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平成21年12月16日判決言渡
平成21年(ワ)126号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成21年11月4日
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
(1)被告らは,原告Aに対し,550万円及びこれに対する平成20年2月
8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被告らは,原告Bに対し,550万円及びこれに対する平成20年2月
8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は,被告らの負担とする。
2被告らの請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2当事者の主張
1請求原因
(1)被告Cに対する請求
ア不法行為その1
(ア)原告Aは,平成19年2月22日,岐阜地方裁判所大垣支部に対
し,D村監査委員(以下「監査委員」という。)E(以下「E」とい
う。)及びF(以下「F」という。)を作成名義人とする平成12年2
月18日付け住民監査請求監査報告書(以下「本件監査報告書」とい
う。)を疎明資料として添付して,被告Cを債務者とし,揖斐郡G町e
字f番g(ただし,旧地名は,揖斐郡D村大字e字f番gである。以下
「本件土地」という。)の88分の1の共有持分権移転登記請求権を被
保全権利として,本件土地の処分禁止の仮処分を申し立てた(以下,後
述の保全異議申立事件を併せて「本件保全事件」という。)。
(イ)岐阜地方裁判所大垣支部は,平成19年4月24日,本件土地の処
分禁止の仮処分の決定をした。
(ウ)被告Cは,平成20年2月8日,上記処分禁止の仮処分に対し,訴
訟代理人弁護士に依頼して,保全異議の申立て(以下「本件保全異議申
立」という。)をした。
被告Cの訴訟代理人弁護士は,保全異議申立書において,「原告らが
本件監査報告書を偽造」し,「仮処分決定を騙取」するという「断じて
許し難い犯罪行為」を行った旨記載し,保全異議手続や本案の口頭弁論
期日において,同様の主張を陳述した。
イ不法行為その2
(ア)被告Cは,平成20年2月ころ,原告らが本件監査報告書を偽造し
たとして,原告らを公文書偽造罪で告発した(以下「本件告発」とい
う。)。
(イ)本件監査報告書の作成の経緯は次のとおりであり,原告らはこれを
偽造しておらず,本件告発にかかる事実は虚偽の事実である。
a原告Bは,平成11年12月24日,監査委員に対し,村有地を二
重譲渡した問題の解決を求める旨の住民監査請求をした(以下「本件
住民監査請求」という。)。
bE及びFは,平成12年2月18日ころ,作成日付を同日付とした
住民監査請求監査報告書(以下「改訂前監査報告書」という。)を原
告Bに対し送付した。
c原告Bは,平成12年2月ころ,E及びFに対し,監査結果に不服
がある旨の文書を添えて改訂前監査報告書を返送した。
dE及びFは,再調査を行い,改訂前監査報告書を一部改訂した本件
監査報告書を作成した。
(ウ)a原告Bは,本件監査請求を行ったのは,被告Cの所有地が登記簿
上部落民共有地となっていたことから,当該土地が被告Cの所有地で
あることを明らかにするためであり,原告Bは本件監査請求を行った
ことやその結果をその都度被告Cに報告していた。
したがって,被告Cは,本件告発時,本件監査報告書は偽造された
ものでないことを知っていた。
b(a)本件監査報告書と改訂前監査報告書の相違部分は,本件保全事
件の対象土地とは何ら関係がなく,原告Aには本件監査報告書を偽
造する動機がなかった。
(b)被告Cは,本件告発に先立ち,G町役場において,当時のD村
の担当者に確認したり,本件監査報告書の作成名義人であるE及び
Fから作成の経緯を確認することは可能であった。
(c)Eは,本件監査請求についての経緯を記したファイルを所持し
ており,被告Cがこれを見せてもらうことは可能であった。
(d)被告Cは,上記の確認などを行わず,客観的根拠もなく本件告
発を行った。
