弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
被告人を懲役16年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
押収してある文化包丁1丁(平成14年押第14号の1)を没収す
る。
理       由
(犯行に至る経緯)
被告人は,平成3年3月に高校を卒業した後自衛隊に入隊し,同年11月にAと
仙台市
内の飲食店で知り合って交際するようになり,平成4年ころからAと同せいを始
め,Aに
度々結婚話を持ち掛けたり,両親に紹介するなどして当初は円満に暮らしていた。
しかし,Aは,自衛隊を辞めた被告人が,ビル清掃作業員,測量会社の社員,ト
ラック
の運転手等として働いたものの,いずれも長続きしないことや金銭感覚がルーズな
ところ
に不満を感じるようになっていたところ,Aは,平成12年4月ころ,仕事が忙し
くなっ
たことから,帰宅が遅くなったり,外泊することが増えると,被告人から外に付き
合って
いる男性ができたのではないかと疑われて,執ように問いただされたり,また,被
告人が
消費者金融会社等から借金をして自動車を購入したり,パチンコや飲酒に浪費した
りした
ため,被告人とけんかをするようになり,やがて被告人との生活に嫌気がさし,つ
いには
被告人と別れたいと思うようになったが,他方では,職場の同僚であったBに次第
に好意
をよせ,同年秋ころからは同人とも交際を始めるようになった。
被告人は,同年12月ころ,機会をうかがっていたAから,別れ話を切り出され
たもの
の,「それなら死ぬしかない。」などと言って包丁を持ち出して自殺するような素
振りを
示してその場を切り抜けたが,平成13年4月ころにもAから別れ話を持ち出され
たこと
から,Aとうまくいかない大きな原因は自己の抱える借金のためであると思ってこ
れを返
済しようと考え,同年5月ころに東京都八王子市内の新聞販売店で働いてみたが,
長続き
せず,同年10月ころには再びA方に戻ってきたが,「借金の催促が来る。何とか
して。」
などとAから言われたため,ここで一旦Aから離れて借金を返済してからAの元に
戻ろう
と決意し,実家に帰って2年間漁船員として働き自己の借金を清算するなどと告げ
て,A
方を出てみたものの,実家に受け入れてもらえず,またもや仙台市内に戻ってき
た。
被告人は,仙台市内に戻ったものの,上記のとおりAに告げていたことから,A
方に戻
るわけにもいかず,同年11月ころから仙台市内の知人方に寝泊まりして同人らが
経営す
る居酒屋で働いていたが,Aの元に戻りたいとの思いから,車でA方に赴いて外か
らその
部屋の様子をうかがうなどしているうち,同年12月末に居酒屋を辞めて無職とな
り,そ
の後は健康センターや自動車の中で寝泊まりしていたところ,平成14年1月4日
A方に
押し掛けて,所持金もなくこのような生活を送っている窮状を訴え,さらに,Aの
元に戻
りたいとの気持ちを打ち明けたものの,Aから「一緒にいれない。」などと明言さ
れたが,
哀れに思ったAから一晩泊めてもらうことになり,その際,室内に被告人とAの二
人で一
緒に写った写真が残されていたのを見て,Aとやり直すことも絶望的なことではな
く,被
告人の努力次第によりやり直すことは可能なことであると勝手に考えた。
そして,被告人は,翌5日朝,Aから1万円を借りるなどしてA方を去り,再び
車で寝
泊まりするようになったが,やがて所持金もなくなって生活費にも事欠き,寒さも
身にし
み,Aとやり直したいと思いながらも,何で自分ばかりこんな目に遭うのか,この
ような
窮状に陥ったのもAのせいだと次第にAに対する憎しみも抱くようになった。
ところで,Bは,平成13年12月に札幌市内に転勤し,平成14年1月19日
に出張
で仙台市内にやって来てA方に泊まっていたところ,被告人は,同月20日午後4
時ころ,
またもやA方を訪れて金員を借りようとしたものの,Aが不在だったことからパチ
ンコ店
で時間をつぶし,同日午後8時ころ,再びA方の近くまでやって来ると,Aが灯油
用のポ
リタンクを持ったBと肩を並べて歩いているのを目撃したため,Aのせいで自分ば
かりひ
もじく寒い思いをしている,Aは自分が出るとすぐに外の男性と仲良くしている,
裏切ら
れた,絶対にAを許せないと激高し,Bに対しても,Aを奪われた悔しさから激し
く憎み,
さらに,二人が仲良く会話する様子を見て,Aとやり直す望みもなくなってしまっ
たと考
えて深い絶望感にとらわれ,二人を殺害することを決意し,A方付近の建物の陰に
隠れて,
拾ってセカンドバッグの中に入れて持ち歩いていた文化包丁を取り出し,二人が帰
ってく
るのを待ち伏せした。
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1 平成14年1月20日午後8時30分ころ,仙台市甲区乙a丁目b番c号付近
路上
において,両手に灯油入りポリタンクを持ってA方に帰宅途中のB(当時27歳)
