されるのは,憲法上ない
し法律上の権利ではないとされる外国人の日本への入国の自由ないし在留
の問題であるのに対し,被告が参酌すべきでないとする旅券法の場合に制
約されるのは憲法が国民に保障する基本的人権の一つである外国旅行の自
由であり,情報公開法に基づく開示請求権が法律上の重要な権利である以
上,制約される権利の重要性が旅券法の場合と共通することに着目するこ
とは適切である。また,情報公開法と旅券法との規定の文言の違いについ
ても,行政機関の長が裁量権を行使するに当たってどのようなおそれがあ
るかを判断するという判断基準を法定していることは共通しており,修飾
語の有無というレベルの違いがあるにすぎない。
以上に加え,前記アに主張したところも考慮すれば,情報公開法5条3
号の文言が入管法21条3項の文言を参考に立法されたという被告の主張
は,失当である。
ウ被告は,不開示情報該当性の判断に至る過程で行政機関の長が行った各
段階における当該行政機関の長の裁量権の行使に逸脱又は濫用があったこ
とを基礎付ける具体的事実について,原告がその主張立証責任を負う旨主
張する。
しかし,被告の主張は,行政文書にいかなる情報が記載されているかを
知らない情報開示請求者に不可能を強いるものであるし,被告自身,被告
が不開示情報に該当するとの認定の概略を明らかにする必要があることを
認めていることにも照らすと,被告の主張は,行政機関による恣意的な運
用を許容する結果を招くだけであって,失当である。
(被告の主張の要点)
(1)情報公開請求訴訟における審理及び判断の手法
情報公開請求訴訟は,被告の主張に係る不開示情報を公にすることにより
どのような支障が生ずるかについて,当該不開示決定に係る行政文書の具体
的記載文言等が明らかにされることなく,そこにいかなる種類又は性質の情
報が記載されているかという一般的又は抽象的観点から主張立証がされ,か
つ,裁判所もこれを経験則に基づき判断せざるを得ないという他の取消訴訟
とは大きく異なった特質がある。また,ある情報を公にすると支障が生ずる
かどうか,いかなる支障が生ずるかという判断は,当該情報が不特定多数の
人又は団体に取得され,利用されることを想定した一般的又は抽象的判断と
ならざるを得ず,かつ,それをもって足りるというべきである。
このように,情報公開請求訴訟において採用されるべき審理及び判断の手
法は,当該行政文書に類型的にいかなる情報が記載されているかという前提
となる事実関係から,当該行政文書の不開示部分にどのような情報が記載さ
れているか,あるいは,それを公開した場合に,一般的にはどのような支障
が生じ得るかについて,必ずしも具体的な証拠や事実に基づいてではなく,
上記の前提事実から経験則に基づいて認定及び判断するというものであるか
ら,情報公開請求訴訟においては,当該不開示決定に係る行政文書に記載さ
れた具体的な情報の内容が明らかにされてはならないだけではなく,それが
公にされた場合に生じる支障の蓋然性は,それ自体が証拠に基づいて直接的
及び具体的に証明されることまでは要求されていないと解され,被告が不開
示情報に該当するとする情報の類型的な性質を明らかにすることなどにより,
そのような情報が公にされた場合,経験則上,支障が生ずるおそれがあるこ
とを判断することが可能な程度の主張立証をすれば,不開示情報該当性は肯
定されるというべきである。
(2)情報公開法5条3号,5号及び6号の意義等
ア情報公開法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるお
それ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若
しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認
めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として定める。これ
は,これらの情報が,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質
上,開示又は不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと,我が国の安全
保障上又は対外関係上の将来予測としての専門的及び技術的判断を要する
ことなどの特殊性が認められることによるものであり,これらに係る司法
審査においては,裁判所は,同号に規定する情報に該当するかどうかにつ
いての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つ
判断として許容される限度内のものであるかどうかを審理及び判断するこ
とが適当であることによるものである。
このように,同号は,同号該当性に関して行政機関の長がした判断につ
いて広い裁量権を認めた趣旨の規定であることから,当該行政機関の長の
判断に違法があるかどうかについては,裁判所は,同号の該当性,すなわ
ち,「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国
際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交
渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の
理由がある情報」に該当するか否かを認定するためにした前提事実の認定,
それらの認定事実に係る不開示情報の要件の当てはめ及びその充足性を判
断して不開示情報に該当するとの認定をしたことに係る行政機関の長の第
一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つ判断として許容される限
度内のものであるかどうかを審理の対象とし,これについて判断すること
になる。このことは,同号の「認めることにつき相当の理由がある」との
文言が,入管法21条3項の「法務大臣は,(中略)在留期間の更新を適
当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り,これを許可することが
できる」との文言を参考にして立法されたものであることや,最高裁昭和
53年判決が,在留期間の更新を認めるに足りる相当の理由があるか否か
の判断が法務大臣の広い裁量に委ねられることを前提に,その判断の基礎
とされた重要な事実に誤認があること等により上記の判断が全く事実の基
礎を欠くかどうか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等に
より上記の判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかで
あるかどうかについて審理し,それが認められる場合に限り,上記の判断
が裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法であるとする
ことができるものと解するのが相当であるとしていることからも裏付けら
れる。
そして,上記のとおり,情報公開法5条3号は同号の該当性に関して行
政機関の長がした判断について広い裁量権を認めた趣旨の規定であるから,
不開示情報の該当性の判断に至る過程で行政機関の長が行った各段階にお
ける当該行政機関の長の裁量権の行使に逸脱又は濫用があったことを基礎
付ける具体的事実については,原告が主張立証責任を負うものと解すべき
である。なお,被告は,行政機関の長が認定した前提事実の内容,当該認
定事実の同号の要件への当てはめ及びその判断に基づく当該不開示情報に
該当するとの認定の概略を明らかにすることになるが,これは,被告が主
張立証責任を負うことに由来するのではなく,前記(1)のような情報公開請
求訴訟の特質により,原告の立証の必要のためにその前提となるべき事項
を被告が指摘するものにすぎない。
イ情報公開法5条5号は,「国の機関(中略)の内部又は相互間における
審議,検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,率直な
意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,不当に
国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若し
くは不利益を及ぼすおそれがあるもの」を不開示情報として定める。これ
は,開示請求の対象となる行政文書の中には,行政機関等としての最終的
な決定前の事項に関する情報が少なからず含まれることになるため,これ
らの情報を開示することによってその意思決定が損なわれるおそれがある
が,意思決定前の情報を全て不開示とすることは,政府がその諸活動を説
明する責務を全うするという観点からは適当ではないため,個別具体的に,
開示することによって行政機関の適正な意思決定に支障を及ぼすおそれの
有無及び程度を考慮し,不開示とされる情報の範囲を画したものである。
そして,同号にいう「審議,検討又は協議に関する情報」とは,国の機
関等の事務及び事業について意思決定が行われる場合に,その決定に至る
までの過程においては,様々な審議,検討及び協議が行われており,これ
ら各段階において行われる審議,検討又は協議に関連して作成され,又は
取得された情報をいい,同号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれ」は,適正な意思決定手続の確保を保
護法益とするものであり,「不当に」とは,審議,検討等途中の段階の情
報を公にすることの公益性を考慮してもなお,適正な意思決定の確保等へ
の支障が看過し得ない程度のものを意味している。予想される支障が「不
当」なものかどうかの判断は,当該情報の性質に照らし,公にすることに
よる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断される
べきものである。
ウ情報公開法5条6号の柱書きは,「国の機関,独立行政法人等,地方公
共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって,
公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,
当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を不開
示情報と規定している。国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業は
広範かつ多種多様であり,公にすることによりその適正な遂行に支障を及
ぼすおそれがある事務又は事業の情報を事項的に全て列挙することは技術
的に困難であり,かつ,実益も乏しいことから,同号は,そのようなもの
を例示的に掲げた上で(同号イないしホ),これらのおそれ以外について
は,「その他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行
に支障を及ぼすおそれがあるもの」として包括的に規定したものである。
(3)原告の主張に対する反論
原告は,被告がその判断の公正妥当を担保するに足りる可能な限り具体的
な事実関係に基づく合理的な根拠を示すことを要すると解すべきである旨主
張する。
しかし,情報公開法5条3号は,我が国の安全,他国等との信頼関係及び
我が国の国際交渉上の利益を確保することは,国民全体の基本的な利益を擁
護するために政府に課された重要な責務であって,これらの利益を十分に保
護する必要から設けられた規定であり,前記⑵アのとおり,同号に規定され
た情報は,一般の行政運営に関する情報とは異なる特殊性が認められるもの
であることから,行政庁の長がした判断について広く裁量権を認めた趣旨の
ものであって,このことは,同号の規定ぶり(「…おそれがあると行政機関
の長が認めることにつき相当の理由がある情報」)が同条の他の号の規定ぶ
り(「…おそれがあるもの」)と異なっていることからも明らかである。原
告が指摘する裁判例は,原告の上記の主張に沿うような判示をした根拠とし
て,旅券法(平成17年法律第55号による改正前のもの)13条1項5号
の解釈に関する判例(最高裁昭和44年7月11日第二小法廷判決・民集2
3巻8号1470頁)を挙げるが,同号の規定ぶりと情報公開法5条3号の
規定ぶりは「著しく直接に」という限定の有無の点で異なっているから,こ
れらの規定を同列に論ずることは適切ではなく,旅券法(平成17年法律第
55号による改正前のもの)13条1項5号の規定を参考にして情報公開法
5条3号の規定を解釈することはできないというべきである。
したがって,原告の主張は,失当である。
3本件各不開示部分の不開示情報該当性について(本案の争点2)
(1)本件各不開示部分の不開示情報該当性に関する総論的な主張
(原告の主張の要点)
次に述べるところに照らすと,本件各不開示部分が情報公開法5条各号に
規定する事由に該当する旨の外務大臣の判断は,違法である。
ア情報公開法は,行政文書の公開を通じて政府が説明責任を果たすことに
より,記録及び文書という証拠的記録に基づいた施策を行うことを通じて
民主的政府を確立していくことを重視し,原則として全ての行政文書を公
開すべきとの枠組みを採用したものであり,安全保障及び外交分野に関連
する文書もその例外ではない。
本件文書1に記載されている情報は,対イラク武力行使に関する検証に
係るものである。対イラク武力行使は,安保理決議1441がイラクに対
する武力行使を容認する趣旨を含むことについて安保理においても見解が
分かれる中,大量破壊兵器がないことを証明することができなかったイラ
クに問題があるとして,新たな安保理決議を経ることなく行われたもので
あるところ,日本もこれを積極的に支持するという安全保障及び外交政策
上極めて重大な判断をしたものである。しかし,対イラク武力行使が終わ
った後も,イラク国内において大量破壊兵器は見つからず,大量破壊兵器
の使用やそのテロリストへの拡散の脅威の防止という対イラク武力行使を
正当化する目的がそもそも成立していなかったことが明らかとなった反面,
当時のイラクの政権が崩壊したほか,戦闘が継続した期間やその後の治安
が悪化した期間を含め,多数のイラク国民が死亡する結果となった。
日本が対イラク武力行使を支持するに至る過程及びその後の復興支援,
イラク情勢を含む国際情勢並びに対外関係の検証を行うことは,民主的か
つ責任ある安全保障及び外交上の政策判断をしていくために不可欠である。
また,このような検証を公表し,批判を受けることで,より建設的な安全
保障及び外交上の議論が社会的に起こることが本質的な公益にも資する。
しかも,日本にとっての対イラク武力行使は,安保理決議のない武力行使
を支持しただけではなく,戦闘がいったん収束した後に,イラクにおける
人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法を制定
し,内戦状態が継続していたといわれているイラクに非戦闘地域という概
念を用いて復興支援として自衛隊を派遣するなど,従来の安全保障及び外
交政策から踏み込んだ判断をしてきたという重要な意味を持つものであり,
その検証は極めて公益性が高く,検証結果及び検証の過程は,外務省が安
全保障及び外交政策上の説明責任を社会に対してどの程度果たせるのかと
いう民主的運営を行う能力を示すものでもあって,公開することの公益性
が極めて高い。そして,本件文書1の公開は,安全保障及び外交分野の政
策判断が,無謬的な非公開性や機密性を前提とするのではなく,より民主
的なプロセスを経るために公益性の観点から政府の説明責任及び情報公開
のあり方が問われるものとなるという意味においても,公益性が高い。
イ被告の主張は,総じて事実主張が十分ではなく,開示できない理由,根
拠がきわめて抽象的である。具体的には,次のような点を指摘することが
できる。
(ア)被告は,「関係国」及び「他国」を具体的に述べることは不可能で
ある旨主張するが,これは,どの国であっても「関係国」及び「他国」
になり得るというきわめて抽象的なものである。また,「類似の事案」
についても,「いずれかの国が武力行使を行う場合であって,我が国と
しての立場及び政策を定める必要を生じさせる程度,我が国としての立
場及び政策を定めるに当たっての考慮事項等について,対イラク武力行
使の場合と一定程度の類似性が認められる事案」とするにとどまってお
り,被告の指摘する指標は曖昧である上,いずれかの国が武力行使に及
んでいる状況は世界のどこかでほぼ常時見られることであるし,日本と
して何らかの立場及び政策を定める必要がある類似の事案も多数存在す
るといえるから,「類似の事案」を広く一般化しすぎている。
(イ)被告は,情報公開法5条5号に該当する旨の主張において,具体的
な事情を指摘することなく,「公にしないことを前提とした外務省内で
の率直な意見交換に基づき記載されたもの」,「将来的に類似の事案が
発生した場合」という全く同じ主張を何度も繰り返しているところ,不
開示部分の記載内容が異なるのに同じ理由しか挙げられないこと自体,
理由が抽象的であって具体的な内実がなく,不開示を正当化する十分な
根拠がないことを意味している。
(ウ)被告は,本件文書1が非公開を前提として作成されたものである旨
主張する。
しかし,文書の作成時や入手時に非公開を前提としたからといって,
情報公開請求に対する判断において,直ちに不開示が正当化されるもの
ではない。このことは,情報公開法の立法経緯や規定の文言(情報公開
法5条2号ロ,5号,6号)からも明らかである。また,公文書管理法
1条,4条に照らせば,公文書の作成は,行政機関の内部的な都合や基
準だけに基づいて行われるものではなく,現在及び将来の国民が行政機
関の諸活動の内容を検証できるようにするという目的にかなうように行
われるものであり,外務省の担当者の意図と不開示という判断を直接結
び付けることが許されるわけではない。そして,被告は,非公開を前提
としていたと認める具体的な根拠を何ら指摘せず,本件検証の目的を持
ち出した反論しかしていないことからも,本件文書1が非公開を前提と
したものであると認める根拠がないことがうかがわれる。なお,被告は,
将来予定されている同種の審議,検討等に係る意思決定に不当な影響を
与えるおそれがある場合にはなお情報公開法5条5号の該当性を満たす
ものとされている,同条6号が行政機関自身が職務として行う検証の結
果を記載した文書を不開示の対象とする文書から除外していないなどの
旨も主張するが,本件文書1が特殊な事案を検証したものであって同種
の事態を想定し難いことや,本件文書1を公にすることによって将来の
別の事案に関する検証の意思決定に不当な影響を与えるおそれを具体的
に想定し難いことに加え,そもそも,同条6号に関する主張は,条文の
構造とは関係がなく具体的な意味を持っていない。
したがって,被告の主張は,失当である。
(エ)外務大臣は,本件処分をした段階においては,情報公開法5条3号
にいう「国の安全が害されるおそれ」を不開示の理由として挙げず,ま
た,同条6号に該当するという理由も挙げていなかったが,被告は,本
件訴えにおいては,上記の理由を追加的に主張している。このことは,
決定をした当時に行政機関が不開示の事由としなかった事情を後に持ち
出したものであって,そのことに説得力があるはずはなく,それ自体被
告の主張に合理性が乏しいことを示すものである。
(オ)外務大臣は,平成29年10月31日付けの決定により,開示部分
を変更しているが,同決定により開示されたのは,公知の事実といって
もよい客観的に知られた事実や一般的な記述のみであったところ,これ
らの事実について,被告は,従前,間接的で因果関係の存否も疑わしい
理由を連ねていたものであるから,他の部分についても,不開示を維持
すべき理由がないことをうかがわせるものといえる。被告は,少なくと
も,開示部分を変更した理由やなお不開示を維持すべき部分がある理由
について,具体的に説明すべきである。
ウ(ア)対イラク武力行使について検証を行った諸外国においても,例えば,
オランダは,調査結果として551頁にわたる報告書を公表し,その中
には,政治的な意思決定の経過や与党が行った連立協議が意思決定に及
ぼした影響,オランダの情報機関の役割等,政策の経緯が詳細に記録さ
れているし,英国も,2016年(平成28年)7月6日,アルファベ
ットで260万字にも及ぶチルコット委員会による報告書を公開してい
る。これらの報告書と比較すると本件文書1の分量は僅か(本文の部分
で17頁)であり,細部にわたった具体的で詳細な内容が記載されてい
るとは考えられず,抽象化された内容が記載されているにとどまるとい
える。
(イ)対イラク武力行使について検証した報告書を各国が公表している事
実は,日本だけが検証結果を明らかにしないことに合理性がないことや
検証結果を開示すべき公益性が高いことを示している。そして,これら
の国は,いずれも対イラク武力行使を支持した立場にあり,対イラク武
力行使の原因に誤りがあったことを認めている点で共通し,大量破壊兵
器の問題,情報機関による情報収集や分析といったテーマについて検証
を行っている点でも共通する。報告書の具体的内容が個々の報告書によ
って異なるのはもちろんであるが,いずれの報告書も本件文書1よりも
はるかに詳細で,その内容を公表している点では共通しているから,こ
の点によっても,本件文書1に不開示情報該当性があるとはいえない。
なお,被告は,対イラク武力行使に対する立場,関与の程度等の事情は
国により様々であり,検証や報告書の内容も国によって異なる旨主張す
るが,原告が指摘する報告書の内容の共通点を捨象して抽象的に事情や
内容が異なる旨を指摘しても意味はない。
(ウ)被告は,一般的に情報提供者が情報を提供したことが第三者の知る
ところとなれば,当該情報提供者の信用低下や当該情報提供者に対する
報復可能性が生じ得ることを考慮し,国際政治上及び各国の安全保障上
機微な問題に係る情報についてはその内容や情報提供元を公にしない国
際慣行があり,それは,慣行である以上,明示的な文書で規定されてい
るものではない旨主張する。
しかし,日本に対する情報提供元は,被告自身が述べるようにそのほ
とんどが各国政府及び国際機関関係者であり,そういった者に対するさ
らなる情報源である個人の氏名が本件文書1の中に記載されているとは
考えられないし,被告自身もそのようなことは主張していない。また,
情報提供者に対する報復の可能性は,国際機関や各国の情報機関が情報
提供元である場合には当てはまらない。さらに,被告のいう情報提供者
の信用低下についても,諸外国の報告書が,情報機関の失敗を自ら指摘
している以上,部外者である日本が懸念すべき事項ではない。そして,
上記のように諸外国が情報機関の失敗等について公にしている以上,被
告が主張するような慣行が存在しないことを端的に示している。なお,
被告は,諸外国と第三国の関係と日本と第三国との関係は異なる旨も指
摘するが,一般論にとどまっており,不開示情報該当性の判断の合理的
な根拠とはいえない。
したがって,被告の主張は,失当である。
エ(ア)本件文書1の主なポイントは,「報告の主なポイント」(甲4の2)
として,公にされており,これについて詳述されている本件文書1に不
開示情報に該当する事由(以下「不開示事由」という。)があるとはい
えない。「報告の主なポイント」は,本件文書1の単なる抜き書きでは
ないとしても,それが本件文書1に基づいて作成されたものである以上,
その記載内容が具体性,詳細性又は表現において本件文書1と一定程度
異なるとしても,本件文書1と内容や性質が全く別異な一線を画すもの
になっているはずはなく,同種の情報が記載されているはずである。こ
のことは,外務省のホームページにおいても,「報告の主なポイント」
が,本件文書1の主要部分を抽出したものであり,本件文書1を代替す
るものとして位置付けられていることからもうかがわれる。そして,被
告自身,「報告の主なポイント」は,本件文書1の内容を精査した結果,
他国との交渉上不利益を被らず,また,他国との信頼関係を損なわない
範囲でできる限り公表すべきとの方針に基づいて作成されたものである
ことを自認している。そうすると,「報告の主なポイント」が公表され
ている以上,少なくともこれと重複する部分を不開示とする理由は全く
ないというべきである。
(イ)本件文書1は,本件検証のために事後的に作成されたものであるか
ら,仮に,本件文書1の中に当時の日本の判断過程,情報収集能力若し
くは分析能力又はそれらを推知させる情報が記載されているとしても,
それらの記載は検証の目的に沿って選別されたごく一部のものに限られ
るはずであるし,本件文書1の本文部分の分量が17頁程度しかなく,
不開示部分の分量もそれぞれの項目ごとに数行程度にとどまるから,政
策決定過程の生の事実それ自体が表現されているわけではなく,原資料
や聞き取り結果をとりまとめたものが記載されているにすぎない。また,
仮に,本件文書1から対イラク武力行使の際の情報収集の具体的手法,
情報収集内容,我が国が重視した視点,論点,関心事項等がある程度明
らかになるとしても,それらは,国ごと又は地域ごとに異なる各種事情
や外交上の課題等によって大きく異なるから,今後,イラクとは異なる
他の国が武力行使に至る事態が起こったときに「関係国」が日本の今後
の対応等を正確に予測することなど到底できないというべきであり,そ
ういった国との交渉上日本が不利益を被るとは考えられない。
そして,対イラク武力行使は,武力行使の根拠となったはずの大量破
壊兵器が結果的に発見されなかったという特殊な事案であり,日本とし
て,同じ過ちを二度と繰り返さないように過去を検証するために作成さ
れたのが本件文書1であるから,仮に,本件文書1の中に当時の日本の
判断過程,情報収集能力若しくは分析能力又はそれらを推知させる情報
が記載されており,それが公開されたとしても,当時と同じ対応を日本
は将来繰り返さないであろうことを他国が想定できるようになるにすぎ
ない。それゆえ,本件文書1を開示したからといって,他国が日本の今
後の対応等を正確に予測する材料になることなどはなく,他国との交渉
上不利益を被るおそれや日本の安全が害されるおそれが生じるとも考え
られない。しかも,本件文書1において検証の対象となっているのは,
2002年(平成14年)から2003年(平成15年)にかけての事
実であって,当時から既に15年程度の時が経過しており,国際情勢,
社会情勢,当該情報に係る事務の遂行の状況等の事情が当時とは大きく
異なっており,情報収集の手法等も当時と異なっていて当然であるとこ
ろ,被告も,手法,ノウハウ又は考慮事項の一部が当時とは異なってい
ることを自認しているから,少なくとも,本件文書1において検証され
ている現在においては採用されていない手法,ノウハウ又は考慮事項を
開示したとしても,これにより,日本の今後の対応等を正確に予測する
ことなどできるはずがなく,これらの情報の開示を拒否する合理的理由
は存しない。
(ウ)被告は,本件文書1が原資料等を取捨選択し,記載をまとめたもの
であることをもって「記載自体が一定の価値判断や評価を伴うもの」と
主張し,記載された分量が少ないとしても,情報公開法5条3号又は6
号にいう「おそれ」は存する旨主張する。
しかし,記載自体に一定の価値判断や評価を伴うからといって,直ち
に不開示事由該当性が存するとはいえない。基本的に全ての行政文書は,
記載自体に一定の価値判断や評価を伴うものであるし,本件文書1のよ
うに報告書の体裁でまとめられた文書が一定の価値判断や評価を伴うこ
とは当然であるから,行政文書の公開を原則とする情報公開法が,一定
の価値判断や評価を伴うことを根拠とする不開示事由該当性を認めるも
のとして制度設計されているとは到底考えられない。さらに,原資料を
取捨選択するなどして事後的に作成した報告書に示されている価値判断
や評価は,必然的に相当程度抽象化されているはずであり,一般的に考
えても,情報公開法5条各号により保護に値するものとはいえないから,
原資料等に示されている価値判断や評価よりも保護の必要性は低いはず
である。
オ被告は,本件処分は,平成29年10月31日付けの決定により,開示
部分が変更されているが,情報公開法6条1項は,複数の情報が記録され
ている1個の行政文書について,各情報ごとに,同法5条各号の不開示情
報に該当するか否かを審査し,これに該当する情報がある場合に,当該不
開示情報が記録されている部分を除いた部分の開示を義務付けているもの
の,1個の行政文書に一体的な1個の不開示情報が記録されている場合に
おいては,その一体的な1個の不開示情報の一部を削除した残りの記述部
分を開示することまで義務付けたものではなく,独立した一体的情報をど
の範囲で捉えるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形
状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の
上,不開示事由に関する定めの趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべ
きであるところ,本件文書1は,作成者,作成目的,内容,検証の方法が
いずれも共通であり,形状に関しても参考資料を含めて一体のものである
から,本件文書1は,全体として有機的な一体的な情報である旨主張する。
しかし,独立した一体的情報といえるのは,相互に関連性の高い細かな
項目の集合であり,本件文書1のような長さの文書全体を独立した一体的
情報と捉えるのは無理があるから,被告の主張は,失当である。
(被告の主張の要点)
原告の主張は,次のとおり,失当である。
ア(ア)本件検証を行うに当たって調査及び確認された点(対イラク武力行
使を支持するに至った当時の我が国が行った情報収集及び分析の具体的
手法,情報収集内容並びに我が国が当時判断を行う上で重視した視点,
論点及び関心事項)について明らかになれば,情報収集に関わる他国等
との信頼関係が損なわれるおそれ,今後我が国の安全を維持するための
必要な情報収集に支障が出る可能性が大きいことが容易に想定される上,
他国等が我が国の情報収集,情報分析能力等を推察することが可能とな
るだけでなく,将来的に類似の事案が発生し,我が国としての立場及び
政策を定める必要が生じた場合,関係国が我が国の今後の対応等を正確
に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を行うことが可能とな
るため,これらの他国との交渉上不利益を被るおそれ及び我が国の安全
が害されるおそれがあることから,本件文書1は非公開を前提とした議
論に基づいて作成されている。
(イ)a前記(ア)の「類似の事案」とは,いずれかの国が武力行使を行う
場合であって,我が国としての立場及び政策を定める必要を生じさせ
る程度,我が国としての立場及び政策を定めるに当たっての考慮事項
等について,対イラク武力行使の場合と一定程度の類似性が認められ
る場合を指している。武力行使が実際に行われており,これに対する
我が国としての立場及び政策を実際に策定しているという現下の国際
情勢及び我が国の対応に鑑みれば,将来的にいずれかの国が武力行使
に及ぶ可能性は実際に存在しており,これに対する我が国の立場及び
政策を策定する必要に迫られるという状況も十分に想定されるから,
いずれかの国が武力行使に及ぶ事態が生じ,これに対する我が国とし
ての立場及び政策を策定するという類似の事案が発生した場合を考慮
することは当然である。そして,このような類似の事案が発生する事
態を想定した場合,我が国としての立場及び政策を策定するに当たっ
て我が国が行った情報収集の具体的手法,情報収集内容又は我が国が
重視した視点,論点若しくは関心事項が関係国に対して明らかになれ
ば,関係国との交渉上不利益を被ることは明らかである。
b前記(ア)の「関係国」とは,前記aの「類似の事案」において武力
行使に及ぶ国及びその対象となる国に加えて,武力行使が発生した場
合に,安全保障面で重大な脅威にさらされるなど,当該武力行使に関
して直接的な利害関係を有する国や,当該武力行使につき直接的な関
係を有しないとしても,自国を取り巻く情勢や歴史的経緯等様々な側
面を理由に利害関係を有する国を指す。武力行使が実際に行われてい
る現下の国際情勢に鑑みれば,武力行使を行う主体及び武力行使の対
象について明確な予測を行うことは困難である一方,現代において,
武力行使に関する問題は,国際社会にとって規範的な観点からも含め
最も重要な論点の一つであり,また,現在の国際環境や国際社会にお
いて諸国が従うべき規範が,立場,利害,主義又は主張を異にする様々
な国等の間で行われる不断の外交実践の累積の上に成り立っているこ
とに鑑みれば,いずれかの国が武力行使に及ぶ事態が生じた場合,当
該武力行使に直接関わらない国であっても,その国を取り巻く情勢や
歴史的経緯等様々な関係から利害関係を持ち得るし,そのために当該
武力行使に関して積極的な外交活動を展開することが想定される。そ
のような中で,我が国が対イラク武力行使を支持するという判断を行
う上で重視した視点,論点,関心事項等が明らかとなれば,それを用
いて関係国が,我が国の今後の対応等を正確に予測し,自国を利する
形での効果的な外交活動を行うこととなるおそれは,現実的なものと
なる。
c前記bに照らすと,我が国が交渉上不利益を被るおそれのある相手
方,自国を利する形で効果的な外交活動を行うこととなる「関係国」,
「他国」を具体的に指摘することは不可能である。
(ウ)a原告は,本件文書1が非公開を前提として作成されたものとする
根拠が明らかではない旨主張するが,本件検証の目的が対イラク武力
行使を支持するに至った外務省内における当時の検討及び意思決定過
程を改めて検証し,今後の政策立案及び実施に役立てることにあった
ことがその根拠であり,明確である。また,非公開を前提として作成
された資料がその後公開されることとなれば,それによる不利益を顧
慮して資料に必要な内容の全てを記載することや資料の作成そのもの
をちゅうちょするおそれがあるのは当然である。
b原告は,文書の作成時や入手時に非公開を前提としたからといって,
情報公開請求に対する判断において,直ちに不開示が正当化されるも
のではないし,公文書の作成は,行政機関の内部的な都合や基準だけ
に基づいて行われるものではなく,現在及び将来の国民が行政機関の
諸活動の内容を検証できるようにするという目的にかなうように行わ
れるものであり,外務省の担当者の意図と不開示という判断を直接結
び付けることが許されるわけではない旨主張する。
しかし,本件文書1は実際に公開されておらず,「報告の主なポイ
ント」のみが公表されていることからして,本件文書1が非公開を前
提に作成されたことは明らかである。また,情報公開法5条5号につ
いては,審議,検討等が終了し,意思決定が行われた後であっても,
当該審議,検討等に関する情報を公にすることにより,国民の間に混
乱を生じさせたり,将来予定されている同種の審議,検討等に係る意
思決定に不当な影響を与えるおそれがある場合には,なお同号の該当
性を満たすものとされているし,同条6号についても,同種の事務又
は事業が反復される場合,当該情報の開示が将来の事務又は事業の適
正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合にも適用があるものとされ
ている。さらに,情報公開法は,その規定ぶりからみて,行政機関自
身が職務として行う検証の結果を記載した文書を不開示の対象とする
文書から除外しておらず,行政機関自身が職務上作成する文書につい
ても,公にすることにより,率直な意見の交換や事務の適正な遂行等
を不当に損なうことを想定しているといえる。
したがって,原告の主張は,失当である。
c原告は,「関係国」や「他国」がきわめて抽象的である上,「類似
の事案」も広く一般化しすぎている旨主張するが,上記の「類似の事
案」は,飽くまで,いずれかの国が武力行使に及ぶという国際社会に
おける特殊な事態が発生していることを前提に,その上で我が国とし
て何らかの立場及び政策を定める必要性を生じているという限定的な
状況である。また,武力行使の想定国等を具体的に特定し,当該国等
との関係でのおそれがなければ,情報公開法5条3号にいう「おそれ」
があるとはいえない旨の原告の主張は,国際政治や安全保障政策の複
雑さを正解しないものにすぎない。また,仮に,「関係国」や「他国」
を具体的に特定できるとしても,我が国が当該「関係国」や「他国」
に懸念を有していると捉えられ,新たな外交問題を引き起こしかねな
いから,その意味においても,「関係国」や「他国」を具体的に特定
することは適当ではない。
イ(ア)原告は,対イラク武力行使について検証した報告書を各国が公表し
ている事実は,日本だけが検証結果を明らかにしないことに合理性がな
いことや検証結果を開示すべき公益性が高いことを示している上,国際
政治上及び各国の安全保障上機微な問題に係る情報についてはその内容
や情報提供元を公にしない国際慣行は存在しない旨主張する。
しかし,国際社会での地位,対イラク武力行使に対する立場又は関与
の程度,対イラク武力行使の影響又はそれに対する国内世論等の事情は,
国により様々であるし,対イラク武力行使に関する検証の実施及び公表
についても,各国がそれぞれの目的に基づき,判断及び実施したもので
あって,検証や報告書の内容も国ごとに異なっているから,事情の異な
る諸外国が本件文書1とは別の検証報告書等を公表しているとしても,
本件文書1を開示することについて情報公開法5条3号,5号又は6号
に該当する事由がないということの根拠とはならない。また,一般的に,
情報収集活動に際しては,情報提供者(これは,個人であっても,国又
は国際機関であっても同様であり,これと異なる原告の主張は,独自の
見解である。)が情報を提供したことが第三者の知るところとなれば,
当該情報提供者の信用低下や当該情報提供者に対する報復可能性が生じ
得ることを考慮し,情報の内容や情報提供者の氏名等は公にされないし,
ある目的のために賛同者を得ようとして他者に働きかけを行う場合,第
三者による妨害等を避けるため,秘密裏に行われることが多いのであっ
て,それは機微な問題に関する国際交渉にも当然に妥当するものであり,
慣行である以上,そのことが明示的な文書で規定されてはいない。
したがって,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,諸外国の報告書と比較すると本件文書1の分量は僅か(1
7頁)であり,細部にわたった具体的で詳細な内容が記載されていると
は考えられない上,諸外国が情報機関の失敗等について公にしているか
ら,本件文書1に不開示情報該当性があるとはいえない旨主張する。
しかし,本件文書1の不開示情報該当性は,我が国にとっての「おそ
れ」であり,事情の異なる諸外国が本件文書1とは別の検証報告書等の
中で原告が指摘するような情報を記載してこれを公開しているとしても,
諸外国と第三国との関係と日本と第三国との関係は異なるため,そのこ
とは上記の「おそれ」がないことの根拠とはならない。
ウ(ア)原告は,本件文書1の主なポイントは,「報告の主なポイント」(甲
4の2)として,公にされており,これについて詳述されている本件文
書1に不開示事由があるとはいえない旨主張するが,「報告の主なポイ
ント」は,本件文書1の内容を精査した結果,他国との交渉上不利益を
被らず,また,他国との信頼関係を損なわない範囲でできる限り公表す
べきとの方針に基づいて新たに作成されたものであって,本件文書1の
単なる抜き書きではなく,全く性質の異なる情報であり,本件文書1の
うち,「報告の主なポイント」の記述内容と同一の部分とそうではない
部分を区別することは容易ではないから,「報告の主なポイント」が公
表されているからといって,直ちに,本件文書1の全部を開示すべきこ
とにはならない。
(イ)原告は,仮に,本件文書1の中に当時の日本の判断過程,情報収集
能力若しくは分析能力又はそれらを推知させる情報が記載されていると
しても,それらの記載は検証の目的に沿って選別されたごく一部のもの
に限られるはずであるし,本件文書1の本文部分の分量が17頁程度し
かなく,不開示部分の分量もそれぞれの項目ごとに数行程度にとどまる
から,政策決定過程の生の事実それ自体が表現されているわけではなく,
原資料や聞き取り結果をとりまとめたものが記載されているにすぎない
旨主張する。
しかし,本件文書1には,対イラク武力行使を支持するに至った検討
及び意思決定過程を明らかにする上で特に取捨選択された有意な情報
(一連の事実関係,情報収集及び分析,検討,政策判断及びその過程並
びに情報発信等及び検討)が凝縮して具体的に記載されているから,本
件文書1を開示することにより,我が国が対イラク政策においていかな
る情報に特に注目し,重視していたのかが自ずから明らかとなるところ,
このような情報は,我が国がいかなる具体的な外交施策を行うのかとい
う選択をする際の具体的な意思決定過程を左右するものであるから,当
該情報の性質を分析することにより,類似の事案が発生した場合に,関
係国が我が国の今後の対応等を正確に予測し,自国を利する形での効果
的な外交活動を行うことが可能となるため,これら他国との交渉上不利
益を被るおそれ及び我が国の安全が害されるおそれが存在することは明
らかである。
したがって,本件文書1の分量の多寡という形式論に着目する原告の
主張は,失当である。
(ウ)原告は,仮に,本件文書1から対イラク武力行使の際の情報収集の
具体的手法,情報収集内容,我が国が重視した視点,論点,関心事項等
がある程度明らかになるとしても,今後,イラクとは異なる他の国が武
力行使に至る事態が起こったときに「関係国」が日本の今後の対応等を
正確に予測することなど到底できない旨主張する。
しかし,「類似の事案」は,前記ア(イ)のとおりであるから,対イラ
ク武力行使とは異なる事案においても,前記ア(イ)に述べた類似性が認
められる場合,本件文書1の内容が明らかにされることにより,関係国
が我が国の今後の対応等を正確に予測し,自国を利する形での効果的な
外交活動を行うことが可能となるため,我が国の外交交渉事務に支障を
及ぼし,これら他国との交渉上不利益を被るおそれ及び我が国の安全が
害されるおそれがあることに変わりはない。また,ある国に関する情報
収集や渉外活動は,当該国においてのみならず,世界的に行われるもの
であり,対イラク武力行使に関する問題と類似の問題では,情報収集や
渉外活動の手法も共通する点が多い。
したがって,原告の主張は,外交実務を正解しない誤ったものである。
(エ)原告は,日本として,同じ過ちを二度と繰り返さないように過去を
検証するために作成されたのが本件文書1であるから,仮に,本件文書
1の中に当時の日本の判断過程,情報収集能力若しくは分析能力又はそ
れらを推知させる情報が記載されており,それが公開されたとしても,
当時と同じ対応を日本は将来繰り返さないであろうことを他国が想定で
きるようになるにすぎない旨主張する。
しかし,対イラク武力行使に関する我が国の対応が過ちであり,それ
に関する情報が公開されたとしても問題はないとの原告の主張は,本件
文書1が作成された目的(我が国が対イラク武力行使を支持するに至っ
た検討及び意思決定過程を検証し,今後の政策立案及び実施に役立てる
ことを目的とするものであって,対イラク武力行使を支持したことの是
非の検証を目的とするものではない。)を正解しておらず,失当である。
また,本件文書1の作成により,対イラク武力行使の当時の我が国の政
策決定に向けた情報収集活動,外交活動又は省内外での調整活動の手法
若しくはノウハウの全てが改められるわけではなく,引き続き同様の対
応をとったり,同様の対応を改善した上で継続することもあり得るし,
対応の際の視点や考慮事項のうち共通しているものもある。
したがって,我が国が対イラク武力行使の当時と同様の対応を一切と
らないことを前提とするかのような原告の主張は,その前提を誤ったも
のである。
(オ)原告は,基本的に全ての行政文書は,記載自体に一定の価値判断や
評価を伴うものであるし,本件文書1のように報告書の体裁でまとめら
れた文書が一定の価値判断や評価を伴うことは当然であるから,行政文
書の公開を原則とする情報公開法が,一定の価値判断や評価を伴うこと
を根拠とする不開示事由該当性を認めるものとして制度設計されている
とは到底考えられないし,原資料を取捨選択するなどして事後的に作成
した報告書に示されている価値判断や評価は,必然的に相当程度抽象化
されているはずであり,一般的に考えても,情報公開法5条各号により
保護に値するものとはいえないから,原資料等に示されている価値判断
や評価よりも保護の必要性は低いはずである旨主張する。
しかし,記載自体に一定の価値判断や評価を伴うことが直ちに不開示
情報該当性を基礎付けるのではなく,一定の価値判断や評価を伴う本件
文書1の記載は,対イラク武力行使に関する意思決定を行うに当たり,
我が国として重要な考慮要素等を示すものに該当するといえる上,仮に,
その記載が抽象的なものと評価されるとしても,対イラク武力行使に関
する意思決定における我が国の重要な考慮要素を示すものとなり得るこ
とに変わりはないから,そのことによって不開示情報該当性が否定され
ることはない。
したがって,原告の主張は,失当である。
エ本件処分は,平成29年10月31日付けの決定により,開示部分が変
更されているが,情報公開法6条1項は,複数の情報が記録されている1
個の行政文書について,各情報ごとに,同法5条各号の不開示情報に該当
するか否かを審査し,これに該当する情報がある場合に,当該不開示情報
が記録されている部分を除いた部分の開示を義務付けているものの,1個
の行政文書に一体的な1個の不開示情報が記録されている場合においては,
その一体的な1個の不開示情報の一部を削除した残りの記述部分を開示す
ることまで義務付けたものではなく,独立した一体的情報をどの範囲で捉
えるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形状,その内
容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の上,不開示
事由に関する定めの趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきであると
ころ,本件文書1は,作成者,作成目的,内容及び検証の方法がいずれも
共通であり,形状に関しても参考資料を含めて一体のものであるから,本
件文書1は,全体として有機的な一体的な情報というべきである。
(2)本件各不開示部分の不開示情報該当性に関する各論的な主張
別紙2「本件各不開示部分の不開示情報該当性に関する当事者の主張の要
点」のとおりである。なお,同別紙において定めた略称は,以下においても
用いることとする。
第4当裁判所の判断
1本案の争点1(情報公開法5条3号,5号及び6号該当性の審査方法及び立
証責任の所在等)について
(1)一般に,情報公開法5条各号に定める不開示情報が記録されていることを
理由として,行政文書の全部又はその一部について開示をしない旨の処分が
された場合に,その処分の取消し等を求める訴えにおいて,当該処分に係る
行政文書の部分に記録されている情報が同条各号に定めるものに該当するか
否かは,行政文書の開示の原則の例外に当たるか否かが問題となることや,
それが当該処分の適法性を基礎付ける事項であること,行政機関が当該行政
文書を保有してその内容を把握していることなどに照らすと,原則として,
当該処分をした行政庁の所属する行政主体である被告において主張立証すべ
きものと解される。
したがって,不開示処分のうち当該処分に係る行政文書に記録されている
情報が情報公開法5条5号又は6号に定めるものに該当することを理由とす
るものについては,被告において,当該情報がそれらの号に定めるものに該
当することを主張立証することを要するというべきである。
(2)これに対し,情報公開法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が
害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又
は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の
長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定して
いるところ,これは,我が国の安全,他国等との信頼関係及び我が国の国際
交渉上の利益を確保することは,国民全体の基本的利益を擁護するために政
府に課された重要な責務であり,これらの利益等を十分に保護する必要があ
るとの趣旨により,設けられた規定であると解される。
そうすると,①このような同号の立法趣旨,②同号が「おそれがある情報」
(同条6号等参照)と規定せず「おそれがあると行政機関の長が認めること
につき相当の理由がある情報」と規定していること及び③同条3号に掲げる
国の安全等の確保に関する情報については,一般の行政運営に関する情報と
は異なり,その性質上,開示又は不開示の判断に高度の政策的判断を伴うも
のであり,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測等についての専門
的又は技術的判断をも要するものであるとの特殊性があること等に照らすと,
同号に基づく処分の適法性については,同号に規定する事由があるか否かに
ついての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つ
ものとして許容される限度内のものであるかどうか,すなわち,開示をしな
い旨の決定が裁量権の行使としてされたことを前提に,その判断要素の選択
や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事
実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認めら
れるなど,当該行政機関の長に与えられた裁量権の範囲から逸脱し,又はこ
れを濫用したと認められるか否かを判断するという審査方法によるべきであ
る。
もっとも,国の安全又は他国若しくは国際機関との交渉等に関する正確か