ウ原告らは,上記被告Cの不法行為により,名誉を毀損され,名誉感情を
侵害され,本件告発により,岐阜県警から揖斐警察署に呼び出されて被疑
者として取調べを受けるという迷惑,屈辱を受け,刑事手続における防御
の負担を強いられた。
エ損害
(ア)慰謝料
被告Cの不法行為により原告らが受けた精神的苦痛を慰謝する金額
は,それぞれ250万円を下らない。
(イ)弁護士費用
被告Cの上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告らそ
れぞれにつき25万円を下らない。
(2)被告町に対する第1次的請求
ア(ア)D村は,岐阜県揖斐郡にあった村で,平成17年1月31日に揖斐
郡内の他5町村と合併し,被告町になった。
(イ)Iは,平成13年3月ころ,D村参事であった。
イ(ア)請求原因(1)イ(イ)aと同じ。
(イ)同bと同じ。
(ウ)同cと同じ。
(エ)同dと同じ。
ウIは,平成13年3月ころ,D村役場において本件監査報告書を保管し
ていた。
エ(ア)I又は被告町(D村)職員は,平成13年3月ころから平成20年
2月ころまでの間に,故意に,本件監査報告書を廃棄又は隠ぺいし,改
訂前監査報告書にすり替えた。
(イ)I又は被告町(D村)職員は,本件監査報告書を適切に保管すべき
義務があったにもかかわらず,これを怠ったため,本件監査報告書が保
管されず,改訂前監査報告書が正式な監査報告書として保管されること
となった。
オI又は被告町(D村)職員の上記違法行為が原因となって,被告Cの不
法行為が発生した。
カ損害
(ア)慰謝料
I又は被告町(D村)職員の上記違法行為により原告らが受けた精神
的苦痛を慰謝する金額は,それぞれ250万円を下らない。
(イ)弁護士費用
I又は被告町(D村)職員の上記違法行為と相当因果関係のある弁護
士費用は,原告らそれぞれにつき25万円を下らない。
(3)被告町に対する第2次的請求
ア(ア)請求原因(2)アに同じ。
(イ)J(以下「J」という。)は,平成12年2月ころ,監査委員事務
局長であり,Eは,同じころ,監査委員であった。
イ仮に,本件監査報告書が無効であるとすると,E及びJは,平成12年
2月ころ,原告Bに対し,改訂前監査報告書につき,「なかったことと了
解すること。」と虚偽の事実を告げたことになる。
ウ原告Bは,上記発言により,地方自治法に定める監査結果に対する不服
申立ての機会を奪われた上,本件監査報告書が有効であると信じて,本件
監査報告書を原告Aが申し立てた本件保全事件の疎明資料として添付し
た。そのため,原告Bは,原告Aとともに被告Cから偽造の汚名を着せら
れるに至った。
エ損害
(ア)慰謝料
E及びJの上記違法行為により原告らが受けた精神的苦痛を慰謝する
金額は,それぞれ250万円を下らない。
(イ)弁護士費用
J及びEの上記違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,原告ら
それぞれにつき25万円を下らない。
(4)よって,原告らは,被告Cに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権に
基づき,被告町に対し,国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ275万円
及びこれに対する不法行為日である平成20年2月8日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2請求原因に対する被告Cの認否
請求原因(1)アの事実は認める。イ(ア)の事実は認める。イ(イ)a,bの事
実は認め,c,dの事実は否認する。イ(ウ)の事実は否認する。ウの事実は否
認する。エは争う。
3請求原因に対する被告町の認否
(1)請求原因(2)アの事実は認める。イ(ア)のうち,原告Bが平成11年12
月24日,監査委員に対し,住民監査請求をしたことは認め,その余は知ら
ない。イ(イ)の事実は認める。イの(ウ),(エ)の事実は否認する。ウないし
オの事実は否認し,カは知らない。
(2)請求原因(3)アの事実は認め,イないしエの事実は知らない。
4請求原因に対する被告Cの主張
(1)原告Bは,平成12年2月以降に,被告Cに対し,本件住民監査請求の
