弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人松谷栄太郎の上告理由第一点について。
 論旨は、要するに、原判決には商慣習法、経験則、論理則の違反があり、かつ、
理由不備の違法がある、というにある。しかし、原判決は、挙示の証拠により、被
上告人B1および亡B2が、勝山市の有力者であつたため、訴外D株式会社社長E
から同会社の映画館経営に協力を求められ、昭和二七年五月中旬頃その経営を引受
けたものであつて、その際に、被上告人B1らが上告会社社長F、同取締役Gに対
して、右訴外会社の営業成績を挙げるか、増資することによつて、本件請負代金残
債務を徐々に支払つていく旨返答したが、被上告人B1らにおいて個人として右債
務を引受けて支払う旨を返答したものではない、との事実を認定し、右認定に基い
て上告会社の本訴請求を排斥していることは判文上明らかである。そして、原審の
右認定は、原判決挙示の証拠に照らし、一般社会取引通念上これを首肯するに十分
である。されば、原判決には所論の違法をいずれも認めることはできない。所論は、
ひつきよう、原判決の認定に副わない事実を前提とし、さらに独自の見解に基いて、
原審の裁量に委ねられた証拠の取捨判断ないし原判決において適法になした事実の
確定を論難するに帰し、いずれも、採用するに由ない。また、原判決は、引用の判
例に反するものではない。論旨は、すべて理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、要するに、原判決には採証法則違反、理由齟齬、審理不尽、理由不備の
違法ないし法律行為の解釈を誤つた違法がある、というにある。しかし、所論原審
における証人Gの供述中、同証人の一審における供述と齟齬する点の存することは、
同証人の一審および原審における証人調書を対比して明白であり、さらに、記録上
同証人の原審における証人調書に所論のような立会書記官の誤記があると認めるに
足りる資料がない。されば、所論Gに関する主張部分はその前提を欠き、採用する
に由ない。要するに、論旨も帰するところは、原審の裁量に委ねられた証拠の取捨
判断ないし原判決において適法になした事実の確定を独自の見解に立脚して非難す
るものと認められ、その他の論旨とともに、すべて採用することができない。論旨
はいずれも理由がない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決がその基本たる口頭弁論に関与しない裁判官によつてなされた違
法がある、というにある。しかし、記録によると、昭和三四年七月一日午前一〇時
の原審第七回口頭弁論期日においては三人の裁判官のうち二人の更迭があつたので、
本件当事者双方が従前の口頭弁論の結果を陳述し、裁判長は次回期日(判決言渡)
を同年同月二二日午前一〇時と指定し、原判決は右弁論更新後の三名の裁判官によ
つてなされたこと明白であるから、原判決は基本たる口頭弁論に関与しない裁判官
によつてなされたとする所論違法の主張は到底採用できない。論旨は理由がない。
 同第四点について。
 論旨は、原判決には民訴一八七条三項に違反した違法がある、というにある。し
かし、記録によると、原審構成員中二名の裁判官の更迭があつた第七回口頭弁論期
日において、被上告人らは証人Gの尋問を、上告会社は証人Hの尋問を、それぞれ
申請したが、原審はいずれもこれを却下して結審したことは明らかであるけれども、
上告会社のなした右証人Hに対する尋問申請は、新たな証人申請であつて、民訴一
八七条三項の「更ニ訊問ノ申出ヲ為シタルトキ」に当らないこと明白であるから、
所論同証人に対する尋問申請を却下した原審の措置は同条同項に違反するものでな
く、さらに、被上告人らのなした右証人Gに対する尋問の申請は、それまで被上告
人らからはかつて一度も同証人の尋問申請がなされていないところからすれば、被
上告人らの新たな証人申請として、同条同項の「更ニ訊問ノ申出ヲ為シタルトキ」
に当らないと解するのが相当であるから、所論同証人に対する尋問の申請を却下し
た原審の措置を、上告会社において同条同項に違反すると主張することは許されな
い。されば、所論違法の主張はいずれも採用することができない。論旨は理由がな
い。
 同第五点について。
 論旨は、審理不尽をいうが、原判決には審理不尽、理由不備のないことは、第一、
二点について説示したとおりであるから採用できない。
 同第六点について。
 論旨は、違憲をいう点もあるが、その実質は原判決には口頭弁論に顕出されない
資料に基いて判決をなした違法があり、また、民訴一九一条一項違反の違法がある、
というにある。しかし、原判決は挙示の証拠により事実を認定して上告会社の本訴
