弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人細川喜子雄の上告受理申立て理由第2について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,大阪市a区所在の自己所有地上に第1審判決別紙物件目録記
載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し,本件建物において,長男及び長
女と共に居住し,本件建物を店舗,倉庫等として使用していた。
 (2) 被上告人は,平成11年12月2日,上告人との間で,①保険の目的を本
件建物,家財一式及び商品・製品等一式,②保険金額を建物2億円,家財一式70
00万円,商品・製品等一式2億円,③保険料を48万6300円,④保険期間を
同日午後4時から平成12年12月2日午後4時までとする店舗総合保険契約(以
下「本件保険契約」という。)を締結し,保険料48万6300円を支払った。
 本件保険契約に適用される保険約款(以下「本件約款」という。)1条1項には
,保険金を支払う場合として,火災によって保険の目的について生じた損害に対し
て損害保険金を支払う旨が規定され,また,同2条1項(1)には,保険金を支払わ
ない場合として,保険契約者,被保険者又はこれらの者の法定代理人の故意若しく
は重大な過失又は法令違反によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨が
規定されている。
 (3) 平成11年12月7日午前11時ころ,本件建物内で火災が発生し,本件
建物4階の居室20㎡を焼損し,他の階の各室にも消火活動による水損等の被害が
生じたほか,本件建物内に保管されていた被上告人及びその家族の所有する家財,
被上告人の経営する店舗の商品等についても,一部に焼損又は水損等の被害が発生
した(以下,この火災を「本件火災」という。)。
 2 本件は,被上告人が上告人に対し,本件火災により損害を被ったと主張して
,本件保険契約に基づき,火災保険金及びその遅延損害金の支払を求めるものであ
る。
 3 商法は,火災によって生じた損害はその火災の原因いかんを問わず保険者が
てん補する責任を負い,保険契約者又は被保険者の悪意又は重大な過失によって生
じた損害は保険者がてん補責任を負わない旨を定めており(商法665条,641
条),火災発生の偶然性いかんを問わず火災の発生によって損害が生じたことを火
災保険金請求権の成立要件とするとともに,保険契約者又は被保険者の故意又は重
大な過失によって損害が生じたことを免責事由としたものと解される。火災保険契
約は,火災によって被保険者の被る損害が甚大なものとなり,時に生活の基盤すら
失われることがあるため,速やかに損害がてん補される必要があることから締結さ
れるものである。さらに,一般に,火災によって保険の目的とされた財産を失った
被保険者が火災の原因を証明することは困難でもある。商法は,これらの点にかん
がみて,保険金の請求者(被保険者)が火災の発生によって損害を被ったことさえ
立証すれば,火災発生が偶然のものであることを立証しなくても,保険金の支払を
受けられることとする趣旨のものと解される。このような法の趣旨及び前記1(2)
記載の本件約款の規定に照らせば,本件約款は,火災の発生により損害が生じたこ
とを火災保険金請求権の成立要件とし,同損害が保険契約者,被保険者又はこれら
の者の法定代理人の故意又は重大な過失によるものであることを免責事由としたも
のと解するのが相当である。
 したがって,【要旨】本件約款に基づき保険者に対して火災保険金の支払を請求
する者は,火災発生が偶然のものであることを主張,立証すべき責任を負わないも
のと解すべきである。これと結論において同旨をいう原審の判断は正当である。所
論引用の最高裁平成10年(オ)第897号同13年4月20日第二小法廷判決・
民集55巻3号682頁,最高裁平成12年(受)第458号同13年4月20日
第二小法廷判決・裁判集民事202号161頁は,いずれも本件と事案を異にし,
本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 滝井繁男 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 梶谷
 玄 裁判官 津野 修)

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