つ詳細な情報は専ら行政機関の長の側に属しており,開示請求をする者及び
裁判所は,処分に係る行政文書に記録されている内容等を直接に把握するこ
とができないことからすれば,まず,被告において,当該処分に係る行政文
書に記録されている情報に係る事柄,当該情報の性質,当該処分をするに当
たって前提とした事実関係その他の当該処分当時の状況等の,一般的又は類
型的にみて,当該情報が同号に掲げる国の安全等の確保に関するものに当た
ることを推認するに足りる事情を主張立証する必要があると解すべきである。
その上で,同号に基づき開示をしないことを争う原告が,当該処分につき
行政機関の長の裁量権の範囲からの逸脱又はその濫用があったことを基礎付
ける具体的事実について主張立証することを要するというべきである。
(3)前記(1)及び(2)に反する原告及び被告の主張は,いずれも採用することが
できない。
2本案の争点2(本件各不開示部分の不開示情報該当性)について
(1)本件文書1の1枚目21行目17文字目から22行目まで及び参考資料
3に係る不開示部分(本件不開示部分1)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分1には,本
件検証を行うに当たって外務省が参考にした各種資料の数,作成時期及び
資料の内容を示す標目(情報収集先及び収集した情報内容を示す標目を含
み,関係国又は関係機関の高官の氏名を記したものも複数含まれる。)が
記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分1に記録された情報が情報公開法
5条3号に該当する情報であるか否かについて検討する。
イ本件不開示部分1には,本件検証を行うに当たって外務省が参考にした
各種資料の数,作成時期及び標目が記録されており,当該情報によって,
対イラク武力行使に関する我が国の情報収集能力又は分析能力の一端をう
かがい知ることが可能になると推認することができるところ,対イラク武
力行使が国際政治上及び各国の安全保障政策上機微な問題であり,そのよ
うな機微な問題に係る情報収集能力又は分析能力という情報は,事柄の性
質上,一般的又は類型的に見て,これを公にすることにより,国の安全が
害されるおそれがあると推認することができる。また,情報収集先である
関係国又は関係機関の高官の氏名についても,上記のような機微な問題に
係る情報提供元であることに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的
に見て,これを公にすることにより,他国若しくは国際機関との信頼関係
が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るお
それがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,①情報収集先として想定される国名や機関名は,米国若し
くは欧州各国又は国連の機関である国連大量破壊兵器廃棄特別委員会,
国連監視検証査察委員会等であることは合理的に予想できる上,標目に
情報収集先又は収集した情報内容を示すものが含まれることを意味する
にすぎず,それらが含まれない標目もあることを意味するものでもある,
②本件不開示部分1に記録されているのは,外務省が収集した資料の全
てではなく,本件検証をするに当たって外務省が参考にした資料にすぎ
ず,入手経過や入手方法,さらにはここで挙げられているものが収集し
た資料の全てなのか一部なのか,一部だとしてどのように選別した一部
なのかが記載されているわけではないから,資料の種類,性質及び数を
明らかにすることが直ちに政府の情報収集能力を明らかにすることには
ならず,本件不開示部分1に記録された情報は,情報公開法5条3号に
定める不開示情報に該当しない旨主張する。
しかし,本件文書1のうち開示された部分の記載及び本件不開示部分
1の分量からは,原告が主張するような情報が本件不開示部分1に記載
されているとは断定し難い上,前記イのような本件不開示部分1に記録
されている情報の性質等に照らすと,外務大臣において,当該情報が国
際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本件不開
示部分1を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若し
くは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機
関との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いものと判断した
ことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性
を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,諸外国の報告書は,各国の高官の氏名,特定の日時に当該
高官が会談したこと,当該会談の内容等,被告が公に知られることを懸
念する内容それ自体に相当する事項を詳細に報告し,公表しているから,
推測の材料が断片的に明らかになるという程度の事情で,国の安全が害
されるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれがあるとはいえな
い旨主張する。
しかし,原告の主張するところによっても,諸外国の報告書に記載さ
れている情報と本件不開示部分1に記録されている情報が同一であるこ
とまではうかがわれない上,前記イのような本件不開示部分1に記録さ
れている情報の性質等に照らすと,外務大臣において,当該情報が国際
政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本件不開示
部分1を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しく
は国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関
との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いものと判断したこ
とが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性を
欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分1に記録された情報を公に
することにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との
信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益
を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範囲から逸脱
し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分1に記録された情報は,情報公開法5条3
号が規定するものに該当すると認められる。
(2)本件文書1の1枚目の脚注3行目から6行目までに係る不開示部分(本件
不開示部分2)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分2には,本
件文書1を作成するに当たり外務省が実施したインタビューの対象者の氏
名及び肩書が記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分2に記録された情報が情報公開法
5条5号に該当するか否かについて検討する。
イ(ア)本件不開示部分2には,本件検証に当たって実施されたインタビュ
ーの対象者の氏名及び肩書きが記録されており,仮に,これを公にすれ
ば,当該対象者が本件検証の対象である対イラク武力行使に関連する公
表されていない情報を有している可能性がある者であることが公となる
ところ,前記(1)のとおり,対イラク武力行使が国際政治上及び安全保障
政策上機微な問題であることに照らすと,他国が対イラク武力行使に係
る我が国が保有する公表されていない情報を得ようとする意図又は動機
を有する蓋然性が高いと推認されることからすれば,上記の者に対して,
不当な働きかけ等が行われるおそれも相当の蓋然性を有するものと推認
することができる。そして,インタビューの対象者の多くが外交活動に
従事する者であるとされていることに照らすと,上記の者においても,
同人の氏名及び肩書きが公になれば,不当な働きかけ等を受けるおそれ
があることを容易に理解し得ることになるから,仮に,本件不開示部分
2を公にすれば,上記の者,その後に上記の者と同じ立場に就いた者,
将来的に上記の者と同じ立場に就く可能性のある者等が,今後,本件検
証に当たって実施されたインタビューと同様のインタビューに応ずるこ
と自体を拒むなどすることになるおそれも相当の蓋然性を有するものと
推認することができ,国の機関である外務省の内部における検討の際,
率直な意見の交換が不当に損なわれるおそれがあるものと推認すること
ができる。
(イ)以上によれば,本件不開示部分2に記録された情報は,情報公開法
5条5号が規定するものに該当すると認められる。
ウ(ア)原告は,対イラク武力行使当時の意思決定に関与していた者の肩書
きは,情報公開請求により既に開示されており(甲17,18),それ
らの者の氏名を特定することも容易であるから,被告の主張は,全く根
拠がない旨主張する。
しかし,原告の指摘する証拠(甲17,18)は,対イラク武力行使
の際に外務省がした様々な対応に関与した者を示すものではあっても,
それらの者の関与の度合いの軽重等は不明であるほか,実際にインタビ
ューを受けた者が特定されることにより当該者に対する不当な働きかけ
等がされる蓋然性が高くなること自体は否定し難いことに照らすと,原
告の主張するところを前提としても,前記イの判断を覆すには足りない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,対イラク武力行使の後に外務省の幹部の立場にあった者に
対して脅迫がされたとか,工作活動がされたとかいう事実は存在しない
から,対イラク武力行使がされてから10年以上経過した後にインタビ
ューの対象者になったからといって,対イラク武力行使の意思決定への
関与を理由に脅迫されたり,工作活動がされたりするとは,到底考えら
れないし,対イラク武力行使に関する意思決定をした際に日本政府の幹
部の立場にあった者に対して工作活動や脅迫の対象とするよりも,今後
される意思決定に不当な圧力をかけようとしてそのような働きかけをす
る危険性の方がはるかに高いはずであるから,被告の主張は,誤りであ
る旨主張する。
しかし,仮に,対イラク武力行使の後に外務省の幹部の立場にあった
者に対して脅迫がされたとか,工作活動がされたとかいう事実が存在し
ないとしても,それが不当な働きかけ等の対象とすべき者を絞り込むこ
とが不可能であったことに起因しているとしても何ら不合理ではない上,
前記(1)のとおり,対イラク武力行使が国際政治上及び安全保障政策上機
微な問題であることにも照らすと,時の経過によって直ちに,不当な働
きかけ等がされ得ないとまでは認め難い。また,事柄の性質上,時点を
比較して,不当な働きかけ等の危険性の度合いを論ずることが適切であ
るとも直ちには認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(3)項目「国際社会の情勢」に係る不開示部分(本件不開示部分3)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分3には,イ
ラク情勢に関する国際社会の動きに係る記述であって,対イラク武力行使
への我が国の対応を検討する上で重要な背景となった関係国及び地域の政
治情勢又は安全保障関連情勢に関する我が国の分析又は評価等が3つの項
目に分けて記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分3に記録された情報が情報公開法
5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ前記アを前提とすると,本件不開示部分3には,イラク情勢を含む当時
の国際政治情勢又は安全保障関連情勢に関する我が国の認識又は評価が記
録されていることになるから,これを公にすることにより,我が国がその
当時にどの程度の情報を収集することができたのか,どの程度の分析をし
ていたのか,どのような情報に関心を有していたのか等を他国が推察する
ことが可能になると推認することができ,事柄の性質上,一般的又は類型
的に見て,これを公にすることにより国の安全が害されるおそれがあると
推認することができる。また,上記のとおり,イラク情勢に関する我が国
の認識,評価等が公になれば,イラク及びその周辺国が,我が国の関心の
対象,分析,評価等を推察することが可能となるから,事柄の性質上,一
般的又は類型的に見て,これを公にすることによりそれらの国との間での
外交交渉上不利益を被るおそれがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,①「国際社会の情勢」という大きな主題について,僅か1
頁程度にまとめた内容から,情報収集能力,情報分析能力等を推察する
ことなど不可能であるし,仮に推察することができたとしても,合理的
な推察とはいえない,②外務省がどの国又は地域に焦点を当てていたか
という事情だけで,我が国の今後の対応等を正確に予測したり,自国を
利する形での効果的な外交活動を行うことが可能になったりするとも考
えられない,③本件不開示部分3の各項目の分量は,それぞれ数行から
十数行程度のものであり,この程度の分量の記載で,我が国が,その当
時,どのような国際情勢認識の中で,どのような比較衡量及び判断を行
い,イラクをめぐる政策を検討していたかを他国が正確に把握でき,し
かもそれを将来の類似の事案において応用して他国に有利に利用するな
どとは到底考えられないなどとして,本件不開示部分3に記載された情
報は,情報公開法5条3号に定める不開示情報に該当しない旨主張する。
しかし,原告の主張するところはいずれも,本件不開示部分3の分量
が少ないこと又はこれに記録されている事項が限定的であることを前提
に,それらの情報から推察することができる事項等も極めて限定的であ
ることを主張するにとどまるものと解されるところ,情報の価値が分量
のみによって左右されるものではないこと,他の情報との組み合わせな
どによって様々な価値を生み出し得るものであること等の情報というも
のの性質等に照らすと,原告の主張するところを踏まえても,外務大臣
において,当該情報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る
情報であって,本件不開示部分3を公にすることにより,国の安全が害
されるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が
高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に
照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,将来的に類似の事案が発生する蓋然性があるとの具体的な
根拠はなく,関係国や「類似の事案」についても具体的に特定されてい
ないから,交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性があるとも認められな
い旨主張する。
しかし,武力行使を伴う国際的又は地域的な紛争が今なお世界のどこ
かで生じていることは,公知の事実であるから,そのような紛争を端緒
として他国がした又は国際的にされた武力行使について,我が国が関与
する又は利害関係を有するに至る事態が生ずる蓋然性はあると推認する
ことができる。また,どのような武力行使なのか,どの国が関係するの
かについては,それを事前に特定することは不可能である上,それが特
定されていないからといって,対イラク武力行使が国際政治上及び安全
保障政策上機微な問題であること等のこれまでに説示したところを前提
とすると,原告の主張するところをもっても,外務大臣において,当該
情報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,
本件不開示部分3を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ又
は他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いものと判断
したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥
当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分3に記録された情報を公に
することにより,国の安全が害されるおそれ又は他国との交渉上不利益を
被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範囲から逸脱し,
又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分3に記録された情報は,情報公開法5条3
号が規定するものに該当すると認められる。
(4)項目「日本の状況」に係る不開示部分(本件不開示部分4)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分4には,対
イラク武力行使への我が国の対応を検討する上で重要な背景となった対イ
ラク武力行使前後の我が国の外交的努力を中心とした我が国を取り巻く情
勢(当時の我が国の政府が行った外交及び安全保障上の取組等に係る内容
であって,当時我が国が安全保障上の懸念として認識していたイラク以外
の特定の地域に係る情勢に関する記述を含む。)について記録されている
ことが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分4に記録された情報が情報公開法
5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分4には,対イラク武力行使に関連する情勢に係る情報の
みならず,その他の我が国の安全保障関連情勢に関する情報も記録されて
いることになるから,これを公にすることにより,対イラク武力行使に関
連する情勢に関する我が国の認識等が明らかとなるにとどまらず,我が国
の安全保障関係における関心事項,考慮事項等も明らかとなる蓋然性が高
いものと推認することができ,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,
これを公にすることにより国の安全が害されるおそれがあると推認するこ
とができる。また,前記アを前提とすると,本件不開示部分4には,イラ
ク以外の特定の地域に係る情勢に関する記述が含まれているのであるから,
これを公にすることにより,当該特定の地域に関する我が国の関心の対象,
分析,評価等を当該特定の地域に存する国又は地域が推察することが可能
となると推認することができるから,事柄の性質上,一般的又は類型的に
見て,これを公にすることにより他国との交渉上不利益を被るおそれがあ
ると推認することができる。
ウ(ア)原告は,本件不開示部分4については,本件文書1を要約した「報
告の主なポイント」(甲4の2)にも「〈我が国の外交努力〉」として,
1頁分以上の記述がある一方で,本件不開示部分4は数行程度の分量で
あって,本件不開示部分4の記述の大半は,「報告の主なポイント」に
おいて明らかにされていると考えるのが合理的であるから,「報告の主
なポイント」における記載と重複する部分については,これを不開示と
する理由は全くない旨主張する。
しかし,被告は,本件不開示部分4は,「報告の主なポイント」中の
「〈我が国の外交努力〉」に対応するものではなく,「報告の主なポイ
ント」には,本件不開示部分4に記録されている情報は記載されていな
い旨主張し,本件全証拠によっても,本件不開示部分4に被告の主張と
異なる情報が記録されていることをうかがわせる事情等は見当たらない
から,「報告の主なポイント」には,本件不開示部分4に記録されてい
る情報は記載されていないと認めるのが相当である。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,外務省が既に公にしている資料(甲7,9)における日本
の安全保障上の取組や安全保障に関する日本の見解に係る記載が相当程
度の分量に及ぶことからして,本件不開示部分4の記載がそれらの公に
されている資料の記載と相当程度重複していることが明らかである旨主
張する。
しかし,前記アにおいて認定した本件不開示部分4に記録されている
情報の内容に照らすと,これと原告が指摘する資料(甲7,9)の記載
が同一である又は類似しているとまでは直ちに認め難い上,本件全証拠
によっても,本件不開示部分4の記載が上記の資料の記載と相当程度重
複していることをうかがわせる事情等も見当たらない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,①仮に,あるテーマに関するある時点における日本の関心
事項等が明らかになったとしても,そのことが情報公開法5条3号にい
う「おそれ」につながるとする被告の主張には飛躍がある,②本件不開
示部分4の分量が数行程度である以上,被告が指摘するような壮大なテ
ーマや内容を具体的かつ詳細に書き尽くすことができるはずがないので
あって,これを公にすることによって,外交及び安全保障関係における
我が国の関心事項並びに政策決定において我が国が考慮している事項を
推測するのは困難である,③既に開示された事項は全て公知の事実を簡
潔かつ客観的に記載したにすぎないものであり,これに続けて記載され
た僅か4行程度の本件不開示部分4の記載から,我が国の関心事項や政
策決定における考慮事項を把握できるとしても,およそ抽象的なレベル
にとどまるなどと主張する。
しかし,前記(3)ウ(ア)に説示したところと同様の理由のほか,既に開
示された事項が全て公知の事実であるとしても,そのことから直ちに,
本件不開示部分4に記録されている情報も全て公知の事実又はこれに類
する事実にとどまるとは認め難いことに照らすと,原告の主張するとこ
ろを踏まえても,外務大臣において,当該情報が安全保障政策上機微な
問題に係る情報であって,本件不開示部分4を公にすることにより,国
の安全が害されるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれが生ず
る蓋然性が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は
社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分4に記録された情報を公に
することにより,国の安全が害されるおそれ又は他国との交渉上不利益を
被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範囲から逸脱し,
又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分4に記録された情報は,情報公開法5条3
号が規定するものに該当すると認められる。
(5)項目「対イラク武力行使支持に至る我が国政府の検討過程・外交努力の概
観」に係る不開示部分(本件不開示部分5)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分5は,20
02年(平成14年)初めから2003年(平成15年)3月に至るまで
の我が国政府内での検討過程及び外交努力についての記述であり,具体的
には,イラク情勢の緊張の高まりを受けて同情勢に対応するために外務省
内でどのような体制が組まれ,どのような情報収集,情報分析又は検討が
行われたか,政府部内でどのような協議が行われたか,我が国と関係国と
の間でどのようなやり取りが行われたか,我が国の動きに対する評価,い
かなる判断の下で対イラク武力行使を支持する旨の政策決定が行われたか,
これらについての本件検証としての分析等について,時系列で因果関係に
従い,省内外での検討又は調整過程,その視点又は方針,政府高官等への
報告,政府高官等からの指示の内容,関係国に対する具体的な働きかけの
内容(公表を前提としない他国との個別具体的なやり取りを含む。),具
体的な情報収集活動及びそれらを踏まえた上での省内外及び政府高官等の
認識又は評価等,機微に触れる事項も含め,記載自体が一定の価値判断や
評価を伴う形で情報が記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分5に記録された情報が情報公開法
5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分5には,対イラク武力行使に関連する我が国の政府内の
検討の過程及び内容に係る具体的な情報が記録されていることになるとこ
ろ,これを公にすることにより,我が国の政策検討又は意思決定の過程,
関心事項,考慮事項等が明らかとなるものと推認することができるから,
対イラク武力行使が国際政治上及び各国の安全保障政策上機微な問題であ
ることにも照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公
にすることにより国の安全を害するおそれがあると推認することができる。
また,本件不開示部分5には,我が国が対イラク武力行使に至る過程でど
のような情報収集活動を行ったか及びそれをどのように分析してその後の
対応に生かしたのかに係る具体的な情報が記録されていることになるとこ
ろ,対イラク武力行使のような機微な問題に係る情報収集能力又は分析能
力という情報は,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にす
ることにより国の安全が害されるおそれがあると推認することができる。
さらに,本件不開示部分5には,他国との個別具体的なやり取りが含まれ
ているところ,これが,上記のような機微な問題に係る個別具体的なやり
取りであることに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,こ
れを公にすることにより,他国との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国
との交渉上不利益を被るおそれがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,本件不開示部分5については,本件文書1を要約した「報
告の主なポイント」(甲4の2)にも,被告が主張する記載内容が全て
登場しているから,「報告の主なポイント」における記載と重複する部
分については,これを不開示とする理由は全くないし,本件不開示部分
5の分量からすると,「報告の主なポイント」(甲4の2)の記載より
も具体的かつ詳細になっていることはあり得ない旨主張する。
しかし,被告は,「報告の主なポイント」は,本件文書1の単なる抜
き書きではなく,公表するために新たに作成されたものであって,内容
の詳細さや具体性に違いがある旨主張し,これに反する事実をうかがわ
せる証拠ないし事情等は見当たらない上,本件全証拠によっても,本件
不開示部分5に「報告の主なポイント」に記載されている文章に係る情
報と同一の情報がそのまま記録されていることをうかがわせる事情等も
見当たらない(むしろ,証拠(甲4の2,乙16)によれば,「報告の
主なポイント」に記載されている情報は,全て開示されているとも解し
得るところである。)から,ある情報の有する意味又は価値が,当該情
報に係る表現の方法,位置,文脈等によっても左右されることにも照ら
すと,原告の主張するところを踏まえても,外務大臣において,当該情
報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本
件不開示部分5を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他
国との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るお
それが生ずる蓋然性が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を
欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①本件不開示部分5に記録されている情報は「日本の外交
努力」(甲9)に記載されている内容と大部分が重複しているものと考
えられる,②本件不開示部分5に記録されている情報が同じ事実につい
て外務省が公にしている資料の記載と大きく異なることは考え難い,③
本件不開示部分5の分量が僅かなものにすぎないことからしても,本件
不開示部分5に記録されている情報から,日本の情報収集能力,情報分
析能力等を推察することは不可能であり,これを公にすることによって
明らかになる内容もたかがしれている,④文字列による切り分けが困難
であるとしても量的に少ないはずの未公表部分から被告が主張するよう
なおそれが生ずるとは考え難いなどと主張する。
しかし,被告は,「日本の外交努力」は,存在を公表しても差し支え
のない会談や報道発表を羅列したものである旨主張し,これに反する事
実をうかがわせる証拠ないし事情等は見当たらないところ,これを前提
とする限り,「日本の外交努力」に記載されているものは,前記アにお
いて認定した本件不開示部分5に記録されている情報の内容とは,少な
くとも質的に異なるものである(なお,証拠(甲9,乙16)によれば,
「日本の外交努力」に記載されている会談等のうち本件文書1の項目「対
イラク武力行使支持に至る我が国政府の検討過程・外交努力の概観」に
記載されたものについては,既に開示されているとも解し得るところで
ある。)と推認することができる。また,その余の原告の主張について
は,これを踏まえても,前記(3)ウ(ア)と同様の理由により,外務大臣の
判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性
を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,将来的に類似の事案が発生する蓋然性があるとの具体的な
根拠はなく,関係国や「類似の事案」についても具体的に特定されてい
ないから,交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性があるとも認められな
い旨主張する。
しかし,前記(3)ウ(イ)と同様の理由により,原告の主張するところを
もっても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念
に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分5に記録された情報を公に
することにより,国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係が損なわ
れるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれがあると判断したこと
をもって,その裁量権の範囲から逸脱し,又はこれを濫用したということ
はできない。
したがって,本件不開示部分5に記録された情報は,情報公開法5条3
号が規定するものに該当すると認められる。
(6)項目「情報収集についての検証」に係る不開示部分(本件不開示部分6)
について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分6には,他
国のイラクにおける大量破壊兵器の隠匿に関する評価又は分析に係るもの
のほか,特に注目すべき情報を挙げて,どういった相手方から,どの程度
の回数当該情報を入手したのかという内容も含む収集した情報の種類,内
容,数,収集先,収集に係る視点,収集の手法及び収集先の対応について
の傾向,多く収集することができた情報の種類並びに一方で十分に収集す
ることのできなかった情報の種類に加え,情報収集に係る在外公館を含む
省内外における指示内容及び報告状況に係る経緯,政策決定を行うに当た
りどのような情報を収集しようとしたか等についての検証結果が,その記
載自体に評価又は分析を伴う形で記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分6に記録された情報が情報公開法
5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分6には,我が国の情報収集の対象に係る関心事項,情報
収集能力又は分析能力等が明らかになる情報が記録されているものと推認
することができるから,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを
公にすることにより国の安全を害するおそれ又は他国との交渉上不利益を
被るおそれがあると推認することができる。また,本件不開示部分6には,
他国が収集した対イラク武力行使に係る情報及びその分析,情報収集先,
情報源等が明らかになる情報が記録されているものと推認することもでき
るから,それが対イラク武力行使のような国際政治上及び安全保障政策上
機微な問題に係る情報源等であることにも照らすと,事柄の性質上,一般
的又は類型的に見て,これを公にすることにより他国との信頼関係が損な
われるおそれがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,「当時の情報
源のほとんどが各国政府及び国際機関関係者であったと見受けられるこ
とに鑑み,国内外の専門家の意見や分析を一層活用すること」との記載
があり,上記の各国政府についても,米国に加え,「英,仏,独,イラ
ク,イラク周辺国等」との記載があり,上記の国際機関が国連であるこ
とも明らかであるから,少なくとも主要な情報収集先については,秘匿
する必要性はなく,かつ,秘匿する必要性に関する被告の説明も抽象的
なものにとどまっている上,例えば,オーストラリアは,情報提供先で
ある国際機関,各国の外交ルート,情報機関等を公表しているから,被
告が本件不開示部分6を開示したとしても,極めて抽象的なおそれを超
えて他国との信頼関係が損なわれるおそれはない旨主張する。
しかし,被告は,本件不開示部分6には,「報告の主なポイント」で
既に公開されている情報と比較してより具体的な情報収集先又は情報収
集の方法若しくは内容が記載されている旨主張し,これに反する事実を
うかがわせる証拠ないし事情等は見当たらない上,本件全証拠によって
も,本件不開示部分6に「報告の主なポイント」に記載されている文章
に係る情報と同一の情報がそのまま記録されていることをうかがわせる
事情等も見当たらないから,ある情報の有する意味又は価値が,当該情
報に係る表現の方法,位置,文脈等によっても左右されることにも照ら
すと,原告の主張するところを踏まえても,外務大臣において,当該情
報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本
件不開示部分6を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他
国との信頼関係を損ねるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれ
が生ずる蓋然性が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,
又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①追加的に開示された部分がいずれも抽象的又は一般的な
認識又は評価を示す記述にすぎないことからも,本件不開示部分6の全
てが情報収集についての具体的方法や内容に係る記述であるとは考え難
い,②本件不開示部分6の分量のうち具体的な事実,認識又は評価に係
る記述は,個々の小項目ごとに僅か数行程度ずつであることからしても,
それほど具体的な記述があるとは考えられない,③文字列で記載された
報告書について公表されている部分と非公表の部分を切り分けることが
容易ではないとは考えられないなどと主張する。
しかし,前記(3)ウ(ア)に説示したところと同様の理由のほか,追加的
に開示された部分が全て抽象的又は一般的な認識又は評価を示す情報に
すぎないとしても,そのことから直ちに,本件不開示部分6に記録され
ている情報も全て抽象的若しくは一般的な認識若しくは評価を示す情報
又はこれに類する事実にとどまるとは認め難いこと及び文字列を機械的
に区分することと当該文字列に含まれる情報を区分することとは質的に
異なるものであって,文字列であるためにそれを機械的に区分すること
が容易であることをもって直ちに,当該文字列に含まれる情報を区分す
ることも容易であるとまでは認め難いことに照らすと,原告の主張する
ところを踏まえても,外務大臣において,当該情報が国際政治上及び安
全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本件不開示部分6を公に
することにより,国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係を損ね
るおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高い
ものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照ら
し著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,対イラク武力行使についての情報収集活動を一定程度具体
的に明らかにしたからといって,対イラク武力行使から15年以上経過
した現在又は将来において,他の外交課題について,関係国が開示され
た情報に基づき,自国を利し,我が国の利益を害する戦略をとることが
容易になるとはとても考えられない旨主張する。
しかし,これまでに説示したところを前提とすると,我が国の対イラ
ク武力行使についての情報収集活動が対イラク武力行使に特有のもので
あって,およそ他の事象に係る情報収集活動の参考とならないとまでは
認め難いから,他国がこれを参考として,我が国の利益を害する戦略を
とる一助とする蓋然性自体は存在するものと推認することができ,原告
の主張するところをもっても,外務大臣において,当該情報が国際政治
上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本件不開示部分
6を公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関
係を損ねるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然
性が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通
念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(エ)原告は,①米国が対イラク武力行使に至る米国の情報機構の活動を
検証し,情報収集先や得た情報の内容,評価の誤り,検証から得られた
教訓等の記述を含む600頁以上にわたる報告書を公表している,②英
国を始めとする諸外国は,当時のイラク情勢に関する評価及び分析を公
にしており,英国については,他国の首脳及び高官の具体的氏名及び具
体的日時を明示した上で会合又は会話の内容を詳細に含んだ検証結果報
告も公表しているから,情報提供元を公にしないとの国際慣行があると
は考えられない旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,本件不開示部分6に記録されている
情報と原告が指摘する諸外国の報告書において公表されている事実に係
る情報が同一であることをうかがわせる事情等は見当たらないから,原
告の主張するところをもって直ちに,本件不開示部分6に記録されてい
る情報を公にしても差し支えがないとか,情報提供元を公にしないとの
国際慣行があるとはいえないとかいうことまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分6に記録された情報を公に
することにより,国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係を損ねる
おそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれがあると判断したことをも
って,その裁量権の範囲から逸脱し,又はこれを濫用したということはで
きない。
したがって,本件不開示部分6に記録された情報は,情報公開法5条3
号が規定するものに該当すると認められる。
(7)項目「分析についての検証」に係る不開示部分(本件不開示部分7)につ
いて
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分7には,対
イラク武力行使に関係するいくつかの特定の問題(武力行使により生じ得
る影響)ないし動向に関して収集された情報を踏まえ,それらに関する情
報分析の手法や分析過程に関する評価,作成された資料の内容及びその用
途並びにそれらの共有のあり方(資料の作成過程を含む。)に関する評価
が4つの項目に分けて記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分7に記録された情報が情報公開法
5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分7には,我が国の情報収集の対象に係る関心事項,情報
収集能力又は分析能力等が明らかになる情報が記録されているものと推認
することができるから,情報収集能力又は分析能力等に係る情報が国際政
治上及び安全保障政策上これを機密にしておく必要性の高いものであると
いえることに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを
公にすることにより国の安全を害するおそれ又は他国との交渉上不利益を
被るおそれがあると推認することができる。また,本件不開示部分7には,
我が国が収集した対イラク武力行使に係る情報及びその分析,その結果と
して我が国が有するに至った対イラク武力行使に関する認識等が明らかに
なる情報が記録されているものと推認することができるから,対イラク武
力行使が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であること
にも照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にする
ことにより他国との交渉上不利益を被るおそれがあると推認することがで
きる。
ウ(ア)原告は,米国は,対イラク武力行使に至る段階で,どのような情報
に基づいてイラクがどのような兵器を有していたと米国がその当時に認
識していたかを振り返り,当時の判断に含まれていた誤りを,事後的に
得られた情報と対照しながら指摘しているから,日本の場合のみ,同様
の事項を公表したために日本の安全が害されるおそれ等が生ずるとは考
えられないし,仮に,本件不開示部分7に記載された内容が,将来,い
ずれかの国の武力行使に係る事案についても一定程度当てはまるとすれ
ば,それは時代や情勢の変化によって左右されないような他国も当然に
把握しているごく一般的な情報収集手法又は分析手法であるから,他国
がこれを知ったとしても,日本の対応等を正確に予測することなどでき
ないといえる旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,本件不開示部分7に記録されている
情報と米国が公表しているとされる事実に係る情報が同一であることを
うかがわせる事情,又は本件不開示部分7に記録されている情報収集手
法又は分析手法がごく一般的なものにすぎないことをうかがわせる事情
等は見当たらないから,原告の主張するところをもって直ちに,本件不
開示部分7に記録されている情報を公にしても差し支えがないとまでは
認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,「イラクを巡る情勢の経緯」(甲6)には,当該不開示部
分の分量以上の分量を割いてイラクをめぐる情勢の経緯が説明され,「日
本の外交努力」(甲9)には,対イラク武力行使の平和的解決のために
いかなる外交努力をしたのかが具体的に記載されているから,被告の主
張は,抽象的なおそれを指摘するものにすぎない旨主張する。
しかし,被告は,「イラクを巡る情勢の経緯」及び「日本の外交努力」
は,いずれも,存在を公表しても差し支えのない安保理の決議,イラク
の査察妨害等の事実経過,会談,報道発表等を羅列したものである旨主
張し,これに反する事実をうかがわせる証拠ないし事情等は見当たらな
いところ,これを前提とする限り,「イラクを巡る情勢の経緯」及び「日
本の外交努力」に記載されているものは,前記アにおいて認定した本件
不開示部分7に記録されている情報の内容とは,少なくとも質的に異な
るものであると推認することができ,外務大臣において,本件不開示部
分7に記録されている情報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題
に係る情報であって,本件不開示部分7を公にすることにより,国の安
全が害されるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋
然性が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会
通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,15年以上前の対イラク武力行使をめぐるイラク情勢につ
いて,1頁にも満たない概括的な報告文書を公開したことにより,国の
安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがあると
は考えられない旨主張する。
しかし,これまでに説示したところを前提とすると,前記(6)ウ(ウ)と
同様,我が国の対イラク武力行使についての情報収集活動又は分析活動
が,対イラク武力行使に特有のものであって,およそ他の事象に係る情
報収集活動等の参考とならないとまでは認め難いから,他国がこれを参
考として,我が国の利益を害する戦略をとる一助とする蓋然性自体は存
在するものと推認することができる。そして,その余の主張については,
前記(3)ウ(ア)と同様であるから,結局,原告の主張するところをもって
も,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照ら
し著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(エ)原告は,①将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的
な根拠に基づくものではなく,類似の事案が何を指すのかも不明確であ
るし,関係国についても何ら具体的に特定されていないだけではなく,
日本がどのような他国との関係でいかなる不利益を被るのか,どのよう
な理由で日本の安全が害されるのかについての具体的な説明はなく,抽
象的な主張にとどまる,②特定の文章に一定の価値判断や評価を伴うの
は当然のことであって,そのことから直ちに情報公開法5条3号に該当
するものと認められるわけではない,③具体的事実を挙げることなく,
評価のみを書き連ねることは不可能又は困難であるから,本件不開示部
分7には,イラク情勢に関する具体的事実の経過に関する記載も含まれ
ているはずであり,少なくともそれらの事実経過については,既に公開
されている情報と同一であるから,開示すべきであるなどと主張する。
しかし,ある情報の有する意味又は価値が,当該情報に係る表現の方
法,位置,文脈等によっても左右されること,及び本件全証拠によって
も,本件不開示部分7に記録されている情報にイラク情勢に関する具体
的事実の経過に関する記載が含まれていることをうかがわせる事情等が
見当たらないことに加え,前記(3)ウ(イ)と同様の理由により,原告の主
張するところを踏まえたとしても,外務大臣の判断が,重要な事実の基
礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分7に記録された情報を公に
することにより,国の安全が害されるおそれ又は他国との交渉上不利益を
被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範囲から逸脱し,
又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分7に記録された情報は,情報公開法5条3
号が規定するものに該当すると認められる。
⑻項目「検討・意思決定プロセス」に係る不開示部分(本件不開示部分8)
について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分8には,外
務省内及び政府部内でどのような手続を経て対イラク武力行使をめぐる政
策検討及び意思決定がされたのかという対イラク武力行使の問題に係る検
討及び意思決定過程(特に,外務省内における関係局内の協議の具体的な
開催状況,官邸との密接な協議状況並びに検討及び意思決定プロセスにお
いて考慮された事項),それに対する本件検証としての評価等について,
具体的な内容が記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分8に記録された情報が情報公開法