請求を排斥していることは、第一点について説示しとおりであるから、原審が口頭
弁論に顕出されない資料に基いて判決をなしたとの所論は、到底採用できない。ち
なみに、原審が口頭弁論終結後被上告人らから提出された弁論再開申立書の副本を
「敢えて」上告会社に送達しなかつたとの所論主張は、記録上これを認めるに足り
る資料がないから、所論違憲の主張はその前提を欠き採用の限りでない。次に、原
判決には上告会社の代表者をFと記載されていることは所論のとおりであるが、右
はIと書くべき場合の明白な誤記であることは記録上容易に認めることができ、か
かる誤記は更正決定によつてこれを是正できるもので原判決に影響を及ぼすもので
ないから、適法の上告理由とならない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官垂水克己の補足意見ある
ほか裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官垂水克己の上告代理人松谷栄太郎の上告理由第四点の判断についての補足
意見は次のとおりである。
一 証拠調の限度は性質上裁判所がこれを定めるべきものである。だから民訴一八
七条三項の「合議体ノ裁判官ノ過半数カ更迭シタル場合ニ於テ従前訊問ヲ為シタル
証人ニ付当事者カ更に訊問ノ申出ヲ為シタルトキ」は「裁判所ハ其ノ訊問ヲ為スコ
トヲ要ス」る旨の規定は制限的に解する必要があると考える。すなわち、この場合
でも裁判所が正当な事由から再尋問の必要がないと考えるときは申出を却下しても
違法でないと思う。けだし、一般に弁論更新の場合には、当事者は「従前ノ口頭弁
論ノ結果ヲ陳述スルコトヲ要」し(同条二項)、これをしない当事者は自己に有利
な判決を受けられない。若し当事者が更新の際、従前の口頭弁論における主張を陳
述せず、または、従前の証言を記載した口頭弁論調書(以下証言調書と略称)を朗
読又は摘読しないならば裁判所はこれについて判断してはならない。だから、実際
には、当事者は更新の際には更新前の主張も証言調書の朗読も物証の開示もするの
が常で、従つて新しい裁判官はこれによつて主張事実につき心証を(ゼロないし一
〇〇パーセント)形成するのである。当事者双方が弁論更新の際従前の証言調書の
朗読という方法によつてその内容を裁判所の面前に開示しただけで敢てその証言の
再聴取を求めず、他の証拠の取調も求めないなら、裁判所は従前の証言調書に基い
て判決するほかなく、また判決することができることはいうまでもない。要するに
法廷で適式に取調べられた証人の証言は、特別の規定がないかぎり、弁論更新後に
も証言調書化されたものとして完全な証拠能力を有するのである。口頭弁論期日外
の受命または受託裁判官に対する証言調書も証拠能力に欠けるところなく、更に、
第一審の証言調書は第二審でも証言としての証拠能力に欠けるところはない。また、
現実の事件において証言調書では心証が得られず、証人の直接証言でないと心証が
えられないという場合が普通だとは必ずしもいえない。証言と証言調書とが趣旨に
おいて基本的に同じなら事実判断の結論は同じだという場合がむしろ大多数ともい
える。これが、受命、受託裁判官に対する証言調書や第一審の証言調書がそのまゝ
口頭弁論で、あるいは第二審で、証拠能力を有するとされる所以であろう。過半数
の裁判官の更迭による弁論更新後、申請により証人を再尋問した結果、裁判所がこ
の再度の証言を措信せず更新前証言調書を措信することさえ自由である。弁論更新
後民訴一八七条三項により再尋問の申出があつたのに裁判所がこれを却下した場合
には、更新前の証言調書はそのまま証拠能力を有せず若しくは証拠能力を制限され
るというような法定証拠主義的趣旨は民訴一八七条にも、その他の規定にも定めら
れていない。若し、一八七条三項に違反して再尋問申請を却下した場合には従前の
証言調書の証拠能力がなくなるというような規定を設けるにおいては折角従前の証
言調書が申請者に有利な証言をしていてもこれを措信することは許されないことに
なり、自由心証主義は衰滅し争ある事実についての真実の探究は不当に不可能とな
るに至るであろう。すなわち、同条同項の規定は、弁論更新後、裁判官が従前の証
言調書によつて心証を得たり、得なかつたりすることはその自由に任かすが、当事
者が従前の証人の再尋問を求めるなら、正当な却下事由のないかぎり、すべからく
再尋問しこれによつて従前の証言調書による積極または消極の心証を補うがよい、
何故なら、一般的、抽象的にいえば、証言の聴取は証言調書の朗読、閲読よりも正
しい心証を得やすいから、というだけの法意だと考える。だから、弁論更新の際、
同条項による再尋問申請があるのに正当の事由なくこれを却下し、弁論更新前の同