監査報告において監査委員が二重譲渡を認めた旨の報告をした。
(2)K公団職員は,被告Cが上記報告を受けてから数か月以内に,被告Cに
対し,K公団から二重譲渡を認めた監査報告書はないと伝えた。
(3)被告Cは,その後,原告Bに対し,二重譲渡を認めた監査報告書の存在
について問い合わせたところ,原告Bは,「K公団が間違っている。」と説
明した。
(4)被告Cは,本件保全異議申立に先立ち,弁護士Lを通じて,G町長に対
し,本件住民監査請求の監査報告書の公開を申し出た。
(5)G町長は,平成20年1月28日ころ,上記公開申出に基づき,弁護士
Lに対し,改訂前監査報告書を公開した。
(6)被告Cは,上記情報公開請求でのやりとりを通じて,G町職員から,G
町は本件監査報告書を保管していないことを確認した。
(7)原告Aは,本件保全異議申立に対し,改訂前監査報告書が改訂され本件
監査報告書が作成された旨記載した答弁書を提出した。
(8)被告Cは,上記答弁書記載事実の確認のため,平成20年3月6日の保
全異議の第1回審尋(口頭弁論)期日に先立つ同月4日,改訂前監査報告書
及び本件監査報告書の作成名義人であるE及びFに対し,弁護士Mを通じ
て,改訂前監査報告書を改訂していないことを確認した。
(9)被告Cは,平成20年3月5日,弁護士Lを通じて,G町長に対し,改
訂前監査報告書と一部記載内容が相違し,趣旨が異なる同日付同件番号の監
査報告書の公開を申し出た。
(10)G町長は,平成20年3月13日ころ,上記公開申出に対し,申出に係
る公文書を保有していないと回答した。
(11)したがって,被告Cは,本件保全事件及び本案において,原告らが本件
監査請求報告書を偽造するという犯罪行為を行ったと主張し,本件告発を行
うに足りる客観的な根拠を確認していた。
5被告Cの主張に対する原告らの認否,反論
被告Cの主張(1)の事実は認め,(2)の事実は知らず,(3)の事実は認め,(4)
ないし(6)の事実は知らず,(7)の事実は認め,(8)ないし(10)の事実は知らな
い。
第3当裁判所の判断
1被告Cに対する請求について
(1)請求原因(1)ア,イ(ア),イ(イ)a,b,抗弁(1),(3),(7)の各事実は
原告らと被告Cとの間で争いがない。
(2)まず,請求原因(1)ア(ウ)の被告Cの行為が不法行為を構成するか否かに
ついて検討する。
弁論主義及び当事者主義を基調とする我が国の民事訴訟法下では,訴訟手
続において当事者が忌憚なく主張を尽くすことが重要であって,その主張行
為は,一般の言論活動以上に強く保護されなければならず,民事訴訟は利害
の相対立する当事者間の紛争解決の場であることから,ときに当事者の発言
や主張に相手方の名誉感情を刺激するものが含まれるのもある程度やむを得
ない面がある。
そうであれば,当事者の発言や主張に相手方の名誉を損なうものがあった
としても,それが訴訟における正当な弁論活動と認められる限り,その違法
性は阻却されるものと解すべきである。しかし,弁論活動といっても,内在
的制約には服すのであって,当初から相手方当事者の名誉を害する意図でこ
とさらに虚偽の事実若しくは当該事件と何ら関連性のない事実を主張する場
合,又は,そのような意図がなくとも,訴訟遂行上の必要性を超えて,著し
く不適切で非常識な表現内容,方法による主張をし,相手方の名誉を著しく
害する場合等は,その内在的制約を超え,社会的に許容される範囲を逸脱し
たものとして,違法性を阻却されず,不法行為責任を免れないというべきで
ある。
これを本件についてみると,被告Cの訴訟代理人弁護士は,保全異議申立
書において,「原告らが本件監査報告書を偽造」し,「仮処分決定を騙取」
するという「断じて許し難い犯罪行為」を行った旨記載し,保全異議手続や
本案の口頭弁論期日において,同様の主張を陳述したこと(以下「本件陳述
行為等」という。)は当事者間に争いがないのであって,本件陳述行為等
は,相手当事者たる原告が刑法上の犯罪行為をしたとの事実を摘示するもの
であり,原告らの社会的評価を低下させ,名誉感情を害するような言動であ
る。
そこで,本件陳述行為等が正当な訴訟活動の範囲を逸脱するものか検討す
る。
本件陳述行為等と本件保全事件及びその本案との関連性については,本件