5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分8には,我が国の具体的な政策の形成過程又は政策を形
成する際の関心事項に係る具体的な内容の情報が記録されているものと推
認することができるから,これを公にすることにより,他国が我が国の政
策の形成過程に応じた対応を取ったり,我が国の関心事項に応じた外交上
の対処を講じたりすることが可能となるといえることに照らすと,事柄の
性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にすることにより他国との交
渉上不利益を被るおそれがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,新聞記事(甲10)や「55人が語るイラク戦争」(甲1
1)には,政府部内における政策検討又は意思決定プロセスの具体的な
内容に関する記述及びその検討,意思決定プロセスにおいて考慮された
事項等に係る具体的な記述が存するところ,上記の書籍は,朝日新聞の
ジャーナリストが内閣の構成員に対してしたインタビューに基づき,当
時の政府の動きについて,インタビューの対象者の発言内容を具体的に
引用して説明したものであり,当該発言等は正確であると考えられるか
ら,当該発言と同一の内容の情報が記載された部分については,不開示
とすべき理由はない旨主張する。
しかし,原告が指摘する新聞記事又は書籍(甲10及び11)はいず
れも,当該記事又は書籍の発行主体又は執筆者が認識又は理解した事実
等が記載されているものであり,我が国の政府が保有している情報又は
認識と完全に趣旨,内容等が一致しているものとまでは認め難いから,
上記の書籍に対イラク武力行使に関する我が国の政府部内における政策
検討又は意思決定の過程の具体的な内容に関する記述及びその検討又は
意思決定の過程において考慮された事項等に係る具体的な記述が存する
としても,そのことから直ちに,当該記述に係る情報が既に公にされて
いるものとまでは認め難く,上記の新聞記事についても同様であって,
原告の主張するところを踏まえたとしても,外務大臣において,本件不
開示部分8に記録されている情報が安全保障政策上機微な問題に係る情
報であって,本件不開示部分8を公にすることにより,他国との交渉上
不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いものと判断したことが,重要
な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまで
は認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,オランダは,対イラク武力行使への政治的支持に至るプロ
セスについて,調査委員会を組織し,その調査結果として551頁にわ
たる報告書を公表し,その中では,政治的な意思決定の経過,与党が行
った連立協議が意思決定に及ぼした影響,オランダの情報機関の役割等
の対イラク武力行使を支持した経緯が詳細に記録されているところ,大
量破壊兵器が存在することを理由として対イラク武力行使がされたにも
かかわらず,後に大量破壊兵器が存在しなかったという事実について事
後的に検証をしたという点で本件検証と共通点があり,かつ,オランダ
も,調査結果を公表することによって自国が将来外交交渉上不利益を受
けること等がないよう配慮した上で詳細な検証結果報告を公表している
ことからすると,日本が同様の情報を開示したとしても,他国との交渉
上不利益を被るおそれはない旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,本件不開示部分8に記録されている
情報とオランダが公表しているとされる事実に係る情報が同一であるこ
とをうかがわせる事情等は見当たらないから,原告の主張するところを
踏まえたとしても,外務大臣において,本件不開示部分8に記録されて
いる情報が安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本件不開示
部分8を公にすることにより,他国との交渉上不利益を被るおそれが生
ずる蓋然性が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又
は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,①本件不開示部分8の分量が半頁もないことからすると,
前記(ア)の書籍や新聞記事以上に具体的で詳細な情報が記載されている
のか,大いに疑問である,②オランダが公表している報告書と比較して
本件文書1の分量がごく僅かであって,それほど詳細な内容が記載され
ているとは考えられない,③本件文書1が原資料を取捨選択,抽象化し
て作成されたものであって,必然的に原資料よりも相当程度抽象化され
た記載となり,少ない分量での記述になっていると考えられることから
すると,開示しないことに値するだけの具体的な内容が含まれるために
は,必然的にある程度の字数を必要とするはずであるから,本件不開示
部分8の分量が少ないこととは整合しない旨主張する。
しかし,前記(3)ウ(ア)に説示したところと同様,原告の主張するとこ
ろをもっても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会
通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(エ)原告は,①将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的
な根拠に基づくものではなく,類似の事案が何を指すのかも不明確であ
るし,関係国についても何ら具体的に特定されていない,②本件不開示
部分8には,日本の行政組織をある程度詳細に知る者であれば容易に知
り得る外務省と官邸との協議,検討,意思決定内容等の通常の政策決定
プロセスそのものが書かれているにすぎない,③政府内での政策検討又
は決定プロセスに関する具体的な内容が一定程度公表されたとしても,
日本の対応が推測され,日本が他国との交渉上不利益を被るおそれがあ
るとは考えられない,④文字列で記載された報告書についてその区別が
容易ではないと考えられない上,公表されている情報と同一の情報が含
まれていることを被告も認めていることからすると,現状の決定は,本
来であれば開示すべき情報も区別することなく不開示としていることが
明らかであって,取消しを免れない旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,本件不開示部分8に記録されている
情報が,原告が上記②又は③に主張する内容のものであることをうかが
わせる事情等は見当たらない。また,ある情報の有する意味又は価値が,
当該情報に係る表現の方法,位置,文脈等によっても左右されること(な
お,証拠(甲4の2,乙16)によれば,既に公表されている情報と同
一の情報は,現時点では開示されているものとうかがわれる。)に加え,
前記(6)ウ(イ)に説示したところと同様の理由により,原告の主張すると
ころを踏まえたとしても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,
又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分8に記録された情報を公に
することにより,他国との交渉上不利益を被るおそれがあると判断したこ
とをもって,その裁量権の範囲から逸脱し,又はこれを濫用したというこ
とはできない。
したがって,本件不開示部分8に記録された情報は,情報公開法5条3
号が規定するものに該当すると認められる。
(9)項目「武力行使の支持に至るプロセス」に係る不開示部分(本件不開示部
分9)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分9には,2
002年(平成14年)初め以降,我が国が対イラク武力行使に対する支
持を表明するに至るまでの政策決定過程について,国際社会において我が
国に期待される役割,我が国が取るべき態度等について,各選択肢の問題
点及びその解決方法を国内で検討し,各国と協議した過程を含め,上記の
期間を通じての外務省による情勢の認識,政府部内でのやり取り,外交努
力の内容や具体的やり取り(我が国政府及び関係国政府の高官の氏名を記
載するとともに,外交交渉の相手方の情勢の認識や意図を推知し得る相手
方の具体的な発言内容も含む。),政策決定を行う際の判断要素(国際情
勢,二国間関係等),あり得べき政策決定の内容とその留意事項等につい
て,対イラクのみならず,国際社会,関係国,安保理等多方面にわたる関
係や影響も含めた分析,評価等が記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分9に記録された情報が情報公開法
5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分9には,関係国政府の高官の氏名を記載するとともに,
外交交渉の相手方の情勢の認識や意図を推知し得る相手方の具体的な発言
内容も含まれているというのであるから,事柄の性質上,一般的又は類型
的に見て,これを公にすることにより他国との信頼関係が損なわれるおそ
れがあると推認することができる。また,本件不開示部分9には,我が国
の具体的な政策の形成過程又は政策を形成する際の関心事項に係る具体的
な内容の情報が記録されているものと推認することができるから,これを
公にすることにより,他国が我が国の政策の形成過程に応じた対応を取っ
たり,我が国の関心事項に応じた外交上の対処を講じたりすることが可能
となるといえることに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,
これを公にすることにより他国との交渉上不利益を被るおそれがあると推
認することができる。
ウ(ア)原告は,「日本の外交努力」(甲9)には,日本政府が行った外交
努力が具体的に記載され,「55人が語るイラク戦争」(甲11)には,
我が国が対イラク武力行使の支持を表明する直前の小泉首相及び福田康
夫内閣官房長官(当時)とパウエル国務長官との会談の内容が具体的に
記載されているほか,新聞記事(甲10)には,駐日中国大使と外務事
務次官との具体的なやり取りが報道されている旨主張する。
しかし,「日本の外交努力」に記載された情報は,前記(7)ウ(イ)と同
様,前記アにおいて認定した本件不開示部分9に記録されている情報の
内容とは,少なくとも質的に異なるものであると推認することができ,
「55人が語るイラク戦争」及び上記の新聞記事には,前記⑻ウ(ア)と
同様,当該書籍又は記事の発行主体又は執筆者が認識又は理解した事実
等が記載されているものであって,我が国の政府が保有している情報又
は認識と完全に趣旨,内容等が一致しているものとまでは認め難いから,
上記の書籍又は記事に具体的な政策の形成過程又は政策を形成する際の
関心事項に係る具体的な記述が存するとしても,そのことから直ちに,
当該記述に係る情報が既に公にされているものとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的
な根拠に基づくものではなく,類似の事案が何を指すのかも不明確であ
るし,関係国についても何ら具体的に特定されていない,②対イラク武
力行使から15年以上経過している現在,対イラク武力行使の当時の国
際情勢や二国間関係等とは大きく異なっているから,15年前の概括的
な記載又は一般的要素若しくは視点を公開したとしても,日本に不利益
が生ずるとは考えられない,③文字列で記載された報告書についてその
区別が容易ではないと考えられない上,公表されている情報と同一の情
報が含まれていることを被告も認めていることからすると,本件処分は,
本来であれば開示すべき情報も区別することなく不開示としていること
が明らかであって,取消しを免れない旨主張する。
しかし,前記(6)ウ(ウ)及び前記⑻ウ(エ)に説示したところと同様の理
由により,原告の主張するところを踏まえたとしても,外務大臣の判断
が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠
くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,関係国又は他国との信頼関係が損なわれるおそれがあると
いえるためには,①関係国の当時の情勢認識や意図又はそれを推察し得
る発言内容が,当該関係国又は他国によって公表されたことがなく,日
本だけが公表する場合であること,②第三国は,日頃,当該関係国の出
方を推察しているはずであるから,日本が公開する情報が当該第三国に
よる当該関係国の出方の推察を変更させるようなインパクトを持つこと,
③第三国による当該関係国の出方の推察を変更させた原因が日本の行為
にあることを当該関係国が知ったことの全てが必要であるところ,当該
関係国の当時の情勢認識や意図が,原因を誤った対イラク武力行使の当
時のものという特殊なもので,類似の問題が生じた場合が想定し難いこ
とも踏まえると,第三国が,当該関係国の当時の情勢認識や意図を手が
かりとして,類似の問題が生じた場合に当該関係国の出方を推察するこ
とが可能となるというような複雑な因果の流れが法的保護に値する蓋然
性のあるものとは到底考えられない旨主張する。
しかし,原告の主張するところを踏まえても,本件不開示部分9に記
録されている情報が,他国によって公表されているものであること,又
は他国の見方を変更させるようなインパクトがないものにすぎないこと
をうかがわせるものとはいえず,他に,本件不開示部分9に記録されて
いる情報が,他国によって公表されているものであること,又は他国の
見方を変更させるようなインパクトがないものにすぎないことをうかが
わせる事情等も見当たらないから,原告の主張するところをもっても,
直ちに,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に
照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(エ)原告は,英国の報告書には,英国と他国との協議内容が詳細に記載
されて公表され,オランダの報告書にも,オランダと他国との協議内容
が記載され,公表されている旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,本件不開示部分9に記録されている
情報と英国又はオランダが公表しているとされる事実に係る情報が同一
であることをうかがわせる事情等は見当たらないから,原告の主張する
ところを踏まえたとしても,外務大臣において,本件不開示部分9に記
録されている情報が安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本
件不開示部分9を公にすることにより,他国との信頼関係が損なわれる
おそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いも
のと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし
著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分9に記録された情報を公に
することにより,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉
上不利益を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範囲
から逸脱し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分9に記録された情報は,情報公開法5条3
号が規定するものに該当すると認められる。
(10)項目「米側への働きかけ」に係る不開示部分(本件不開示部分10)に
ついて
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分10には,
2002年(平成14年)8月以降,対イラク武力行使に至るまでの我が
国から米国の側への様々なレベルでの働きかけの内容及びその重点,我が
国の意図,我が国からの働きかけに対する米国からの反応並びに我が国が
行った働きかけの評価(我が国が,米国との関係で重要と考える要素に関
する記載も含む。)について,実際に会談等を行った我が国政府及び米国
政府の高官の氏名を特定した上での個別具体的なやり取りの内容に関する
記載に加え,米国の情勢認識及び意図を推察し得る情報も記録されている
ことが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分10に記録された情報が情報公開
法5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分10には,我が国が米国に対してした働きかけに係る個
別具体的なやり取りの内容及び評価,それに対する米国の反応,認識及び
意図並びにこれらに対する我が国の評価が明らかになる具体的な情報が記
録されているものと推認することができるから,これを公にすることによ
り,米国が公開することを欲していない情報を公開する状況に陥ったり,
米国が認識していない我が国の評価等が公となったりする可能性があるこ
とに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にする
ことにより他国との信頼関係が損なわれるおそれがあると推認することが
できる。また,本件不開示部分10には,2002年(平成14年)8月
以降のイラク情勢に関する我が国の認識,関心事項等が記録されているも
のと推認することができ,これを公にすることにより,イラク及びその周
辺国が,我が国の関心の対象,分析,評価等を推察することが可能となる
から,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にすることによ
り他国との交渉上不利益を被るおそれがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,米国に対して
武力行使の前に外交的手段を尽くすべきであり,国際的連帯が必要であ
るとの考え方を繰り返し伝達した旨の記載があるところ,平和憲法を有
する日本がこのような態度を取ることは当然であるし,米国への働きか
けの内容が公表されているということができるほか,結局,このような
日本の働きかけが功を奏さずに米国が開戦に踏み切ったことも公知の事
実である上,「日本の外交努力」(甲9)及びその関連情報(甲19の
1ないし6)にも,米国に働きかけをした日本側の者やこれに対応した
米国側の者の氏名が記載されるとともに,誰がどのような趣旨の発言を
したのかが日付とともに克明に記録されて公表されており,米国への働
きかけの具体的内容が記載されている旨主張する。
しかし,「報告の主なポイント」については,前記(5)ウ(ア)と同様,
被告は,「報告の主なポイント」は,本件文書1の単なる抜き書きでは
なく,公表するために新たに作成されたものであって,内容の詳細さや
具体性に違いがある旨主張し,これに反する事実をうかがわせる証拠な
いし事情等は見当たらない上,本件全証拠によっても,本件不開示部分
10に「報告の主なポイント」に記載されている文章に係る情報と同一
の情報がそのまま記録されていることをうかがわせる事情等も見当たら
ない(なお,証拠(甲4の2,乙16)によれば,既に公表されている
情報と同一の情報は,現時点では開示されているものとうかがわれる。)
から,ある情報の有する意味又は価値が,当該情報に係る表現の方法,
位置,文脈等によっても左右されることにも照らすと,原告の主張する
ところを踏まえても,外務大臣において,本件不開示部分10に記録さ
れている情報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報で
あって,本件不開示部分10を公にすることにより,他国との信頼関係
が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋
然性が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会
通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。また,「日本の外
交努力」及びその関連情報については,前記(7)ウ(イ)と同様,前記アに
おいて認定した本件不開示部分10に記録されている情報の内容とは,
少なくとも質的に異なるものであると推認することができ,やはり,原
告の主張するところをもっても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎
を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①半頁程度の僅かばかりの分量に収められたやり取りの内
容に関する記載を開示することに支障があるとは考えられない,②本件
文書1が検証結果をとりまとめた報告書であって,原資料を取捨選択,
抽象化して作成されたものであり,必然的に原資料よりも相当程度抽象
化された記載となって,少ない分量での記述になっていると考えられる
ことからすると,非公開を前提に行った米国との個別具体的なやり取り
の内容が記載できるとは考えられない,③米国は,600頁以上の詳細
な検証報告書を作成して公表しており,英国も米国とのやり取りを詳細
かつ具体的に,相当の分量を割いて記載し,公表しているから,日本だ
けが僅かな分量に記載された程度の米国のやり取りを非公開とする根拠
はない,④将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な根
拠に基づくものではなく,類似の事案が何を指すのかも不明確であるし,
関係国についても何ら具体的に特定されていない,⑤文字列で記載され
た報告書についてその区別が容易ではないと考えられない上,公表され
ている情報と同一の情報が含まれていることを被告も認めていることか
らすると,本件処分は,本来であれば開示すべき情報も区別することな
く不開示としていることが明らかであって,取消しを免れない,⑥どの
会談を抽出して本件文書1に記載したという事実を他国がどのように利
用することができるのか不明である,⑦報告書をまとめる過程で主だっ
た事実経過を記載する程度の分量に圧縮すること自体はごく普通のこと
であって,圧縮前は公表することができるものが,圧縮する過程で取捨
選択をしたとたんに情報公開法5条3号にいう「おそれ」が生ずるとは
およそ考えられないなどと主張する。
しかし,前記(3)ウ,前記(6)ウ(エ)及び前記⑻ウ(エ)に説示したとこ
ろと同様の理由により,原告の主張するところを踏まえても,外務大臣
の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当
性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分10に記録された情報を公
にすることにより,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交
渉上不利益を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範
囲から逸脱し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分10に記録された情報は,情報公開法5条
3号が規定するものに該当すると認められる。
(11)項目「米国以外の各国への働きかけ」に係る不開示部分(本件不開示部
分11)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分11には,
米国以外の関係各国に対するイラク情勢への対応についてどのような外交
努力をしたかということについて,我が国の公式又は非公式レベルでの働
きかけに関する具体的な調整や協議の経過,働きかけの具体的内容及び意
図,当該関係各国に対して我が国が有していた外交方針,それに対する相
手国又は関係国の反応及び評価等に加え,このような外交交渉の効果に対
する本件検証としての評価等が,同種の出来事をまとめるなどした上で評
価と事実が一体となった文章により記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分11に記録された情報が情報公開
法5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分11には,我が国が関係各国に対してした働きかけの内
容の詳細,それに対する関係各国の反応に関する我が国の評価等が明らか
になる具体的な情報が記録されているものと推認することができるから,
これを公にすることにより,他国が公開することを欲していない情報を公
開する状況に陥ったり,他国が認識していない我が国の評価等が公となっ
たりする可能性があることに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的
に見て,これを公にすることにより他国との信頼関係が損なわれるおそれ
があると推認することができる。また,本件不開示部分11には,イラク
情勢に関する我が国の認識,関心事項等が記録されているものと推認する
ことができ,これを公にすることにより,イラク及びその周辺国が,我が
国の関心の対象,分析,評価等を推察することが可能となるから,事柄の
性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にすることにより他国との交
渉上不利益を被るおそれがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,日本が,①当初から一貫して,国連を中心とした平和的解
決を目指すとともに,国際的な連帯を確保して問題解決を図ることが重
要との観点から外交努力を行ったこと,②イラクの査察受入れが飽くま
でも第一であること,そのためにも国際的なコンセンサスを形成する努
力が必要であること等の基本的な考え方をとりまとめたこと,③米国以
外の関係各国に対し,イラクによる査察の無条件受入れに向けた新たな
安保理の決議の採択について累次働きかけを行ったこと,④2002年
(平成14年)11月に安保理決議1441が採択されたことを受けて,
2003年(平成15年)2月下旬から同年3月の対イラク武力行使が
される直前まで継続的に,事態の平和的解決に向けて国際協調の維持と
イラクの査察受入れのための外交努力を継続して実施したこと及び⑤イ
ラクに対しては無条件の査察受入れを粘り強く働きかけ,安保理の理事
国に対してはイラクの決議履行を促すための追加の安保理の決議の採択
を目指すよう累次の働きかけを実施し,イラクの周辺国に対しては総理
大臣特使の派遣等を通じてイラクによる査察受入れの重要性について働
きかけたことの各事実は,全て「報告の主なポイント」(甲4の2)に
記載されており,「報告の主なポイント」には,働きかけの内容のみな
らず,働きかけを行う背景に当たる日本の働きかけの狙いなど,本件不
開示部分11に記載されていると考えられる基本的な方向性も記載され
ている旨主張する。
しかし,「報告の主なポイント」については,前記(5)ウ(ア)と同様,
被告は,「報告の主なポイント」は,本件文書1の単なる抜き書きでは
なく,公表するために新たに作成されたものである反面,本件不開示部
分11には関係各国との間における具体的な外交交渉の内容も記載され
ているなど,「報告の主なポイント」と本件不開示部分11とでは,内
容の詳細さや具体性に違いがあるほか,本件不開示部分11には,関係
各国に対して働きかけを行った意図,働きかけに対する相手国又は関係
国の反応,働きかけに対する評価等の「報告の主なポイント」には記載
されていない情報も記載されている旨主張し,これに反する事実をうか
がわせる証拠ないし事情等は見当たらない上,本件全証拠によっても,
本件不開示部分11に「報告の主なポイント」に記載されている文章に
係る情報と同一の情報がそのまま記録されていることをうかがわせる事
情等も見当たらない(むしろ,証拠(甲4の2,乙16)によれば,「報
告の主なポイント」に記載されている情報は,現時点においては全て開
示されているとも解し得るところである。)から,原告が主張するとこ
ろを踏まえたとしても,外務大臣において,本件不開示部分11に記録
されている情報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報
であって,本件不開示部分11を公にすることにより,他国との信頼関
係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる
蓋然性が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社
会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,「日本の外交努力」(甲9)には,「対イラク」,「対中
東諸国」及び「対国連安保理常任理事国」に分けて,時系列で詳細に,
米国以外の関係国に行った働きかけも含めた具体的な事実が記載されて
おり,「55人が語るイラク戦争」(甲11)にも,具体的な説明があ
るほか,川口外相は,平成15年(2003年)3月の会見において,
ドイツ,英国,ギニア及びカメルーンに新たな安保理の決議の採択に向
けて働きかけたことや,アンゴラの当時の外務大臣,ブッシュ大統領,
パキスタンの当時の大統領及びチリの当時の大統領とも会談した旨を明
らかにしており,米国以外の各国への働きかけについての相手国の名前
や会談相手も明らかにしている(甲34)旨主張する。
しかし,「日本の外交努力」については,被告は,本件不開示部分1
1には,「日本の外交努力」には記載のない関係各国とのやり取りや評
価が具体的かつ詳細に記録されている旨主張し,これに反する事実をう
かがわせる証拠ないし事情等は見当たらず,かつ,前記(7)ウ(イ)と同様,
前記アにおいて認定した本件不開示部分11に記録されている情報の内
容とは,少なくとも質的に異なるものであると推認することができる。
また,「55人が語るイラク戦争」については,前記⑻ウ(ア)と同様,
我が国の政府が保有している情報又は認識と完全に趣旨,内容等が一致
しているものとまでは認め難いから,原告が主張するところを踏まえた
としても,外務大臣において,本件不開示部分11に記録されている情
報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本
件不開示部分11を公にすることにより,他国との信頼関係が損なわれ
るおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高い
ものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照ら
し著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,①本件不開示部分11が1頁にも満たない分量である上に,
公開されている部分の記載がいずれも概括的な文章にとどまっているこ
とに照らすと,本件不開示部分11に,既に公開されている情報以上の
外交努力の経緯や内容が記載されていることは疑わしく,概括的な記述
がされているにすぎないことが合理的に推測される,②ごく限られた分
量の概括的な記載から,仮に,日本が何らかの検討や比較衡量を行った
ことを関係国が知ったとしても,いずれの国も行うであろう検討や比較
衡量について述べた程度であれば,そのことから,日本が他国との交渉
上不利益を被るおそれがあるといえるほどに関係国が日本の対応を正確
に予測することなどできない,③前記(ア)①から⑤までのような働きか
けをすることは,平和主義を憲法上の原則として掲げる日本政府の外交
努力として当然に行うべきことであるから,それが仮に具体的に記載さ
れていたとしても,それを開示したからといって他国との交渉で不利益
を被るとは考えられないなどと主張する。
しかし,前記(3)ウ(ア)に説示したところと同様の理由に加え,本件不
開示部分11に記録されている情報が,いずれの国も行うであろう検討
や比較衡量について述べた程度のものである又は我が国の政府が当然に
行うべきことであって開示したからといって他国との交渉で不利益を被
ることがない内容のものにとどまっていることをうかがわせる証拠ない
し事情等は見当たらないから,原告の主張するところを踏まえても,外
務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著し
く妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分11に記録された情報を公
にすることにより,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交
渉上不利益を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範
囲から逸脱し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分11に記録された情報は,情報公開法5条
3号が規定するものに該当すると認められる。
⑿項目「武力行使の法的側面」に係る不開示部分(本件不開示部分12)に
ついて
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分12には,
対イラク武力行使にしかるべき法的根拠を持たせるための我が国の見解,
当時我が国として連携を重視していた特定の国との調整や当該特定の国に
対する我が国の評価等,当該調整及び外交努力の具体的態様及び結果が記
録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分12に記録された情報が情報公開
法5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分12には,対イラク武力行使の法的根拠についての我が
国と他国との外交上の具体的なやり取り,その評価等が明らかになる具体
的な情報が記録されているものと推認することができるから,これを公に
することにより,他国が公開することを欲していない情報を公開する状況
に陥ったり,他国が認識していない我が国の評価等が公となったりする可
能性があることに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,こ
れを公にすることにより他国との信頼関係が損なわれるおそれがあると推
認することができる。また,本件不開示部分12には,対イラク武力行使
の法的根拠に関する我が国の態度,当該態度を取る意図,当該意図に基づ
く外交的努力の詳細等が具体的に記録されているものと推認することがで
き,これを公にすることにより,イラク及びその周辺国が,我が国の意図,
それを反映した具体的な行為,当該行為に係る評価等を推察することが可
能となるから,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にする
ことにより他国との交渉上不利益を被るおそれがあると推認することがで
きる。
ウ(ア)原告は,①武力行使についての法的根拠やこれに関する政府見解等
という一般的な論理の話を秘密にすること自体,そもそも考え難い,②
小泉首相が,記者会見で,武力行使の根拠を説明しているところ(甲1
3),これは,米国が国連で発表したものと同じ見解である,③川口外
相も,対イラク武力行使に関する国際法上の法的側面について,大臣会
見で記者の質問に応じて見解を述べている(甲34),④対イラク武力
行使の法的根拠に関する検討内容や各国の外交行為は,「研究ノート武
力行使に関する国連の法的枠組みの有効性」(甲14)で詳細に紹介さ
れている,⑤外務省が開示した文書(甲31,32)によれば,武力行
使の法的根拠は,例外なく複数の安保理の決議に照らして説明されてい
るところ,英国法務総裁による解釈(甲30)は,対イラク武力行使が
された当時に既に公にされており,日本もこれを入手して分析していた
ことも明らかであるなどと主張する。
しかし,被告は,本件不開示部分12には,一般的な論理の話,米国
による法的根拠に係る主張及び公開の場における議論の内容はいずれも
記録されておらず,我が国が到達した対イラク武力行使の法的根拠に係
る見解の検討の過程,交渉の状況等が具体的に記録されている旨主張し
ており,これに反する事実をうかがわせる証拠ないし事情等は見当たら
ない上,本件全証拠によっても,本件不開示部分12に原告が上記に指
摘するような既に公開されている文書等(甲30ないし32,34)に
現れている情報と全く同一の情報が記録されているにとどまることをう
かがわせる事情等も見当たらないから,原告の主張するところを踏まえ
ても,外務大臣において,本件不開示部分12に記録されている情報が
国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であって,本件不
開示部分12を公にすることにより,他国との信頼関係が損なわれるお
それ及び他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いもの
と判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著
しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①他国との外交交渉については,「日本の外交努力」(甲
9)で具体的に記載されている上,その結果に対する評価も,当時の政
府関係者の説明内容が「55人が語るイラク戦争」(甲11)に掲載さ
れているなど,既に公にされている内容が多い,②各国の報告書等(甲
23の5,甲24,30)において,各国が,複数の選択肢がある中で,
武力行使を始めとする重要事項の法的根拠についてどのような視点及び
方向性で解釈するかという事項を明らかにしている旨主張する。
しかし,「日本の外交努力」については,前記(7)ウ(イ)と同様,前記
アにおいて認定した本件不開示部分12に記録されている情報の内容と
は,少なくとも質的に異なるものであると推認することができる。また,
「55人が語るイラク戦争」の記述についても,前記⑻ウ(ア)と同様,
我が国の政府が保有している情報又は認識と完全に趣旨,内容等が一致
しているものとまでは認め難いから,当該記述に係る情報が既に公にさ
れているものとも認め難い。さらに,各国の報告書等の記載についても,
前記⑻ウ(イ)と同様,本件不開示部分12に記録されている情報と各国
が公表しているとされる事実に係る情報が同一であることをうかがわせ
る事情等は見当たらない。
そうすると,原告の主張するところを踏まえても,外務大臣において,
本件不開示部分12に記録されている情報が国際政治上及び安全保障政
策上機微な問題に係る情報であって,本件不開示部分12を公にするこ
とにより,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不
利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いものと判断したことが,重要な
事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは
認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,①被告の主張においては,「他国」,「関係各国」及び「そ
の周辺国」がいずこの国であるかが不明である,②本件不開示部分12
に日本政府内での検討内容の記載が含まれているとしても,その検討結
果としての武力行使についての法的根拠に関する説明や一般的な記述も
記載されているはずであり,本件不開示部分12の分量が1頁にも満た
ない分量であることからすると,具体的で詳細な事実や見解が織り込ま
れていることは想定し難く,公表されている資料以上に詳細な情報が記
載されているとは考えにくい,③本件不開示部分12に我が国や国際社
会の見解という結論が含まれていることは被告も認めており,武力行使
が国際法上合法と考えられる根拠に加え,関連する安保理の決議の概要
やイラクによるその違反といった内容も含まれているはずである反面,
本件不開示部分12の分量は半頁程度にすぎず,箇条書き等を用いずに
文章形式で説明していると考えられるから,法的根拠を記載するだけで
もかなりのスペースを必要とするはずであるし,法的根拠について一定
の見解に至る過程の検討や交渉の状況をそのような限られたスペースに
具体的に記載することができるとは考え難いのであり,仮に,記載があ
るとしても,概括的又は抽象的な記載にならざるを得ないはずである,
④報告書をまとめる過程で主だった事実経過を記載する程度の分量に圧
縮すること自体はごく普通のことであって,圧縮前は公表することがで
きるものが,圧縮する過程で取捨選択をしたとたんに情報公開法5条3
号にいう「おそれ」が生ずるとはおよそ考えられないなどと主張する。
しかし,前記(3)ウに説示したところと同様の理由に加え,本件全証拠
によっても,本件不開示部分12に記録されている情報が,概括的又は
抽象的なものにすぎないことをうかがわせる事情等が見当たらないこと
や,ある情報の有する意味又は価値が,当該情報に係る表現の方法,位
置,文脈等によっても左右されることに照らすと,原告の主張するとこ
ろを踏まえても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社
会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分12に記録された情報を公
にすることにより,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交
渉上不利益を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範
囲から逸脱し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分12に記録された情報は,情報公開法5条
3号が規定するものに該当すると認められる。
⒀項目「武力行使の支持の理由」に係る不開示部分(本件不開示部分13)
について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分13には,
当時の我が国を取り巻く安全保障環境等の情勢(イラクのみならず,我が
国の安全保障に今なお深く関わる特定の国や地域の情勢及びこれらの国や
地域と我が国との関係に係る我が国の評価を含む。)を含む我が国が対イ
ラク武力行使を支持したことに関する具体的な理由及び考慮事項が記録さ
れていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分13に記録された情報が情報公開
法5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分13には,対イラク武力行使を我が国が支持するという
意思決定をしたことに関する具体的な理由,考慮事項等が明らかになる情
報が記録されているものと推認することができ,これを公にすることによ
り,イラク及びその周辺国が,対イラク武力行使という国際政治上及び安
全保障政策上機微な問題について,我が国がどのような事項を考慮して当
該問題に対応しているのか,対イラク武力行使を支持する理由としてどの
ような事情があるのか等を推察することが可能となるから,事柄の性質上,
一般的又は類型的に見て,これを公にすることにより他国との交渉上不利
益を被るおそれがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,①被告も,本件不開示部分13には,(a)平成15年3月1
8日の小泉首相による説明(甲13),(b)同月20日の小泉首相による
説明(甲35)及び(c)外務省が作成した対イラク武力行使を支持した理
由等に係る従前の政府見解及び国会答弁をまとめた資料(甲31)に記
載されている対イラク武力行使を支持した主な理由の記載があること自
体は認めている,②上記①以外の記載として想定されるものとしては,
(あ)米国からされた米国のイラクに対するアプローチを支持する国のリ
ストに日本を含めて差し支えがないかという打診に対して同意したとい
う経緯がある(甲36)ために,即座に対イラク武力行使の支持を表明
したという趣旨の記載,(い)かつて,いわゆる湾岸戦争の当時に日本が
拠出した支援金について,時期的に遅いと他国から批判されたことから,
同様の評価を受けないように即座に対イラク武力行使の支持を表明した
という趣旨の記載又は(う)早期に対イラク武力行使の支持を表明した方
が,その後のイラクにおける経済活動に関与する上で有利に働くために
即座に対イラク武力行使の支持を表明したという趣旨の記載が考えられ
るから,本件不開示部分13に記載されていると思われる武力行使の支
持の理由を想定することは十分に可能であるなどと主張する。
しかし,本件全証拠によっても,本件不開示部分13に記録されてい
る情報が,原告が上記②に指摘するようなものであることをうかがわせ
る事情等は見当たらず,また,前記アに認定した本件不開示部分13に
記録されている情報の内容に照らし,本件不開示部分13に記録されて
いる情報は,既に公表されている情報又は原告が推測することができる
とする情報とは,少なくとも質的に異なるものであると推認することが
できるから,原告の主張するところを踏まえても,外務大臣において,
本件不開示部分13に記録されている情報が国際政治上及び安全保障政
策上機微な問題に係る情報であって,本件不開示部分13を公にするこ
とにより,他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いも
のと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし
著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①武力行使を支持したことの是非が国内的に問題になるこ
とはあるとしても,それを開示することが,現在の我が国の対応を予測
させるとか,他国との交渉上不利益を被るおそれがあるとかいうことは
おおよそ考え難い,②日本が有している情報の多寡やその内容等によっ
て,日本の今後の対応等は異なるものであるから,関係国が今後の日本
の対応等を正確に予測することは不可能又は著しく困難である,③外交
上の問題において,他国の利益となることと日本の不利益となることと
の間に相関関係はないから,本件不開示部分13を公にしたとしても,
他国との交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性はない,④将来的に類似
の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な根拠に基づくものではなく,
類似の事案が何を指すのかも不明確であるし,関係国についても何ら具
体的に特定されていないなどと主張する。
しかし,前記(3)ウ(イ)に説示したところと同様の理由に加え,対イラ
ク武力行使が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題であって,他国
が対イラク武力行使に係る我が国が保有する公表されていない情報を得
ることにより,自国に有利で我が国に不利な状況を作出し得る蓋然性が
あると推認されることにも照らすと,原告の主張するところを踏まえて
も,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照ら
し著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(ウ)原告は,本件不開示部分13に記録されているのは,日本が対イラ
ク武力行使を支持した理由であり,飽くまでその当時の安全保障環境に
関する記述が大半を占めていると推測することができ,既に15年も経
過した過去の国際情勢に関する事実である上,本件文書1が検証結果を
とりまとめた報告書であって,原資料を取捨選択又は抽象化して作成さ
れたものであり,必然的に原資料よりも相当程度抽象化された記載とな
って,少ない分量での記述になっていると考えられることからすると,
3分の1頁程度の分量しかない本件不開示部分13において,対イラク
武力行使に関する日本の意思決定理由又は考慮事項の具体的かつ詳細な
内容が記載されているとは到底考えられない旨主張する。
しかし,前記(3)ウ(ア)及び前記(6)ウ(ウ)に説示したところと同様の
理由に加え,我が国を取り巻く地理的状況,国際政治上の状況又は安全
保障環境が対イラク武力行使の当時と比較し,対イラク武力行使の当時
の情報がおよそ無意味であるといえるまでに劇的に変化したとまでは認
め難いことが公知の事実であることにも照らすと,原告の主張するとこ
ろを踏まえても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社
会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分13に記録された情報を公
にすることにより,他国との交渉上不利益を被るおそれがあると判断した
ことをもって,その裁量権の範囲から逸脱し,又はこれを濫用したという
ことはできない。
したがって,本件不開示部分13に記録された情報は,情報公開法5条
3号が規定するものに該当すると認められる。
⒁項目「国民への説明責任についての検証」に係る不開示部分(本件不開示
部分14)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分14には,
