弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
一 原告の訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 被告が、昭和四九年六月一一日付を以て、訴外東野入会林野整備組合に対して
なした入会林野整備計画の認可および公告は、無効であることを確認する。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告
〔本案前の申立〕
主文同旨
〔本案に対する答弁〕
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告の住所地、勝山市<地名略>部落の構成員は、父祖の代より<地名略>の
山林一帯を入会林野として利用してきたが、原告の祖父Aの代の大正四年三月八日
に至り、右山林につき同人を含む東野部落構成員一一二名の共有地として所有権保
存登記を経由した。
2 原告は、昭和二八年二月一四日、右祖父を相続した被相続人Bを相続し、北郷
町東野部落の構成員として、部落の慣習に基づき、右山林のうちいわゆる奥割にあ
たる<地名略>、地積二九七〇平方メートルの部分(以下本件土地という。)を独
占的に使用収益することを認められたことにより、爾来植林して本件土地を利用し
てきた。
3 ところが、昭和四八年ころ、原告を除く東野部落構成員は入会林野等に係る権
利関係の近代化の助長に関する法律(以下入会林野法という。)に基づき、東野入
会林野整備組合を設立し、右組合は同四九年二月一八日付を以て被告知事に対し東
野入会林野整備計画認可の申請をなし、これを受けて被告知事は、同年六月一一日
付で認可処分を行い、同日付で公告がなされた。その結果同法一二条により、右公
告をもつてすべての入会権が消滅し、公告があつた日の翌日において右計画の内容
にしたがつて所有権が移転する権利変動の効果が発生したものとして本件土地につ
いても福井地方法務局勝山出張所昭和四九年一〇月八日受付第五三三九号を以て、
入会林野法一二条による移転を登記原因として訴外Cに所有権が移転した旨の登記
がなされた。
4 しかしながら、入会林野法三条によれば、入会林野整備計画の決定について
は、入会権者全員の合意があることを要件としているところ、原告は本件整備計画
に対し同意した事実がないから、右計画は右法条に違反して無効というべく、した
がつてまた前記組合の右計画認可申請にはその必須な実体的要件を欠くという重大
な瑕疵があることになり、これを前提とする被告知事の本件認可処分及びこれに基
づきなされた公告はいずれも無効である。
5 よつて原告は被告知事に対し、前記入会林野整備計画の認可処分及び公告が無
効であることの確認を求める。
二 被告
1 本案前の主張
行政事件訴訟法(以下行訴法という。)三六条によれば、行政処分の無効確認訴訟
は、当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的
を達することができないもの等に限り提起しうるところ、原告は、本件入会林野整
備計画の認可処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えとして、入会権
を争う者に対し、例えば入会権の確認ないしは各所有者に対する所有権移転登記抹
消登記請求又はそれが侵害されたことによる損害賠償の訴えを提起することによ
り、本訴で主張する入会権に対する侵害による救済を受けうるものと考えられ、従
つて、本件各訴えは、原告適格を欠く不適法なものとして却下されるべきである。
2 請求原因に対する認否
(一) 請求原因1の事実は認める。
(二) 同2のうち、原告が本件土地に植林した事実は知らないが、その余の事実
は認める。
(三) 同3の事実は認める。もつとも原告の権利は、被告知事の認可・公告以前
に消滅していたものである。
(四) 同4の原告の主張は、後記の理由により争う。
3 被告の主張
(一) 昭和四一年七月九日、法律第一二六号をもつて、前記入会林野法が公布せ
られ、福井県においても、国の施策に従い、県内における入会林野の近代化を進め
ることになつたところ、勝山市の北西部に位置し、従来より東野入会部落(以下東
野入会集団という。)が管理していた本件東野入会林野についても、昭和四六年頃
から入会林野整備の実施手続が進められていた。
(二) ところで、被告知事の認可処分の可否の対象となる入会林野整備計画につ
いては入会林野法三条によりいわゆる全員同意主義がとられているところ、右手続
過程で原告だけが右計画に同意しないという事態が起こり、他方その原告たるや本
件入会権とは何らの関係もない昭和四〇年頃勝山北郷土地改良区が東野地籍を含む
北郷一帯を対象とする農業構造改善事業の一環である基盤整備事業として施行樹立
した土地改良法に基づく換地計画の内容が自己に不利益であるとして、これを不服
とし、その頃から一貫して入会林野の区費及び賦役その他東野入会集団の構成員と
して当然負担すべき一切の義務の履行を何ら正当な理由もなくかたくなに拒否し続
けていたものであるうえ、右不同意についても首肯すべき事由が認められなかつた
為、あく迄入会林野整備手続の完遂を希求する東野入会集団が設立した東野入会林
野整備組合としては、その対処につき考えあぐねた末、昭和四八年ころ、入会林野
法一七条に基づき福井県の援助を求め、それに応じた同県の委嘱したコンサルタン
トの助言を参酌し、その総員の同意をもつて前記の如き原告は東野入会集団の慣習
に照らし既にその入会権者としての資格を喪失しており、仮に未だ喪失する迄には
至つていないとしても、本件不同意については権利濫用と判断し、結局原告を入会
権者とは認めないこととし、その前提に立つて(1)前記計画において定める入会
権者から原告を除外すること、(2)しかし除外により被る原告の損失ないし不利
益を実質的に補償回復する手当を講じておくこと、すなわち、その具体的措置とし
て入会林野整備の対象から勝山市<地名略>、<地名略>及び<地名略>の計三筆
を除外し、これを入会林野として存続させ、これに対する原告の入会持分を一一二