に対し,
殺意をもって,その胸腹部を所携の文化包丁(刃体の長さ約15.8センチメート
ル,平
成14年押第14号の1)で突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を
胸腹部
刺創による失血により死亡させて殺害し,
第2 上記日時ころ,上記場所において,殺意をもって,上記Bと共に帰宅途中の
A(当
時31歳)に対し,Aの身体をつかんでその場に仰向けに押し倒した上,その身体
に馬乗
りになってAの頸部を両手で絞め付け,Aを殺害しようとしたが,通行人に阻止さ
れため,
Aに全治約2週間を要する頸部挫傷等の傷害を負わせたにとどまり,その目的を遂
げず,
第3 業務その他正当な理由による場合でないのに,上記日時ころ,上記場所にお
いて,
上記文化包丁1丁を携帯し
たものである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は刑法199条に,判示第2の所為は刑法203条,1
99条
に,判示第3の所為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条にそれぞれ該当
すると
ころ,各所定刑中判示第1及び第2の罪については有期懲役刑を,判示第3の罪に
ついて
は懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47
条本文,
10条により刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定
の加重
をした刑期の範囲内で被告人を懲役16年に処し,同法21条を適用して未決勾留
日数中
90日をその刑に算入することとし,押収してある文化包丁1丁(平成14年押第
14号
の1)は判示殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しないから,同法19条1
項2号,
2項本文を適用してこれを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書
を適用
して被告人に負担させないこととする。
(被告人の主張に対する判断)
1 被告人は,判示第2の殺人未遂の事実につき,捜査段階で,「Aの首を絞めて
いる途
中でAと目が合ってしまった。その苦しそうな表情を見て殺せないと思った。思う
ように
力が入らないと感じていたところに通行人の男性からやめなさいと止めに入られ
た。Aを
かわいそうだという気持ちになっていたし,その男性に邪魔されて集中もできなく
なった
ことから,それをきっかけに力を抜いてAから引き離された。」(乙8),公判に
おいて,
「当初はAを殺害する意思で首を絞めていたものの,Aの苦しむ姿を見てかわいそ
うにな
って首を絞めるのをやめた。」などと供述していることから,以下,中止未遂の成
否につ
き検討する。
2 関係各証拠によれば,判示事実に加えて,以下の各事実が認められる。すなわ
ち,(1)
被告人は,Bを殺害した後,Aを路上に押し倒して馬乗りになり,Aの頸部を両手
で絞め
付けたが,その際,かなり興奮した状態で,「死ね,死んでくれ。」と言っていた
こと,
(2)本件現場を自動車で通りかかったCが,被告人がAの首を絞めていることに気付
き,被
告人の左横から,その両腕を順番に押さえるなどして「死んじゃうだろ。」と言っ
て制止
したものの,被告人は,何かに取りつかれた様子で,「この女は死んでもいいん
だ。」と
言って止めようとせず,Cが普段では考えられないくらいの力を出して被告人をA
から引
きはがそうとして「ちょっと冷静になれや。」と言ったところ,被告人の力が緩
み,被告
人をAから離すことができたが,被告人は,Cの口付近を1発殴って再び暴れ始
め,同人
と5分間位取っ組み合いをしたこと,(3)その後,被告人は,その場ではAを殺害で
きない
と思い,別の場所でAを道連れに自殺しようと考え,Aを連れ回し,「死んでく
れ。俺は
人殺したから,もう怖いものなんかない。」などと言ったこと,(4)被告人は,Aを
付近の
マンションまで連れて行き,同所の屋上から一緒に飛び降りようとしたが,Aがガ
ードレ
ールにしがみついて抵抗し,通行人も集まってきたことから,Aを道連れにするこ
とをあ
きらめたこと,が認められる。
3 上記各事実からすれば,被告人が,Aの殺害を決意したときから,付近マンシ
ョンで
連れ回したAを手離すまでの間,Aに対する強固な殺意を有していたものであっ
て,これ
を途中で放棄したことなどないことは明らかである。
4 したがって,Aの苦しむのを見てかわいそうになり首を絞めるのを止めたなど
という
被告人の供述は信用できず,上記認定事実に照らせば,被告人がA殺害の目的を遂
げなか
ったのは,障害未遂にすぎない。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,以前交際していたA及びその交際相手のBを殺害しようと決