対イラク武力行使をめぐる我が国の対応に関し,対イラク武力行使を支持
することについて国民の理解を得るとの観点から,外務省内で行われた説
明責任を果たすための具体的な説明手法や目指すべき国民の理解のあり方
(どのような考え方の下,どのような方法で,国内の世論形成に努めてい
たか)に関する検討,これを踏まえて他国に対して行っていた働きかけ等
の具体的な取組について,その効果も含めた検証結果が記録されているこ
とが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分14に記録された情報が情報公開
法5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分14には,対イラク武力行使に関する我が国の認識及び
対イラク武力行使に関する広報等をした際の視点,手法,目標等に加え,
それらの広報等の効果に関する評価等が明らかになる情報が記録されてい
るものと推認することができるから,これを公にすることにより,他国が
これを参考として我が国の国民に対する世論工作,第三国への働きかけ等
を行うことが可能となり得るものと推認することができることに照らすと,
事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にすることにより国の
安全が害されるおそれがあると推認することができるほか,イラク及びそ
の周辺国が,我が国の認識,世論の状況等を推察することも可能となるか
ら,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にすることにより
他国との交渉上不利益を被るおそれがあると推認することができる。
ウ原告は,①本件不開示部分14は,10行程度にすぎない上,外務省や
政府が行っていた説明という国民への広報の内容は既に公開されている情
報である,②被告が指摘する他国に対して行っていた働きかけが何を指し
ているのかは不明である,③本件不開示部分14に記録されているのは,
日本が対イラク武力行使を支持した理由であり,飽くまで当時の国民への
説明責任についての検証が大半を占めていることが推測できるのであり,
既に15年も経過した過去の事実に対する検証結果を公表したからといっ
て現在の外交政策に大きな影響を及ぼすはずもない,④本件検証が民主党
(当時)の政権下でされて民主党に属していた外務大臣に対して報告され
たものであることからすると,公にした場合に驚くべき新事実や評価が記
載されているとは考え難い,⑤他国が日本で国内世論工作等を行う具体的
な蓋然性がないし,仮にそのような蓋然性があるとしても,日本政府が適
切に情報を公開することによって国民の理解を得て適切な世論を形成する
ことは可能である,⑥仮に,あるテーマに関するある時点における日本の
関心事項等が明らかになったとしても,そのことが情報公開法5条3号に
いう「おそれ」につながるとする被告の主張には飛躍がある,⑦将来的に
類似の事案が発生する蓋然性があるとの具体的な根拠はなく,関係国や「類
似の事案」についても具体的に特定されていないなどと主張する。
しかし,上記①,③,⑥及び⑦の各点については,前記(3)ウ,前記(4)
ウ(ウ)及び前記(6)ウ(ウ)に説示したところと同様の理由に加え,本件不開
示部分14に記録されている情報と原告が上記で指摘する情報が同一の情
報であると直ちに認め難いものであること及び対イラク武力行使が国際政
治上及び安全保障政策上機微な問題であることにも照らすと,原告の主張
するところを踏まえても,外務大臣において,本件不開示部分14に記録
されている情報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報で
あって,本件不開示部分14を公にすることにより,国の安全が害される
おそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いもの
と判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著し
く妥当性を欠くとまでは認め難い。そして,原告のその余の主張は,いず
れも,その前提を異にするか,単なる憶測等にとどまるものであるかにす
ぎず,原告の主張を踏まえても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を
欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分14に記録された情報を公
にすることにより,国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益
を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範囲から逸脱
し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分14に記録された情報は,情報公開法5条
3号が規定するものに該当すると認められる。
⒂項目「情報収集・分析」に係る不開示部分(本件不開示部分15)につい

ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分15には,
対イラク武力行使に際して収集を目指していた特定の情報の収集に関する
具体的な態様やそれに対する改善策等の情報源,情報収集能力又は情勢分
析について改善すべき点(今後に情報収集や分析を行うべき主体,活用す
べき具体的な情報収集先,収集する情報の種類や分析の程度や考え方,そ
れに伴う制約等に関する記載を含む。),収集及び分析した情報の効果的
な活用のための改善策(外務省における政策担当部局と情報担当部局との
具体的な連携方法に関する記載を含む。)等について,評価や今後の指針
が記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分15に記録された情報が情報公開
法5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分15には,対イラク武力行使に際して我が国が収集する
ことを目指していた特定の情報の内容,我が国の情報源,情報収集能力,
情報分析能力等が明らかになる具体的な情報が記録されているものと推認
することができるから,これを公にすることにより,対イラク武力行使と
いう国際政治上及び安全保障政策上機微な問題について,我が国がどのよ
うな情報を重視して当該問題に対応していたのか等といったことのほか,
我が国に対する脅威の存否又はその程度を我が国が認識又は分析する能力
の存否又はその程度も他国に明らかとなる可能性があることに照らすと,
事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にすることにより国の
安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがあると推
認することができる。
ウ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,①「当時の情
報源のほとんどが各国政府及び国際機関関係者であったと見受けられる
ことに鑑み,国内外の専門家の意見や分析を一層活用すること」との記
載があるところ,上記の記載のうち「当時の情報源のほとんどが各国政
府及び国際機関関係者であったと見受けられることに鑑み」の部分につ
いては,これまでに開示された部分に記載がないことから,本件不開示
部分15には,これに対応した記述があると推認することができる,②
「政策部局からのきめ細かい情報要求等を通じて,政策担当部局と情報
担当部局の一層の連携を図ること」との記載があるところ,上記の記載
のうち「政策部局からのきめ細かい情報要求等を通じて」の部分につい
ては,これまでに開示された部分に記載がないことから,本件不開示部
分15には,これに対応した記述があると推認することができる,③「以
下の諸点については概ね適切な対応がなされたものと思われる。」とし
て3点に分けて記載されている部分があり,本件文書1のうち開示され
た部分には,これに対応する記述も見当たらず,本件不開示部分15の
分量からして長文の記載をすることが不可能であることを踏まえると,
本件不開示部分15には,上記の内容に対応した記述が,ほぼそのまま,
又は多少表現を変更した程度で記載されていると合理的に推認すること
ができる,④「総合外交政策局の総合調整の下,中東アフリカ局を始め
とする関係各局間の連携を強化し,情報収集・共有を図った」,「関係
国政府や国際機関関係者等から幅広く収集」及び「イラクに大量破壊兵
器が存在しないことを証明する情報を外務省が得ていたとは確認できな
かった」との記載があり,日本が,どのように情報収集を行い,どのよ
うな情報を得ていたかについて明らかにされている部分もあるところ,
本件不開示部分15の分量が1頁足らずのものであることに照らせば,
上記の内容よりも,具体的かつ詳細な内容が本件不開示部分15に記載
されていると解するのは困難である旨主張する。
しかし,前記(3)ウ(ア)及び前記(5)ウ(ア)に説示したところと同様の
理由に加え,原告の主張が前提とするところは,いずれも,単なる憶測
等にとどまるものであるか又は本件不開示部分15に記録されている情
報と同一の情報であると直ちに認め難いものであるかのいずれかである
ことに照らすと,外務大臣において,本件不開示部分15に記録されて
いる情報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であっ
て,本件不開示部分15を公にすることにより,国の安全が害されるお
それ及び他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性が高いもの
と判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著
しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①被告は,どのような国とのどのような交渉において,ど
のような不利益が生じ得るのかについて何ら具体的な主張をしていない
から,当該不開示部分について,抽象的な支障を主張するにとどまって
いる,②英国が,当時のイラク情勢に関する評価及び分析を公にしてい
る,③15年もの時の経過によって,国際情勢,社会情勢,当該情報に
関する事務の進行の状況等の事情が当時とは大きく異なっているといえ
るほか,情報収集の手法等も当時と異なっていて当然であるなどと主張
する。
しかし,前記(3)ウ(イ),前記(6)ウ(ウ)及び前記(8)ウ(イ)に説示した
ところと同様の理由により,原告の主張するところを踏まえても,外務
大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく
妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分15に記録された情報を公
にすることにより,国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益
を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範囲から逸脱
し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分15に記録された情報は,情報公開法5条
3号が規定するものに該当すると認められる。
(16)項目「政策決定・実施」に係る不開示部分(本件不開示部分16)につ
いて
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分16には,
対イラク武力行使の支持という政策決定及び実施について,当時の外務省
内及び外務省と官邸との調整及び検討状況,我が国と米国を初めとする関
係国(英,仏,独,イラク,イラク周辺国等)との様々なレベル間での連
携の在り方に対する評価及び我が国の考え方,結果としてイラクにおいて
大量破壊兵器が確認できなかった事実に関する我が国の検討に対する分析,
評価,教訓等が記録されていると認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分16に記録された情報が情報公開
法5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ本件不開示部分16には,対イラク武力行使に至るまでの間の我が国と
他国との外交上の具体的なやり取り,その評価等が明らかになる具体的な
情報が記録されているものと推認することができるから,これを公にする
ことにより,他国が公開することを欲していない情報を公開する状況に陥
ったり,他国が認識していない我が国の評価等が公となったりする可能性
があることに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを
公にすることにより他国との信頼関係が損なわれるおそれがあると推認す
ることができる。また,本件不開示部分16には,対イラク武力行使に至
るまでの間の我が国の政府内部における検討状況,政策の決定及び実施に
係る関心事項,当該検討又は関心に基づく外交的努力の詳細等が記録され
ているものと推認することができ,これを公にすることにより,他国が,
我が国の関心事項,それを反映した具体的な行為,当該行為に係る評価等
を推察することが可能となるから,事柄の性質上,一般的又は類型的に見
て,これを公にすることにより他国との交渉上不利益を被るおそれがある
と推認することができる。
ウ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,①「米国はも
ちろんのこと,英,仏,独,イラク,イラク周辺国等との関係でも,電
話会談を含む首脳・外相レベルでの接触や総理大臣特使の派遣を始め,
要所要所で,政治レベルによる働きかけを行っている。これらの効果を
一層高めるため,特に首脳レベルを始め二国間の相互信頼関係をますま
す強固にしていく必要があろう。」と記載されているところ,上記の記
載のうち「これらの効果を一層高めるため,特に首脳レベルを始め二国
間の相互信頼関係をますます強固にしていく必要があろう。」の部分に
ついては,これまでに開示された部分に記載がないことから,本件不開
示部分16には,これに対応した記述があると推認することができる,
②大量破壊兵器の存否に関する我が国の検討に対する分析及び評価につ
いては,「当時は,イラクが大量破壊兵器を隠匿している可能性がある
との認識が国際社会で広く共有されていたが,調査の結果,当時,イラ
クに大量破壊兵器が存在しないことを証明する情報を外務省が得ていた
とは確認できなかった。」,「査察への全面的な協力を通じて大量破壊
兵器の廃棄等を自ら証明すべき立場にあったのはイラク」及び「「イラ
クにおける大量破壊兵器の存在」など,国際的に概ね認識が一致してい
たような情報といえども敢えて批判的な視点から分析し,政策の検討を
行っていくことが重要であろう。」との記載があるが,本件文書1のう
ち開示された部分には,これらに対応する記述がないから,本件不開示
部分16の分量に照らして長文の記載が不可能であることも踏まえると,
本件不開示部分16には,上記の記述に対応した情報が,ほぼそのまま,
又は多少表現を変更した程度で記録されていると合理的に推測できる旨
主張する。
しかし,前記(3)ウ(ア)及び前記(5)ウ(ア)に説示したところと同様の
理由に加え,原告の主張が前提とするところは,いずれも,単なる憶測
等にとどまるものであるか又は本件不開示部分16に記録されている情
報と同一の情報であると直ちに認め難いものであるかのいずれかである
ことに照らすと,外務大臣において,本件不開示部分16に記録されて
いる情報が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題に係る情報であっ
て,本件不開示部分16を公にすることにより,他国との信頼関係が損
なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれが生ずる蓋然性
が高いものと判断したことが,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念
に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①15年もの前の国内及び諸外国との連携の内容又は評価
並びに大量破壊兵器が結果として見つからなかったという特殊な事案に
関する評価を公にしたからといって,我が国の情報収集活動及びそれに
基づく政府内での政策検討プロセスが明らかとなり,我が国の政策の予
見可能性が高まるというのは,杞憂にすぎない,②将来的に類似の事案
が発生するとの蓋然性は何ら具体的な根拠に基づくものではなく,「類
似の事案」が何を指すのかも不明確であるし,「関係国」及び「イラク
及びその周辺国」についても何ら具体的な特定がされておらず,その国
との関係で日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余
地はなく,イラクとの関係での交渉上の不利益についても,イラクの過
去の実際の言動に照らし,本件不開示部分16の情報が開示された場合
にイラクがどのような主張をしてくるのかについて何ら具体的な主張は
ない,③オランダが,対イラク武力行使への政治的支持に至るプロセス
について,調査委員会を組織し,その調査結果として551頁にわたる
報告書を公表し,その中では,政治的な意思決定の経過や与党が行った
連立協議が意思決定に及ぼした影響,オランダの情報機関の役割等の政
策の経緯が詳細に記録されているから,日本が関係各国との連携状況等
を開示したからといって,関係各国との信頼関係が損なわれる具体的な
蓋然性は全くない,④事後的な検証結果として1頁に満たない分量しか
ない本件不開示部分16において,対イラク武力行使に関する日本政府
部内での検討内容,その態様,教訓等の具体的かつ詳細な内容が記載さ
れているとは到底考えられない,⑤本件文書1が検証結果をとりまとめ
た報告書であって,原資料を取捨選択又は抽象化して作成されたもので
あり,必然的に原資料よりも相当程度抽象化された記載となって,少な
い分量での記述になっていると考えられることからすると,他国が日本
の今後の対応等を正確に予測することは不可能又は著しく困難であるな
どと主張する。
しかし,前記(3)ウ,前記(6)ウ(ウ)及び前記(8)ウ(イ)に説示したとこ
ろと同様の理由により,原告の主張するところを踏まえても,外務大臣
の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当
性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分16に記録された情報を公
にすることにより,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交
渉上不利益を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範
囲から逸脱し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分16に記録された情報は,情報公開法5条
3号が規定するものに該当すると認められる。
⒄項目「国民への説明責任」に係る不開示部分(本件不開示部分17)につ
いて
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分17には,
外務省が実施してきた対イラク武力行使を支持したことに関して広く国民
の理解を得るために行った各種広報活動及び国会議員等への説明に関する
その効果も含めた検証結果,当時の国内世論を踏まえた今後あるべき広報
活動の具体的手法や時期を含む今後に向けた改善点等についての提言等が
記録されていることが認められる。
以下,これを前提に,本件不開示部分17に記録された情報が情報公開
法5条3号に該当するか否かについて検討する。
イ前記アを前提とすると,本件不開示部分17には,対イラク武力行使を
支持したことについて国民への説明責任を果たすための手法の具体的内容,
広報活動の効果として我が国が認識している状況等,当該手法又は効果に
ついての検証の結果,我が国が国民に向けた広報活動について今後に改善
すべき点として認識している状況等,改善に向けた具体的な案等が明らか
になる情報が記録されているものと推認することができるから,これを公
にすることにより,他国がこれを参考として我が国の国民に対する世論工
作,第三国への働きかけ等を行うことが可能となるものと推認することが
できることに照らすと,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを
公にすることにより国の安全が害されるおそれがあると推認することがで
きるほか,イラク及びその周辺国が,我が国が対イラク武力行使を支持し
たことに関する広報活動の効果として認識している状況等,我が国が広報
活動について認識している改善すべき点等を推察することが可能となるか
ら,事柄の性質上,一般的又は類型的に見て,これを公にすることにより
他国との交渉上不利益を被るおそれがあると推認することができる。
ウ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,「本件に対す
る国民の理解を得るための広報の重要性は早くから認識されており,ま
た,ホームページを含め種々の努力が払われてきたが,国民への説明方
法等につき,一層の改善をする余地があると思われる。」などと公表さ
れているから,全てを不開示とする合理的な理由はない旨主張する。
しかし,前記(5)ウ(ア)と同様の理由により,原告の主張するところを
踏まえても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通
念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,①本件不開示部分17の分量と「報告の主なポイント」に
おける記載の分量に大差がないことからして,本件不開示部分17にそ
れほど具体的又は踏み込んだ記載があるとは思われない,②外務省や政
府が行っていた説明という国民への広報の内容は既に公開されている情
報であるから,これを開示しない合理性は全く存しない,③国会議員等
への説明についても,国会議員は全国民を代表している者であるから,
どのような情報の提供を受け,その結果として国会で適正に議論がされ
たのかという点は,国民に広く公開して議論されるべき重要な事実であ
り,かつ,国内向けの事柄にとどまっていて対外的又は国際的に何らか
の具体的な支障が生ずるものとは想定し難いから,やはりこれを開示し
ないことは著しく不当である,④将来的に類似の事案が発生するとの蓋
然性は何ら具体的な根拠に基づくものではなく,「類似の事案」が何を
指すのかも不明確であるし,「関係国」及び「イラク及びその周辺国」
についても何ら具体的な特定がされておらず,その国との関係で日本が
交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地はなく,イラク
との関係での交渉上の不利益についても,イラクの過去の実際の言動に
照らし,本件不開示部分17の情報が開示された場合にイラクがどのよ
うな主張をしてくるのかについて何ら具体的な主張はない,⑤ある外交
上の問題が生じた場合,日本の今後の対応等については,日本の従前の
対応,日本が世界情勢で占める地位,友好関係にある各国の動き,日本
との関係性の深浅等から一定程度予測が可能であるが,日本が有してい
る情報の多寡やその内容等によって,日本の今後の対応等は異なるもの
であるから,関係国が今後の日本の対応等を正確に予測することは不可
能又は著しく困難である,⑥国内世論の影響の程度は,時の政権の姿勢,
政権の支持率等にも左右されて様々であり,時期によっても異なる上,
ここで問題となっているのが,15年近く前の対イラク武力行使に関す
る国内における理解又は支持というものであるから,他国にとって日本
の政策の予見可能性が高まるとはいえないなどと主張する。
しかし,上記①,②,④及び⑥の各主張については,前記(3)ウ及び前
記(6)ウ(ウ)に説示したところと同様の理由に加え,本件不開示部分17
に記録されている情報と原告が上記で指摘する情報が同一の情報である
と直ちに認め難いものであること及び対イラク武力行使が国際政治上及
び安全保障政策上機微な問題であることにも照らすと,原告の主張する
ところを踏まえても,外務大臣の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又
は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとまでは認め難い。そして,原
告のその余の主張は,いずれも,その前提を異にするか,単なる憶測等
にとどまるものであるかにすぎず,原告の主張を踏まえても,外務大臣
の判断が,重要な事実の基礎を欠き,又は社会通念に照らし著しく妥当
性を欠くとまでは認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
エ以上によれば,外務大臣が,本件不開示部分17に記録された情報を公
にすることにより,国の安全が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利
益を被るおそれがあると判断したことをもって,その裁量権の範囲から逸
脱し,又はこれを濫用したということはできない。
したがって,本件不開示部分17に記録された情報は,情報公開法5条
3号が規定するものに該当すると認められる。
⒅項目「参考資料2」に係る不開示部分(本件不開示部分18)について
ア証拠(乙16)及び弁論の全趣旨によれば,本件不開示部分18には,
検証チームの構成員のうち本件文書1が作成された当時に一定の地位に達
していなかった者(幹部として外務省ホームページに氏名及び肩書が記載
されていなかった者)の氏名及び当時の肩書が記録されていることが認め
られる。
以下,これを前提に,本件不開示部分18に記録された情報が情報公開
法5条6号に該当するか否かについて検討する。
イ(ア)本件不開示部分18には,本件検証に従事した者のうち本件文書1
が作成された当時に一定の地位に達していなかった者の氏名及び当時の
肩書きが記録されており,仮に,これを公にすれば,当該対象者が本件
検証の対象である対イラク武力行使に関連する公表されていない情報を
有している可能性がある者であることが公となるところ,前記(1)のとお
り,対イラク武力行使が国際政治上及び安全保障政策上機微な問題であ
って,他国が対イラク武力行使に係る我が国が保有する公表されていな
い情報を得ようとする意図又は動機を有する蓋然性が高いと推認される
ことからすれば,上記の者に対して,不当な働きかけ等が行われるおそ
れも一概に否定し難いものと推認することができる。そして,本件検証
に従事した者は外務省の職員であって,外交活動に従事する者であるこ
とに照らすと,上記の者においても,同人の氏名及び肩書きが公になれ
ば,不当な働きかけ等を受けるおそれがあることを容易に理解し得るこ
とになるから,仮に,本件不開示部分18を公にすれば,上記の者,そ
の後に上記の者と同じ立場に就いた者,将来的に上記の者と同じ立場に
就く可能性のある者等が,今後,本件検証と同様の職務に従事するに当
たって率直かつ忌憚のない意見を述べることをちゅうちょしたり,そも
そも,当該職務に従事すること自体に難色を示したりすることになるお
それも一概に否定し難いと推認することができ,国の機関である外務省
の内部における協議,検討,検証等の事務の遂行に支障を及ぼすおそれ
があるものと推認することができる。
(イ)以上によれば,本件不開示部分18に記録された情報は,情報公開
法5条6号が規定するものに該当すると認められる。
ウ(ア)原告は,本件検証に従事した者のうち誰がどのような意見を述べた
のかが具体的に明らかにされるのでなければ,不当な働きかけを受けた
りすることはないし,氏名を公開されるのであれば職務であっても忌憚
のない意見を述べられないという公務員を想定することもできない旨主
張する。
しかし,実際に本件検証に従事した者が特定されることにより当該者
に対する不当な働きかけ等がされる蓋然性が高くなること自体は否定し
難いことに照らすと,原告の主張するところを前提としても,前記イの
判断を覆すには足りない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,対イラク武力行使の後に外務省の幹部の立場にあった者に
対して脅迫がされたとか,工作活動がされたとかいう事実は存在しない
から,対イラク武力行使がされてから10年以上経過した後にインタビ
ューの対象者になったからといって,対イラク武力行使の意思決定への
関与を理由に脅迫されたり,工作活動がされたりするとは,到底考えら
れないし,対イラク武力行使に関する意思決定をした際に日本政府の幹
部の立場にあった者に対して工作活動や脅迫の対象とするよりも,今後
される意思決定に不当な圧力をかけようとしてそのような働きかけをす
る危険性の方がはるかに高いはずであるから,被告の主張は,誤りであ
る旨主張する。
しかし,仮に,対イラク武力行使の後に外務省の幹部の立場にあった
者に対して脅迫がされたとか,工作活動がされたとかいう事実は存在し
ないとしても,それが不当な働きかけ等の対象とすべき者を絞り込むこ
とが不可能であったことに起因しているとしても何ら不合理ではない上,
前記(1)のとおり,対イラク武力行使が国際政治上及び安全保障政策上機
微な問題であることにも照らすと,時の経過によって直ちに,不当な働
きかけ等がされ得ないとまでは認め難い。また,事柄の性質上,時点を
比較して,不当な働きかけ等の危険性の度合いを論ずることが適切であ
るとも直ちには認め難い。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
⒆まとめ
以上によれば,本件処分は,適法である。なお,原告は,外務大臣が,平
成29年10月31日付けの決定により,本件文書1に係る開示部分を変更
しているが,同決定により開示されたのは,公知の事実といってもよい客観
的に知られた事実や一般的な記述のみであったところ,これらの事実につい
て,被告は,従前,間接的で因果関係の存否も疑わしい理由を連ねていたも
のであるから,他の部分についても,不開示を維持すべき理由がないことを
うかがわせる旨主張するが,原告が上記に指摘する事情によっても直ちに,
本件各不開示部分に情報公開法5条各号に該当する事由がないとまでは認め
難いから,原告の主張は,採用することができない。
3本案前の争点(本件各不開示部分を開示することの義務付け)について
本件訴えのうち外務大臣が本件文書1の不開示部分を開示すべき旨を命ずる
ことを求める請求に係る部分は,行政事件訴訟法3条6項2号に基づく義務付
けの訴えとして提起されたものと解されるところ,前記2のとおり,これと併
合して提起された本件処分の取消しを求める原告の請求は理由がないから,そ
の余の点について判断するまでもなく,本件訴えのうち上記の請求に係る部分
は,同法37条の3第1項2号所定の訴訟要件を満たさない不適法なものであ
るといわざるを得ない。
第5結論
以上の次第で,本件訴えのうち外務大臣が本件文書1の不開示部分を開示す
べき旨を命ずることを求める請求に係る部分は,不適法であるから,これを却
下し,原告のその余の請求は,理由がないから,これを棄却することとして,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官朝倉佳秀
裁判官福渡裕貴
裁判官獅子野裕介
(別紙1省略)
(参考資料2省略)
(参考資料3省略)
別紙2
本件各不開示部分の不開示情報該当性に関する当事者の主張の要点
(被告の主張の要点)
1不開示情報の内容
本件文書1は,外務省が作成した文書であり,対イラク武力行使に対する我
が国の対応に関する検証報告書であって,対イラク武力行使に至るまでの外務
省内における検討及び意思決定過程に関する検証(本件検証)の結果が記録さ
れている。
本件各不開示部分は,合計で18か所であり,各不開示部分の内容は,以下
のとおりである。
(1)本件文書1の1枚目21行目17文字目から22行目まで及び参考資料
3に係る不開示部分(以下,併せて「本件不開示部分1」ということがある。)
本件検証を行うに当たって外務省が参考にした各種資料の数,作成時期及
び資料の内容を示す標目(情報収集先及び収集した情報内容を示す標目を含
み,関係国又は関係機関の高官の氏名を記したものも複数含まれる。)が記
録されている。
(2)本件文書1の1枚目の脚注3行目から6行目までに係る不開示部分(以下
「本件不開示部分2」ということがある。)
本件文書1を作成するに当たり外務省が実施したインタビューの対象者の
氏名及び肩書が記録されている。
(3)項目「国際社会の情勢」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分3」と
いうことがある。)
イラク情勢に関する国際社会の動きに係る記述であって,対イラク武力行
使への我が国の対応を検討する上で重要な背景となった関係国及び地域の政
治情勢又は安全保障関連情勢に関する我が国の率直な分析又は評価等が3つ
の項目に分けて記録されている。
(4)項目「日本の状況」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分4」という
ことがある。)
対イラク武力行使への我が国の対応を検討する上で重要な背景となった対
イラク武力行使前後の我が国の外交的努力を中心とした我が国を取り巻く情
勢(当時の我が国の政府が行った外交及び安全保障上の取組等に係る内容で
あって,当時我が国が安全保障上の懸念として認識していたイラク以外の特
定の地域に係る情勢に関する記述を含む。)について記録されている。
(5)項目「対イラク武力行使支持に至る我が国政府の検討過程・外交努力の概
観」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分5」ということがある。)
2002年(平成14年)初めから2003年(平成15年)3月に至る
までの我が国政府内での検討過程及び外交努力についての記述であり,具体
的には,イラク情勢の緊張の高まりを受けて同情勢に対応するために外務省
内でどのような体制が組まれ,どのような情報収集,情報分析又は検討が行
われたか,政府部内でどのような協議が行われたか,我が国と関係国との間
でどのようなやり取りが行われたか,我が国の動きに対する評価,いかなる
判断の下で対イラク武力行使を支持する旨の政策決定が行われたか,これら
についての本件検証としての分析等について,時系列で因果関係に従い,省
内外での検討又は調整過程,その視点又は方針,政府高官等への報告,政府
高官等からの指示の内容,関係国に対する具体的な働きかけの内容(公表を
前提としない他国との個別具体的なやり取りを含む。),具体的な情報収集
活動及びそれらを踏まえた上での省内外及び政府高官等の認識又は評価等,
機微に触れる事項も含め,記載自体が一定の価値判断や評価を伴う形で,具
体的かつ詳細な内容が記載されている。
本件不開示部分5には,公になっている事実も含まれているが,これを機
械的に羅列しているわけではなく,また,公にされていない公式又は非公式
の協議に関する事実に言及されている部分もあり,各事項が,具体的かつ詳
細に,前後の関連性や評価を伴った一連の文章として記載されているのであ
り,全体として我が国の情報収集能力,情報分析能力,外交及び安全保障関
係における関心事項,政策決定において考慮している事項等を示す内容とな
っている。
(6)項目「情報収集についての検証」に係る不開示部分(以下「本件不開示部
分6」ということがある。)
他国のイラクにおける大量破壊兵器の隠匿に関する評価又は分析に係るも
ののほか,特に注目すべき情報を挙げて,どういった相手方から,どの程度
の回数当該情報を入手したのかという内容も含む収集した情報の種類,内容,
数,収集先,収集に係る視点,収集の手法及び収集先の対応についての傾向,
多く収集することができた情報の種類並びに一方で十分に収集することので
きなかった情報の種類に加え,情報収集に係る在外公館を含む省内外におけ
る指示内容及び報告状況に係る経緯,政策決定を行うに当たりどのような情
報を収集しようとしたか等についての詳細な検証結果が,その記載自体に評
価又は分析を伴う形で記録されている。
(7)項目「分析についての検証」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分7」
ということがある。)
対イラク武力行使に関係するいくつかの特定の問題(武力行使により生じ
得る影響)又は動向に関して収集された情報を踏まえ,それらに関する情報
分析の手法及び分析過程に関する評価,作成された資料の内容及びその用途
並びにそれらの共有のあり方(資料の作成過程を含む。)に関する評価が4
つの項目に分けて記録されている。
(8)項目「検討・意思決定プロセス」に係る不開示部分(以下「本件不開示部
分8」ということがある。)
外務省内及び政府部内でどのような手続を経て対イラク武力行使をめぐる
政策検討及び意思決定がされたのかという対イラク武力行使の問題に係る検
討及び意思決定プロセス(特に,外務省内における関係局内の協議の具体的
な開催状況,官邸との密接な協議状況並びに検討及び意思決定プロセスにお
いて考慮された事項),それに対する本件検証としての評価等について,具
体的な内容が記録されている。
(9)項目「武力行使の支持に至るプロセス」に係る不開示部分(以下「本件不
開示部分9」ということがある。)
2002年(平成14年)初め以降,我が国が対イラク武力行使に対する
支持を表明するに至るまでの政策決定プロセスについて,国際社会において
我が国に期待される役割,我が国がとるべき態度等について,各選択肢の問
題点及びその解決方法を国内で検討し,各国と協議した過程を含め,上記の
期間を通じての外務省による情勢の認識,政府部内でのやり取り,外交努力
の内容及び具体的やり取り(我が国政府及び関係国政府の高官の氏名を記載
するとともに,外交交渉の相手方の情勢の認識や意図を推知し得る相手方の
具体的な発言内容も含む。),政策決定を行う際の判断要素(国際情勢,二
国間関係等),あり得べき政策決定の内容及びその留意事項等について,対
イラクのみならず,国際社会,関係国,安保理等多方面にわたる関係及び影
響も含めた詳細な分析,評価等が記録されている。
(10)項目「米側への働きかけ」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分1
0」ということがある。)
2002年(平成14年)8月以降,対イラク武力行使に至るまでの我が
国から米国の側への様々なレベルでの働きかけの内容及びその重点,我が国
の意図,我が国からの働きかけに対する米国からの反応並びに我が国が行っ
た働きかけの評価(我が国が,米国との関係で重要と考える要素に関する端
的な記載も含む。)について,実際に会談等を行った我が国政府及び米国政
府の高官の氏名を特定した上での個別具体的なやり取りの内容に関する記載
に加え,米国の情勢認識及び意図を推察し得る情報も詳細に記録されている。
(11)項目「米国以外の各国への働きかけ」に係る不開示部分(以下「本件不
開示部分11」ということがある。)
米国以外の関係各国との間でイラク情勢への対応についてどのような外交
努力をしたかということについて,我が国の公式又は非公式レベルでの働き
かけに関する具体的な調整及び協議の経過,働きかけの具体的内容,働きか
けの意図,当該関係各国に対して我が国が有していた外交方針並びにそれに
対する相手国又は関係国の反応又は評価に加え,このような外交交渉の効果
に対する本件検証としての評価等が,同種の出来事をまとめるなどした上で
評価と事実が一体となった文章により記録されている。
⑿項目「武力行使の法的側面」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分1
2」ということがある。)
対イラク武力行使にしかるべき法的根拠を持たせるための我が国の見解,
当時我が国として連携を重視していた特定の国との調整,当該特定の国に対
する我が国の評価等,当該調整及び外交努力の具体的態様及び結果が記録さ
れている。
⒀項目「武力行使の支持の理由」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分
13」ということがある。)
当時の我が国を取り巻く安全保障環境等の情勢(イラクのみならず,我が
国の安全保障に今なお深く関わる特定の国又は地域の情勢及びこれらの国又
は地域と我が国との関係に係る我が国の評価を含む。)といった具体的かつ
詳細な考慮事項を含む我が国が対イラク武力行使を支持したことに関する具
体的な理由及び考慮事項が記録されている。
⒁項目「国民への説明責任についての検証」に係る不開示部分(以下「本件
不開示部分14」ということがある。)
対イラク武力行使をめぐる我が国の対応に関し,対イラク武力行使を支持
することについて国民の理解を得るとの観点から,外務省内で行われた説明
責任を果たすための具体的な説明手法,目指すべき国民の理解のあり方(ど
のような考え方の下,どのような方法で,国内の世論形成に努めていたか)
に関する検討,これを踏まえて他国に対して行っていた働きかけ等の具体的
な取組について,その効果も含めた詳細な検証結果が記録されている。
⒂項目「情報収集・分析」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分15」
ということがある。)
対イラク武力行使に際して収集を目指していた特定の情報の収集に関する
具体的な態様,それに対する改善策等の情報源,情報収集能力又は情勢分析
について改善すべき点(今後に情報収集や分析を行うべき主体,活用すべき
具体的な情報収集先,収集する情報の種類,収集した情報の分析の程度又は
考え方,それに伴う制約等に関する記載を含む。),収集及び分析した情報
の効果的な活用のための改善策(外務省における政策担当部局と情報担当部
局との具体的な連携方法に関する記載を含む。)等について,具体的な評価
及び今後の指針が記録されている。
(16)項目「政策決定・実施」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分16」
ということがある。)
対イラク武力行使の支持という政策決定及び実施について,当時の外務省
内及び外務省と官邸との調整及び検討状況,我が国と米国を初めとする関係
国(英,仏,独,イラク,イラク周辺国等)との様々なレベル間での連携の
在り方に対する評価及び我が国の考え方,結果としてイラクにおいて大量破
壊兵器が確認できなかった事実に関する我が国の検討に対する分析,評価,
教訓等が記録されている。
⒄項目「国民への説明責任」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分17」
ということがある。)
外務省が実施してきた対イラク武力行使を支持したことに関して広く国民
の理解を得るために行った各種広報活動及び国会議員等への説明に関するそ
の効果も含めた検証結果,当時の国内世論を踏まえた今後あるべき広報活動
の具体的手法や時期を含む今後に向けた改善点等についての提言等が記録さ
れている。
⒅項目「参考資料2」に係る不開示部分(以下「本件不開示部分18」とい
うことがある。)
検証チームの構成員のうち本件文書1が作成された当時に一定の地位に達
していなかった者(幹部として外務省ホームページに氏名及び肩書が記載さ
れていなかった者)の氏名及び当時の肩書が記録されている。
2本件各不開示部分に係る不開示事由について
(1)本件文書1の1枚目21行目17文字目から22行目まで及び参考資料
3に係る不開示部分(本件不開示部分1)
ア本件不開示部分1は,本件検証を行うに当たって外務省が参考にした各
種資料に係る記述であり,これを公にすることにより,我が国政府の対イ
ラク武力行使の問題に係る関心事項を推察することが可能となるほか,い
かなる種類又は性質の資料をいかなる数収集したかなどといったことが明
らかとなって我が国政府の情報収集能力(関係各国等の情報収集先を含む。)
が明らかとなり,また,検討又は意思決定の前提となる資料が明らかにな
ることにより対イラク武力行使の問題に係る検討又は意思決定過程の概略
が明らかとなるから,将来的に類似の事案が発生した場合における我が国
政府の政策検討又は意思決定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今
後の対応等を推察することが可能となるほか,我が国の情報分析能力等を
推察することも可能となることから,他国との交渉上不利益を被るおそれ
がある上,我が国の安全が害されるおそれがある。また,参考資料3に係
る不開示部分には,関係各国等の高官に係る記載も含まれている。
よって,本件不開示部分1に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他
国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつ
き相当の理由がある情報(情報公開法5条3号)に該当する。
イ本件文書1は,非公開を前提に,外務省内で集められた当時の公電,調
書等の多数の関係書類及び省内関係者へのインタビュー等により集約され
た情報を基礎として,一連の事実関係,政策判断過程等について検討を行
った結果が記録されている文書である。
したがって,本件不開示部分1に記録された情報は,外務省の担当者ら
が外交政策を検討する中で,非公開を前提として作成されたものであるこ
とから,その内容が後日公開されることが予想される事態となれば,今後,
同種資料を作成することがちゅうちょされ,その結果として政府部内にお
いて情報の共有を図ることが困難となり,政府部内における協議又は検討
をする上で多大な支障が生ずるし,前記アのとおり,我が国の今後の外交
交渉事務に支障を及ぼすおそれもある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
ウ(ア)原告は,資料の種類,性質及び数を明らかにすることが直ちに政府
の情報収集能力を明らかにすることにはならないし,参考にした資料の
数及び標目だけで,検討又は意思決定の過程の概略が明らかになるなど
ということも通常あり得ない旨主張する。
しかし,本件不開示部分1に含まれる資料の内容を示す標目を参照す
れば,情報収集先又は収集した情報の内容を把握することができるから,
我が国政府の情報源及び情報収集能力が明らかとなる。また,本件不開
示部分1には,作成時期及び資料の内容を示す標目が記載されているこ
とから,情報収集先又は収集した情報の内容と併せて対イラク武力行使
に関する検討又は意思決定のために作成された資料の内容及び作成時期
をある程度把握することができ,対イラク武力行使に係る検討又は意思
決定過程の概略が明らかとなる。
そうすると,本件不開示部分1に係る情報を公にすることにより,将
来的にいずれかの国が武力行使に及ぶ事案が発生し,我が国としての立
場及び政策を策定する必要が生じた場合,当該武力行使について直接又
は間接の利害関係を有する関係国が,我が国政府の政策検討又は意思決
定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今後の対応等を推察するこ
とが可能となるほか,我が国の情報収集能力,情報分析能力等を推察す
ることも可能となるから,他国との交渉上不利益を被るおそれがある上,
我が国の安全が害されるおそれがある。また,標目のうち,関係国又は
関係機関の高官の氏名を記載したものについては,当該高官から特定の
時期に情報提供がされたことが判別されるのであり,公にすることによ
り,当該関係国や関係機関との信頼関係が損なわれるおそれが大きい。
したがって,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,どのような理由により情報収集先又は収集した情報の内容
が明らかになるのか,被告が個別具体的に明らかにしていない旨主張す
る。
しかし,本件不開示部分1に含まれる資料の内容を示す標目を参照す
れば,具体的な国名,機関名及び人名を含む情報収集先又は収集した内
容を把握することができるのであり,さらに,多数の標目全体を総覧及
び分析することで,情報収集先がどの程度多岐にわたっているか,情報
収集先となっていない国若しくは機関がどこか,又は重点的な情報収集
先となっている国若しくは機関はどこかなどを読み取ることができるた
め,我が国政府の情報源及び情報収集能力が明らかとなる。また,本件
不開示部分1には,資料の標目ごとにその作成時期が記載されているた
め,当該資料作成の前提となった外交活動の時期や,特定の時期に集中
して資料が作成されている状況及びそれに対応する外交活動,国際情勢
等を把握する材料となる。対イラク武力行使との関係では,対イラク武
力行使をめぐる情勢が展開する中,我が国がいかなる節目においていか
なる情報収集先からいかなる内容の情報を得ていたか若しくは得ようと
試みていたか,又は我が国が当該情報をどの程度重視していたかを把握
することができ,対イラク武力行使の問題に係る検討又は意思決定過程
の方針及び概略が明らかとなる。
したがって,本件不開示部分1を開示すれば,前記アのとおりのおそ
れがあるといえるのであり,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,情報収集先の国又は機関は,米国を初めとする欧州各国又