分の一四に増加留保し(いわゆる直轄利用地に対し原告は面積に換算し、約三町歩
の持分を有していたことになるので、右留保林野中、右三町歩に相当する一一二分
の一四を原告の持分とし、残りの一一二分の九八を他の入会権者が平等に保有する
ものとする)、原告が区費の支払いその他東野入会集団の構成員としての義務を果
した場合には無条件かつ他の組合員と同格の権利をもつて本件計画に基づき設立す
る生産森林組合への加入を認めその際は右除外された入会林野を右組合へ現物出資
すべきものとし、他方個人分割利用林野たる本件土地については共有登記から個人
の単独所有登記にするが、他日原告への回復の余地を残すため従来の慣習に基づき
東野入会集団の寺院住職C名義に移転しておくことが決定された。
(三) 右決定に則り前記整備組合は本件整備計画を策定し、昭和四九年二月一八
日付で被告知事に対し本件認可申請に及んだ。
(四) 右申請を受けた被告知事は、前(二)及び(三)項記載の事実関係及びこ
れを基礎とする前記組合総員の判断・措置の内容を総合勘案したうえ、原告を入会
権者から除外した本件整備計画には何ら違法な瑕疵はないと判断し、入会林野法六
条一項により同年四月二日適当とする旨決定し、同条四項に基づきその旨を公告
し、かつ福井県庁及び勝山市役所において同月三日より同年五月二日まで右決定に
係る入会林野整備計画書の写しを公衆の縦覧に供したが、同法七条一項の規定によ
る異議申出期限までに何人からも異議の申出がなかつた。
(五) そこで、被告知事は入会林野法一一条一項に則り同年六月一一日付をもつ
て本件申請に係る本件整備計画を認可・公告した。
(六) 以上の次第で、被告知事のなした本件整備計画の認可処分及び公告には何
らの違法事由はなく、有効である。
三 本案前の主張に対する原告の反論
原告は、本件無効確認の訴えにつきいわゆる原告適格を有するものである。すなわ
ち、
1 原告が本訴において目的とするところは、被告の入会林野整備計画の認可・公
告という公権力行使自体を不服とし、その直接的効果としての入会権の一挙的消滅
を否定することである。本件においては、東野部落の具体的な個々人が入会権を有
するか否かということでなく、部落総有たる入会権の存否そのものが確定しなけれ
ば紛争の抜本的解決には役立ちえないものである。
2 仮に被告が主張するように本件処分の無効を前提とする入会権確認の訴え、な
いしは所有権移転登記抹消登記請求等の訴えによるときには、原告は入会権の法的
性格から部落民一一一名全員を相手に訴提起をしなければならないという繁雑な手
続と過大な負担を強いられることになり、事実上法律上の救済の道を閉ざされるこ
とになるほか、たとい右各訴えによつて原告が権利を回復しえたとしても民事訴訟
法による判決の効力は何ら被告の行政行為に対して効力を及ぼさないから、再び同
一理由によつて処分が繰り返され、紛争が再発する可能性は否定できず、結局原告
にとつて右各訴えは有効適切な救済手段たりえない。
3 従つて、本件は、行訴法三六条でいう現在の法律関係に関する訴えによつて
は、その目的を達することができない場合であるから、被告の主張は失当というほ
かない。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 被告知事が、昭和四九年六月一一日付で本件入会林野整備計画の認可及び公告
をなした事実は当事者間に争いがない。
二 しかして、右認可及び公告の各無効を求める本件訴えは、行訴法三条四項に定
める処分の効力の有無の確認を求める訴訟にほかならないから、同法三六条所定の
原告適格を有するものに限りこれを提起することができると解すべきものである。
三 他面、原告の主張する入会権の性質・内容につき考察するに、およそ入会権を
一義的に定義づけることは困難であるが、一般的には「一定の地域の住民が、一定
の山林原野を共同に管理し、共同に収益する慣習上の権利であるが、その山林原野
の管理処分は住民が一つの共同体として団体的になし、その収益は各住民が個人的
に受けるもの」をいうところ、これを要するに、入会権は、総有的権利であつて入
会林野の管理処分の権限はすべて入会集団に帰属し、個々の入会権者には持分権な
いし分割請求権もなく、ただ入会集団の構成員として入会林野の管理処分に参与
し、その構成員としての資格から入会林野を使用収益するという個人的な権利を有
するにすぎないと解するのが相当であり、従つて入会権者とはその属する入会集団
の有する入会権に基づいて、使用または収益をする個人を指称するというべきもの
であり、以上を訴訟法的見地からみると右管理処分権能たる入会権の帰属そのもの
については個々の入会権者の原告適格を肯定することはできないことに帰するので
ある。
四 叙上説示した見地に立つて本件を考察すると、原告の本件整備計画の認可及び
公告の無効確認の訴えは、原告主張の右処分の無効を前提または理由とする現在の
法律関係である原告の入会権者たる地位に基づく使用収益権による妨害排除請求な
いし妨害予防請求の訴え(もつとも必ずしも旧入会権者全員を被告とする要はない
と解する。)等によりその目的を達することができるというべきものであるから、
原告は、本件無効確認の訴えを提起することが許されないものというべきである。
五 なお、原告は本件無効確認の訴えが適法であることを縷々主張するけれども、
前述した行訴法三六条の法意及び個々の入会権者の有する権利の性質・内容等を総
合勘案すると、いまだ十分その適法性を首肯するに足りず、ひつきよう原告独自の
見解というほかなく、採用し難い。
六 そうすると、原告の本件訴えは、行訴法三六条所定の原告適格を有しないもの
の提起にかかるものであつて却下をまぬがれない。
七 よつて、原告の訴えは不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき
行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 木村幸男 朴木俊彦 堀 毅彦)

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