弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役八月に処する。
     原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
     被告人が麻薬取扱者でないのに拘らず昭和二十三年三月頃東京都新宿区
a町b番地の当時の自宅で塩酸モルヒネ約二百五十瓦を販売の委託をしてAに対し
て授与したとの公訴事実は無罪。
         理    由
 弁護人園田国彦の控訴趣意は別紙記載のとおりである。
 第一点について、
 弁護人の控訴趣意は要するに、原判決がその挙示の証拠で被告人が所持していた
物件を麻楽と認定したのは、事実の誤認があるというにある。原判決挙示の証拠に
よると被告人が所持していた本件物件は旧麻楽取締規則に所謂麻楽である塩酸モル
ヒネであることが認められるから、原判決にはこの点につき事実の誤認がない。尤
も原審は本件物件を塩酸モルヒネであることの認定をするに当つて専門家に鑑定さ
せる等これを化学的に明確にする方法を講じていないことは所論のとおりである
が、原審はその挙示の各証拠で本件物件が塩酸モルヒネであることが充分認められ
るので、かゝる方法を執らなかつたものと認められるから、かゝる方法を執らなか
つたからといつて直ちに事実の誤認があるということはできない。所論は結局原審
の専権に属する証拠調の限度証拠価値判断を攻撃するものであつて論旨は理由がな
い。
 次に職権を以て原判決を調査すると原審は本件麻薬の数量を百五十瓦と認定した
が原判決の引用した証拠によれば、其の数量は百五十瓦ではなく二百五十瓦であつ
たことが窺われるのであつて原判決には理由のくいちがいがある。尚原審は被告人
が麻薬取扱者でないのに拘らず昭和二十三年三月頃東京都新宿区a町b番地の当時
の自宅で塩酸モルヒネ百五十瓦を販売の委託をしてAに対して授与したと判示し之
に対し旧麻薬取締規則第二十三条等を適用したものであるが、其の引用に係る証拠
によれば被告人は昭和二十三年三月頃塩酸モルヒネ約二百五十瓦を所有するに至つ
たが、その頃之を他に転売して利益を得る為其の販売の委託をAにするに際り右塩
酸モルヒネ約二百五十瓦を同人に手交したに止まり其の所有権は依然被告人にあつ
たことが明白である。そうして、旧麻薬取締規則第二十三条には麻薬取扱者でなけ
れば麻薬を製剤、小分、販売<要旨>授与又は使用することはできない旨を規定して
おるのであるが、同条に所謂授与とは贈与、消費貸借等所有権の移転を伴う
場合を指すものと解すべきであるから、本件の如く未だ麻薬の所有権が被告人に存
在する場合には同条に所謂授与があつたものと認めるのは正当でない。従つて原判
決には法令の適用を誤つた違法があり該違法は判決に影響を及ぼすことが明かであ
る。
 以上いずれの点よりするも原判決は破棄を免れないから弁護人の控訴趣意第二点
に対する判断は後記破棄自判において示すところであるから、こゝにこれを省略し
刑事訴訟法第三百九十七条により更に判決する。
 (罪となるべき事実)
 被告人は麻楽取扱者その他法定の者でないのに拘らず昭和二十三年三月末頃東京
都中央区c附近でBを通じて氏名不詳者から塩酸モルヒネ約二百五十瓦を買い受け
てその頃これを所有していたものである。
 (証拠の標目)(省略)
 (法令の適用)
 被告人の判示所為は麻薬取締法第六十五条第七十四条麻薬取締規則第四十二条第
五十六条第一項第一号に該当するから所定刑中懲役刑を選択し其の刑期範囲内で被
告人を懲役八月に処し刑事訴訟法第百八十一条第一項に則り原審における訴訟費用
は全部被告人の負担とする。
 本件公訴事実中被告人が麻薬取扱者でないのに拘らず昭和二十三年三月頃東京都
新宿区a町b番地の当時の自宅で右塩酸モルヒネ約二百五十瓦を販売の委託をして
Aに対して授与したとの点は前示破棄の理由でした説明に照し罪とならないから刑
事訴訟法第三百三十六条により無罪の言渡をなすべきものである。
 (裁判長判事 猪股薫 判事 西田賢次郎 判事 鈴木進)

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