は国連の機関である国連大量破壊兵器廃棄特別委員会,国連監視検証査
察委員会等であることは合理的に予測できる旨や,被告の主張するとこ
ろは推測の材料が断片的に明らかになるという程度の事情にすぎない旨
主張するが,原告の憶測や独自の見解にすぎず,失当である。
(エ)原告は,外交を任務とする者が,その職にある期間に諸外国と連絡
を取り合うのは当たり前のことであろうし,高官であれば少なくとも当
事国においては氏名が公表されているのが通常であろうから,被告の主
張は,具体的な根拠がない旨主張する。
しかし,対イラク武力行使をめぐる情勢という国際政治上及び各国の
安全保障政策上機微な問題に係る情報提供は,情報提供先との信頼関係
の下,情報内容又は情報提供元を公にしないことが当然の国際慣行であ
り,かかる前提があるために機微な情報を収集することができる反面,
情報内容又は情報源の秘密保持を適切に行うことも当然に求められるか
ら,原告の主張は,失当である。
(2)本件文書1の1枚目の脚注3行目から6行目までに係る不開示部分(本件
不開示部分2)
ア本件不開示部分2は,本件文書1を作成するに当たり外務省が実施した
インタビューの対象者の氏名及び肩書が記録されているところ,前記⑴イ
のとおり,本件文書1自体が非公開を前提として集約された情報を基礎と
する文書であって,対イラク武力行使の発生時から10年余りしか経過し
ておらず,我が国を含む関係国において,当時の意思決定に関与していた
者の多くが引き続き外交活動に従事している中で,非公開を前提に実施さ
れたインタビューの対象者(これらの者も,現在も様々な形で外交活動に
関わっているものである。)に関する情報を公にすれば,本件検証に関す
る情報を得ようとする者等からインタビューの対象者に対して不当な働き
かけが行われる(工作活動や脅迫の対象となる事態が生ずる)おそれがあ
るほか,今後,何らかの検証等を行う場合において,インタビュー対象者
等の関係者が,いずれは自己に関する情報が公にされることを恐れ,その
結果,関係者から忌憚のない意見を得ることが困難となるおそれもあり,
今後の政府部内での協議,検討,検証等において率直な意見交換又は意思
決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある。
よって,本件不開示部分2に記録された情報は,国の機関である外務省
の内部における検討に関する情報であって,公にすることにより,率直な
意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報
(情報公開法5条5号)に該当する。
イ本件不開示部分2に記録された情報は,外務省の担当者らが外交政策を
検討する中で,非公開を前提として実施されたインタビューの対象者に関
するものであることから,その内容が後日公開されることが予想される事
態となれば,関係者等から機微な内容を含む事項を聴取することや,関係
者等との間で外交交渉に関する率直かつ忌憚のない意見を交換することが
できないこととなり,政府部内における協議,検討,検証等の事務を行う
上で多大な支障が生ずるおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
ウ(ア)原告は,外務省は,対イラク武力行使の当時の意思決定に関与して
いた者の肩書きは,情報公開請求により既に開示されており(甲17,
18),それらの者の氏名を特定することも容易である旨主張する。
しかし,対イラク武力行使から約10年後に,我が国の対イラク武力
行使に係る対応を検証するためのインタビューの対象者として選定され
ることは,対イラク武力行使に関する意思決定において実体的な関与が
あったことを推測させるものであり,これが明らかになることは,原告
が指摘する資料の記載とは全く性質を異にするのであって,工作活動や
脅迫の対象となる蓋然性がより高いということができる。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)原告は,対イラク武力行使に関する意思決定をした際に日本政府の
幹部の立場にあった者に対して工作活動や脅迫の対象とするよりも,今
後される意思決定に不当な圧力をかけようとしてそのような働きかけを
する危険性の方がはるかに高いはずである旨主張する。
しかし,被告の主張は,当時の資料に肩書きが記載されることとイン
タビューの対象者として選定されることを比較しているのであり,過去
の意思決定に不当な圧力をかけようと働きかけが行われる当該過去の時
点での危険性と,インタビュー対象者が公表されることでインタビュー
の後に不当な働きかけが行われる今後の危険性を比較しているのではな
いから,原告の主張は,失当である。
(3)項目「国際社会の情勢」に係る不開示部分(本件不開示部分3)
ア本件不開示部分3は,イラク情勢に関する国際社会の動きに係る記述で
あって,対イラク武力行使への我が国の対応を検討する上で重要な背景と
なった関係国及び地域の政治情勢又は安全保障関連情勢に関する我が国の
率直な分析,評価等が3つの項目に分けて記録されており,その記載自体
に,我が国が,その当時,どのような国際情勢認識の中で,どのような比
較衡量又は判断を行い,イラクをめぐる政策を検討していたかが如実に表
れているため,これを公にすることにより,我が国の情報収集能力,情報
分析能力等を推察することが可能となる。また,外務省が当時のイラク情
勢をめぐる諸事情の中から,どの国,地域又は側面に焦点を当てていたか
が明らかになるため,大量破壊兵器の問題等のイラク情勢をめぐる当時の
我が国の検討の視点又は関心の対象及びこれらの国又は地域の情勢が我が
国の政策決定に与えた影響等を推察することができるから,これが公にさ
れることにより,将来的に類似の事案が発生し,我が国としての立場又は
政策を策定する必要が生じた場合,関係国が,我が国政府の政策検討又は
意思決定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今後の対応等を正確に
予測し,自国を利する形での効果的な外交活動をすることが可能となるほ
か,イラク情勢をめぐる動きについての我が国の認識が明らかになること
により,イラク及びその周辺国との間での外交交渉において,当該関係国
に対し,自国を利するための参考となり得る情報を与えることになる。外
交活動において,自己の認識や検討内容が明らかになることは,自らの懸
念や行動の予見可能性を関係国にさらすことを意味し,これが将来の交渉
戦略上好ましくないことは明らかである。さらに,上記の不開示部分に係
る情報には,関係国の対外政策に関する我が国の政府の率直な分析又は評
価についての言及も含まれており,対イラク武力行使がされてから10年
余りしか経過しておらず,我が国を含む関係国において,当時の意思決定
に関与していた者の多くが引き続き外交活動に従事している中で当該情報
を公にすれば,関係国との信頼関係が損なわれるおそれがある。
よって,本件不開示部分3に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他
国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつ
き相当の理由がある情報(情報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分3に記録された情報は,公にしないことを前提とした外
務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分3に記録された情報は,これを公にすることにより,イ
ラク情勢をめぐる我が国の検討の視点,関心の対象等が明らかになること
から,将来的に類似の事案が発生し,我が国としての立場又は政策を策定
する必要が生じた場合,関係国が,これらの情報を我が国の今後の対応を
予測するために用いるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼす
おそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,外務省がどの国又は地域に焦点を当てていたかという事情
だけで,我が国の今後の対応等を正確に予測することなど到底考えられ
ないし,自国を利する形での効果的な外交活動を行うことが可能とも考
えられない旨主張する。
しかし,対イラク武力行使と同様,いずれかの国が武力行使を行う事
態が生じた場合には,当該武力行使に直接の利害関係を有する国々のみ
ならず,当該武力行使に直接的に関わらない国々であっても,その国を
取り巻く情勢,歴史的経緯等様々な側面から利害関係を持ち得るため,
直接又は間接の利害関係を有する国々が当該武力行使に関して積極的な
外交活動を展開することが想定される。このような中で,我が国が対イ
ラク武力行使を支持するという判断を行うに当たり,当時のイラク情勢
をめぐる諸事情のうち,どの国,地域又は側面(我が国が着目した特定
の国又は地域における内外の政治情勢及びそれに関連する事情)に焦点
を当てていたかが明らかになれば,我が国が大量破壊兵器の問題等のイ
ラク情勢をめぐる当時の我が国の検討の視点又は関心の対象,これらの
国又は地域の情勢が我が国の政策決定に与えた影響等を推察することが
できることとなる。さらに,イラクを含む中東情勢が,多様な要因が相
互に影響し合う中で非常に激しい変動を見せており,域内外の諸国が
様々な利害関係を有する形で関与してきているところ,今後域内外の諸
国がどのような形でイラクを含む中東情勢に関与することとなるか明確
に予測することは困難であるから,イラク情勢をめぐる動きについての
我が国の認識が明らかになることによって自国を利するための参考とな
り得る情報を得る関係国を列挙して特定することは困難であるし,仮に,
特定することができるとしても,我が国がどの国を上記のような関係国
と見なしているかをつまびらかにすること自体が,当該特定された国の
みならずその他の関係国に対して,我が国がイラクを含む中東情勢につ
いていかなる見方をしているかを明らかにすることになり,他国との交
渉上不利益を被るおそれが生ずるということができる。
したがって,原告の主張は,昨今の中東情勢を踏まえないものにすぎ
ず,失当である。
(イ)原告は,本件不開示部分3の分量に触れ,この程度の内容で示され
る日本の検討又は関心対象によって,我が国の今後の対応等を正確に予
測することなどおよそ不可能である旨主張する。
しかし,本件不開示部分3は,対イラク武力行使に関する非常に多岐
にわたるイラクを除く各国の政治情勢や安保理関連の情勢のうち我が国
の対応を検討する上で重要であった考慮要素を項目分けを行いながら,
要点を絞って記載した部分であるから,対イラク武力行使という国際政
治上及び各国の安全保障政策上機微な問題に関する意思決定を行うに当
たり,我が国として重要な考慮要素としていた点が鮮明に現れている部
分といえ,項目分けの仕方及びその記述内容を含め,記載自体が一定の
価値判断又は評価を伴うものとなっている。そして,将来的にいずれか
の国が武力行使に至るという事態が生じ,我が国としての立場又は政策
を策定する必要が生じた場合,それがイラクではない国であったとして
も,我が国が重要な考慮要素とする点の多くは,本件検証の内容と共通
するから,関係国が我が国政府の政策検討又は意思決定の手法,政策検
討上の関心事項,我が国の今後の対応等を正確に予測し,自国を利する
形での効果的な外交活動を行うことが可能となる。
したがって,原告の主張は,理由がない。
(ウ)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案及び関係国について
も具体的に特定されていないから,交渉上の不利益を被る具体的な蓋然
性が認められる余地はない旨主張するが,第3の3(1)(被告の主張の要
点)アのとおりであって,原告の主張は,失当である。
(4)項目「日本の状況」に係る不開示部分(本件不開示部分4)
ア本件不開示部分4は,対イラク武力行使への我が国の対応を検討する上
で重要な背景となった対イラク武力行使前後の我が国の外交的努力を中心
とした我が国を取り巻く情勢(当時の我が国の政府が行った外交及び安全
保障上の取組等に係る内容であって,当時我が国が安全保障上の懸念とし
て認識していたイラク以外の特定の地域に係る情勢に関する記述を含む。)
について記録されており,これを公にすることにより,外交及び安全保障
関係における我が国の関心事項及び政策決定において我が国が考慮してい
る事項等が明らかとなるから,我が国の安全保障及びそれに関係する関係
国との交渉において,関係国が本件不開示部分4に係る情報を参考として
用いることが可能となる。
よって,本件不開示部分4に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがある
と行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情報公開法5
条3号)に該当する。
イ本件不開示部分4に記録された情報は,公にしないことを前提とした外
務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分4に記録された情報は,これを公にすることにより,外
交及び安全保障関係における我が国の関心事項及び政策決定において我が
国が考慮している事項等が明らかとなるから,我が国の安全保障及びそれ
に関係する関係国との交渉において,関係国が,本件不開示部分4に係る
情報を参考として用いることが可能となり,我が国の今後の対応を推察す
ることも可能となるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすお
それがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,本件不開示部分4については,本件文書1を要約した「報
告の主なポイント」(甲4の2)にも「〈我が国の外交努力〉」として,
1頁分以上の記述がある一方で,本件不開示部分4は数行程度の分量で
あって,本件不開示部分4の記述の大半は,「報告の主なポイント」に
おいて明らかにされていると考えるのが合理的であるから,「報告の主
なポイント」における記載と重複する部分については,これを不開示と
する理由は全くない旨主張するが,本件不開示部分4は,「報告の主な
ポイント」中の「〈我が国の外交努力〉」に対応するものではなく,「報
告の主なポイント」には,本件不開示部分4に記録されている情報は記
載されていないから,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,本件不開示部分4の分量が数行程度である以上,外交及び
安全保障関係における我が国の関心事項並びに政策決定において我が国
が考慮している事項を推測するのは困難である,仮に,これらを推測す
ることができたとしても,それによって生ずるおそれは極めて抽象的な
ものにとどまる旨主張する。
しかし,本件不開示部分4には,対イラク武力行使についての我が国
の対応を検討する上で重要な背景事情となった我が国の外交的努力を中
心とした我が国を取り巻く情勢が取捨選択の上で記載されており,その
中には,我が国が行った安全保障上の取組及び安全保障に関する我が国
の見解も含まれているのであって,これを公にすることにより,外交及
び安全保障関係における我が国の関心事項,政策決定において我が国が
考慮している事項等が明らかとなるから,分量が少ないとしても,それ
は取捨選択の上で,我が国が重要と考える事項又は見解が凝縮されてい
ることによるものであり,項目分けの仕方及びその記述内容を含め,記
載自体が一定の価値判断や評価を伴うものとなっている。そして,将来
的にいずれかの国が武力行使に至るという事態が生じ,我が国としての
立場又は政策を策定する必要が生じた場合,それがイラクではない国で
あったとしても,我が国が重要な考慮要素とする点の多くは,本件検証
の内容と共通するから,関係国が,我が国政府の政策検討,意思決定の
手法,政策検討上の関心事項,我が国の今後の対応等を正確に予測し,
自国を利する形での効果的な外交活動を行うことが可能となる。しかも,
前記アのとおり,本件不開示部分4には,イラクではない特定の地域に
係る情勢に関する記述が含まれているが,当該記載は,我が国が対イラ
ク武力行使への対応を検討する過程において特に重要であった内容であ
り,これが公にされた場合,我が国の関心事項や政策決定における考慮
事項が明らかになるものである。
したがって,原告の主張は,失当である。
(5)項目「対イラク武力行使支持に至る我が国政府の検討過程・外交努力の概
観」に係る不開示部分(本件不開示部分5)
ア本件不開示部分5は,イラク問題に対する我が国の対応を検討していく
上で考慮に入れた事項,検討過程においてとられていた方針又は立場,政
策決定に関与した部署等の体制,関係国とのやり取り等が記録されており,
これを公にすることにより,我が国の情報収集能力,情報分析能力等を推
察することが可能となるほか,外交及び安全保障関係における我が国の関
心事項,政策決定において我が国が考慮している事項等が明らかとなるか
ら,将来的に類似の事案が発生し,我が国としての立場又は政策を策定す
る必要が生じた場合,関係国が我が国政府の政策検討又は意思決定の手法,
政策検討上の関心事項,我が国の今後の対応等を正確に予測し,自国を利
する形での効果的な外交活動を行うことが可能となる上,イラク情勢をめ
ぐる動きについての我が国の認識が明らかになることにより,イラク及び
その周辺国との間での外交交渉において,当該関係国に対し,自国を利す
るための参考となり得る情報を与えることになる。また,関係国との必ず
しも公になることを前提としない個別具体的なやり取りを公にすることに
より,関係国との信頼関係が損なわれるおそれがある。
よって,本件不開示部分5に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他
国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつ
き相当の理由がある情報(情報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分5に記録された情報は,公にしないことを前提とした外
務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分5に記録された情報は,これを公にすることにより,外
交及び安全保障関係における我が国の関心事項及び政策決定において我が
国が考慮している事項等が明らかとなるから,将来的に類似の事案が発生
した場合において,関係国が,これらの情報を我が国の今後の対応を予測
するために用いるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそ
れがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)において,2002
年(平成14年)初めから2003年(平成15年)3月に至るまでの
我が国政府内での検討の過程及び外交努力に関する記載がされていると
して,「報告の主なポイント」による要約と重複する部分を不開示にす
る理由は全くない旨主張する。
しかし,「報告の主なポイント」は,本件文書1の単なる抜き書きで
はなく,本件文書1の内容を精査した上で新たに作成されて公表された
ものであり,本件文書1の記述内容と同一の部分とそうではない部分を
区別することは容易ではないし,内容の詳細さや具体性にも違いがある
から,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,「日本の外交努力」(甲9)の記述と本件文書1の記述は,
その大部分が重複するものと考えられるほか,同じ事実について外務省
が公にしている資料の記載と大きく異なることは考え難いから,本件不
開示部分5を不開示とする理由はないし,文字列で記載された報告書で
あるから,切り分けが困難ということ自体考え難い旨主張する。
しかし,「日本の外交努力」は,存在を公表しても差し支えのない会
談や報道発表が機械的に羅列されたものであるのに対し,本件不開示部
分5には,検証を行うに際して特に注目すべき我が国と関係国との間の
やり取りを取り上げて,それに対する評価も交えつつ具体的かつ詳細な
内容が記載されているから,両者は,その内容及び性質を異にする文書
であって,これらを同列に扱うことはできない。また,外務省が公表し
ている事項が含まれるとしても,その記載は,当該事項を示すことのみ
にその趣旨があるのではなく,本件検証の結果として,多数の出来事(各
出来事や我が国の動きに対する評価,各事実の背景事情及び原因,時系
列の中で各事実が後の事実にどのような影響を及ぼしたか,省内外での
検討,調整過程,政府高官等への報告や指示,他国との折衝及び具体的
な情報収集活動やそれらを踏まえた上での省内外や政府高官等の認識,
評価等)の中で我が国が特に重視した事項又は我が国の意思決定に影響
を与えた事項を取捨選択の上で抽出し,その事項に対する評価やその影
響等とともに一体として示すことにその趣旨があるから,文字列による
切り分けは困難であり,仮に切り分けたとしても,当該記載自体が価値
判断や評価を伴うことから,被告が主張するような支障が生ずることに
変わりはない。
したがって,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,本件不開示部分5程度の分量の記載で,我が国の情報収集
能力,情報分析能力等を推測するとしても,精度の高い推測とはいえず,
同じく,関心事項や考慮している事項として明らかになる内容もたかが
しれている旨主張する。
しかし,本件不開示部分5に記録されている情報は,前記アのとおり
であり,前記アのようなおそれがあることは明らかであるから,原告の
主張は,失当である。
(エ)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案及び関係国について
も具体的に特定されていないから,交渉上の不利益を被る具体的な蓋然
性が認められる余地はない旨主張するが,前記(3)エ(ウ)と同様,原告の
主張は,失当である。
(6)項目「情報収集についての検証」に係る不開示部分(本件不開示部分6)
ア本件不開示部分6は,我が国政府による情報収集についての具体的方法
及び内容について記録された部分であり,これを公にすることにより,我
が国の情報収集の対象に係る関心事項,情報収集能力,情報収集先,情報
源等が明らかとなり(一般的に,情報収集活動によって得られた情報の種
類からは情報収集を行う主体が重視する事項が,情報収集先からはその主
体が行う情報収集の方法や当該事項を判断する際に重視する関係主体が,
それぞれ具体的に明らかになる。),これによって,我が国政府の政策検
討又は意思決定の手法,政策検討上重視する国際情勢及び関係諸国が表れ
るのであって,関係国に対して我が国の政策上の懸念や行動の予見可能性
を明らかにすることを意味し,関係国が自国を利して我が国の利益を害す
る戦略をとることを容易にするから,安全保障に関する問題はもとより,
我が国と何らかの関係で緊張関係に立つ関係国との交渉上不利益を被るお
それがある上,国の安全が害されるおそれも,情報収集先である他国との
信頼関係が損なわれるおそれもある。
よって,本件不開示部分6に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他
国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつ
き相当の理由がある情報(情報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分6に記録された情報は,公にしないことを前提とした外
務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分6に記録された情報は,前記アのとおり,これを公にす
ることにより,我が国の情報収集の対象に係る関心事項,情報収集能力,
情報収集先,情報源等が明らかとなるから,安全保障に関する問題はもと
より,我が国と何らかの関係で緊張関係に立つ関係国との交渉上不利益を
被るおそれがあるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそ
れがある。また,上記の情報を公にすると,今後,情報提供者からの協力
を得ることが困難となり,我が国政府の情報収集事務の適正な遂行に支障
を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)の記載を挙げた上で,
主要な情報収集先並びに具体的な情報収集の方法及び内容が公開されて
おり,少なくとも主要な情報収集先については非公開とする必要がなく,
また,外交交渉事務への支障も生じていない旨主張するが,本件不開示
部分6には,「報告の主なポイント」において既に公開されている情報
と比較して,より具体的な情報収集先又は情報収集の方法若しくは内容
が記載されているから,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,本件不開示部分6を開示することにより具体的にどのよう
なおそれが生ずるのか説明がなく,公にされた事項と文字列で切り分け
ることも可能である旨主張する。
しかし,本件不開示部分6には,他国の情報収集能力等に関わる内容
も含まれる上,国際政治上及び各国の安全保障上機微な性質の情報提供
は,相手先との信頼関係の下,情報内容のみならず情報提供元も公にし
ないことが当然の国際慣行であるから,これを公にすることにより,他
国との信頼関係が損なわれるおそれがある。また,本件不開示部分6に
は,情報収集のための在外公館を含む省内外に対する指示内容及びその
報告状況や我が国内での情報共有状況についての分析も含むものとなっ
ており,対イラク武力行使をめぐる情勢が展開する中,我が国がいかな
る節目においていかなる情報収集先からいかなる内容の情報を得ていた
か,又は得ようと試みていたか,また我が国が当該情報をどの程度重視
していたかを把握することができ,対イラク武力行使に関する検討又は
意思決定過程における方針及び概略も明らかとなる。また,前記(5)エ
(イ)と同様,外務省が公表している事項が含まれるとしても,その記載
は,当該事項を示すことのみにその趣旨があるのではなく,本件検証の
結果として,多数の出来事の中で我が国が特に重視した事項又は我が国
の意思決定に影響を与えた事項を抽出し,その事項に対する評価やその
影響等とともに一体として示すことにその趣旨があるから,文字列によ
る切り分けは困難であり,仮に切り分けたとしても,当該記載自体が価
値判断や評価を伴うことから,被告が主張するような支障が生ずること
に変わりはない。
したがって,本件不開示部分6を公にすることにより,将来的にいず
れかの国が武力行使に至るという事態が生じ,我が国としての立場,政
策を策定する必要が生じた場合,それがイラクではない国であったとし
ても,我が国が重要な考慮要素とする点の多くは,本件検証の内容と共
通するから,当該武力行使について直接又は間接の利害関係を有する関
係国が,我が国政府の政策検討,意思決定の手法,政策検討上の関心事
項,さらには我が国の今後の対応等を推察することが可能となるほか,
我が国の情報収集能力,情報分析能力等を推察することも可能となるか
ら,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,尖閣諸島に関する問題についてされた新聞報道を挙げてそ
のことにより外交交渉事務等への支障が生じたことはない旨主張するが,
原告が指摘するような事実に関する報道がされたとしても,それは飽く
までも報道機関等によるものであって政府が公表したものではないから,
当該報道をもって我が国政府の外交交渉事務に支障が生じないというこ
とはできない上,仮に,報道の内容に真実の情報が含まれているとして
も,それは私人である報道機関の意見や見解が反映されたものであり,
それを政府が政府の見解として公表するのとでは外交交渉事務に及ぼす
影響が全く異なる。
したがって,原告の主張は,失当である。
(エ)原告は,新聞報道は,政府機関の動きや官房長官の記者会見での発
言内容等,政府が公表した発言や行動に関する事実を詳細に記載したも
のであって,政府が公表した場合と実質的に変わりがない旨主張する。
しかし,報道内容が政府が公表した事実を含むとしても,報道機関の
意見や見解が反映されたものであり,政府が公表した場合と実質的に変
わりがないとはいえないし,本件不開示部分6には,公表された事実も
多数含まれているものの,多数の事実の中から取捨選択を経た事実が記
載されており,記載自体が一定の価値判断や評価を伴うものになってい
るのである。
したがって,原告の主張は,失当である。
(7)項目「分析についての検証」に係る不開示部分(本件不開示部分7)
ア本件不開示部分7は,対イラク武力行使に関係するいくつかの特定の問
題(武力行使により生じ得る影響)又は動向に関する情報分析の手法,分
析過程に関する評価,作成された資料の内容及びその用途並びにそれらの
共有のあり方(資料の作成過程を含む。)に関する評価が4つの項目に分
けて記録された部分であり,これを公にすることにより,我が国による国
際情勢の分析の方途及び能力が明らかになるとともに,その分析結果が我
が国政府の政策決定にどのように活用されるかという点がつまびらかにな
り,将来的に類似の事案が発生し,我が国としての立場又は政策を策定す
る必要が生じた場合,関係国が,我が国政府の政策検討又は意思決定の手
法,政策検討上の関心事項,我が国の今後の対応等を正確に予測し,自国
を利する形での効果的な外交活動を行うことが可能となるほか,イラク情
勢をめぐる我が国の認識が明らかになることにより,イラク及びその周辺
国との間での外交交渉において,当該関係国に対し,自国を利するための
参考となり得る情報を与えることになる。
よって,本件不開示部分7に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがある
と行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情報公開法5
条3号)に該当する。
イ本件不開示部分7に記録された情報は,公にしないことを前提とした外
務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分7に記録された情報は,これを公にすることにより,外
交及び安全保障関係における我が国の関心事項,政策決定において我が国
が考慮している事項,我が国の分析検討の視点等が明らかとなるから,将
来的に類似の事案が発生した場合において,関係国が,これらの情報を我
が国の今後の対応を予測するために用いるなど,我が国の今後の外交交渉
事務に支障を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,「イラクを巡る情勢の経緯」(甲6)には,前記アの不開
示部分の分量以上にイラクをめぐる情勢の経緯が説明されている上,「日
本の外交努力」(甲9)には,対イラク武力行使の平和的解決のために
いかなる外交努力を行ったかが具体的に記載されている旨主張する。
しかし,上記の「イラクを巡る情勢の経緯」及び「日本の外交努力」
には,存在を公表しても差し支えのない安保理の決議,イラクの査察妨
害等の事実経過,会談,報道発表等が羅列されているにとどまっており,
イラク問題に関する我が国の情勢分析等の評価を含まず,専ら情報の分
析,分析結果の共有等についての詳細な検証結果が記録されている本件
不開示部分7とは共通性のない記載にとどまっているから,原告の主張
は,失当である。
(イ)原告は,具体的事実を挙げることなく,評価のみを書き連ねること
は不可能又は困難であるから,本件不開示部分7には,イラク情勢に関
する具体的事実の経過に関する記載も含まれているはずであって,当該
部分は開示することができるはずである旨主張する。
しかし,これは,原告による推測にすぎず,実際には,収集された情
報を踏まえた上での分析の手法,過程又は結果の共有過程を指摘するも
のであって,その内容から,我が国が対イラク武力行使に係る検討又は
意思決定の方針を策定する上でどのような点を重視していたかを容易に
把握することが可能となる上,仮に,当該情報の中に,外務省が公にし
ている対イラク武力行使に関する情勢等の具体的事実が含まれていると
しても,公になっている部分のみを切り分けることは困難であるし,仮
に,切り分けることが可能であるとしても,当該事実が記載されること
自体が一定の価値判断や評価を含み,我が国の情報分析能力又は考慮事
項を示すことにつながることに変わりはない。
したがって,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すのかも不
明確であるし,関係国についても何ら具体的に特定されていないから,
日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地はない旨
主張するが,前記(3)エ(ウ)と同様,原告の主張は,失当である。
(エ)原告は,尖閣諸島に関する問題についてされた新聞報道を挙げてそ
のことにより外交交渉事務等への支障が生じたことはない旨主張するが,
前記⑹エ(ウ)に述べたとおりであって,原告の主張は,失当である。
(オ)原告は,新聞報道は,政府機関の動きや官房長官の記者会見での発
言内容等,政府が公表した発言や行動に関する事実を詳細に記載したも
のであって,政府が公表した場合と実質的に変わりがない旨主張する。
しかし,前記⑹エ(エ)と同様の理由により,原告の主張は,失当であ
る。
(8)項目「検討・意思決定プロセス」に係る不開示部分(本件不開示部分8)
ア本件不開示部分8は,外務省内及び政府部内でどのような手続を経て対
イラク武力行使をめぐる政策検討及び意思決定がされたのかという対イラ
ク武力行使の問題に係る検討又は意思決定プロセス(特に,外務省内にお
ける関係局内の協議の具体的な開催状況,官邸との密接な協議状況,検討
及び意思決定プロセスにおいて考慮された事項),それに対する本件検証
としての評価等について,具体的な内容が記録された部分であり,これを
公にすることにより,我が国の政策検討の具体的な手続及び政策検討上の
関心事項が明らかになるから,将来的に類似の事案が発生し,我が国とし
ての立場又は政策を策定する必要が生じた場合,関係国が,我が国政府の
政策検討又は意思決定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今後の対
応等を正確に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を行うことが
可能となるほか,我が国と何らかの問題で緊張関係に立つ関係国が,我が
国政府の意思形成過程及び政策検討上の関心事項等を基に,我が国の今後
の対応を推察することが可能となるなど,他国との交渉上不利益を被るお
それがある。
よって,本件不開示部分8に記録された情報は,公にすることにより,
他国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることに
つき相当の理由がある情報(情報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分8に記録された情報は,公にしないことを前提とした外
務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分8に記録された情報は,これを公にすることにより,我
が国の政策検討の具体的な手続及び政策検討上の関心事項が明らかになる
から,将来的に類似の事案が発生した場合において,関係国が,これらの
情報を我が国の今後の対応を推察するための参考とするなど,我が国の今
後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,「55人が語るイラク戦争」(甲11)やオランダが公表
している報告書を挙げた上で,本件不開示部分8の分量が半頁もないこ
とからすると,本件不開示部分8に上記の書籍で具体的に記載された情
報以上に詳細な情報が記録されているか,大いに疑問があるし,上記の
書籍の内容は正確であるから,これと同一の内容の情報が記載されてい
る部分には不開示情報該当性がない旨主張する。
しかし,本件不開示部分8は,前記⑶エ(イ)と同様,対イラク武力行
使という国際政治上及び各国の安全保障政策上機微な問題に関する意思
決定を行うに当たり,我が国として重要な考慮要素としていた点が鮮明
に現れている部分といえ,項目分けの仕方及びその記述内容を含め,記
載自体が一定の価値判断又は評価を伴うものとなっている。そして,原
告が指摘する書籍は,政府が作成した文書ではなく,著者又は編集者の
意見又は見解が反映されたものであって,それが正確であるとの前提が
なく,本件文書1とは性格が異なるし,仮に,同一の事実が記載されて
いるとしても,本件不開示部分8は,対イラク武力行使の問題に係る我
が国の政策決定プロセスの検証という観点からの記述であり,政府が政
府の見解として公表するのと私人が著作等で出版するのとでは外交交渉
に及ぼす影響が全く異なる。また,前記⑺エ(イ)と同様,公になってい
る情報を含むとしても,公になっている部分のみを切り分けることは困
難であるし,仮に,切り分けることが可能であるとしても,当該事実が
記載されること自体が一定の価値判断又は評価を含み,我が国の情報分
析能力又は考慮事項を示すことにつながることに変わりはない。そして,
対イラク武力行使について行われた他国の調査は,他国の立場で,他国
特有の視点に基づいて行われたものであって,我が国が行った本件検証
とは別個のものであるから,我が国が行った本件検証と同列に論ずるこ
とはできず,本件文書1の内容を公にした場合に生ずる影響を検討する
に当たって,他国の調査結果及びその内容をもって直ちに,本件検証の
内容も同様に公表すべきとの結論が導き出されるものではない。
したがって,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すのかも不
明確であるし,関係国についても何ら具体的に特定されていないから,
日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地はない旨
主張するが,前記(3)エ(ウ)と同様,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,尖閣諸島に関する問題についてされた新聞報道を挙げてそ
のことにより外交交渉事務等への支障が生じたことはない旨主張するが,
前記⑹エ(ウ)に述べたとおりであって,原告の主張は,失当である。
(9)項目「武力行使の支持に至るプロセス」に係る不開示部分(本件不開示部
分9)
ア本件不開示部分9は,これを公にすることにより,我が国政府における
対イラク武力行使の支持に至る具体的な政策決定過程,考慮事項等が明ら
かになり,我が国が具体的にいかなる要素を重視して政策決定を行ったの
かが如実に表れるから,将来的に類似の事案が発生し,我が国としての立
場又は政策を策定する必要が生じた場合,関係国が,我が国政府の政策検
討,意思決定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今後の対応等を正
確に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を行うことが可能とな
るほか,イラク情勢をめぐる我が国の認識が明らかになることにより,イ
ラク及びその周辺国との間での外交交渉において,当該関係国に対し,自
国を利するための参考となり得る情報を与えることになる。また,上記の
不開示部分には,関係国高官と我が国政府との間で交わされた具体的やり
取り,例えば,関係国の情勢認識又は意図を推察し得る発言内容も含まれ,
これを公にした場合,関係国との信頼関係が損なわれるおそれがある。
よって,本件不開示部分9に記録された情報は,公にすることにより,
他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るお
それがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情
報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分9に記録された情報は,公にしないことを前提とした外
務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分9に記録された情報は,これを公にすることにより,我
が国の政策決定過程のほか,政策決定過程における検討の視点,関心の対
象等が明らかになり,関係国との交渉において,関係国が,本件不開示部
分9に係る情報を参考として用いることにより,我が国の対応を推察する
ことが可能となるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそ
れがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すのかも不
明確であるし,関係国についても何ら具体的に特定されていないから,
日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地はない旨
主張するが,前記(3)エ(ウ)と同様,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,「日本の外交努力」(甲9)には,日本政府が行った外交
努力が具体的に記載されているし,「55人が語るイラク戦争」(甲1
1)には,我が国が対イラク武力行使の支持を表明する直前の小泉首相
及び福田康夫内閣官房長官(当時)とパウエル国務長官との会談の内容
が具体的に記載されている旨主張する。
しかし,本件不開示部分9と「日本の外交努力」との関係は,前記⑺
エ(ア)のとおりであり,「日本の外交努力」の記載と本件不開示部分9
の記録とはその性格が全く異なる。また,「55人が語るイラク戦争」
については,前記⑻エ(ア)のとおり,本件文書1と性格が異なり,外交
交渉に及ぼす影響も異なるだけではなく,本件不開示部分9には,原告
が指摘するような内容が記録されているわけでもない。また,原告が指
摘するものと同一の内容が含まれているとしても,前記⑺エ(イ)と同様,
公になっている部分のみを切り分けることは困難であるし,仮に,切り
分けることが可能であるとしても,当該事実が記載されること自体が一
定の価値判断又は評価を含み,我が国の情報分析能力又は考慮事項を示
すことにつながることに変わりはない。
したがって,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,外務省事務次官と駐日中国大使との会談の具体的やり取り
が新聞で報道されることもあるとして,本件不開示部分9には,関係国
高官と我が国政府との間で交わされた具体的なやり取りも含まれており,
これを公にした場合,関係国との信頼関係が損なわれるおそれがある旨
の被告の主張に合理的な根拠がない旨主張する。
しかし,本件不開示部分9には,当該関係国の情勢認識や意図を推察
し得る発言内容が含まれており,第三国が,当該関係国の当時の情勢認
識や意図を手がかりとして,類似の問題が生じた場合に当該関係国の出
方を推察することが可能となるから,原告の主張は,失当である。なお,
本件不開示部分9には,外務省がその実施を公開した会談や協議につい
ても記載されているが,非公表の内容やその評価と一体のものとして記
載されているために,公開した情報と切り分けることは困難である。
(エ)原告は,被告が前記(ウ)において主張するような複雑な因果の流れ
が単なる確率的可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性のあるものと
は到底考えられない旨主張する。
しかし,国家間の協議においては,両国が率直に自国の事実認識や利
害状況を述べ合うことにより,初めて双方の利害を踏まえた誠実な協議
が成り立つのであり,このような協議の内容は,それが当初から公表を
予定して行われる場合でない限り,一方的な公開は相手方との信頼関係
を損なうものであってそれを開示しないのが当然の国際慣行であるから,
蓋然性の程度を問題とする原告の主張は,失当である。
(10)項目「米側への働きかけ」に係る不開示部分(本件不開示部分10)
ア本件不開示部分10は,我が国と米国との外交交渉の内容及びその効果
に対する評価に係る記録がされた部分であって,我が国が米国との関係で
重要と考える要素が端的に記載されており,これを公にすることにより,
我が国政府の米国への働きかけの詳細及びそれに対する米国の反応に係る
我が国の評価が明らかになることから,米国との信頼関係が損なわれるお
それがある。また,米国は我が国にとって最も重要な同盟国の1つであり,
米国との関係で我が国が考慮する事項は日本の外交政策全般に影響を与え
ているから,イラク問題について我が国政府が米国に対していかなる働き
かけを行っていたかを公にすれば,将来的に類似の事案が発生し,我が国
としての立場又は政策を策定する必要が生じた場合,関係国が,我が国政
府の政策検討,意思決定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今後の
対応等を正確に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を行うこと
が可能となるほか,イラク情勢をめぐる我が国の認識が明らかになること
により,イラク及びその周辺国との間での外交交渉において,当該関係国
に対し,自国を利するための参考となり得る情報を与えることになる。
よって,本件不開示部分10に記録された情報は,公にすることにより,
他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るお
それがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情
報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分10に記録された情報は,公にしないことを前提とした
外務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分10に記録された情報は,これを公にすることにより,
我が国政府が米国に働きかけを行うに当たって重視した点や対イラク武力
行使に係る関心の対象等が明らかになり,将来的に類似の事案が発生した
場合において,関係国が,本件不開示部分10に係る情報を我が国の今後
の対応を推察するための参考とするなど,我が国の今後の外交交渉事務に
支障を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)において,武力行使
の前に外交的手段を尽くすべきであり,国際的連帯が必要であるとの考
え方を繰り返し伝達した旨の米国への働きかけの内容が公表されている
上,「日本の外交努力」(甲9)にも,米国への働きかけの具体的内容
が記載されているとして,本件不開示部分10には,情報公開法5条3
号及び6号に該当する事由はない旨主張する。
しかし,「報告の主なポイント」については,前記⑸エ(ア)と同様で
あり,米国への働きかけの内容が一部抽象的に記載されているからとい
って,本件不開示部分10の全部を直ちに開示すべきことにはならない
し,本件不開示部分10には,「報告の主なポイント」には記載のない
内容が含まれている。また,「日本の外交努力」についても,前記⑺エ
(ア)と同様であるほか,本件不開示部分10には,「日本の外交努力」
には記載のない我が国の米国に対する働きかけについての評価及び我が
国の働きかけに対する米国からの反応に係る記録が含まれる。また,原
告が指摘する文書等の記載と同一の内容が含まれていたとしても,前記
⑺エ(イ)と同様,公になっている部分のみを切り分けることは困難であ
るし,仮に,切り分けることが可能であるとしても,当該事実が記載さ
れること自体が一定の価値判断や評価を含み,我が国の情報分析能力又
は考慮事項を示すことにつながることに変わりはない。
したがって,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,本件不開示部分10が半頁程度の記載しかなく,本件文書
1が検証結果をとりまとめた報告書であるという位置付けからしても,
被告が主張するようなおそれがあるとはとても考えられない旨主張する。
しかし,本件不開示部分10の分量が半頁程度であるとしても,対イ
ラク武力行使に至るまでの我が国の米国側に対する働きかけについて,
特に重要視した両国政府高官の会談等の内容が取捨選択の上で記載され
ているのであるから,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すのかも不
明確であるし,関係国についても何ら具体的に特定されていないから,
日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地はない旨
主張するが,前記(3)エ(ウ)と同様,原告の主張は,失当である。
(11)項目「米国以外の各国への働きかけ」に係る不開示部分(本件不開示部
分11)
ア本件不開示部分11は,我が国と米国以外の関係各国との外交交渉の内
容及びその効果に対する評価に係る記録がされた部分であり,これを公に
することにより,我が国政府の関係各国への働きかけの詳細(どのような
政策的意図の下に働きかけたかとの点を含む。)及びそれに対する関係各
国の反応に係る我が国の評価が明らかになることから,関係各国との信頼
関係が損なわれるおそれがある。また,イラク問題について我が国政府が
関係各国といかなる調整を行ったかは,将来的に類似の事案が発生し,我