証人の証言調書を措信しないとして判決し、若しくはこれを措信して判決すること
は違法ではあるが、それでも、特別の事情のないかぎりその違法だけでは判決の無
効または取消の原因とはならないと思われる。
  次に、民訴一八七条三項にいう再尋問の申出とは、(イ)同一当事者から(ロ)
同一尋問事項について(ハ)同一証人を尋問すべきことの(ニ)口頭弁論更新の際
になされた申出を指すものと解すべきである。再尋問申請を却下されたことの違法
を主張しうるのは却下の不利益を受けた申請当事者にかぎられる、証拠共通の原則
を理由としてその相手方当事者が右違法を主張することは筋違いで許されないとい
つてよい。なお同条項の再尋問申出に関する規定は証人に関するもので、当事者本
人や鑑定人に関するものでないことは規定の明文上明らかである。
  再尋問申請が前述の定義にあてはまるものであつて例えば次の如き場合には却
下すべき正当の事由があると考える。
 イ すでに数回の弁論更新があつた後の更新弁論で、又々同一証人の再尋問を申
請したが、右数回の従前の再尋問に対する各証言はすべて最初の証言の繰返しに過
ぎない場合
 ロ 弁論更新前の他の証拠と総合すれば更新前の最初の証言が措信できること若
しくは措信できないことが明らかな場合
 ハ 再尋問の申請が訴訟を遅延させる意図の下になされたと認められる場合
 ニ 更新前の裁判所はその当事者に立証責任ありと考えて尋問したが、更新後の
裁判所は右当事者に立証責任なしとの法律見解から再尋問不要と認める如き場合
二 右弁論更新の際従前の証人の再尋問の申請があつたのにこれを却下したことの
違法は上告理由となるか。私はならないと考える。再尋問申請を却下してその証人
の従前の証言調書を措信した場合の如きは、特別の事情のない限り、右却下の違法
は判決に影響を及ぼさないといえよう。一般の場合に再尋問申請の却下なかりせば
申請当事者は有利な証拠判断を受けたであろうという関係は判りにくい。何故なら、
それは法廷に出された多くの証拠の信用性の判断をすることなしには(少しでも証
拠判断をまじえることなしには)判明しない問題であるのが常だから、これは法律
審である上告審としてはできない判断であり、かような点に関する上告論旨も、現
に本件上告論旨がしているように、証拠の取捨判断の主張を前提若しくは実質とし
ないではできるものではない。してみれば、特別の場合でないかぎり、再尋問申請
を不法に却下したことを主張する上告論旨は判決に影響を及ぼすことの明らかな法
令の違背を理由とするもの(民訴三九四条)とはいえなく、すべて上告適法の理由
とならないことになる。
三 本件についてみるに、記録によると、(1)原裁判所構成裁判官中所論の二名
の裁判官に更迭があつた第七回口頭弁論期日前の口頭弁論期日に上告会社(被控訴
会社)の申請に基く証人Gの尋問があつた後、第七回口頭弁論期日に弁論更新後従
前の申請者でない被上告人らの側から右証人Gの尋問を申請した、また、(2)上
告会社の申請に基き上告会社代表者Fを当事者本人として尋問すべきことの決定が
右弁論更新前になされていたところから、弁論更新後上告会社はF死亡につきその
代りとして同人の内妻Hを証人として尋問すべきことを申請したが、Hは別段上告
会社のため本人として尋問されるべき資格あることは明らかにされないのみならず、
同女は第一、二審を通じてかつて証人として尋問されたことのない証人である、そ
して弁論更新後の原審は(1)被上告人らのした右証人G、(2)上告会社のした
証人Hについての各尋問申請を却下したことが明らかである。
  右の関係によれば(1)原審で従前上告会社の申請により尋問された証人Gに
ついて弁論更新後更にその相手方である被上告人らからした尋問申請は同一当事者
からした二度目の申請でなく民訴一八七条三項にいう「従前訊問ヲ為シタル証人」
について「更ニ訊問ノ申出ヲ為シタルトキ」に当らない。また、(2)弁論更新後
上告会社のした証人H尋問の申請は、それがもし本人尋問申請の趣旨とすれば証人
申請についての同条三項の規定は本人に適用はなく、もし、証人申請の趣旨とすれ
ば同証人は(たとえF本人に代るものとして申請されたとしても)新たな証人でし
かなく同項にいう「従前訊問ヲ為シタル証人」に当らない。原審のした右証人申請
の却下には所論の違法はない。
     最高裁判所第三小法廷
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
 裁判長裁判官高橋潔は死亡につき署名押印することができない。
            裁判官    河   村   又   介

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