住民監査請求の監査対象は,「揖斐郡D村大字e字h番iの土地(以下「e
字h番iの土地」という。)が調定日誌に基づき昭和13年に村有地として
売却され,被告Cの所有地として登記されているにもかかわらず,同一の土
地につき昭和39年に部落民共有地として部落民に対し譲渡されているた
め,昭和39年の譲渡は二重譲渡であるとして,D村村長に対しその是正を
求めているのにその是正がされない。」というものであること(甲1),改
訂前監査報告書と本件監査報告書とは,e字h番iの土地が二重譲渡された
か否かについて「しかし,昭和13年に村有林を売却したときにおいても同
様措置がなされている(末尾目録④⑦)ことからみても,これが直ちに「二
重売買」であるとは即断できない。」との部分が削除され,「本件土地(た
だし,e字h番iの土地を指す。)の所有権は,関係当事者双方が確認すべ
き事項であり,両当事者間において対処し解決せざるを得ない事項であると
解する。従って,当事者間において対処し解決するべく関係者に督励するよ
う尊重に勧告するものとし,平成12年2月18日,この旨勧告した。」と
の部分が「監査請求にある,昭和39年3月10日付けのO村よりP外84
名に売買譲渡については,その真意は分からないが,これは現地と地図及び
登記簿等との不合理による二重譲渡である。しかるにこの原因は,元O村の
行政がかかわってきた問題であるのでD村は原状回復する等の行政措置をと
るよう勧告するものとし,平成12年2月18日,この旨勧告した。」と変
更されている点で異なること(甲2,3),本件保全事件は,被告Cを債務
者とし,本件土地の88分の1の共有持分権移転登記請求権を被保全権利と
して,本件土地の処分禁止の仮処分決定を求めた事件及びその保全異議申立
事件であることからすると,まったく関連性を欠くものとはいえない。
また,被告Cは,本件保全異議申立に先立ち,弁護士を通じて,G町が本
件監査報告書とは異なる監査報告書(改訂前監査報告書)を保管しているこ
とを確認していること(甲10),本件監査報告書と改訂前監査報告書と
は,同番号で,日付も同一であること(甲2,3),本件保全異議申立後に
本件監査報告書の作成名義人であるE及びFに弁護士を通じて改訂前監査報
告書の改訂事実がないと電話聴き取りをして確認していること(甲8,
9),被告Cは,平成12年2月ころに本件住民監査請求をしていた原告B
から二重譲渡を認める旨の監査結果が出たと聞いていたこと(争いのない事
実),被告Cは,本件住民監査請求時,原告AがD村役場に勤めていたこと
を知っていたことが認められ,本件監査報告書の作成の真正に疑いを持ち,
これを疎明資料として提出した原告Aが偽造したと疑うことに相当の根拠が
あったと認められる。加えて,保全異議申立書(甲5)には,「債権者は,
本件土地につき,二重譲渡があったことを理由に,被保全権利として本件土
地の共有持分権を主張する。」「債権者が二重譲渡の疎明資料として提出し
た疎甲第6号証,平成12年2月18日付け,D村監査委員E及びF作成名
義の藤監第6524号住民監査請求報告書」「その他に二重譲渡の事実を認
めるに足る証拠はない。」との記載があり,この記載によれば,被告C及び
訴訟代理人弁護士は,本件監査報告書が原告Aの被保全権利及び保全の必要
性を疎明する唯一の証拠であると考えていたことが推認され,本件陳述行為
等は,本件保全事件及び本案の追行に向けてなされたものと認められる。
そうとすると,本件陳述行為等は,少なくともその当時,本件保全事件及
び本案追行上,何ら関連性のない事実についてなされたものとも,専ら相手
方当事者の名誉を害する意図に出たものとも認められない。
また,本件陳述行為等は,原告らが,公文書を偽造するという犯罪行為を
行ったと断定的にいうものであり,それ自体穏当さを欠くものであることは
否めないが,その表現が著しく不適切であるとまではいえない。
以上からすれば,被告Cによる本件陳述行為等は,正当な弁論活動として
の内在的制約を超え,社会的に許容される範囲を逸脱したものと認めるに足
りず,不法行為は成立しない。
(3)次に,請求原因(1)イ(ア)の被告Cの行為が不法行為を構成するか否かに
ついて検討する。
ア告発とは,捜査機関に対し,犯罪事実を申告して犯人の処罰を求める意