が国としての立場又は政策を策定する必要が生じた場合,関係国が,我が
国政府の対応等を正確に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を
行うことが可能となるほか,イラク情勢をめぐる我が国の認識が明らかに
なることにより,イラク及びその周辺国との間での外交交渉において,当
該関係国に対し,自国を利するための参考となり得る情報を与えることに
なる。
よって,本件不開示部分11に記録された情報は,公にすることにより,
他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るお
それがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情
報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分11に記録された情報は,公にしないことを前提とした
外務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分11に記録された情報は,これを公にすることにより,
我が国政府が関係各国に働きかけを行うに当たって重視した点や対イラク
武力行使に係る関心の対象等が明らかになり,将来的に類似の事案が発生
した場合において,関係国が,本件不開示部分11に係る情報を我が国の
今後の対応を推察するための参考とするなど,我が国の今後の外交交渉事
務に支障を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,日本が米国以
外の関係各国に対し,「イラクによる査察無条件受入れに向けた新たな
安保理決議の採択について累次働きかけを行った」ことが,「日本の外
交努力」(甲9)には,日本が米国以外の関係国に行った働きかけを含
めた具体的事実が,それぞれ記載されている上,川口順子外務大臣(当
時。以下「川口外相」という。)が新たな安保理決議の採択に向けて我
が国が行った働きかけについて会見で説明し,外務省もこれを公表して
いる旨主張する。
しかし,本件不開示部分11には,イラクによる査察無条件受入れに
向けた新たな安保理決議の採択に関する記録以外のものも記録されてい
る上,関係各国との間における具体的な外交交渉の内容(米国以外の関
係各国に対し,どのような実際の働きかけに向けた事前の調整がされた
か又は実際に協議が行われ,様々なレベル間での働きかけが行われてき
たか等)も記載されており,我が国が対イラク武力行使に係る検討又は
意思決定の方針を策定する上で,関係各国をどの国と捉え,関係各国と
の調整又は協議においてどのような点を重視していたかを容易に把握す
ることができるから,原告が指摘するものの記載よりもその具体性の差
が大きい。
そして,我が国政府が関係各国に対して働きかけを行った意図,働き
かけに対する相手国又は関係国の反応及び働きかけに対する評価は,「報
告の主なポイント」には記載されていないし,「日本の外交努力」につ
いては,前記⑺エ(ア)と同様であるほか,本件不開示部分11には,「日
本の外交努力」には記載のない本件検証を行うに際して特に注目すべき
我が国と米国以外の関係各国との間でのやり取りや評価が,具体的かつ
詳細に記録されている。
また,原告が指摘する文書等の記載と同一の内容が含まれていたとし
ても,前記⑺エ(イ)と同様,公になっている部分のみを切り分けること
は困難であるし,仮に,切り分けることが可能であるとしても,当該事
実が記載されること自体が一定の価値判断や評価を含み,我が国の情報
分析能力や考慮事項を示すことにつながることに変わりはない。さらに,
外務大臣の会見と本件不開示部分11とは,その内容が一致しているわ
けではない。
したがって,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,「55人が語るイラク戦争」(甲11)にも日本がした関
係各国への働きかけ等が具体的に記載されている旨主張するが,前記⑻
エ(ア)のとおり,上記の書籍は,本件文書1と性格が異なり,外交交渉
に及ぼす影響も異なるから,原告の主張は,失当である。
⑿項目「武力行使の法的側面」に係る不開示部分(本件不開示部分12)
ア本件不開示部分12は,対イラク武力行使の法的根拠についての我が国
と他国との外交交渉の内容(我が国が特定の意図を持って関係各国との間
で調整や外交努力を行ったこと及びその具体的態様)並びにその効果に対
する評価に係る記録がされた部分であり,これを公にすることにより,他
国との外交交渉の詳細が明らかになることから,他国との信頼関係が損な
われるおそれがある。また,我が国が対イラク武力行使を支持するという
政策決定をするに至る上でした法的側面についての検討の方途(武力行使
の法的根拠の解釈及び武力行使までの対応について複数の選択肢がある中
で,我が国が武力行使を初めとする重要事項の法的根拠についてどのよう
な視点及び方向性で解釈するか,その調整のために重要と考えている関係
国及びその理由)が明らかとなるから,将来的に類似の事案が発生し,我
が国としての立場又は政策を策定する必要が生じた場合,関係国が,我が
国政府の政策検討,意思決定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今
後の対応等を正確に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を行う
ことが可能となるほか,イラク情勢をめぐる我が国の認識が明らかになる
ことにより,イラク及びその周辺国との間での外交交渉において,当該関
係国に対し,自国を利するための参考となり得る情報を与えることになる。
よって,本件不開示部分12に記録された情報は,公にすることにより,
他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るお
それがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情
報公開法5条3号)に該当する。なお,諸外国の報告書は,各国がそれぞ
れの目的に基づき,判断及び実施したものであって,情報公開法上の不開
示事由は,我が国にとっての「おそれ」であるから,事情の異なる諸外国
が本件文書1とは別の検証報告書等を公表しているとしても,そのことか
ら直ちに,上記の「おそれ」がないということにはならない。
イ本件不開示部分12に記録された情報は,公にしないことを前提とした
外務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分12に記録された情報は,これを公にすることにより,
対イラク武力行使の合法性に係る我が国の検討の視点,関心の対象,外交
上の具体的対応等が明らかになり,関係国が,将来的に類似の事案が発生
した場合における我が国政府の対応を推察するための参考とするなど,我
が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,武力行使の国際法上の合法性は国連等で公に議論されてい
る内容であり,小泉首相も記者会見でそれを説明しているから,法的側
面に関する見解等は開示しないとすべき事柄ではないし,本件不開示部
分12が1頁に満たない程度の分量であって,検討結果としての武力行
使についての法的根拠に関する説明や一般的な記述も含まれる以上,こ
こに具体的で詳細な事実又は見解が織り込まれていることは想定し難い
旨主張する。
しかし,本件不開示部分12には,武力行使についての法的根拠に係
る一般的な記述,米国による法的根拠に係る主張又は公開の場における
議論の内容が記載されているのではなく,前記アのとおりの内容が記録
されているから,原告の主張は,その前提を誤るものである。また,前
記⑶エ(イ)と同様,対イラク武力行使という国際政治上及び各国の安全
保障政策上機微な問題に関する意思決定を行うに当たり,我が国として
重要な考慮要素としていた点が鮮明に現れている部分といえ,項目分け
の仕方やその記述内容を含め,記載自体が一定の価値判断や評価を伴う
ものとなっているのである。
したがって,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,他国との外交交渉については,「日本の外交努力」(甲9)
で具体的に記載されている旨主張するが,前記(5)エ(イ)と同様,原告の
主張は,失当である。
(ウ)原告は,「55人が語るイラク戦争」(甲11)及び「研究ノート
武力行使に関する国連の法的枠組みの有効性」(甲14)を挙げ,本件
不開示部分12には,情報公開法5条3号及び6号に該当する事由はな
い旨主張するが,「55人が語るイラク戦争」については,前記⑻エ(ア)
のとおり,本件文書1と性格が異なり,外交交渉に及ぼす影響も異なる
し,「研究ノート武力行使に関する国連の法的枠組みの有効性」につ
いては,それが公開の場における議論の内容,公開されている米国等の
政策及び武力行使に係る学説を紹介又は検討し,武力行使に関する国連
の法的枠組みの有効性を検討しているものであって,前記アのような本
件不開示部分12に記録されている情報とは内容又は性質が異なるから,
原告の主張は,失当である。
(エ)原告は,①外務省が開示した文書(甲31,32)によれば,武力
行使の法的根拠は,例外なく複数の安保理決議に照らして説明されてい
るほか,英国法務総裁による解釈(甲30)は,対イラク武力行使がさ
れた当時に既に公にされており,日本もこれを入手して分析していたこ
とも明らかであるから,本件不開示部分12においても,これに言及し
ていることが想定できる,②川口外相が対イラク武力行使に関する国際
法上の法的側面に係る見解を記者会見の中で述べている(甲34)から,
本件不開示部分12を不開示とする理由がない旨主張する。
しかし,前記アのとおり,本件不開示部分12には,武力行使の法的
根拠についての我が国又は国際社会の見解という結論だけではなく,そ
こに至る検討の過程又は交渉の状況が具体的に記載されており,原告が
指摘する文書等(甲30ないし32,34)とは異なる内容のものであ
るから,原告の主張は,失当である。
⒀項目「武力行使の支持の理由」に係る不開示部分(本件不開示部分13)
ア本件不開示部分13は,当時の我が国を取り巻く安全保障環境等の情勢
(イラクのみならず,我が国の安全保障に今なお深く関わる特定の国又は
地域の情勢及びこれらの国又は地域と我が国との関係に係る我が国の評価
を含む。)といった具体的かつ詳細な考慮事項を含む我が国が対イラク武
力行使を支持したことに関する具体的な理由及び考慮事項が記録された部
分であり,これを公にすることにより,我が国政府の対イラク武力行使の
支持という政策決定を行う上で考慮した諸事項が明らかとなるところ,一
国の外交政策を予測するに際しては,国際情勢や従前の対応のみを見ても
正確な予測を行い得るものではなく,いかなる事項に着目し,いかなる理
由から政策決定を行ったのかという点に着目することが重要であるから,
上記のような諸事項(上記のとおり,当時の我が国を取り巻く安全保障環
境等の情勢も含まれている。)が明らかとなれば,将来的に類似の事案が
発生し,我が国としての立場又は政策を策定する必要が生じた場合,関係
国が,我が国政府の政策検討又は意思決定の手法,政策検討上の関心事項,
我が国の今後の対応等を,国際情勢や従前の対応のみを根拠とするよりも
正確に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を行うことが可能と
なるほか,イラク情勢をめぐる我が国の認識が明らかになることにより,
イラク及びその周辺国との間での外交交渉において,当該関係国に対し,
自国を利するための参考となり得る情報を与えることになる。
よって,本件不開示部分13に記録された情報は,公にすることにより,
他国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることに
つき相当の理由がある情報(情報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分13に記録された情報は,公にしないことを前提とした
外務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分13に記録された情報は,これを公にすることにより,
我が国政府が対イラク武力行使を支持するという政策決定を行う上で考慮
した諸事項が明らかとなるから,将来的に類似の事案が発生した場合にお
いて,関係国が,本件不開示部分13に係る情報を我が国の今後の対応を
推察するための参考とするなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及
ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,本件不開示部分13に記載されているのは,既に15年も
経過した過去の国際情勢等に関する事実にすぎない旨主張する。
しかし,我が国や関係国の地理的又は経済的位置付けは,15年とい
う時間が経過しても多分に変化せず,これらの要因は我が国の安全保障
環境を大きく規定しているところ,本件不開示部分13には,我が国の
安全保障環境に今なお深く関係する国又は地域の情勢,これらと我が国
の関係に係る我が国の評価等を踏まえて更に踏み込んだ実際的な理由が
記載されているから,それが過去の時点の情勢及び評価であったとして
も,これを開示することは,現在の我が国の対応を予測することにつな
がるものである。
したがって,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,3分の1頁程度の分量しかない本件不開示部分13におい
て,対イラク武力行使に関する日本の意思決定理由及び考慮事項の具体
的かつ詳細な内容が記載されているとは到底考えられない旨主張するが,
前記⑶エ(イ)と同様,対イラク武力行使という国際政治上及び各国の安
全保障政策上機微な問題に関する意思決定を行うに当たり,我が国とし
て重要な考慮要素としていた点が鮮明に現れている部分といえ,項目分
けの仕方やその記述内容を含め,記載自体が一定の価値判断や評価を伴
うものとなっているから,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すのかも不
明確であるし,関係国についても何ら具体的に特定されていないから,
日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地はない旨
主張するが,前記(3)エ(ウ)と同様,原告の主張は,失当である。
(エ)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)として,本件文書1
の主なポイントを外務省のウェブサイト上で公開しているから,本件文
書1には公にしないことを前提としていなかった部分が存在することは
明白であるとして,本件文書1が公にしないことを前提としていた旨の
被告の主張が成り立ち得ない旨主張する。
しかし,「報告の主なポイント」については,前記⑸エ(ア)と同様で
あるほか,本件不開示部分13には,「報告の主なポイント」には記載
のない我が国が対イラク武力行使を支持した具体的な理由及び考慮事項
に係る内容も含まれているから,原告の主張は,失当である。
⒁項目「国民への説明責任についての検証」に係る不開示部分(本件不開示
部分14)
ア本件不開示部分14は,対イラク武力行使をめぐる我が国の対応に関し,
対イラク武力行使を支持することについて国民の理解を得るとの観点から,
外務省内で行われた説明責任を果たすための具体的な説明手法(どのよう
な考え方の下,どのような方法で,国内の世論形成に努めるか)に関する
検討,これを踏まえて他国に対して行っていた働きかけ等の具体的な取組
について,その効果も含めた詳細な検証結果が記録された部分であり,こ
れを公にすることにより,対イラク武力行使に係る広報を行うに当たって
外務省が重視していた事項等が明らかとなり,将来的に類似の事案が発生
し,我が国としての立場又は政策を策定する必要が生じた場合,関係国が,
我が国政府の対応を推察する手がかりとしたり,イラク情勢をめぐる我が
国の認識が明らかになることにより,イラク及びその周辺国との間での外
交交渉において,当該関係国に対し,自国を利するための参考となり得る
情報を与えることになる。また,安全保障その他の問題で緊張関係に立つ
国が,我が国の対応を妨害すべく,我が国の国内世論工作等を行う上での
参考として用いることも可能となる。
よって,本件不開示部分14に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがある
と行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情報公開法5
条3号)に該当する。
イ本件不開示部分14に記録された情報は,公にしないことを前提とした
外務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。なお,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,「本件に対
する国民の理解を得るための広報の重要性は早くから認識されており,ま
た,ホームページを含め種々の努力が払われてきた」との記載があるが,
前記⑸エ(ア)と同様,そのことをもって直ちに,上記の不開示部分の全て
を開示すべきことになるわけではない。
ウ本件不開示部分14に記録された情報は,これを公にすることにより,
イラク問題をめぐる我が国の検討の視点や関心の対象等が明らかになり,
将来的に類似の事案が発生した場合において,関係国が,我が国の対応を
推察する手がかりとなるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼ
すおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,国民への広報の内容はすでに公開されている旨主張するが,
本件不開示部分14に記録されている情報は公開されていない上,その
一部に公開されている情報が含まれるとしても,その記載内容が取捨選
択を経たものであることに留意する必要があるから,原告の主張は,失
当である。
(イ)原告は,本件不開示部分14に記録された情報は,国内向けの事柄
にとどまり,対外的又は国際的に何らかの具体的な支障が生ずるものと
は到底想定できない旨主張する。
しかし,ある外交政策が国内において理解又は支持を得られているか
は,当該政策の持続可能性,国際社会における説得力等に関わってくる
ものであり,ひいては当該政策の効果に多分に影響するものである。ま
た,外交政策の立案及び実施過程において,国内世論及びそれを踏まえ
た国内への説明責任をいかなる手法を用いながら果たすかとの点は,外
交政策に大きな影響を及ぼすものである。
したがって,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すのかも不
明確であるし,関係国についても何ら具体的に特定されていないから,
日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地はない旨
主張するが,前記(3)エ(ウ)と同様,原告の主張は,失当である。
⒂項目「情報収集・分析」に係る不開示部分(本件不開示部分15)
ア本件不開示部分15は,情報の収集又は分析の手法及びその活用につい
て,対イラク武力行使に係る情報収集又は分析についての改善点及び今後
の改善策も含めた具体的内容(これには,対イラク武力行使に際して収集
を目指していた特定の情報の収集に関する具体的態様及びそれに対する改
善策を含む評価も含まれる。)が記録された部分であって,これを公にす
ることにより,我が国の情報収集能力,情報分析能力等が明らかとなり,
情報収集及び分析に関する我が国の今後の指針も明らかとなるところ,情
報収集は,あらゆる外交交渉の基礎となるものであって外交政策に多大な
影響を与えるものである上,我が国の情報収集能力及び分析能力に関心を
有する国は多く存在し,それが明らかとなれば,我が国が現に有する我が
国に対する脅威の存在やその度合いを測る能力も明らかとなって我が国の
安全保障にとって深刻な問題が生ずるから,安全保障に関する問題はもと
より,我が国と何らかの問題で緊張関係に立つ関係国との交渉上不利益を
被るおそれがあるだけではなく,我が国の安全が害されるおそれがある。
よって,本件不開示部分15に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがある
と行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情報公開法5
条3号)に該当する。
イ本件不開示部分15に記録された情報は,公にしないことを前提とした
外務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分15に記録された情報は,これを公にすることにより,
外務省の情報収集源及び今後情報源として活用すべき関係先が明らかとな
るから,安全保障に関する問題はもとより,我が国と何らかの問題で緊張
関係に立つ関係国との交渉上不利益を被るおそれもあるなど,我が国の今
後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,①どのような国との,どのような交渉において,どのよう
な不利益が生じ得るのかについて何ら具体的な主張をするものではなく,
交渉上不利益を被るおそれ又は外交交渉事務の適正な遂行に支障が生じ
るおそれの具体的な蓋然性が認められる余地はない,②情報源そのもの
を明らかにすることと当該情報源から得た情報の内容を明らかにするこ
とは,全く別問題であり,これらを峻別することなく,一律に不開示と
する決定は明らかに合理性を欠くなどと主張するが前記ア及びウに述べ
たところに加え,情報収集源又は情報の内容のいずれを公にした場合で
あっても,信頼関係が損なわれて,情報収集源等からの協力を得られな
くなるおそれがあることにも照らすと,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,情報収集源及び情報の内容を公開した場合に信頼関係が損
なわれるのは,当該情報収集源が収集源であること及び提供した情報の
内容のいずれの公開をも拒否している場合である旨主張するが,国際政
治上及び各国の安全保障政策上機微な問題に係る情報提供は,情報内容
や情報提供元を公にしないことが当然の国際慣行であり,情報提供元が
公にすることを拒否している場合に限って秘密保持が要請されるわけで
はないから,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,本件不開示部分15の分量は1枚足らずのものであり,「報
告の主なポイント」(甲4の2)において,半頁程度の分量にわたって
情報収集源又は今後情報源として活用すべき関係先を含む具体的なポイ
ントが公表されていることからすると,本件不開示部分15に記録され
ている情報のおおよその内容は「報告の主なポイント」において既に公
表されていると解するのが自然であり,当該部分を全て不開示とする合
理的理由がなく,情報収集事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれの具
体的な蓋然性もない旨主張するが,前記⑶エ(イ)と同様,対イラク武力
行使という国際政治上及び各国の安全保障政策上機微な問題に関する意
思決定を行うに当たり,我が国として重要な考慮要素としていた点が鮮
明に現れている部分といえ,項目分けの仕方やその記述内容を含め,記
載自体が一定の価値判断や評価を伴うものとなっている上,前記⑸エ
(ア)と同様,「報告の主なポイント」に一定の記載が存することをもっ
て直ちに,上記の不開示部分の全てを開示すべきことになるわけでもな
いから,原告の主張は,失当である。
(エ)原告は,15年の時の経過を理由に,本件不開示部分15を不開示
とする理由がない旨主張するが,前記⒀エ(ア)と同様,我が国や関係国
の地理的及び経済的位置付けは時の経過により変化しないし,本件不開
示部分15のうち我が国の課題に関する記載は,まさに現在の我が国の
政策に関わる内容であるから,原告の主張は,失当である。
(16)項目「政策決定・実施」に係る不開示部分(本件不開示部分16)
ア本件不開示部分16は,外務省内及び政府部内における対イラク武力行
使に係る政策検討又は意思決定過程の具体的な内容及びそれに対する積極
又は消極両面の評価,イラク問題に関する関係各国との間で行われたやり
取り及びその外交的効果等に加え,大量破壊兵器の存否に関する我が国の
検討に対する分析及び評価が記録された部分であり,これを公にすること
により,我が国の政策検討の手法及び政策検討上の関心事項が明らかとな
る上,対イラク武力行使の問題に係る政策検討又は意思決定における問題
点及びそれに対する改善策についても明らかとなるところ,一国の外交政
策を予測するに際しては,国際情勢又は従前の対応のみを見ても正確な予
測を行い得るものではなく,いかなる事項に着目し,いかなる理由から政
策決定を行ったのかという点に着目することが重要であるから,我が国政
府自身が行った検証の結果として,上記のような諸事項が明らかとなれば,
将来的に類似の事案が発生し,我が国としての立場又は政策を策定する必
要が生じた場合,関係国が,我が国政府の政策検討又は意思決定の手法,
政策検討上の関心事項,我が国の今後の対応等を,国際情勢又は従前の対
応のみを根拠とするよりも正確に予測し,自国を利する形での効果的な外
交活動を行うことが可能となるほか,イラク情勢をめぐる我が国の認識が
明らかになることにより,イラク及びその周辺国との間での外交交渉にお
いて,当該関係国に対し,自国を利するための参考となり得る情報を与え
ることになる。また,本件不開示部分16には,対イラク武力行使をめぐ
って実際に行われた関係各国との連携状況及びそれに対する外交的効果
(他国の対応への言及も含む。)も記載されているから,関係各国との信
頼関係が損なわれるおそれがある。
よって,本件不開示部分16に記録された情報は,公にすることにより,
他国との信頼関係が損なわれるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るお
それがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情
報公開法5条3号)に該当する。
イ本件不開示部分16に記録された情報は,公にしないことを前提とした
外務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分16に記録された情報は,これを公にすることにより,
我が国の政策検討の手法及び政策検討上の関心事項が明らかになる上,対
イラク武力行使の問題に係る政策検討又は意思決定における問題点及びそ
れに対する改善策についても明らかとなることから,将来的に類似の事案
が発生した場合,他国が,我が国政府の政策検討又は意思決定の手法,政
策検討上の関心事項等を具体的に推察することが可能となり,これらを我
が国の今後の対応の対応を推察するための参考材料として用いるなど,我
が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すのかも不
明確であるし,関係国並びにイラク及びその周辺国についても何ら具体
的に特定されていないから,日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然
性が認められる余地はない旨主張するが,前記(3)エ(ウ)と同様,原告の
主張は,失当である。
(イ)原告は,「報告の主なポイント」(甲4の2)において,関係各国
との連携状況等が公表されているほか,オランダが公表している検証報
告書においても,政策の経緯が詳細に公表されている旨のほか,本件不
開示部分16の分量が1頁もないことからすると,本件不開示部分16
に対イラク武力行使に関する日本政府部内での検討の内容,その態様,
教訓等の具体的かつ詳細な内容が記録されているとは到底考えられず,
我が国がこれを開示したからといって関係各国との信頼関係が損なわれ
る具体的な蓋然性はない旨主張する。
しかし,「報告の主なポイント」については,前記⑸エ(ア)と同様で
あって,そのことをもって直ちに,上記の不開示部分の全てを開示すべ
きことになるわけではないし,また,対イラク武力行使について行われ
た他国の調査は,他国の立場で,他国特有の視点に基づいて行われたも
のであって,我が国が行った本件検証とは別個のものであるから,我が
国が行った本件検証と同列に論ずることはできず,本件文書1の内容を
公にした場合に生ずる影響を検討するに当たって,前記⑻エ(ア)と同様,
他国の調査結果及びその内容をもって直ちに,本件検証の内容も同様に
公表すべきとの結論が導き出されるものではない。さらに,分量が少な
い点については,本件不開示部分16は,前記⑶エ(イ)と同様,対イラ
ク武力行使という国際政治上及び各国の安全保障政策上機微な問題に関
する意思決定を行うに当たり,我が国として重要な考慮要素としていた
点が鮮明に現れている部分といえ,項目分けの仕方やその記述内容を含
め,記載自体が一定の価値判断や評価を伴うものとなっているのである。
したがって,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,15年の時の経過を理由に,本件不開示部分16を不開示
とする理由がない旨主張するが,前記⒀エ(ア)と同様,我が国や関係国
の地理的及び経済的位置付けは時の経過により変化しないこと等に照ら
し,原告の主張は,失当である。
⒄項目「国民への説明責任」に係る不開示部分(本件不開示部分17)
ア本件不開示部分17は,イラク問題に関する国民への広報,国会議員へ
の説明等,外務省が行った各種取組の効果についての評価等が記録された
部分であり,これを公にすることにより,外務省内で行われた説明責任を
果たすための具体的手法,目指すべき理解のあり方に関する検討,イラク
問題に関する広報活動の具体的な取組,国会議員等への説明を行うに当た
って外務省が重視していた事項及び今後の改善に向けた提言が明らかとな
る。そうすると,将来的に類似の事案が発生し,我が国としての立場又は
政策を策定する必要が生じた場合,当該武力行使について直接又は間接の
利害関係を有する関係国が我が国の対応を推察するに際しては,国際情勢
又は既に公開されている従前の我が国の対応を見ても正確な予測を行い得
るものではなく,我が国がいかなる事項等を重視していたかが重要である
から,我が国政府自身が行った検証の結果として,上記の事項が明らかと
なれば,関係国が対イラク武力行使に関して我が国政府が重視していた事
項を参考として用いることによって,我が国が執る対応等を正確に予測し
(なお,本件不開示部分17には,今後に向けた提言も含まれているから,
今後の我が国の対応を予測することが一層可能となる。),自国を利する
形での効果的な外交活動を行うことが可能となるほか,イラク情勢をめぐ
る我が国の認識が明らかになることにより,イラク及びその周辺国との間
での外交交渉において,当該関係国に対し,自国を利するための参考とな
り得る情報を与えることになる。また,安全保障その他の問題で緊張関係
に立つ国が我が国の対応を妨害すべく我が国の国内世論工作等を行う上で
の参考として用いることも可能となる。
よって,本件不開示部分17に記録された情報は,公にすることにより,
国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがある
と行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報(情報公開法5
条3号)に該当する。
イ本件不開示部分17に記録された情報は,公にしないことを前提とした
外務省内での率直な意見交換に基づいて記載されたものである。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省の内部における検討に関
する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換又は意思決定
の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報(情報公開法5条5号)に
該当する。
ウ本件不開示部分17に記録された情報は,これを公にすることにより,
イラク問題をめぐる我が国の関心の対象,政策決定に当たり重視していた
事項等が明らかになることから,他国が,将来的に類似の事案が発生した
場合における我が国政府の対応を推察する手がかりとしたり,安全保障そ
の他の問題で緊張関係に立つ国が,我が国の対応を妨害すべく我が国の国
内世論工作等を行う上での参考として用いたりするなど,我が国の今後の
外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
エ(ア)原告は,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な
根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すのかも不
明確であるし,関係国並びにイラク及びその周辺国についても何ら具体
的に特定されていないから,日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然
性が認められる余地はない旨主張するが,前記(3)エ(ア)及び(ウ)と同様,
原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,国民への広報の内容は既に公開されている,本件不開示部
分17にも,「報告の主なポイント」(甲4の2)において公表されて
いる情報に対応する記載がされているはずであるなどと主張するが,本
件不開示部分17には,イラク問題に関する各種広報活動及び国会議員
等への説明に関するその効果も含めた検証結果,今後に向けた改善点等
についての具体的な提言等が記録されており,これらがそのまま公開さ
れているわけではないし,「報告の主なポイント」(甲4の2)におい
ても,前記⑸エ(ア)と同様であるだけでなく,その記載の内容も「国民
への説明方法等につき,一層の改善をする余地があると思われる。」と
の抽象的な記述にとどまっているから,原告の主張は,失当である。
(ウ)原告は,本件不開示部分17は,日本の国民に対する説明責任のあ
り方という国内向けの事柄にとどまり,対イラク武力行使に対する国民
の理解を得るとの観点から関係国に対して行った働きかけについては記
載がなく,対外的又は国際的に何らかの具体的な支障が生ずるものとは
到底想定できない旨主張するが,前記⒁エ(イ)と同様,ある外交政策が
国内において理解又は支持を得られているかは,当該政策の持続可能性,
国際社会における説得力等に関わってくるものであり,ひいては当該政
策の効果に多分に影響するものである。また,外交政策の立案又は実施
過程において,国内世論及びそれを踏まえた国内への説明責任をいかな
る手法を用いながら果たすかとの点は,外交政策に大きな影響を及ぼす
ものである。そして,外交政策と国民に向けての説明は表裏一体を成す
ものであって,関係国への働きかけに関する記述がないことをもって直
ちに外交政策又は対外的若しくは国際的影響がないともいえない。
したがって,原告の主張は,失当である。
⒅項目「参考資料2」に係る不開示部分(本件不開示部分18)
ア本件文書1自体が非公開を前提として集約された情報を基礎とする文書
であって,対イラク武力行使の発生時から10年余りしか経過しておらず,
我が国を含む関係国において,当時の意思決定に関与していた者の多くが
引き続き外交活動に従事している中で,非公開を前提としている検証チー
ムの構成員の氏名等に関する情報を公にすれば,本件検証に関する情報を
得ようとする者等から,本件検証の際に行われた議論の全体を把握してい
る構成員に対して不当な働きかけ(工作活動)が行われたり,この種の作
業が行われる際に関与する人員の所属部署が推定されて将来同種の作業が
行われる際に外交工作の対象とすべき人員が推測されたり,上記の構成員
から引継ぎを受けたことを前提に本件検証に関する情報を得ようとする者
等から現在その地位に就く者に対する不当な働きかけが行われたりするお
それは,元々氏名を公表されている者と比較してより大きいほか,今後,
何らかの検証等を行う場合において,構成員が,いずれは自己に関する情
報が公にされることをおそれ,その結果,構成員から忌憚のない意見を得
ることが困難となるおそれもあり,今後の政府部内での協議,検討,検証
等において率直な意見交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそ
れがある。
よって,本件不開示部分18に記録された情報は,国の機関である外務
省の内部における検討に関する情報であって,公にすることにより,率直
な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある情報
(情報公開法5条5号)に該当する。
イ検証チームの構成員が特定される情報内容が後日に公開されることが予
想される事態となれば,この種の作業が行われる際に関与する人員の所属
部署が推定されて将来同種の作業が行われる際に外交工作の対象とすべき
人員が推測されたり,上記の構成員から引き継ぎを受けたことを前提に本
件検証に関する情報を得ようとする者等から現在その地位に就く者に対す
る不当な働きかけが行われたりするおそれがあることから,構成員から外
交交渉に関する率直かつ忌憚のない意見を得ることが困難となるおそれが
あり,今後の政府部内における協議,検討,検証等の事務を行う上で多大
な支障が生ずるおそれがある。
よって,上記の情報は,国の機関である外務省が行う事務に関する情報
であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂
行に支障を及ぼすおそれがある情報(情報公開法5条6号柱書き)に該当
する。
ウ原告は,職員に対して不当な働きかけ(工作活動)を行うのであれば,
全体を統括していることで情報が集中している者や現在その地位に就いて
いる者に行うことが直截的かつ効率的であるから,その余の構成員につい
て氏名を公表しない被告の主張は合理的ではない旨主張する。
しかし,在アメリカ合衆国大使館(以下「在米大使館」という。)特命
全権公使に不当な働きかけを行うことが効率的であるなどというのは原告
の独自の見解であるし,検証チームの構成員は,本件文書1に記載されて
いる以上の詳細な内容を知る者であるから,検証チームの構成員に不当な
働きかけをする動機は十分にあるといえる。
したがって,原告の主張は,失当である。
(原告らの主張の要点)
1本件文書1の1枚目21行目17文字目から22行目まで及び参考資料3に
係る不開示部分(本件不開示部分1)に不開示事由がないこと
次のとおり,被告は,本件不開示部分1について,抽象的に支障を挙げるだ
けで,外務大臣の判断の公正妥当を担保するに足りる可能な限り具体的な事実
関係を主張立証した上で,開示しないことの利益が開示することの公益性を上
回ることにつき,合理的根拠を示したものとは,到底いえない。
(1)3号該当性について
ア(ア)被告は,本件不開示部分1を公にすることにより,我が国政府の対
イラク武力行使の問題に係る関心事項を推察することが可能となる旨主
張するが,あるテーマに関するある時点における国の関心事項を推察す
ることができたとしても,そのことが,情報公開法5条3号にいう「お
それ」につながる旨の被告の主張には飛躍がある。その点をおくとして
も,報告書本文や資料の具体的名称,内容を離れて資料の数と標目だけ
から関心事項を把握することはできない。
(イ)被告は,本件不開示部分1に含まれる作成時期及び資料の内容を示
す標目を参照すれば,情報収集先又は収集した情報の内容を把握するこ
とができる旨主張するが,どのような理由により情報収集先又は収集し
た内容が明らかになるのかは個別具体的に明らかにしていないだけでは
なく,情報収集先として想定される国名又は機関名は,米国若しくは欧
州各国又は国連の機関である国連大量破壊兵器廃棄特別委員会,国連監
視検証査察委員会等であることは合理的に予想できる上,標目に情報収
集先又は収集した情報内容を示すものが含まれることを意味するにすぎ
ず,それらが含まれない標目もあることを意味するものでもあるから,
被告の主張は,失当である。
(ウ)被告は,本件不開示部分1を公にすることにより,いかなる種類,
性質の資料をいかなる数収集したかなどといったことが明らかとなって
我が国政府の情報収集能力(関係各国等の情報収集先を含む。)が明ら
かとなる旨主張するが,本件不開示部分1に記載されているのは,外務
省が収集した資料の全てではなく,本件検証をするに当たって外務省が
参考にした資料にすぎず,入手経過や入手方法,さらにここで挙げられ
ているものが収集した資料の全てなのか,一部なのか,一部だとしてど
のように選別した一部なのかが記載されているわけではないから,資料
の種類,性質及び数を明らかにすることが直ちに政府の情報収集能力を
明らかにすることにはならない。仮に,政府の情報収集能力を推測し得
る資料等があるならば,それを特定した上で不開示事由を主張すべきで
あり,参考にした資料の数や標目により情報収集能力が推察することが
できたとしても,極めて抽象的なものにとどまり,不開示事由を基礎付
ける事情にはならない。
(エ)被告は,本件不開示部分1を公にした場合には,検討又は意思決定
の前提となる資料(作成時期と資料の内容を示す標目)が明らかになる
ことにより対イラク武力行使の問題に係る検討,意思決定過程の概略が
明らかとなる旨主張するが,前記(ア)から(ウ)までと同様,参考にした
資料の数及び標目だけで,検討又は意思決定の過程の概略が明らかにな
るなどということは通常あり得ず,論理にも飛躍があり,失当である。
(オ)被告は,多数の標目全体を総覧及び分析することで,情報収集先が
どの程度多岐にわたっているか,情報収集先となっていない国若しくは
機関がどこか,又は重点的な情報収集先となっている国若しくは機関は
どこかなどを読み取ることができるため,我が国政府の情報源及び情報
収集能力が明らかとなるほか,本件不開示部分1には,資料の標目ごと
にその作成時期が記載されているため,当該資料作成の前提となった外
交活動の時期や,特定の時期に集中して資料が作成されている状況及び
それに対応する外交活動や国際情勢などを把握する材料となるところ,
対イラク武力行使との関係では,対イラク武力行使をめぐる情勢が展開
する中,我が国がいかなる節目においていかなる情報収集先からいかな
る内容の情報を得ていたか若しくは得ようと試みていたか,又は我が国
が当該情報をどの程度重視していたかを把握することができ,対イラク
武力行使の問題に係る検討又は意思決定過程の方針及び概略が明らかと
なる旨主張する。
しかし,被告の主張するところは,公に知られることが懸念される情
報を推測する手がかりが本件不開示部分1に記録されているということ
と解されるが,諸外国の報告書は,被告が公に知られることを懸念する
内容それ自体に相当する事項を詳細に報告し公表しているから,推測の
材料が断片的に明らかになるという程度の事情で,将来起こるかどうか
も分からない事態を念頭に他国との交渉上不利益を被るおそれや我が国
の安全が害されるおそれがあるとはいえない。
イ(ア)被告は,本件文書1添付参考資料3に係る不開示部分について,関
係各国の高官の氏名を記載したものについては,特定の時期に当該高官
から情報提供がされたことが判明し,これを公にすることにより,他国
等との信頼関係が損なわれるおそれがある旨主張するが,外交を任務と
する者が,その職にある期間に諸外国と連絡を取り合うのは当たり前の
ことであるし,高官であれば少なくとも当事国においてその氏名が公表
されているのが通常であろうから,被告の主張には具体的な根拠がない。
(イ)被告は,対イラク武力行使をめぐる情勢という国際政治上及び各国
の安全保障政策上機微な問題に係る情報提供は,情報提供先との信頼関
係の下,情報内容や情報提供元を公にしないことが当然の国際慣行であ
る旨主張するが,諸外国の報告書では,各国の高官の氏名を特定した上
で,特定の日時に会談したことやその内容が明らかにされている(甲2
3の1・3)から,被告が主張するような国際慣行は存在しない。
(2)6号該当性について
被告は,本件文書1が非公開を前提として作成されたものであり,その内
容が後日公開されることが予想される事態となれば,今後,同種資料を作成
することがちゅうちょされ,その結果として政府部内において情報の共有を
図ることが困難となり,政府部内における協議,検討をする上で多大な支障
が生ずる旨主張するが,本件文書1が非公開を前提として作成されたものと
する根拠が明らかではない。また,非公開を前提としていたとしても,それ
を理由として直ちに文書の不開示が正当化することができるわけではない。
また,外務省の担当者らが資料の標目を開示することによって同種資料を作
成することをちゅうちょするという事態は,現実問題として考え難い。
2本件文書1の1枚目の脚注3行目から6行目までに係る不開示部分(本件不
開示部分2)に不開示事由がないこと
次のとおり,被告は,本件不開示部分2について,抽象的に開示することの
支障を挙げるだけで,外務大臣の判断の公正妥当を担保するに足りる可能な限
り具体的な事実関係を主張立証した上で,開示しないことの利益が開示するこ
との公益性を上回ることにつき,合理的根拠を示したものとは,到底いえない。
(1)5号該当性について
ア被告は,非公開を前提に実施されたインタビューの対象者に関する情報
を公にすれば,本件検証に関する情報を得ようとする者等からインタビュ
ーの対象者に対して不当な働きかけが行われるおそれがある,今後何らか
の検証等を行う場合において,インタビュー対象者等の関係者がいずれは
自己に関する情報が公にされることをおそれ,関係者から忌憚のない意見
を得ることが困難となるおそれがある旨主張するが,「不当な働きかけ」
がいかなる事態を想定しているのか不明であって,極めて抽象的な想像に
すぎないから,被告の主張は,杞憂である。また,仮に,インタビューの
対象者が工作活動の対象になるとすると,それは,その者が対イラク武力
行使当時の意思決定に関与していた事実があるからであると考えられると
ころ,そのような者の肩書きは,情報公開請求により既に開示されており
(甲17,18),それらの者の氏名を特定することも容易であるから,
被告の主張は,全く根拠がない。
イ被告は,対イラク武力行使から約10年後に,我が国の対イラク武力行
使に係る対応を検証するためのインタビューの対象者として選定されるこ
とは,対イラク武力行使に関する意思決定において実体的な関与があった
ことを推測させるものであり,これが明らかになることは,原告が指摘す
る資料の記載とは全く性質を異にするのであって,工作活動や脅迫の対象
となる蓋然性がより高いということができる旨主張する。
しかし,対イラク武力行使に関する意思決定を政府が現に検討している
時点で幹部だった立場の者の氏名は,肩書きとともに当該決定があった後
直ちに明らかになっていたところ,その後にこれらの幹部の立場にあった
者に対して脅迫がされたとか,工作活動がされたとかいう事実は存在しな
いから,対イラク武力行使がされてから10年以上経過した後にインタビ
ューの対象者になったからといって,対イラク武力行使の意思決定への関
与を理由に脅迫されたり,工作活動がされたりするとは,到底考えられな
い。また,対イラク武力行使に関する意思決定をした際に日本政府の幹部
の立場にあった者に対して工作活動や脅迫の対象とするよりも,今後され
る意思決定に不当な圧力をかけようとしてそのような働きかけをする危険
性の方がはるかに高いはずであるから,被告の主張は,誤りである。
(2)6号該当性について
被告は,本件不開示部分2が非公開を前提として実施されたインタビュー
の対象者に関するものである旨主張するが,前記1(2)と同様,非公開を前提
として実施されたものとする根拠が明らかではない上,「インタビューの対
象者に関するもの」も,氏名及び肩書きにすぎないのであり,インタビュー
されたこと自体を秘密にしないと率直な意見が述べられないというのが希有
な事態であるといえることからすると,被告が主張するようなおそれは,極
めて抽象的なものにすぎない。
3項目「国際社会の情勢」に係る不開示部分(本件不開示部分3)に不開示事
由がないこと
次のとおり,被告は,本件不開示部分3について,抽象的に支障を挙げるだ
けで,外務大臣の判断の公正妥当を担保するに足りる可能な限り具体的な事実
関係を主張立証した上で,開示しないことの利益が開示することの公益性を上
回ることにつき,合理的根拠を示したものとは,到底いえない。
(1)3号該当性
ア被告は,本件不開示部分3を公にすることにより,我が国の情報収集能
力,情報分析能力等を推察することが可能となる旨主張するが,前記1(1)
と同様である上,「国際社会の情勢」という大きな主題について,僅か1
頁程度にまとめた内容から,情報収集能力,情報分析能力等を推察するこ
となど不可能であるし,仮に推察することができたとしても,合理的な推
察とはいえず,不開示事由の存否の判断に際して考慮することができる事
項ではない。
イ被告は,①本件不開示部分3が,我が国の対応を検討する上で重要であ
った考慮要素を項目分けを行いながら,要点を絞って記載した部分であり,
対イラク武力行使という国際政治上及び各国の安全保障政策上機微な問題
に関する意思決定を行うに当たり,我が国として重要な考慮要素としてい
た点が鮮明に現れている部分といえ,項目分けの仕方やその記述内容を含
め,記載自体が一定の価値判断や評価を伴っている,②3つの項目に分か
れている本件不開示部分3自体に,我が国が,その当時,どのような国際