意し,
Bの胸腹部を文化包丁で突き刺して死亡させた上,さらに,一緒にいたAに馬乗り
になっ
てAの首を絞めて殺害しようとしたが,たまたま通りかかった通行人に阻止された
ために
未遂に終わり,その際,文化包丁1丁を携帯していたという殺人,殺人未遂,銃砲
刀剣類
所持等取締法違反の事案である。
本件殺人及び殺人未遂の犯行の動機を見ると,被告人は,Aから一緒に生活でき
ない旨
言われながらも,Aと復縁する思いを断てず,努力して借金を返せばAとやり直せ
るなど
と考えながらも,仕事を辞めて生活費にも事欠くような生活を送っていたところ,
AがB
と仲むつまじくしているところを目撃し,Aに裏切られた,自分がこんな不幸な目
に遭う
のも元はといえばAのせいだと激高し,Bに対しても,Aを奪ったと考え,激しく
憎むな
どして犯行に及んだというのであるが,そもそも,Aが被告人から離れていったの
は,被
告人が仕事も長続きせず,金銭的にもルーズであったことによるのであり,被告人
もAと
一緒に暮らせない原因は自己の抱える借金のためであると自覚し,一旦Aから離れ
て借金
を返済しようと決意しながら,努力した様子はうかかえず,かえって勤めていた仕
事を辞
めて無職になり,生活費にも困窮する生活に陥って,最後にはAに頼り,Aに甘え
ながら,
上記のとおりAに裏切られたと激高したものであって,Aに対する逆恨みであり,
まして,
BにAを奪った責任があるなどと激しく憎しみを抱いたその犯行の動機は,自己中
心的か
つ短絡的であって,酌量の余地はない。
本件殺人の犯行態様について見ると,被告人は,被害者らの殺害を決意するや,
刃体の
長さ約15.8センチメートルの鋭利な文化包丁をセカンドバッグから取り出して
用意し
ながら建物の陰で待ち伏せし,ポリタンクを両手に持ち防御が困難な状態にあった
Bに対
し,上記文化包丁で強固な確定的殺意をもって,胸腹部を1回突き刺して殺害した
もので
あって,同人殺害の犯行は冷酷にして悪質極まりない。さらに,被告人は,Aを押
し倒し
て仰向けに転倒させて馬乗りになり,Aに対して強固な確定的殺意をもって「死ん
でくれ。
」などと言いながら強烈に首を絞め続け,通行人が制止しても,犯行を継続してい
るので
あって,A殺害未遂の犯行も執ようかつ悪質なものである。しかも,被告人は,通
行人に
制止された後もAと無理心中を図ろうとして,Aを連れ回しているのであって,犯
行後の
情状も悪い。
そして,Bを殺害した結果は誠に重大である上,同人は当時27歳とまだ若く,
家族,
友人,同僚らから慕われ,会社からは将来を期待されていたのに,被告人の理不尽
な凶行
によって,その前途ある将来を一瞬にして絶たれたのであり,これから味わえたで
あろう
人生の日々を思うと,その無念さは察するに余りある。
Bを突如失った遺族の悲しみは当然のことながら深く,同人の両親は捜査段階,
また,
当公判廷における意見陳述においても,最愛の息子を突然失ったことへの悲しみと
被告人
に対するやりきれない怒りを繰り返し訴え,被告人に対する強い処罰感情を述べて
いる。
また,Aについても,結婚をしたいとまで考えていた男性が,かつて付き合って
いた被
告人によって目の前で刺殺された上,「死ね,死んでくれ。」などと言われなが
ら,首を
絞め続けられてその生命を危うく奪われかけたのであって,肉体的苦痛はもちろん
のこと,
その驚がく,恐怖,精神的衝撃は重大である。
しかるに,被告人は,Bの遺族やAらに対し,何らの慰謝等の措置も講じていな
い。
加えて,本件銃砲刀剣類所持等取締法違反について見ても,被告人の供述すると
ころに
よれば,本件の約10日前に河原で落ちているのを見付け,いざとなったら強盗等
に使用
する目的で持ち歩いていたというのであって,その犯情は悪い。
以上からすれば,被告人の刑事責任は誠に重い。
他方,本件各犯行はその直前に被害者らの姿を目撃して,激高したことなどによ
るもの
であって,その計画性は薄いこと,被告人は,本件各犯行の重大性を認識し,真摯
に反省
をするとともに,特に,殺害した被害者に一生をかけてわび続けていきたいと述べ
ている
こと,被告人の前科は道路交通法違反による罰金前科2犯のみであることなど被告
人にと
って酌むべき事情も認められる。
そこで,以上の事情を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相当であると
判断し
た。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑―懲役20年,押収してある文化包丁1丁を没収)
平成14年6月27日
仙台地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官  本 間 榮 一
裁判官  齊 藤 啓 昭
裁判官  目 黒 大 輔

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