思表示であり,刑事訴訟法239条1項は,「何人でも,犯罪があると思
料するときは,告発をすることができる。」と規定する。
およそ一般人が他人の犯罪行為を認知した場合に,直ちに行為者を特定
してその犯罪事実を捜査機関に申告することは犯罪の捜査を容易にし,犯
人の検挙に協力することになるのであって治安維持上望ましいところであ
るが,被告発者は,一応犯罪の嫌疑を被りその人権を侵害される危険があ
るのであるから,特定人を犯罪者として捜査機関に申告するについては特
に慎重な注意を要することは勿論であり,告発者が何らの合理的根拠がな
いのに単なる憶測に基づいて特定人を犯罪者として指摘し,被告発者が後
日無実であることが判明したときは,告発者は被告発者が被った損害につ
き過失による不法行為上の責任を負うべき場合があり得ることは明らかで
ある。しかしながら,告発者は捜査機関と異なり,犯罪の確証を挙げるた
めに捜査する権能も義務も有しないのであるから,犯罪の嫌疑をかけるに
足りる相当な根拠を確認した上で,その者を犯人と信じ,その所信に従っ
て捜査機関に犯罪事実及び犯人を申告した場合には,後日犯人と指摘され
た者が真実の行為者ではなく又はその者の行為が犯罪を構成しないことが
判明しても,その者が被った損害につき過失の責を負わないというべきで
ある。
イこれを本件についてみると,被告Cは,告発に先立ち,弁護士を通じ
て,G町が本件監査報告書とは異なる監査報告書(改訂前監査報告書)を
保管し,本件監査報告書を保管していないことを確認していること(甲1
0),本件監査報告書と改訂前監査報告書とは,同番号で,日付も同一で
あること(甲2,3),被告Cは,平成12年2月ころに本件住民監査請
求をしていた原告Bから二重譲渡を認める旨の監査結果が出たと聞いてい
たこと(争いのない事実),原告Aが本件保全事件で証拠として本件監査
報告書を提出したこと(弁論の全趣旨),被告Cは,本件住民監査請求
時,原告AがD村役場に勤めていたことを知っていたこと(弁論の全趣
旨)が認められる。
そうとすると,被告Cは,犯罪の嫌疑をかけるに足りる相当な根拠を確
認した上で,原告らを犯人と信じ,その所信に従って捜査機関に犯罪事実
及び原告らを犯人と申告したものと認められるから,請求原因(1)イ(ア)
の被告Cの行為は不法行為に当たらないというべきである。
(4)以上によれば,原告らの被告Cに対する請求は,その余の点につき判断
するまでもなく,理由がないからこれを棄却すべきである。
2被告町に対する第1次的及び第2次的請求について
(1)請求原因(2)ア,イ(ア),イ(イ),(3)アの各事実,原告Bが平成11年
12月24日,監査委員に対し,住民監査請求をしたことは原告らと被告町
との間で争いがない。
(2)請求原因(2)イ(ウ),(エ),(2)ウ,エにつき検討する。
ア上記争いのない事実に証拠(甲1ないし3,10)及び弁論の全趣旨を
総合すると,次の事実が認められる。
(ア)原告Bは,平成11年12月24日,監査委員に対し,「e字h番
iの土地が調定日誌に基づき昭和13年に村有地として売却され,被告
Cの所有地として登記されているにもかかわらず,同一の土地につき昭
和39年に部落民共有地として部落民に対し譲渡されているため,昭和
39年の譲渡は二重譲渡である。D村村長に対しその是正を求めている
のにその是正がされていない。」と主張して本件住民監査請求をした。
(イ)E,F,Q課長補佐,原告Aが出席して,監査委員会が平成12年
2月18日午後2時より開催された。同委員会において,改訂前監査報
告書の記載内容及び村長に対する勧告文案について審議,決定され,E
及びFは,改訂前監査報告書に押印した。
改訂前監査報告書は,e字h番iの土地が二重売買されたものとは認
められないとの判断をし,関係当事者間で対処し解決するべく関係者に
督励するようD村村長に勧告するものとし,同月18日付けでその旨勧
告したとの記載がなされた。
E及びFは,平成12年2月18日,D村村長に対して上記勧告をし
た。監査委員事務局は,同日,村役場の掲示板に掲示する方法により同
勧告を公表するとともに,原告Bに対し,改訂前監査報告書を送付し
た。原告Bは,翌日,改訂前監査報告書を受け取った。