情勢認識の中で,どのような比較衡量,判断を行い,イラクをめぐる政策
を検討していたかが如実に表れている,③外交活動において,自己の認識
や検討内容が明らかになることは,自らの懸念や行動の予見可能性を関係
国にさらすことを意味し,これが将来の交渉戦略上好ましくないことは明
らかであるなどとして,本件不開示部分3を公にすることにより,外務省
が当時のイラク情勢をめぐる諸事情の中でどの国,地域及び側面に焦点を
当てていたかが明らかになり,将来的に類似の事案が発生した場合,関係
国が我が国政府の政策検討,意思決定の手法,政策検討上の関心事項,さ
らには我が国の今後の対応等を正確に予測し,自国を利する形での効果的
な外交活動を行うことが可能になる旨主張する。
しかし,国又は外務省が,どの国又は地域に焦点を当てていたかという
事情だけで,我が国の今後の対応等を正確に予測したり,自国を利する形
での効果的な外交活動を行うことが可能になったりするとは考えられない
上,本件不開示部分3の各項目の分量は,それぞれ数行から十数行程度の
ものであり,この程度の分量の記載で,我が国が,その当時,どのような
国際情勢認識の中で,どのような比較衡量及び判断を行い,イラクをめぐ
る政策を検討していたかを他国が正確に把握でき,しかもそれを将来の類
似の事案において応用して他国に有利に利用するとも到底考えられないか
ら,本件不開示部分3の内容を関係国に把握されたからといって,外交交
渉戦略等の場面において,日本に不利益が生ずる具体的な危険を推認する
ことはできない。また,将来的に類似の事案が発生する蓋然性があるとの
具体的な根拠はなく,「類似の事案」についても具体的に特定されていな
いから,交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性があるとも認められない。
ウ被告は,本件不開示部分3に係る情報には,関係国又は地域の政治情勢
及び安全保障関連情勢に関する我が国政府の率直な分析,評価等が記載さ
れていることから,これを公にすることにより,関係国との信頼関係が損
なわれるおそれがある旨主張するが,関係国の対外政策に関する分析又は
評価に言及するだけで,当該国との信頼関係が損なわれるとは考え難いし,
仮に,そのような事態が生ずるとすれば,それは,関係国の対外政策に言
及した内容が,一般には想定し難い特異な評価等を含む場合であろうが,
そうであればその事情を具体的に主張すべきである。
(2)5号該当性
被告は,本件不開示部分3が公にしないことを前提とした外務省内での率
直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,いかなる事実をもって公にしないことを前提としたのか,いかな
る事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をしたのか,全く具体
的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経たことをもって上
記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成された文書のほとん
どが情報公開法5条5号により不開示とすることができることになるから,
同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性
被告は,本件不開示部分3を公にすることにより,イラク情勢をめぐる我
が国の検討の視点や関心の対象等が明らかになり,将来的に類似の事案が発
生した場合,関係国がこれらの情報を我が国の今後の対応を正確に予測する
ために用いるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがあ
る旨主張するが,本件不開示部分3は,前記(1)アのとおり,「国際社会の情
勢」という大きな主題について,僅か1頁程度にまとめた内容であるから,
仮に,これを公にすることにより,イラク情勢をめぐる我が国の検討の視点
や関心の対象等が明らかになったとしても,極めて限定的,かつ,抽象的な
ものであって,今後の外交交渉事務に支障を及ぼすということは想定困難で
ある。また,前記(1)イと同様,「類似の事案」や「関係国」が具体的に特定
されておらず,外交交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地
はない。
4項目「日本の状況」に係る不開示部分(本件不開示部分4)に不開示事由が
ないこと
本件不開示部分4については,本件文書1を要約した「報告の主なポイント」
(甲4の2)にも「〈我が国の外交努力〉」として,1頁分以上の記述がある
一方で,本件不開示部分4は数行程度の分量であって,本件不開示部分4の記
述の大半は,「報告の主なポイント」において明らかにされていると考えるの
が合理的であるから,「報告の主なポイント」における記載と重複する部分に
ついては,これを不開示とする理由は全くない。
そして,次のとおり,被告は,本件不開示部分4について,抽象的に支障を
挙げるだけで,外務大臣の判断の公正妥当を担保するに足りる可能な限り具体
的な事実関係を主張立証した上で,開示しないことの利益が開示することの公
益性を上回ることにつき,合理的根拠を示したものとは,到底いえない。
(1)3号該当性について
ア被告は,本件不開示部分4には,対イラク武力行使への我が国の対応を
検討する上で重要な背景となった対イラク武力行使前後の我が国の外交的
努力を中心とした我が国を取り巻く情勢(当時の我が国の政府が行った外
交及び安全保障上の取組等に係る内容であって,当時我が国が安全保障上
の懸念として認識していたイラク以外の特定の地域に係る情勢に関する記
述を含む。)についての記述であり,公にすることにより,外交及び安全
保障関係における我が国の関心事項及び政策決定において我が国が考慮し
ている事項が明らかとなるから,我が国の安全保障及びそれに関係する関
係国との交渉において,関係国が,本件不開示部分4に係る情報を参考と
して用いることが可能となって,他国との交渉上不利益を被るおそれがあ
る上,我が国の安全が害されるおそれもある旨主張する。
しかし,仮にあるテーマに関するある時点における日本の関心事項等が
明らかになったとしても,そのことが,情報公開法5条3号にいう「おそ
れ」につながるとする被告の主張には飛躍があり,不開示を正当化する合
理的根拠があるとはいえない。そして,本件不開示部分4の分量が数行程
度である以上,被告が指摘するような壮大なテーマや内容を具体的かつ詳
細に書き尽くすことができるはずがないのであって,これを公にすること
によって,外交及び安全保障関係における我が国の関心事項並びに政策決
定において我が国が考慮している事項を推測するのは困難である。仮に,
これを推測することができたとしても,上記の程度の分量の記載から推測
することができる事項を関係国が参考として用いることは考え難く,他国
との交渉上不利益を被るおそれや,我が国の安全が害されるおそれも,極
めて抽象的なものにとどまる。外務省が既に公にしている資料(甲7,9)
における日本の安全保障上の取組や安全保障に関する日本の見解に係る記
載が相当程度の分量に及ぶことからして,本件不開示部分4がそれらの公
にされている資料の記載と相当程度重複していることが明らかである。
イ被告は,本件不開示部分4には,イラクではない特定の地域に係る情勢
に関する記述が含まれているが,当該記載は,我が国が対イラク武力行使
への対応を検討する過程において特に重要であった内容であり,これが公
にされた場合,我が国の関心事項や政策決定における考慮事項が明らかに
なる旨主張するが,既に開示された事項は全て公知の事実を簡潔かつ客観
的に記載したにすぎないものであり,これに続けて記載された僅か4行程
度の本件不開示部分4から,我が国の関心事項や政策決定における考慮事
項を把握できるとしても,およそ抽象的なレベルにとどまるから,被告が
主張するようなおそれが生ずるとは到底考えられない。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分4が公にしないことを前提とした外務省内での率
直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
ア被告は,本件不開示部分4を公にすることにより,外交及び安全保障関
係における我が国の関心事項及び政策決定において我が国が考慮している
事項が明らかとなるから,我が国の安全保障及びそれに関連する関係国と
の交渉において,関係国が,本件不開示部分4に係る情報を参考として用
いることによって我が国の今後の対応を推察することが可能となり,我が
国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張する。
しかし,前記(1)アと同様,極めて抽象的な支障を主張するものにすぎな
いから,不開示事由に該当するとはいえない。
イ被告は,僅か数行程度の記載であっても,対イラク武力行使についての
我が国の対応を検討する上で重要な背景事情となった我が国の外交的努力
を中心とした我が国を取り巻く状況が,取捨選択の上で記載されている旨
主張するが,この程度の分量の記載であれば,前記(1)アのとおり,既に公
にされている資料の中に重複する記載がないことの方が不自然であるから,
被告の主張は,失当である。
5項目「対イラク武力行使支持に至る我が国政府の検討過程・外交努力の概観」
に係る不開示部分(本件不開示部分5)に不開示事由がないこと
本件不開示部分5については,本件文書1を要約した「報告の主なポイント」
(甲4の2)にも,被告が主張する記載内容が登場しているから,「報告の主
なポイント」における記載と重複する部分を不開示とする理由は全くない。ま
た,外務省は,対イラク武力行使に至る時期に外務省の関係者が,どの国とど
のような会談をしたのかという事実の詳細を公表しており(「日本の外交努力」・
甲9),本件不開示部分5に記載されている客観的な事情は,これと大部分が
重複しているものと考えられる。また,本件不開示部分5の分量からすると,
「報告の主なポイント」の記載よりも具体的かつ詳細になっていることはあり
得ない。
そして,次のとおり,被告は,本件不開示部分5について,抽象的に支障を
挙げるだけで,外務大臣の判断の公正妥当を担保するに足りる可能な限り具体
的な事実関係を主張立証した上で,開示しないことの利益が開示することの公
益性を上回ることにつき,合理的根拠を示したものとは,到底いえない。
(1)3号該当性について
ア(ア)被告は,本件不開示部分5を公にすることにより,我が国の情報収
集能力,情報分析能力等を推察することが可能となるだけではなく,外
交及び安全保障関係における我が国の関心事項及び政策決定において我
が国が考慮している事項が明らかとなるから,関係国が,自国を利する
形での効果的な外交活動を行うことが可能となるほか,我が国の安全保
障及びそれに関連する関係国との交渉において,関係国が,本件不開示
部分5に係る情報を参考として用いることが可能となって,他国との交
渉上不利益を被るおそれがある上,我が国の安全が害されるおそれもあ
る旨主張するが,前記1(1)と同様である上,本件不開示部分5に係る分
量が2頁半程度であることを踏まえると,これを公にすることによって
明らかになる内容もたかが知れているのであり,日本の情報収集能力,
情報分析能力等を推察することなど不可能であるし,仮に推測すること
ができたとしても,精度の高い推測とはいえず,極めて抽象的なおそれ
や可能性を指摘するものにすぎないというべきであるから,不開示事由
の存否の判断に際して考慮することができる事項ではない。
(イ)被告は,本件不開示部分5を公にすることにより,将来的に類似の
事案が発生した場合,関係国が,我が国の今後の対応等を正確に予測し,
関係国が,本件不開示部分5に係る情報を参考として用いることが可能
となって,関係国との交渉上不利益を被るおそれがある旨主張するが,
将来的に類似の事案が発生する蓋然性があるとの具体的な根拠はなく,
関係国や「類似の事案」についても具体的に特定されていないから,交
渉上の不利益を被る具体的な蓋然性があるとも認められない。
イ被告は,本件不開示部分5は,当該事項を示すことのみにその趣旨があ
るのではなく,本件検証の結果として,多数の出来事等(各出来事や我が
国の動きに対する評価,各事実の背景事情及び原因,時系列の中で各事実
が後の事実にどのような影響を及ぼしたか,省内外での検討,調整過程,
政府高官等への報告や指示,他国との折衝及び具体的な情報収集活動やそ
れらを踏まえた上での省内外や政府高官等の認識,評価等)の中で我が国
が特に重視した事項又は我が国の意思決定に影響を与えた事項を取捨選択
の上で抽出し,その事項に対する評価やその影響等とともに一体として示
すことにその趣旨があるから,文字列による切り分けは困難であり,仮に
切り分けたとしても,当該記載自体が価値判断や評価を伴うものである旨
主張する。
しかし,被告は,公表されている資料に含まれている情報と同一の情報
が本件不開示部分5に含まれていることを認めているから,本来であれば
開示すべき情報を区別することなく不開示としていることが明らかであっ
て,不開示部分が広汎にすぎて取消しを免れないものである。また,特定
の文章に一定の価値判断や評価を伴うのは当然のことであって,そのこと
から直ちに情報公開法5条3号に該当するものと認められるわけではない。
そして,本件不開示部分5は,対イラク武力行使の支持に至る我が国政府
の検討過程及び外交努力の概観という事実を対象とした記載である以上,
同じ事実について外務省が公にしている資料の記載と大きく異なることは
考え難いから,仮に,文字列による切り分けが困難であるとしても,量的
に少ないはずの本件不開示部分5から,被告が懸念するような支障のおそ
れが生ずることは考え難い。さらに,英国が公表している報告書が560
頁にわたって対イラク武力行使の支持に至る英国政府の検討過程,外交努
力の概観を詳細にまとめているのに対し,本件不開示部分5は,上記の報
告書と比較すれば僅かな分量にすぎず,かつ,その多くは公表されている
情報と同じと考えられるから,被告が主張するような不開示事由があると
は考え難い。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分5が公にしないことを前提とした外務省内での率
直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分5を公にすることにより,外交及び安全保障関係
における我が国の関心事項及び政策決定において我が国が考慮している事項
が明らかとなるから,将来的に類似の事案が発生した場合,関係国が,これ
らの情報を我が国の今後の対応を正確に予測するために用いるなど,我が国
の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張する。
しかし,前記(1)ア(ア)と同様,極めて抽象的な支障を主張するものにすぎ
ないから,不開示事由に該当するとはいえない。
6項目「情報収集についての検証」に係る不開示部分(本件不開示部分6)に
不開示事由がないこと
(1)3号該当性について
ア本件不開示部分6は,原資料を基礎に調査及び分析し,検討した結果を
数頁程度の文書にまとめたものであり,個別の書類に記載された具体的な
情報ではなく,抽象化されて全体的に包括した記載がされている上,公表
された事項も多数含んでいるから,このような記述の全てが情報収集につ
いての具体的方法や内容に係る記述であるとは考えられない。追加的に開
示された部分が,いずれも抽象的又は一般的な認識又は評価を示す記述に
すぎないことからも,上記のことがうかがわれる。
イ(ア)「報告の主なポイント」(甲4の2)には,「当時の情報源のほと
んどが各国政府及び国際機関関係者であったと見受けられることに鑑み,
国内外の専門家の意見や分析を一層活用すること」との記載があり,上
記の各国政府についても,米国に加え,「英,仏,独,イラク,イラク
周辺国等」との記載があり,上記の国際機関が国連であることも明らか
であるから,少なくとも主要な情報収集先については,秘匿する必要性
はない。また,例えば,オーストラリアは,情報提供先である国際機関,
各国の外交ルート,情報機関等を公表しているから,被告がこれを開示
したとしても,信頼関係が損なわれるおそれはない。
(イ)被告は,本件不開示部分6には,「報告の主なポイント」(甲4の
2)で公開されている情報よりも具体的な情報収集先又は情報収集方法
若しくは内容が記載されている旨主張するが,少なくとも公開されてい
る情報に係る部分を開示すべきであることに変わりはなく,公にされた
事項と文字列で切り分けることも可能である上,被告の主張するところ
をもっても,担当部局や担当者まで記載されているのか,国際的に非公
然の機関の名称が記載されているのかなどの説明がなく,抽象的な説明
にとどまっていることに変わりはないから,被告の主張は,失当である。
(ウ)被告は,本件不開示部分6に外務省が公表している事項が含まれる
としても,その記載は,当該事項を示すことのみにその趣旨があるので
はなく,本件検証の結果として,多数の出来事の中で我が国が特に重視
した事項又は我が国の意思決定に影響を与えた事項を抽出し,その事項
に対する評価やその影響等とともに一体として示すことにその趣旨があ
るから,文字列による切り分けは困難であり,仮に切り分けたとしても,
当該記載自体が価値判断や評価を伴うことから,被告が主張するような
支障が生ずることに変わりはない旨主張するが,文字列で記載された報
告書についてその区別が容易ではないと考えられない上,公表されてい
る情報と同一の情報が含まれていることを被告も認めていることからす
ると,本件処分は,本来であれば開示すべき情報も区別することなく不
開示としていることが明らかであって,取消しを免れないものである。
ウ(ア)被告は,本件文書1のうち情報収集についての具体的方法や内容に
係る記述を公にすることにより,我が国の情報収集の対象に係る関心事
項,情報収集能力,情報収集先,情報源等が明らかになり,安全保障に
関する問題はもとより,我が国と何らかの問題で緊張関係に立つ関係国
との交渉上不利益を被るおそれがある上,国の安全が害されるおそれが
ある旨主張するが,対イラク武力行使を対象に情報を収集していたこと
自体は,公開して差し支えない事項であり,主要な情報収集先や情報源
は,前記イのとおり,既に明らかにされていることからすれば,被告は,
極めて抽象的なおそれを主張するにすぎない。
(イ)被告は,本件不開示部分6は,情報収集のための在外公館を含む省
内外に対する指示内容及びその報告状況や我が国内での情報共有状況に
ついての分析も含むものとなっており,我が国政府の政策検討,意思決
定の手法,政策検討上の関心事項,さらには我が国の今後の対応等を推
察することが可能となるほか,我が国の情報収集能力,情報分析能力等
を推察することも可能となり,関係国に対して我が国の政策上の懸念や
行動の予見可能性を明らかにすることを意味し,関係国が自国を利して
我が国の利益を害する戦略をとることを容易にするため,国の安全が害
されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれがある旨主張する。
しかし,具体的な事実,認識又は評価に係る記述は,個々の小項目ご
とに僅か数行程度ずつであるから,それほど具体的な記述があるとは考
えられず,関係国が自国を利して日本の利益を害する戦略をとることを
容易にすることにつながるという因果関係の存在すら疑わしい結果を招
くおそれが生ずるとは考えられない。また,外交課題の内容や日本と相
手国との地理的関係,歴史的経緯,相手国の情勢,国際機関又は他国と
の関係等の多種多様な事情によって,具体的な外交課題ごとに情報収集
すべき情報内容,収集先若しくは収集手段,政策検討上重視する要素又
は関係諸国の範囲及び重視すべき関係国は異なるから,対イラク武力行
使についての情報収集活動を一定程度具体的に明らかにしたからといっ
て,対イラク武力行使から15年以上経過した現在又は将来において,
他の外交課題について,関係国が開示された情報に基づき,自国を利し,
我が国の利益を害する戦略をとることが容易になるとはとても考えられ
ない。このことは,米国が対イラク武力行使に至る米国の情報機構の活
動を検証し,情報収集先や得た情報の内容,評価の誤り,検証から得ら
れた教訓等の記述を含む600頁以上にわたる報告書を公表しているが,
これによって他の外交課題について関係国が米国の利益を害する戦略を
とることができるわけではないことが前提となっていることからもうか
がわれる。
このように,被告が主張するおそれの具体的な説明はないから,被告
の主張は,失当である。
エ被告は,本件不開示部分6には,他国の情報収集能力等に関わる内容も
含まれる上,国際政治上及び各国の安全保障上機微な性質の情報提供は,
相手先との信頼関係の下,情報内容のみならず情報提供元も公にしないこ
とが当然の国際慣行である旨主張するが,英国を始めとする諸外国が,情
報提供先である国際機関,各国の外交ルート又は情報機関等の名称だけで
なく,他国の首脳及び高官の具体的氏名並びに具体的日時を明示した上で
会合及び会話の内容を詳細に含んだ検証結果の報告書を公表している上,
当時のイラク情勢に関する評価及び分析も公にしているから,本件不開示
部分6を開示したとしても,他国との信頼関係を損なうことにはならない
し,また,被告が上記に主張するような国際慣行があるとも考えられない。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分6が公にしないことを前提とした外務省内での率
直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分6を公にすることにより,我が国と何らかの問題
で緊張関係に立つ関係国との交渉上不利益を被るおそれがあるという我が国
の外交事務及び情報収集事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張するが,前
記(1)イ(ア)のとおり,情報収集についての具体的な方法や内容が公開されて
いるものの,外交事務等への支障は生じていない。また,外交及び安全保障
に関する問題という点で共通し,領土問題という意味で極めてセンシティブ
な問題でもある尖閣諸島の問題については,政府が国家安全保障会議で協議
した議題,方針及び情報交換の相手方が具体的に新聞で報道されているが,
これにより外交事務等に特に支障が生じたこともない。このようなことから
すれば,被告の説明は,抽象的なおそれを指摘するものにすぎない。なお,
被告は,政府が公表したものと報道機関によるものとでは外交事務に及ぼす
影響が全く異なる旨主張するが,新聞報道は,政府機関の動きや官房長官の
記者会見での発言内容等,政府が公表した発言や行動に関する事実を詳細に
記載したものであって,政府が公表した場合と実質的に変わりがないから,
合理的な理由のない詭弁にすぎない。
7項目「分析についての検証」に係る不開示部分(本件不開示部分7)に不開
示事由がないこと
(1)3号該当性について
ア(ア)被告は,本件不開示部分7を公にすることにより,我が国による国
際情勢の分析の方途及び能力が明らかになり,他国との交渉上不利益を
被るおそれがある上,我が国の安全が害されるおそれがある旨主張する
が,「イラクを巡る情勢の経緯」(甲6)には,本件不開示部分7の分
量以上の分量を割いてイラクをめぐる情勢の経緯が説明され,「日本の
外交努力」(甲9)には,対イラク武力行使の平和的解決のためにいか
なる外交努力をしたのかが具体的に記載されているから,被告の主張は,
抽象的なおそれを指摘するものにすぎないといえる。
(イ)被告は,原告が指摘した公にされた情報(甲6,9)は,イラク問
題に関する我が国の情勢分析等の評価を含まず,本件不開示部分7の記
述と共通しない性格の異なる別種の資料である旨主張するが,具体的事
実を挙げることなく,評価のみを書き連ねることは不可能又は困難であ
るから,本件不開示部分7には,イラク情勢に関する具体的事実の経過
に関する記載も含まれているはずであり,少なくともそれらの事実経過
については,既に公開されている情報と同一のものであるから,開示す
べきである。仮に,公にされた情報(甲6,9)には含まれない評価が
本件不開示部分7に記載されているとしても,被告が,それを開示しな
いことを正当化する根拠を主張すべきであるにもかかわらず,抽象的な
主張しかしないことからすると,上記の評価が情報公開法5条3号に該
当するものとはいえないというべきである。
(ウ)被告は,仮に,外務省が公にしている対イラク武力行使に関する情
勢等の具体的事実が含まれているとしても,公になっている部分のみを
切り分けることは困難であるし,仮に,切り分けることが可能であると
しても,当該事実が記載されること自体が一定の価値判断や評価を含み,
我が国の情報分析能力や考慮事項を示すことにつながることに変わりは
ない旨主張するが,前記5(1)イと同様,特定の文章に一定の価値判断や
評価を伴うのは当然のことであって,そのことから直ちに情報公開法5
条3号に該当するものと認められるわけではない。
(エ)被告は,本件不開示部分7を公にすることにより,将来的に類似の
事案が発生し,我が国としての立場,政策を策定する必要が生じた場
合,国の安全が害されるおそれ及び他国との交渉上不利益を被るおそれ
がある旨主張するが,前記6(1)ウ(イ)のとおり,外交課題ごとに情報
収集すべき情報内容,収集先若しくは収集手段,政策検討上重視する要
素又は関係諸国の範囲及び重視すべき関係国が異なるのであり,特定の
時代の特定の国に対する武力行使の影響も,武力行使に関係する特定の
国と日本との地理的若しくは政治的関係又は当該時代の国際関係によっ
て大きく異なるから,15年以上前の対イラク武力行使をめぐるイラク
情勢について,1頁にも満たない概括的な報告文書を公開したことによ
り被告が主張するような事態が生ずるとは考えられない。また,将来的
に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な根拠に基づくもので
はなく,類似の事案が何を指すのかも不明確であるし,関係国について
も何ら具体的に特定されていないだけではなく,日本がどのような他国
との関係でいかなる不利益を被るのか,どのような理由で日本の安全が
害されるのかについての具体的な説明はなく,抽象的な主張にとどま
る。
イ米国は,対イラク武力行使に至る段階で,どのような情報に基づいてイ
ラクがどのような兵器を有していたと米国がその当時に認識していたかを
振り返り,当時の判断に含まれていた誤りを,事後的に得られた情報と対
照しながら指摘しているから,日本の場合のみ,同様の事項を公表したた
めに日本の安全が害されるおそれが生ずるとは考えられない。仮に,本件
不開示部分7に記載された内容が,将来,いずれかの国の武力行使に係る
事案についても一定程度当てはまるとすれば,それは時代や情勢の変化に
よって左右されないような他国も当然に把握しているごく一般的な情報収
集手法又は分析手法であるから,他国がこれを知ったとしても,日本の対
応等を正確に予測することなどできないといえる。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分7が公にしないことを前提とした外務省内での率
直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分7を公にすることにより,将来的に類似の事案が
発生した場合において,他国が我が国の今後の対応を推察するための参考と
するなどの我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張
するが,これを前提とすると,少なくとも外交及び安全保障関係における関
心事項,考慮事項等を一切公開しないことになるが,実際にはそうではない
ことは,前記6(3)のとおりである。その余の主張も,前記5(1)ア(イ)と同
様,極めて抽象的な支障を主張するものにすぎないから,不開示事由に該当
するとはいえない。
8項目「検討・意思決定プロセス」に係る不開示部分(本件不開示部分8)に
不開示事由がないこと
(1)3号該当性について
ア被告は,対イラク武力行使の問題に係る検討及び意思決定プロセス(外
務省内における関係局内の協議の具体的な開催状況,官邸との協議状況),
それに対する評価,検討及び意思決定プロセスにおいて考慮された事項等
に係る具体的な記述を公にすると,我が国による国際情勢の分析の方途,
能力が明らかになるから,他国との交渉上不利益を被るおそれがある上,
我が国の安全が害されるおそれもある旨主張する。
しかし,新聞記事(甲10)や「55人が語るイラク戦争」(甲11)
には,政府部内における政策検討又は意思決定プロセスの具体的な内容に
関する記述及びその検討又は意思決定プロセスにおいて考慮された事項等
に係る具体的な記述が存するのであり,本件不開示部分8の分量が半頁も
ないことからすると,上記の書籍や新聞記事以上に具体的で詳細な情報が
記載されているのか,大いに疑問であるから,被告の主張は,抽象的なお
それを主張するものにすぎない。そして,将来的に類似の事案が発生する
との蓋然性は何ら具体的な根拠に基づくものではなく,類似の事案が何を
指すのかも不明確であるし,関係国についても何ら具体的に特定されてい
ない。また,オランダは,対イラク武力行使への政治的支持に至るプロセ
スについて,調査委員会を組織し,その調査結果として551頁にわたる
報告書を公表し,その中では,政治的な意思決定の経過や与党が行った連
立協議が意思決定に及ぼした影響,オランダの情報機関の役割などの政策
の経緯が詳細に記録されているところ,これと比較して本件文書1の分量
がごく僅かであって,それほど詳細な内容が記載されているとは考えられ
ないことからしても,被告の主張は,情報公開法5条3号にいう「おそれ」
を誇張しているとしか考えられない。
イ(ア)被告は,本件不開示部分8に公になっている情報が含まれていると
しても,公になっている部分のみを切り分けることは困難であるし,仮
に,切り分けることが可能であるとしても,当該事実が記載されること
自体が一定の価値判断や評価を含み,我が国の情報分析能力や考慮事項
を示すことにつながることに変わりはない旨主張するが,前記6(1)イ
(ウ)と同様,理由がない。
(イ)被告は,本件不開示部分8の分量が半頁もないものであったとして
も,政府内での政策検討及び決定プロセスに関する具体的な内容が,取
捨選択の上で我が国が重要と考える事項又は我が国の見解が,要点を絞
り凝縮されて記載されている旨主張する。
しかし,本件不開示部分8に係る被告の説明が極めて抽象的なもので
あることからすると,被告の主張が正しいと判断することは不可能であ
る。仮に,被告の主張するところを前提としても,本件不開示部分8に
は,日本の行政組織をある程度詳細に知る者であれば容易に知り得る外
務省と官邸との協議,検討,意思決定内容等の通常の政策決定プロセス
そのものが書かれているにすぎない。また,検討又は意思決定の具体的
内容が記載されているとしても,前記6(1)ウ(イ)と同様,外交課題ごと
に情報収集すべき情報内容,収集先若しくは収集手段,政策検討上重視
する要素又は関係諸国の範囲及び重視すべき関係国が異なるのであり,
政府内での政策検討,決定プロセスに関する具体的な内容が一定程度公
表されたとしても,日本の対応が推測され,日本が他国との交渉上不利
益を被るおそれがあるとは考えられない。そして,本件文書1が原資料
を取捨選択,抽象化して作成されたものであって,必然的に原資料より
も相当程度抽象化された記載となり,少ない分量での記述になっている
と考えられることからすると,開示しないことに値するだけの具体的な
内容が含まれるためには,必然的にある程度の字数を必要とするはずで
あるから,本件不開示部分8の分量が少ないこととは整合しない。
(ウ)被告は,仮に,原告が指摘した書籍(甲11)と本件文書1に同一
の事実が記載されているとしても,本件不開示部分8は,対イラク武力
行使の問題に係る我が国の政策決定プロセスの検証という観点からの記
述であり,政府が政府の見解として公表するのと私人が著作等で出版す
るのとでは,その性格も,外交交渉に及ぼす影響も全く異なる旨主張す
るが,観点の違いが直ちに不開示事由への該当性を導くものとはいえな
い上,上記の書籍は,朝日新聞のジャーナリストが内閣の構成員に対し
てしたインタビューに基づき,当時の政府の動きについて,インタビュ
ーの対象者の発言内容を具体的に引用して説明したものであり,当該発
言等は正確であると考えられるから,当該発言と同一の内容の情報が記
載された部分については,不開示とすべき理由はないというべきであ
る。
(エ)被告は,オランダが対イラク武力行使への政治的支持に至るプロセ
スについての調査結果を公表したこととの比較について,他国の調査結
果及びその内容をもって直ちに,本件検証の内容も同様に公表すべきと
の結論が導き出されるものではない旨主張するが,大量破壊兵器が存在
することを理由として対イラク武力行使がされたにもかかわらず,後に
大量破壊兵器が存在しなかったという事実について事後的に検証をした
という共通点があり,かつ,他国も調査結果を公表することによって自
国が将来外交交渉上不利益を受けること等がないよう配慮した上で詳細
な検証結果報告を公表していることからすると,日本が同様の情報を開
示したとしても,他国との信頼関係が損なわれるおそれや他国との交渉
上不利益を被るおそれはないというべきである。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分8が公にしないことを前提とした外務省内での率
直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分8を公にすることにより,将来的に類似の事案が
発生した場合において,他国が我が国の今後の対応を推察するための参考と
するなどの我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張
するが,これを前提とすると,少なくとも外交及び安全保障関係における関
心事項,考慮事項等を一切公開しないことになるが,実際にはそうではない
ことは,前記6(3)のとおりである。その余の主張も,前記5(1)ア(イ)と同
様,極めて抽象的な支障を主張するものにすぎないから,不開示事由に該当
するとはいえない。
9項目「武力行使の支持に至るプロセス」に係る不開示部分(本件不開示部分
9)に不開示事由がないこと
(1)3号該当性について
ア(ア)被告が主張する将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具
体的な根拠に基づくものではなく,そもそも,類似の事案が何を指すの
かも不明確であるし,関係国についても何ら具体的に特定されていない
から,日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性が認められる余地は
ないというべきである。
(イ)被告は,本件不開示部分9には,2002年(平成14年)初め以
降,我が国が対イラク武力行使の支持を表明するに至るまでの外務省の
対応,情勢認識,政府内での議論,外交努力等についての具体的な記述
があり,これを公にすれば,関係国が我が国政府の政策決定又は意思決
定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今後の対応等を正確に予測
し,自国を利する形での効果的な外交活動を行うことが可能となる旨主
張する。
しかし,「日本の外交努力」(甲9)には,日本政府が行った外交努
力が具体的に記載され,「55人が語るイラク戦争」(甲11)にも,
我が国が対イラク武力行使の支持を表明する直前の小泉首相及び福田康
夫官房長官(当時)とパウエル国務長官との会談の内容が具体的に記載
されている。また,新聞記事(甲10)には,駐日中国大使と外務事務
次官との具体的なやり取りが報道されている。このようなことからすれ
ば,本件不開示部分9が情報公開法5条3号に該当する旨の被告の主張
には,全く合理的な根拠がなく,抽象的なおそれを主張するにすぎない
ということができる。
(ウ)被告は,本件不開示部分9には,我が国政府における対イラク武力
行使の支持に至る具体的な政策決定過程,考慮事項等が記録されており,
我が国が具体的にいかなる要素を重視して政策決定を行ったのかが如実
に表れている旨主張するが,前記7(1)ア(エ)と同様,特定の時代の特定
の国に対する武力行使の影響も,武力行使に関係する特定の国と日本と
の地理的若しくは政治的関係又は当該時代の国際関係によって大きく異
なるのであり,日本が具体的にいかなる要素を重視して政策決定を行う
かもこれらの事情によって必然的に異なるはずであって,変わらないの
は,ごく一般的な要素や視点程度と推認される。対イラク武力行使から
15年以上の期間が経過している現在,その当時の国際情勢や二国間関
係等とは大きく異なっているから,15年前の概括的な記載又は一般的
要素若しくは視点を公開したとしても,日本に不利益が生ずるとは考え
られない。
イ(ア)被告は,本件不開示部分9に公になっている情報が含まれていると
しても,公になっている部分のみを切り分けることは困難である旨主張
するが,前記6(1)イ(ウ)と同様,理由がない。
(イ)被告は,「日本の外交努力」(甲9)は,公表しても差し支えのな
い会談及び報道発表が羅列されたものであって,本件不開示部分9とは
性格が全く異なる旨主張するが,性格が異なる点について具体的な説明
をしない上,本件不開示部分9にも事実経過が記載されているはずであ
って,既に公表されている情報と同一の情報も含まれているはずであり,
情報公開法5条3号に該当する情報のみが記載されているということは
あり得ないから,被告の主張は,失当である。
(ウ)被告は,「55人が語るイラク戦争」(甲11)と本件文書1とは
性格が異なるほか,政府の見解として発表するのと私人が出版するのと
では外交交渉に及ぼす影響が全く異なる旨主張するが,前記8(1)イ(ウ)
のとおり,当該書籍に記載されたインタビュー対象者の発言は正確であ
ると考えられるから,当該発言と同一の内容の情報が記載された部分に
ついては,不開示とすべき理由はないというべきである。
ウ(ア)被告は,本件不開示部分9には,関係国の情勢認識や意図を推察し
得る発言内容が含まれており,第三国が,当該関係国の当時の情勢認識
や意図を手がかりとして,類似の問題が生じた場合に当該関係国の出方
を推察することが可能となるから,本件不開示部分9を公にすることに
より,当該関係国に交渉上の不利益が生ずるおそれがある情報を我が国
が公開したとして,当該関係国との信頼関係が損なわれるおそれがある
旨主張する。
しかし,被告の立論が成り立つためには,①関係国の当時の情勢認識
や意図又はそれを推察し得る発言内容が,当該関係国又は他国によって
公表されたことがなく,日本だけが公表する場合であること,②第三国
は,日頃,当該関係国の出方を推察しているはずであるから,日本が公
開する情報が当該第三国による当該関係国の出方の推察を変更させるよ
うなインパクトを持つこと,③第三国による当該関係国の出方の推察を
変更させた原因が日本の行為にあることを当該関係国が知ったことの全
てが必要であるところ,当該関係国の当時の情勢認識や意図が,原因を
誤った対イラク武力行使の当時のものという特殊なもので,類似の問題
が生じた場合が想定し難いことも踏まえると,被告が主張するような複
雑な因果の流れが法的保護に値する蓋然性のあるものとは到底考えられ
ないから,被告の主張は,失当である。
(イ)被告は,協議の内容は,それが当初から公表を予定して行われる場
合でない限り,一方的な公開は相手方との信頼関係を損なうものであっ
てそれを開示しないのが当然の国際慣行である旨主張する。
しかし,英国の報告書には,英国と他国との協議内容が詳細に記載さ
れて公表され,オランダの報告書にも,オランダと他国との協議内容が
記載され,公表されているから,被告が主張するような当然の国際慣行
がないことは明らかである。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分9が公にしないことを前提とした外務省内での率
直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分9を公にすることにより,我が国の今後の外交交
渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張するが,前記(1)ア(イ)のとおり,
「日本の外交努力」(甲9)や「55人が語るイラク戦争」(甲11)には,
我が国が対イラク武力行使の支持を表明するに至るまでの外務省の対応,情
勢認識,政府内での議論,外交努力等についての具体的な記述があるし,前
記6(3)のとおり,外交及び安全保障における関心事項,考慮事項等を公開し
ていることもあるから,武力行使の支持に至るプロセスに関する情報や,外
交及び安全保障問題に関する政府の対応,情勢認識,外交努力等についての
具体的情報であるというのみでは,情報公開法5条6号の該当性を認めるこ
とはできないというべきである。
10項目「米側への働きかけ」に係る不開示部分(本件不開示部分10)に不開
示事由がないこと
(1)3号該当性について
ア被告は,本件不開示部分10を公にすることにより,非公開を前提に行
った米国との個別具体的なやり取りの内容に加え,武力行使についての我
が国の考えがつまびらかになるとともに,対イラク武力行使に至るまでに
我が国政府の米国への働きかけの内容の詳細やそれに対する米国の反応に
係る我が国の評価が明らかになることから,将来的に類似の事案が発生し,
我が国としての立場及び政策を策定する必要が生じた場合,関係国が我が
国政府の政策検討又は意思決定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の
今後の対応等を正確に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を行
うことが可能となるだけでなく,イラク及びその周辺国その他の関係国と
の間での外交交渉において,当該関係国に対し,自国を利するための参考
となり得る情報を与えることとなり,他国との交渉上不利益を被るおそれ
もあるほか,米国との信頼関係も損なわれる旨主張する。
しかし,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,米国に対して武力
行使の前に外交的手段を尽くすべきであり,国際的連帯が必要であるとの
考え方を繰り返し伝達した旨の記載があるところ,平和憲法を有する日本
がこのような態度を取ることは当然であるし,米国への働きかけの内容が
公表されているということができるほか,結局,このような日本の働きか
けが功を奏さずに米国が開戦に踏み切ったことも公知の事実であるから,
それに対応する僅かばかりの分量に収められたやり取りの内容に関する記
載を開示することに支障があるとは考えられない。そして,「日本の外交
努力」(甲9)及びその関連情報(甲19の1ないし6)にも,米国に働
きかけをした日本側の者やこれに対応した米国側の者の氏名が記載される
とともに,誰がどのような趣旨の発言をしたのかが日付とともに克明に記
録されて公表されており,米国への働きかけの具体的内容が記載されてい
る。また,本件不開示部分10の分量は半頁程度であり,本件文書1が検
証結果をとりまとめた報告書であって,原資料を取捨選択,抽象化して作
成されたものであり,必然的に原資料よりも相当程度抽象化された記載と
なって,少ない分量での記述になっていると考えられることからすると,
非公開を前提に行った米国との個別具体的なやり取りの内容が記載できる
とは考えられないし,被告が主張するようなおそれがあるとも考えられず,
これを開示しないことに何らの合理性もない。さらに,米国は,600頁
以上の詳細な検証報告書を作成して公表しており,英国も米国とのやり取
りを詳細かつ具体的に,相当の分量を割いて記載し,公表しているから,
日本だけが僅かな分量に記載された程度の米国のやり取りを非公開とする
根拠はない。その余の主張も,前記9(1)ア(ア)と同様,極めて抽象的な支
障を主張するものにすぎない。
したがって,被告の主張は,失当である。
イ被告は,本件不開示部分10に公になっている情報が含まれているとし
ても,公になっている部分のみを切り分けることは困難である旨主張する
が,前記6(1)イ(ウ)と同様,理由がない。
ウ被告は,本件不開示部分10は,行われた会談のうち,特に重要視した
ものが取捨選択の上で記載されており,いかなる会談等が抽出されたのか
ということ自体,我が国の関心事項等を推察するための貴重な情報となり
得る旨主張するが,どの会談を抽出して本件文書1に記載したという事実
を他国がどのように利用することができるのか不明である上,報告書をま
とめる過程で主だった事実経過を記載する程度の分量に圧縮すること自体
はごく普通のことであって,圧縮前は公表することができるものが,圧縮
する過程で取捨選択をしたとたんに情報公開法5条3号にいう「おそれ」
が生ずるとはおよそ考えられない。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分10が公にしないことを前提とした外務省内での
率直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
ア被告は,本件不開示部分10を公にすることにより,我が国の今後の外
交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張するが,「日本の外交努力」
(甲9)には,我が国と米国との外交交渉に係る記述が具体的に記載され
ているにもかかわらず,これによって我が国の外交交渉事務に支障が生じ
てはいないから,被告の主張は,抽象的かつ名目的な支障を及ぼすおそれ
を主張するものにすぎない。
イ被告は,「日本の外交努力」(甲9)に記載された内容と本件不開示部
分10に記載された内容とは性格が異なる旨主張するが,前記(1)ウのとお
り,公表することができる情報を圧縮して取捨選択をしたとたんに公表す
ることができなくなるという主張自体が失当である。
11項目「米国以外の各国への働きかけ」に係る不開示部分(本件不開示部分1
1)に不開示事由がないこと
(1)3号該当性について
ア被告は,本件不開示部分11は,我が国が米国以外の関係各国との間で,
どのような外交努力を行ってきたのかに関する経緯,内容の詳細が記載さ
れており,我が国政府が関係各国に対して働きかけを行った意図,働きか
けに対する相手国又は関係国の反応,働きかけに対する評価等の他国との
関係で公表されていない内容も含む我が国と米国以外の関係各国との外交
交渉に係る記述及びその効果に対する本件検証としての評価等に係る記述
であって,公にすることにより,関係各国との信頼関係が損なわれるおそ
れがあるほか,関係国に対し,自国を利するための参考となり得る情報を
与えることになり,これら他国との交渉上不利益を被るおそれがある旨主
張する。
しかし,日本が,①当初から一貫して,国連を中心とした平和的解決を
目指すとともに,国際的な連帯を確保して問題解決を図ることが重要との
観点から外交努力を行ったこと,②イラクの査察受入れが飽くまでも第一
であること,そのためにも国際的なコンセンサスを形成する努力が必要で
あること等の基本的な考え方をとりまとめたこと,③米国以外の関係各国
に対し,イラクによる査察の無条件受入れに向けた新たな安保理の決議の
採択について累次働きかけを行ったこと,④2002年(平成14年)1
1月に安保理決議1441が採択されたことを受けて,2003年(平成
15年)2月下旬から同年3月の対イラク武力行使がされる直前まで継続
的に,事態の平和的解決に向けて国際協調の維持とイラクの査察受入れの
ための外交努力を継続して実施したこと及び⑤イラクに対しては無条件の
査察受入れを粘り強く働きかけ,安保理の理事国に対してはイラクの決議
履行を促すための追加の安保理決議の採択を目指すよう累次の働きかけを
実施し,イラクの周辺国に対しては総理大臣特使の派遣等を通じてイラク
による査察受入れの重要性について働きかけたことの各事実は,全て「報
告の主なポイント」(甲4の2)に記載されており,「報告の主なポイン
ト」には,働きかけの内容のみならず,働きかけを行う背景に当たる日本
の働きかけの狙いなど,本件不開示部分11に記載されていると考えられ
る基本的な方向性も記載されている。また,「日本の外交努力」(甲9)
にも,「対イラク」,「対中東諸国」及び「対国連安保理常任理事国」に
分けて,時系列で詳細に,米国以外の関係国に行った働きかけも含めた具
体的な事実が記載されているほか,「55人が語るイラク戦争」(甲11)
にも,具体的な説明がある。さらに,川口外相は,平成15年(2003
年)3月の会見において,ドイツ,英国,ギニア及びカメルーンに新たな
安保理決議の採択に向けて働きかけたこと,アンゴラの当時の外務大臣,
ブッシュ大統領,パキスタンの当時の大統領及びチリの当時の大統領とも
会談した旨を明らかにしており,米国以外の各国への働きかけについての
相手国の名前や会談相手も明らかにしている(甲34)。
これらに加え,本件不開示部分11が1頁にも満たない分量である上に,
公開されている部分の記載がいずれも概括的な文章にとどまっていること
にも照らすと,本件不開示部分11に,上記の公開されている情報以上の
外交努力の経緯や内容が記載されていることは疑わしく,概括的な記述が
されているにすぎないことが合理的に推測される。また,ごく限られた分
量の概括的な記載から,仮に,日本が何らかの検討や比較衡量を行ったこ
とを関係国が知ったとしても,いずれの国も行うであろう検討や比較衡量
について述べた程度であれば,そのことから,日本が他国との交渉上不利
益を被るおそれがあるといえるほどに関係国が日本の対応を正確に予測す
ることなどできないはずである。そして,上記のような働きかけをするこ
とは,平和主義を憲法上の原則として掲げる日本政府の外交努力として当
然に行うべきことであるから,それが仮に具体的に記載されていたとして
も,それを開示したからといって他国との交渉で不利益を被るとは考えら
れない。
イ(ア)被告は,「日本の外交努力」(甲9)に記載のある事実のみを開示
することができない旨主張するが,「日本の外交努力」において公表さ
れている情報と同一の内容が本件不開示部分11に含まれていることを
認めるものであるから,内容的に同一の部分を選択して部分開示をする
ことは可能なはずであるし,それができないのであれば,その事情を具
体的に説明すべきである。
(イ)被告は,「55人が語るイラク戦争」(甲11)と本件文書1とは
性格が異なるから,同じ事実であっても,政府見解として公表するのと
私人が出版するのとでは,外交交渉に及ぼす影響が全く異なる旨主張す
るが,前記8(1)イ(ウ)のとおり,当該書籍に記載されたインタビュー対
象者の発言は正確であると考えられるから,当該発言と同一の内容の情
報が記載された部分については,不開示とすべき理由はないというべき
である。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分11が公にしないことを前提とした外務省内での
率直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分11を公にすることにより,我が国の今後の外交
交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張するが,「日本の外交努力」(甲
9)には,関係各国への働きかけに係る記述が具体的に記載されているにも
かかわらず,これによって我が国の外交交渉事務に支障が生じてはいないか
ら,被告の主張は,抽象的かつ名目的な支障を及ぼすおそれを主張するもの
にすぎない。
12項目「武力行使の法的側面」に係る不開示部分(本件不開示部分12)に不
開示事由がないこと
(1)3号該当性について
ア被告は,本件不開示部分12は,対イラク武力行使にしかるべき法的根
拠を持たせるための我が国の見解,米国等による対イラク武力行使につい
ての法的根拠についての我が国と他国との外交交渉の内容(我が国が特定
の意図を持って関係各国との間で調整や外交努力を行ったこと及びその具
体的態様)及びその効果に対する評価に係る記録がされた部分であり,こ
れを公にすることにより,他国との外交交渉の詳細が明らかになることか
ら,他国との信頼関係が損なわれるおそれがあるほか,イラク及びその周
辺国との間の外交交渉において,関係国に対し,自国を利するための参考
となり得る情報を与えることとなり,他国との交渉上不利益を被るおそれ
がある旨主張する。
しかし,法規範が公表情報であり,対外的に公表することができない法
的根拠では国内のみならず国際社会においても正当性を説明することがで
きないから,武力行使についての法的根拠やこれに関する政府見解等とい
う一般的な論理の話を秘密にすること自体,そもそも考え難い。武力行使
の国際法上の合法性は,国連等で公に議論されている内容であり,小泉首
相が,平成15年3月18日の記者会見で,「今までの一連の国連決議,
昨年11月の1441を初め,678,687,こういう決議において,
武力行使の根拠と成り得ると理解しております」と説明している(甲13)
ほか,川口外相も,対イラク武力行使に関する国際法上の法的側面につい
て,大臣会見で記者の質問に応じて見解を述べており(甲34),法的側
面に関する見解等は開示しないとすべき事柄ではないものといえる。これ
は,米国が国連で発表したものと同じ見解であり,この点についての検討
内容や各国の外交行為も,「研究ノート武力行使に関する国連の法的枠
組みの有効性」(甲14)で詳細に紹介されている。また,被告の主張に
おいては,「他国」,「関係各国」及び「その周辺国」がいずこの国であ
るかが不明であって,情報公開法5条3号にいう「おそれ」があることを
検討する前提が欠けている。そして,他国との外交交渉については,「日
本の外交努力」(甲9)で具体的に記載されている上,その結果に対する
評価も,当時の政府関係者の説明内容が「55人が語るイラク戦争」(甲
11)に掲載されているなど,既に公にされている内容が多い。これに加
え,本件不開示部分12の分量が1頁にも満たず,上記の公表資料以上に
詳細な情報が記載されているとは考えにくいことからすると,被告の主張
するおそれは,抽象的なものにすぎない。
イ被告は,本件不開示部分12に記載された情報は,武力行使についての
法的根拠に関係する一般的な記述ではなく,我が国が対イラク武力行使を
支持するという政策決定をするに至る上でした法的側面についての検討の
方途が明らかとなる旨主張するが,本件不開示部分12に日本政府内での
検討内容の記載が含まれているとしても,その検討結果としての武力行使
についての法的根拠に関する説明や一般的な記述も記載されているはずで
あり,本件不開示部分12の分量が1頁にも満たない分量であることから
すると,具体的で詳細な事実や見解が織り込まれていることは想定し難い。
ウ被告は,本件不開示部分12を公にすることにより,武力行使の法的根
拠の解釈や,武力行使までの対応について複数の選択肢がある中で,我が
国が武力行使を初めとする重要事項の法的根拠についてどのような視点及
び方向性で解釈するか,その調整のために重要と考えている関係国やその
理由が明らかとなる旨主張するが,各国の報告書等(甲23の5,甲24,
30)や外務省が開示した他の文書(甲31,32)によれば,武力行使
の法的根拠は,例外なく複数の安保理決議に照らして説明されており,英
国法務総裁による解釈(甲30)は,対イラク武力行使がされた当時に既
に公にされており,日本もこれを入手して分析していたことも明らかであ
るから,本件不開示部分12においても,これに言及していることが想定
できるのであって,上記のとおり,各国が,複数の選択肢がある中で,武
力行使を始めとする重要事項の法的根拠についてどのような視点及び方向
性で解釈するかという事項を明らかにしている以上,日本のみがこれを明
らかにできないとする合理性はない。
エ(ア)被告は,「日本の外交努力」(甲9)と本件文書1とでは,文書と
しての趣旨,性質が異なる旨主張するが,前記10(1)ウと同様,公表す
ることができる情報を圧縮して取捨選択をしたとたんに公表することが
できなくなるという主張自体が失当である。
(イ)被告は,「研究ノート武力行使に関する国連の法的枠組みの有効
性」(甲14)と本件不開示部分12とでは,内容及び性質が異なる旨
主張するが,少なくとも武力行使の法的根拠に関する記述が不開示事由
に該当しないことは明らかであって,少なくとも,当該部分について不
開示を維持する根拠とはなり得ない。
(ウ)被告は,本件不開示部分12には,法的根拠についての我が国や国
際社会の見解という結論だけではなく,そこに至る検討の過程や交渉の
状況が具体的に記載されており,原告が指摘する文書等(甲30ないし
32,34)とは異なる内容のものである旨主張するが,本件不開示部
分12に我が国や国際社会の見解という結論が含まれていることは認め
ており,武力行使が国際法上合法と考えられる根拠についても記載され
ているはずであって,関連する安保理決議の概要やイラクによるその違
反といった内容も含まれているはずである。本件不開示部分12の分量
は半頁程度にすぎず,箇条書き等を用いずに文章形式で説明していると
考えられるから,法的根拠を記載するだけでもかなりのスペースを必要
とするはずであるし,法的根拠について一定の見解に至る過程の検討や
交渉の状況をそのような限られたスペースに具体的に記載することがで
きるとは考え難いのであり,仮に,記載があるとしても,概括的又は抽
象的な記載にならざるを得ないはずである。
(エ)被告は,諸外国の報告書は,各国がそれぞれの目的に基づき,判断,
実施したものであって,情報公開法上の不開示事由は,我が国にとって
の「おそれ」であるから,事情の異なる諸外国が本件文書1とは別の検
証報告書等を公表しているとしても,そのことから直ちに,上記の「お
それ」がないということにはならない旨主張するが,その具体的理由は
なく,他国が公表している種類の情報(甲23の5,甲24)を日本が
公表しても,国の安全が害されるおそれがないことはもちろん,他国若
しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれもなく,他国若しくは
国際機関との交渉上不利益を被るおそれもないというべきである。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分12が公にしないことを前提とした外務省内での
率直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか,全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経
たことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成さ
れた文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができる
ことになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
ア被告は,本件不開示部分12を公にすることにより,我が国の今後の外
交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張するが,前記(1)アのとおり,
国際法上の合法性は国連等で公に議論されている内容であり,関係各国の
見解や外交行為も「研究ノート武力行使に関する国連の法的枠組みの有
効性」(甲14)で詳細に紹介されているが,これによって我が国の外交
交渉事務に支障が生じておらず,むしろ,公にしても全く問題がない性質
の情報であるから,被告の主張は,抽象的かつ名目的な支障を及ぼすおそ
れを主張するものにすぎない。
イ被告は,本件不開示部分12に係る記述が公開の場における議論の内容
というものではない旨主張するが,そのことのみをもって直ちに情報公開
法5条6号の該当性が基礎付けられるわけではないし,国連等で公に議論
される類いの武力行使の国際法上の合法性に関する検討内容であって一般
的には公開されてしかるべき種類の情報でもあるから,被告の主張は,失
当である。
13項目「武力行使の支持の理由」に係る不開示部分(本件不開示部分13)に
不開示事由がないこと
(1)3号該当性について
ア対イラク武力行使を支持した理由については,これまでの公表資料とし
て,①平成15年3月18日の小泉首相による説明(甲13),②同月2
0日の小泉首相による説明(甲35),③外務省が作成した対イラク武力
行使を支持した理由等に係る従前の政府見解及び国会答弁をまとめた資料
(甲31)があるところ,被告も,本件不開示部分13に,これらの公表
された資料に記載されている対イラク武力行使を支持した主な理由の記載
があること自体は認めている。それ以外の記載として想定されるものとし
ては,(あ)米国からされた米国のイラクに対するアプローチを支持する国
のリストに日本を含めて差し支えがないかという打診に対して同意したと
いう経緯がある(甲36)ために,即座に対イラク武力行使の支持を表明
したという趣旨の記載,(い)かつていわゆる湾岸戦争の当時に日本が拠出
した支援金について,時期的に遅いと他国から批判されたことから,同様
の評価を受けないように即座に対イラク武力行使の支持を表明したという
趣旨の記載又は(う)早期に対イラク武力行使の支持を表明した方が,その
後のイラクにおける経済活動に関与する上で有利に働くために即座に対イ
ラク武力行使の支持を表明したという趣旨の記載が考えられるが,本件不
開示部分13に,これらのもの又はそれ以外のものが記載されているとし
ても,本件不開示部分13が開示されるか否かにかかわらず,このような
武力行使の支持の理由を想定することは可能である。このような理由に基
づいて武力行使を支持したことの是非が国内的に問題になることはあると
しても,それを開示することが,現在の我が国の対応を予測させるとか,
他国との交渉上不利益を被るおそれがあるとかいうことはおおよそ考え難
い。
イ被告は,本件不開示部分13には,当時の我が国を取り巻く安全保障環
境等の情勢といった具体的かつ詳細な考慮事項を含む我が国が対イラク武
力行使を支持したことに関する具体的な理由が記載されており,本件不開
示部分13を公にすることにより,我が国政府が対イラク武力行使の支持
という政策決定を行う上で考慮した諸事項が明らかとなるから,将来的に
類似の事案が発生し,我が国としての立場,政策を策定する必要が生じた
場合,関係国が我が国政府の政策検討,意思決定の手法,政策検討上の関
心事項,さらには我が国の今後の対応等を正確に予測し,自国を利する形
での効果的な外交活動を行うことが可能となるほか,イラク情勢をめぐる
我が国の認識が明らかになることにより,当該関係国に対し,上記のとお
り,自国を利するための参考となり得る情報を与えることとなり,これら
他国との交渉上不利益を被るおそれがある旨主張する。
しかし,ある外交上の問題が生じた場合,日本の今後の対応等について
は,日本の従前の対応,日本が世界情勢で占める地位,友好関係にある各
国の動き,日本との関係性の深浅等から一定程度予測が可能であるが,日
本が有している情報の多寡やその内容等によって,日本の今後の対応等は
異なるものであるから,関係国が今後の日本の対応等を正確に予測するこ
とは不可能又は著しく困難である。また,外交上の問題において,他国の
利益となることと日本の不利益となることとの間に相関関係はなく,自国
を利する望ましい結果を得ることを目的として交渉することは外交交渉上
の当然の前提であって,日本もこれを前提として外交交渉に臨み,意思決
定を行うのであるから,本件不開示部分13を公にしたとしても,他国と
の交渉上の不利益を被る具体的な蓋然性は何ら存しない。さらに,その余
の主張も,前記5(1)ア(イ)と同様,極めて抽象的な支障を主張するものに
すぎない。
このように,被告の主張は,情報公開法5条3号に該当するおそれがな
いか,又は極めて抽象的なおそれを主張するにすぎないかのいずれかであ
るにすぎない。
ウ被告は,一国の外交政策を予測するに際しては,国際情勢や従前の対応
のみを見ても正確な予測を行い得るものではなく,いかなる事項に着目し,
いかなる理由から政策決定を行ったのかという点に着目することが重要で
あるから,我が国政府が対イラク武力行使の支持という政策決定を行う上
で考慮した諸事項が明らかとなれば,将来的に類似の事案が発生し,我が
国としての立場及び政策を策定する必要が生じた場合,関係国が我が国政
府の政策検討又は意思決定の手法,政策検討上の関心事項,我が国の今後
の対応等を,国際情勢や従前の対応のみを根拠とするよりも正確に予測す
ることが可能となる旨主張する。
しかし,本件不開示部分13に記録されているのは,日本が対イラク武
力行使を支持した理由であり,飽くまでその当時の安全保障環境に関する
記述が大半を占めていると推測することができ,既に15年も経過した過
去の国際情勢に関する事実である上,本件文書1が検証結果をとりまとめ
た報告書であって,原資料を取捨選択又は抽象化して作成されたものであ
り,必然的に原資料よりも相当程度抽象化された記載となって,少ない分
量での記述になっていると考えられることからすると,3分の1頁程度の
分量しかない本件不開示部分13において,対イラク武力行使に関する日
本の意思決定理由又は考慮事項の具体的かつ詳細な内容が記載されている
とは到底考えられず,被告の主張は,机上の空論にすぎない。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分13が公にしないことを前提とした外務省内での
率直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,被告が「報告の主なポイント」(甲4の2)において本件文書1
の主なポイントを公開しており,本件文書1には公にしないことを前提とし
ていなかった部分が存することが明白である上,前記3(2)と同様,いかなる
事実をもって公にしないことを前提としたのか,いかなる事実をもって公に
しないことを前提とした意見交換をしたのか及びいかなる事実をもって「不
当」と評価すべきなのかについて,いずれも全く具体的な説明がないところ,
単に,外務省内での検討過程を経たことをもって上記のような主張をするの
であれば,行政庁の内部で作成された文書のほとんどが情報公開法5条5号
により不開示とすることができることになるから,同号を不当に拡大する解
釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分13を公にすることにより,我が国政府が対イラ
ク武力行使の支持という政策決定を行う上で考慮した諸事項が明らかとなる
から,将来的に類似の事案が発生した場合において,これらの情報を我が国
の今後の対応を推察するための参考として用いるなど,我が国の今後の外交
交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張するが,「情報を我が国の今後
の対応を推察するための参考として用いる」主体が明らかではなく,「外交
交渉事務に支障を及ぼす」具体的な蓋然性については,何らの主張立証もな
いから,被告の主張は,およそ失当である。
14項目「国民への説明責任についての検証」に係る不開示部分(本件不開示部
分14)に不開示事由がないこと
次のとおり,被告は,本件不開示部分14について,抽象的に支障を挙げる
だけで,外務大臣の判断の公正妥当を担保するに足りる可能な限り具体的な事
実関係を主張立証した上で,開示しないことの利益が開示することの公益性を
上回ることにつき,合理的根拠を示したものとは,到底いえない。
(1)3号該当性について
被告は,本件不開示部分14には,対イラク武力行使をめぐる我が国の対
応に関し,対イラク武力行使を支持することについて国民の理解を得るとの
観点から,外務省内で行われた説明責任を果たすための具体的な説明手法(ど
のような考え方の下,どのような方法で,国内の世論形成に努めるか)に関
する検討,これを踏まえて他国に対して行っていた働きかけ等の具体的な取
組について,その効果も含めた詳細な検証結果が記録されており,これを公
にすることにより,対イラク武力行使に係る広報を行うに当たって外務省が
重視していた事項等が明らかとなり,将来的に類似の事案が発生し,我が国
としての立場又は政策を策定する必要が生じた場合,関係国が,我が国政府
の対応を推察する手がかりとしたり,イラク及びその周辺国との間での外交
交渉において,当該関係国に対し,自国を利するための参考となり得る情報
を与えることになるのであって,安全保障その他の問題で緊張関係に立つ国
が我が国の対応を妨害すべく我が国国内世論工作等を行う上での参考として
用いることも可能となるから,我が国の安全が害されるおそれ及び他国との
交渉上不利益を被るおそれがある旨主張する。
しかし,本件不開示部分14は,10行程度にすぎない上,被告が指摘す
る他国に対して行っていた働きかけが何を指しているのかは不明であるから,
これを開示しないことは著しく不当である。また,しかも,本件不開示部分
14に記録されているのは,日本が対イラク武力行使を支持した理由であり,
飽くまで当時の国民への説明責任についての検証が大半を占めていることが
推測できるのであり,既に15年も経過した過去の事実に対する検証結果を
公表したからといって現在の外交政策に大きな影響を及ぼすはずもない。さ
らに,本件検証が民主党(当時)の政権下でされて民主党に属していた外務
大臣に対して報告されたものであることからすると,公にした場合に驚くべ
き新事実や評価が記載されているとは考え難い。そして,「安全保障その他
の問題で緊張関係に立つ国」が具体的に特定されておらず,当該国が日本で
国内世論工作等を行う具体的な蓋然性もないし,仮にそのような蓋然性があ
るとしても,日本政府が適切に情報を公開することによって国民の理解を得
て適切な世論を形成することは可能であるから,国の安全が害される具体的
な蓋然性があるとはいえない。その余の主張については,前記1(1)ア(ア)及
び前記5(1)ア(イ)と同様,情報公開法5条3号に該当するおそれがないか,
又は極めて抽象的なおそれを主張するにすぎないかのいずれかにすぎない。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分14が公にしないことを前提とした外務省内での
率直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記3(2)と同様,いかなる事実をもって公にしないことを前提と
したのか,いかなる事実をもって公にしないことを前提とした意見交換をし
たのか及びいかなる事実をもって「不当」と評価すべきなのかについて,い
ずれも全く具体的な説明がないところ,単に,外務省内での検討過程を経た
ことをもって上記のような主張をするのであれば,行政庁の内部で作成され
た文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開示とすることができるこ
とになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分14が公にされることにより,イラク情勢をめぐ
る我が国の検討の視点,関心の対象等が明らかになり,将来的に類似の事案
が発生した場合における我が国政府の対応を推察する手がかりとするなど,
我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそれがある旨主張するが,「我
が国政府の対応を推察する手がかりとする」主体が明らかではなく,「外交
交渉事務に支障を及ぼす」具体的な蓋然性については,何らの主張立証もな
いし,その余の主張も,前記5(1)ア(イ)と同様,極めて抽象的な支障を主張
するものにすぎない。
15項目「情報収集・分析」に係る不開示部分(本件不開示部分15)に不開示
事由がないこと
被告は,本件不開示部分15には,対イラク武力行使に際して収集を目指し
ていた特定の情報の収集に関する具体的な態様,それに対する改善策等の情報
源,情報収集能力又は情勢分析について改善すべき点(今後に情報収集や分析
を行うべき主体,活用すべき具体的な情報収集先,収集する情報の種類,収集
した情報の分析の程度又は考え方,それに伴う制約等に関する記載を含む。),
収集及び分析した情報の効果的な活用のための改善策(外務省における政策担
当部局と情報担当部局との具体的な連携方法に関する記載を含む。)等につい
て,具体的な評価及び今後の指針が記録されている旨主張するが,記載内容の
説明として不十分であり,不開示とする理由としても不十分である。
(1)3号該当性について
ア被告は,情報収集は,あらゆる外交交渉の基礎となるものである上,我
が国の情報収集能力,情報分析能力等が明らかとなれば,我が国が現に有
する我が国に対する脅威の存在やその度合いを測る能力も明らかとなる旨
を主張する。
しかし,「報告の主なポイント」(甲4の2)には,「当時の情報源の
ほとんどが各国政府及び国際機関関係者であったと見受けられることに鑑
み,国内外の専門家の意見や分析を一層活用すること」との記載があると
ころ,上記の記載のうち「当時の情報源のほとんどが各国政府及び国際機
関関係者であったと見受けられることに鑑み」の部分については,本件文
書1のうち開示された部分に記載がないことから,本件不開示部分15に
は,これに対応した記述があると推認することができる。そして,「報告
の主なポイント」には,「政策部局からのきめ細かい情報要求等を通じて,
政策担当部局と情報担当部局の一層の連携を図ること」との記載があると
ころ,上記の記載のうち「政策部局からのきめ細かい情報要求等を通じて」
の部分については,本件文書1のうち開示された部分に記載がないことか
ら,本件不開示部分15には,これに対応した記述があると推認すること
ができる。また,「報告の主なポイント」には,「以下の諸点については
概ね適切な対応がなされたものと思われる。」として3点に分けて記載さ
れている部分があるが,本件文書1のうち開示された部分には,これに対
応する記述も見当たらない。これに加え,本件不開示部分15の分量から
して長文の記載をすることが不可能であることを踏まえると,本件不開示
部分15には,上記の内容に対応した記述が,ほぼそのまま,又は多少表
現を変更した程度で記載されていると合理的に推認することができる。さ
らに,「報告の主なポイント」には,「総合外交政策局の総合調整の下,
中東アフリカ局を始めとする関係各局間の連携を強化し,情報収集・共有
を図った」,「関係国政府や国際機関関係者等から幅広く収集」及び「イ
ラクに大量破壊兵器が存在しないことを証明する情報を外務省が得ていた
とは確認できなかった」との記載があり,日本が,どのように情報収集を
行い,どのような情報を得ていたかについて明らかにされている部分もあ
るところ,本件不開示部分15の分量が1頁足らずのものであることに照
らせば,本件不開示部分15のおおよその内容は,「報告の主なポイント」
において既に公表されていると解するのが自然であり,「報告の主なポイ
ント」において公表されている内容よりも,具体的かつ詳細な内容が,本
件不開示部分15に記載されていると解するのは困難である
そうすると,活用すべき情報収集先,外務省における政策担当部局と情
報担当部局の具体的な連携方法が特異なものであるとはいえず,我が国の
情報収集活動及びそれに基づく政府内での政策検討プロセスが明らかとな
り,我が国の政策の予見可能性が高まるというのも,杞憂にすぎない。
イ被告は,本件不開示部分15を公にすることにより,我が国の情報収集
能力,情報分析能力等が明らかとなるから,安全保障に関する問題はもと
より,我が国と何らかの問題で緊張関係に立つ関係国との交渉上不利益を
被るおそれがある上,我が国の安全が害されるおそれがある旨主張するが,
「何らかの問題で緊張関係に立つ関係国」と極めて抽象的な主張にとどま
っているとおり,どのような国とのどのような交渉において,どのような
不利益が生じ得るのかについて何ら具体的な主張をしていないから,本件
不開示部分15について,抽象的に支障を挙げるだけで,外務大臣の判断
の公正妥当を担保するに足りる可能な限り具体的な事実関係を主張立証し
た上で,開示しないことの利益が開示することの公益性を上回ることにつ
き,合理的根拠を示したものとは,到底いえない。
ウ被告は,国際政治上及び各国の安全保障政策上機微な問題に係る情報提
供は,情報内容や情報提供元を公にしないことが当然の国際慣行である旨
主張するが,このような国際慣行の存在を被告は全く立証しないほか,前
記6(1)エと同様,英国が,当時のイラク情勢に関する評価,分析を公にし
ていることからしても,被告が主張するような国際慣行があるとはいえな
い。また,15年もの時の経過によって,国際情勢,社会情勢,当該情報
に関する事務の進行の状況等の事情が当時とは大きく異なっているといえ
るほか,情報収集の手法等も当時と異なっていて当然であるから,被告の
主張は,失当である。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分15が公にしないことを前提とした外務省内での
率直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記13(2)と同様,被告が「報告の主なポイント」(甲4の2)
において本件文書1の主なポイントを公開している上,いかなる事実をもっ
て公にしないことを前提としたのか,いかなる事実をもって公にしないこと
を前提とした意見交換をしたのか及びいかなる事実をもって「不当」と評価
すべきなのかについて,いずれも全く具体的な説明がないところ,単に,外
務省内での検討過程を経たことをもって上記のような主張をするのであれば,
行政庁の内部で作成された文書のほとんどが情報公開法5条5号により不開
示とすることができることになるから,同号を不当に拡大する解釈である。
(3)6号該当性について
ア被告は,本件不開示部分15を公にすることにより,外務省の情報収集
源及び今後情報源として活用すべき関係先が明らかになるから,安全保障
に関する問題はもとより,我が国と何らかの問題で緊張関係に立つ関係国
との交渉上不利益を被るおそれがあり,我が国の外交事務の適正な遂行に
支障が生ずることの根拠となるほか,情報収集源等からの協力が得られな
くなるおそれもあり,我が国政府の情報収集事務の適正な遂行に支障を及
ぼすおそれもある旨主張する。
しかし,被告は,「何らかの問題で緊張関係に立つ関係国」と極めて抽
象的な主張をするにとどまっているとおり,どのような国とのどのような
交渉において,どのような不利益が生じ得るのかについて何ら具体的な主
張をしていないから,「交渉上不利益を被るおそれ」及び「外交事務の適
正な遂行に支障が生ずること」の具体的な蓋然性は認められない。また,
「報告の主なポイント」(甲4の2)において,「当時の情報源のほとん
どが各国政府及び国際機関関係者であったと見受けられることに鑑み,国
内外の専門家の意見や分析を一層活用する」と,情報収集源や今後情報源
として活用すべき関係先を明らかにしているから,本件不開示部分15を
公にしたとしても,情報収集事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあ
るとはいえない。そして,情報源そのものを明らかにすることと,当該情
報源から得た情報の内容を明らかにすることは,全く別問題であって,こ
れらを開示したことによって生じ得る不利益又は支障も異なるところ,被
告は,これらを峻別することなく不開示としており,その意味においても,
合理性を欠いている。
イ被告は,情報収集源又は情報の内容のいずれを公にした場合であっても,
信頼関係が損なわれる旨主張するが,それは,当該情報収集源が,収集源
であること及び提供した情報の内容のいずれの公開をも拒否している場合
であり,被告はそれぞれの情報収集源の公開の可否に関する意向も明らか
にすることなく抽象的な主張をするにとどまっているから,被告の主張は,
失当である。
16項目「政策決定・実施」に係る不開示部分に不開示事由(本件不開示部分1
6)がないこと
(1)3号該当性について
ア被告は,本件不開示部分16には,外務省内及び政府部内における対イ
ラク武力行使に係る政策検討又は意思決定過程の具体的な内容及びそれに
対する積極又は消極両面の評価,イラク問題に関する関係各国との間で行
われたやり取り及びその外交的効果等に加え,大量破壊兵器の存否に関す
る我が国の検討に対する分析及び評価が記録されている旨主張する。
しかし,関係各国との間で行われたやり取り及びその外交的効果等につ
いては,「報告の主なポイント」(甲4の2)に,「米国はもちろんのこ
と,英,仏,独,イラク,イラク周辺国等との関係でも,電話会談を含む
首脳・外相レベルでの接触や総理大臣特使の派遣を始め,要所要所で,政
治レベルによる働きかけを行っている。これらの効果を一層高めるため,
特に首脳レベルを始め二国間の相互信頼関係をますます強固にしていく必
要があろう。」と記載されているところ,上記の記載のうち「これらの効
果を一層高めるため,特に首脳レベルを始め二国間の相互信頼関係をます
ます強固にしていく必要があろう」の部分については,これまでに開示さ
れた部分に記載がないことから,本件不開示部分16には,これに対応し
た記述があると推認することができる。また,大量破壊兵器の存否に関す
る我が国の検討に対する分析及び評価については,「報告の主なポイント」
には,「当時は,イラクが大量破壊兵器を隠匿している可能性があるとの
認識が国際社会で広く共有されていたが,調査の結果,当時,イラクに大
量破壊兵器が存在しないことを証明する情報を外務省が得ていたとは確認
できなかった。」,「査察への全面的な協力を通じて大量破壊兵器の廃棄
等を自ら証明すべき立場にあったのはイラク」及び「「イラクにおける大
量破壊兵器の存在」など,国際的に概ね認識が一致していたような情報と
いえども敢えて批判的な視点から分析し,政策の検討を行っていくことが
重要であろう。」との記載があるが,本件文書1のうち開示された部分に
は,これらに対応する記述がない。これに加え,本件不開示部分16の分
量に照らして長文の記載が不可能であることも踏まえると,本件不開示部
分16には,上記の「報告の主なポイント」に対応した記述が,ほぼその
まま,又は多少表現を変更した程度で記載されていると合理的に推測でき
る。
そうすると,15年もの前の国内及び諸外国との連携の内容又は評価及
び大量破壊兵器が結果として見つからなかったという特殊な事案に関する
評価を公にしたからといって,我が国の情報収集活動及びそれに基づく政
府内での政策検討プロセスが明らかとなり,我が国の政策の予見可能性が
高まるというのは,杞憂にすぎない。
イ被告は,本件不開示部分16を公にすることにより,我が国の政策検討
の手法及び政策検討上の関心事項が明らかとなる上,対イラク武力行使の
問題に係る政策検討,意思決定における問題点及びそれに対する改善策に
ついても明らかとなれば,将来的に類似の事案が発生し,我が国としての
立場,政策を策定する必要が生じた場合,関係国が我が国政府の政策検討,
意思決定の手法,政策検討上の関心事項,さらには我が国の今後の対応等
を正確に予測し,自国を利する形での効果的な外交活動を行うことが可能
となるほか,イラク情勢をめぐる我が国の認識が明らかになることにより,
イラク及びその周辺国との間での外交交渉において,当該関係国に対し,
自国を利するための参考となり得る情報を与えることになるし,上記の不
開示部分には,対イラク武力行使をめぐって実際に行われた関係各国との
連携状況及びそれに対する外交的効果(他国の対応への言及も含む。)も
記載されているから,関係各国との信頼関係が損なわれるおそれがある旨
主張する。
しかし,将来的に類似の事案が発生するとの蓋然性は何ら具体的な根拠
に基づくものではなく,「類似の事案」が何を指すのかも不明確であるし,
「関係国」及び「イラク及びその周辺国」についても何ら具体的な特定が
されておらず,その国との関係で日本が交渉上の不利益を被る具体的な蓋
然性が認められる余地はなく,イラクとの関係での交渉上の不利益につい
ても,イラクの過去の実際の言動に照らし,本件不開示部分16の情報が
開示された場合にイラクがどのような主張をしてくるのかについて何ら具
体的な主張はない。また,前記8(1)アのとおり,オランダが政策の経緯を
詳細に公表している(甲12)から,日本が関係各国との連携状況等を開
示したからといって,関係各国との信頼関係が損なわれる具体的な蓋然性
は全くない。
このように,被告の主張は,情報公開法5条3号に該当するおそれがな
いか,又は極めて抽象的なおそれを主張するにすぎないかのいずれかであ
るにすぎない。
ウ被告は,一国の外交政策を予測するに際しては,国際情勢や従前の対応
のみを見ても正確な予測を行い得るものではなく,いかなる事項に着目し,
いかなる理由から政策決定を行ったのかという点に着目することが重要で
あるから,我が国政府自身が行った検証の結果として,対イラク武力行使
に関する我が国政府部内での検討の内容,その態様,教訓等の具体的かつ
詳細な内容が明らかとなれば,将来的に類似の事案が発生し,我が国とし
ての立場,政策を策定する必要が生じた場合,関係国が我が国政府の政策
検討,意思決定の手法,政策検討上の関心事項,さらには我が国の今後の
対応等を,国際情勢や従前の対応のみを根拠とするよりも正確に予測する
ことが可能となる旨主張する。
しかし,事後的な検証結果として1頁に満たない分量しかない本件不開
示部分16において,対イラク武力行使に関する日本政府部内での検討内
容,その態様,教訓等の具体的かつ詳細な内容が記載されているとは到底
考えられず,被告の主張は,机上の空論にすぎない。
エ被告は,本件不開示部分16の分量が少ないとしても,対イラク武力行
使という国際政治上及び各国の安全保障政策上機微な問題に関する意思決
定を行うに当たり,我が国として重要な考慮要素としていた点が鮮明に現
れている部分といえ,項目分けの仕方やその記述内容を含め,記載自体が
一定の価値判断や評価を伴うものとなっているから,これを開示すべきも
のとはいえない旨主張するが,前記13(1)ウと同様,既に15年も経過し
た過去の国際情勢に関する事実である上,本件文書1が検証結果をとりま
とめた報告書であって,原資料を取捨選択又は抽象化して作成されたもの
であり,必然的に原資料よりも相当程度抽象化された記載となって,少な
い分量での記述になっていると考えられることからすると,他国が日本の
今後の対応等を正確に予測することは不可能又は著しく困難であって,被
告が主張するようなおそれがあるとはとても考えられない。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分16が公にしないことを前提とした外務省内での
率直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記13(2)と同様,被告が「報告の主なポイント」(甲4の2)
において本件文書1の主なポイントを公開しており,本件文書1には公にし
ないことを前提としていなかった部分が存することが明白である上,いかな
る事実をもって公にしないことを前提としたのか,いかなる事実をもって公
にしないことを前提とした意見交換をしたのか及びいかなる事実をもって
「不当」と評価すべきなのかについて,いずれも全く具体的な説明がないと
ころ,単に,外務省内での検討過程を経たことをもって上記のような主張を
するのであれば,行政庁の内部で作成された文書のほとんどが情報公開法5
条5号により不開示とすることができることになるから,同号を不当に拡大
する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分16を公にすることにより,我が国の政策検討の
手法及び政策検討上の関心事項が明らかになる上,対イラク武力行使の問題
に係る政策検討,意思決定における問題点及びそれに対する改善策について
も明らかとなることから,将来的に類似の事案が発生した場合における我が
国政府の政策検討,意思決定の手法,政策検討上の関心事項等を具体的に推
察することが可能となり,他国がこれらを我が国の今後の対応の対応を推察
するための参考材料として用いるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障
を及ぼすおそれがある旨主張するが,「他国」について何ら特定されておら
ず,当該国との関係で日本の今後の外交交渉事務に支障を来す具体的な蓋然
性は認められないし,その余の主張も,前記5(1)ア(イ)と同様,極めて抽象
的な支障を主張するものにすぎないから,被告の主張するところが,不開示
事由に該当するとはいえない。
17項目「国民への説明責任」に係る不開示部分(本件不開示部分17)に不開
示事由がないこと
被告は,本件不開示部分17には,外務省が実施してきた対イラク武力行使
を支持したことに関して広く国民の理解を得るために行った各種広報活動及び
国会議員等への説明に関するその効果も含めた検証結果,当時の国内世論を踏
まえた今後あるべき広報活動の具体的手法や時期を含む今後に向けた改善点等
についての提言等が記録されている旨主張するが,「報告の主なポイント」(甲
4の2)には,「本件に対する国民の理解を得るための広報の重要性は早くか
ら認識されており,また,ホームページを含め種々の努力が払われてきたが,
国民への説明方法等につき,一層の改善をする余地があると思われる。」など
と公表されており,本件不開示部分17にも,これに対応する記載がされてい
るはずであるところ,本件不開示部分17の分量と上記の記載の分量に大差が
ないことからして,それほど具体的又は踏み込んだ記載があるとは思われない
から,全てを不開示とする合理的な理由はない。
(1)3号該当性について
ア被告は,本件不開示部分17を公にすることにより,イラク問題に関す
る国民への広報及び国会議員等への説明を行うに当たって外務省が重視し
ていた事項が明らかとなるため,将来的に類似の事案が発生し,我が国と
しての立場,政策を策定する必要が生じた場合,当該武力行使について直
接又は間接の利害関係を有する関係国が我が国の対応を推察するに際して
は,国際情勢又は既に公開されている従前の我が国の対応を見ても正確な
予測を行い得るものではなく,我が国がいかなる事項等を重視していたか
が重要であるから,我が国政府自身が行った検証の結果として,外務省内
で行われた説明責任を果たすための具体的手法,目指すべき理解のあり方
に関する検討,イラク問題に関する広報活動の具体的な取組,国会議員等
への説明を行うに当たって外務省が重視していた事項,今後の改善に向け
た提言等の事項が明らかとなれば,関係国が対イラク武力行使に関して我
が国政府が重視していた事項を参考として用いることによって,我が国が
執る対応等を正確に予測することが可能となるところ,関係国が対イラク
武力行使に関して我が国政府が重視していた事項を参考として用いること
によって,我が国が執る対応等を正確に予測し,自国を利する形での効果
的な外交活動を行うことが可能となるほか,イラク情勢をめぐる我が国の
認識が明らかになることにより,イラク及びその周辺国との間での外交交
渉において,当該関係国に対し,自国を利するための参考となり得る情報
を与えることになるだけでなく,安全保障その他の問題で緊張関係に立つ
国が我が国の対応を妨害すべく我が国の国内世論工作等を行う上での参考
として用いることも可能となる旨主張する。
しかし,外務省や政府が行っていた説明という国民への広報の内容は,
国内向けの事柄にとどまっていて対外的又は国際的に何らかの具体的な支
障が生ずるものとは想定し難く,関係国が日本の対応を正確に予測できる
という主張も牽強付会のものにすぎないのであって,やはりこれを開示し
ないことは著しく不当である上,当該国が日本で国内世論工作等を行う具
体的な蓋然性もないし,国の安全が害される具体的な蓋然性があるともい
えない。また,前記16(1)イと同様,何ら具体的な主張も蓋然性もなく,
主張が不明確である上,前記13(1)イと同様,日本の今後の対応等を正確
に予測することは不可能又は著しく困難であって,他国との交渉上の不利
益を被る具体的な蓋然性もない。
イ被告は,外交政策が国内において理解又は支持を得られているかは当該
政策の効果に多分に影響する,国内世論及びそれを踏まえた国内への説明
責任をいかなる手法を用いながら果たすのかとの点は外交政策に影響を及
ぼす,関係国への働きかけに関する記述がないことをもって直ちに外交政
策又は対外的若しくは国際的影響がないとはいえない旨主張するが,影響
の程度は,時の政権の姿勢,政権の支持率等にも左右されて様々であり,
時期によっても異なる上,ここで問題となっているのが,15年近く前の
対イラク武力行使に関する国内における理解又は支持というものであるか
ら,他国にとって日本の政策の予見可能性が高まるとはいえない。また,
本件不開示部分17には,対イラク武力行使に対する国民の理解を得ると
の観点から関係国に対して行った働きかけについては記述されておらず,
本件不開示部分17は,国内向けの事柄にとどまり,外交政策又は対外的
若しくは国際的に影響を与えるものではないから,被告の主張は,失当で
ある。
(2)5号該当性について
被告は,本件不開示部分17が公にしないことを前提とした外務省内での
率直な意見交換に基づき記載されたものであり,これを公にすることにより,
外務省内での率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるお
それがある旨主張する。
しかし,前記13(2)と同様,被告が「報告の主なポイント」(甲4の2)
において本件文書1の主なポイントを公開しており,本件文書1には公にし
ないことを前提としていなかった部分が存することが明白である上,いかな
る事実をもって公にしないことを前提としたのか,いかなる事実をもって公
にしないことを前提とした意見交換をしたのか及びいかなる事実をもって
「不当」と評価すべきなのかについて,いずれも全く具体的な説明がないと
ころ,単に,外務省内での検討過程を経たことをもって上記のような主張を
するのであれば,行政庁の内部で作成された文書のほとんどが情報公開法5
条5号により不開示とすることができることになるから,同号を不当に拡大
する解釈である。
(3)6号該当性について
被告は,本件不開示部分17が公にされることにより,イラク情勢をめぐ
る我が国の検討の視点,関心の対象等が明らかになり,将来的に類似の事案
が発生した場合における我が国政府の対応を推察する手がかりとしたり,安
全保障その他の問題で緊張関係に立つ関係国が我が国の対応を推察するため
の参考として用いるなど,我が国の今後の外交交渉事務に支障を及ぼすおそ
れがある旨主張するが,「我が国政府の対応を推察する手がかりとする」主
体及び「安全保障その他の問題で緊張関係に立つ関係国」が明らかではなく,
「外交交渉事務に支障を及ぼす」具体的な蓋然性についても,何らの主張立
証もないし,その余の主張も,前記5(1)ア(イ)と同様,極めて抽象的な支障
を主張するものにすぎない。
18項目「参考資料2」に係る不開示部分(本件不開示部分18)に不開示事由
がないこと
(1)5号該当性について
ア被告は,本件文書1自体が非公開を前提として集約された情報を基礎と
する文書であって,対イラク武力行使の発生時から10年余りしか経過し
ておらず,我が国を含む関係国において,当時の意思決定に関与していた
者の多くが引き続き外交活動に従事している中で,非公開を前提としてい
る検証チームの構成員の氏名等に関する情報を公にすれば,本件検証に関
する情報を得ようとする者等から,本件検証の際に行われた議論の全体を
把握している構成員に対して不当な働きかけ(工作活動)が行われたり,
この種の作業が行われる際に関与する人員の所属部署が推定されて将来同
種の作業が行われる際に外交工作の対象とすべき人員が推測されたり,上
記の構成員から引き継ぎを受けたことを前提に本件検証に関する情報を得
ようとする者等から現在その地位に就く者に対する不当な働きかけが行わ
れたりするおそれがあるほか,今後,何らかの検証等を行う場合において,
構成員が,いずれは自己に関する情報が公にされることをおそれ,その結
果,構成員から忌憚のない意見を得ることが困難となるおそれもあり,今
後の政府部内での協議,検討,検証等において率直な意見交換又は意思決
定の中立性が不当に損なわれるおそれがある旨主張する。
しかし,前記13(2)と同様,被告が「報告の主なポイント」(甲4の2)
において本件文書1の主なポイントを公開しており,本件文書1には公に
しないことを前提としていなかった部分が存することが明白である上,い
かなる事実をもって公にしないことを前提としたのか,いかなる事実をも
って公にしないことを前提とした意見交換をしたのか及びいかなる事実を
もって「不当」と評価すべきなのかについて,いずれも全く具体的な説明
がないところ,単に,外務省内での検討過程を経たことをもって上記のよ
うな主張をするのであれば,行政庁の内部で作成された文書のほとんどが
情報公開法5条5号により不開示とすることができることになるから,同
号を不当に拡大する解釈である。また,構成員のうち誰がどのような意見
を述べたのかが具体的に明らかにされるのでなければ,被告の主張するよ
うな弊害は生じないし,氏名を公開されるのであれば職務であっても忌憚
のない意見を述べられないという公務員を想定することもできないから,
その意味においても,被告の主張は杞憂にすぎない。
イ被告は,検証チームの構成員のうち一定の地位に達しない地位にある者
の氏名及び当時の肩書が記録されており,不当な働きかけが行われたりす
るおそれは,元々氏名を公表されている者と比較してより大きい旨主張す
るが,職員に対して不当な働きかけをするのであれば,全体を統括するこ
とで情報が集中している在米大使館特命全権公使の職にあった者に対して
するのが直截的かつ効率的であるから,全体を統括する者の氏名は公表す
ることができるのにその他の構成員の氏名を公表することができないとい
うのは,合理的ではない。また,氏名を公表されていない者の方が氏名を
公表されていた幹部よりも不当な働きかけを受ける蓋然性が高まるとはい
えない。
ウ被告は,在米大使館特命全権公使の職にあった者に不当な働きかけを行
うことが効率的であるなどというのは原告の独自の見解である旨主張する
が,具体的な反論はない上,検証チームの構成員は,既に別の部署にいる
蓋然性が高く,かつ,過去の事案の検証のための構成員として特定されて
いるにすぎず,対イラク武力行使当時の意思決定をしていた構成員として
特定されているわけではないから,一定の構成員のみ氏名及び肩書きを公
表できるとすることの合理的な説明になっていない。
(2)6号該当性について
被告は,検証チームの構成員が特定される情報内容が後日に公開されるこ
とが予想される事態となれば,構成員から外交交渉に関する率直かつ忌憚の
ない意見を得ることが困難となるおそれがあり,今後の政府部内における協
議,検討,検証等の事務を行う上で多大な支障が生ずるおそれがある旨主張
するが,前記(1)アと同様,構成員のうち誰がどのような意見を述べたのかが
具体的に明らかにされるのでなければ,被告の主張するような弊害は生じな
いし,氏名を公開されるのであれば職務であっても忌憚のない意見を述べら
れないという公務員を想定することもできないから,その意味においても,
被告の主張は杞憂にすぎないから,情報公開法5条6号に該当する事由があ
るとはいえない。
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