(ウ)原告Bは,平成12年2月23日,E及びFに対し,改訂前監査報
告書の記載内容のうち,二重譲渡でないとの判断及び関係者に督励する
旨の勧告という結果結果に不服がある旨の文書を添えて改訂前監査報告
書を返送した。
(エ)E,F,J及び原告Aは,平成12年2月24日,会議を行い,上
記原告Bからの文書についての対応を検討し,原告Aは,「手紙の内容
は二重譲渡をはっきりせよということなので,判断のところで記入する
必要がある。」と述べた。
上記会議において,改訂前監査報告書が既に通知済みであることに対
する対応が問題となったが,原告A及びJは,E及びFに対し,改訂前
監査報告書が既に通知済みであることについて,「補充して通知及び勧
告文を作成して届けることで良いではないか。」と言った。
E,F及びJは,上記会議の後,原告Bから事情聴取を行い,その場
で,E及びJは,「既通知文(改訂前監査報告書)は回収し,改めて出
すことに了解できるか。既通知文は無かったことと了解することと。」
と言い,原告Bはこれを承諾した。
(オ)E及びFは,平成12年2月24日ころ改訂前監査報告書を一部改
訂した本件監査報告書を作成し,原告Bに送付した。
しかし,D村では,改訂前監査報告書と本件監査報告書が差し替えら
れることはなく,改訂前監査報告書のみが保管されたままとなった。
イ上記認定の事実によれば,本件監査請求書は作成権限を有するE及びF
が改訂前監査請求書と差し替えるために内容を書き換えて作成されたもの
であることが認められる。
しかし,改訂前監査報告書は,平成12年2月18日付けで作成され,
原告Bに通知され,公表もされ,D村村長に対し勧告されたものであるか
ら,作成名義人であるとはいえ,これを差し替えることは許されず,その
内容が書き換えられた本件監査報告書は違法に作成された虚偽公文書であ
るというべきである。
そうとすると,I又は被告町(D村)職員が虚偽公文書である本件監査
報告書を保管する義務はないというべきであって,I又は被告町(D村)
職員に同義務があることを前提とする請求原因(2)ウ,エは失当である。
(3)請求原因(3)イ,ウにつき検討する。
上記(2)の認定事実に弁論の全趣旨を総合すると,改訂前監査報告書を本
件監査報告書に差し替えることは許されないにもかかわらず,EがJと共謀
の上,平成12年2月24日に原告Bに対し,改訂前監査報告書につき,
「なかったことと了解すること。」と告げて,原告Bから改訂前監査報告書
を回収し,EとFが原告に対し本件監査報告書を作成して送付したこと,原
告Bは,改訂前監査報告書を本件監査報告書に差し替えることが正規の手続
ではないことを知りながら上記発言を承諾し,改訂前監査報告書の回収に応
じたことにより,地方自治法に定める監査結果に対する不服申立ての機会が
なくなったこと,原告Bは,上記発言により,本件監査報告書が有効である
と信じて,本件監査報告書を本件保全事件の疎明資料とすることに応じたた
め,原告Aとともに被告Cから本件保全事件や本案の口頭弁論期日において
改訂前監査報告書を偽造したと主張されたり,告発されたりしたことが認め
られる。
しかし,原告Bが,改訂前監査報告書を本件監査報告書に差し替えること
が正規の手続ではないことを知りながら,改訂前監査報告書を本件監査報告
書に差し替えることを承諾し,改訂前監査報告書の回収に応じたことからす
ると,E及びJが,違法に原告Bに損害を加えたものとは認められない。
また,上記(2)の認定事実からすると,原告Aは,本件監査報告書が虚偽
公文書であることを知りながら,本件監査報告書を本件保全事件の疎明資料
としたことが認められる。そうとすると,E及びJが原告Aに対して違法に
損害を加えたものとも認められない。
(4)以上によれば,原告らの被告町に対する請求はいずれも理由がないから
これを棄却すべきである。
3よって,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官内田計一
裁判官永山倫代
裁判官山本菜有子

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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